それでは、どうぞご覧ください。
冬真と勝負した日から数日経った日の放課後、僕は1人でいつものサッカーコートに向かおうとしていたが……
「零!」
「え?冬真……?」
何故か教室の前に、冬真が立っていたのだ。
「何でここに?」
「零は今日もあそこに行くのか?」
「そのつもりだけど……」
「じゃあ、一緒にやろうぜ!」
「はい?」
冬真は急にそんなことを言い出し、言われた僕は意味が分からず困惑していた……。
「何で僕と……というか、部活は?」
「特訓したいことがあってさ……今日は別で練習させてもらうことにした」
なるほどね……そういうことか。でも特訓したいなら……
「じゃあ、僕は邪魔―――」
「待って待って待って待って!零には特訓相手になって欲しいんだよ!」
「僕が……?」
早く立ち去ろうとした僕を、冬真は必死になって止めてきた。冬真は何でこんなに必死なんだろう……?
「それ、同じサッカー部員じゃダメなわけ?」
「そ、そういうわけじゃないけど……俺は零と特訓がしたいんだ!」
「えぇ……」
僕に拘る理由は分からないが、僕と特訓したいという言葉は本物らしいし……それに僕も、またサッカーしてもいいって言っちゃったしな……。
「頼むよ零!」
「わ、分かった、分かったから……!」
「ありがとう!」
僕は最終的に冬真の特訓に付き合うことにし、一緒にサッカーコートへ向かっていった。
「父さん、来たよ!」
「ど、どうも……」
「今日は2人一緒かい?」
「あぁ!零が俺の特訓に付き合ってくれるって!」
士郎さんに挨拶してから、僕たちはジャージに着替えてフィールドに立った。
「それで……特訓っていうのは?」
「あぁ……俺の弱点を克服したくてさ」
「弱点?」
弱点って何だろう……?とりあえず、冬真の話を聞いてみるか……。
「俺はスピードが自慢なんだけどさ、味方からパスを受けるときにどうしても減速しちゃうんだ」
「つまりは……スピードを落とさないようにしたいってこと?」
「そう!」
確かにパスを受け取る時は、普通ならトラップをする必要が出てくる。どんなに脚の速いプレイヤーであっても、その時は減速しないといけなくなる。冬真も例外ではなく、それを何とかしたいようだ。
「何かいい方法はないかって、考えてはいるんだけど……」
「ちなみに今までに考えたのって?」
「えっと……必殺技を作ろうとしたことはあるんだけど、中々上手くいかなくて………」
必殺技か……確かにそれが作れれば強力な武器になり、使えば弱点もカバーできる。でもその分、連発することも難しいだろう………けど、それって―――いや、まずは冬真の走りを見てみるか……。
「……1回さ、冬真の走り見せてくれない?」
「えっ?」
「僕がパスするから、走りながらボール取ってみて」
「わ、分かった!」
◇
俺は零の提案通り、一度走ってみることにした。もしかして零には、何か考えがあるのか……?
「じゃあ、行くぞ!」
「いつでもいいよ」
一言そう声を掛けた俺は、いつものように全力で走り出した。それから、数秒後……
「……そこ」
零の蹴ったボールがカーブをかけながら俺のところへと迫ってくる。そのボールは、俺が何処にくるのかが分かっているようなコースで来ていた。そして……
「……!」
俺は零からパスされたボールをいつものようにトラップする………やっぱり、見るのと実際にやるのとじゃ違う。今のボールもまるで、俺の右足に吸い込まれるような―――上手く言い表せないけど、いつもとは違う新しい感覚だ……!
「……冬真」
「零!」
興奮ぎみでいた俺の後ろから、零が声を掛けてきた。だが、その様子は何処かおかしく……
「……」
「零……?」
何だ?なんだか顔色が悪いような……?
「……大丈夫、だった?」
「えっ?何が?」
「いや……さっきのパス、少しやり過ぎたかと思って……」
何かと思えば、そんな心配してたのか……。
「そんなことないよ!それに零のパス、俺が何処に走り込むのか分かってるみたいにドンピシャだったし………上手く言い表せないけどさ、何だか新しい感覚がした!」
「……!」
俺が思ったことを直接伝えると、零は何故か少し驚いた表情をしていた。
「それでさ、何で俺の走りを見たかったんだ?」
「!あぁ……実は走りというよりは、走ってる時にどうトラップするかを見たかったんだ」
トラップを
「何か分かったのか?」
「うん………冬真の弱点はテクニックだけでどうにかなる。それに難しく考える必要もないよ」
「!?」
難しく考える必要ないって……どういうことなんだ?
