羂索と予言の書を持つ女子高生   作:ペロロペ

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羂索、予言の書を持つ女子高生と出会う

 

 

「コーヒーと……あと今日は暑いしアイスで」

 

 2016年8月・京都。学生にとっては夏休みの期間にも関わらず学校の制服を着ている女子高生は喫茶店で人を待っていた。

 

「……あ、えっと。かしこまりました」

 

 制服を着ているとはいえ特段不思議な客でもないはずだが、ウェイトレスは女子高生の顔を不気味そうに見ながら奥へ下がっていく。

 

「全く失礼するね。仮にもこの体は女子高生だってのに」

 

 長い黒髪に切長の目、メイクは最低限といった具合だが年齢以上の色気がある。だがそれらを台無しにするのが、前髪を分けてまるで晒しているかのように見せている()()()()()だ。

 ハロウィンの時期でもないのに、女子高生の額にこんな大きな痕があれば見ない方が無理というものだろう。

 

「お待たせ、氷川さん」

「別にそんなに待ってないよ、橘さん」

 

 コーヒーとアイスが来るまで頬杖をついて暇を持て余していた彼女の元に、待ち人である同じクラスの女子高生がやって来た。

 彼女達は軽い挨拶を交わし、新しく来た方──橘が氷川の向かいの席に座る。

 

「よかったら注文する? 私はコーヒーとアイスを頼んだけど」

「では、すいませ〜ん」

 

 橘が注文をしている間、氷川は自分が何の目的で呼び出されたのかを考えていた。

 橘と氷川は友達付き合いをするほどの仲でもないし、学校内で会話したこともほとんどない。ただクラスで作っている連絡アプリの同じグループに入っているぐらいで、個人でやりとりをした覚えもない。

 氷川も夏休みが始まったタイミングで出来た縫い目を誰かに見られた覚えがなく、家族に対しても()()()()()()()()()()

 たまたま歩いているところを見られて勘付かれたか? と結論付けた氷川は目の前の少女をどうするか、会話をしてから決めることにした。

 

「そういえば、私たちってあんまり付き合いなかったよね。話したこともそんなにないし。今日は私になんの用があったの?」

「……実は最近、母が死にましてね。それで、遺品の中に私へ渡すようにと遺言が残っていた本があったんです。見ると、中々に興味深い本だったのですが、内容が少しアレなものでして」

「あーっと、それはその……ご愁傷様です(いきなりぶっ込んでくるなこの娘。どうとも思えないから反応に困っちゃうよ)」

「それでですね、これがまぁなんとも奇妙な本でして。私も本について色々と知りはしたんですが、イマイチ理解できていない点があるんです。なので、読書家である氷川さんの知識を借りられないかと思って、連絡させてもらいました」

「えーっと、なんとも言い難いんだけど(これは……鎌かけかな? 残念だけど()()()()はそこまで読書家じゃなくてね。記憶もしっかり残っているんだ。その程度じゃ引っ掛かってあげられないよ)」

 

 彼女の言葉通り、現在ここにいる氷川は、()()()()()()()()()()ではあるがそれを操っているのは全くの別人である。

 氷川に成りすましている人物の名は羂索。呪術師であり、1000年以上の時を生きる化け物であった。

 羂索は術式によって()()()()を他人の体に移すことで、その人物の肉体に宿る呪力・術式などを使うことができ、肉体が老いたり雲隠れする度に新しい体に乗り移り擬似的な不老を実現し1000年以上生きながらえている。

 

「別に私はそれほど読書家ってわけじゃないよ。読むのもせいぜい漫画ぐらいだし、学校に持ってきてる本も恋愛小説ばっかり。だから、橘さんの力になれるかどうか(おっと、この娘が恋愛小説を嗜んでるのは秘密だったかな)」

 

 当然、乗り移る人物の記憶も問題ない。趣味趣向、学校での立ち位置、友達付き合い、好きな人、本人と遜色なく振る舞えるほどの情報が彼女にはあった。

 

「そうですか。実は私も触り程度ですが、ある程度は内容を理解できたんです。この本、どうやら《予言の書》みたいなんですよ。そして興味深いことに……氷川さん、貴方についての記述もあったんです」

 

 「興味が湧きませんか?」橘はそう言うと鞄の中から一冊の本を取り出した。

 タイトルと作者名は表紙が古ぼけているせいか確認できず、本の背がないため中の紙が見えている。

 一般人が見ればただの古い本としか捉えることはできないが、術師である羂索から見れば──

 

