トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい   作:ウガツホ村

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感想&誤字報告ありがとうございます。

今回は特殊タグを使った文章の整形が多いので、閲覧設定から「特殊タグを有効」にしている方が読みやすいはずです。
例によって、解釈違いがあれば申し訳ない。


16話:トリニティの裏切者【ナギサ/セチア】

◇◇◇◇

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 広大なトリニティ総合学園の敷地内の一角に、ひっそりと存在する建造物。周囲の景観に溶け込むようにと誂えられたその場所の最奥にて、桐藤ナギサは眠れぬ夜を過ごしていた。

 

 補習授業部へのトドメの一撃となる通達を下したのが先程のこと。いくら先生の助けがあろうとも、たった5人しかいない補習授業部のメンバーでは、戦略兵器と称される剣先ツルギ委員長以下ほぼフルメンバーで固められた正義実現委員会の包囲を突破することは叶わないだろう。そもそも、ティーパーティーの指令下にある正義実現委員会に盾突くことの意味を知らない彼女らではないはずだ。

 

 補習授業部は等しく“詰み”の状況にあり、翌朝の定刻をもって「トリニティの裏切者」を追放できることはもはや疑いようがない……そう、そのはずなのに。

 

 「あの日」からずっと摩耗し続けているナギサの心では、どうにも不穏な空気を拭い切ることができない。自身の持つセーフハウスの中でも極めて秘匿性の高い——それこそ親友たるミカやセイアくらいにしか知らせていない——この屋根裏部屋にあっても、それは変わらなかった。

 

 コンコンと、静まり返った空間に控え目なノックの音が響く。はて、部下たちはすでに配置に着いているはずだし、侍女には別室で待機を言い渡したはずだが。

 

 

「……紅茶でしたらもう結構です」

 

 

 返事はない。この場を任せている訓練された部下たちが、ナギサからの言葉に対して何の反応も返さないのはおかしい。まさか、何かトラブルでも起こったのかと、普段は弾すら込めていないハンドガン(ロイヤルブレンド)に手を伸ばし——

 

 

「……可哀そうに、眠れないのですね」

 

「っ!?」

 

 

 不敵な笑みを浮かべた、内心で最も警戒していた侵入者の接近を許してしまった。

 

 

「まあ、それも仕方のないことでしょうか。頼りの正義実現委員会は、お外で大事な機密文書とやらを守っているんですから……。私たちを警戒するがあまり、肝心の足元はお留守だなんて……聞いていた通り、詰めが甘いですねぇ♡」

 

「う、浦和(うらわ)ハナコさん……!? あなたがどうして、ここに……!?」

 

 

 ……どうしても何も、彼女がここにいる時点で、敵側に諜報力で後れを取っただけだろうに。いや、まさか——ここにいる部下たちにも、裏切者が混じっていた?

 

 

「それはどうやってこの場所に辿り着いたか、という意味ですか?それはもちろん、全て把握しているからですよ。合計87個のセーフハウス、そしてそのローテーションまで……ね?」

 

「変則的な運用もおおよそ把握しています。例えば……今のように心から不安な時は、ここの秘密の屋根裏部屋に隠れるということも♡」

 

「なっ……!」

 

 

 自分が想像以上に追い詰められていたことに衝撃を受ける。彼女が「非常に優れた頭脳を持つ」ことなどはとっくに理解していたつもりだが……まさか、これほどとは。

 

 

「動くな」

 

「……!」

 

 

 後頭部に感じる冷たい異物感。あぁ、貴女もなのですね……白洲(しらす)アズサさん。新しい友達ができたと、ヒフミさんが喜んでいらしたというのに。

 

 ——えぇ、ある意味では()()()()の展開なのですが。もう少し情報が欲しいところですね。

 

 

「ここに詰めていた方々は……どう、なさったのですか?」

 

「あぁ、もちろん。ここまでの間に警備の方々は、全員片付けさせていただきました。頼れる協力者がいるものでして……だからこそ、こうやって堂々と来たわけですが」

 

 

 表に出ている部下たちは全滅。この分では侍女たちも無力化されていると見るべきでしょう。あとは目の前の彼女たちを落として終わるかどうかでしょうか……。

 

 

「白洲アズサさん、浦和ハナコさん……まさか……! 『裏切者』はひとりではなく、ふたり……!?」

 

「……ふふっ、単純な思考回路ですねぇ♡私もアズサちゃんも、ただの駒に過ぎませんよ。指揮官は別にいます」

 

「……っ!それは、誰ですか……!」

 

 