「ど、どうやるんだ?」
俺は零にその方法を訊いたが……
「それは自分で見つけて」
「えっ?」
「じゃないと、冬真は進化できないよ」
零は昨日の勝負の時に見せた雰囲気をまとい、そう口にしたのだ。進化……進化すれば、俺はもっと強くなれる……?なら―――
「零、もう1度さっきのやつ頼む!」
「分かってるよ」
俺は再び全力で走りながら、零からのパスをもらうことにした。何回かパスを受けてみたものの、1回目の時と何かが変わったという感覚はない………何だ……俺が進化するには何が足りない……?
そんなことを考えながら走っていると……
「あっ!」
零のパスを受けきれずにボールがつま先の辺りに当たり、前へと転がっていく……ダメだ、もっと集中しないと―――――ん……?
「……」
俺はふと足を止め、さっきの光景を思い出した………もしかして、ボールをその場でトラップするんじゃなくて、そのまま前に押し出せばいいんじゃ―――
「零!俺分かったかもしれない!もう1回頼む!」
零は頷くと、全力で走っている俺に向けてパスをした。俺は自分のところにきたボールを、右足のつま先で前へと押し出すと……
「っ!」
そのままゴール前へと走り、右足を振り抜いてシュートを放った。
◇
僕がパスしたボールを冬真はつま先で前へと押し出すと、スピードを落とすことなくさらに加速してゴール前へと走っていく。ゴール前に来た冬真は右足を振り抜き………
「っ!!」
ゴールの左上を狙ってシュートを放った。そのシュートは冬真の狙い通り直線を描き、勢い良くゴールへと突き刺さった………ヒントは与えたけど、まさか数回練習しただけで出来るようになるとは……。
「ありがとう、零!」
「え?」
「零のおかげでまた強くなれたよ。今までのパスだって、俺につま先でトラップすることを気付かせるためだったんだろ?」
「……!」
冬真の言葉を聞いた僕は、驚きのあまり固まってしまった………何故なら冬真は、僕の意図を全て当ててみせていたのだ。何で……?今まで誰にも、僕の考えなんて分かって貰えなかったのに……。
「何で、分かったの……?」
「うーん……ちゃんと理由があるってわけじゃないんだけどさ……ただ何となく、そう感じたってだけだよ」
「そう、なんだ……」
冬真は僕に真っ直ぐ目を向けながら、そう言ったのだ。もしかして冬真は、僕とは違って感覚派なのかな……試合映像も見たことがあるけど、そういう感じがしたし―――
「なぁ、零……嫌じゃなかったらでいいんだけどさ、また俺の特訓に付き合ってもらってもいいか?」
「……」
冬真からの提案に、僕は黙り込んでしまった………今までの僕なら、すぐに断っていただろう。でも今日やった冬真とのサッカー、誰かと一緒にやるサッカーを久し振りに楽しいと感じて―――何より、自分のやりたいことを理解してくれて、それを実現できる実力をもった人に会えたのは初めてだ。だから―――
「いいよ」
「そうだよな、やっぱりダ―――え!?いいのか!?」
「……いいって言った」
「!……ありがとう、零!」
冬真となら、やってもいいかもしれない……。
◇
零との初めての特訓から1週間、俺は零と1対1の勝負形式で練習をしていた。
「はぁ……はぁ……やっぱり零は強いな……!」
「冬真だって、初めてやった時よりも強くなってるよ?」
勝負の結果はというと、今のところは零の方が勝ち越している。だが、零が攻撃側の時はほとんどボールを奪うことが出来ておらず、俺が攻撃側の時は零に初速で潰され、ボールを奪われてしまうことが多かった。それでも、零の言葉通り俺もレベルアップしていて、徐々にだがボールを奪ったり、零を振り切ってシュートを決めることが出来ていた。
何より零も、俺とサッカーしている時はどこか楽しそうにしている……多分、零自身は気付いていないだろうけど。
「冬真、これ」
「!ありがとう」
零から手渡されたスポーツドリンクを飲んでから、俺は前々から気になっていたことを訊いてみた。
「……零ってさ、チームでサッカーしたことはあるの?」
「っ……」
まずい……もしかして、零の地雷踏んだかな……とにかく謝らないと……!
