トリニティキツネモドキはエデン条約を破壊したい   作:ウガツホ村

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感想でルビについて助言をいただき、ルビを大幅に削除しました。
ミカとのお話の続きです。
原作寄りの前回と比べ、独自解釈が強めになっています。


6話:ミカ襲来③【先生】

◇◇◇◇

 

 

 

「“すまない……もう落ち着いたから、大丈夫だよ”」

 

「ごめんね、ちょっとショッキングだったかも。私初めて聞いた時はもっと酷かったし、銃弾や爆弾でズタボロにされても気絶で済む私たち(生徒)が死んじゃうなんて、普通は思わないよね」

 

 

 ミカの爆弾発言を受け、生徒の前で呆けるという失態を犯した。それほどに衝撃的で、考えるべきことが増える情報だった。

 

 ミカの話ではセイアは昨年度の内に殺害されており、その情報の影響力からすぐさま箝口令が敷かれたそう。ティーパーティーの中枢を除けば他に誰も知らず、末端の役員にすら真相は伝えられていない。……当然、実の妹たる百合園セチアにも。

 

 セチアのことは一旦置いておくとして、私が夢で出会った少女は何者なのか。外見の特徴や理知的かつ衒学的な語り口は、話に聞くセイアの像と一致する。アロナ(A.R.O.N.A)*1に訊いたところ、過去の例が少ないため確定的なことは言えないが「ヘイローを破壊する」=“死”というわけではないらしい。ヘイローはあくまで魂のようなもので、肉体の損傷とは全く関係がないのだと。ただヘイローを失えば私のような貧相な肉体(銃弾1発で死ぬ)になってしまうし、そもそも魂を失った抜け殻を同一の個人と見做せるかというと……いや、()めておこう。

 

 犯人が分からないというのも不可解な話だ。セイアはその虚弱体質故、安全なセーフハウスに引きこもって療養していることが多かったと聞く。その場所を知るのは友人にして同僚たるミカやナギサ、あとは実の妹のセチアくらいだろう。時を同じくして失踪している救護騎士団の蒼森(あおもり)ミネ――セリナの話ではセイアとセチアの主治医をしていたらしい――も知っているかもしれないが、いずれにせよ候補はそう多くない。襲撃犯と同一であるかはさておき……状況的には内通者を疑わなければならないのだろう。

 

 二度目の会談のあの日、私を見るナギサの目は疑心暗鬼の闇に囚われていた。ミカの発言からしても、幼馴染であるはずの二人が満足に互いを信頼できない状況。果ては格別目に掛けているヒフミ――彼女の救援要請に応じて他所の自治区であるアビドスに直下の砲撃部隊を送り込むほどの入れ込みようだ(貸し1つとは言っていたが)――や妹分かつ強い執着が垣間見えたセチアを補習授業部(“ゴミ箱”)に追いやり退学させようとする余裕の無さ。背景事情が見えてくれば無理からぬことと理解こそすれ、あの状態のままだと行き着く先は真っ暗闇だ。碌な結果にならないだろう。

 

 思考をまとめる。大いに希望的観測が入り混じっているかもしれないが、私は()()()()()()()()()と思う。ミカが嘘をついているのではない。彼女の中では「セイアのヘイローが破壊された」のは事実なのだろう。ナギサは分からないが、次は自分だと怯えているとすれば言動につじつまが合う。又聞きしたミネの立場や能力、人となりを考慮すると、彼女までもが凶弾に倒れたという可能性はあまり高くないように感じられる。政治的な振る舞い(トリニティ仕草)が出来ないわけではないが、己の信念に殉ずるが故に融通が利かない。襲撃犯の意図次第では確かに邪魔になりかねないとはいえ、ナギサやミカを差し置いてまで狙われるとは考えにくい。

 

 (むし)ろ医療従事者であるミネがセイアとともに消息を絶ったのであれば、それはセイアの身の上に関わることであると考える方がしっくりくる。死者を弔うのは医者の仕事ではない。今も彼女が身を潜めているのであれば、それこそがセイア生存の示唆となるだろう。

 

 それに何より、あの抜け目のないセチアが姉セイアの情報を本当に知らないわけがない。その上であの態度なのだから、最悪の事態は免れている……いてほしいと思う。

 

 

「じゃあ改めて、何で補習授業部の子たちを守るようにお願いしたのか説明するね」

 

「あそこにいるのはみんな、ナギちゃんが特別強く疑った子たち」

 

 

 ナギサからはまだ直接聞いていない、彼女たちが疑われた理由の数々。

 

