トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい   作:ウガツホ村

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戦闘描写に苦戦しました。ミリタリ知識もなければ、そういうゲームにも疎く。
そういうわけで、ようやっとVS美食研究会です。
属性や装甲についての個人的解釈がありますが、この与太世界ではそんなモノだと流していただければ。


11話:夜の散策②【セチア/先生】

◇◇◇◇

 

 

 

「ん~?なんだか誘導されている気がしますねぇ。雛鳥さん(正実モブ)たちの動きが奇妙です。本気で私たちを捕まえようとする意志を感じません」

 

「えぇ~!私たちが思ったより強かったから、諦めてくれたんじゃなかったの!?」

 

 

 夜中にも関わらず派手な爆発音が響く市街地。その発生源たる四人組の集団は、敵地の奥深くに在ってもなお、普段通りの余裕を崩さないでいた。……約一名を除いて。

 

 

「ちょっと、アイツらがそんなに甘い訳ないでしょ!どうせ剣崎(けんざき)ツルギとかが来るまでの時間稼ぎだってば……!ねえハルナぁ、なんでこんなとこ(トリニティのど真ん中)まで来ちゃったの!?」

 

「ふふっ、何を仰いますかジュンコさん。このゴールドマグロの輝きを前に、逃げ切れるかなど些事ですわ。……大事なのは食べられるか、否か!つまりは『食べるか、死ぬか(eat or die)』!それこそが(わたくし)たち美食家が歩むべき、孤高の道なのです!!」

 

「結局、そういうことですね★」

 

「なんでそんなに呑気なのさ!捕まったらマグロも没収でしょ!?アカリもイズミも荷物抱えた状態で、この先突破するの無理だって……」

 

「うわ、危なっ!ちょっと、大事な食材撃つとか許せないんだけど……!あっ、ビチビチしないで!ひれビンタもやめて!?」

 

「んんっ!?んーーーっ!んんんんんっ!?(ちょっ、どういう状況!?はなせぇぇぇっ!というかここ、ゲヘナじゃない!?)」

 

「あら。おはようございます、フウカさん。まあ、御覧のとおり今は夜中ですが」

 

 

 喧喧囂囂(けんけんごうごう)。各々が自分の言いたいことを優先し、会話が成立するようでしていない。割とこれが彼女らの日常であるが……その中に在っても逃走のための足は止めないのは流石と言うべきか。一際背の高く落ち着いた雰囲気の金髪の少女。その彼女が抱える、簀巻きにされ猿轡を噛まされた割烹着の少女は……己の不幸を早々に受け入れ、抵抗を止めた。この諦観もまた、彼女らの日常の一部なのである。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 そろそろ接敵するかな?どうも、久しぶりに大っぴらに身体を動かせそうで、ちょっぴりハイテンションな百合園セチアだよ。ハスミとイチカの通話を聞く限りツルギ委員長も向かって来てるらしいし、私が多少暴れても誤差だよ誤差。

 

 キヴォトス人にとって銃撃戦は茶飯事とはいえ、トリニティのようなお嬢様学校では戦闘とは縁遠い生徒もそれなりにいる。しかも今回は学区を跨いで悪名が轟くテロリストが相手だということで、コハルや随伴の正実モブちゃんズも結構緊張している模様。あぁ、そうだ。全員がそうじゃないけど、正実モブちゃんズの容姿は割と「原作」に似ているよ。わざと容姿を寄せて、相手から個体識別されにくくしてるんだって。軍人の鑑だね。

 

 そんな中で一切の気負いを感じさせないヒフミはさぁ……。ここまでの経緯についての困惑こそあれど、戦闘になることには全く疑問を感じていないように見える。私や「先生」はそういうものだと知ってるし、アズサも武人だから気にしてないけど……ハナコからの視線がちょっと鋭くなったのには気が付いてなさそう。これで“普通”のお嬢様ってのは無理があるよなぁ……。それで言うと非常時のヒリついた空気の中でニッコニコの私も浮いてるし、避難する住人から「なんだコイツ」って目で見られ続けてるけどさ。

 

