トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい   作:ウガツホ村

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誤字報告ありがとうございます。適宜修正していきます。
水着パーティー(表)回の予定でしたが、他視点が続くのも微妙かと思い差し替えました。
ということで水着パーティー(裏)回です。
オリ主の口が悪いのは仕様です。悪天候とかでやられてるだけなので。



8話:救護騎士団【セチア/セリナ/??】

◆◆◆◆

 

 

 

「半年ほど前のあの日から、肉体的な異常は一切なし。医学的にはいつ目覚めても不思議ではない状態です」

 

「ですが、セイア様は昏睡したまま。妹様曰く、奪われた“神秘”とやらが回復していないそうですが……これが、“ヘイロー破壊爆弾”なるモノの力ですか」

 

「そのような危険物、いち医療従事者として絶対に許容できません。製作者も使用者も、いつか必ず“救護”しますが……手が足りませんね」

 

「既に負担を強いている後輩たちに、これ以上を求めることはできません。今の私に出来るのは、セイア様のご回復をお祈りし、御身を死守することのみ……。この身に誓って、それだけは必ず果たしてみせます」

 

「セリナ、ハナエ……不甲斐ない団長ですみません。トリニティのこと、妹様のこと……頼みましたよ」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 「原作」通りなら今頃、「先生」が水着ハーレムを楽しんでいる頃かな?

 

 どうも。湿気で何もかもダメになるから、雨は大嫌いな百合園セチアだよ。いや、本当にダルいわ……体調も気分も、何もかも。もし与太時空で私が実装されたら、水着ハナコが天敵になるに違いない。ユメパイセン*1を募集できるかと言われたら否と答えるし、そんな日は一生来ないが。

 

 それにしても、ゲヘナの紅白モップ*2とかはどうしてるんだろうね。私でこれなのに、あのモフモフどもがどうなるかなんて想像もつかない。特に赤い方は全休(サボり)決定でしょ、この大雨。

 

 さて、ぐちぐちモードはここまでにして……。はい、今日は救護騎士団の本部からお送りするね。

 

 

「お待たせしました!こちらへどうぞ、セチアさん。セリナ先輩がお待ちですよっ!」

 

「う~い、ハナエちゃんは今日も元気だねぇ」

 

「もちろんです!お医者さんが暗い顔だと、患者さんが不安になっちゃいますからね!」

 

 

 このカスみたいな曇天の地に舞い降りた、こちらの元気っ子は朝顔(あさがお)ハナエ。私より少し背が高い程度の体躯でありながら、実に凶悪なモノをお持ちのツインテガールである。自称“白衣の天使”だけあり、純真無垢な彼女の笑顔とドジながらも献身的な治療に心癒される生徒も多いのだとか。

 

 それはそれとして、患部を切り落とすべく手術室に相棒のチェーンソーを持ち込むくらいぶっ飛んだ子でもあるが……まあ、陰謀渦巻くトリニティにおいては圧倒的に“良い子”側だろう。今まさに彼女のハツラツ(溌剌)ボイスがダウナーセチアちゃんの頭にガンガン響いているのだが、全く気付いている様子はない。こういう子である。

 

 個人的には、いつか二代目“救護騎士団の壊す方”として、ミネ団長の後を継ぐことを期待していたりする。それもまぁ、先程名前が出た“セリナ先輩”の存在があってのことだが……。

 

 【団長室】のプレートが掛けられた扉を開け、慣れた手つきで絨毯を捲る。現れた金属板を|退かすと見える階段の先には、重厚な鉄筋コンクリートの防爆扉。「先生」が見たら「隠し部屋はロマン」とか言って喜ぶだろうか。それともこんなもの(地下シェルター)が必要な世界を嘆くだろうか。

 

 

「こんにちは、セチアさん。今日は、その……ご機嫌斜めですか?」

 

「まーね。朝っぱらからこんなんじゃ、ウチも気が滅入るってもんよ」

 

「お気持ちは分かります。私も羽根持ちの端くれとして、雨はあまり得意ではないので……」

 

 

 シェルターの中を進み、奥の診察室へ向かう。待ち人の来訪に気付きこちらへ駆けて来る少女。彼女が本日の本命、鷲見(すみ)セリナだ。ナース風の制服を着こなす桃髪の生徒で、肩にかかる髪の一房が鷲の羽根のような形になっているのがチャームポイント。同僚や患者から「お母さんみたい」と言われるほど世話焼きで、医療従事者としても()()できる。非の付け所がない、文字通りの“天使”だ。ついでに“救護騎士団の治す方”と呼ばれていたりする。