「《予言の書》ねぇ。私の名前が書かれているなんて、それはちょっと気になるかも(なるほど、これは()()()()()だね。感じる呪力はギリギリ《3級》あるかといったところだが、彼女の言葉が正しければ効果は《特級》でも最上位のものだろう。感じる呪力からは考えられないほど面白い効果を持っている呪具の例は幾つか知っているけど……。それにしても───)」

「私も最初は疑っていたんですがね。確かに本物ですよこれは」

「よかったら中を見せてくれない?(母親の遺品が《予言の書》なんて、中々面白いじゃないか。まぁ、()()()()()()()を見れば、トンデモ呪具を持っていたとしても不思議じゃないけれど……橘なんて術師の家系は聞いたことないぞ)」

「いいですよ」

 

 羂索は橘の取り出した本を呪物だと見抜いたが、本当に《予言の書》かどうかは半信半疑だ。

 羂索は橘から手渡された《予言の書》を開こうとするが、どういう理屈か本のページを()()()()()()()()()()()

 

「あれ? この本開かないようなんだけど(所有者しか開けられない仕組みかな。日記とか機密事項をまとめた呪具にたまにあるタイプだけど……なにか違和感があるね)」

「ですよね。その本は私にしか開けられないようなんです。母と離婚して葬式だけには来た父親にも開けられなかったし、ほぼ知らない親戚の人達にも無理でした」

「なら悪いんだけどさ。本を開いて見せてくれるかな?」

「もちろんお見せしましょう」

 

 羂索から返された本を橘はあっさりと開きページを見せるが、中に書いてある文字は長き時を生きる羂索をして読むことが出来なかった。

 だが、それも仕方のないことだろう。本の中身は()()だったのだから。

 

「あの、白紙なんだけど。橘さんはこれ読めるの?(これは内容も所有者しか見られない感じかな? こうなると、本を譲渡されるか中を読んでもらうしか手はないかも)」

「えぇ、私には分かりますよ。折角なので、今開いているページを読んであげましょう」

 

 橘がそう言った瞬間、羂索の1000年以上の生の中で培われた経験により磨かれた勘が働く。具体的に言語化できず、命に関わることではないようだが、言いようのない()()()が羂索の肌を粟立たせる。

 思いもよらぬタイミングで来た不快さに羂索は反射的に橘を殺そうと手を動かしそうになるも、強靭な理性を持ってねじ伏せるが──

 

橘秋麗(たちばなあきら)は、喫茶店内で()()()()()()()()()()()()()という人物にこのページを見せる。そして──」

 

 氷川ではない自身の名前が出た瞬間、羂索は橘の細い首を掴み、いつでも殺せるよう呪力を練った。

 先程のように反射的ではなく、考えた上での行動のため直ぐに殺すことはしなかった。なぜ、どうやって、どこでその情報を知ったのかを吐かせるために羂索は少しずつ指に力を込めて尋問を始めようとするも──

 

「どこでそれを──」

「あの〜、コーヒーとアイスお持ちしたんですけど〜」

 

 注文の品を持って来たウェイトレスにより中止させられた。

 羂索は橘の首からゆっくりと手を離し、薄く笑みを浮かべ、目線をウェイトレスに向けるとウェイトレスは慌てるように去っていった。

 

「じゃあ、気を取り直して質問を続けようか。ちなみに拒否権はないよ。その名を知っているということは天元の使いか、昔の術師には──ちょっと心当たりはないかな。知ってるやつはほぼ全員呪物にするか殺してるし」

「いえ? 私はこの《予言の書》が渡されるまではただの女子高生でしたよ。母の遺品と言えど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の所有者になったので、貴方に()()()()()()()()()()()()()だけなんです」

「──どういうこと?」

 

 羂索の予想とは違い、橘は自分をただの女子高生だとシラを切ってきた。

 無論、羂索は橘の言葉を信じていない。なぜなら、橘はこれで術師じゃないなら何の冗談だと言えるほど、()()()()()()()()()()()を持っているからだ。

 

「なら、高専かフリーの術師? それとも呪詛師かな。その呪力で関係者じゃないって、仮にも君は京都在住だろ。現代の術師達が私の想像以上に節穴だったとしても()()()()()()()()()()()()()だよ。窓でも余裕で気付けるだろうさ」

「……ふむ。信じてもらえないかもしれませんが、取り敢えず私の身の上を話しましょうか。《予言の書》にも、貴方には明かしているとありますしね」

「……ま、とりあえず話を聞こうか(もし予言が本当なら私の名前が分かるのは当然か? でも分からないのは、()()()()()()()()()()()()()()()だが──それは追々だね)」

