トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい   作:ウガツホ村

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ハナコ視点です。

ブルアカのキャラエミュがまだまだ甘いのはさておき、頭が良いという設定のキャラを描くのは難しいです。

解釈違いがあったら申し訳ない。




3話:月下の語らい【ハナコ】

◇◇◇◇

 

 

 

「あら……いつの間にか、眠っていたんですね」

 

 

 年甲斐もなくプールで大はしゃぎをした、その後。夕食を済ませた頃に漸く水の入ったプールを見届け、おねむになったコハルを連れて部屋に戻った補習授業部一同。別部屋の先生と別れ、日中特に気合を入れて掃除した自分たちの部屋へと足を運ぶ。生徒5人が泊まっても十分な広さのある寝室には、各々のベッドを中心にすでに私物が置かれており、合宿初日にして随分と生活感あふれる仕上がりになっている。

 

 夜間用の照明に切り替え、やや暗くなった部屋を眺める。部長だからと気合を入れて何やら準備をするヒフミちゃん。日課だという装備の整備をテキパキと行うアズサちゃん。「だ、だめ……えっち」などと微笑ましい寝言を零すコハルちゃんと、いつものように、ベッドの隅で猫のように丸くなって眠っているセチアちゃん。寝室に他人がいるという状況に、少しだけソワソワしてしまう。

 

 こんな風に、誰かと共同生活を送るのはいつ振りだろうか。

 

 良い意味でトリニティらしくない人たち。私のことを何もを知らない人たち。そして、私の抱える事情を察した上で、ただの友人として接してくれる人。ここでなら、かつての私の求めていたもの(青春を謳歌する)が手に入るかもしれないと、ガラにもなく期待してしまっている自分がいる。そんな心の内をを察したのか、ニヤニヤと笑っていたセチアちゃんに照れ隠しで「寝所を共にする」なんて言ってみれば、期待通りにコハルちゃんからイイ反応をもらえたが……ダメだ、振り返ると思った以上に浮足立っている。

 

 一度落ち着くために、二人が寝付くまで読書でもしていよう。そう思ってベッドに腰掛けたのが最後の記憶だが……普段あまり身体を動かさない性分なのもあって、私も存外疲れていたらしい。あるいは、先程までのちょっとした興奮状態で無視されていた疲労が、一拍置いたことで顕在化しただけか。

 

 さて、夜中に目が覚めてしまったのは仕方がない。いつもよりも早い時間に寝落ちてしまったせいか、微妙に目が冴えてしまっている。それならばいっそ、深夜の散歩にでも繰り出そうか。流石に今日は水着での徘徊はしないが、この非日常感に身を委ねてみるのも一興だろう。

 

 他人の眠りを妨げないようにと慎重に立ち上がり……そこで気付く。すやすやと寝息を立てるコハルちゃんを除き、自分以外で部屋にいるべき人物が誰もいない。ヒフミちゃん(ピンク色のAR)セチアちゃん(2丁のゴツいSG)の愛銃は残されているので、二人は――特にヒフミちゃんは――偶々席を外しているだけかもしれない。キヴォトスでは「銃を持たない生徒は全裸で徘徊する人よりも少ない」と言われるほどに、そこかしこで銃撃戦に遭遇する。したがって、愛銃がここにあるのであれば、少なくともこの建物内には居ることだろう。

 

 一方で、先程まで整備していた愛銃(短銃身AR)まで持ち出しているアズサちゃんの存在は気になる。これまでの勉強会や今日の一件で、悪い子ではないのはわかっているのだが……未だにその本質を掴み切れていない。季節外れの転校生であり、驚くほどに世間の常識に疎い。伝聞ではあるが、正義実現委員会(正実)――トリニティの治安維持組織にして、対外的には正規軍と見做される戦力である――の部隊を相手に、武器庫に立て籠ってのゲリラ戦とはいえ、単独で数時間も戦線を維持する高い戦闘力。自分は銃撃戦には疎いが、事情聴取*1でお邪魔していた際の隊員たち慌てようを見るに、とんでもない事だったのだろう。

 

