羂索vs九十九・乙骨・脹相・天元。
天元の構築する薨星宮の結界が解体され、1人の侵入者が足を踏み入れた。
「やはり《予言の書》通り、か。君が天元の護衛のため、ここに居るのは知っていたよ。──乙骨憂太(薨星宮ではなく、空性結界で待ち構えていたか。何か狙いでもあるのかな?)」
「……一応聞きますけど、あなたが羂索で合ってますよね?(天元様の言う通り、夏油の姿じゃない)」
天元を捕獲するため薨星宮に侵入したのは羂索。
そして、その羂索を迎え入れたのは《特級術師》乙骨憂太。
「なんだ、
「──氷川裕子の肉体、ですよね。天元様から聞きましたけど、その体は夏油の肉体より性能がかなり落ちるんでしょ?(天元様って女の人だったんだ……)」
羂索は己の両腕を復活させるため
羂索にとって魂を変化させる攻撃を喰らった事は初めてだったため、腕が戻るかは賭けではあったが、真人が分身や《再編領域》によって弱体化していた事もあり《無為転変》によって変えられたのは夏油の肉体の情報のみで、羂索自身の魂までには《無為転変》は及んでいなかった。
《再編領域》や呪霊のストックを引き継ぐために幾つか縛りを結ぶ必要はあったものの、両腕を復活させた羂索は無事に真人の《無為転変》を使って《死滅回遊》を始めることが出来た。
「万が一の為に先生の力で遺体を保存していてね。お陰で《呪霊操術》も健在さ」
夏油傑の肉体に乗り移る前に羂索は葛飾美不二の術式《葛飾呪術絵録》によって描かれた絵の中に氷川裕子の肉体を保管していた。
《葛飾呪術絵録》によって作り出された絵の中は《獄門疆》と同じく時が流れない。
《獄門疆》との違いは、出ようと思えばいつでも出られること。外部から燃やされたり壊されたりすれば中にいれたモノごと無に帰すなどのデメリットがあり人物の封印などには向かないが、遺体を腐らせないようにするには充分すぎた。
「お喋りはこのぐらいで。さっさと始めましょうか」
「君はアレかな。異性と話すのが苦手なタイプなのかな? 女の子と仲良くなりたいなら、話の積み重ねは疎かにしちゃいけないよ」
「僕にはもう大事な女の子がいるので」
乙骨の左手の薬指に嵌められた指輪がキラリと光り、何もない場所から異形が這い出てくる。
「呪いの女王──その出涸らしか。……うん、直で見ても大した事はなさそうだね」
「憂太ァ。あの女嫌ぃ? 私は嫌ぁい!」
「うん。僕も今、もっと嫌いになったよ」
「私もぉ!! アイツ殺したぃぃぃ!!!!」
「出涸らし呼ばわりされて怒った?」
「訂正しなくていいですよ。後悔する間もなく殺しますから(最大の脅威は《再編領域》。呪霊はリカで対処できる。九十九さんと脹相さんに繋げるためにも、僕がこいつを──)」
外付け術式であるリカと共に羂索に接近するその刹那。
乙骨は事前に計画した作戦を完遂するための条件を今一度頭の中で思い浮かべた。
・・・・
時は羂索の襲撃前に戻る。
天元と九十九との間で一悶着あったものの。天元が進化したことによって《呪霊操術》の対象となり、羂索の目的が天元と日本人全員との同化であることを知らされ、個人的な感情を抜きにして護衛する必要があると判断した九十九。乙骨や脹相も、それぞれの事情や感情を飲み込み、最終的に天元の護衛として薨星宮に残ることを決めた。
九十九・乙骨・脹相が護衛に残る事を了承すると、約束通り天元は《死滅回遊》のルールについて、羂索の素性やその目的を防ぐためにすべきこと、《獄門疆》の封印解除方法など、九十九達の求める情報を開示した。
必要な情報を得た虎杖達《死滅回遊》に参加するグループと別れた後、九十九・乙骨・脹相・天元の4人はいつ羂索が攻めてくるか分からないため、自己紹介も兼ねて自身の術式や出来ることを簡潔に教え合ってから、炬燵の中に入り作戦会議を開いた。
「さて、作戦を決めなきゃいけないわけだけど。最大のネックは言わずもがな、あの《再編領域》。術者本人の呪力は殆ど使わず、領域展開と同等の効果で、連発も可能。……いや、割とマジでどうしようか」
