トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい 作:ウガツホ村
戦闘シーン上手く書けるようになりたいものです。
◇◇◇◇
「その顔で、○○ちゃんを騙るな……! これ以上、セチアちゃんを穢すな……!!」
「おーおー、効果覿面なこって。でも残念だぜ……たった数年で、アタシのこと忘れちゃうなんてな。可愛い可愛い妹が、地獄の底から会いに来てやったってのによぉ!」
「ああああああああ!!」
あのバカ、天丼しやがった……。この期に及んで
……○○のやつ、さては最初からこうするって決めてたな? 自慢の姉は「先生」であっても止められないという信頼か、あるいはナギサの件で愉悦の心を抑えられなくなったか。まったく……「先生」や「原作」に結構拘りがあるくせして、ほんっと柔軟なんだから。
あ、どうも。想定以上にパワーアップしたミカにわからせられて、泣き寝入りすることになった百合園セチアだよ。尤も、今の私は百合園セチアといういち人格に過ぎない幽霊みたいな状態だけどね。今リモコンを握ってるのは○○だ。
いや、ね? この身体のスペックは無茶苦茶に高いんだけど、私自身は魔改造されるまで碌に銃を握ったこともないクソザコちゃんだったわけで……。実力と経験が伴っていないというか、何というか。言うなれば最新ハードに型落ちのCPUを積んでるようなもんだからさ、こういう超次元バトルみたいな対面になっちゃうともうお手上げ。口では散々煽ってたけど、顔が引き攣らないようにするだけで精一杯だったんだから。
『完全にテンション振り切れてますわね、あの子。久々の姉妹喧嘩という意味でも、強者との闘争という意味でも、滾るものがあるのでしょうが……正直、こうなることは分かりきっていたのでは?』
易々と身体の主導権渡した私が悪いってか。いやでも、サクラコ様たちでどうにかならなかったならアタシが出るってずっと言ってたし……ゴリラにはゴリラぶつけるのが正解っていうか……。
それよか、神秘抑制弾撃ち込んだのにまだ戦えてるのヤバいでしょ。あれ姉さんに使ったのとはわけが違う、対最強格を想定した特注品なんだけどなぁ……。ゴルおじも傑作って太鼓判押してたし、私らで実験した時も結構ダルかったのにね。やっぱりパチモンじゃない本物の最強生徒は違うってことかな。
△△△も大概やってることズルいからね。ゲームなら同じ状態異常とかデバフは初回しか効かないタイプの敵キャラでしょ? その癖デバフが治るのも早いとか、率直に言ってクソボスだよ。
だからこそ、こんな大それたこと考え付いたんだし。エデン条約を巡って起こることが「先生」が主役の物語のその一部分だとして、それでも私らってステージボスくらいの立ち位置にはなるわけじゃん? それなら、みんなの記憶に焼き付くくらいの活躍はしたいよね。その方が私らにとっても都合が良いしさ。
……っとと、話が逸れちゃったね。
神秘抑制弾は文字通り、撃ち込んだ対象の神秘出力を著しく抑える効果を持つ特殊な銃弾だ。基本的には戦闘面のほぼ全てを“神秘”という不思議パワーに依存している生徒という存在に対する特効武器だと言えよう。
具体的には、神秘の源たるヘイローに作用してシンプルに出力を抑える。機械に例えるなら、急に電圧が下げられたような状態かな。そしてもう一つ、神秘が身体を巡るのを阻害する。これが「身体中を掻き回される」感覚の正体で、こっちは電気抵抗が大きくなったような状態だと認識している。ちょっと違うかもだけど、銀行口座が凍結された上で物価も爆上がりしてるようなイメージ?
