トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい 作:ウガツホ村
ダイジェスト回です。
いつも通り、解釈違いがあったら申し訳ありません。
◇◇◇◇
「もう嫌っ!!こんなことやってらんない!つまんない!めんどくさい!!」
「あ、えっと。その……だとしても、このままだとみんな仲良く退学になってしまうわけで……。取り合えずその、みんなで知恵を寄せ合って、何か良い方法を探さないと……」
「良い方法なんか、あるわけないでしょっ!……だって、
やっほー!沈痛なムードの中でも平常運転の、百合園セチアだよ。何だかすごくお久しぶりな気がするね。
まあ実際、あの贈呈式からそこそこの時間は経ってるよねぇ。水着パーティー&夜更かしが合宿4日目のはずだから、贈呈式は5日目で……ゲヘナに行ったのが7日目の早朝だったはず。いや、あれは6日目のド深夜の方が適切かな。
はい。もうお察しかもしれないけど、突撃!隣のゲヘナ自治区のコーナーはすでに放映終了しました。別に「原作」以上のことが起こらなかったし、特筆すべきことが見当たらなかったんだよねぇ……。うおぉぉゲヘナ突入!検問突破!!試験会場大爆発!!!って感じでさ。私は身分が邪魔して大っぴらに暴れられなかったし、イオリやメグと遊べたアズサが羨ましいや。
強いて言えば……抜け目なく脱獄キメてた美食の連中が、私に対して滅茶苦茶ビビっていたことか。イズミだけは平常運転だったけど、あの子は神秘暴走に巻き込まれる前に土ペロしてたからさ。知らない方が幸せなことってあるよね。……だとしたらあの時のハルナ、ハスミの
ともあれ、爆炎に包まれた試験会場と共に試験用紙は焼失し、我々補習授業部の本番2回目は無事?に全員不合格と相成った。ナギサの名誉のためにフォローしておくと、一応「先生」のための配慮はあったよ。私たちの監視用であろう“影”が、いつでも助けに入れるように身構えてたからね。……なんでそんなこと知ってるのかって?そりゃあ、私ってば
「『知恵を寄せ合う』……ふふっ、それも悪くないですね。ですがここは、あえて『弱くて敏感な部分を寄せ合う』……なんて形でいかがでしょう?」
「……!!」
「おっ、イイじゃん!ウチもみんなになら――――」
「い、いいいきなり何言ってんの!?び、敏感な部分って……そんなの駄目!禁止!死刑!!」
――――私にとって最も
「あら、別に何も恥ずかしいことではないのですが……。分かりにくかったのでしたら、今から実践しましょうか?……えいっ♡」
「い、嫌……やめっ、やめてぇぇっ!たっ、助けて先生!ヒフミ!アズサぁ……!」
「ぬるい。コハル、そのくらいの拘束くらい自分で抜けられないと……これからの戦いには付いて来れない。それにハナコも、無駄な動きが多いな。私なら2テンポ前の段階で、関節を決めている」
「だからアズサちゃんは何でそんなに物騒なんですか!?それにセチアちゃんも!煽ったんですから、笑ってないで止めてください!!」
いやだって、私はヘルプ貰ってないから。まあコハルからしたら、私はハナコ側に見えてるよねぇ……。最近スキンシップ過剰だった自覚はあるし、ハナコの悪ノリに乗っかることも多いしでさ。でも、私らに抱き着かれて顔真っ赤になってるコハルって可愛いんだよ。揶揄い甲斐があるとかそんなのじゃなく、純粋にあの
「わっ、私が悪かったから……悪かったです!先輩相手に馴れ馴れしくしてすみませんでした!もうこの際セチアでもいいから、助けてぇぇぇ!!」
「おっけー……えいっ♡」
「にゃあぁぁぁぁ!?」
「まぁ、大胆ですね♡」
「む、初めて見るタイプの拷問だな。武器も道具も必要ないのは評価点か……?」
私のことを都合の良い女扱いするような不届き者には、オシオキしてあげないとね。被告人コハル、
そういえば……この前うっかり置きっ放しにしてたエッチな本、こんな内容だったよねぇ。いつもの癖で枕の下に隠したのかもしれないけど、当番制でベッドメイクすることにしたの、忘れちゃった?まあでも、故意にしろうっかりにしろ……枕の下に本を置くってことは、今この瞬間は夢にまで見た光景ってことになるわけだ。……片方がこんなので申し訳ないけど、存分に楽しんでってね♡
「……あはは、せ、先生ぇ……」
「“(訳知り顔で頷く)”」
「せ、先生!?…………………きゅう」
「“ひ、ヒフミぃぃ!?”」