「えっと、僕はその《再編領域》を見ていないので何とも言えないんですけど。本当に何のデメリットもなく使えるんでしょうか?」
一年前、乙骨は最愛の人の魂を現世に抑留し、その縛りによって無尽蔵の呪力と無制限の術式模倣という強大な力を得ていた。
乙骨自身の術師としての素養もあるのだが、強大な力を得るためには何かを犠牲にしなければならないという事を、乙骨は身に染みて理解している。
故に五条のような規格外は例外として、何か使用する際に制限があるんじゃ無いのかと乙骨が疑問に思うのは当然の帰結だった。
「所感になるけど。私には事前準備が大変そうなだけで、発動には何かしらのデメリットがあるとは思えなかった。……天元、お前の意見は?」
「九十九由基の言う通り。《再編領域》は《呪霊操術》の極の番《うずまき》を発展させたものだ。前提として、《再編領域》はあの子の神業的な結界術の腕があってこそだ。呪霊を術式として抽出し、情報がない空の結界に術式を組み込み再編し運用する。その過程で幾つか縛りを用いているんだろうが……。弱点らしい弱点は、通常の領域展開と同じく再展開のクールタイムが必要なぐらいだろう」
「しかもそんな《再編領域》を最低でも20は持っている。更に、そのクールタイムが通常の領域展開後の術式の焼き切れと同じなら、《再編領域》の弾切れは期待出来ないだろうね」
九十九と天元の言葉に全員が口を閉ざす。
相手は最低でも20回は《再編領域》を連発でき、呪力切れも起こさない。対してこちらは《再編領域》に対抗するために、簡易領域か領域を展開する必要があり、そのどれを使って凌いだとしても先にガス欠するのは自分達だ。
更に、天元をして神業的と称すほどの結界術の腕だ。領域勝負を挑んだとしても勝ち目は薄いだろう。
「まずは、羂索に勝つために必要な前提条件をまとめておこう」
九十九達が勝てるビジョンを思い浮かべる事が出来ない中で、最初に沈黙を破ったのは天元であった。
「①《再編領域》の攻略。②《呪霊操術》への対処。③葛飾美不二の介入を避けること。大まかに言えば、この3つをクリア出来れば羂索を倒すことも不可能じゃ無いだろう」
「①と②は分かるが、③はなんだ?」
「羂索の仲間に葛飾美不二という呪詛師が居てね。彼女の術式は君も実際に体験しているはずだよ、九十九由基」
「……まさか、渋谷のアレか?」
「──あぁ、アレか。俺のお兄ちゃんパワーが不足していれば危うかったが、アレは加茂憲倫の攻撃じゃなかったのか?」
「アレ?」
天元は葛飾美不二の姿を結界内に投影して、渋谷で九十九が領域展開を使い防いだ術式による攻撃について話し始めた。
「彼女の術式を簡単に説明すれば、絵に描いたモノを現実に再現することだが──葛飾美不二の術式と才能は五条悟と並ぶ程だ。加えてその規格外の術式と才能は羂索に師事する事で更に研ぎ澄まされ、現実世界にICBMを再現するまでに至った。呪詛師ではなく呪術師であれば、間違いなく特級認定されていただろうね」
脹相は「ICBM?」と首を傾げているが、ICBMという単語を聞いた九十九と乙骨の表情は強張り冷や汗が流れていた。
一度領域を使い防いでは見せたものの、九十九は防ぐだけでガス欠を起こした。仮にこの薨星宮がある高専に向かって再び発射されれば、防ぐだけで消耗させられ、九十九は戦いに参加する事も儘ならないだろう。
乙骨もまた日本で義務教育を受けた学生だ。ICBMの詳しい概要は知らずとも、冷戦期に製造された核兵器である事は知っている。数十キロにも及ぶ範囲に被害を齎す規格外の攻撃を、五条悟の無下限以外でどうやって防げばいいのか想像できなかった。
「お前なら防ぐ事ができるか、天元?」
「断言しよう。私にアレを防ぐ術はない。仮に渋谷に放たれたICBMが薨星宮の上にある高専に直撃すれば、私はともかく君達は爆発に巻き込まれ死ぬか、生き埋めになるしかないだろう。──だが、葛飾美不二に関しては心配しなくてもいい。葛飾美不二は現在、もう1人の仲間である橘秋麗に付いている。それに、私を取り込みたい羂索が、薨星宮に隠してある私の本体を損壊させかねない手段を取るとは思えない。やるとしても最終手段としてだろうね」