 そんなわけで今日の深夜徘徊の目的はアズサちゃんの捜索に決まったのだが、宿泊棟内を練り歩くことしばらく、存外簡単に彼女は見つかった。聞けば、不慣れな場所では寝付けず、どうせならと見回りをしていたとのこと。純粋に寝不足を心配したところ「5日くらいなら寝なくても問題ない」などと大いにズレた答えが返ってきたが……他人に踏み込まれることを嫌う(恐れる)自分があれこれ言うのも違うだろうと、一旦は引き下がることにした。ただ、これが続くようであれば、一度先生に相談した方が良いかもしれない。

 

 アズサちゃんと別れ、裏口から中庭へと抜け出す。ふと思い立って足を運んだ先は、日中みんなで大騒ぎした大きなプール。月明かりを反射して幻想的に波打つ水面のそばに、思いがけず見知った人影を見つけた。

 

 

「……セチアちゃん?」

 

「……」

 

 

 先客が静かにこちらを振り返る。突然声をかけた自分に驚くでもなく、さりとてこの逢瀬を予期していたようでもなく……ただ名前を呼ばれたから反応しただけ、とでも言うべき虚ろな様相。こちらを向いた二色の瞳は伽藍堂で、何の感情も読み取れない。

 

 

「……あぁ、ハナコじゃん。こんな夜更けにどうしたのさ」

 

「……はい、私です。少し、眠れなくって」

 

 

 しかし、そんな不気味な容貌はすぐに引っ込み、いつもの胡散臭い笑顔に迎えられる。いっそ幻覚でも見たのかと思うほどの変わり身の早さだが、見間違いではない。そう、見間違いないのだが……どうも、追及する気にはなれなかった。誰にでも秘密はあるものだし、それを詮索しないのが、私たちの距離感だから。

 

 彼女に促され、互いにスタート台*2に腰掛ける形で横に並ぶ。友人と二人きりで月下の語らいという最近読んだ小説の一幕のような状況に、心が躍っているのが分かる。あとは私か彼女に翼があれば完璧な再現となったが、生憎、私たちは天使族ではない。毎日の羽根のお手入れを思えばそれで良かったのかもしれないと、降って湧いた乙女にあるまじき発想は即刻打ち消した。

 

 

「ハナコはさ、そんな恰好で寒くないの?」

 

「そうですね……ちょっぴり寒いです。セチアちゃんはいつも通り、モコモコですね」

 

「そりゃ、深夜に水着で徘徊しちゃうようなハナコよりは寒がりだよ。暑くなったら脱げばいいし、厚着し得だって。……あー、今もちょっと暑いから一枚もらってくんない?」

 

「ふふっ、彼シャツですね♡」

 

「いや、ただのカーディガンだって。まぁ着ないよりはマシだろうからさ」

 

「つれないですねぇ……ええ、ありがとうございます。セチアちゃんの熱が伝わってくるみたいで、とっても暖かいです」

 

「またすぐそんな言い方して……照れ隠しにすぐソッチ方面の話するの、ハナコの悪い癖だよ」

 

「あら、バレちゃいましたか。でも、こんな風に友達と衣服を共有するなんて初めてで……“普通の女子高生”らしくて嬉しかったんです」

 

「……」

 

 

 寝間着(パジャマ)代わりにしていた体操服の上から、セチアちゃんの上着を羽織る。気候が安定したトリニティとはいえ、この季節でも夜間は結構冷える。歩いている間は良かったが、上下に着込んだジャージだけでは少し寒かった。小説のように身を寄せ合い、翼に(くる)まって暖め合うとはいかなかったが、これはこれで彼女の温度を感じられて良い。

 

 

「それで、わざわざこんな時間に、こんな場所に来たのはどういうわけ?」

 

「ええっと、アズサちゃんを探すついでに散歩をしていたら、何となく足が向いたもので……」

 

「あー、アズサかぁ。本人から聞いたかもしれないけど、拠点構築をしてるんだって。何と戦うつもりなのかはわからないけど、あれもアズサが安心して寝るために必要な手順なんだと思うよ。トリニティの治安はマシな方とはいえ『先生』もいるし、悪い事じゃないでしょ」

 

「それなら良いのですが……そういえばヒフミちゃんもいませんでしたよ?目が覚めたらお部屋にはコハルちゃんしかいなくて、びっくりしたんですから」

 

「まあまあ、ヒフミも言うてワルだからさ。夜中に気になる“大人”の部屋に……なんてこともあるかもしれないね」

 

「まぁ!そんな風には見えませんでしたが、随分と、その……大胆なんですねぇ」

 