ともかく、意識的・無意識を問わず扱える神秘の量が絞られた上で、さらに扱うのが難しくなるってこと。当然、生徒が当たり前に完備する防性神秘の鎧だって崩れちゃう。神秘に指向性を持たせるのもキツくなるから、攻撃に神秘が込めにくくなる。そうなればただの銃弾だから、キヴォトス在住の連中には豆鉄砲にしかならない。等しく、勝負にならないってわけ。
じゃあミカはなぜ未だにドンパチ出来てるのか。これは単純なことで、元々の神秘の出力が高すぎるってだけ。貴女はペナルティとして「1の力を出すために100の神秘が必要になりました」「扱える神秘量が100分の1に制限されました」って通達されたとして「だから何? 普通に100の神秘を供給すれば問題ないよね☆」を素で通してるバケモノなんだな、これが。
ほら、全財産が1000円しかないやつにとっての100円は死ぬほど痛いけど、億万長者にとっては1万円だろうが10万円だろうが端金でしかないでしょ? そんな感じで、スペックの暴力でゴリ押ししてるの。ではその財源は何かと言えば……“激情”と答えるのが適切だろうか。
○○もだけど、聖園ミカという生徒は「感情が昂る程に神秘出力が上がる」という性質を持つ。他で言うと正実のツルギとかC&Cの美甘ネルとか……最強格ばっかじゃないか。ともかく、そういう生徒は別に珍しくないんだけど、その中でもミカは強化率が異常だ。
その理由はミカの性格にあると私たちは踏んでいる。聖園ミカという人物の本質は「良い子」あるいは「優しい子」であり、その尋常ならざる“暴”の力に反して争いを好まない。彼女にとってバトルは楽しむものではなく、どうしても目的を達成したいときの最終手段だ。
ついでに他者を傷付けることに抵抗があるから、怒りや嘆きといった一般に“激情”と形容される類の感情を外に放出することも苦手。身も蓋もない言い方をすると、
そういうわけで、色々と内側に抱え込むからこそ、噴火した時の火力は他とは比にならないのだと推理している。普段怒らない人がマジギレした時の怖さったら、ね? 実際、比較的近い立場にいた私ですら、激おこミカを見たのはたったの二回ぽっち。中等部に上がってすぐの姉妹喧嘩の時と、今回の件だけだ。
正面切った武力では絶対に敵わない。政治力という面でも、あの年で既に姉さんたちは突出していた。何よりこの血統主義が深く根を張った
それはまぁ、大人連中の見通しが甘かったってことでしょ。実妹だろうが義妹だろうが家族として大事にされてたわけで、それが突然理不尽に奪われたとして……。だって当時の姉さんたち中学生だよ? お気に入りのオモチャを取り上げられたとか、可愛がってたペットが死んだとか、その程度で割り切れるほど人間やめてなかっただけ。たとえそれが為政者として正しい在り方でなかったとしても。
世界の修正力って可能性もあるよね。私らが存在する時点で
————そう、
ストーリーの結末はきっと変わらないが、その過程には改変の余地がある。補習授業部というメインキャスト集団に、異物である私が紛れ込むことができた。本来アズサの工作の余波で昏倒するはずの姉さんは、ゲマトリア謹製の神秘抑制装置が原因で眠りについた。あの場で私が受けたヘイロー破壊爆弾なんてものは、本来もっと先で使われるはずだった。他にも細かい相違点を数えれば枚挙に暇がない。
では定まっている結末、あるいはこの物語における必須要素とやらをどう解釈するか。ひとまず調印式関係——エデン条約編3章とやら——に絞って考える。
まず調印式が襲撃されることは確定事項だろう。他の要件を満たすために、あの戦場は必須なのだから。ミサイルによる首脳陣ほぼ全滅という結果は覆せるかもしれないが——事態が混迷を極めるためには——あるいは「先生」がより活躍するためには、生徒たちの拠り所は他に存在しない方が都合が良いだろう。ナギサには是非裏切りの瞬間を見せたいものだが、指揮系統壊滅という結果を得るための犠牲として病院送りになっているかもしれない。