「……じゃあ、③はクリアしているってことですかね?」
「正確に言うなら、考えても仕方がないってことだろう。そんなことよりも①はどうする? ②なら真人クラスが出てこない限り、私や乙骨君なら対処しながらでも戦えるだろうけど。《再編領域》をどうにかしないと私達は確実に負けるぞ」
九十九は③については考えても仕方がないとまとめると、②はともかく①はどうするのかと天元に問いかけた。
「まず《再編領域》についてだが──君達には薨星宮の上、空性結界にて作られた部屋で戦ってもらう。結界術を扱えるモノならばある程度設定を弄れるため君達にとっては不利になる面もあるかもしれないが、空性結界内ならば私は《再編領域》を解体することが出来る」
「解体って……。領域って解体できるモノなんですか?」
「渋谷での戦いを見る限り《再編領域》の構成自体は通常の領域展開と殆ど変わらない。加えて、現在の羂索の結界術の技量が私より上であろうと、空性結界の主は私だ。領域のベクタパラメータを中和する設定を流し込み、空性結界ごと《再編領域》を解体する事は充分可能だろう」
「よく分からんが、その解体には何秒かかる?」
「10秒……いや、5秒で解体してみせよう」
「……なら、勝ち目はあるか? 問題はその5秒を誰が凌ぐかだが。乙骨君、お兄ちゃん。君ら簡易領域とかって使える?」
「……すみません。領域なら展開できるんですけど」
「俺も無理だ。領域も……展開できるか? 試してみなければ分からん」
九十九の問いに乙骨は申し訳なさそうに、脹相はハッキリと無理だと返す。
「なら先鋒は簡易領域を使える私かな。羂索に《再編領域》を使用させた後は天元に解体させ、私は簡易領域で解体が終わるまで耐える。連発できると言えど流石に限界はあるだろうから、解体直後の僅かな隙を狙って、君達や私の最大火力でトドメを……」
ここで九十九の言葉が一旦途切れ、頭の中に浮かんだ疑問を口に出した。
「天元、お前は《再編領域》を連発されても解体できるのか?」
「そこに関しては心配しなくてもいい。先程も言った通り空性結界の主は私だ。空性結界内ならば領域の情報は筒抜けになる。初見の領域をいくら出されようとも解体スピードに支障はきたさない。──それに、私も肉体だけが進化しているわけじゃない。結界術のレベルも、天地の視点と感覚を理解したことで以前と比較してもかなり向上したと自負している。君達は羂索との戦いに集中してくれ」
妙に自信ありげな天元に九十九はほんの少し違和感を覚えるも、《再編領域》を攻略するには天元の領域の解体しか有効策がないため、特に何も言わず天元の腕を信じることにした。
「さて、後は《再編領域》を解体した後だけど──」
「あの、先鋒の話なんですけど。僕に任せてくれませんか?」
九十九は《再編領域》を攻略した後の話に進めようとしたところで、乙骨が待ったをかけた。
「それはなぜだい?」
「えっと、作戦を始める前に九十九さんの術式について教えて貰いましたけど。僕には九十九さん以上の火力は出せません。一時的に近い火力は出せるかもしれませんが時間制限もありますし、確実に羂索を殺せるとは言い切れません。だから、羂索を確実に殺すためにも九十九さんには万全の状態でトドメを刺せるように待機してもらいたいんです。それに僕には《呪言》や
「ならば、仮に乙骨が失敗した後は俺が出るとしよう。不思議な感覚だが、加茂憲倫と戦っている最中妙に力が張ってくる感覚があった。以前までの俺なら為す術もなく殺されていただろうが。今も尚お兄ちゃんパワーが湧き上がり増大し続けている俺なら、そう易々と殺されはしない筈だ」
「……」
乙骨と脹相の話を聞き、少し考え込む九十九。
現在の作戦だと戦力の逐次投入となるが、術師の戦いは基本的に1対1。仮に3人同時に戦ったとしても、まともな連携ができず変則的な1対1になるだけだろうから、先鋒が1人で戦うのは問題ない。
羂索を削り天元に《再編領域》を解体させるためにも、先鋒には持久力が求められる。明確な隙を確実に作るためには何度か《再編領域》を凌がなければいけないからだ。