「ご、ごめん!嫌なら話さなくても―――」
「あるよ」
「えっ?」
零は一言、そう答えてくれた………それから零は、自身の過去について話し始めた。
「僕は小学生の時、ジュニアのチームに所属していて……そこではCMFとして、チームが試合に勝てるように最高のパスを出したり、得点できるように頑張ってきた―――はずだった」
「だった……?」
「でもチームメイトは、僕のプレーに不満があったんだ」
「何で……零のプレーは凄いのに……?」
「ありがとう……でも、みんなや監督が言ったのは『お前のプレーにはついていけない』、『偉そうにするな』、『チームを壊すな』って……」
「っ……!?」
俺は零の話を聞き、驚きを隠せずにいた………俺は零と一緒にサッカーをやってから日は浅いが、的確なアドバイスをくれたり、俺が進化できるようなボールをくれたりと、零が優しいやつだということは分かる………だから、零にそんな言葉を投げかけたやつらに、俺は怒りを覚えていた……。
「それから僕は、必死にみんなに合わせようとした………でも逆に上手くいかなくて、試合でのミスも増えていった……そして―――」
「……チームを、辞めたのか……?」
「まぁ、そんなところだよ。チームを辞めた後はeスポーツ―――とくにFPSとか戦闘シミュレーションゲームをやるようになった………僕はサッカーを始めた時から、フィールドを上から俯瞰したように見れた。だからそういうゲームが面白くて、すぐにのめり込んでいった」
「えっと、俯瞰したように見れたって……?」
その意味がよく分からなかった俺は、思わずそう返したのだが……
「フィールドを上から見た感じって言えば分かりやすいかな?」
「それって……ゲームの3人称視点とかのこと?」
「それをもっと上から見て、範囲をすごく拡大した版っていった方がいいかも。例えば………
どこに誰がいるか、どこにボールがあるか、味方や相手が次にどう動く可能性があるのか―――いや、どう動かすか………あとは、1番パスが通る場所はどこかとか―――」
「え、ちょ、ちょっと待って!?」
「ん?」
何だ、それ……零は試合中に、そんなこと考えながらやっていたのか……!?
「いつも、そんなことを考えながらサッカーを……?」
「そうだよ。あと相手選手の武器とかも分かれば、その選手に相性の悪い選手をぶつけて潰すこともできるし」
なるほどな……だからまるで未来を見たかのように、パスが俺のところに来るのか……。
「サッカーでやってきたことを武器にして、僕は数々のFPSやシミュレーションゲームの大会で優勝していった。もちろん、有名なプロゲーマーのチームからスカウトやオファーも沢山きた。普通は喜ばしいことなんだろうけど、僕にとってそれは………」
「零……」
「あぁでも、サッカーが嫌いになったわけじゃなくてさ……こうして1人でも続けているんだ―――と言ってもそれは、この場所を使うことを許してくれた、士郎さんのおかげなんだけど」
だからか……零はまた、あの時のことが繰り返されるんじゃないかと怖くて、1人でやり続けていたんだ。ゲームも、サッカーも……。
「………何で俺には、話してくれたんだ?」
「冬真が初めてなんだ、僕の考えを分かってくれたのが。あのチーム―――いや、今まで誰も僕の考えを分かってくれなかったから………みんなから見たら、僕は意味分かんないことを言う変なやつに見えたんだろうね」
その言葉に、俺は思わず………
「違う!!」
「冬真……?」
大声でそう口にしていた。
「零は変なやつなんかじゃない……とても凄いやつ―――天才サッカープレイヤーなんだよ!だから、零がそんなこと言わないでくれ……!」
「冬真……そう言ってくれて嬉しいけど、僕はもう1人で―――」
「それ、本心なのか?」
「!」
俺がそう訊くと、零は少し驚いた表情をしながらも……
「……うん、紛れもない本心だよ」
少し間を空け、そう口にした……。
「じゃあ……じゃあ何で、そんな寂しそうな顔しているんだ?」
「え……?」
零は俺の言葉を聞くと、困惑した様子をし始めた。
「そんなことあるわけ―――」
「零は気付いてないと思うけど、そういう顔してるんだよ………それに、本当に1人でサッカーするのが楽しいと思ってるなら、そんな表情しないはずだろ?」
「……」
そう……俺が零のサッカーを見たあの日、零は寂しそうな表情をしながらサッカーをしていた。零に何があったのかを聞いた今だからこそ思う……これは俺のエゴだけど、俺は零にはこのままでいて欲しくない……もっと楽しく、そして零自身がやりたいサッカーをやって欲しい!
