トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい   作:ウガツホ村

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基本的にこの小説は、オリ主と他のキャラ(「先生」が多くなる予定)との間で視点変更を繰り返す形で進みます。

ネット小説はルビを振る方が良いと耳にしたのでちょいちょいルビ振りしています。私自身はルビが多すぎると読みにくいと感じる派閥ですが、物は試しで。

―追記―
読み直してウザかったので読み仮名のルビは概ね消しました。
生徒の苗字と複数読み出来る漢字、その他微妙なやつだけ残しています。



2話:合宿開始【ナギサ/セチア/先生】

◇◇◇◇

 

 

 

「こうして先生をご招待したのは、少々お願いしたいことがありまして」

 

「……補習授業部の、顧問になっていただけませんか?」

 

「トリニティにおける『愛が必要な生徒たち』に、手を差し伸べていただきたいのです」

 

 

 白を基調とした建造物が立ち並ぶトリニティ総合学園。どこか歴史を感じさせる荘厳な街並みは、先日訪れたミレニアムサイエンススクールとはまた違った迫力がある。広大な敷地内を案内されること幾何(いくばく)か、(ようや)く辿り着いた先で待っていた人物の目を見た「先生」は、此度の依頼も一筋縄ではいかないことを確信した。

 

 陽光が柔らかく差し込むテラスにて対峙した、白翼を携えた2人の生徒。人好きする笑みを浮かべながらも、その瞳の奥にはこちらを見透かさんとする意志を宿した亜麻色(あまいろ)の髪の生徒――桐藤(きりふじ)ナギサ。溢れる好奇心を全面に押し出し、天真爛漫にニコニコとこちらを見つめる桃色の髪の生徒――聖園(みその)ミカ。

 

 当代の生徒会長“たち”と名乗る彼女らは、幾何かのアイスブレイク――トリニティ総合学園の成り立ちを語ったり、仲良く(じゃ)れ合ったり(より正しく言うならば、ナギサの緊張を(ほぐ)そうとダル絡みをしたミカに対し、予想外にナギサがヒートアップしてしまったという感じだろうか)した――の後、そう切り出した。

 

 先程までのやり取りを見ていれば、これがただの補習授業の監督ではないことはわかる。ミカがつい“厄介者”だと言いかけたことや、ナギサが言葉を濁した「エデン条約」なるものの存在、入院中であるというもう1人の生徒会長。さらに「先生」たる自分を頼る、すなわちシャーレ*1の持つ超法規的な権限を当てにしている可能性が高い時点できな臭い。

 

 だがそれでも、私の出す答えは決まっている。助けを求める生徒がいるのならば、全力で力になるのが“大人”たる「先生」の責任だ。

 

 

「“私にできることであれば、喜んで”」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 どうも、トリニティキツネモドキことオリキャラの百合園セチアだよ。先のテストで残念ながら全員合格を勝ち取れなかった我々補習授業部は、ティーパーティーからの指令で、缶詰での勉強合宿をすることに決まった。

 

 そう、前回言い忘れたことだけど、補習授業部って連帯責任の一蓮托生なんだよね。全員が合格するまで卒業は認められない。この時点で少し不自然なのだけれど、「トリニティの生徒としてふさわしい協調性や相互扶助の精神を育む」なんて文言に、みんなひとまず納得することにした様子。まあここでゴネて何かが変わるわけでもないし、唯一裏事情を知るヒフミすらも真っ当に合格すればOKだと思っているのだから仕方ない。

 

 さて、この補習授業部編の合宿パートについて「原作」の流れをおさらいしておこう。我々はこれから2週間ほど共同生活を送ることになるわけだが、この合宿パートは前半戦と後半戦に分けることができる。合宿が決定した補習授業部は、1週間後の第2次特別学力試験に向けて更なる勉強に励む。これが前半戦に当たり、基本的には補習授業部のみんなが互いに絆を育む様子が描かれる。一方の後半戦では、遊びは終わりだとでも言わんばかりに一気に血生臭くなる。迫りくる「退学」という理不尽や、否応なしに巻き込まれる陰謀。それらにこれまでに培った絆パワーで抗うという、実にブルアカらしい話が展開される。