 さて、戦闘前のブリーフィングをしておこうか。今回のミッションはゲヘナ学区から侵入してきた武装集団“美食研究会”を無力化し、ゲヘナ学区へ突き返すことだ。「先生」パワーで自治区境界――面倒だからもう国境って言っちゃうけど――まで呼びつけた風紀委員会に引き渡せばゲームクリア。

 

 風紀委員会ってのはゲヘナ学園の治安維持組織で、こっちで言う正実みたいなものだよ。大半に過労デバフが入ってるけど、治安が全学区ワーストレベルのゲヘナで叩き上げられた精鋭とあってそれなりに強い。委員長の空崎(そらさき)ヒナが「ワンマンアーミー」と呼ばれるほどにぶっ飛んでるだけで、正実同様に平部員も意外と侮れない。

 

 エデン邪魔するならヒナとも戦うんだよなぁ……。属性的な相性だけで言えばツルギ委員長よりはマシなんだけど、この世界じゃそれだけでは決まらないし。「先生」の指揮も考えると、スクワッドとかユスティナ使って上手く削ってくしかないかな。どっちも多対一が得意とはいえ、ユスティナは実質無限湧きだし何とかなってほしい。

 

 失礼、ちょっと脱線したね。目的については先の通りで、次は相手の詳細と行こう。

 

 “美食研究会”はゲヘナ生徒の四人組で構成される、実力派のアウトロー集団だ。後にナギサが陰謀で利用する“温泉同好会”と並び、ゲヘナの要注意団体の二大巨頭であると言えよう。両者に共通するヤバさは、本拠地がゲヘナというだけで、必要とあらば他学区にも平気で進出するところ。それに加え「憧れは止められねぇんだ」とばかりに、ただ自らの信条に基づいて行動する。周りの事情なんて知ったこっちゃないタイプだ。その性質上「原作」だと話の起点やオチに使われることが多い。

 

 個人的には拘りが強すぎる“美食”オタクという印象なのだが……ゲヘナのみならずD.U.地区――連邦生徒会があるキヴォトスの中心部で、「先生」のお家であるシャーレもここにある――やその他近隣自治区を荒らして回るので世間にはテロリスト集団だと認識されている。やってることは間違いなく爆破テロだから、まあテロリストで間違いないけれども。

 

 よくある被害として「価格に見合わない料理を提供したため、その飲食店を爆破した」というものがあるが、金銭感覚が他所と違うトリニティは結構この被害に遭いやすい。実際「金満お嬢様を相手にするだけのボロい商売www」とかやってる悪徳店を淘汰するのに一役買ってるから、一概に悪とは言いにくいのがまた。ただゲヘナ生がトリニティの店を爆破したという事実は残るから……まあ、ゲヘナのネガキャンにはなってるよ。

 

 そんな彼女らだが「EAT OR DIE(喰うか死か)」のモットーの通り、目的のためならかなり無茶をする。というか、事を起こした後に捕まることに抵抗がない。逃げ(おお)せたらラッキー程度で、味方も平気で見捨てるし。それで毎度ゲヘナの反省牢にぶち込まれては、別の騒動に乗じて脱走する。その優雅な名前に反し、“美食研究会”はネバーギブアップ精神に支えられた、意外と泥臭い集団なのである。

 

 これの何が問題かと言うと、戦闘技術云々以上にとにかくしぶといのだ。「先生」方ならご存じかもしれないが、ゲームでも全員が耐久力に関係するスキルを持つ。やや個人主義が強く明確な前衛がいない集団だからこその特徴だよね。これが、アズサ以外に決定力がない「原作」補習授業部パーティーにとってはちょっと面倒なのだ。美食研究会は主な活動の場とあって、軒並み市街地戦が得意なのもある。先生の指揮下かつハスミの援護があったから勝てただけで、下駄なしならきっと負けていたんじゃないかな。

 

 人柄などは一旦置いといて、性能面から戦力を考察する。まずリーダーの黒館(くろだて)ハルナ。神秘属性のスナイパーで、私が最も警戒している相手だ。仮にもタンクとして前線を抜かせるつもりはないが、冷静に後衛を狙撃されると困る。先生の指揮の腕次第でもあるが、ハナコなんかは一撃で落とされそうだ。SPECIALの生徒は被弾しないなんて、そんなルールはこの世界にないのだし。

