トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい 作:ウガツホ村
説明パートと割り切って投稿します。
この世界線のミカは過去の出来事のせいでちょっとスレています。
◇◇◇◇
「わあっ、水が入ってるー!もしかして、私のために用意してくれたの?……なーんて、先生はアイスブレイクなしの方がお好きだったっけ」
「“お待たせ、ミカ。そうだね、まずは要件を聞いてもいいかな?”」
早朝の爽やかな空気を感じる、少し肌寒いプールサイド。年甲斐もなくずぶ濡れになってはしゃいだことは記憶に新しいその場所で、「先生」は予期せぬ訪問者と相対していた。
先日――コハルを連れて
「うーん、あんなお手紙だとやっぱり警戒されちゃうよねー。……まあいいや、時間かけてナギちゃんに気取られるのもマズいし……そうなの、今回のことは私の独断。お付きの人たちもいないし、完全な単独行動ってこと。というわけで、早速だけど本題に行くね?」
「先生はさ、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?例えば……『トリニティの裏切者』を探してほしい、とか」
「“……”」
「あはは、先生ってもしかしてポーカーフェイスとか苦手かな?……ナギちゃんのこと気遣ったのかもしれないけど、それじゃ肯定してるのと変わらないよ」
「んー、そんなことはどうでも良くて……何か詳しい事って聞いてるのかな?理由でも目的でもいいんだけど……この子たちが容疑者ですよー、この子にはこんな疑惑がありますよー、とかそういうの。ナギちゃんのことだし、丸投げはないと思うけど……」
初対面の時と同様にコロコロと表情を変えながらこちらに語り掛ける桃髪の少女――
であれば、私も相応の覚悟と責任をもって相対するべきだ。
「“私は「先生」だからね。その役目は辞退させてもらったよ。”」
「そっか、理由も一応聞いとこうかな……何で?」
「“私の仕事はあくまで信じることだから……かな。ナギサの言う裏切者が本当にいたとして、まずはその子の目線に立って話を聞くのが私のやり方だよ”」
「ふーん、聞いてた通りだけど……本当にそんなこと言っちゃうんだ。とんだ綺麗事じゃんね。先生って、
所詮は“綺麗事”である。耳が痛いが、その表現は正しい。何度も考えたことではある。私は全ての生徒の味方であることを志しているが……いつか必ず、二律背反の理を前に膝をつく時が来ると思っている。もしも生徒の間で完全な対立構造が生まれてしまった時、「全ての生徒の味方である」ことは「誰の味方でもない」と言えてしまう。
アビドスでは対策委員会の救援に応じ、
ミレニアムではゲーム開発部にお呼ばれした結果、ヴェリタス、エンジニア部まで巻き込んでC&Cとセミナーに喧嘩を売ることになってしまった*2。ネルはなぜか喜んでいたし、ユウカも許してくれた*3が……参考までにとイイ笑顔で見せてきた請求書を見た瞬間、誠心誠意土下座を敢行したことは記憶に新しい。
加えてキヴォトスには純粋な“話し合い”というものが存在しない。“死”が明確に遠いこの場所では銃撃戦という暴力こそが“話し合い”であり「とりあえずボコってから話を聞く」「勝って言うことを聞かせる」という傾向がある。郷に入っては郷に従えとは言うものの、「先生」となって3ヶ月ほど経った今でもそこだけは馴染めない。
だからこそ、せめて自分だけは対話による
それが私を「先生」に選んだ
故に、あえて宣言する。
「“それでも信じるよ。だって――”」
「“私は、生徒の味方だよ。もちろん、ミカにとってもね” 」
「……わーお。さらっとすごいこと言うじゃんね」
「嬉しいけど……それって誰の味方でもないってことでしょ?」
「だから、これはあくまでも“取引”。私が『裏切者』の正体を教える代わりに、先生は私のために1つ約束をする。ほら、これが“大人”のやり方ってやつでしょ?」
「“……”」
「ごめんね?先生が悪い人だとは思ってないの。ただ、おバカな私なりに精一杯考えた結果がこれってこと。……ナギちゃんほどじゃないけど、私も手放しに誰かを信じられなくなっちゃったからさ」
「“今はそれで大丈夫。信じようとする気持ちを失わないでいてくれたら、それで十分だよ”」
「……眩しいなぁ」
「まあ、いいや。ナギちゃんの探してる『トリニティの裏切者』は……
「“……アズサは良い子だよ”」
「なにそれ、本当は見当がついてたって感じ?……まあ、アズサちゃんの言動でトリニティ生を名乗るのは無理があったかぁ。正実と正面からやり合うとか、