 

 前半戦における私的な注目イベントは3つ。「先生とミカの密談」「深夜の密会」「夜の散策」である。なんかコハルが好きそうな字面ばっかりだなぁ。もちろん、「大掃除」や「水着パーティー」も青春イベントとしてとても美しいのだが、私が立ち回りを考える上で重要になるのはこの3つだろう。

 

 まずは先生とミカの密談について。早朝に単身呼び出された「先生」は合宿棟に付随するプールにて、現ティーパーティーの片翼である聖園ミカと非公式な会談に臨む。ミカの名言「わーお」が飛び出す彼女の見せ場の1つでもあるのだが、ここで重要なのはミカが「トリニティの裏切者」の正体やアリウス分校――現トリニティ総合学園結成時に歴史の闇に葬られた学校――の存在を仄めかすこと。すなわちプレイヤーたる「先生」に対する情報開示のコーナーであり、同時に疑心暗鬼のタネを蒔くシーンでもある。

 

 「原作」においてミカは「ナギサの言う裏切者は白洲(しらす)アズサ」「視点を変えれば誰もが裏切者になり得る」「ナギサこそが裏切者なのでは?」といった誘導を行う。この与太キヴォトスにおいて、私の存在によってここがどう変わるのかは、今後のためにぜひ確かめておきたい。「曇らせ」のために暗躍する上で情報アドバンテージは肝要だ。

 

 次に深夜の密会について。ある日の夜更けにヒフミと「先生」が密会し、裏切者探しについて話し合う。それに鉢合わせたハナコが、ヒフミや「先生」の漏らした情報を繋ぎ合わせ、なんとナギサの陰謀の概要を掴んでしまう。そして「退学」がかかった非常時にもかかわらず、実力を偽って遊んでいたことを謝罪するという流れ。補習授業部のブレーンたるハナコが参戦するだけでなく、彼女が心を開くカギとなるイベントである。ここに立ち会うか否かで、事情を「知る側」「知らない側」のどちらとして振る舞うかが決まる。

 

 最後に夜の散策。ハナコの提案で合宿棟を抜け出し、夜の街に繰り出す補習授業部。そこで治安維持組織「正義実現委員会」の副委員長である羽川(はねかわ)ハスミと出会い、どういうわけか隣学区から出張してきたテロリスト集団「美食研究会」と戦闘になる。後のゲヘナ突入イベントのフラグとなる重要なイベントであり、補習授業部の戦力をプレイヤーにお披露目する初機会だ。

 

 ブルアカ世界において、戦闘シーンは「曇らせ」の絶好の機会だ。隔絶した戦力差を見せて味方に無力感を与えても良し、逆に無能を演じて足を引っ張る――この場合は味方の安全マージンは十分に取る必要があるが――のも良し。共闘したという事実は絆を深めることにも役立つし、どのようなルートを取るにしても、ここでの戦闘は必須だろう。一つ不安があるとすれば「先生」の指揮、というか「シッテムの箱」(チートアイテム)*2だが……まぁ、そこで化けの皮が剥がれるならそれまでか。

 

 そんな話をしている内に、気付けば宿泊棟に到着だ。「原作」での描写で立派なことはわかっていたけど、内装も設備もちょっとしたホテルくらいには充実している。こんな建物が活用されずに放置されている辺り、やっぱりトリニティは金満家なのだと実感する。

 

 

「……というわけで改めて、この別棟で合宿することになりました。私たちは2次試験までの1週間、ここに滞在することになります」

 

「私たちがここにいる間、先生もずっと一緒にいてくれる予定ですので、何かあっても大丈夫だと思います」

 

「“うん、任せて”」

 

 