 まずはアズサ。トリニティとアリウスの“和解の象徴”として、ミカが職権乱用して編入させた生徒。アリウス生だと見抜かれているかは不明だが、独特の価値観から来る言動が悪目立ちし、不穏分子と見做された。

 

 次にハナコ。ヒフミの見つけたハナコ名義の解答用紙の山(ありとあらゆる試験がひとつ残らず満点)は幻ではなく、1年生の頃のハナコは誰からも期待される優等生だったそうだ。ティーパーティーやシスターフッドを筆頭に各派閥から引っ張りだこで、将来が確約されていた。

 

 それが突然、落第寸前の問題児へと身を(やつ)した。水着徘徊に始まる奇行の数々に、わざとらしい卑隈な言い回し。学業成績すら見る影もない。

 

 それでいて、在りし日に築いたコネクションは健在。あまりにも光が強すぎたために、今でもなお、栄光の面影が脳裏を過るのだろう。一説では、ハナコがその気になれば1日でトリニティを転覆できるほどに、潜在的なシンパが(うごめ)いているらしい。

 

 そしてコハル。彼女自身には成績以外に落ち度はなく、本命は正義実現委員会(正 実)副委員長の羽川(はねかわ)ハスミ。ゲヘナ嫌いが一際激しい彼女を押さえつける、牽制の一手。愛されっ子であるコハルの人となりを利用した、ミカ曰く非道な人質作戦なのだとか。

 

 問題のヒフミ。校則で進入禁止のブラックマーケットに入り浸っているとか、犯罪組織(覆面水着団)と関りがあるとか……正直、聞いていて耳が痛い話だった。よく考えれば補習授業部入りの直接の理由だって、ゲリラライブのためにテストをサボったとかだった気がする。うーん、やはり“普通”の生徒と言うには無理がある。しかも本人に自覚がないのが相当(たち)が悪い。こればかりはナギサを擁護したくなってしまう。

 

 最後に私目線では最も謎の多いセチア。どこか思いつめたような表情を見せたミカは、数舜の躊躇を振り切り、「ちょっと長くなるし、面白くない話だよ」と静かに話を続けた。

 

 

「私もナギちゃんも、実はセチアちゃんのことよく知らないんだ。知る機会がなくなった、ってのが正確なところだけど……。もちろん()っちゃくて可愛い妹分なのは今も変わらないし、昔はお茶会とかもしてたよ?……でも、それが良くなかった」

 

(聖園)が言えたことじゃないけど、百合園の家ってとんでもなく偉いの。ナギちゃん(桐藤)だってそう。つまりね、何が言いたいのかっていうと……身も蓋もない言い方をするなら権力闘争に巻き込まれたの」

 

「私たちは中等部1年生の後半にはもう、中等部生徒会――高等部に上がっても同じことだったけど――の各派閥首長に担ぎ上げられた。普通は2年後期から3年前期が生徒会長の任期で、任期満了後に当代の有力候補から後継を選ぶんだけど……その条件が良くない。『家格や能力を勘案して決める』ってのが厄介で、首長自体は大体は家柄で決まっちゃうの」

 

「私たちはそれぞれ聖パテル(聖園)聖サンクトゥス(百合園)聖フィリウス(桐藤)の血を継ぐ直系で、しかも宗家の出身。文字通りの“お姫様”だから、能力なんて関係なく玉座にポイって座らされちゃった。無能なら無能でお飾りの姫として振る舞えばいい、だってさ。ひどくない?」

 

「そんなこんなで、私たちと同世代の人たちは、首長には成れないって最初から決まっていた。ぶっちゃけ悪習だけど、慣習だからって諦めてくれてたら良かった。首長じゃなくたって、ティーパーティーの席には座れるし……なんなら要職だって()いてたのに」

 

「“それって、もしかして……”」

 

 

 頭を過った最悪の可能性に、若干顔が強張ったのが分かる。それならば、セチアから聞いた「(セイア)ウチ(セチア)を後継としない」という宣言の意味は――――

 

 

「そう。嫉妬とか理不尽への怒りとか、そういうのは全部……セイアちゃんに似て身体が弱かったセチアちゃんへと向いた。主犯格の奴ら、私たちの1コ下だったから……セチアちゃんどかせば自分が首長になれるって思い上がってたの」

 

 

 ――――セチアが言うように「不出来な妹に見切りをつけた」のではなく「実の妹を不器用ながらに守らんとする姉の愛」に他ならない。

 

 

「“もしかして、セチアの目の色が違うのって”」

 

 

 ミカは静かに目を伏せ、首を横に振る。

 