 アズサさんはともかく……ハナコさんが指揮官ではない? いえ、これも私を欺くための虚偽情報でしょうか? 貴女以上に適任な人物など、それこそ先生くらいですが……もしそうなのであれば“詰み”です。よって、そこに思考リソースを割く必要はありません。

 

 そもそも他に協力者がいるのであれば、ハナコさんが単独でこの場所を特定したというのもブラフなのでは? その場合は……ミカさんやセイアさんにも、嫌疑を向けなければなりませんか。

 

 ハナコさんはかつて、セイアさんの懐に潜り込んでいた。あのセイアさんがそう簡単に情報を抜かれるとも思いませんが、彼女の能力は未知数です。それに、セイアさんは次期サンクトゥス首長の座を継がせることすら視野に入れるほど、彼女に入れ込んでいた。……亡き友まで疑うなんて、私も相当に零落れましたね。

 

 ……ああ、そういえば。彼女とは比較にならないほど、セイアさんの寵愛を受ける方がいましたか。非常に残念なことですが、話の筋は通ってしまう。

 

 

「そのお話の前に、ナギサさん……ここまでやる必要は、本当にありましたか? 最初から怪しかった私や、アズサちゃんは仕方ありません。ですが……ヒフミちゃんとコハルちゃん、それにセチアちゃんまで切り捨てるのは……あんまりだと思いませんか?」

 

「……」

 

 

 ここまでする必要があったのか。あくまで和平条約でしかないエデン条約に、無辜の生徒を切り捨ててまで実現する価値があるのか。なるほど、道理ですが……ハナコさん、貴女は随分と平和な世界で生きてきたようですね。「あの日」とは無関係の貴女に……()()()()()()()()()()貴女に、私を推し量ることなど不可能です。

 

 貴女ほどの頭脳と人脈があれば「あの日」の存在自体は容易に知り得たはず。その裏に潜む醜悪な真実にすら、ともすれば辿り着けたことでしょう。あれだけセチアと共にいて……よくもまあ、ここまで無知でいられたものですね。

 

 

「……だんまりですか。ご自覚があるようで何よりですが……それならば尚更、どうして……。特にヒフミちゃんは……ナギサさんと、仲が良かったじゃないですか。それなのに……ヒフミちゃんがどれだけ傷ついてしまうのか、考えなかったのですか?」

 

「……」

 

 

 ヒフミさんがかなりの頻度でブラックマーケットに出入りしているのは、残念ながら事実です。先生やアビドス生徒の手引きがあり、悪徳業者を懲らしめるためという大義名分もあったとはいえ、銀行強盗に加担したという情報も掴んでいます。もとは護衛のために付けていた密偵が、いつの間にか監視役になるとは……ヒフミさんの善性を信じて()()身としては、もちろん非常に残念なことなのですが。ただの噂で済ませることができれば、どれほど良かったことでしょう。

 

 

「セチアちゃんだってそうです。セイアさんのヘイローが破壊されたと聞いて、一番傷ついたのは誰だと思いますか? 実の妹のセチアちゃんに決まっているでしょう」

 

「表面だけ取り繕いながら、次は自分の番かもしれないと怯える日々。もっとも、ナギサさんはその仮面の下を窺うことすらできなかったようですが……」

 

「……」

 

 

 セチアについても同様です。あの子は不自然なくらい「何も掴めない」。セイアさんの予知にも映らず、密偵を以てしても有力な情報を得られない。精々がわざと昼行燈を演じていることくらいですが……あの日を境にした変わりようを知っていれば、何もないと断ずることはとても出来ません。今のあの子に憎悪などという感情があるのかは不明ですが……トリニティとゲヘナ、双方に悪感情を(いだ)かない方が無理な境遇です。

 

 

「……そう、ですね。彼女たちには悪い事をしたかもしれません……」

 

 

 えぇ、本当に。

 

 

「ヒフミさんは大切な友人ですし、セチアさんだって、本当の妹のように思っています」

 

 

 でも、綺麗事だけでは何も守れないと知ったんです。他でもない、あの日に。

 

 

「ですが、後悔はしていません。すべては大義(△△△)のため。確かに彼女たちとの時間だけは、守れればいいと思っていましたが……私は……」

 

 

 もう二度と、あの日のような悲劇を起こさないように。あの子のような目に遭う生徒を見ないで済むように。全てを白日の下に晒し、その罪を裁くのだと。なればこそ、この白服を血で染めて来たのですから。

 

 

「ふふっ♡……ではあらためて私たちの指揮官からナギサさんへ、メッセージをお伝えしますね」

 

 

「「『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』」」

 

「……とのことです♡」
「……とのことですわ!」

 

 