 

 羂索は《予言の書》の力が本物であることを前提として、橘の話を先程までとは比べものにならない程に警戒しながら耳を傾けた。

 

「まず、私は貴方が言うような呪術師達とは関わりがありません。先ほど、その呪力量で関係者じゃないとおかしいと言われましたが、《予言の書》の過去のページには『呪力やそれにまつわるモノについて何も知らない橘秋麗(たちばなあきら)が母親の死後、予言の書を託される』と言うような記述があったので、現在に至るまで干渉することもされることもなかったんじゃないですかね」

「うーん、それが本当かどうか私に判断する術がないね。じゃあ、例えばだけど()()()()()()()()()()()()()()()は知ってるかい? 《予言の書》が本物なら答えるのも造作もないはすだ。もし君が正確に答えられるなら、私は全面的に君の持つ《予言の書》の内容を信じようじゃないか(数秒先の未来を見る術式を持った奴は知ってるけど、流石に何十、何百年先の未来を知ることは無理でしょ。……もし本物なら、いくらなんでも規格外すぎて私の手には負えないな)」

「えぇ。貴方になら明かしても大丈夫なようですので、今から()2()()()()()()に至るまでの過程をお話ししましょう」

「……え、2年後なの?(彼女の言葉が本当なら2年後に私は計画を実行するらしい。まぁ、《獄門疆》を手に入れたり、《宿儺の器》を作ったり、《天元の進化》を知って結界に細工を施す準備はしてるけど、あくまでも準備だ。私自身、まだ計画を実行するかどうかは決めかねている)」

「まず、()()()1()2()()2()4()()()()()()()()。そこで死亡する夏油さんという方の肉体を貴方が奪うんですよね」

「……マジ? 夏油ってそのタイミングで死ぬの?」

 

 思いのほか衝撃的な内容が返ってきた羂索は不意を突かれ、ポカンと口を開ける。

 確かに、現在の氷川の肉体は夏油の肉体が奪えなかった時の()()()()()()()()()()()、計画の要である《呪霊操術》の術式を持っていたから奪ったものだ。

 最も、氷川の肉体は術式に対しあまりにも()()()()()()()()()だったので呪術師達には今まで目をつけられなかったようだが、戦闘するには絶望的に向かないため、術式だけもらって素質ある術師にでも乗り移ろうと考えていた。

 

「ここからはあまり関係ないので大分省きますけど、今から2()()()()1()0()()3()1()()()()()()()()。東京・渋谷で五条という最強の術師を《獄門疆》という呪具で封印した後は協力関係にあった呪霊の術式を《うずまき》という技で抽出して使い、《死滅回遊》という天元と人間を同化するための儀式を始めるんですよね。……ま、《予言の書》の内容をざっくりと要約するとこんなもんです」

「ちなみに、その協力関係にある呪霊ってどんな呪霊?」

「《無為転変》という、魂を操る力を持っているようです。どうやら人間を呪術師にすることも可能らしいですよ」

「……なるほど。確かにそんな力があればなとは考えていたけど、未来の私はかなりの豪運なんだね。まぁ、()()()()()()()()()()()()()()計画も実行してるだろうさ」

 

 羂索はここで、完全に《予言の書》が本物であることを認めた。確かに過去に呪物化を施した術師や殺した術師の中には計画の概要を触り程度に話して意見をもらったこともあった。けれど、重要な部分は誰にも明かしていないし、紙や電子にも情報は残していない。それこそ深層心理が読める術式や呪具でもない限り知り得ることはできないだろう。

 それに加え、()()()()()()()()()を正確に言い当てている。実際、呪霊達と手を組むことは視野に入れていたし、少し前から目をつけている()()()()()()()()もいる。《呪霊操術》を選んだのも、それらや天元を取り込むことを想定していたからだ。

 五条悟の封印に関しては以前手に入れた《獄門疆》があるとはいえ難しいと考えていたが、()()()()()が手に入るのなら話は別だ。計画にも現地味が帯びてくる。

 だが──

 

「どうです? 本物だと信じましたか」

「信じるさ。そして信じた上で率直な意見を言わせてもらえると。……()()()()()()。まるで掌の上で踊らされている人形になった気分だよ。よかったらその本を処分するけど、一緒にやらない? 君も嫌いなんだろ、その呪具が」

 

