トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい   作:ウガツホ村

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私生活が多少落ち着いたので投稿再開いたしました。

あくまで「妄想を文章化する」のが目的であるという初心を忘れず、のんびり完結を目指していきたいと思います。


17話:補習授業部決戦【先生/ミカ】

◇◇◇◇

 

 

 

「あはっ、随分とお間抜けな顔晒しちゃってさぁ……そんなに意外だったかな?」

 

「私こそが全ての黒幕にして……()()()『トリニティの裏切者』だよ」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 「草木も眠る丑三つ時」なんて言葉がある通り、すっかりと寝静まった夜の学園。平時であれば巡回している正義実現委員会の姿もなく、何時も明かりが消えないことで有名な茶会会館(ティーパーティー本部)すらも沈黙した完全な静の世界。生きとし生けるもの全てが去ったかのような異様な静寂は、突如として響き渡る爆発音にて破られた。

 

 押し寄せるアリウスの大軍と対峙するための決戦の地、体育館にて。アズサたちの陽動の裏で精一杯構築したバリケード。体操マットやら跳び箱やら、果てはバレーボールのポールとネットなんてものまで持ち出した有り合わせ。率直に言ってないよりマシな程度であったソレは、やはりというか無残にも壁ごと吹き飛んだ。

 

 

「ありゃ? ちょっと力加減、間違えちゃったかも……。先遣隊の子たちが苦戦してるって言うからどんなもんかと思えば……こんなショボいバリケードで籠城戦? 白洲アズサだけならともかく、補習授業部揃ってるにしちゃ杜撰な策じゃんね」

 

「……っ!? ……やっぱり、貴女なんですね」

 

「援軍に期待してるなら悪いけど、正義実現委員会は動かないよ。ついさっき私が、改めて待機命令を出しといたから。こういう時、お役所仕事ってのはツラいよね」

 

「“ミカ……?”」

 

 

 煙が晴れると、そこに立っていたのは見覚えのあるピンク色。特徴的なガスマスクで顔を隠した生徒たち——まさに今、我々と相対しているアリウス生の援軍だ——を引き連れ、堂々たる足取りで近付いてくる。

 

 

「あはっ、随分とお間抜けな顔晒しちゃってさぁ……そんなに意外だった? そこにいる浦和ハナコなんかは気が付いててもおかしくないと思ったけど……もしかして先生、あんまり信頼されてないのかな」

 

「“…………”」

 

「まあ、そうだね。今更言うまでもないと思うんだけど、一応教えてあげよっか。私こそが全ての黒幕にして……本当の『トリニティの裏切者』だよ」

 

 

 口元に手を当て、なんてことない日常会話のように、さもそれが当たり前のように朗らかに話すミカ。こちらを睥睨する瞳には嗜虐と憐憫の色が浮かび、差し込む月明りも相まって場違いにも妖艶だなんて思ってしまう。

 

 彼女はひとしきり周囲を見回すと——呆然としているヒフミたちを、苦渋に顔を歪めるハナコたちを、そして二の句を継げない私を見て——悪戯っぽく微笑んだ。ぞろぞろとアリウス生による包囲が形作られていく中、時間稼ぎも兼ねているのだろう、聞き分けの悪い子どもに言い聞かせるような調子で告白(ネタばらし)は続く。

 

 

「うーん、なんか張り合いがないね。もっと『なんで』『どうして』とか、恨み言の類とか、色々と聞かされるかと思ってたんだけど……。まあいいや、先生ってば何事においても“理由”を大事にしてるみたいだから、せっかくだし教えてあげる」

 

「とは言っても、深い理由なんて全然ないんだぁ。ただ純粋に、そう……ゲヘナが憎いからだよ。心の底から、ね。あの日のこと知ってる先生なら、これで十分に伝わるはず。だからまあ——御託はここまでにして、さっさと始めよっか☆」

 