 

 他の面子に関してはまぁ、正直どうとでもなりそうではある。守りが堅めのアカリさえアズサかハスミに処理してもらえば、あとは私の大技(EXスキル)で押し込めそう。ジュンコの不死身とかがこの世界でどう働くのかは気になるけど、一撃でノせばOKだろう。クロスレンジの戦いなら私の方が有利だし、何より初見で自爆を警戒する相手はほとんどいない。「肉を切らせて骨を断つ」のも立派な戦法の一つってことよ。

 

 こうやって色々と考えてると、御託はいいから早く戦おうぜって気になるんだよねぇ。色々と考えた結果「殴った方が早い」になってた○○ちゃんと違って、私には「とりあえず殴ってから考える」という標準的キヴォトス思考がインストールされている。姉の真似して頭良さそうに振る舞っていたこともあったが、本質的には私はわんぱくフォックスなのだ。私たちの参謀は△△△ちゃんだったのであって、私個人は陰謀とか暗躍とか向いていないってわけ。

 

 それはさておき、ここでこの与太世界における“属性”の話をしておきたい。ブルアカにはそれぞれ四種の攻撃属性と装甲タイプが存在していた。みんなご存じ、爆発・貫通・神秘・振動と軽装備・重装甲・特殊装甲・弾力装甲だね。それぞれに有利不利があり、ゲームとして竦みが成立するようになっていたわけだ。

 

 これが現実化した影響でどうなったのか。私も正確に把握できてはいないけど、大まかな結論は出している。()()()()()、ここ数年で“神秘”の扱いが急激に上達したからね。専門家である黒おじ(黒服)たちの意見も借りてるし、全くの間違いってことはないと思う。

 

 前提の話だけど……私たち生徒は例外なく、己の器に内在する“神秘”を用いて攻撃――主に銃弾だけど――の威力を底上げしている。 “神秘”っていうのは言うなれば万能エネルギーで、普段は身体強化や肉体保護に利用されている。戦闘の際は、これを意図的に攻撃に転用しているわけだ。意図的に、とは言ったものの……特記戦力からその辺のチンピラまで、ほとんどの生徒は無意識でこれをやってるよ。

 

 私たち――私とゲマ研(ゲマトリア)の連中だけだけど――はこれをそれぞれ防性神秘・攻性神秘と呼んでいる。この防性神秘には個人個人で癖があり、それと着用する装備の兼合いで装甲タイプが決まっているように思う。

 

 例えば、制服を着てるだけの生徒は大体軽装備。ヒフミとかがそうだね。銃撃戦が茶飯事なキヴォトスでは、一般の制服もそこそこ丈夫な作りになっている。

 

 一方で、アズサなんかは制服の下に防弾チョッキ風の装備を着込んでいるから重装甲。正実の標準装備も似たようなものだから、コハルも同様だね。

 

 それで、多くのおめかし生徒――水着なり晴れ着なり、戦闘を想定していない衣装の生徒――のように物理的な守りが貧弱な人たちが概ね特殊装甲。弾力装甲もこの亜種だが、この辺は先に述べた個人差の範疇だね。いずれも防性神秘による保護が防御力のほとんどを占めている。つまるところ、裸の状態の生徒はみんな特殊装甲か弾力装甲なのだ。

 

 ハナコは制服を着ていても特殊装甲だが……まず間違いなく、日常的に水着徘徊をしているせいだろう。逆に水着ハナコは重装甲だったりしたが、本人はあれ(ワイシャツ)で厚着だと言い張っている。多分、色々と変な癖がついているんだと思うよ。間違っても胸部装甲の話ではないと信じてる。

 

 では攻撃属性について。これは大きく神秘属性かそれ以外かに分けられる。やってることは同じ攻性神秘の活用なんだけど、その作用機序が異なるというか……。神秘属性が放出する“神秘”そのものをダメージソースとするのに対し、それ以外はあくまで銃弾が主役だというべきか。

 

 分かりやすい「それ以外」から行こうか。例えば爆発属性の生徒――例によって補習授業部からアズサをピックアップして説明しよう。アズサが普段使っているのは、その辺のコンビニで買える普通の銃弾だ。でもそれがアズサの愛銃(Et Omnia Vanitas)から放たれることで、その辺の不良とは一線を画す威力が出る。