 

 ちなみに彼女のように、身体の一部に天使族(羽根付き)の特徴が表れている生徒を“羽根持ち”という。例によってというべきか、自身を“純血”だの“選ばれしもの”だのと謳うカスどもに、“成り損ない”だと迫害された歴史がある。なお天使族が数を減らした現代では、逆にその因子を継ぐものとして好意的な要素になる模様。所謂お貴族様に限った話ではあるけどね。

 

 大昔のトリニティでは神の遣いたる天使族こそが至上の種族で、それ以外はみんな奉仕種族だったらしい。純人間だろうが獣人系だろうが、翼を持たない人種は旧トリニティにおいて長く虐げられてきた歴史を持つ。悪魔族(ゲヘナ)?敵対種族だから人類とすら見なされてなかったよ。

 

 宗教画に描かれる聖サンクトゥス(百合園)は天使の装いだが、一体どこでキツネが混ざったのか。今でも百合園の名が力を持つことを考えれば、割と最近のことなのだろうが……どこかで恋愛結婚でもしたのか、あるいは血を取り入れろとお告げでもあったか。いずれにせよ今考えることじゃないし、多分もう二度と出てこない歴史(設定)だよ。

 

 ともあれ、今でこそ表立って種族がどうとか言うバカは絶滅危惧種だが、それでも全くいないわけではない。特に権威たるティーパーティーには、程度の差はあれ選民意識が強い連中も割と残っている。姉やナギサがお掃除に勤しんでいたのは知っているが……無茶するよねぇ。その自覚がある(恨みを買っている)からこそ、エデン条約の裏で暗躍する存在がアリウスだと気付けない。

 

 もちろん、今更アリウスに干渉されることを想定するのは無理があるよ?今のトリニティにとって、アリウスは“終わった存在”だからね。ミカの和解案提示や思わせぶりに現れたアズサというヒントこそあれ、それを疑うには身内に容疑者が多すぎる。

 

 一方でシスターフッドや救護騎士団といった、言い方は悪いが弱者救済の役割を担う組織は――たまにいる高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)を掲げる奇特なお嬢様方以外は――エリート意識が薄いことが多い。

 

 “救護”――すなわち助けが必要な全ての存在に手を差し伸べること――を目的とする救護騎士団は家柄などへの拘りは二の次。現在のトップこそティーパーティーの要職に就けるほどの名家の出だが、彼女はそういうの嫌いだからね。

 

 何で長々とこんな話をしたかというと……こんなクソッタレな世界で、真っ当に育ってる「原作」の生徒(ネームド)たちはすごいよねってこと。それを故意に歪めようってんだから、曇らせ隊は罪深いんだ。そこは忘れないようにしないと。

 

 

「それじゃ、上着から脱がせていきますね」

 

「う~い」

 

 

 補習授業部のみんなには見せられないような私のダラけっぷりに、流石のセリナも苦笑している。バンザイした私から一枚ずつ衣服を剥がしていく彼女。気分は母親に世話される幼稚園児だ。……もちろん母親に世話などされたことはないので、気怠さのままに適当ほざいただけだが。

 

 ()すがままになることしばらく、残るは下着だけになったことを確認し、胴体にキツく巻き付けていた()()()()()。右には丸みを帯びた幅広な(ミカに似た)形状の黒翼。左には湾曲した長く鋭い(ナギサに似た)形状の白翼。(あらわ)になった肌の大部分は継ぎ接ぎで、遠目に見ればわからないほどに小さな縫合痕が張り巡らされている。

 

 

「…………」

 

「ごめんね、いつもいつも……こんな気色悪いの見せちゃって」

 

「あっ、ごめんなさい!いつ見ても、医者として納得できないお身体でして……。不躾でしたね」

 

「いやそれがセリナの仕事じゃん?気にしないよ。……にしてもさ、ほんとにツイてないね。ミネ団長は突如として失踪するわ、こんな不良債権寄越されるわでさ」

 

「もうっ、自虐は程々にしてくださいね。セチアさんは私の大切な患者の一人ですから……その患者を悪く言うことは本人でも許しませんよ!」

 

「そっか……ありがと」

 

 

 ミネ団長がいなくなったのは「原作」通り、姉セイアを匿うためだ。私が存在したことによる影響か、姉は()()()()()()()()。アズサを説得するまでは良かったが、暗殺者たる彼女にも伏せられていた後詰め部隊の襲撃を受けたのだ。“ヘイロー破壊爆弾”まで使いやがって……庇ったのが私じゃなきゃ死んでたぞ。

 

