この素晴らしい世界にドン引きを!   作:雁木まりお

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滅私

 アクセルにはゾンビメーカーが出没すると言われる墓地以外にも曰く付きの土地がいくつかある。城塞から出て少しの距離にある『叫びの岩』と呼ばれる巨岩などだ。

 

 叫びの岩とは、血で染められたかのように赤黒い色をしている大きな岩で、夜に近づくと悲鳴や嗚咽が聞こえることからつけられた名前である。

 

 近づくと確かに血生臭い香りが漂っており、夜な夜な誰かが呪いの儀式をしているなど不気味な噂が絶えない心霊スポットであった。

 

 なぜ共同墓地を浄化するほど慈悲深いリッチーがこの岩に対しては何の対応もしないのか?それは岩を血で染めた張本人がヤマモトだと本人から聞かされているからである。

 

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 ヤマモトは自身が血で汚した墓地を清掃し、女神アクアとカズマ達に詫びの手紙をしたためた後、風のような速さでアクセルを飛び出した。いつもは城塞をよじ登ったり、そもそも門が閉まる前に岩のある場所についているが、今回は夜が明けるまで墓地にいたため遅くなってしまった。

 

 ヤマモトは転生して以来、来る日も来る日もこの岩に剣や拳を打ち続けていた……超再生はスキルである。スキルというのは使えば使うほど成長する。はじめから切り傷がすぐ塞がるほどの効果を発揮していた超再生だが、この無茶な鍛錬によってより大きな効果を発揮できるようになった。

 

 今では骨折だろうが欠損だろうが死の宣告だろうが瞬時に治る……そしていつしか超再生は怪我以外の身体機能にも作用し始めた。

 

 筋肉は鍛錬による破壊と休息による超回復によって成長する。ヤマモトがスキルのレベルを上げるために行った頭のおかしい鍛錬は、肉体に人外の膂力を授けた。

 

 そして墓地での切腹により、スキルのレベルがまた上がったことを確信したヤマモトはその効果を確かめに来たのだ!

 

「……フッ」

 

 自身の血でどす黒く染まった岩を見てヤマモトは小さく笑った。元来笑みとは獣が牙を向きだす行為であり、攻撃的なものである。

 

 鎧を脱ぎ、剣を置き拳を構える……彼は今日!素手でこの岩を破壊するつもりなのだ!果たして素手の剣士は岩を砕くことができるのか!?

 

 出来る!出来るのだ!

 

 見よ!異形と化すまで鍛え上げた背面の隆り!

 

 見よ!破壊と再生を繰り返し鋼と化した男の拳!

 

 ゆるやかに引き絞られた鉄拳が恐るべき速さで巨岩に打ち込まれた!

 

 その日、アクセルの門兵や一部の市民は晴れているにも関わらず落雷の音を聞いたという。その正体が人によって起こされた音だと気づくものは誰一人としていなかった。

 

 ───みしり────

 

 拳と岩の双方から嫌な音が聞こえる。指はあらぬ方向にまがり、一部は埋没し、一部は千切れかかっている。腕の半ばからは骨が突き出ており、そのほかにも微細な骨折、脱臼などめぐみんがこの場にいればまた吐くこと間違いなしのグロさである。

 

 はたして岩はどうだろうか?大きなヒビが入っているが、いまだ崩れるには至らない。今回は失敗だろうか?

 

 否!少し時間を空けて、大きなヒビが広がっていく。雷のような亀裂がビシビシと細部に広がり、欠片や砂が落ちていく。

 

 やがて岩は崩壊し、石ころと砂の塊になっていった。

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 ヤマモトが勢いに任せて手ごろな修練場を失ったと気づくのは、満足気にアクセルに変える途中であった。

 

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