 酷く不愉快な気分になった。

 確かに未来で起こる出来事を知ることに多大なアドバンテージがあることは認める。だが、羂索の求めるものは()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。計画通りにやって計画通りに終わるんじゃなく、その計画から想定している結果を凌駕する想定外の結果を求めていた。

 もっとやれるはずだ、もっと面白くなるはずだ。そんな原動力を糧に長い時を生きてきた羂索からしてみれば、予言の通り計画が進み、分かりきった結末しか来ないと断言されるのは到底許容できるものではなかった。

 

「うーん。私もそうしたいのは山々ですけど、()()()()()()()()()

「ならやってみようか」

 

 羂索は席を立ち、捕獲していた呪霊を《呪霊操術》の極の番《うずまき》で圧縮し呪力の塊にする。氷川の肉体の性能では夏油のものと比べると酷く威力が落ち、極の番を使うのも一苦労する。だがそこは羂索自身の技量と縛りでカバー。《うずまき》によって圧縮された呪力の塊を放てば、喫茶店を中心に周りの家屋も吹き飛ばす程度の威力はあるだろう。

 羂索自身まだ聞きたいこともあるが、橘を生かすデメリットはあってもメリットがないと判断し、何より《予言の書》という不快なものを一刻も早く消してやりたい感情もあって一緒に排除することを決めた。

 既にどうやってこの場から離れるかのプランを考えながら、羂索は《うずまき》を放とうとするが──

 

「……あれ?」

 

 だが、《うずまき》によって圧縮された呪力の塊は途端に()()してしまう。

 そんな、あまりにも異質な現象が起きたため羂索の額に冷や汗が流れた。

 

「分かりましたか? あなたがこの喫茶店と本を破壊する未来はないんです」

「……なんだよ、それ」

 

 羂索は苦笑いを溢すことしかできなかったが、橘は気にする様子もなく話を続けた。

 席に再び座った羂索は色々な考えを巡らすも、とりあえず橘の話を大人しく聞くことに決めた。

 

「うーん、さっきの発言からして予定通りの結果が嫌なんですよね。《予言の書》のことそんなに嫌いですか? 私も今すぐ燃やしてやりたいくらい嫌いですけど」

「だってつまらないだろう? そういうのはもう飽き飽きしてるんだ。やることなすことが既に決まってるなんて興醒めもいいところじゃないか。たとえその本が有用だろうと、私が1000年以上の間で見てきた数々の呪具のなかでも堂々のトップに君臨するぐらいには嫌いで不快だ」

「母の遺品が酷い言われようですね。まぁ全面的に同意しますが。……でも、貴方にとっては()()()()()()()じゃありませんよ。なぜなら2年後に行われる貴方の儀式をきっかけに、予言を覆す唯一の存在──《救世主(メシア)》が産まれるんですから」

「……《救世主(メシア)》って、弥勒菩薩とかキリスト教のイエスみたいな奴?」

「《予言の書》に《救世主(メシア)》と書いてあったので私がそう呼んでるだけですが、どっちかといえば世界や人間を救済するより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の奴ですかね」

「……マジでそんな奴が出てくるの?」

「……冗談言ってる顔に見えます?」

 

 橘の青ざめきった顔を見た羂索はごくりと唾を飲み込み絶句した。

 羂索の計画の構想に当然、《救世主(メシア)》の誕生などない。

 

「…………マジかぁ〜(一体、そんな存在がどうやって生まれてくるのかさっぱり分からない。その原因はなんだろうか、まさか呪力じゃない第3の力にでも目覚めたイレギュラーかな。それか、天元と人間を融合させたら産まれるのか? いや、私が想像できるものが《救世主(メシア)》であるものか。もしかしたら宇宙人とかの可能性もあるよね。そうだ、今度エリア51の噂がある施設に行ってみようかな。そこで──)」

 

 《救世主(メシア)》の話を聞いたことによって様々な考察や検証したいアイデアが羂索の頭にいくつも浮かび、いつの間にかさっきまで不愉快だった気分が綺麗さっぱり吹っ飛んで、ワクワクとした気持ちが羂索の表情に表れた。

 

「随分楽しそうですけど、続きを話してもいいですか?」

 

 思考に没頭していた羂索は自身の口角がものすごく上がっていることに気づき、ぬるくなったコーヒーを一口飲んで、自分の気持ちを一旦落ち着けた。

 

「それで、どうやって《救世主(メシア)》が産まれてくるかですが──」

「いやいやいや! 言わなくていいよ。ネタバレは御免だ。私が勝手に考察するから答えは産まれてから教えてくれ。それで、その《救世主(メシア)》ってやつはどんな事をするんだろうか? 出来ればネタバレは控えめで教えてくれると嬉しいな」