 大体「原作」通りやり取りをスルーし、これから泊まるお部屋を物色する。うわ、埃こそ被っているものの、お部屋もすごく豪華だ。特にベッドの質が良い。う~ん、さっさとお掃除して、早くお昼寝したい。

 

 

「あら、“ずっと”ですか……それっ「ダメっ、絶対ダメ!死刑!」……まだ何も言っていないのですが。コハルちゃんは厳しいですねぇ」

 

「私は先生が一緒でも構わないけど?無駄に分散するよりも、一ヵ所にまとまっている方が色々と対処しやすい」

 

「アズサちゃん!?だからなんでそんなに物騒なんですか!?」

 

「ウチはアズサの言うことも(もっと)もだと思うよ。安全な場所じゃないとゆっくりお昼寝できないからね」

 

「セチアちゃんまで!?……いや、いつもは外のベンチとかでも寝てるじゃないですか!」

 

「ふふっ、これで3票目ですね♡いかがですか、先生?」

 

「“あはは……何かあれば呼んでくれればいいから”」

 

 

 女が三人揃えば(かしま)しいとは言うが、頼れる“大人”である「先生」も流石にタジタジになってる。相変わらず私には「先生」の顔がわからないし、なんなら性別も不明だけど……これだけ美少女揃いの空間にいるのに、全然欲情してる感じはしない。「先生」自身は別に同室でも平気だけど、私たちのことを思って一歩引いたって雰囲気。この感じなら、実はノンケの女先生――ゲイの男先生という可能性もある――なのか?それとも、高校生のガキンチョは守備範囲外だから?いやまさか、ゲマトリア*3と同じ「観測者」だから、この世界の人物にその手の感情を(いだ)かないのか……?

 

 何にせよ、お友達のハナコが楽しそうで私は嬉しい。常識人で初心(うぶ)寄りのヒフミに無知シチュのアズサ、打てば響くコハル。かつての自分(優等生)を知らない面々と戯れるのは、それはそれは楽しいだろう。柄になく舞い上がっているのが見て取れる。だからこそ、私の隣でわなわな震える、小さな黒装束ちゃんの姿が見えていないご様子。

 

 

「まあまあ、そう言わずに……ヒフミちゃんだって、実は憧れがあったりするんじゃないですか?素敵な大人の人と一夜を……なんて」

 

「……エ」

 

「だ、ダメです!確かに先生はすごく頼りになりますけど……そ、そういうのは」

 

「……エ」

 

「そういうの、とは何だ?別に拠点を共にするだけだろう?」

 

「……エッ」

 

「ふふ、それはですね――」

 

「エッチなのは駄目!ダメったらダメ!!全員死刑!!!」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 宿泊部屋での一件の後、ハナコの提案で合宿所の大掃除に取り掛かった補習授業部一同。ハナコが「汚れても良い服」として水着を着て来るというハプニングがあったものの、根が真面目である彼女らはテキパキと掃除を進め、残すところは広大なプールのみとなった。

 

 プールサイドに腰掛けた先生は、ようやっと一息つく。眼下には、疲れなどまるでないようにはしゃぐ、水着姿の少女たち。各々が頭に(いだ)く個性的な天輪(ヘイロー)が、初夏の陽射しにきらめいている。

 

 まだまだ衰えるには早いと思っていたが、寄る年波には敵わないと自嘲する。もちろん、キヴォトスの外から来た“大人”である自分と、「銃で撃たれても痛いで済む」身体を持つ生徒たちでは、素の肉体スペックに雲泥の差があるのは承知している。それでも、目の前で輝く“青春”の一幕を見ていると、少しだけ羨ましくも思うのだ。

 

 

「お疲れ様です、『先生』。ただのお水ですけど、いかがですか?」

 

「“おつかれ、セチア。そうだね、ありがたく頂戴するよ”」

 

「おや、良かったです。お断りされても押し付けるつもりでしたけど、受け取っていただける方が嬉しいですし」

 