「“……ッ!?みんな、来るよ!!”」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 そこからの戦闘は苛烈を極めた。ミカの登場という最悪のパターンに少なからず動揺はあったものの、それ自体は全く想像していなかったわけではない。事前に組み立てたプランとみんなの奮戦により、どうにか戦線は維持できていた。

 

 元々多勢に無勢を承知で、援軍が来るまで耐えることこそがこちらの勝利条件だった。とはいえ決して願望頼みの作戦ではなく、勝算はあったはずだ。正義実現委員会が動けるならそれで良し。そうでなくとも抵抗できるように、別口の戦力も用意していたのだが……。

 

 

「ふう……。ほんっと、余計なことしかしないよね、浦和ハナコはさぁ。まあ、ホストになったら大聖堂の掃除もしなきゃとは思ってたし? ちょっと予定が早まっただけと思えば、まだ許せなくもないかな」

 

「力及ばず……申し訳、ありません……先、生」

 

 

 最後までミカを抑えていたシスター服の少女、歌住サクラコが倒れる。シワ一つなかった峻厳な装いの修道着は煤にまみれ、焼け焦げた箇所からは痛々しい火傷の痕が覗く。彼女の周りに倒れ伏す生徒たちもまた酷い有様で、先の戦闘の激しさが窺い知れる。

 

 ハナコの伝手で駆け付けたシスターフッドのみんな。

 

 マリーのように穏やかな生徒たちを見ていると忘れそうになるが、シスターフッドが戦う力を持たないというのは大きな誤りだ。サクラコが率いる今代の精鋭部隊はもちろん、一般の構成員もそれなりに戦えるように訓練されている。

 

 聞けばシスターフッドの母体はかつてトリニティの武力組織であったそうで、その流れが一定数汲まれているのだろう。長年にわたり組織としての独立および政治不干渉を貫いてきた実力は伊達ではなく、彼女たちの参戦で戦局は一気にこちらに傾いた……かのように見えた。

 

 事実、我々との戦闘で少なからず疲弊していたアリウス生たちは、数の利が覆されたことで大きく士気を落としたように思える。それでも投降しなかったのは、ひとえにミカを恐れたからか、あるいは彼女たちを操る黒幕の影響か……。いずれにせよ、一度はこちら側が有利であるという空気感になったのは勘違いではなかったはず。

 

 誤算だったのは、ミカへの理解が足りていなかったこと。事前に集めた情報を総合すると、ミカは戦闘力こそ高いが争いそのものは好きではなく、戦う理由をなくせば銃を下ろすと踏んでいた。

 

 直接話した回数は少ないが、その時の感触から察するに、人の話を聞かない子ではないとも思っていた。他人を頼ることが苦手で、一人で突っ走る傾向こそあるものの、その性根は優しい子に違いないのだから。

 

 故にこそ、援軍が到着し己の優位を揺るがしたタイミングで——彼女がこちらの話に耳を傾けざるを得ない状況をもって——誤解を解くなり説得をかけたりする予定だったのだが……。

 

 

『可能か不可能かとか、そんなのどうだっていいんだ。……もう私は、行くところまで行くしかないの』

 

『全然可愛くないし、疲れちゃうし……あんまり見せたくなかったんだけどね』

 

 

 投降を呼びかけたハナコに対し、ミカが零した言葉。

 

 そして明確に、この瞬間から彼女の纏う空気が変わった。「窮鼠猫を噛む」とも「火事場の馬鹿力」とも違う、追い詰められたからパワーアップしたというわけではなく……ただ、純粋にギアを上げた。そんな感覚。

 

 そこから先は蹂躙と呼ぶに相応しい有様だったと言えよう。ただでさえ威力のあった弾丸は一発一発が致命傷になる程に凶悪さを増し、並の生徒では彼女の前に立っていることすら許されない。これにどうにか対応できた精鋭たちもまた、輝きを増した桃色の銀河のようなヘイローが瞬く度に、不可視の力に圧し潰されて膝をついた。半壊したとはいえ屋内にあるというのに、矮小なる地のものを滅ぼさんと、私たち目掛けて天空から隕石が降り注ぐ。そんな光景を幻視するほどには非現実的な光景。数も練度も関係がない、私の指揮でも覆らせない……絶対的にして理不尽な出力の差がそこにはあった。