……補習授業部には、こうやってバカ騒ぎしてる方が似合ってるよ。どうせ足掻いても無駄なんだし、終点までの過程ぐらいは……楽しい思い出で埋めていこう。それくらいはきっと、私にも許されるはずだから。
◇◇◇◇
「明日になれば、すべてが変わる。私たちのアリウスにも、このトリニティにも、不可逆の大きな変化が起きることになる」
「トリニティのティーパーティーのホスト、
「なんだ、その顔は……。『vanitas vanitatum』……忘れたわけではないだろう?」
「……全ては虚しいもの。どんな努力も、成功も、失敗も……最終的には全て無意味なだけ。大丈夫……一度だって、忘れたことはない」
「……そうか。期待しているぞ、アズサ。私も……
「……それでも、足掻き続けるしかない。それに、マダムは……」
「ねえ、サオリ……マダムに従うのは、本当に正しいことなのかな……」
「……アズサちゃん?」
◇◇◇◇
ナギサから「なりふり構わない」という事実上の宣戦布告を受けた翌日。早速手を回した彼女の策謀によって、補習授業部の第2次特別学力試験は無残な結果に終わった。
試験時間が深夜3時に変更され、会場もなんとゲヘナ自治区の中。そのゲヘナへ急げば、温泉開発部が
偶然出会って共闘した美食研究会のみんなは、私たちに後を託して
ごく自然に路肩のバイクを拝借したヒフミたちと共に、爆発だらけのイカれた道路を駆け抜けた。ヒフミはあわあわ言いながらもえげつないドラテクだったし、セチアに至っては別人と化していた。ハンドルを握ると豹変する人がいるとは聞くが、まさか
途中で
そんなこんなでみんな疲労困憊であったが、試験を受ける権利は手にした。これまでの頑張りを思えば、
そんな我々の楽観を嘲笑うかのように、突如として試験会場が爆発炎上。当然の如く試験用紙は焼失し、補習授業部は試験を受けることすらままならなず、不合格の判定を下された。更には間を置かずして、焼け跡を前に茫然自失といった一同のスマホに届いたナギサからの通達。「第3回特別学力試験の合格点を90点に引き上げる」という横暴極まりないその一文に、チェックメイトだと嗤うナギサの姿を幻視した。
正直に言って、ナギサがここまでやるとは思っていなかった。あれから彼女とは連絡が取れず、ティーパーティーに打診しても取り付く島もない。だが、そんなものは言い訳にすぎない。全ては彼女の狂気のほどを正しく理解しなかった己の責任であり……この苦境を打開するために今できることは、みんなの勉強を手伝うことだけだ。トリニティのテストは決して易しいものではなく――特に勉強を始めたばかりの頃とは違い――たった一週間で俄かに成績を上げられるものではない。それでも、やるしかなかったのだ。
まさしく死に物狂いの、怒涛の日々だったと言えよう。ハナコとセチアという、自分の点数に心配がない教師役が居たのは不幸中の幸いだった。朝から晩までほぼマンツーマンの体制でがむしゃらに勉強し、何度目かの模試の結果に一喜一憂した日々。
血の滲むような努力の末に、全員が合格点に届いたと喜んだ。その翌日には、半数が不合格という結果に涙した。もう無理だと泣くコハルを慰め、寝ずの覚悟を決めたアズサを宥め、錯乱した目でペロロ人形を崇め始めたヒフミを寝かしつけた。ハナコやセチアも気丈に振る舞っているが、隠しきれない疲労が蓄積されていくのが見て取れた。
そんな修羅の如き一週間を過ごし、本番を明日に控えた決戦前夜のこと。
自身の実力への懸念やナギサへの警戒など、様々な不安に苛まれる補習授業部の一同は、碌に寝付けずにいた。全快とは行かずとも、体調を考えれば今は少しでも眠るべき。そんなことは理解しているが、何かしていないと落ち着けない。あと一つでも単語を覚えていれば、あと一つでも問題を解いておけば……そう言って嘆く未来の自分の幻覚を、振り払うことが出来ない。もう
そんな中、最後に入室したアズサの様子は尋常ではなかった。表情の移ろいが控えめな彼女が初めて見せた、苦虫を嚙み潰したかのような苦悩の表情。心配するみんな――セチアだけは何かを察したように嘆息していたが――を制止し、深く瞑目した彼女は……ややあって覚悟を決めたらしい。身体の震えを抑えるように……努めて冷静に、告解を始めた。
「みんな、聞いて。話したいことがある」
「……みんなにずっと、隠してきたことがあった。こんな時に、みんなに負荷をかけるようなこと……本当は言いたくない。でも、ここまで来たら……これ以上はもう、隠しておけないから」