「アビドス砂漠で遭難したり、ミレニアムの禁域に突入したりと、ウチが耳にする『先生』の情報は、どうも危なっかしいものばかりなもので……。銃弾一発で死に瀕する人の振る舞いとしては不安が募るんですよ。ですので、ナギサちゃんからも格別気を配るように言いつけられてますよ」

 

「“あはは、返す言葉もないよ。でも、私は生徒の力になりたいから……そのために多少の無茶をするくらいは見逃してほしいな”」

 

 

 突然のボディーブローに内心呻き声を上げる。意味ありげな笑みを浮かべてこちらに水筒を差し出す下手人は、補習授業部で唯一の獣人系生徒――百合園セチア。他の補習授業部の面々は水着姿――約一名、本当に水着かどうか判別できない生徒もいるが――なのに対し、彼女はいつも通りの厚着姿だ。もう汗の滲む季節だというのに未だに冬服で、その上からさらに学校指定らしきカーディガンを羽織っている。とんでもない露出度の生徒がゴロゴロいるここキヴォトスにおいては珍しい、完全防備仕様だ。無論、プールサイドには似合わない。

 

 

「“それより、セチアはみんなと遊ばなくていいの?”」

 

「そうですねぇ……『先生』はご存じないかもしれませんが、獣人系(耳付き)天使系(羽根付き)の生徒には水が嫌いな子が割といるんですよ。ウチもその一人ってことです」

 

「サボり魔なウチにしては日中頑張ったんで、今日のところは許してもらいましょ。それに、こうして『先生』とお話するのも、補習授業部のメンバーとして大事なことですしね」

 

「ねぇ『先生』……何かウチに聞きたいことがあるんじゃないですか?」

 

「“……”」

 

 

 さりげなく隣に腰掛けたキツネ耳の少女を見やる。いつもは眠たそうに閉じられている両目はやや開かれ、こちらを挑発するかのように怪しく輝いている。左右で色の異なる瞳が、じっくりとこちらを見据える。ホシノやシロコのようなそれではない、かくあれかしと決められたようには感じられない歪な目。目線を上げれば、どこか調和の取れていない、ちぐはぐな印象を与えるヘイロー。夢で出会ったキツネ耳の少女と、茶会の席で出会った2人の白翼の少女たち。その三者の特徴を併せ持つソレは、一目見た時から気掛かりではあった。

 

 先日――補習授業部の合宿が決まった日の夜――にナギサと話した内容を反芻する。

 

 永きに渡り争いの絶えないトリニティとゲヘナ。

 

 その負の歴史に終止符を打つ不可侵条約「エデン条約」と橋渡しとなる治安維持組織「エデン条約機構(ETO)」。

 

 それにより得られるであろう仮初の平和すら破壊しようとする「トリニティの裏切者」。

 

 今この場にいる補習授業部の生徒たちはナギサの集めた容疑者であり、彼女らを排除するために超法規組織であるシャーレを利用したこと。

 

 そして最後に、明らかに失言であろう、ナギサがふとに口にした「あの日」について。裏切者への対応を巡った問答の末、袂を分かつことが決まった両者。その際に、本当に無意識にこぼしたであろう、彼女の核心に迫るピース。

 

 

『どうかこの結末が……できるだけ、苦痛を伴わないものであることを願うだけです』

 

『私たちはもう二度と、あの日を繰り返してはならないのですから』

 

『そうでしょう……セチアさん』

 

 

 その言葉には、深い深い後悔と、それを凌駕する強い強い覚悟が滲んでいた。故にこそ私は訊き返せず、「何かあったこと」「百合園セチアが関係していること」しかわからなかったのだが……。

 

 ナギサの声色を鑑みるに、ナギサにとってセチアは大切な人物であるように思える。それでいて、ナギサは補習授業部ごとセチアを切り捨てるつもりでいる。この矛盾を解き明かせば、問題解決に一歩近づけるかもしれない。

 

 

「“セチアは、ナギサとはどういう関係なの?”」

 