全力戦闘に時間制限があり簡易領域が使えない乙骨に先鋒は不向き。やはり簡易領域を使える自分が先鋒をするのがいいか……と考えたところで、九十九は《再編領域》を攻略することばかりに気を取られ、危うく取り返しのつかない間違いを犯そうとしていたことに気づいた。
「……よし決めた。乙骨君の言う通り、先鋒は君に任せる。作戦に柔軟性は持たせるが、基本は一本道だ。私達の作戦は──」
あくまでも自分達は格上へ挑む挑戦者なのだ。
「──はい。先鋒は僕に任せてください。必ず皆さんに繋げてみせます」
その事を自覚した上で挑戦者達が練り上げた作戦とは──
・・・・
「リカ、全部だ(僕達の作戦はシンプルだ。長期戦を視野に入れない超短期決戦! 《再編領域》を出す暇がない程攻め続け、必殺の一撃で羂索を殺す!)」
最終的に九十九達の出した結論は短期決戦による決着。
元より持久力が上回る相手に持久力勝負を仕掛けても負けるだけ。
先鋒を務める乙骨の役割は、長期戦を完全に捨て、全力で攻め続けることだ。
「そんなに急がなくても私は逃げないよ。もしかして、持久力に不安でもあるのかな?」
乙骨の外付け術式であるリカとの完全接続。
5分間という制限はあるが、完全接続している間はリカからの呪力の供給、乙骨本来の術式である《模倣》の使用、リカの完全顕現が可能となる。
「《動くな》」
「《呪言》か!?」
殆どノータイムで放たれた《準一級術師》狗巻棘から《模倣》した《呪言》は、耳から脳にかけての呪力防御が間に合わなかった羂索の動きを止める。
「《星の怒り》」
《呪言》で動きが止まった羂索。
その硬直を見逃さず、九十九の腕をリカに喰わせて一時的に《模倣》した《星の怒り》により、拳に仮想の質量を付与した乙骨は、羂索の顔面に拳を叩き込むが──
「迷いなく女の顔を全力で殴ってくるとはね。普段から君の彼女にもやってるのかい?(乙骨の術式は《模倣》。だが、これは誰の術式だ? 拳の周りに何かが付与されているような、そんな打撃。無下限は無いとして、一番可能性が高いのは……)」
羂索は硬直する直前に自身の顔と乙骨の拳の間に呪霊を出現させ、《星の怒り》の威力を減衰させた──のだが、頬が抉れ白い歯が剥き出しになる程のダメージを負った。
直ぐさま反転術式で治しながら距離を取り、乙骨の《模倣》元の術式がどんな効果で誰のものを《模倣》したのかと考えを巡らせながら、追撃をするために近づいて来る乙骨に向かい、羂索はムカデ型の呪霊を繰り出した。
「こんなに迷いなく拳を振り切れるのは貴方が嫌いだからですよ(九十九さんの《星の怒り》はクッション代わりの呪霊を挟まれて防がれたけど、ダメージはちゃんと通った。《模倣》だけど、出力を上げてちゃんと当てれば頭ごと吹き飛ばせるかな)」
乙骨はリカにムカデ型の呪霊の対処をさせ、羂索の懐に潜り込み《星の怒り》で拳と脚に仮想の質量を付与して攻め続ける。
羂索は乙骨の怒涛の攻撃を防ぐため、絶え間無く1級相当の呪霊を繰り出し肉壁にするも、《星の怒り》を拳や脚に付与した乙骨はまるで無双ゲームのキャラクターのようにどの呪霊も全て一撃で祓っていく。
「今出してる呪霊達は特級に勝るとも劣らないほどの頑丈さが取り柄なんだけど、随分と簡単に祓ってくれるね(重さ──いや、拳の速さには影響していない。なら、拳や脚などの特定部位限定の呪力出力の強化? いや、この出力は異常だ。何かとんでもない質量のモノで殴られたような……)」
「……そっちこそ、随分と余裕に見えますが(妙だな。なんで羂索は《再編領域》を使ってこない。氷川裕子の肉体になったから使えなくなったとか? ……いや、そんな甘い想定はするべきじゃない。僕には《再編領域》を使わなくても勝てると思っているとか? けど、それならそれで好都合だ。天元様の領域の解体という手札を隠したまま九十九さん達に繋げられる)」
羂索に攻め込む一方で、乙骨は違和感を覚えていた。
なぜ羂索は《再編領域》を使わないのかと。
氷川裕子の肉体となり使えないのか、使う必要がないほど舐められているのか。だが、乙骨は自分が舐められているからといって怒るタイプではない。