「……っ!? ま、まさか、ということは……!?」

 

 

 脳が理解を拒む。その声は、予想していた。決して、当たってほしくはなかったけれど。その口癖もまた同じこと。でも、どうして? だって、その口調は————

 

 

「あら、タイミングばっちりですね、セチアちゃん♡ そちらは片付きましたか?」

 

「ええ、この建物内にいる人間は全て拘束しておきました。ふたりを背後から狙っていた手練れ共もまとめて、ね?」

 

「「「……!」」」

 

 

 補習授業部が丸ごと裏切り者であったという事実以上に、齎された最悪の知らせに血の気が引く。あのツルギ委員長やミカさんですら見抜けなった、切り札の存在がバレていた!? それに、厄災の狐を捕縛したFOX小隊とまともにやり合える彼女たちが、何の抵抗もできずに無力化されたと……!?

 

 後頭部に添えられた銃口が、途端に死神の鎌に変わったかのように錯覚する。“死”が、明確に迫っている。冗談のように巡る走馬灯に映るあの子と、目の前のセチアが重なる。容姿も声も何もかも違うのに……その表情は、その仕草は……。

 

 

「アズサさんの目を欺くほどの隠形です。相当に自信のある虎の子部隊のようですが、情報を引き出そうとおしゃべりに興じたのが裏目に出ましたね。……まったく、だから()()()()は詰めが甘いと昔から————」

 

「待って! どうして貴女が————あ゛あ゛あ゛!?」

 

 

 絶え間なく響く銃声が、身体を叩く衝撃が、碌に働かない脳を揺さぶる。精一杯の虚勢など疾うに消え失せ、もはや意識を保つ術はない。傾き歪む視界に最後に映ったのは、慈愛の目を向けるセチア(△△△)の顔で——

 

 ああ、待って。それなら私は何のために……。

 

 

「目標、沈黙。これより身柄を確保する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

『ふふ、ふふふ……アハハハハ!!!見ましたこと?お姉さまの、あの素敵な(絶望した)お顔!!! ……ああ、ああ……本当に可愛らしくて、いじらしいんですから』

 

『おーおー、相変わらず趣味の悪いこって。昔っからナギちゃん虐めるの好きだったもんなぁ、お前。根が善良なあの人の妹にしちゃ、とんでもない性悪だと常々思ってたんだよ』

 

『ふふ……あら、布教してきたのは貴女でしてよ。“曇らせ”だの“愉悦部”だのと……ミカ様の妹君にしては随分と捻くれたお方だと、当時は困惑したものです。ですが……んふふ……貴女の出自を知れば、自ずと理解も及ぶというもの。

……ふふっ、失礼。興奮冷めやらぬとは、このことですわね』

 

『お前がハッスルし過ぎて、こっちの愉悦は引っ込んだわ……。で? それにしたって異世界だの転生だのと、バカ正直に受け入れるあたり肝が据わってると思うけどな。冷静に「自分は創作物のキャラクターだったかも」なんて言われて平気なのやべぇよ』

 

『それについては、ゲマトリアのおじ様方が懇意丁寧に教えてくださったからですわ。世界とは無数に分岐する時間軸を持ち、そのいずれかを物語として観測する者がいてもそれ自体は何も不思議ではないのだと。それに、非現実さの度合いで言えば……もっとおかしな方がいることを、身をもって知っていますし』

 

『まぁ、アタシらみんな“神秘”の質としちゃ上澄みだけど……異能っつうほどにイカれてんのはやっぱりアイツだけだよ。なぁ、()()()()()()()の百合園セチアさんよぉ?』

 

 

 えぇ、ここで私に回ってくるの……? というか、姉さんみたく異能持ちなのは認めるけど、私のなんてそんな大層なものじゃないってば。三人分の合わせ技で、これまでどうにかなってきただけじゃん。

 

 それにさ、△△△もやり過ぎ!これ後で謝るの私なんだけど!? 古傷を抉るために消えた身内のエミュするとか、どう言い訳しても最低最悪のカス女にしかならないって。……まあ、それも今更か? ハナコたちにも色々と誤魔化さなきゃいけないし、これ以上異能に頼るのもあんまり良くないし……この道を選んだ以上は、仕方がないことだけどさ。

 

 

『元はと言えば、(わたくし)の呼びかけを狂人の戯言と切り捨てた、いつかのお姉さまが悪いのですが。貴女の中に私を認めてしまえば、それは私の死もまた認めてしまうようなものですから。その心情こそ推し量れど……それでも、存在を否定されたようでムカついたのですわ』

 