 

 

「で? 頼みの綱の援軍とやらが為す術もなくやられちゃったわけだけど、まだ諦めてくれないんだ。……補習授業部なんて最初から敵じゃないし、みんなもう満身創痍なわけで。いくら先生でも、“詰み”だってわかってくれると思うんだけどなぁ……セチアちゃんもさ、そう思わない?」

 

「うーん、お生憎様なんだけど……正直、今のミカちゃんに負ける気しないんだよね。ちょっと暴れただけで息が上がっちゃうあたり、大分無理してるのは明らかなわけで」

 

 

 死屍累々な惨状の中、息も絶え絶えな補習授業部を後ろに庇う私のさらに前方に立つ、小さな背中を見上げる。力を解放したミカと唯一まともに張り合えた生徒——百合園セチア。季節外れに厚着な制服は血と煤で汚れ、姉譲りの毛並みも輝きを鈍らせている。だがそれでも、私は彼女の戦意が潰えていないこと(シッテムの箱は“軽傷”を示している)を知っている。戦闘指揮モードのソレが推奨する作戦が、現状で私が取れる唯一の手段だと理解している。故にこそ、私は————

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

『ねぇ、先生。もしもウチら(補習授業部)だけでミカちゃんの相手をすることになったら、ミカちゃんを相手に時間稼ぎしなきゃいけなくなったら……その時は、ウチに任せてくれないかな』

 

 

 決戦に向けた作戦会議が終わり、各々で最後の準備に取り組んでいた時のこと。いち早く装備を整えたセチアが、いつになく改まった様子で私を呼び止めた。

 

 

『こんなことになってるのも元はと言えばウチらのせい(狂言暗殺)なわけで……それに現状、()()()()()()あの子とまともにやり合えるのは多分ウチだけ。出来るだけ派手に暴れて時間は稼ぐから『先生』はみんなの指揮に集中してあげてほしい』

 

 

 内容が内容なだけに、他のメンバーたちには訊かせたくないのだろう。こっそりと耳打ちされたその言葉に瞠目する。私たちの中で最もミカに詳しいであろう彼女がそう言うのであれば、きっとそれが適切なのだろう。だが、そうだとしても……。

 

 

『“私は、誰かの犠牲を前提とした作戦を容認したくはない。それに、今回のことは誰のせいでもない。強いて言えばみんなのせいであって、セチアが責任を感じることじゃないよ”』

 

『んーん、違うの。……それに、「最悪の場合は」ってだけだから。もしも本当にミカちゃんが敵側にいて、正義実現委員会が助けに来られなくって、ハナコの伏せ札も打ち破られて……。いよいよ首が回んなくなった時だけで良いからさ、ね?』

 

『その時は、信じて送り出してほしいな』

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「“どうか、気を付けて”」

 

「ふふ、大丈夫だって。ウチの頑丈さは『先生』もよく知ってるでしょ? ……んじゃ、行ってくる!」

 

 

 

 

 

 

「セチアちゃん、さぁ……いつの間に、こんなに、強く、なったの!?」

 

「ミカちゃんが、ウチのこと、見ないようにぃ、してただけでしょ!」

 

 

 激しい戦闘痕の刻まれた体育館の中央にて、桃色と金色が激突する。

 

 目の前であの子のもの(愛銃)によく似たショットガンを振り回す、金色の毛並みの少女。()()()()()盟友と瓜二つな顔つきに、心が挫けそうになる。見据える不揃いの薄黄と橙の瞳が、私の古傷を抉って離さない。本人だってそうあれと望んだわけではないし、結局は私が全部悪いのに……存在するだけで私の罪の尽くを突き付ける彼女を、直視することが出来ない。

 