 

 これは、銃弾に込められたアズサの“神秘”が、銃弾の炸裂力を大きく底上げしているから。

同様に貫通属性の生徒の弾ならば堅牢な装甲でもぶち抜く貫通力を得るし、振動属性はなんか弾がブルブルする。ほら、超音波カッターとかあるじゃん?多分そういう原理で威力アップしてるんだ。あれって分厚いモノはあんまり切れないらしいし、重装甲に弱いのだってそのせいでしょ。ちなみに防性神秘の障壁がかき乱される感じがするから、私としては振動属性の攻撃は苦手かな。

 

 ともかく、共通するのは“神秘”で強化した()()()殴るということ。銃弾がメインで“神秘”はそのサポート役ね。

 

 一方で「原作」で神秘属性を与えられた生徒は、大体みんな“神秘”()()()()で殴り合いをしている。攻撃の指向性を持たせた“神秘”を銃弾に乗せて飛ばす。あるいは直接ぶつけることもできて、ペロロジラの白熱眼光とかはそのイメージ。弾自体は強化されていないからあんまり痛くないけど、込められた“神秘”が炸裂して衝撃やダメージを与える。“神秘”自体の物質的な干渉力は強くないが、逆に非物質的な作用は強い。だから“神秘”という非実在性の防御がメインの特殊装甲には強く、物理的に身を固めた重装甲にはイマイチってわけ。

 

 この場合は攻性の“神秘”こそが本命で、銃弾はあくまで攻撃のリーチを伸ばすための手段ってことだ。それこそ総力戦BOSSくらいに出力が高ければ“神秘”を直接放射することも可能だけれど、一般生徒の分際でそれをやると威力がかなり減衰する。だからそれを補うために、神秘属性の生徒もみな愛銃を構えるのだ。銃弾を撃つ=誰かを傷付けるという連想で、攻撃のイメージを掴みやすいのもあるだろうけど。

 

 あ、ジュンコちゃんこんばんは。今日も()っちゃくて可愛いね。え?お前のがチビだろって?ウチは上の耳立てたらギリ150あるはずなんですけど、お宅は?……耳入れていいなら角込みで相手の勝ち?ちょっとアズサ!どっちの味方してんのさ。

 

 えっ?“厄災の狐”がなんだって?ウチとワカモに接点なんか……あ!もしかしてクルミパイセンのこと!?いやぁ、かのFOX小隊の一員と間違えられるなんて光栄っすわ。でもあの人シャッガン(SG)じゃなかった気がするし、多分目が細いとか言ったら怒るよ?

 

 おー!それがゴールドマグロかぁ。こんだけ陸上を連れ回されてまだ元気なのってすごくない?なんか微妙に“神秘”帯びてるし、キヴォトスってその辺の魚すら「先生」より強いんだねぇ。“幻の魚”ってそう言うことじゃなくない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「ごきげんよう、先生。これからゲヘナでマグロの解体ショーと洒落込む予定なのですが、先生もご一緒なさりませんか?」

 

「“こんばんは、ハルナ。お誘いは嬉しいけど、またの機会にさせてもらうね。……私も付き合うし一緒に頭を下げるから、今からアクアリウムまでそのマグロ返しに行かない?”」

 

「あら、それはできない相談ですわ。そう簡単に諦められるほど、私たちが目指す“美食”の道は甘くありませんの」

 

 

 ハスミの先導で人の減った市街地を駆けることしばらく。正義実現委員会のみんなの活躍(包囲網)もあって、無事に目的の集団と相対することが出来た。

 

 その先頭に立つは銀髪の少女、黒館ハルナ。他のメンバーは一歩後ろに控え、油断なくこちらを見据えている。……約一名セチアに絡まれてペースを崩している子もいるが、あれも彼女の言う番外戦術(トリニティ仕草)の一環なのだろうか。四人と聞いていたが、よく見るとフウカもいる。人質にされることこそないだろうが、おおよそ被害者である彼女にも配慮した指揮を心がけないと。

 