使わないなら使わないで助かると割り切り、《星の怒り》の出力を上げ羂索を守る盾となっていた呪霊を纏めて全て祓いきった。
「どうやら、相当良い術式の《模倣》を手に入れたようだね。そこそこ強い呪霊達があっという間に祓われてしまったよ」
「……そうですね。僕には勿体無いくらいです(リカとの接続時間はそろそろ3分を切る。《再編領域》も使ってこないし、まだ全然余裕そうだ。……どうする、ここで僕から領域を展開するか? いや、天元様が《再編領域》を解体できるという手札を切るのはまだ早い。なら──)」
呪霊を全て祓い出来た道を乙骨は疾走し、リカと共に再び羂索へ接近する。
「《動くな》(ここからは作戦の第二段階! リカとの接続時間、3分以内で必ず決める!)」
「死んじゃぇぇぇ!!!」
再び《呪言》を放ち羂索の動きを止めリカに攻撃させるが、羂索の動きが止まった様子はなく、渋谷で見せた少女型の呪霊を使いリカの攻撃を防いだ後、腕を掴んで遠くへと投げ飛ばした。
「くそっ」
「流石にもうその手は食わないよ。《模倣》と言っても、意外と手札は少ないのかな?」
「《リカ、戻れ》」
《呪言》と《星の怒り》しか使わないことから《模倣》した術式が少ないのかと探りを入れようとするが、乙骨はそれを無視し《呪言》で遠くへ吹き飛ばされたリカを近くに戻して一度体勢を整える。
「《ぶっ潰れろ》」
「だから効かないって。本当にもうネタ切れなのかい?」
「……ぐっ!?」
再び《呪言》を防いだ羂索は、4体の少女型の呪霊を高速で接近させ乙骨の手足を拘束し、落武者のような呪霊で乙骨の身体を袈裟切りにした後、同じ顔をした無数の少女型の呪霊を放出して乙骨を痛めつけるように指示を出した。
「憂太ぁ!?」
「そろそろ終わりかな」
リカは乙骨に近づく少女型の呪霊に嫉妬しながら、囲まれて痛めつけられている乙骨を助けるために動こうとするも、少女型の呪霊の術式によって生み出された蜘蛛の糸のようなもので体を拘束され、身動きが取れずにいた。
「はぁ……! はぁ……!」
数秒後、乙骨へ群がる少女型の呪霊を消した羂索の目に映るのは、息を荒くし、全身が血に塗れ膝をつく乙骨。
「特級と言えど所詮はこの程度。《再編領域》を使うまでもなかったね。折角面白い術式を持ってるのに、宝の持ち腐れにも程があるよ」
「憂太ぁ!! 憂太ぁぁぁぁ!!!」
「折本里香の出涸らしも、ただ強い呪霊となんら変わらない。私の手持ちの呪霊一匹で抑え込める程度の、面白みのない式神だったね。……そうだ! 君を殺す前に彼女を呪霊生産工場に放り込んで、幾つか呪霊を作ってみようか! もし《模倣》やそれに近い術式を持つ呪霊を生産してくれたら、そこの出涸らしにも幾分か価値が生まれるだろうからね!」
「……っ!!!!」
とてもいい笑顔で最悪の提案をする羂索に、乙骨は今まで以上に殺意の籠った目で睨みつけ、奥歯が割れるほど口を噛み締めた。
「……やる」
「何か言った?」
人間である以上、互いに違うのは当たり前。けれど、中にはどうしても受け入れることの出来ない相手というのは存在はいる。
仲間を傷つけられ、自身の最愛の人を奪おうとした夏油へ抱いたものと同じかそれ以上の、純粋でドス黒い殺意が乙骨の中に湧き上がる。
「ぶっ殺してやる」
抑え切れない殺意が口から漏れ出すと共に、乙骨の限界に近い体が動き出した。
「今更やる気が出てきたの? 大丈夫、君の体も有効活用してあげるよ。──そうだ。なんだったら、そこの出涸らしと子供でもこさえてみるかい? 私も呪霊と式神と人間の合の子は見たことがないから、笑える傑作を生産してくれると嬉しいな」
リカとの接続時間、残り2分10秒。乙骨はここで
「布瑠部……」
両腕を突き出し、方陣を描くようにゆっくりと動かし、祝詞を唱える。
「──まさか、《模倣》でも使えるというのか!?(まずい、流石に摩虚羅は《再編領域》があると言えど対処の際に隙ができる。天元の空性結界の外側でこちらの隙を狙っているだろう九十九に致命的な隙を晒すことになる!)