 間違いなくベアトリーチェとかいう蓮コラババアのせいだが……預言者気取りのキツネが二体に増えたくらいで顔真っ赤にするとか、巨悪として情けなくないのか。アツコとの約束を秒で反故にするとことか「先生」とレスバして逆上するところとか。何というか、全体的に妙にみみっちいんだよ。だから黒幕()()()だなんて言われるんだぞ。

 

 大方、黒おじ(黒服)マエおじ(マエストロ)から可愛がられている私――どちらかというと実験動物的なアレだが――を脅威と見做しての凶行だろう。何なら武器とか装備作ってもらったりでゴルおじ(ゴルコンダ)とも仲良いし、デカの助(デカルコマニー)は言わずもがなだ。()()()同僚である“大人”どもが揃って小娘一人に入れ込んでいたら不気味だし、戦術的判断としては正しいんだけど……なんだかなぁ。

 

 話を戻すと、この世界ではセイア襲撃は狂言ではない。セーフハウスが半壊するという目に見える被害が出たし、姉は昏倒。私も重傷を負った。夜中なのに早々とミネ団長が駆け付けたのもそれが原因だけど……「“救護”の波動を感じた」って何なのさ。いや、来てくれなかったら色々マズかったから助かったけど。

 

 アズサは先に逃がしたし、アリウスの奴らも余波で文字通り吹き飛ばされたので、ミネ団長の目線では事件の関係者は私たち姉妹だけ。敵の正体は分からないが、トリニティへの宣戦布告とも取れるテロ事件。だが人命を優先する彼女にとっては、患者の保護が最優先。事件の裏側を十分に調べられないことは歯痒いだろう。

 

 ミネ団長は3年前の事件の真相を知っている数少ない人物だ。その上、名門ヨハネ分派の首長とあって以前から私たち(百合園)と交流があり、その縁で主治医なる役目を引き受けてくれている。

 

 だからこそ倒れ伏す私たちを見て、彼女はそれはもう盛大にキレた。それでも手は正確に応急措置を進めていくあたりは流石だったけど、能面のような顔で「誰を“救護”すればよろしいですか」って訊いてくるの。あの可愛い声でここまでドス効かせられるんだ……って内心ビビりまくりだったよね。「今この場で“救護”が必要なのは私です」とか冗談でも言えなかった。

 

 ひとまず、“ヘイロー破壊爆弾”の余波で昏倒した姉を彼女に任せ、身を隠すことを提案。立ち上がるのがやっとの私を置いていくことに抵抗があったようだけど、私まで一緒に匿うことのリスクを提示して、しぶしぶ納得してもらった。“救護”が関わった時の彼女は暴走機関車だと思っていたが、本人の言に反し意外と政治ができるのだ。

 

 そういうわけで「蒼森ミネの身に何かあれば、鷲見セリナが引き継ぐ」という約束のもと、セリナは私の定期健診を担当してくれているのである。救護騎士団の次期団長と目されているのもあるが、ミネ団長からの個人的な信頼も厚い。

 

 ハナエもまたミネ団長のお気に入りだが、あれは医療技術よりも“救護”スピリッツの方を評価している節がある。彼女はまだ1年生だし、トリニティの闇(私の存在)を見せるのは悪影響だという判断なのだろう。

 

 

「はい、今回もお身体は異常なしですが……お薬の方は足りてますか?ここ何回か全く処方していませんし……いえ、お薬に頼らないで済むのは良いことなんですけど」

 

「んーん、大丈夫。最近は()()()()()から、心配いらないよ」

 

 

 そう、セリナが心配することは何もない。エデン条約はぶち壊しになるだろうけど、死人は出さないつもりだし。寧ろ良き友となる氷室(ひむろ)セナと知り合えるわ、ミネ団長が帰ってくるわで……結果だけで見れば得るものの方が多いはず。こんな厄介者とも縁が切れるし、安心して「先生」のストーカー(ママ)に転職できるよ。

 

 

「それじゃ、今日はありがとうね。……雨止んでたらいいんだけどなぁ」

 

「雨の日は気が滅入る方も多いですし、上も忙しくしているでしょうね。……玄関までお送りしましょうか?」

 

「いや、そこまでしてもらったら悪いよ。そういえば……『先生』がまた夜中にカップ麺とか食べてたよ。『ユウカもセリナもいないし……ちょっとくらいなら』って」

 

「あはは……貴重な情報、感謝しますね。事が終わったらきっちり“救護”しなきゃ……。それじゃ、また何かあったら呼んでくださいね!」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 訪問者が去った地下空間の一室。かつての争いの時代の名残であり、救護騎士団本部の真下にありながら、今では歴代団長にしか存在を知らされていないその場所。残された桃色の少女――鷲見セリナは紙束を片手に、大きく息を吐いた。