 私を庇うように前に出たアズサも――セチアの方にツッコミを入れる余裕こそあれ――十分に臨戦態勢である。こうして会話を繋いでいる間にハスミも良い位置に付けたようだし、こちら側も準備万端だ。話し合いだけで解決できればそれが最善であったが、そううまくはいかないのはここ数か月のキヴォトス生活で身に染みて分かっている。

 

 

「“それじゃ、交渉は決裂ってことだね。いくよ――”」

 

「ええ、戦闘指揮の名手とお聞きする先生が相手なのは厳しいですが……もとより、私たちに退路はありませんわ!」

 

 

 シッテムの箱を構え、改めて強く念じる。すぐさま思考が冴え、指揮下に入った生徒たちとの強い繋がりを感じるようになった。

 

 

「“セチア!”」

 

「……ようやっとウチの出番やねぇ。ほな、余所見したやつからお寝んねさしたるわぁ!」

 

「ちょっ、危なっ!このチビ……盾も、持たず……に!?」

 

「避けながら無理に喋ると舌嚙みますよ、ジュンコさん。う~ん、イイのが入ったと思ったんですが、あんまり効いてなさそうですねぇ」

 

 

 打ち合わせ通りにセチアが突出し、相手の視線を引き付ける。今はジュンコとアカリの二人を相手取って、両手に抱えたショットガンを乱射している。乱射と言うには装弾数が少ない気もするが、散弾かつ2丁持ちの利点を生かして上手く弾切れを防いでいるように見える。アズサやヒフミの援護射撃の隙を突いて、上手くリロードできているようだ。

 

 

「“ヒフミはそのまま相手の牽制!コハルは隙を見てセチアに手榴弾*1!ハナコは合図したらハスミにサインを!”」

 

 

 戦闘指揮モードのシッテムの箱を介し、みんなに指示を飛ばす。シッテムの箱の指揮下に入った生徒は、様々な破壊音が入り混じる戦場に在っても私の指示を正確に受け取ることが出来る……らしい。テレパシーは言い過ぎだが、目に見えないインカムを装着したようなイメージだそうな。あまり前に出られない都合上、声を張り上げずとも指示が伝わるのはありがたい。

 

 また、私に合わせてくれたのかは分からないが……シッテムの箱を介して見る戦場はまるでゲームの画面のようでもある。視界の端に浮かぶ俯瞰視点図(ミニマップ)には、自軍を表す青点や敵対者を表す赤点が忙しなく蠢く。敵味方問わず生徒を見れば、余力の有無や残弾数などのリソース管理まで把握できる。生徒にはそれぞれ得意技や大技と呼ぶべき技能があるが、それを繰り出す有効なタイミングまで予測してくれる。総じて、戦闘指揮に必要な情報が詰まっていると言えるだろう。

 

 だからといってゲーム感覚での指揮など、とてもできない。生徒の命を預かっているという自覚が、私に無責任な振る舞いを許さない。もちろん、完全勝利(ノーダメージ)が出来るなどと思い上がってはいないし、致命的にならない範囲なら被弾にも目を瞑る。必要であれば身を切る作戦も立案する。ただ、より生徒たちの負担が少ない方法があるならば、私はそれを目指したい。刻一刻と状況の推移する戦場において、時に脳が悲鳴を上げるほどの情報を冷静に取捨選択し、常に最良の行動を模索する。シャーレを目指した進軍(チュートリアル)で初めてこの力を振るった時から、それは変わらない。

 

 

「“ヒフミ、デコイ投擲の準備を!セチアはデコイ展開に合わせて伏せて!ハナコ、5秒後!アズサはハスミの狙撃に合わせて畳みかけて!”」

 

 

 ヒフミが大きく振りかぶった円盤。アカリとジュンコを飛び越え、奥のハルナたちとの間に着弾したソレを中心に、3Dホログラムのデコイ(ペロロ)が現れる。予想通り相手全員の注意を一瞬でも逸らすことに成功。そしてその一瞬があれば、凄腕のスナイパーたるハスミには十分だ。

 

 かつての任務で戦車の装甲を打ち抜いた狙撃が、ハルナを派手に吹き飛ばす。その隙を突いて、抉るように回転するアズサの切り札(EX)がイズミの胴体に突き刺さる。勢いを失った弾頭はこれで終いとばかりに爆発を起こし、標的を打ち倒した。ついでに、彼女の背負うゴールドマグロもグリルになった。土埃と硝煙に混じり、香ばしい匂いが辺りを漂う。