 

「んーん、真相はもっと酷いよ。……ごめんね、気分悪くなってきちゃったから、今日の話はここでお(しま)いにするね……っとと」

 

「“おっと”」

 

 

 逃げるようにベンチから立ち上がろうとして……ふらついたミカを抱き留める。既に努力も虚しく、懸命に維持していたティーパーティー首長としての威厳は霧散し、余裕ぶった振る舞いも取り払われた。その先にいたのは、ただ道に迷う年相応の少女だ。

 

 

「あ、あれ?足に力が……ご、ごめ……ごめんなさい」

 

「早く、戻らないと……先生まで怪しまれちゃうのに。こ、の……!」

 

「“私は大丈夫だから、今は休もう”」

 

 

 私を敵視するナギサが繕い切れずに零した「あの日」。これまで気丈に振る舞ってきたミカの精神をここまで乱す「あの日」。その輪郭が明らかになっただけでなく、補習授業部の面々の事情やナギサの思惑についても多くの手がかりを得られた。

 

 ただ、それらは守るべき生徒に負担を強いてまで得るべきものであったか。よしんばそうだとしても、もっと上手くやれたのではないか……「先生」となってから後悔が募らない日はない。

 

 大きな白翼で震える身体を庇うように(くる)んだ彼女が落ち着くまで、隣で手を握り続けた。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、先生。情けないとこ見せちゃったね」

 

「“嫌なことを思い出させてごめんね”」

 

「んーん、いいの。ここまで巻き込んだ先生には、知る権利があると思ったから。(むし)ろ、最後まで話せなくてごめんね。『ボーダーランド』『爆発事故』で調べれば出て来ると思うから……それじゃ、みんなのことお願いね」

 

「“もちろん”」

 

「それと最後に……セチアちゃん、きっと無理してると思うの。あの子って本当は優秀だから……いくら情報を差し止めていようが、セイアちゃんのこと知らないわけがない」

 

「なのに去年からずっと、()()()()()()()()()()()んだよ。私たちから見ても、セイアちゃんとセチアちゃんの仲は良かった。それなのに、そんな姉が死んだって知って、何にも思わずに生活できるなんておかしいでしょ?」

 

「ナギちゃんはそれを『事件の関係者』だからって決めつけて疑ったけど……そんなのってないよ。私には、()()()()()()()()()()()()()ように、見ない振りしてるようにしか思えなくて……正直、見てられない」

 

だから!んっ、ん……。だから、せめて新しく出来た居場所だけは守ってほしくて……先生との約束にはそんな意味もあるんだよ」

 

 

 上着の下に翼を仕舞い、深めの帽子で目元を隠したミカ。元のお忍びスタイルに戻った彼女はこちらを振り返り、そう寂しそうに微笑んだ。

 

 そんな、自分の味方は一人もいないとでも言わんばかりの様子が見ていられなくて、あるいはそれに「先生」として不甲斐なさを感じてしまって……つい、声をかけた。

 

 

「“もちろん。それに――”」

 

「“ミカも私の大切な生徒だってこと、忘れないでね”」

 

「……そこは『まかせて』の一言で済ますべきだよ、先生。あーあ、未練がどんどん増えちゃうなぁ……。まあいっか、()()()!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 旧校舎に戻ると補習授業部のみんなはすでに教室に揃っていた。今日はハナコとセチアが教師役らしく――模試で合格点を出しているセチアはともかく、ハナコは本当に爪を隠す気があるのだろうか――ちょうど手が空いていたらしいハナコに出迎えられた。

 

 えらく上機嫌な彼女に理由を聞けば、今朝からどうもセチアのスキンシップが盛んになったらしい。確かに今日のセチア喜色満面といった様相で、今まさにヒフミがタジタジになっているくらい距離が近い。極端と言えば極端だが、今までの一線を引いた態度よりはよほど好ましい。

 

 先のミカとの話ではないが、補習授業部のみんなとの生活がセチアにとって良い影響を与えているようで安心する。補習授業が終わればこのグループは解散してしまうが、この場で紡いだ絆が消えてしまうわけではない。

 

 

「“(この光景は、必ず守ってみせる)”」

 

 

 補習授業部を取り巻く問題はまだ山積みだが、笑い合う彼女たちを見れば、きっと乗り越えていける気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニチャァ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

『セチアちゃん、きっと無理してると思うの』

 

『もうこれ以上喪わないで済むように、見ない振りしてる』

 

『新しく出来た居場所だけは守ってほしくて』

 

 

 は?