過去に六眼と《無下限呪術》の抱き合わせを殺した禪院家の虎の子。
現代において、それを調伏する資格を持つのは伏黒恵ただ1人。
だが、羂索の目の前にもう1人。その資格を持つ人間が現れた。
「由良由良」
「させるかっ!(幾ら魔虚羅を出そうと《再編領域》なら適応する前に確実に殺せる! 恐らく九十九の術式は乙骨が手足に纏っていたあの攻撃だろう。私の周囲を呪霊で守らせれば、完全に防ぐ事は無理でも威力は充分減衰できる!)」
急ぎ九十九の攻撃に備え自分の周囲を耐久力に特化した呪霊達で固めた後、《再編領域》を使い乙骨と魔虚羅共々殺そうとするが、《再編領域》を展開し結界を閉じ切る前、羂索がその目に捉えたのは魔虚羅ではなく、乙骨の口元にある蛇の目と牙だった。
「《動くな》」
「……ぐっ!(焦って呪力の防御が甘くなっていた! まさか魔虚羅はブラフか!? 本命は──)」
四度目の《呪言》。魔虚羅という最大の餌にまんまと釣られた羂索は周囲の呪霊と共に動きを止められる。
「憂太を返せぇぇ!!!」
術式による拘束を力づくで引きちぎったリカは、乙骨が事前に出していた指示に従い、動きの止まった羂索の周囲の呪霊を腕の一振りで吹き飛ばした。
そして《再編領域》に閉じ込められている乙骨を救うべく、領域の外郭を殴ろうとするが、既に天元によって領域の解体作業が進んでいたのか、その拳は外郭に当たらず空振った。
「最高だぜ、乙骨君!」
「──おっも!?」
そして、周囲の呪霊が吹き飛ばされて単独となった羂索の頭上から現れたのは反転術式により
式神《凰輪》を投擲し、羂索へ巻き付かせ拘束。《星の怒り》によって仮想の質量も付与されているせいか、《呪言》による拘束がなくなってもその場から動けずにいた。
「憂太ぁぁぁ……。大丈夫ぅ?」
「……ありがとう、リカちゃん。僕は大丈夫だよ」
数秒《再編領域》に居たせいか先程よりも傷を増やした乙骨は、涙をポロポロと流すリカに介抱されていた。
血を流しすぎたせいか意識が朦朧とし始めるも、《凰輪》によって拘束されている羂索を見て当初の予定通り作戦が進んでいる事を確認し、安堵の笑みを浮かべる。
乙骨が決死の覚悟で繋いだバトンを、完璧に受け取った九十九がそのバトンを次に託すのはもちろん……
「頼みます、脹相さん」
「頼んだぜ、お兄ちゃん」
空性結界の外側で身を隠しずっとこの機会を待っていた脹相が、羂索の頭に狙いを定め《赤血操術》の奥義を放つ。
「《穿血》」
「くそっ──」
羂索は呪霊を出して防ごうとするが、至近距離から放たれる《穿血》の初速はそれを優に上回る。
「母よ、兄妹達よ。仇はお兄ちゃんが取ったぞ」
脹相の《穿血》が、羂索の頭を貫いた。
人物表
・羂索(JKの姿)
夏油の体が無くなったので、アッサリと乗り換えた。呪力ミソッカスだがそこら辺は対策済み。どうやったかはいずれ明らかに?
《再編領域》を初手で使わず乙骨を煽ったり舐めプをしているように見えるが、最後に頭を貫かれた。「舐めプして殺されてちゃ世話ないよ」とレジィ様も呆れています。
・乙骨
今回のMVP。実質、呪言と星の怒りだけで羂索を追い詰めた。あり得ない話だが、今作の羂索の仲間になっていればリカとの間に子供を作ることが出来ていた(人間、式神、呪霊のチャンポンを子供と呼べるなら)
布瑠部ってまこーらを呼び出そうとしていたが……
・九十九
今回の作戦の立案者。天元とはギスっていたが大人なので飲み込んだ。現在は反転術式で腕を戻したため、乙骨は星の怒りを使えなくなっている。
・脹相
仕上げはお兄ちゃん。お兄ちゃんパワーなる謎の力を使い始めた。
「みんなー! 仇はとったぞー!!」
・天元
アッサリと再編領域を解体した頼れるおばあちゃん。進化して、結界術のレベルが上がったようだが……
・?
「これって……」
「あぁ、九十九達の勝ちだ」