 

 先程の嫌悪の感情はどこへ行ったのやら、ワクワクと擬音が付きそうなくらい楽しそうにしている羂索。

 橘はいつの間にやら来ていたコーヒーを一口飲んでから、ため息を吐いた後、説明を始めた。

 

「まず、《救世主(メシア)》は()()()()()()()()()として《予言の書》では扱われています。その行動や過程、齎す結果に関しては大雑把ではあるものの一応把握することはできますが、何をどう選ぶのかまでは、クソッタレの《予言の書》でも全く予想がつきません」

「ほうほう。続けて」

「なので、《救世主(メシア)》の行動は注視すべきではありますが、それ以上に気をつけなければいけないのが()()()()()()です。一応、いくつかの結末は《予言の書》に記されていますが、その後の世界がどうなるかは分かりません。《予言の書》の記述が結末を記したところで終わっているんですよね。まったく、肝心なところで使えない」

「それでそれで」

「では結末について少しだけ話しましょう。一つ目は、《混沌の世界》。呪霊と人間の終わらない闘争の世界が始まり、互いに力を高め合い続け、強力な個達が、不毛な大地しか残らない地球で《救世主(メシア)》と闘争の毎日を繰り返します。二つ目は、《秩序の世界》。《救世主(メシア)》によって産みだされた神による洗脳で、人類と呪霊は支配され神を礼賛するだけの存在に成り下がります。三つ目は《中道の世界》。ぶっちゃけると今までと変わらない世界ですが、この世界だけは()()()()()()()()()()()()()()

「なんで? 一番まともで平和そうだし、現状を維持するだけだろう。いつかは限界が来るかもしれないが、それでもしばらくは持つだろうさ」

 

 なぜ一見平和そうな《中道の世界》がダメなのか、原因が分からなかった羂索は橘の話を止めて質問をする。

 

「いえ、他の世界のルートに行けないとマジで《救世主(メシア)》以外が絶滅します。原因としては…… 《中道の世界》だと、貴方が《呪霊操術》で()()()()()()()()()()()()()からですね」

「え、それが原因? 天元の結界は確かにデメリットはあるけどメリットも大きい。私に捕まるよりかは……あ、もしかして《天元の進化》が関係してる?」

「そうです。天元という術師は人間という器を超え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな《天元の進化》によって、()()()()()が人間に干渉を始めるのが《中道の世界》のルートにおける大きな転換点の一つなんです」

 

 喋っている間に思いついた事を羂索は口に出し、橘はそれを肯定する。

 天元は9年程前に、老化による進化を止めるため500年に一度行う星漿体との同化に失敗している。

 そして同化の失敗により、天元は不死ではあっても不老ではなかったため、肉体が老いて進化を始めたのだが──無論、羂索は天元が進化していることについて把握していた。

 天元は進化することによって《呪霊操術》の対象となるため、進化した天元を《呪霊操術》で捕らえて人間と融合させることが羂索の目的の一つではあったのだが、まさか()()()()()()天元を使って実験をやろうとしている存在がいるとは思わなかったようで「やっぱやりたくなるよね、融合は浪漫だもん」と言って、ニコニコ笑っていた。

 

「どんな人間かなぁ。天元のことを知ってるとなると、九十九か……いや、私と同世代の術師や宇宙人とかの可能性もあるね」

「人間じゃないです。《地球》ですよ。私達の住んでる惑星の」

「……え、《地球》? でも別に《地球》って生き物じゃないでしょ」

 

 人間だと想定していた羂索は、まさか天元を利用しようとしているのが《地球》だとは思わなかったようだ。

 

「そして、人類を滅ぼすのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。……うーん、定義が難しいので、その表現で合ってるかは微妙ですが。《予言の書》では『《地球》より産まれし呪いが人類を滅ぼす』程度のことしか記述されていないのでなんとも言えません」

「《地球》への畏れから産まれる呪霊は居ない──とは言い切れないけど、呪霊ってのは基本的に人間の負の感情から産まれるものだ。最近は自殺スポットや病院とか学校とかが多いけど。自然系だと森とか海とか山とか、恐怖の内容が具体的に想像できるものじゃないと呪霊として具現化したところで大した強さはないんじゃない? 検証してないから分からないけど、《地球》は対象があまりにも多くて曖昧すぎて、呪力がちゃんと集まらなくてそもそも呪霊として具現化できないと思うんだよね。宇宙とかだったらまだ分からなくはないけど」