続いてユスティナ聖徒会のミメシスが顕現する。エデン条約機構を巡る攻防は、この物語における見どころの1つだろう。姉さんの諦念を打ち破るきっかけでもあるし、続く4章への布石でもある。それに、メタ的なことを言っちゃうと、そもそもユスティナが参戦しないと天秤が傾かない。
そして「先生」が撃たれ、夢で姉さんと邂逅した後に蘇る。「先生」が“聖人”にして“救世主”であることを証明する、あるいはその資格を得る一大イベントだ。ぶっちゃけここに関しては「先生」が死の淵に立った上で復活すれば、他はどういう経緯でも大丈夫だと思っている。……だから、私が「先生」を襲撃する。裏切者COの場として都合が良いし。
このキャスト変更による影響だが……「先生」を撃ったか否かに関わらず、アリウススクワッドは逃亡生活を余儀なくされるだろう。そもそもサオリは本当に殺す気で撃っていて、ヒナの暴れがあったからこそ「先生」は一命を取り留めるのだ。サオリの見せ場を奪ってしまうのは申し訳ないが、万が一があっては困るし、ここは確実にやる。
あとは先生が陣営を立て直し、ヒフミがブルアカ宣言して、エデン条約機構の上書きが行われる。そんでマエストロがヒエロニムスを降臨させて、これを撃破して状況終了とかそんな感じだ。ここまであーだこーだ言ってきたが、この辺は臨機応変に対応していく所存だ。
うるさいやい! 今のところまだ許容範囲内だから良いの! ここを乗り越えたら本番まで難所はないはずだから、よく考えたら
……さて、長々と話してきたけど、いい加減に目を逸らしていた惨状と向き合おうか。
今の私はちょっとした俯瞰視点で世界を認識しているのだが、その視界に映るのは特大のクレーターと瓦礫の山。その中心に座すのは桃色の髪を携えた二人の人物。まあ、はい……我らがお姫様こと聖園ミカと
ヘイローが消灯したミカを両の黒翼で優しく抱き留める私の身体。隕石と雷が絶えず降り注ぐ天変地異の如き戦場。そこで見せた狂気的な笑みは鳴りを潜め、ただただ慈愛に満ちた表情が覗く。……私って、あんな優しい顔できるんだ。
う~ん、邪魔するのが躊躇われるくらい良い雰囲気だな。媒体が私だということに目を瞑れば、宗教画のワンシーンみたいですっごく綺麗だし。……でも、いつまでも自分を見てるのもこっ恥ずかしいな。瓦礫の陰から「先生」が顔出してるのも見えたし、姉妹の感動の再会はお開きにさせてもらうか……。おーい○○、準備オッケー?
はいは~い、後のことは任せたよ。前の時から逆算すると、流石に夏休みまでには戻って来られると思うけど……もし帰って来なかったら、その時はよろしくね。
ふふっ、そうだね。うん……安心したら、眠くなって、きちゃっ……た。それ、じゃ……おやすみ、な……さ……
◇
◆
◇
◆
「カチッ」と、電気ケトルの
補習授業部のみんなと共に、アリウスによる襲撃に立ち向かったあの夜のことを思い返す。結果だけ見れば——戦場となった体育館が
主犯とされている「トリニティの裏切者」聖園ミカは激闘の末に投降し、地下牢獄に幽閉された。補習授業部の嫌疑は晴れ、その上で全員が試験にも合格するという最上の結果を得た。「ヘイローを破壊された」はずの百合園セイアは生きており、失踪している救護騎士団長の蒼森ミネと共にあることが、トリニティ上層部には伝えられた。これを以て、トリニティのみならずキヴォトス全土で揺るがしたティーパーティーの内紛は、表向き終結したと見做されている。
あの日、アリウス側の旗頭として現れたミカ。彼女は武力を以てトリニティの政権を奪取し、アリウスを