「そうですねぇ……一番近い表現をするなら『姉の友達』でしょうか。ご存じの通り、私の姉はティーパーティーの元ホスト、百合園セイアです。ナギサちゃんとミカちゃんは幼馴染なんですが、中等部生徒会で姉がそこに加わって以降、それなりに仲良くしている感じですね」

 

「まぁ、その縁で程々に可愛がってもらっていたというくらいですよ。ミカちゃんもそうですが、第二第三の姉みたいなものです」

 

「“なるほど、だからナギサも気にかけていたんだね”」

 

「そうですねぇ、なんたって“補習”なんてお節介をしてくれるわけですから」

 

「“あはは……”」

 

 

 セチアのヘイローは珍しい形をしている。百合園セイアと推定される、夢で出会った語り部の少女。基本の構造である光の十字架は、彼女のものに酷似している。しかしセチアの場合、随所にナギサの冠にある茨のような意匠や、ミカの銀河に漂う星によく似た装飾が、無秩序に散りばめられている。平面図形を無理矢理組み合わせて作った立体とでも言うべき歪な形状。姉妹でそっくりなヘイロー(モモイとミドリ)は見たことがあるし、立体的なヘイロー(ミカやヒナ)も存在する。ただ、明らかに系統が違うデザインが混在する、嫌な言い方をすれば雑なコラージュのようなヘイローは、彼女以外では見たことはない。

 

 通常、生徒はヘイローを認識できない。より正確に言えば、「ヘイローによる個人識別」ができない。自分や他人のヘイローが点灯しているか否かの判別こそできるものの、これほどまでにバラエティに富んだ個性的な形状の数々を認識できない。だからこそ、顔を隠しただけの覆面水着団(アビドス対策委員会)ファウスト(阿慈谷ヒフミ)が、強盗犯として特定されることはなかった。

 

 深みに嵌りそうな思考を一旦()め、先程の水で喉を潤す。ヘイローは生徒の生い立ちを反映する重要な要素ではあるが、本人たちが認識できない以上、生徒との会話中に持ち出すものでもない。今はとにかく得られる情報を持ち帰ることに意識を割くべきだ。

 

 セチアもまた守るべき生徒だというのに、私は何をこんなに警戒してしまっているのか。彼女のヘイローに言い知れぬ違和感を感じたことも、直感的にその感覚を大切にしようと思ったのも事実だ。全くもって言葉では説明できないが、放っておくと碌でもないことになってしまう予感がした。

 

 だが、それはそれ。私たちはまだ出会ったばかりで、これからお互いを知ることで見えて来るものもあるだろう。何より、生徒との会話中に自分の思考を優先するなんて「先生」にあるまじき行為だ。ちょっと反省しないとね。セチアのヘイローついても、今は「気に掛けておくこと」止まりで大丈夫だろう。

 

 

「“セイアの調子はどう?入院してるって聞いて、少し心配だったんだ”」

 

「あ~、ナギサちゃんからは『心配ない』と聞かされてますね。姉は病弱ではありますけど、そう簡単にくたばるタマじゃないんで。いつも通りの体調不良でしょう」

 

「“聞かされてるって……自分で会いに行ったわけじゃないの?”」

 

「実の家族なのに……ですか?まぁ、色々あるんですよ。これも信頼の形だと思っていただければ」

 

「“それは……いや、そういうものなんだね”」

 

「ふふっ、賢明です。これ以上は、まだ信頼関係(絆ランク)が足りてませんから」

 

「“そっか、もっと頼ってもらえるように頑張るね”」

 

「えぇ、ぜひそうしてくださいな。『先生』の助けを待っている人は、存外大勢いらっしゃいますから」

 

 

 目を細め、柔らかく微笑むセチア。最初に感じた不気味さや違和感は、その顔を前にすっかり霧散してしまった。

 

