トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい   作:ウガツホ村

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長くなったので2回に分けました。
説明パートと割り切って投稿します。
この世界線のミカは過去の出来事のせいでちょっとスレています。


5話:ミカ襲来②【先生】

◇◇◇◇

 

 

 

「わあっ、水が入ってるー!もしかして、私のために用意してくれたの?……なーんて、先生はアイスブレイクなしの方がお好きだったっけ」

 

「“お待たせ、ミカ。そうだね、まずは要件を聞いてもいいかな?”」

 

 

 早朝の爽やかな空気を感じる、少し肌寒いプールサイド。年甲斐もなくずぶ濡れになってはしゃいだことは記憶に新しいその場所で、「先生」は予期せぬ訪問者と相対していた。

 

 先日――コハルを連れて正義実現委員会(正 実)を訪ねた日――の夜、ヒフミからハナコの成績のことで相談を受ける前にはすでに届いていた一通のメール。時候の挨拶や美辞麗句に彩られた迂遠な表現の数々(ト リ ニ テ ィ 仕 草)を省けば「何も言わず早朝に指定の場所に来い」とだけ記され、差出人の名前すらなかったソレは、予想通りというべきか“立場のある”人物からのお誘いだった。

 

 

「うーん、あんなお手紙だとやっぱり警戒されちゃうよねー。……まあいいや、時間かけてナギちゃんに気取られるのもマズいし……そうなの、今回のことは私の独断。お付きの人たちもいないし、完全な単独行動ってこと。というわけで、早速だけど本題に行くね?」

 

「先生はさ、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?例えば……『トリニティの裏切者』を探してほしい、とか」

 

「“……”」

 

「あはは、先生ってもしかしてポーカーフェイスとか苦手かな?……ナギちゃんのこと気遣ったのかもしれないけど、それじゃ肯定してるのと変わらないよ」

 

「んー、そんなことはどうでも良くて……何か詳しい事って聞いてるのかな?理由でも目的でもいいんだけど……この子たちが容疑者ですよー、この子にはこんな疑惑がありますよー、とかそういうの。ナギちゃんのことだし、丸投げはないと思うけど……」

 

 

 初対面の時と同様にコロコロと表情を変えながらこちらに語り掛ける桃髪の少女――聖園(みその)ミカ。前回とは異なりティーパーティーの象徴たる白服は着ておらず、特徴的な白翼も先程までは上着の下に仕舞っていた。おちゃらけた口調とは裏腹に纏う空気は厳かで、それがこの会談の重要性を如実に物語っている。お忍びであることからミカの発言=パテル派*1の見解とはならないはずだが、下手をすればナギサと対立してしまう可能性もある行動だ。生半可な気持ちでできることではない。

 

 

 であれば、私も相応の覚悟と責任をもって相対するべきだ。

 

 

「“私は「先生」だからね。その役目は辞退させてもらったよ。”」

 

「そっか、理由も一応聞いとこうかな……何で?」

 

「“私の仕事はあくまで信じることだから……かな。ナギサの言う裏切者が本当にいたとして、まずはその子の目線に立って話を聞くのが私のやり方だよ”」

 

「ふーん、聞いてた通りだけど……本当にそんなこと言っちゃうんだ。とんだ綺麗事じゃんね。先生って、()()()銃弾の1発で死んじゃうんでしょ?後ろ弾(裏切り)とか考えないの?」

 

 

 所詮は“綺麗事”である。耳が痛いが、その表現は正しい。何度も考えたことではある。私は全ての生徒の味方であることを志しているが……いつか必ず、二律背反の理を前に膝をつく時が来ると思っている。もしも生徒の間で完全な対立構造が生まれてしまった時、「全ての生徒の味方である」ことは「誰の味方でもない」と言えてしまう。

 

 アビドスでは対策委員会の救援に応じ、カイザーや黒服(悪い“大人”)の魔の手を退けた。事実上カイザーの配下であったとはいえ、その過程でヘルメット団の子たちを蹴散らした。後にシャーレの力で後ろ暗くない仕事を斡旋できたが、あの瞬間は明確に敵対していた。

 

 ミレニアムではゲーム開発部にお呼ばれした結果、ヴェリタス、エンジニア部まで巻き込んでC&Cとセミナーに喧嘩を売ることになってしまった*2。ネルはなぜか喜んでいたし、ユウカも許してくれた*3が……参考までにとイイ笑顔で見せてきた請求書を見た瞬間、誠心誠意土下座を敢行したことは記憶に新しい。