『普通に考えれば、アタシらの人格が残ってるなんて考えもしないわな。生き残りが錯乱して、亡き親友のエミュしてるって方がまだ妥当性がある。その辺鋭いミカですら、痛ましそうな顔するだけだったしなぁ……』

 

 

 私はその辺の記憶あんまりないけど、二人の言うことも分かるよ。私自身、まともじゃないって思われてるのは察してるし……。まあいいや、とりあえず「ネタばらし」までは各位バレないように頑張る方向で。……この世の終わりみたいなナギサの顔は確かにそそるモノがあったし、今回のところは不問にしましょう。

 

 

『ええ、感謝いたします。これまで通り、頭脳労働はお任せくださいませ』

 

『アタシも。ヤバい時は代わるから、安心してくれていいぜ』

 

 

 おっけー、頑張ろう。補習授業部編もラストスパートだし、しっかり締めていこうね。

 

 

 

 

 

 はい、それじゃ気を取り直して……ついに第一次「お友達ごっこ」を成し遂げた、百合園セチアだよ。ヒフミには悪いけど、初見だと黒幕にしか見えなかったんだよねぇ……。実際キヴォトスでも随一のアウトローではあるから、割と自業自得な気はする。南無南無。

 

 さて、今はミカとの決戦に備えてアリウスの連中を蹴散らしてるところだけど……何から説明したもんかなぁ。無事に脳破壊されたナギサ様の話からが良いかな?

 

 ティーパーティー三派閥全てに加えて、当時“雷帝”の影響下にあった万魔殿まで関与した「あの日」の事件は、まだ純真だったナギサの心に大きな傷を残した。もちろん彼女はその頃でも、すでに海千山千とは言わずとも、海百山百くらいには政治慣れしていた。しかし同時に理想家と善性の面が強く、利己のために生徒を死亡させるほどの悪意には触れてこなかったのだろう。いや、これに関しては“雷帝”が特異的存在だったと言うべきかな。殺すつもりはなくとも、死んでも仕方がないくらいには思ってそうだ。一方のトリニティのお嬢様方は、精々キズモノにさせるくらいのつもりで事を起こしたに違いない。

 

 そういうわけで「あの日」——正確には私が帰還して、△△△の生存が絶望的になった時かな——を境にナギサは少しずつ変わっていった。毒を以て毒を制する術を学んだとでも言おうか。政治の暗闘に、手心は不要なのだと理解した。対話での相互理解など所詮は綺麗事だと、かつての自分を嘲笑った。上辺だけの言葉に意味はなく、真に信ずる己だけであると、その在り方を定めた。

 

 しかしその身が人間である以上、個人の能力にはどうしようもなく限りがある。前提として、ナギサは努力の人だ。誰かさんのせいで、自身のことを血統しか取り柄のない人間だと認識している彼女。セイアのような異能も、ミカのような武力も持たない。△△△のような要領の良さも、初対面で()()()()()()に打ち解けるコミュ力もない。であればどうするか……文字通り努力して、自分の手足を増やせば良い。

 

 「ロイヤル・ティー」部隊。ティーパーティー所属ではなく、盟友たる聖園ミカや百合園セイアにも秘匿された桐藤ナギサ直属の秘密部隊だ。極めて高い隠密性と戦闘力を活かした諜報活動や護身任務が主な役目であるが……最大の特徴は、あの桐藤ナギサが信頼こそせずとも、強く信用していることであろう。

 

 「ロイヤル・ティー」の構成メンバーは、いずれも狂信者もかくやという具合にナギサに心酔している。それは自派閥の中でも特別に薫陶の厚かった者であったり、慈善事業で絡めとった元弱者であったりするが、もれなく盲目的にナギサを慕うように仕立て上げられた存在だ。絶対に裏切らない駒を欲したナギサが、言葉巧みに自身への忠誠を育んだ産物ともいう。彼女にまつわるネーミングはいずれも紅茶に掛けたものであるが、ロイヤル(Royal)ティー(Tea)ではなくロイヤル・ティー(loyalty)なのだとすれば相当だ。

 

 なんで私がそんなことを知っているのかって? ……そんなの、本人たちから聞き出したに決まってんじゃん。連中は極めて練度の高い隠形を披露するが、それはあくまで「生徒」という枠組みに属する者としてでしかない。ゲマ研仕込みのアレコレを持つ私を欺くことはできない。

 

 見つけてしまえばあとは簡単だ。人気のないところに誘い込んで、上手い事無力化。そんで百合園の名に宿る異能で、夢の世界にご招待ってわけ。“神秘”について大した知識を持たない生徒は、“神秘”を活用した搦め手にすこぶる弱いのだ。多くの生徒がゲマトリアに良いように利用されるのも、実はこの辺が原因だったりしてね。