「ごめん、流石に今のはウチが悪いわ。“部長”って肩書をかなり気にしてるみたいだったから、もしかしたら『先生』のところに相談に行ってるかもって思っただけ」

 

「ふふ、もちろん分かってます。ヒフミちゃんはお部屋でも何かしていましたし、きっとそれに関係することだと思いますよ」

 

 

 面倒くさがりで昼寝ばかりしているように思われがちなセチアちゃんだが、こんな風に存外周りのことをよく見ている。補習授業部での活動を通して、お勉強がよくできることも分かっている。何かしらの理由はあれど、彼女が三味線を弾いているのは間違いない。

 

 突然だが、浦和(うらわ)ハナコという人物を評する上で、百合園セチアの名前はよく引き合いに出される。それはハナコがセチアの姉、百合園セイアのお気に入りであったことと無関係ではないが……それは一旦置いておこう。

 

 曰く「浦和様は非常に優秀でいらっしゃる。それに比べて百合園セチアと来たら……」だの「妹様がご乱心なされた時はどうなるかと思いましたが、浦和様がいれば我がサンクトゥスは安泰ですわ」だの「浦和様を見ていると、かつてのセチア様を思い出します。あのようなことがなければ……いえ、詮無き事ですね」だのと。加えて彼女について尋ねると、外部生*3たちは鬼の首でも獲ったように彼女を貶す一方、生え抜きの生徒たちは皆一様に口を噤むのだ。

 

 外部生のハナコには知る由もないが、どうやら中等部の頃に何かがあり、それがきっかけで今の百合園セチアが誕生したらしい。初対面での「貴女、今のトリニティのこと嫌いでしょ?お仲間が増えて嬉しいわぁ」という言葉を信じるなら、自分と似たようなものかもしれないが……そこに踏み込む勇気はまだない。なので今は、他愛もない話を楽しむことにしよう。

 

 

「そういえば、セチアちゃんは先生のこと、どう思っているんですか?随分と仲良くお話していたように思いますが……」

 

「ええー、それ聞いちゃう?別に大した話はしてないんだけど……強いて言うなら――」

 

「あら、そんなことが――」

 

「そういうハナコは――」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 翌日、寝ずの番をしていたアズサ以外は盛大に寝坊をかまし、全員が教室に揃ったのは日が高く昇った頃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「あら……いつの間にか、眠っていたんですね」

 

 

 トリニティ総合学園内に存在する学生寮。その一室で目を覚ましたかつて才媛と呼ばれた桃色髪の人物――浦和ハナコは「懐かしい夢を見た」と独り()ちる。

 

 たかだか数か月前の話なのに、遠い昔のことのように感じられる補習授業部の一員としての日々。時に学び、時に青春を感じ、時に降りかかる苦難に立ち向かった激動の数週間。

役割を終えた「補習授業部」は解散してしまったが、そこで紡いだ絆は健在だった……そのはずだったのに。

 

 突発的な大雨と停電がきっかけで、みんなで水着パーティーをした。裸での付き合いとはいかないけれど、いつもよりも少しは赤裸々にお話できて、互いの距離が縮まった気がした。

 

 

 セチアちゃんは不参加だった。

 

 

 みんなで海に行った。海を見たことがないアズサちゃんのためにと、ヒフミちゃんが盗んできた戦車(クルセイダーちゃん)でトリニティのビーチに乗り込んだ。正義実現委員会と壮絶な追いかけっこをしたり、結局ツルギさん以下正実の皆さんと一緒にビーチを平定することになったり……。その前日にコハルちゃんが体調を崩しかけたけれど、セチアちゃんの献身ですぐに回復した。

 

 

 風邪が移ったのか、代わりに体調を崩したセチアちゃんは、海に行けなかった。

 

 

 ヒフミちゃんの発案で、みんなでお揃いになるようにモモフレンズのグッズを買った。私とコハルちゃんは合宿の時には遠慮したけれど、“お揃い”という言葉の響きに惹かれ改めてショップを尋ねた。特徴的なデザインが「キモイ」と敬遠していたコハルちゃんも「この長い猫みたいなのなら……まぁ」と受け入れてくれた。

 

 

 グッズを一番大事にしていたアズサちゃんのぬいぐるみ(ペロロ博士)はセチアちゃんを傷つける爆弾となり、セチアちゃんが付けていたキーホルダー(ペロロのお守り)は決別の証明として無残にも焼き払われた。