 思えば、彼女の笑顔を見るのは初めてかもしれない。ヒフミやコハルは感情表現が豊かだし、アズサも“氷の魔女”などと言われる割には結構わかりやすい。一方で、ハナコとセチアは何というか……本心から笑っている気がしない、と言うべきか。二人ともニコニコあるいはニヤニヤしていることこそ多いものの、どこか壁を作っているように感じていた。フレンドリーなように見えて、それを()呑みにして踏み込むと痛い目を見るような、そういうタイプだと認識している。

 

 強いて言えば、ハナコからセチアに対しては一定の親しみが感じられる。セチアと絡む際に見られるハナコのやや幼い振る舞いは、その良い例だろう。ハナコとセチアは補習授業部招集以前から交友関係があったようだし、二人だけに通じる何かがあるのかもしれない。

 

 少し話し込みすぎただろうか。そう思い、プールの方に目を向けて――バシャリ

 

 前髪から垂れる雫が、自分の身に何が起こったのかを雄弁に物語っている。隣を見れば、ずぶ濡れのキツネ耳をペタリと倒したそれはそれはイイ笑顔(アルカイックスマイル)の少女がいる。

 

 

「奇襲成功。これより制圧の準備に取り掛かる」

 

「夏の香りが漂う、二人きりのプールサイド……教師と生徒という、禁断の関係……ふふっ、ロマンスとして定番のシチュエーションですね♡」

 

「とぉっても素敵なのですが……蚊帳の外にされると寂しいです。私たちも混ぜてくださいな♡」

 

「ちなみに私たちの指揮官はヒフミだᓀ‸ᓂ」

 

「……上等!キツネだって意外と泳げるってとこ、存分に見せたげる!!!」

 

「えぇっ、セチアちゃん!?水の入ってないプールに飛び込みは危ないですよ……って、ち、違います!私じゃな「天誅!!!」ごぼぼ……助けてペロロ様~

 

「ちょっ、アンタも制服着たまんまなの!?ハナコは一応、水着も着てる……ってか、だ、ダメ!その恰好で来られると……」

 

「濡れた衣服がぴっちりとまとわりついて……水着よりもず~と扇情――」

 

「うわー!はっきり言うな!せ、先生もいるのに……エッチ!死刑!死刑!!

 

 

 水飛沫(しぶき)の舞う旧校舎のプールに、少女たちの賑やかな声が木霊する。このシーンだけ切り取れば、泳ぐための水こそ入っていないものの、かつての活気を取り戻したように見えるかもしれない。まごうことない青春の一ページだ。

 

 さて、いい加減に現実を見ようか。部屋に置いてきた上着こそ無事だが、ほとんど一張羅である連邦生徒会の白服(シャーレの制服)はぐしょ濡れだ。陽射しを存分に浴びたプールサイドから伝わる熱が、身体にまとわりつく衣服の不快感を増している。

 

 う~ん、まいった。プール掃除は監督だけだと思って、着替えを持ち込んでいないんだけど……こうなったらいっそ、後先考えず楽しんだ方が良いだろうか。

 

 

「“お~い!私も混ぜてほしいな!”」

 

 

 

 

 

 

 水遊びは補習授業部のみんなが動けなくなるまで続き、当初の目的通りにプールが水で満たされたのは、とうに日が沈んだ頃であった。

 

 なお、ちょっとした戦場と化したプールで最後まで立っていたのは――歴戦の兵士のような動きで次々にみんなを討ち取ったアズサであった。

 

 

 

*1
「先生」の活動拠点であり、正式名称は「連邦捜査部S.C.H.A.L.E」という。超法規的な権力を有するため、これをもって「先生」は様々な学園に介入できる。

*2
「先生」の持つタブレット端末に酷似した謎のオーパーツ。とにかく超高性能で大体なんでもできる。これがあるから肉体スペックがクソ雑魚の「先生」が指揮官として戦線に立てると覚えておけば良い。

*3
キヴォトスの外からやって来た悪い“大人”の集団。「崇高を観測する」という目的を掲げ、各々の知的好奇心を満たすために暗躍している。同じく外から来た“大人”である「先生」に興味津々。




次回はハナコ視点になる予定。
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