 ああ、そうだ。彼女の言う通り、私は辛いことから目を逸らしていただけ。あの日に嫌と言うほど現実を教え込まれたはずなのに、目を瞑って甘い理想に浸っていたかったんだ。……こんなことになってしまったのも、今更そのツケを払わされているだけに過ぎない。

 

 孤独な復讐者となったナギちゃんに、心から寄り添ってあげられなかった。

 

 より良い「未来」とやらに執着して、現在(いま)を見なくなったセイアちゃんを引き戻してあげられなかった。

 

 そして何より、()()()()()()()()セチアちゃんに向き合うことが出来なかった。

 

 あの日、遊園地に行くのを勧めたのは……他ならぬ私だったから。どの面下げて会えばいいというのかと……声を掛けようとする度に足は竦み、喉は強張り……いつしか、関わるのをやめてしまった。

 

 

「何で、そんなに、捨て身で……!」

 

「だって、今更こんなの別に痛くないし? これ以上、失うものだってないもん」

 

「……っ!!」

 

 

 青白い輝きを放つ弾丸が肩に直撃する。ダメージ自体はそれほどでもないが、何か大事なものをごっそり抜かれたような感覚。一瞬の虚脱感にたたらを踏めば、下手人は既に次の動作に移っている。……随分と、戦い慣れているようだ。

 

 私の知るセチアちゃんは、あの子たちの中で最も貧弱だったはず。セイアちゃんに似て身体が弱く、戦闘はからっきし。ナギちゃんと同じで、愛銃のハンドガンも弾すら込めない儀礼用の飾りに過ぎなかった。それこそ、私と○○ちゃんの姉妹喧嘩を見て顔を引き攣らせるくらいには、暴力慣れしていなかったのに。……それくらい、感情表現が分かりやすい子だったのに。

 

 目の前の彼女はどうだ?口調だけ無駄に軽々しく、されど表情筋の一つすら動かさない。その辺の生徒なら雑に銃弾をばら撒くだけで簡単に吹き飛ばせる私を相手にして——先程シスターフッドの連中を圧倒してやった姿を見ていないはずがないのに——怯みもせず向かってくる。盾も持たず、それ故に相当数の被弾があっても顔を顰めることすらしない。流石に全くのノーダメージだとは思わないが、本当に痛覚すら失ってしまったのかもしれないと思うほどには痛々しい。

 

 アリウスによる袋叩きも、現状では有効打足り得ていない。というか、私の()()()攻撃以外は避ける素振りすら見せない。アリウスの奴らの練度や連携は見事なものだが、それはあくまで常識的な相手を想定したもの。私や今のセチアちゃんのような相手には通用しないのだろう。

 

 ……この分だと、この後に待っている“お掃除”でも苦労しそうだ。必ず相対することになる剣先ツルギもまた、数の暴力で轢き潰せる相手ではないのだから。

 

 

「はあ、はぁ……今度こそっ!これで……!」

 

「はい、残念。……今のは危なかったね。盾拾っといて良かったぁ」

 

「……っ!?また!?」

 

 

 震える手を抑え、勝負を決めるべく一際力を込めた一撃。しかしそれは標的を捉えず、あろうことか味方(アリウス)を派手に吹き飛ばした。もう何度目かになる、自分の強みを最大限に活かした小賢しい立ち回り。小柄な体躯は乱戦下で的を絞らせないことに適しているし……それに何より、私がセイアちゃんと同じ顔を撃てないことを察している。照準がブレることに気付いている。己の姉の幻影が、私を苛んでいることを分かっている。ただ捨て身(死にたがり)なだけなら、ここまで苦戦することはなかったのに……本当に厄介な。

 

 混戦の最中にあって同士討ちはやむを得ないが、上手くアリウスを壁にされている状況に歯嚙みする。利用し利用される関係である故の、相互の連携の不備を上手く突かれている形だ。流石に向こうも防戦一方ではあるようだが、その中でも的確に私を牽制しつつ、隙あらば喉元に噛み付いてやろうという気迫を感じる。今はまだこちらに分があるが、全くもって油断はできない。

