羂索と予言の書を持つ女子高生   作:ペロロペ

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話が2017年12月23日、百鬼夜行の前日まで飛びます。本編とはそんなに関係ない、補足みたいなお話となります。
オリキャラが出てきますのでご注意ください。


幕間 羂索と予言の書を持つ女子高生と芸術家

 

 

 2017年、12月23日。世間はクリスマスを控えて街全体に浮かれた気分が漂っているが、京都にある喫茶店もその例に漏れず、クリスマスに因んだ洋楽が客同士の会話を邪魔しない程よい音量で店内に流れている。

 

「こんにちは〜」

「あ、どうも」

 

 そんな喫茶店内で待ち合わせをしていたのが《予言の書》を持つ女子高生・橘秋麗であり、その対面に座っている年若い女性が彼女の待ち合わせ相手──()()()()()()

 

「……いや、どなた様で?」

 

 誰だこいつはと当惑しながら、言葉を絞り出した橘は目の前の女性を見る。

 年齢は20代前半ぐらい。ミディアムボブのストレートヘア。日本人っぽい顔立ちのくせに、グラビアアイドルみたいにデカイ胸が服をパツパツと虐めていて、身長は170cm以上ありそうだ。

 無論、そんな異性を惹きつける魅力に溢れる女と橘は()()()である。にも関わらず、いきなり対面に座ってきたのだから橘が当惑するのも無理はないだろう。

 

「あ、始めまして。サークル名《690721代目鉄棒ぬらぬら》で同人作品を描いてるものです」

「本当に誰?」

 

 一応、橘には目の前の女がどんな人物か《予言の書》に()()()()()記述があったので最初はそれかと思っていたが、彼女の自己紹介を聞いて《予言の書》にも記述されていないやべー奴に絡まれたのでは? と、自信がなくなった。

 

「現在は○Lsiteでデジタル本の執筆を中心に活動していますが、紙の本も出版させてもらってます。よければお近づきの印にどうぞ」

 

 女──《690721代目鉄棒ぬらぬら》はそう言うと、サラリーマンが仕事で使ってそうな鞄から一冊の薄い本を取り出し、名刺を渡す時みたいに軽く会釈をしながら橘に手渡してきた。

 

「あぁ、それはどうもご丁寧に……って、これは」

 

 拒否するのも如何なものかと考えた橘はとりあえずモノを受け取ることにする。

 綺麗な所作で渡された本を受け取り、さてどんな本なのかと橘は表紙を確認して絶句した。

 表紙には海女さんの格好をした年若い女の体に蛸の触腕みたいなのが絡みついているイラストが描かれていて、帯のコメントには『これぞ現代に甦りし蛸と海女!』と書いてあった。

 

 なんと橘が初対面の人間から渡されたのは()()()だったのだ。

 

「《呪われた海女と蛸〜如何にして海女は呪われたのか編〜》という作品です。全部で32ページ、差分イラストが3枚とあとがきの1枚構成になっています」

「《呪われた海女と蛸〜如何にして海女は呪われたのか編〜》」

「私ごとではあるんですけど、そこそこの人気作でして。蛸との異種姦ものなのですが、リアルじゃないはずなのにリアルに感じると評判みたいです。あ、続編もあるのでもし気に入っていただければそちらも。デジタルの方は今なら30%オフになってますから」

 

 照れた様子で自身の作品の評判を交えながら、さりげなく女子高生(未成年)に続編の購入も促してくる《690721代目鉄棒ぬらぬら》。

 橘は表情にまでは出さないが、渡された本と初対面なのにいきなりエロ同人を渡してくる人間にどう対処すればいいのか分からなかった。

 ちなみに、他の思春期の子供達と違い橘は少々特殊な事情によって性に纏わる話題に()()()()()()()()を抱えており、今までその手のコンテツに触れるのを避けてきたせいか、浅い性知識しかないため異種姦がなんのことかよく分からなかった。

 

「あの、ご厚意は有難いんですけどお返しします。その……言いづらいんですけど、性に関するものに少々トラウマがありまして」

 

 持ち帰って捨てることも考えたが、流石に申し訳ないかなと思ったため、橘は本を《690721代目鉄棒ぬらぬら》の前に置いた。

 置かれた本を手に取り鞄に戻した《690721代目鉄棒ぬらぬら》は一瞬悲しそうな表情をするも、直ぐに真剣な表情になり橘の目を見て口を開く。

 

「……あの不躾な質問で申し訳ないんですが、どんなトラウマがお有りなんですか?」

「あぁ、それはですね。実は私って子供が──」

 

 《690721代目鉄棒ぬらぬら》が橘の抱えるトラウマについて物凄く真剣そうな顔で聞いてきたので、橘はつい話しそうになってしまうが、慌てて自分の口に手を当てて塞いだ。

 

「……って。いやいや、本当に不躾な質問をしてきましたね。流石に初対面の人には話したくないですよ」

「すみません。どうにも、一度気になったものは知りたくなる性分でして。触りだけでも教えてもらうことは……」

 

 もっともな理由で話すことを拒否した橘だが、何やら変なスイッチでも入ったのか《690721代目鉄棒ぬらぬら》は鼻を何度かひくつかせ、真剣な顔をしたまま、少しでもいいから聞かせてくれとしつこく聞いてくる。