「……ティーパーティーの桐藤ナギサが探している『トリニティの裏切者』は、私だ」
◇
◇
◇
◇
「えっと、つまり……アズサちゃんはアリウス?の出身で、そのアリウスはティーパーティーのお三方を、その……こ、殺してしまいたいほど憎んでいると……?」
「さらに言えば……政治の中心であるティーパーティーを排除することで、トリニティ全体の混乱を狙っているのでしょう。アリウスには、今のトリニティに排斥された過去があると聞きます。いえ、あるいは……その原因となった第一回公会議に見立てて、エデン条約そのものすら破綻させようと……?」
「そ、そんな目的とか、今はどうでもいいでしょ!?本当に今日、ナギサ様が襲撃されるんだったら……ど、どうにかしなきゃ駄目じゃん!!」
アズサの話はこうだ。
自分はアリウス分校の出身であり、ティーパーティーの三首長を全て排除する計画のために、スパイとしてトリニティに潜入していたこと。
最も政治的に御しやすいと判断された
そして、その任務というのが「
……人命を、そして生徒の尊厳を考慮しない悍ましい計画だ。それこそ、アビドスで出会った、“外”から来たと語るあの異形の“大人”のように。あいつはアビドスから
話を戻そう。スパイとして、また暗殺者として、アリウスから派遣されたアズサ。彼女は任務に従いセイアと相対し……その出会いが、全てを変えた。
暗殺者として訪れたアズサを、あろうことか客人として
その後は
そして、明日未明……すなわち今夜中に、アリウスがナギサを襲撃すること。ナギサの意識が最も補習授業部に向くであろう決着前夜。それこそ戒厳令まで敷き、正義実現委員会のほとんどを妨害のために動員している今の状況は、本人の身辺警護が著しく薄い絶好の襲撃タイミングだ。ナギサが欠けてはエデン条約は成らず、広がる戦乱が第二、第三のアリウスを産み出すかもしれない。それだけは何としても阻止しなければならないのだと。
「どんな事情であれ、私がみんなの信頼を裏切ったのは事実だ。私のせいで補習授業部は、こんな危機に陥っている。……恨んでくれていい」
「それを言うなら、ウチのせいでもあるよ?……なんたって、全部
「「「…………」」」
己の首を差し出し、断罪の時を待つ咎人のように目を伏せたアズサ。そんな彼女に寄り添うように立ち、真剣な面持ちでこちらを見据えるセチア。……思えば、セチアが補習授業部を相手にその瞳を晒すのも、その笑みを取り払うのも初めてかもしれない。弱々しく俯くアズサ共々、普段の彼女らを知る者からすれば想像だにしない光景。情報の洪水を必死に咀嚼していたヒフミたちも、これには押し黙ることとなった。
その沈黙を破ったのは……やはりというか、いち早く情報を整理したのであろう彼女だった。
「アズサちゃんも、セチアちゃんも嘘つきで……全てはセイアちゃんの手のひらの上だった――――なんて、言うと思いましたか?」
「……ハナコちゃん?」
「隠し事をされていたことについては……当然、思うところはあります。でもそれは、トリニティの行く末を……ひいては私たち生徒を
「秘密なんて、大なり小なり、誰でも抱えているものなんです。嘘と欺瞞に満ちたこのトリニティにおいては尚更ですが……ともかく、本心を隠すことは必ずしも“悪”ではない。ですが――――」
「……『誰にも本心を晒せないこともまた、寂しいことだ』だっけ」
ぼそりと。ハナコの語りに被さるように響いた、思わず零れたといった調子の言葉。ハナコはそれに目を丸くして、ややあって合点がいったように目を細めた。
「ええ、その通り。貴女のお姉さんの……セイアちゃんの言葉です。誰も本当の自分を見てくれないと嘆く少女に、彼女は言いました。『君が等身大でいられる未来は、無数の分岐の内に確かに存在する』と。『この世界の真実は残酷にして陰鬱だが、運命とは不変に非ず。したがって、可能性の模索を止めるべきではない』とも……どこかで、聞いた言葉ですよね?」
「……たとえ全てが虚しいものだとしても、それが今日最善を尽くさない理由にはならない」
「ふふっ、そうですよね、アズサちゃん。……その言葉に感じるものがあった少女は、取り繕うのを止めてみました。どうせ退学するのだからと、安易に開き直ったとも言いますが……それによって少女を取り巻く環境は、ほんの少しだけ変わったんです」
