この素晴らしい世界にドン引きを!   作:雁木まりお

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ポーション

 ヤマモトはソロ冒険者である。転生特典が超再生であるため生存率が高く、基本的に誰ともパーティーを組まず一人で依頼を受けている。この世界に来た当初は慢心ゆえに魔物に生きたまま食われたり洞窟に閉じ込められたり、再生能力があるが故の生き地獄を味わったりした……。その反省でパーティーを募集してみたこともあったが、そのころにはすっかり頭のおかしいヤツ扱いされてしまっており、誰ともパーティーを組んでもらえなくなっていた。実際彼の頭はおかしかった。

 

 

 

 

 今日ヤマモトはいつものようにダンジョンにきていた。このダンジョンにはモンスターが数多く出現するモンスタートラップがあり、そこに迷い込むと高レベルの冒険者ですら生きては帰れないと言われておりギルドでは複数人で挑むことを推奨している。もちろんヤマモトは一人で来た。

 

 そのモンスタートラップのある部屋の前でヤマモトは立ち止まり、カバンからあるポーションを取り出した。おどろおどろしいデザインの瓶に入ったそのポーションはウィズの店で買ったものである。ウィズの店で売っている商品は高価格なうえに使用者に危害を加えるようなごみアイテムばかりで、このポーションもその例にもれず産廃といっていい効能であった。

 

 その効能とは『魔力が回復する代わりに筋肉に過剰な負荷をかける』……後衛の魔法使い向けに作られたそうだが、非力な魔法使いが飲むと全身が筋肉痛となり一歩も動けなくなるような代物だった。飲んだ魔法使い曰く「瞬きするのも辛い」らしい。

 

 彼は躊躇なく複数本をジョッキに注ぎ一気飲みした。

 

「ガアァッ!!?」

 

 飲んだ瞬間重力が何倍にもなったような感覚を覚えた。踏ん張るために歯を食いしばると、あまりに力強く食いしばったためか奥歯が砕け、唇から血が滴り落ちる。

 

 鈍い痛み、鋭い痛み、染みるような痛み、ありとあらゆる痛みが同時に襲い掛かってくる。その痛みに耐えているうちに少しずつ動けるようになってきた。超再生をもってしてもここまで回復に時間がかかるとは……。単なる筋肉痛ではなく毒か呪いなのではないだろうか?

 

 何はともあれこれで準備運動は終わった。いざモンスターハウスへ!

 

「グルルルルㇽァアッ!」

 

 無数のゾンビやアンデットがヤマモトの血の匂いに惹かれて襲い掛かってくる。剣で数体をまとめ圧し斬り、切れ味が悪くなってくる投擲し素手で戦う。手刀で首を跳ね飛ばし、貫手で臓物を抉り、蹴りで骨を砕く。

 

 魔力がポーションで回復しているが、ヤマモトは魔法使いではないのであまり意味はない。せいぜい帰り道に明かりをともす魔法を使うくらいである。

 

 しばらくウキウキで暴れ回っていると、モンスターの湧きが悪くなってきた。そろそろモンスタートラップの効果が切れるらしい。そしてふとヤマモトにちょっとした悪戯心が芽生えた。

 

──このポーションをモンスターにつかったらどうなるだろう?──

 

 まだ息があるモンスターを押さえつけ、嫌がる相手の口に余っていたポーションをぶち込んでみた。

 

「!!!!!」

 

 しばらくするとモンスターが痛がりはじめた。なるべく動かないようにして痛みに耐えているようだ。案外これでモンスターを鍛えられるのではないだろうか?試しにもう一本飲ませると、ちょっとした刺激で苦しむようになってきた。まるで痛風のようだ。何本まで耐えられるだろうか?もう一本瓶を取り出すと、モンスターはがくがくと震えはじめた。痛みではない、恐怖からだ。

 

 さすがにもうダメかなとそのモンスターにトドメをさし、ふと周りを見渡すとまだいたはずのモンスターは居なくなっていた。倒したわけではない、あんな死に方はごめんだと逃げ出してしまったのだ。

 

 モンスターに使ったポーションは無駄になってしまったが、今回もいい鍛錬になった。上機嫌で帰途につくヤマモトだったが、彼は気づいていなかった。彼の鍛錬の一部始終を見ていた他の冒険者がいたことに。

 

 ヤマモトの頭がおかしいという説は、より多くの人に周知されることになったのであった。

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