 

 どこにそんな力が残っていたというのか、奥の方で先生たちを相手にしている部隊も攻めあぐねている様子。大勢は変わらないとはいえ、こちらの戦力は着々と削られている事実に焦りが募る。ただでさえシスターフッドの乱入というイレギュラーがあったのだ。これ以上こんなところで足止めされているようなヒマはないのだが……先んじて確保されたナギちゃんのこともある。ここで彼女らを無視しては進めない。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 互いに弾を撃ち切ったことで生じた小休符。既にアリウスはセチアちゃんを倒すことを諦め、遠巻きに包囲網を維持するに留まっている。倒れた同胞を、幾度となく盾のように使われたのが効いたらしい。人間を辞めて兵士(人殺し)になる教育を受けているはずの彼女たちの方が、今のセチアちゃんよりかよっぽど人間らしいなんて。

 

 とはいえ実質的なタイマンの構図になったことで、奇しくもこちらが有利になったとは思う。互いに近距離での撃ち合いが得意だが、こちらの方が長射程で弾数も多い。とにかく目一杯の力を込めて弾をばら撒けばいいSMGはこういう時に便利だし、大雑把な私に合っている。それこそ、相手の顔を見たくない今みたいな時は、狙いを付けずとも攻撃として成立してくれるのがありがたい。

 

 ヘイローの消えたアリウス(さっき拾った“盾”とやら)をこちらに蹴り飛ばし、頬の血を拭うセチアちゃん。相変わらず痛がる素振りは見せないが、それでも生傷は増え、ダメージが蓄積しているのは分かる。対して私自身に大した外傷はなく——全身を巡る不可視の力が目減りしていることにさえ目を瞑れば——余力があるのは私の方。このまま続ければ押し込めることは間違いないのだが……。

 

 

「ねえ、いい加減どいてくれない? さっきも言ったけど、もう援軍なんてこないんだからさぁ」

 

「それならさぁ、ちんたら遊んでないで本気出せばいいだけでしょ? こんなことまでしといて、全然覚悟決まってないんだから……何人殺しても“人殺し”なのは変わんないのにね

 

「ち、ちが……私は!」

 

 

 吐き捨てるように告げられる、私の罪。 

 

 セチアちゃんを直視できずに視線を落とせば、足元に転がる虚ろな顔が私を捉える。私が誤射したアリウスの生徒。もちろん、死んではいない。ただ気絶しているだけなのだが……それが、()()()()()()()セイアちゃんの死に際に重なる。

 

 セイアちゃんが死んだと聞かされたあの日から、ずっと……銃を構える度に、視界にあの金色が写り込む度に……肩口でナニカが囁くのだ——「()()殺すのか?」と。

 

 

「ちがう、ちがうのっ! 私は、殺すつもりなんてなかった!!」

 

「ふーん、殺人犯の定番の言い訳だね。どうせならウチも……ああいや、()のことも殺してくれたらよかったのに」

 

「やめて! ちがうの……私、そんなつもりじゃ」

 

「『君はその肩に乗る重みの意味をよく考えるべきだ』とか言われてなかったっけ。下々の者が勝手にやりました~ってのが罷り通っても、その責任まで踏み倒せるわけじゃないんだよ」

 

「ああああああああ!」

 

 

 降り注ぐ言葉の槍を消し去るように、ただひたすらに弾幕を張る。目一杯の力を込めた祈り(悲鳴)が天に届き、敵を黙らせる力の奔流となって降り注ぐ。

 

 これ以上、彼女の言葉を聞いてはならない。たとえ全てが事実だったとしても——図星であるが故に耳にこびりついて離れないからこそ——今すぐ、あの口を塞がねばならない。

 

 すでに犠牲が出てしまった時点で、どう足掻いても私は前に進むしかないのだ。友の死を無駄にしないために、これ以上喪わないために。……そんな風に言い繕ってどうにかひねり出したちっぽけな決意の灯に、冷や水を掛けられ続けるのは致命的だ。

