トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい 作:ウガツホ村
良い機会なので、脳内で妄想していた怪文書を出力することにしました。
誰かの暇つぶしになれば幸いです。
1話:補習授業部結成【先生/セチア】
◆◆◆◆
夢を見ていた。
「先生」と呼ばれるその人物がそう断ずることができたのは、彼あるいは彼女の置かれた状況が、あまりにも現実味を感じさせないものだからだ。
いつものように徹夜上等の激務をどうにか捌いたものの、シャーレ執務室の窓から覗くのはとうに白んだ空。せめて仮眠でも取ろうかと、半ばベッド代わりにしているソファに横になったところまでは記憶にあるのだが……。ところがどっこい、目を開けてみれば、そこはいつか見たお茶会の場《ティーパーティーテラス》。白を基調とした洒落たテーブルを囲み、見知らぬ生徒とお茶会をしている。
いや「見知らぬ」とは言ったが、データベース上では既知ではある。自身の持つ
向かいの席に座る、大きなキツネ耳が特徴的な少女に視線を向ける。遁世的で退廃的な空気を纏う彼女は、こちらを一瞥するとすぐに目を伏せ、ややあって小さく口を開いた。どうにもこの身体には操作権がないようで、垂れ流される話にただ曖昧に頷くか、目の前の紅茶を口に含むことしかできない。
こちらから尋ねたいことはたくさんあるし、仮にも「先生」を名乗る者として生徒との会話には極力応じたい。しかし、今の私にはそれを成す術はないらしい。茶器の
『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することができるのか』
『存在しない者の真実を証明することができるのか?』
『……先生』
『もしかしたらこれから始まる話は、君のような者には適さない、似つかわしくない話かもしれない』
『悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような……それでいて、ただただ後味だけが苦い……そんな話だ』
『しかし同時に、紛れもない真実の話でもある』
『どうか背を向けず、目を背けず……最後のその時まで、しっかり見ていてほしい』
『それが、先生……「この先」を選んだ、君の義務だ』
『そしてどうか……どうか、破滅へと突き進むあの子たちを救ってくれたまえ』
◆◆◆◆
トリニティ総合学園からの依頼で顧問を受け持つことになった「補習授業部」の顔合わせ。アビドスでの一件で面識がある
人見知りで少しおませさんな
善良で純真そうだが、どうにも言動が周囲とズレている
なんというか、清楚で優等生な見た目からは想像できないほど奔放で、どこか闇深い気配を滲ませる
そして先程ハナコとコントのようなやり取りを繰り広げ、ようやっと眠りから覚めたもう一人。体型も服装も全く違えど、どこか夢で見た少女の面影を宿す彼女は、特徴的な糸目を更に細めてこちらを見つめる。
「やっとお会いできましたねぇ『先生』?ウチは
「それよりも……アビドス、ミレニアムで名を馳せ、ついにはあのナギサちゃんが頼ったという“大人”の力……ぜひウチらにも見せてくださいな?」
◇◇◇◇
皆さんは「曇らせ」というジャンルをご存じだろうか。
主に創作物――特に二次創作において――登場人物が傷つき苦しむことで見せる曇り顔を楽しむという、言うなれば歪んだ愛情の発露である罪深いジャンルだ。少し異なるが“他人の不幸は蜜の味”がキャッチコピーの「愉悦部」もこの仲間に入るだろう。
これだけ聞くと我々「曇らせ隊」は、ただただ人間の屑のように思われるかもしれない。だが待ってほしい。「曇らせ」を好む人間は、基本的には被害者たるキャラクターのことが嫌いではないのだ。むしろ好きだと言ってもいい。キュートアグレッションだの、
“可哀そうは可愛い”という言葉もある通り、古来より人間は「曇らせ」を愛してきたと言えるだろう。「監督には人の心がない」などと言われながらも「だがそれがいい」と言わんばかりに大ヒットした作品が多くあるのが良い証拠だ。
さて、これまでの語りでお察しかもしれないが、私も「曇らせ」の魅力に取りつかれたいちオタクであった。ネット上で「曇らせ」小説を読み漁り、
――
ぱっと見はよくあるちょっとエッチなソシャゲ――事実、プレイヤーの化身たる「先生」の変態性がインターネットでよく取り沙汰される――なのだが、二次創作からでも伝わって来る原作の魅力に大いに惹かれた。
曇らせの宝庫で一歩間違えば即BADENND行きのキヴォトスという地雷原を、「先生」と生徒たちがより良い未来を目指し駆け抜けていくメインストーリー。「透き通った世界観」とは何だったのかと言いたくなるほど捻れに捻れた愛憎劇は、多くの登場キャラクターたちを魅力的に描いていた。
生憎、公式がプレイヤーの分身と位置付ける「先生」に感情移入することは終ぞ叶わなかったが、物語の外側から見ている分には非常に面白いものだったと言えよう。数多の二次オリ主たちが「先生」への根拠なき信頼を抱いてきたのもよくわかる。