 

 加えてキヴォトスには純粋な“話し合い”というものが存在しない。“死”が明確に遠いこの場所では銃撃戦という暴力こそが“話し合い”であり「とりあえずボコってから話を聞く」「勝って言うことを聞かせる」という傾向がある。郷に入っては郷に従えとは言うものの、「先生」となって3ヶ月ほど経った今でもそこだけは馴染めない。

 

 だからこそ、せめて自分だけは対話による“話し合い”(相互理解)を諦めないでいようと、そう思うっている。では対話を行うために必要なことは何か。それは私が生徒を信頼し、生徒たちに信頼されずとも信用してもらうことだ。

 

 それが私を「先生」に選んだ連邦生徒会長(超 人)の信頼に報い、彼女が積み上げた信用を引き継ぐことであり……私の存在意義だろう。

 

 

 故に、あえて宣言する。

 

 

「“それでも信じるよ。だって――”」

 

「“私は、生徒の味方だよ。もちろん、ミカにとってもね” 」

 

「……わーお。さらっとすごいこと言うじゃんね」

 

「嬉しいけど……それって誰の味方でもないってことでしょ?」

 

「だから、これはあくまでも“取引”。私が『裏切者』の正体を教える代わりに、先生は私のために1つ約束をする。ほら、これが“大人”のやり方ってやつでしょ?」

 

「“……”」

 

「ごめんね?先生が悪い人だとは思ってないの。ただ、おバカな私なりに精一杯考えた結果がこれってこと。……ナギちゃんほどじゃないけど、私も手放しに誰かを信じられなくなっちゃったからさ」

 

「“今はそれで大丈夫。信じようとする気持ちを失わないでいてくれたら、それで十分だよ”」

 

「……眩しいなぁ」

 

「まあ、いいや。ナギちゃんの探してる『トリニティの裏切者』は……白洲(しらす)アズサ」

 

「“……アズサは良い子だよ”」

 

「なにそれ、本当は見当がついてたって感じ?……まあ、アズサちゃんの言動でトリニティ生を名乗るのは無理があったかぁ。正実と正面からやり合うとか、口だけのお嬢様たち(トリカスども)には無理だし……って、そうじゃなくて!」

 

「先生には補習授業部のみんなを守ってほしいんだ……それが、私との約束」

 

「私のことは信じられなくていいから、あの子たちのことは疑わないであげて――」

 

 

 

 

 

 

 「私はナギちゃんやセイアちゃんみたいにお話が得意じゃないんだけど……」という前置きから始まった、ミカによって語られる存外凄惨なトリニティの成り立ちと、歴史の闇に葬られたもう一つの学校の存在。漠然としか知らなかった「第一回公会議」の真相。次々明かされる衝撃の事実と、過去のしがらみが今の彼女たちに牙を剝いている現状に、次第に苦くなる顔を隠し切れない。

 

 群雄割拠の戦国時代のような有様であった、トリニティの前身となる学園群。現在のティーパーティーの代表を務める三派閥だけでなく、大小さまざまな派閥がいがみ合い、紛争の絶えなかった日々。隣国たるゲヘナとの仲も当時から相当悪く、内外に敵を抱える状況に人々は疲弊していたそうだ。……そのゲヘナへの憎しみが団結の旗頭になったのは、ある意味当然のことだったのだろう。

 

 そんな中、内輪の争いに終止符を打ったのが「第一回公会議」の存在。それぞれの派閥は組織として組み込まれ――例えばマリーの所属する「シスターフッド」やセリナの所属する「救護騎士団」などがこれに当たる*4――現在のものとほぼ変わらないトリニティ総合学園が誕生した。時が経つにつれ派閥のことを気にしない生徒も増えてきているが、血統主義の強いトリニティにおいて名家を軸とする派閥が完全に消え去ることはなかった。その凋落などにより、組織図は今も変わり続けているのだとか。

 

 さて、そんな国家統一の動きに水を差す派閥があった。「アリウス」である。連合を作ることに猛反発したアリウスは当然目の敵にされた。あるいは結集したトリニティの力を試す試金石とされたのかもしれない。とにかく、排斥されたアリウスは表舞台から姿を消し、今では存在を知る人もほとんどいなくなってしまったという。

 

 

「“アズサがその、アリウス分校の出身……”」

 