 

 

 様々な出来事を経て、ついにやって来た「エデン条約」調印式の日。多くのしがらみを乗り越えてようやく実現したトリニティとゲヘナ融和政策は、双方に甚大な被害を及ぼすという歴史的な失敗で幕を閉じた。

 

 

 そしてその日……私たちは一人の友達を失ったのだ。

 

 

 (そび)え立つように立ち塞がった四腕の異形(ヒエロニムス)の肩に腰掛け、無機質にこちらを見下ろすあの瞳。先生がゲマトリアと呼んだ双頭の人物(マエストロ)と話すときの、子が親に向けるような気安い語り口。そして何より――

 

 

『それなりに楽しかったよ?トリニティでの“お友達ごっこ”』

 

 

 二人で他愛もない話をしたあの日。夜風に吹かれながら、二人で暖め合ったあの日。あの時感じた違和感のままに、勇気を出して踏み込んでいれば……この結末は変わったのだろうか。

 

 

「セチアちゃん……貴女は、どうして……」

 

 

 明日はエデン条約にまつわる一連の騒動を巡って、キーパーソンの一人である聖園(みその)ミカに沙汰が下される日である。“魔女”でありながら“救国の英雄”である彼女。私も実際に相対した人物の一人として、改めて証言が求められる立場だ。

 

 ミカさんには大いに同情の余地がある。真に悪いのは生徒を都合の良い駒のように扱う悪い“大人”で、彼女もアリウスも等しく被害者であると言える。ただ……ただ、せめてもう少し考えて行動していたらと思わずにはいられないのだ。“和解の象徴”としてアズサちゃんを編入させるだけではダメだったのか。なぜセイアさんへの襲撃を手引きしたのか。なぜ――

 

 

「いえ……違いますね。真の“裏切者”を見逃していた時点で、私も、アズサちゃんたちも、ティーパーティーの皆さんもみんな同罪です」

 

「ナギサさんはもちろん、先生もミカさんを庇うでしょう。正義実現委員会(剣先ツルギ)もミカさんに負い目があるので強く出られない。シスターフッド(歌住サクラコ)救護騎士団(蒼森ミネ)も、あの日に学園を守り抜いたという実績を評価しているはずです」

 

「何より、セチアちゃんという特大の槍玉が存在するのです。明日の裁判は形だけのものになるでしょうね……」

 

 

 折角、本当に少しだけ……トリニティのことが好きになっていたのに。色々と知れば知るほど、この学園の歪みばかりが目についてしまう。カビの生えた血統主義に、権力闘争や陰湿なイジメばかりが横行する碌でもない世界。私がトリニティを見限った(取り繕うのを止めた)時には知らなかった、隠蔽されていた悍ましい事件の数々。その筆頭がセチアちゃんの存在なのだから救えない。今回の騒動はある意味“因果応報(ざまあみろ)”で片付くのだ。

 

 深夜に一人で考え事をするとどうしてこう、悪い方にばかり思考が向かうのだろうか。こんな状態では寝付くことなんて不可能だし、かといって何かをする気力もない。日に日に短くなっていく睡眠時間を思い、今では先生のことをとやかく言えなくなってしまったと自嘲する。

 

 夜はまだ明けない。

 

 

 

 

*1
スクール水着を「学園の指定する服装」と主張し、学園内を水着で徘徊した現行犯(前科アリ)。

*2
競泳などでプールに飛び込む際に使う踏切台。プールの構造や水位にもよるが、意外に高さがある。公共のプールでスタート台に座り込むのは迷惑なのでNG。

*3
本作世界線の話。トリニティ総合学園には初等部、中等部、高等部が存在する。初等部は旧貴族に連なる名家のお嬢様のみが入学できる。中等部からは外部入学が解放されるが、審査が厳しい上に求められる金銭的な負担も大きく、中等部に外部入学するのは商家の出などのお金持ちに限定される。高等部ではさらに門戸が開かれ、変わらず求められるスペックは高いものの、中流階級の家庭にも手が届く範囲になる。したがって一般家庭出身の生徒は高等部からの外部進学生が多く、トリニティにおける「外部生」という言葉は高等部からの生徒を指すことが多い。




次話グロ要素が出て来ますので苦手な人は注意。
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