 なんでそんなこと言うの?

 

 大切な人を喪ったから?

 わたしだけ生き残っちゃったから?

 

 姉が死んだことを受け止めきれない?

 あなたたちの妹がいなくなったから?

 

 新しい居場所ができた?

 わたしの居場所は最初からなかったんだ

 

 「先生」ならきっと救ってくれる?

 今更「先生」「先生」って……もう遅いよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの子たちを殺したのは私だ

 あの日、遊園地に誘ったのはわたし

 

 そんな最低最悪な私が?

 正しい世界には存在しないはずだった、疫病神のわたし

 

 今更あの姉が死んだくらいで??

 姉さんが目を覚まさないのもわたしのせい

 

 耐えられなくて目を背ける???

 わたしが死ぬのは正しいことで、それは逃避じゃない

 

 

『おい!落ち着けって。セイアは生きてるし、ミカは煽ったわけじゃないだろ。

そんでもって、アタシらはお前に殺されたわけじゃねぇよ』

 

 

『そうですわ。貴女のせいではないと何度言えば……。

 それに、振り上げた拳の下ろす先を違えてはなりません。

 貴女の大義の行きつく先は個人ではなく、もっと大きなものでしょう』

 

 

 うるさい

 だまれ

 ()()()()がくちをはさむな

 

 

『はぁ~?お前まだアタシらのこと、自分が生み出したパチモンだと思ってんの?

“神秘”が織りなした文字通りの奇跡だって黒おじ(黒服)が絶賛してたの覚えてねぇのかよ。

それにケチ付けるとか……あのカオナシ共が「驕るなー!!!」って乗り込んでくんぞ』

 

 

『悲劇のヒロインぶるのは結構なのですが、事実は事実として受け取るべきです。

 今握りしめている貴女の左手は誰のものですか?……(わたくし)のものでしょう。

 左足だって、その白翼だってそうです。内臓なんてどれが誰のものかなぞ、もはや知る由もない』

 

 

 うるさい

 したいがしゃべるな(死人に口なし)

 したいはしたいのままでいろ(死者は蘇らない)

 

 

『生命としてあり得ねぇのは否定しねぇが、ここはキヴォトスだぜ?

“神秘”って言っときゃなんでもありに決まってんだろ。

毎度毎度、なんで現地人のお前が一番信じてねぇんだ』

 

 

『死が三人を分かつことはなく、天国から地獄まで共に。

 三位一体(キメラ)に堕ちた私たちが、三位一体(トリニティ)を裁く。

 実に皮肉が効いている(トリニティらしい)ではありませんか』

 

 

 てんごくからじごくまで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天国(トリニティ)から地獄(ゲヘナ)まで、共に

 天国(ゲヘナ)から地獄(トリニティ)まで、共に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっか、そうだった。別に本物とか偽物とか関係ない。使えるモノは全部使って、トリニティとゲヘナを滅ぼす。それだけでいい。

 

 歴史と仕組みが悪いだけで、そこに住まう人たちには大した罪はない。だから、積み重ねてきたものを全て焼き払って、新しい世界を見せてあげる。汚いのは全部私と一緒に滅んで、姉さんたちは綺麗な世界で生きていく。それだけでいい。

 

 

『まぁアタシ的にはどうせ「先生」に阻まれると思ってるけど、

そん時まではお前の親友(聖園○○)として付き合うよ。

そんで、もうロープレ*2出来そう?』

 

 

「相変わらず○○さんの「先生」なる人物への根拠のない信頼は理解できませんが……

 ええ、貴女の親友(桐藤△△△)の名に誓って、私も味方でいましょう。

 あと、今日のお勉強は代わって差し上げます。」

 

 

 ありがと、二人とも。私は……いや、ウチはもう大丈夫。補習授業部の一員で、本当に本当の「トリニティの裏切者」。みんなを曇らせて楽しむ最低な趣味を持っていて、最高の瞬間を拝むために雌伏の時を過ごしている……うん、完璧やね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それじゃ、も~っとみんなと仲良くならないとね?

 

 

 

*1
「先生」の持つ「シッテムの箱」の住人。幼い外見や言動からは想像できないほど超性能のサポートAIで、「先生」の旅路を大いに助けている。その正体は失踪した連邦捜査会長だという説も存在するが……。

*2
ロールプレイ。役に成り切った振る舞いをすること。




デカグラ軍団の中では最推しのコクマーくんをぺちぺちしてたら、昨日→今日で急に死んでいてビビりました。実在したのかアロナパンチ……。
次回はヒフミ視点を含みます。
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