 

 羂索の言うとおり、あくまでも呪霊は人間の恐怖や畏れなどの負の感情によって産まれる。

 確かに自然もまた《地球》という大枠で捉えることができるかもしれないが、対象があまりにも多いため負の感情が分散し、()()()()呪霊として具現化することはできないだろう。

 羂索の考察は()()()()()。だが、そこに《救世主(メシア)》というイレギュラーが発生することで、異常が発生する。

 

「貴方の言う通りです。なので、この《地球》の呪霊が産まれるのは《救世主(メシア)》が産まれてからなんですよ」

 

 橘の話を聞いた羂索は()()()()のことを思い浮かべながら尋ねた。

 

「……もしかして、《救世主(メシア)》の対みたいな感じで産まれる?」

「当たらずも遠からずですね。対、というよりかは《救世主(メシア)》が世界の天秤を大きく傾かせるため、()()()()()()()()()()()()()()()みたいな感じで出てきます。何か、心当たりはありませんか?」

「現代最強の呪術師・五条悟──彼が産まれたことで呪霊のレベルが上がったというが……なるほど、その例に当てはめれば納得はいくね。全く、人類を滅ぼすような呪霊って、《救世主(メシア)》って奴は一体全体どんな奴なのか興味が尽きないよ」

 

 羂索の言う現代最強の呪術師・五条悟が産まれてから呪霊のレベルが上がったのは、呪術に関連している人間からすれば周知の事実だった。圧倒的な存在である五条悟に対するカウンターとして、特級相当の呪霊が複数現れたり、長い間沈黙していた呪物が活性化するなど。五条と呪霊側のレベルの因果関係を証明する根拠がいくつも確認されている。

 

「ちょっと時系列がごっちゃになってきましたね。整理すると、《中道の世界》でまず最初に起こるのが天元を通じた《地球》の介入。その後に産まれるのが《救世主(メシア)》で、それに対するカウンターとして《地球》の呪霊達が産まれる流れですが、ここまでで何か質問ありますか?」

「──そういえば、天元に介入するのは《地球》の意思だって言ってたけど、具体的にはどんな感じの意思なの? 《地球》は人間みたいに感情豊かな気はしないけど」

「意志の正体は、人間同士の戦争や環境破壊など人類繁栄の裏で蓄積されていった負荷に対する《地球》の()()()()みたいなものです。人間で言うところの反射が一番イメージに近いですかね。今まで人間には観測することが出来なかった信号が、《救世主(メシア)》の誕生で強くなり観測できるレベルまで強くなったことで天元に干渉できてしまった……って感じです」

「ガイア理論とはまた違う感じだけど、抵抗反応ねぇ。人間を排除して環境をリセットしたいとかそんな感じなのかな?」

「どうなんでしょ? でも、()()()()()()()()()()()みたいな不可解なモノが地球にはありますし、地球に()()()()()()()()()が備わっていてもあり得ない話じゃないでしょう」

 

 橘は話し終えるとコーヒーと一緒に頼んでいたケーキを口に入れ、一息ついた。羂索もまた溶けかけのアイスを口に入れてコーヒーを啜り、少しだけ無言の間が続く。

 そんな互いに無言の中、最初に口を開けたのは羂索だった。

 

「君の話は興味が尽きないんだけど、そろそろ聞いときたいことがあるんだよね。──()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「うーん、理由は《予言の書》に記述されているから動くしかなかったとしか言えません。ただ、私個人の意思としては《救世主(メシア)》を()()()()()に誘導するための協力者が欲しかったからですかね。……本当に不本意なんですが、流石に人類が全滅するなんて事が起こり得ると知って動かないほど、薄情にはなれませんでした。それに、《救世主(メシア)》の行動によっては、《予言の書》に記されていない最良の未来が訪れるかもしれませんからね」

「確かに、私もまだまだやりたい事があるから人類が滅びるのは勘弁してほしいね。それに、《予言の書》なんて不愉快なモノに踊らされるなんて御免だ。久方ぶりに闘争心ってやつが湧いてきたよ。クソッタレな《予言の書》を出し抜いてやるってね(仮に人類を滅ぼすんなら、私の手で最高に面白くしないと死んでも死に切れないよ。それはそれとして《救世主(メシア)》がどんな奴なのかは気になるけどね)」

 