「うん。そして、ナギちゃんがご執心の『エデン条約』は『第一回公会議』の再現なんだ」

 

「トリニティとゲヘナという、キヴォトス三大校の内の二つ。その間で結ばれるある種の軍事同盟。絶対の絶対に、碌なことにならないに決まってるじゃんね」

 

「あの時の再現だとしたら、今度は何を潰すの?残った三大校のミレニアム?……ものの数十年で今の地位を築いたミレニアムなら、二面戦争でも凌げちゃいそうな気はするけど……本質はそこじゃないよね」

 

「ねえ、先生。そんな大きな力を使って、ナギちゃんは一体何をしようとしているのかな?」

 

「そしてそれは、セイアちゃんを犠牲にしてまで成し遂げる価値のあるものだったのかなぁ……?」

 

「“ぎ、犠牲!?入院してたって聞いてたけど、それがナギサのせいだって言うの?”」

 

 

 キヴォトスではめったに聞かない物騒な言葉選びに、思わず語りを遮ってしまう。ナギサからもセチアからも――セチアは伝聞だったので実質ナギサからの情報だけか――セイアは生来の虚弱体質が原因で入院していると聞いていただけに、聞き捨てならない発言だ。

 

 

「入院?……あー、そっか。そういえばそういうことになってたね。そうそう、入院中なの」

 

「“……セイアが今どこにいるのか、聞いて良いかな?”」

 

「……」

 

 

 ミカはただ、黙ってこちらを見つめている。その瞳に映るのは、まずはこちらへの警戒と戸惑い、不安。怒りと悲しみ、果ては憎しみと様々な感情が渦巻いている様子で……奥にあるこれは自虐、いや自罰か?ともかく、今日の会談において初めて、彼女の被る仮面に罅が入った。

 

「……先生は、さ。それを聞いてどうするの?これを話したら……私も先生も、もう二度と引き返せなくなるよ。先生の信条に、二度と消えない傷を刻むかもしれない。……これは、そういう話なの」

 

「それでも、知りたい?」

 

 

 今日のやり取りでミカの人となりを多少なりとも掴むことができたが、その経験が言っている。これは脅しでもなんでもない。今から聞くことがデッドラインを踏み越えると、明確に分かっているが故の……ミカ自身と私、双方への警告。

 

 だが、ミカは勘違いしている。「先生」という肩書は、ここで退くことを決して許さないものである、と。

 

 

「“まずは知らないと、何も始まらないから”」

 

「そっか……じゃあもう言っちゃうね。セイアちゃんは入院なんかしてない。本当は『ヘイローを壊された(殺害された)』の……あはは、何その顔!もう戻れないって言ったじゃんね」

 

「ヘイローを破壊する、つまりは人殺し(禁忌)なわけだけど……まだ見つかってない犯人がもし“生徒”だったら……その時先生はどうするんだろうね」

 

 

 

*1
トリニティの生徒会にあたる組織ティーパーティーは、三派閥の首長が持ち回りで政治的トップ=ホストを担う三頭政治の形式をとる。三派閥はそれぞれパテル、フィリウス、サンクトゥスと呼ばれ、当代の首長は聖園(みその)ミカ、桐藤(きりふじ)ナギサ、百合園(ゆりぞの)セイアである。

*2
通称「パヴァーヌ編」1章の内容。アリスというアンドロイドを巡ったストーリーが展開される。ホワイトハッカー集団であるヴェリタスや「憧れは止められねぇ」系技術者集団であるエンジニア部を味方に体制側に立ち向かう。

*3
ミレニアム最強のエージェント美甘(みかも)ネル、「先生」の通い妻1号こと早瀬(はやせ)ユウカ。先の騒動で便宜上「先生」と敵対する。共にミレニアムの生徒で、本作での出番は多分ない。

*4
共にシャーレの部員募集で知り合ったトリニティの生徒。伊落(いおち)マリーは猫耳が特徴の敬虔(けいけん)なシスターで、トリニティきっての聖人である。鷲見(すみ)セリナは救護騎士団の“治す方”(“壊す方”(蒼森ミネ)と対比してこう呼ばれる)のエースで、こちらも善良な性格。対「先生」限定かはさておき、患者の下へワープする異能の持ち主でもある。




原作を読んでない人でも一応わかるだけの情報は入れたつもりですが

それで説明や注釈が多くなり過ぎても小説としてはどうなの……と思うこの頃。
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