「先生には補習授業部のみんなを守ってほしいんだ……それが、私との約束」
「私のことは信じられなくていいから、あの子たちのことは疑わないであげて――」
◇
◇
◇
◇
「私はナギちゃんやセイアちゃんみたいにお話が得意じゃないんだけど……」という前置きから始まった、ミカによって語られる存外凄惨なトリニティの成り立ちと、歴史の闇に葬られたもう一つの学校の存在。漠然としか知らなかった「第一回公会議」の真相。次々明かされる衝撃の事実と、過去のしがらみが今の彼女たちに牙を剝いている現状に、次第に苦くなる顔を隠し切れない。
群雄割拠の戦国時代のような有様であった、トリニティの前身となる学園群。現在のティーパーティーの代表を務める三派閥だけでなく、大小さまざまな派閥がいがみ合い、紛争の絶えなかった日々。隣国たるゲヘナとの仲も当時から相当悪く、内外に敵を抱える状況に人々は疲弊していたそうだ。……そのゲヘナへの憎しみが団結の旗頭になったのは、ある意味当然のことだったのだろう。
そんな中、内輪の争いに終止符を打ったのが「第一回公会議」の存在。それぞれの派閥は組織として組み込まれ――例えばマリーの所属する「シスターフッド」やセリナの所属する「救護騎士団」などがこれに当たる*4――現在のものとほぼ変わらないトリニティ総合学園が誕生した。時が経つにつれ派閥のことを気にしない生徒も増えてきているが、血統主義の強いトリニティにおいて名家を軸とする派閥が完全に消え去ることはなかった。その凋落などにより、組織図は今も変わり続けているのだとか。
さて、そんな国家統一の動きに水を差す派閥があった。「アリウス」である。連合を作ることに猛反発したアリウスは当然目の敵にされた。あるいは結集したトリニティの力を試す試金石とされたのかもしれない。とにかく、排斥されたアリウスは表舞台から姿を消し、今では存在を知る人もほとんどいなくなってしまったという。
「“アズサがその、アリウス分校の出身……”」
「うん。そして、ナギちゃんがご執心の『エデン条約』は『第一回公会議』の再現なんだ」
「トリニティとゲヘナという、キヴォトス三大校の内の二つ。その間で結ばれるある種の軍事同盟。絶対の絶対に、碌なことにならないに決まってるじゃんね」
「あの時の再現だとしたら、今度は何を潰すの?残った三大校のミレニアム?……ものの数十年で今の地位を築いたミレニアムなら、二面戦争でも凌げちゃいそうな気はするけど……本質はそこじゃないよね」
「ねえ、先生。そんな大きな力を使って、ナギちゃんは一体何をしようとしているのかな?」
「そしてそれは、セイアちゃんを犠牲にしてまで成し遂げる価値のあるものだったのかなぁ……?」
「“ぎ、犠牲!?入院してたって聞いてたけど、それがナギサのせいだって言うの?”」
キヴォトスではめったに聞かない物騒な言葉選びに、思わず語りを遮ってしまう。ナギサからもセチアからも――セチアは伝聞だったので実質ナギサからの情報だけか――セイアは生来の虚弱体質が原因で入院していると聞いていただけに、聞き捨てならない発言だ。
「入院?……あー、そっか。そういえばそういうことになってたね。そうそう、入院中なの」
「“……セイアが今どこにいるのか、聞いて良いかな?”」
「……」
ミカはただ、黙ってこちらを見つめている。その瞳に映るのは、まずはこちらへの警戒と戸惑い、不安。怒りと悲しみ、果ては憎しみと様々な感情が渦巻いている様子で……奥にあるこれは自虐、いや自罰か?ともかく、今日の会談において初めて、彼女の被る仮面に罅が入った。
「……先生は、さ。それを聞いてどうするの?これを話したら……私も先生も、もう二度と引き返せなくなるよ。先生の信条に、二度と消えない傷を刻むかもしれない。……これは、そういう話なの」
「それでも、知りたい?」
今日のやり取りでミカの人となりを多少なりとも掴むことができたが、その経験が言っている。これは脅しでもなんでもない。今から聞くことがデッドラインを踏み越えると、明確に分かっているが故の……ミカ自身と私、双方への警告。
だが、ミカは勘違いしている。「先生」という肩書は、ここで退くことを決して許さないものである、と。
「“まずは知らないと、何も始まらないから”」
「そっか……じゃあもう言っちゃうね。セイアちゃんは入院なんかしてない。本当は『
「ヘイローを破壊する、つまりは
原作を読んでない人でも一応わかるだけの情報は入れたつもりですが
それで説明や注釈が多くなり過ぎても小説としてはどうなの……と思うこの頃。