 羂索としては面白い情報を提供してくれた橘に感謝をしているし、《予言の書》という不愉快な呪具の予言を出し抜いてやるという目標もできた。

 それに何より、《救世主(メシア)》という不確定要素が自身の手掛けた計画の中で一体どんな動きをして、どんな結末を齎すのか見てみたくなったのだ。

 そしてあわよくば……。

 

「では、羂索さん。貴方は私に協力してくれますか? 共に《救世主(メシア)》を最良の選択へ導くために」

「いいよ。《予言の書》について把握しておきたいし、君と協力するのも面白そうだ(もし予言の通りの未来になるなら、《混沌の世界》も見てみたいけど、敢えて《中道の世界》のルートに行かせて《地球》の呪霊がどんなものなのかを見てみたい気持ちもある。いやぁ、《予言の書》の内容通りに進むのは気に食わないけど、まさかこんなイレギュラーが発生してくれるなんてね。2年後が楽しみだ!)」

 

 楽しい未来を想像しながら羂索は笑い、その内心を隠しながら橘に協力することを約束した。

 

「だが、予言通りに進むとはいえ不安もある。いくつか縛りを設けさせてもらうよ。構わないね?」

「えぇ、それも《予言の書》に記述されています。私にはやり方が分からないので、よろしくお願いしますね」

 

 幾つかの問答をした後で、羂索と橘は幾つかの縛りを結んだ。

 これにより《予言の書》に記されていた橘と羂索との出会いと、協力を取り付けるまでの出来事が書かれたページは終わり、彼女達に僅かばかりの休息の時間が訪れる。

 

 だが、《救世主(メシア)》誕生のプロローグはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やーっと終わったぁ」

 

 《予言の書》から解放されたことで一時的に休息の時間が訪れ、緊張が切れた橘は机に突っ伏した。先程まで己と堂々と話していた彼女の様子からは想像し難い姿に、羂索は糸が切れた人形を幻視した。

 

「終わったって?」

「《予言の書》って、あれしろこれしろって強制される期間が決まってるんですよね。今のところは来年まで大丈夫そうですけど……はぁ。これからもっと忙しくなるって考えると憂鬱になりますよ」

「ってことは、今なら君のこと殺せちゃう?」

「まだ死なないんで無駄だと思いますよー」

 

 先程までとは打って変わってだらけた様子の橘に、羂索は笑えないジョークを言うが、橘は本当に疲れているのか軽く流した。

 

「あ、そうだ」

 

 羂索は頬杖をつきながら橘を見ていると、聞き忘れていた事があったことを思い出した。

 

「そう言えば、なんで《予言の書》が君の家にあったの? もし代々継承しているとかなら、継承者に何も言わないのは少し不自然だ」

「つまらない話ですけど、《予言の書》は私のクソッタレなご先祖様が作ったものです。ちなみに母も継承するまでは何も知らない人間だったようですね」

「ということは、何か縛りでもあるのかな。……それにしても、その本から感じる呪力は《特級》に相当する力を持っているとは思えないくらい弱いけど、何か理由があったりする?」

「あ、それはこの本が()()()()()()()()()()()()()からです。この《予言の書》って《■■■経典》っていう本物の《予言の書》を写本して、その写本をご先祖様が呪物にしたものみたいですから」

「え、それって写本なの? というか、何経典だって? 全然聞き取れなかったんだけど」

「あー、この《予言の書》って勝手に()()が入るんですよ。言っちゃダメな文章とか言葉があって、私自身は理解しているんですけど、他人には()()()()()()()()()()。そういう縛りがあるみたいですね」

「ちなみに、そのナントカ経典って誰が書いたものとかは知ってるの?」

「さぁ? 写本した私のご先祖様も、たまたま見つけたようですし。写本が終わって()()()()()()()()()()()()()()()みたいですよ」

「ふーん。ところでさ、さっき強制されるって言ってたけど、具体的にどんな感じになるの?」

「イメージは糸で操られる感じですかね? 貴方への連絡も気がついたらしてたし、今日はずっとベッドで寝ていようと思っていたのに気がついたら服を着てこの喫茶店の前にいました」

「そんな効果があるなら相応の呪力がありそうなもんだけど、()()()()()()()()()()()()? ……にしても、またとんでもない呪具に目をつけられたね。初めてだよ、呪具に翻弄される人間に同情するなんてさ。あ、あと気になることがあるだけど──」

 