 

 手元にあるのは先ほどまで相対していた不可思議な患者のカルテ。世間では電子カルテが普及する中、トリニティにおいては紙のカルテもまだまだ現役である。特にこういった機密に関わるもの――トリニティを含む多くの自治区では、セキュリティまで含めた種々の電子システムをほぼミレニアムからの購入で賄っている。すなわち、情報産業において後塵を拝する自治区においては、機密保持という観点において電子媒体は信用できない――であれば当然だ。

 

 敬愛するミネ団長から団長代理の責務と共に任された彼女(セチア)の存在は、セリナにとって目下最大の悩みのタネだ。もちろん、本人が悪いわけではない。あまり良い噂は聞かないし、確かに秘密主義ではある。だが、口さがのない人々が色々と囃し立てているに過ぎず、その本質は善良である。医者と患者として、直接相対した彼女はそう評価していた。

 

 数枚まとめてページを捲る。そこにあるのは半年ほど前の――ミネ団長の名前が入ったものでは最新の――診察結果。相変わらず肉体的な異常は一切ないが、彼女が気に病むのはそこではない。

 

 処方されたことになっている、夥しい量の入眠剤と精神安定剤。それ以前の記録でも同様の薬を処方しているが、この月だけ量が異常だ。医者の端くれとして一度に手渡すのは躊躇う量だが、他ならぬミネ団長がそう判断したのであれば、必要なことだったのだろう。

 

 一枚ずつページを戻していく。いずれも処方薬の欄は空白で……そう、私が担当するようになってから、どういうわけか彼女はきっぱりと薬を断っているのだ。

 

 信頼されていないわけではない……と思う。彼女は自分の秘密(キメラ)を知ったものに対しては比較的甘い。ある程度諦めがつくのか、普段は抑えている幼い性格が時折顔を出すのだ。流石に今日ほど顕著なことは少ないが……少なくとも素顔を曝け出しても大丈夫な相手とは見做されているはず。

 

 そうであるならば……医者以前にいち個人として褒められたことではないが、背に腹は代えられない。このまま彼女のことを放置していれば大変なことになると、直感が告げている。最悪、私が嫌われるくらいなら、患者の命に比べれば安いもの。

 

 鷲見セリナには異能と呼ぶべき力がある。その力の可能性に気付いたのは先生を“救護”すべく単身シャーレに乗り込んだ時のことだったが……もったいぶらずに言うならば、彼女の知り得ない時間軸において「セリナワープ」と呼ばれるアレである。

 

 一定以上の友好値を築いた存在をマーキングし、常に把握しておける能力。その対象が助けを求めた際に、あらゆる障害を無視してすぐさま駆け付ける能力。彼女の異常なまでの世話焼き気質が具現化したような……まさしく異能と呼ぶべき超常(神秘)の現象。

 

 一応欠点もあり、セリナ本人がある程度リラックスしていないと安定して発動しない。所謂「壁の中にいる」といった事故を引き起こさないための、安全弁のような制約であると彼女自身は考えている。非常時にこそ役に立たないというのも皮肉な話ではあるが、このような力を授かっただけでも感謝すべきこと。不甲斐なさこそ感じれど、不満を(いだ)くことはない。

 

 大きく息を吐き、心を整える。感じるのは体中を巡る血液とはまた違う、無形のエネルギー。それを円形に整え、ソナーのように広げていく*3。途端に感じる無数の光点。上にあるのは救護騎士団のみんなにハナエだろう。少し離れた校舎周辺にクラスメートの人たち、そして旧校舎には先生の反応もある。

 

 

 輪を広げる。

 

 

 学園の敷地からやや離れた建物の地下にミネ団長を見つける。市街地にはおそらくパトロール中のスズミさん*4と……何度か治療したスケバンの皆さんかな?