計画を遂行する上で、先にセイアを排除するという判断は正しい。当時のトリニティのトップであり、聡明かつ政治力にも優れると評判だった。この点はナギサもほぼ同等ではあるが、ミカほど近しい存在であれば未来予知のことも聞き及んでいるはず。ナギサとは幼馴染でありより関係が深いことなどを考慮しても、より大きな不確定要素となるのはセイアの方だろう。
だからと言って、悍ましい策謀により自分と親友の“妹”を奪われたミカが、その忘れ形見とも言うべきセチアを更に追い詰めるような真似をするだろうか。親友を喪い己だけが生き残った少女から、その姉まで奪うような残酷なことをしでかすものだろうか。
ミカとて理解していたはずだ。アリウス側にセイアの襲撃を任せてしまえば、セイアがどうなってしまうのかぐらい。“死”が禁忌とされるキヴォトスにおいて、殺害という最悪の結果まで予測できたかは定かでないが、手酷く扱われる可能性の方が高いだろう。事実、未だ潜伏を続けるミネからの便りでは、セイアの意識は戻っていないという。
ミカは善性で他人を疑うことを嫌うお人好しだが、決して考えが足りないわけではない。ナギサ曰く感情の機微にも聡いため、彼女相手に隠し事をするのは骨が折れるらしい。それに、ミカ本人も獄中で語ったことだが……アリウスとは最初から互いに利用するだけの関係で、戦力としては計算すれど、決して信頼はしないと割り切っていたみたいだし。
さらに言えば、セイアの無力化に際して彼女がアリウスを頼る必要がない。政治的なしがらみは別として、ミカの培った“親友”という立場であれば、密かにセイアと会うことはそれほど難しくない。そこで自らの手で確実に処遇を決めてやれば良い。色々と勘繰られはするだろうが、セイアの命と自分の立場を天秤に掛ければ、ミカは必ず前者を優先するという確信がある。
ここまでは、ナギサやハナコたちも思い至っていた点だ。彼女らもまた、この騒動が完全に終結したわけではないと考えている。ミカが口を噤んでいるのか、はたまた私たちの知覚が及ばない真の黒幕などというものが存在するのか……。今回のアリウスの生徒たちを半ば捨て駒のように扱う手口には覚えがあるし、万が一ゲマトリアが関与しているのであれば……。私はきっと、それを許すことはないだろう。
……さて、実はもう一つだけ特大の懸念点がある。とはいっても、これは虫の知らせのようなもので、現状ではただの予感に過ぎない。私しかこの違和感に気付いておらず、生徒たちに知らせる手段もない。それでも間違いなく……これは良くない変化なのだと、そう思えて仕方がない。
———百合園セチアのヘイローに異常が生じている
初めて会った時から気掛かりではあった彼女のヘイローの様相。かつて「歪なコラージュのよう」だと称したソレは、その姿をより不気味に変貌させている。
姉とよく似た光の十字架は黒ずみ、罅割れ……その輝きを減らした。随所に配われていた
ある意味で、以前よりも格段に一体感を増したはずのセチアのヘイロー。それを認識できるのが現状では私だけであるという事実。そして何より……そんな変貌など微塵も感じさせない、恐ろしく
……ヘイローの形状が変わるなんて事例は、アロナの力を以てしても見つけることが叶わなかった。感情の昂りなどで輝きが増したり輪郭がブレたりする事例こそあれ、その変化が定着することはないのだという。
セチアに直接問い質すのは得策ではないだろう。そもそも彼女自身が把握できていない事実を突き付けたとて、せっかく築いた信頼を損なう結果になる気がしてならない。決戦前のカミングアウトで仲が深まったとはいえ、依然として彼女は謎の多い生徒なのだ。功を焦っては、それこそ碌な目に遭わないことは想像に難くない。
「“全部、私の思い過ごしだったらいいんだけどなぁ……”」
来たるエデン条約調印式までは、もうあまり時間がない。
これで補習授業部編は終わりです。
いくつか閑話を挟みつつ、各話の文章整形などをする予定です。
その後、本編ことエデン3章に入りたいと思います。