 女子高生同士の会話は日が暮れるまで暫く続き、また定期的に会うことを約束してから彼女達は解散した。

 橘はため息を吐きながら家路に、羂索はスキップをしながら2年後に行う計画のために呪霊の捕獲へ向かう。

 《救世主(メシア)》が産まれるまでは《予言の書》にイレギュラーは発生せず、予言の通りの結果になることは確定している。

 だが、確定している未来に至るまでの過程は《予言の書》の存在により、物語の大筋には影響しないものの、《予言の書が存在していない平行世界(原作)》とはまた違ったものになる。

 

「げ、マジで?」

 

 卓越した技量によって創り出された人避けの結界を張っていたにも関わらず、羂索は()()()()()と邂逅してしまった。

 誰かがまるで狙い澄ましたかのような唐突な出会いに、羂索は頭を抱えたくなった。

 

「君は、もしかして……」

 

 袈裟を着た、特徴的な前髪をしている呪詛師。それは、羂索が将来肉体を奪う人物だった。

 

「やぁ。私は夏油傑。お嬢さん、君の名前は?」

「あーっと、氷川。氷川裕子です」

 

 肉体を奪うものと、奪われるもの。偶然にしては悪趣味な出会いだ。

 

「ところで君、もしかして呪霊を操ることができたりする?」

 

 羂索が手に持つのは()()()()()()()()()()()

 それを見た夏油は哀れみの表情を浮かべながらも歓喜の感情を抱く。

 

「えぇと、まぁ……」

 

 一方の羂索は逃走を考えるも現在の肉体では不可能だと判断する。

 そして、以前から夏油に関する情報を集めていたため、今から夏油がしてくるであろう提案が予想できた羂索は、それを渋々許容することを決めた。

 

「あぁ……辛かったろう、不味かったろう、苦しかったろう! 私と君は同じだ。同じ苦しみを共有できる唯一無二の家族なんだ!! さぁ、私の手を取って。私達の家族の元へ案内しよう。大丈夫、君の苦しみを全て受け入れてくれる自慢の家族達が待ってるよ」

「……キッショ。何が家族だよ」

 

 羂索の呟きはトリップしている夏油には聞こえず、心底嫌な表情をした羂索は夏油の拠点へと連れて行かれることになった。

 

「なんて目出度い日なんだろう!! さぁ、今夜は宴だ! ()()()()の一生の思い出に残る、最高の家族パーティをしよう!! 」

 

 夏油の頭の中には羂索との()()()()()()()が溢れかえり、いつの間にか夏油にとっての羂索は『猿だった両親から隔離して術師の家族達と共に笑い合い苦労しながらも立派に育て上げた同じ術式を持つ最愛の妹』になっていた。

 

「……は?」

 

 流石の羂索も突然妹扱いされたことが余りにも謎すぎて、まるで五条悟の領域《無量空処》を喰らったかのように呆然とする。

 

「私が、私がお兄ちゃんだぁぁぁ!!!」

 

 夜の京都に響く、夏油のお兄ちゃん宣言を羂索は生涯忘れることはなかったらしい。

 

 

 

 





人物表

・橘秋麗
予言の書を持つ高校一年生。母親の死後、予言の書を託される。色々と秘密があり、羂索(JKの姿)のうずまきが不発に終わったのは彼女の体質によるもの。父親とは数度しか会った事がなく、葬式会場でも殆ど喋ることはなかった。ちなみに離婚した原因は母親と橘の持つ体質によるもの。

・羂索(JKの姿)
JK。夏油の肉体を奪うプランが失敗した時の保険として、氷川裕子(呪力はミソッカス)の体を確保。多分、原作の羂索さんも予言の書(本物)って嫌いじゃねと思ったので、本作ではめっちゃ嫌いになっております。原作よりもエンジョイさせたい。

・予言の書
そのまんま。(※本自体に操る力はない)ものの、所有者本人をして即刻クーリングオフしたいくらい嫌な未来や記録してある過去にあった出来事を理解させてくる。予言の結末はお察しのとおり、メガテンで言うカオス、ロウ、ニュートラル。今のところニュートラルが一番やばい。

・救世主
本作の主人公? 邪魔する奴全員ぶっ殺そ〜マインドのやべー奴。本当に救世主? 

・地球
みんなの地球君。いずれ人類に殺意を向けてくる子。おそらくアトラス作品のアレみたいな感じで人類をぶっ殺しにくる。今までいっぱい我慢してきた。褒めてあげたい。

・夏油
原作でも術師は家族って言ってたし、妹ぐらい増えてもいいでしょう。一年後に死んで、体を奪われて好き勝手される可哀想なお兄ちゃん(存在しない記憶)。羂索と会ったのは予言の書のせいではなく、ただの偶然(バタフライエフェクト)。

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