そんなブルアカくんだが、一説によると、物語の舞台となるキヴォトスは
つまり、仮に原作メインストーリーを
私は今「セクシーセイアですまない」でお馴染みの、あの百合園セイアの妹ととして与太キヴォトスの地を踏みしめてしまっている。異物混入で剪定事象行き確定じゃないですかやだー。
なーんて、いやマジで、これどうしよっかなぁ……。
◇◇◇◇
補習授業部の皆が青春しているのを薄目で眺めながら、そんな風に葛藤していたこともあったなと思い出す。こうして私が補習授業部の一員となっている時点で「原作」改変以外の何物でもないのだが……実のところ、とっくの昔に「どうせ剪定事象だから」と開き直っている。完成された作品に素人が手を加える時点で、そんなモノはどうあがいても劣化になってしまうのだから仕方ない。
さっさと死ぬなり失踪するなりしてフェードアウトしてしまうことも考えたが、そんなことをしても百合園セイアに妹がいたという事実は消えないし、私風情の力では完全に消すこともできない。それならば極力「原作」に近い未来を描けるよう、能動的に動いた方がマシだ。
では、この与太エデン条約編において私が何をしたいのかというと――もちろん「曇らせ」である。
とはいっても、
だからここでいう「曇らせ」とは、ちょっと“お灸を据える”程度の軽い曇らせのこと。“可哀そうは可愛い”とは言うものの、度が過ぎると可哀そうが勝ってしまい、
でも、実際にオリキャラとして「原作」“キャラ”たちと関わった身としては、彼女らがそこまで過酷な目に遭う姿は見たくない。所詮は異物で死に損ないな私と違って、未来ある少女たちの在り方を歪めたくはない。そういうわけで、今の私としては無糖カフェオレくらいの飲みやすさが丁度いいし、多分胃腸にもいい。
とはいえエデン条約編は、特に苦みが強い4章があるからこそ、各キャラクターの魅力がより引き立つという意見もあるだろう。それには大いに賛同する。ミカが憎悪を乗り越えてサオリを許すシーンや、サオリが見せる“家族”に対する想いが描かれてこそ、ただの
ところが、これが現実になると話は変わってくる。結局のところ彼女らは悪い大人に騙されていただけで、舞台装置としてその在り方を歪められたにすぎない。「原作」では、プレイヤー目線のヘイトの多くは諸悪の根源たる
しかし、実際にこの与太キヴォトスで「原作」通りの展開になれば、多くの苦難が彼女らに降りかかることは想像に難くない。観測者の目線を持たない現地民にとって、クーデターを起こしてトリニティを混乱させたのはミカだし、先生を襲撃したのはサオリだ。まだ見ぬサオリは一旦置いておくとしても、姉のような存在であるミカちゃんがそうなってしまうのは心情的にキツイものがある。
故にこそ、各々が精々“痛い目を見た”程度の、まだ取り返しがつく類の失敗で止まれるように立ち回るつもりだ。一流の悲劇よりも三流のハッピーエンドに、ってね。
その前提を基に考えるわけだが、実際のところエデン条約編での共闘がなければ、トリニティとゲヘナの溝は埋まらないだろう。ティーパーティー三人組のすれ違いが無ければ、彼女たちがより強固な絆で結ばれることもなかっただろうし、補習授業部が設立されなければヒフアズやハナコハの友情も育まれない。アリウスについても、黒幕気取りの癖に妙なところで小物であるベアトリーチェ――レスバで負けたことで激情して腹いせに不完全なまま儀式を敢行し、そのせいで「先生」に敗北する――は変に刺激したくない。
したがって、「原作」を参考に事を起こしつつ、最終的な決着は
まとめると結局、
そうすればスムーズに退場して、ただの観客に戻れるのだから。
「セチアちゃん、起きてください♡」
「こんなところで寝ていたら、わる~い大人に襲われちゃいますよ。ねぇ、先生♡」
「“えぇ……。そんなことしないよ、ハナコ”」
「“でもそうだね。ヒフミも困ってるし、そろそろ起こした方がいいかな”」
穏やかな
「ちょっと、全然起きないんだけどコイツ!なんかニヤニヤしてるし……え、エッチな夢でも見てるんじゃないの!」
「あ、あはは……困りましたね。ヘイローも消えてますし、熟睡しちゃってますよ」
「ふむ。それなら一発撃ってみてもいいか?私の経験上、大体の場合はこれで起きるんだが」
「アズサちゃん!?じ、冗談ですよね……?」
「……?(無言で首を傾げる)」
騒がしさが増してきた。何か大勢に囲まれてる感じがする。誰かさんに
「私に任せてください。先程の応用で……えいっ♡」
「もがっ」
「ちょっ、あんた何してんの!?え、ええ、エッチなのは駄目!禁止!死刑!」
「“(訳知り顔で頷く)”」
机に伏せていた顔が持ち上げられ、正面からデカくて柔らかいナニカを強く押し付けられる。地味に後頭部までガッチリと手を回されているせいで振りほどけない。というか、目も鼻も口も全部塞がれていて呼吸も何もできない。アカン死ぬ!ぐぇー!