 

 さて、百合園の姓を冠する者は時たま「夢」に関連する異能を発現するのだが、この身体に宿る異能は姉セイアのソレとはまた異なる。姉さんのが夢を介した時間軸移動という名の「予知夢」であるのに対して、私の場合は夢現(ゆめうつつ)状態を介して「他人の夢に干渉する」力だ。

 

 それだけ聞くと、同じく他人の夢に入り込めるセイアの劣化のように感じるかもしれない。ただこちらは能力の範囲が狭い分、色々と融通が利く。夢に現れて当事者の意識と対話するだけに留まらず、強引に記憶を引き出したり、手間はかかるが夢として見せた偽りの記憶を本物だと誤認させることもできる。

 

 「胡蝶の夢」って説話を知ってるかな? 己を人間だと自認する存在が、自分が蝶の姿になっている夢を見た。人間が蝶になる夢を見たのか、それとも蝶の姿こそが現実で、蝶が人間になる夢を見ているのか……。果たしてどちらが夢で、どちらが現なのだろうかって問答。ちなみにその結論は「そんなのどっちでもいいだろ!考えるだけ無駄なんだからやめときな!!」である。身も蓋もないや。

 

 私がやってることはこれに近くて、夢の世界での出来事を現実のものだと錯覚させている。そんな不合理(インチキ)を相手に、普通の間諜なんて通用するわけがないじゃん。なのに合宿中もポンポン寄越してきやがってさぁ……みんなにバレないように誤魔化すの、大変だったんだから。

 

 ああ、そうだ……○○が現実改変だの何だのと言ってたのは、これを拡大解釈しているからかな。ゲマ研曰く「事象の書き換え」すら可能にするポテンシャルがあるらしいけど、如何せん出力が足りないよね。要は世界を騙すってことでしょ? そんな大それたこと、たかだか尻尾一本の紛い物フォックスには無理ですって。

 

 それにね? 結局のところ、この異能はそんなに便利なシロモノではないんだ。まず私の()()が夢現じゃないと使えないし、使用後の消耗も激しい。()()()()神秘量なんて高が知れてるわけで、事実この身体になるまでは異能だと気付いてなかった。「なんか明晰夢見ることが多いよなぁ」とは思ってたけど、本当にそれだけ。まさか夢の中で好き勝手する力の発露だとはね。

 

 それ以外にも色々と欠点はあるけど、一番深刻な副作用は「夢と現実の区別がつかなくなる」ことだね。「原作」においてセイアにも同様の描写が見られたけど、夢に関する異能には共通なのかな?

 

 ともかく、最近はボーっとすることも増えたし、気を抜くとすぐに眠くなっちゃう。……眠剤(お薬)に頼ってた頃があったなんて嘘みたいだ。まあ眠れるのは良いことだし、私の意識が落ちるだけなら大丈夫だけど……所構わず身体ごと寝ちゃうのは、流石に困るんだよね。

 

 それに、誤魔化しの効く夢側なら良いけど……間違えて現実側でトチろうもんなら、全部台無しになっちゃう。黒おじからもこれ以上は気を付けろって言われてるし、中々思うようにはいかないや。

 

 ……長話してる間に、そろそろ体育館が見えてきちゃった。人手が増えた分「原作」よりは大分間引けたとは思うけど、ぶっちゃけ誤差だよねぇ……。本隊はミカが引き連れてるはずだし、それなりに大変な戦いにはなりそう。テストも受けなきゃだから、全員五体満足で終わる必要もある。

 

 実のところ個々のアリウス兵は敵じゃないし、数が揃っても「先生」バフ込みなら何とか持ち堪えられる程度だと認識している。こっちの勝利条件は、あくまでサクラコ様たちが来るまでの防衛だし。ミカの覚悟がガンギマリだったらちょっと怪しいけど、その時は○○に頼もうか。ゴリラにはゴリラぶつけんのよ!ってね。

 

 でも姉さんの時みたいに「原作」にない伏兵がいるかもしれないし、全くもって油断はできない。これが補習授業部として戦う最後の戦闘になるわけだし、そういう意味でもしっかりしなきゃね。……よっし、頑張るぞー!!!

 

 

 

 




参考までに

百合園セチア 神秘/弾力装甲 “胡蝶の夢”の異能
聖園○○   貫通/軽装備  “??と??”の神秘(対義語)
桐藤△△△  爆発/重装甲  “??と??”の神秘(類義語?)

語り手としてあまり当てにならないオリ主ですが「三人分の合わせ技で何とかなってきた」は事実です。
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