アクセルの共同墓地…この町では身寄りのないもの、金のない貧乏人はこの寂れた墓地に葬られることになる。それ自体は仕方ないことなのだが、一つ問題がある。アクセルのプリーストは拝金主義者で、共同墓地に入るようなものには供養などしないのだ。
葬式も供養もされなかった魂は墓地を彷徨い続けることになる…それを哀れに思った一人の女性は定期的に墓地を浄化し、魂たちを天に還している。なんと慈悲深いのだろう。金も取らず善意で活動しているその女性と、金が無ければ動かないプリースト、一体どちらが天国にふさわしいのか?答えは火を見るよりも明らかである。
だがしかし、ここで新たに問題が発生した。その慈悲深い女性とは上位アンデット『リッチー』であり、彼女は死体を操るゾンビメーカーとして濡れ衣を着せられ、今まさに討伐されようとしているのである。
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「本当にウィズさんを浄化しようと言うのですか?」
真夜中の共同墓地…浄化されそうになっているリッチーをその背に隠し、アークプリーストに問いかける男がいた。男は日本人である。死んだあと異世界への片道切符を手に入れたものの、再び無様に死にかけたところをウィズに助けてもらって以来、彼女の店に訪れる数少ない客となった転生者だ。
「当たり前でしょ!その女はリッチーなの。浄化するのは女神として当然よ!」
問いかけに答えた女性は女神アクア。男を異世界に送った張本人である。彼女は別の転生者…サトウカズマを転生させる際おちょくってしまい、嫌がらせとして転生特典として下界墜ちさせられた本物の女神だ。
そのサトウカズマのパーティメンバーとして、女神アクアは墓地に出没するというゾンビメーカーを討伐しに来た。実際はウィズはゾンビメーカーなどではなく、墓地を無償で浄化しているだけなのだが、彼女のリッチーとしての魔力に死体が反応し、その光景を見たものがゾンビメーカーだと誤解してしまったのだろう。
「…………………」
男にとってはどちらも命の恩人である。どちらかに付き、片方に剣を向けることなどできなかった。どちらにも敵対などしたくない。しかしウィズはともかく女神アクアは神敵滅ぶべしと息巻いており、とても話し合いができる雰囲気ではない。なんとか話し合いにこぎ着けたとしてもウィズがアンデットであるというのは事実であり、弁明の余地などなかった。
パーティメンバーの中にはクルセイダーもおり、アンデットの肩を持ってくれるとは思えない。サトウカズマと名乗る転生者の職業は冒険者だが最後の一人はアークウィザードだ。リッチーとの二人掛かりでも勝率は低いだろう。
「あの…私なら大丈夫です。リッチーが自然の摂理に反しているのは本当のことで…私の味方なんかしなくても大丈夫ですから…」
そう言って力なく笑うウィズを見るのはなによりも辛かった。命の恩人である女神アクアと敵対し、同じく命の恩人であるウィズが浄化されようとしている…その状況を打破する手段などもはやなかった。
「……わかりました。アクア様、もう一度聞きますが、本当にウィズさんを浄化しようというのですね?」
「さっきからそう言ってるでしょ!わかったならさっさとどk」
「ウィズさんを一人では死なせません。この命あなたにお返しします。」
「「「えっ!?」」」
突然の決意表明に女神アクアのみならずカズマたちパーティメンバー、そしてウィズまでもが虚をつかれた。いきなり何を言い出すのだろうか?
「ちょ……ちょっと待って?私が浄化したいのはリッチーだけよ?というか人の命までは流石に…」
「わかっています。あなたの手は汚させません。潔く腹を切ります。」
「お願いだから話を聞いて?」
男にはもはや雑念などなかった。鎧を脱ぎ、地面に正座し、剣を逆手に持った。
「えっ!?本当に待って?まさか本当に切らないわよね!」
「やべーってアクア!今すぐ浄化しないって言えよ!」
「はー?アンデットの浄化は女神の役目なんですけど!」
「愛する人のために切腹!?その手があったか!」
「変な影響受けないでくださいよダクネス!?」
天に光る星を仰ぎ、風を感じ、これまでの人生を振り返る……。
「ああ、いい人生だった…」
「やべーぞ締めに入ってるぞ!」
「止めてください!私おとなしく浄化されますから!」
周りの制止も虚しく、鋭い切っ先が男の臓物を抉り裂いた!
─異世界にて割腹!─
「ゲボッオゲエェェ!!」
「めぐみんが吐いたぞ!」
横一文字の傷跡から剣を引き抜き、今度は縦に腹を切る!
「」
「気絶すんなアクア!蘇生しろ蘇生!」
「もっと近くでつかまつりませい!」
「もうアクア気絶してるって!本当すんませんでした!!」
「あわわわあわわわあぁ……」
「あんたリッチーなんだろ!?なんとかしてくれよ!」
その日、共同墓地にカズマの叫びだけが響き続けたのであった……。
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「私の転生特典は超再生です。あれくらいじゃ死にません」
「ふざけんな!」
続くかどうかは未定