それが
「私はセチアちゃんのことをお友達だと思っていますが……」という前置きは、自己肯定感の低さの表れか、それとも……。ともあれ「今のトリニティに馴染めない」という些細な、しかし深刻な共通点から寄り添った二人。お互いの心に踏み込むことはせず、ただ同じ木陰で雨宿りを続けるかのような奇妙な関係。それもまた信頼の一つの在り方だと思うが……ああ、そうか。これはハナコなりの罪滅ぼしであり、補習授業部との友情を認めるための儀式なのだ。
「セイアちゃんの筋書きを辿るのであれば、二人とも目立たない方が都合が良い。それなのに補習授業部に、ナギサさんに睨まれる場所に居続けたのは……きっと、補習授業部での時間があまりにも楽しかったから。そうでしょう?」
「……!そっか、私は……」
「……ハナコのそういうところ、好きだけど嫌いだよ」
「ふふっ、知ったような口を聞いてしまいましたが……本当に、楽しかったんです。目標に向かって共に努力を重ねることが、なんてことない日々のふれあいの数々が……かけがえのない思い出になったと、私は思います」
「「ハナコ(ちゃん)……」」
これまでずっと一線を引いてきたハナコの、偽りなき本心の吐露。それこそ、みんなの距離が縮まったあの雨の日の語らいでも見せなかった、彼女の弱い部分。それを打ち明けることが信頼の証左であり、彼女が本当に補習授業部を大切に想っていたのだと伝える手段なのだ。先の反応を鑑みるに、アズサとセチアも同じ気持ちのようだが。
「だからこそ……ここで終わりだなんて、もったいないと思いませんか。ねぇ、先生?」
「“私たちでナギサを守る。そして、試験にも合格する。目指すは文句のつけようがない、欲張りで完璧なハッピーエンドだ。……そして、みんなならきっと出来る。そうでしょ?”」
私はこの一連の物語について、必ずやハッピーエンドを見届けるのだと
「流石は先生ですね♡……はい。今の私たちなら、きっと何でもできちゃいます」
「なんせここには正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます。更には“預言者”の妹に、ちょっとしたマスターキーのような『シャーレ』の先生まで揃っているんですよ?この組み合わせであれば、きっと……トリニティくらい、半日で転覆させられます♡」
「はい!?……というか、私だけ何か違った気がするんですが!?」
「正実の一員とは言っても、私に出来ることなんて治療くらいだけど……アンタ何やらかす気なの……?」
「“ま、マスターキー……”」
いや、まあ……言ってることは間違ってないが、まさかマスターキー呼ばわりされるとは。この肩に背負う法外な権力は、等しく全て生徒のためにあるのだから、好きに使ってくれて構わないのだが……やり過ぎにだけは気を付けてね。ナギサの命を守るのは大前提として、助けに向かったはずの補習授業部が悪者になっては世話がない。……「作戦は任せてください!」と意気込むハナコを見ていると、どうにも一抹の不安が頭を過ってしまう。
「ハナコ?ウチ、ナギサちゃんの方に行きたいんだけど……大丈夫そう?」
「私も、セイアとの約束を果たさないと……だが、戦力が偏ってしまうか」
「いえ、ナギサさんの御身が最優先ですので、一概に戦力過剰と言うこともないでしょう。別動隊の方も先生の指揮があれば、合流まで持ち堪えるくらいは出来るはずです。……それにお二人とも、ナギサさんに言いたいことの一つや二つあるでしょうし……ふふっ、楽しみですねぇ」
「あっ、いけないんだ~。でもでも、
「「ふふふ……」」
「え、こわ……」
本当に大丈夫だよね!?ハナコもセチアも、過去に見たことがないレベルで邪悪な顔なんだけど……。まあ、ナギサに酌量の余地こそあれ、補習授業部が受けた理不尽を思えば、彼女はやり過ぎた。それを思えば文句の一つくらいはあって然るべきだろうが……ただ苦言を呈すにしては不気味過ぎるテンション感だ。大規模な戦闘に身を投げることへの恐れを誤魔化しているのなら分かるが……ただただ、今は不安だ。アズサとセチアの戦闘力も、ハナコの頭脳も信頼しているが……足を掬われないとも限らない。何事もなく終わることを祈ろう。
「さあ、今こそ力を合わせる時です。ヒフミちゃん……“部長”として、ビシッとキメてください!!」
「あ、あわわ……ほ、補習授業部!出撃です!!」
次回はナギサ様です。