 

 

「はは、やっと本気出したね。……え、ヤバくないコレ。これ以上煽って大丈夫そ? ……えぇ、うそ、マジかぁ。んん゛っ……あ~あ、私にもそんな力があれば、こんなことにならなかったのかなぁ?」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

 身体が熱い。頭が割れる様に痛い。もう、まともには何も考えられない。セチアちゃんがそんなこと言うはずがないだとか、“人殺し”の私にはその言葉を拒む資格がないだとか……。いろんな思考が浮かんだ端から、身体の内側で荒れ狂う(神秘)に飲み込まれて消えてゆく。

 

 頭上にあるはずの(鏡でしか見たことがない)蛍光灯みたいなヘイローが、内側から破裂せんばかりに瞬いているのを感じる。その暴力的な力に身を任せれば、熱を帯びた愛銃が火を噴き、流星群が地を均し、眼前の全てが爆炎に包まれた。

 

 いかに頑丈なキヴォトス人と言えど、きっとただでは済まないと確信させる光景。たった一人に向けるには過剰すぎた暴威は、私の罪(人殺し)を象徴するに相応しいもの。……この分だとアリウスどもはもちろん、その辺に転がっていたシスターフッドなんかも巻き添えになったことだろうが……何の感慨も湧かないや。いずれにせよ、立ち上る土煙が晴れる頃には、全てが終わっているはずだ。

 

 そうだ、何を悩んでいたんだろう。そもそも“百合園セチア”はあの日に死んでいるのだから、さっきまで目の前で囀っていたのは彼女を騙る不届き者でしかない。だってセチアちゃんはこんなに強くなかったし、あんな風に酷い顔もしないし、他人を嘲るようなことはなかった。そもそも目の色だって綺麗なピンク色だったし、オッドアイでもないのはもちろん、翼なんて生えているわけないんだから。

 

 ……よしんば本物であったとしても、ここで死ねたならきっと本望なのだから。希死念慮を募らせる彼女に“生”を強いたセイアちゃん亡き今、彼女をこの世に縛るものは何もない。セイアちゃんは怪しいけど……○○ちゃんや△△△ちゃんとは、天国とやらできっと再会できるはず。私たちはこんなにドロドロした……どうしようもない世界の住人なのだから、いい加減にせめて生き地獄からは解放してあげるべきで———

 

 半ば更地と化した戦場に吹く風が、視界を晴らしてゆく。舞台の再開を告げるように引いていく灰色の幕の先、悠然と佇む人影に溜息が漏れる。果たしてそれは当てが外れた失望か、安堵か。

 

 月明かりに照らされたその姿は、まさに満身創痍と呼ぶに相応しい。無事なところなど一片もなく、なぜ立っていられるのかが不思議なほど。それなのに……何がおかしいのか口元は歓喜に歪み、その橙の()()は爛々と輝いている。

 

 さっきまでの無表情は何だったのかと言いたくなるほどに、いっそ不気味なほどに劇的な変貌。それにしても……毛先に混じる桃色にしたって、左右不揃いの()()にしたって……お色直しにしては、随分と悪趣味ではないか。

 

 沸々と湧き上がる怒りに呼応するかのように、再びヘイローが暴れ出すのが分かる。鈍い痛みや疲労感なんかは激情で全て塗りつぶして、とっくに限界だった身体に火をくべる。

 

 どの面だとか、“人殺し”だとか……そんなことはもはや些事に過ぎない。あの子たちを冒涜する存在を、これ以上許してはおけない。熱に浮かされた脳内で描いた都合の良い言い訳とは違う、確固たる意志の元に愛銃を構えて(殺意を向けて)—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、久しぶりだな……ミカ姉」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 




フィールド探索で初めてまともにセイアのSDモーションを見ました。
やたらとあざとい走り方も印象に残りましたが、一番のお気に入りはハチドリも真っ青のホバリング見せるシマエナガでしたね。
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