 

 

 さらに輪を広げる。この時点でだいぶ頭が軋んでいるが、まだ平静でいられる。

 

 

 隣のゲヘナ学区にチナツさん。D.U.地区だとシャーレにはユウカさんとマリーさん?他には……ダメだ。ここが私の限界。いずれにせよ、セチアさんは見当たらない。

 

 この短時間で学区を越えて移動するのは不可能だ。あの大雨が止んでいたとして、足を持たない彼女では学園から出られているかも怪しい。そもそも、彼女は補習授業部の一員だ。今まで抜け出していたのも特別待遇で、用事が済んだらすぐにでも先生の(もと)に戻るべき存在。ご自分でもそう言われていたはずで……。見落としでなければ、あるいは身近に()()()()()()()()()でもなければ……つまりそういうこと(信頼が足りていない)なのだろう。

 

 

「……何も起こらなければ良いのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「おーっす、黒おじいる?」

 

「クックック……相変わらず時間通りで感心しますよ、セチアさん」

 

 

 確かにキヴォトスの地に在って、それでいてキヴォトスからは観測できない次元の狭間とも言うべき不可解な空間。扱う研究の都合上、いたるところから“神秘”を感じるその場所にて。ひび割れた眼孔を持つ黒づくめの異形の“大人”は、待ち人が現れたことに静かに歓喜する。

 

 

「“契約”を守ってる間だけは、わる~い“大人”も勝手なことしてこないんで……。あぁ、ベアおばは約束守んないから、油断しちゃダメか」

 

「えぇ、()()()()()この場にて対等ですが……我々ゲマトリアは必ずしも貴女の味方ではありません。ご用心するに越したことはないかと」

 

「おーけい。んじゃ、さっさと済ましてくれない?今夜は盛大に夜遊びする予定があるんだ」

 

 

 気安い口調で話す、眼前の少女。数年前に拾い上げた、未だ解明には至らない“奇跡”の産物。あろうことか、同士たる女性(ベアトリーチェ)がロイヤルブラッドと呼ぶ青き血が複数寄り集まった存在。暁のホルスとはまた異なる、非常に面白い“神秘”を持ち合わせる研究対象。我々と同じ「観測者」の資格を持つイレギュラー。

 

 彼女が未来を()ると語った際、我々はその血(百合園)に宿る異能だと理解した。百合園セイアが予知夢という形で、異なる時間軸の景色を観測できることは知っていた。故に“預言者”と呼ばれる彼女の血縁であれば、あり得ない話ではないと。

 

 それが決定的に間違っていると気付いたのは、彼女に「先生」の人となりを訊ねた時のこと。アビドスにてあの不可解な“大人”と相対し、その歪な在り方の行きつく先に興味を惹かれた。その者を観測する上で、“生徒”たる彼女からの視点を得るのも一興かと思っただけだったが――

 

 

『あの「先生」ってさ、本当に人間なのかな?』

 

『いや、人型には見えるし、“大人”だってのも分かるよ?……でもさぁ、なんかモザイクかかって見えるんだよね』

 

『顔は360°どこから見ても子どもの落書き。でも「そういうものか」って納得する。声も、いろんな音が反響して上手く聞こえないのに、「なんて言ってるのか」理解できる。果ては性別すらも……雰囲気が中性的とかじゃなくて、どっちでもあってどっちでもないみたいな……上手く言えないけど、初めから定められてないみたいな感じ』

 

『そう、なんか()()()みたいなんだよ。外から来た“大人”ってもしかして全部そうなの?』

 

 

 これには驚いた。なぜなら、彼女の描写するその姿は、我々の観測する「先生」そのものであったからだ。“生徒”というテクスチャを持つせいか微妙に差異こそあれ、彼女は正しく「先生」を観ている。()なる魂が混じっているだけで、これほど異質な存在が出来上がるとは。用済みになれば処分するつもりだったが、それが覆った瞬間だった。

 

 

 この少女の形をしたナニカの行きつく先を、()()()と思ってしまった。

 

 

 マエストロやゴルコンダにしても、同じ気持ちだろう。だからこそ我々は、その道筋を調えてやる。ベアトリーチェには悪いが、互いに利用し合っているのは承知の上。せめて最後の花火くらいは打ち上げさせてやろう。

 

 

「クックック……私としては貴女()とお話するのも悪くないのですが……確かに相当な無茶をしたご様子。失礼ですが、今どちらにいるのかお分かりで?」

 

「今ぁ?そんなの――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――現実()に決まってんじゃん」

 

 

 

 

*1
梔子ユメ。キヴォトスでは珍しく死人として描かれる人物。

*2
(なつめ)イロハと空崎(そらさき)ヒナの愛称。共にフワフワモフモフの長髪を持つ。

*3
オリ主の言うところの「神秘レーダー」とほぼ同じ。

*4
シャーレの部員として知り合った。公式ストーリーで接点のない生徒は大体シャーレ繋がり。




毎日投降途切れたので、おとなしく隔日投稿を目標にします。

オリ主がハナエのことをどうこう言ってるシーンがありますが、セイアの体躯にミカπとナギケツが付属しているようなものなので人のこと言えないです。
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