 

 後衛が無力化されたことを悟り、動揺が顔に出たのはほんの一瞬。残された二人はすぐさま逃げの体勢をとる。私たちを遠巻きに囲むハスミたち正義実現委員会の包囲網を抜けられるとは思わないが、本来の目的を考えると全員ここで抑えておきたい。

 

 アズサは大技後の小休止。ヒフミたちの火力では、逃げに入った相手の足止めは難しい。さっきの狙撃への警戒からハスミも動かしにくい。セチアの攻撃はタンクとしては苛烈だが、存外しぶとい二人を打倒し得るものではない。先程からどうもアカリにはあまり効いていない様子だし、ジュンコも小柄な体躯を活かして器用に避けている。

 

 

「『先生ぇ』!使()()()()()!?」

 

「“……っ、許可する!でも、抑えてね!”」

 

「あ、ごめん。ウチのこれ……そういう調整できない仕様なん――――」

 

「え?何これ、やばっ――」

 

「“みんな伏せろ!!!”」

 

 

 瞬間、セチアを中心に青白い光の奔流が放たれる。目が眩むほどの閃光と爆音。シッテムの箱によるオート防御が発動したということは、余波だけでこの身を傷付ける威力があったということだ。

 

 住民の方々には避難してもらっているが、やや前線寄りの位置にいたアズサなどは巻き込まれていないだろうか。ヒフミやコハル、正実のみんなは?今は敵だが、至近距離で直撃した美食研究会のみんなは?

 

 そんな懸念への回答は、思わぬところから齎される。肉眼による視力が回復するより先に、視界の端に陣取るマップが、その戦果を伝えた。

 

 

 味方ユニット、戦闘継続可能数――――6(軽傷2、中傷1)

 敵対ユニット、戦闘継続可能数――――0

 

 

 立ち上る煙が晴れた先。瓦礫の山へと姿を変えた、趣のある装いだった通りの中央。不自然に開けた円形の空間にて、土埃にまみれて頬をかく糸目の少女。いつもの胡散臭い余裕はどこへやら、飼い主に叱られることを悟った犬猫のように所在なさげに立ち竦んでいる。

 

 その足元には外傷こそないが、おそらく気を失っているであろう二人の生徒。先の大爆発は下手人(セチア)の周囲を諸共に吹き飛ばしたようで、遠くで同じように気絶しているもう二人の姿も確認できる。それどころか、いつの間にか来ていたイチカの指示で、既に身柄の確保が行われている様子だ。しれっと安全圏に放り出されていたフウカも保護されているのがわかる。イチカを除く正義実現委員会の子たちは、セチアがこれを成したという事実に驚きこそすれ、この惨状事態には見慣れてようなリアクションだ。

 

 少し離れた建物から出て来るハスミの姿。こちらに駆け寄った彼女はセチアの方を一瞥し……やや開眼したイチカとも目が合ったのか罰が悪そうに視線を切った。

 

 

「ひとまずお疲れ様です、先生。……ツルギが暴れればこんなものでは済みませんから、あまりお気になさらず」

 

 

 その後、臨戦態勢で現れたツルギを止めるために、もうひと騒動あったのはまた別の話。市街地の破壊痕はより深くなり、正義実現委員会のみんなが遠い目をしていたのが印象深かった。正直、ハルナたちと戦った時よりも大変だったと思う。

 

 

 

 

*1
セイなる手榴弾。コハルがEXスキルなどで使用する。範囲内の味方は回復、敵には爆発ダメージを与えるという不思議グッズ。




本文中にあった軽傷・中傷といった表現は、あくまでシッテムの箱が用意したゲーム的な表現だと思ってください。某電気ネズミのゲームにおけるHPゲージの色みたいな。緑=軽傷、黄=中傷、赤=重傷といった感じで。

この世界でのVS美食研究会のストーリー戦闘は、STRIKER:セチア、ヒフミ、アズサ、コハル SPECIAL:ハナコ、ハスミ(特殊仕様)となります。

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