「ゲホッ、ゴホ……ねぇハナコ、この起こし方やめてって前も言ったよね?」
「おはようございます、セチアちゃん♡」
「なるほど、胸に
「いや、アレ見てその感想はおかしくない!?」
「あはは……。せ、先生ぇ……」
「“……うん、私も頑張るね”」
「よ、よろしくお願いします……」
◇◇◇◇
さて、改めて自己紹介をしておこう。私はトリニティ総合学園二年生「百合園セチア」と名乗っている。立場としては、ミュートネタやシマエナガで有名なセクシーフォックスこと百合園セイアの妹に当たる人物になる。もちろん「原作」には存在しないオリキャラというやつだ。「原作」キャラを塗り潰してしまう「憑依」でなかったことには感謝だね。いや、罪深さでは私も似たようなものかな……。
容姿だが、基本的にはふくよかなセイアだと考えてもらえれば良い。一卵性の双子でもないくせに姉妹と言うだけで顔のパーツはほとんど同じだし、髪色やキツネ耳、果ては水着グラが出るまで正体不明だったキツネ尻尾なんかもお揃いだ。病弱なセイアとは違って色々と発育が良いので、身長こそ近しいが全体的なのボリュームは比べ物にならないけどね。まぁ、ナニとは言わないし、良くも悪くもなんだけど……。狐のくせに狸みたいだってよく揶揄われると言えば伝わるでしょう。
それ以外だと、例えば服装は大きく異なる。私はティーパーティー所属ではないので、いつもは一般トリニティ生の制服を着ている。諸事情でタイツだのカーディガンだので厚着しているが、制服そのものはほとんど改造していない。露出が少ないという意味ではヒフミと似た格好かもね。それでもセクシーセイアの妹なのかって?彼女の趣味を否定するわけじゃないけど、あれはさすがに……。私がやると、
他に特徴的なのは限界まで細めたこの糸目だろうか。これまた諸事情で悪いのだけれど、中等部の頃の
自己紹介はこんなものにしておいて、現状を説明しようか。今はちょうど、第1次補習授業部模試を受けているところだ。補習授業部編で受ける最初の試験にして、ヒフミ以外の全員が不合格を叩き出すアレである。
今更だが「そもそも補習授業部とは何か?」という疑問にお答えしておこう。端的に言えば補習授業部とは、トリニティの現
表向きには、補習授業部のメンバーは成績や素行の不良を理由に集められたことになっている。補習と言うだけあり、対象者は集中的に勉強できる機会を与えられる。その中で、合計3回ある試験で合格点を取ることで普段通りの学校生活に復帰、できなければ退学を迫られる。由緒あるトリニティに相応しくないと判断されるわけだ。
しかし実際には、私たち補習授業部メンバーの退学は、首謀者ナギサにとっては決定事項。当然、真っ当なお勉強生活は送らせてもらえない。あの手この手で妨害してくる彼女の策謀を躱しつつ、真犯人を探すのが「原作」における補習授業部の役割だ。
さて、ここでどう立ち回るのかは、数多のエデン条約編オリ主にとって悩みどころだろう。とっとと合格してヒフミや「先生」とともにサポートに回るのか、「退学がかかってるなんて知りませんでした」とでも言うようにおバカな生徒を演じるのか。私はヒフミと同じでテストを
……とはいえ、実は補習授業部編におけるテスト回りのスタンスはもう決めてあるんだよね。
「“終了!はい、みんなペンを置いてね”」
「“これを送信して……すぐに採点結果が届くと思うから、少し待っておいてくれるかな”」
先生の合図で、教室の空気が一気に弛緩する。いや、約1名は緊張したまんまだな。可愛いね、コハル♡。想像の何倍かは知らないけど、思ってたよりだいぶ難しかったんでしょ。エ駄死の時の猫みたいな目になってる。そしてそんな隙を晒したら……ああほら、ハナコにダル絡みされちゃった。
ほら、戻ってきた「先生」の顔を見てごらんよ。私には
「“それじゃ、さっきのテストの返却をするね”」
第1次補習授業部模試、結果――
ハナコ――4点(不合格)
アズサ――33点(不合格)
コハル――15点(不合格)
ヒフミ――68点(合格)
セチア――90点(合格)
補習授業部の合宿が決定した!
語彙力や文章力については目を瞑ってます。
読みにくい部分があればご指摘いただけると幸いです。
追記
不要なルビを取り除きました。
文章の整形をしました。