「なぁ……零も本当はまたチームで―――いや、誰かと思い切り、自由なサッカーをしたいんじゃないのか?」
「!でも……」
零は昔のことを思い出したのか、思わず右手を握りしめていた。
「俺とやるサッカーはどうだったんだ?」
「っ……それは……」
零は俺とサッカーしている時は、最初に見た時とは違って楽しい表情をしていた気がした。それを自分でも分かっていたのか、零は言葉を詰まらせてしまう………やっぱり零は優しいやつだ。だから自分を押し殺してチームに貢献しようとしていたんだろうな……。
「……実は俺、サッカー部じゃ結構自由にやっててさ。試合の時とかも、自分で点を取りに行くことが多いんだ」
「冬真?急に何を……?」
「俺はもちろん、勝つならチームのみんなで勝ちたい……けどそれは、みんながやりたいことをやって勝つのが1番いいと思ってる」
「やりたいこと……」
「俺だったらさ、この足で相手をぶち抜いて、俺のゴールで勝つ!―――って感じかな」
「……」
「零……
お前のやりたいサッカーって、何だ?」
◇
僕のやりたい、サッカー………。
「……あっ―――」
僕がまだチームにいた時、冬真が自分の足で相手をぶち抜いてゴールを決めるように、僕は味方や相手を自分の思い通りに動かし、自分の思い描く試合にするサッカーが好きだった。だからそのために色々な戦術を学んだし、それを沢山試したりした。最高の試合が出来た日は、とても気持ちがよかったのを鮮明に覚えている………あとはFWに自分が思い描いた通りのパスをしたり、MFだけど自分でゴールを決めるのも好きだった。そんなサッカーをしていたから、チームのみんなにあんなことを言われたんだろう………でも……それでも―――
「僕は……最高のストライカーに最高のパスをして勝ちたい。試合を自分の思い通りに動かして勝ちたい……そんなサッカーがやりたい……!」
「!零にもやりたいサッカー、ちゃんとあるじゃん……!」
そうだ、何で今まで忘れていたんだろう………これが楽しくて、僕はサッカーをやってたんだ……!
「零……俺はお前と、サッカーがしたい」
冬真がそう言い、僕に手を差し伸べてきた。僕は、僕がやりたいサッカーを、してもいいのかな……?
「……本当に、いいの?」
「当たり前だろ?」
「……もしかしたら、壊すかもしれないよ?」
「ウチのサッカー部はそんな柔じゃないし、そういうチームにする。それに、みんなも歓迎してくれると思うよ」
その言葉を聞き、僕は……
「……分かった」
「!零―――」
「でも……やるからには本気で勝ちにいく。それでいいよね?」
「!あぁ、もちろん!」
冬真の手を取ったのだ。
「これからもよろしくな、零!」
「うん―――あ、1つ言っておくけど……
僕よりは得点を取ってよ?じゃないと僕がゴール量産して、主役奪っちゃうからね」
「っ!はははっ!よく覚えておくよ!」
◇
「そういえばさ……父さんは零の事情を知ってたのか?」
「話してはいないけど、大体察してたんじゃないかな………それに多分、士郎さんはこうなることを期待してたんだと思うよ」
「なるほどな……」
俺と零は今、一緒に帰っている途中だ。因みに、今度零の家に遊びに行く約束もした。どんな家なんだろうな……今から楽しみだ……!
「あっ、俺からも1つ訊くけどさ………零の夢って、何なんだ?」
「夢、か……」
俺はふと気になり、そう訊いてみた。零は少し考えた後……
「まずは……eスポーツで世界一になることかな。せっかくここまで続けてきたんだし」
「世界一か………うん。いいな、それ!」
そんな大きな夢を話してくれた。さらに……
「それと……
世界一のMFになる」
「……!」
「これは僕が、サッカーを始めた時からの夢……だから、また目指すよ。そして、必ず叶える」
やっぱ凄いな、零は………よし、俺も決めた!
「零!」
「ん?」
「俺は……
世界一のストライカーになる!」
「えっ?」
父さんと同じ―――いや、越えたストライカーに……!
「と言っても、今決めたんだけどな?」
「い、今……?」
「でも気持ちは本物だ!」
「それは見れば分かるよ」
零は少しだけ困惑した様子でいた。だだ……
「零が世界一のMFで、俺が世界一のストライカー!それで俺たちは最強だ!」
俺の言葉を聞いた零は……
「すごい大きく出たね?でも………うん、最高の夢だ」
そう言って笑ってくれたのだ。
読んで下さり、ありがとうございます。
今回で第1章は終わりとなります。そして次回から第2章、零が白恋中サッカー部へと入部しますが、果たしてどうなっていくのか……。
あと、第2章に入るまで少し間が空いてしまうと思いますが、お待ち頂ければと思います。それでは、第2章からもどうぞよろしくお願いいたします。