 何故《予言の書》にも記述されていない面倒くさい女に絡まれる展開になってしまったのか。橘は全部クソッタレな《予言の書》のせいだと責任をなすりつけ、目の前の女にどう対処すべきかと考えていると──

 

「いや、ですから──」

「やっほ、お待たせ〜。ちょっと遅くなっちゃった。橘は()()とはもう仲良くなれたかい?」

 

 冬を意識したコーデをバッチリ決めた女子高生──羂索が現れた。

 

「……仲良くしてるように見えます?」

「なんか疲れてるけど大丈夫? もしかして今日生理きつい日?」

「いや…………別に、なんでもありません」

 

 イラつきを隠さず恨めしげな視線を羂索に向ける橘は、生理なんぞ来たことがないから知りませんよ、と発言しようとして、直前で言葉を飲み込んだ。

 

「氷川さん、()()()()()()()()()はもう大丈夫ですか」

「あぁ、さっき終わったところだよ。たくっ、本当面倒くさいよね。反抗期の娘……いや、妹か? その気持ちをより深く知ることができる、実に有意義な時間だったよ。ま、それもそろそろ終わりだし、今まで苛つかされた分、目一杯利用させてもらうさ」

 

 橘は《690721代目鉄棒ぬらぬら》の口から夏油の名前が出たことで、目の前の女が何者かやっと理解できた。どうやら、目の前に座っている女が《予言の書》に記述されていた、今日羂索が連れてくるもう1人の人間──()()()()を結んでいる呪詛師のようだ。

 《予言の書》に関して《690721代目鉄棒ぬらぬら》は知らないため、会話が不自然にならないようにというのもあるが、またトラウマに関する話題に戻されると厄介だと考え、橘は2人の会話に割って入ってどんな関係なのかについて質問をした。

 

「それで、そこの変な女性──《690721代目鉄棒ぬらぬら》さんとは知り合いなんですか? 羂じゃ「氷川ね」……氷川は」

「あれ、今年の夏に面白い人に会った話をしなかったけ? ほら、北海道で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お前が襲わせたんだろ! って冤罪かけられてアイヌの呪術連から指名手配されちゃった人の話」

「……あぁ。そう言えばそんな話をしていましたね。会う度に必ず聞かされる夏油さんの悪口や愚痴の印象が強かったので、すっかり忘れてましたよ。まさか、目の前の方がそうだったとは」

 

 羂索と橘は去年の夏休み以降、この喫茶店に何度か集まって交流を重ねており、互いに対する遠慮もほとんどなくなっていた。

 兄を名乗る不審者(夏油)に誘拐された事や、自作映画並みのホームビデオの撮影に付き合わされたなど、主に羂索の愚痴を聞かされる事が多かったものの、話の中に異常な芸術家の話があったことを橘は思い出した。

 

「貴方が最近夏油さんの仲間になったという、呪詛師の葛飾美不二(かつしかみふじ)先生だったんですね」

「最初は同人活動のための取材のつもりだったんですけど。ただスケッチをしてただけで、いつの間にやら呪詛師なんて扱いをされてしまって……。最近じゃ、懸賞金目的の人がチラホラ襲ってきたりして、今メインでやってる仕事の方にも影響が出る始末で。暫く芸術家としての活動自体を自粛しようかなと思ってたところを、夏油さんと氷川さんに勧誘されたんです」

 

 自分で話しながら段々としょぼくれた表情になっていく《690721代目鉄棒ぬらぬら》改め、葛飾美不二。

 呪詛師として指名手配され、作家の活動にも影響が出ているらしい彼女は夏油の仲間になった経緯を橘に話した。

 

「そういえば、今日はなぜその葛飾美不二先生がここに?」

 

 美不二の様子を見てトラウマの話は有耶無耶に出来そうかな? と、少しだけホッとした橘は続けて質問をした。

 

「実は、橘さんのことは以前から氷川さんに聞いていましてね。氷川さんの強い要望で、当日の護衛を任されているって事もあるんですけど。……個人的に貴方に興味がありまして、今日は喫茶店の方に付いて来させてもらったんです。氷川さんからは大分ボカして教えられましたけど……橘さんって明日私達が呪術テロを起こすことを知ってるんですよね? その結末がどうなるかも含めて」

「氷川?」

 

 美不二が、橘が未来で起こる出来事を把握していることを知っているかのような口振りで話すので、《予言の書》の内容を漏らさないことを縛りとして結んだというのにどういうことだと、橘は羂索へ非難の眼差しを向ける。

 

「縛りって、言葉のニュアンスを工夫すれば抜け道が多いんだよね。私は情報の断片だけを伝えただけだから、推理して結論に辿り着いたのは先生が頑張ったからだよ」

「ふーん。結構ガバガバなんですね、縛りって」

「縛りというより、呪力が結構ガバガバなところがあるからね。既存のエネルギーみたいに一定の法則ってのがないし、個人の体質や解釈によって変化するなんとも夢みたいに都合のいいエネルギーなんだよね。もしこんなエネルギーが一般人に知れ渡って、人間が生み出せることを知ったら……っと、話が脱線しそうだからこの辺でやめとこ」

 

 羂索が話を中断し、僅かな時間だが三者の間に沈黙が流れる。

 

「そういえば初めてですよね、氷川が誰かをここに連れてくるのは。……というか、テロの準備とかはいいんですか? こんな喫茶店で駄弁ってるほど暇じゃないのでは」

 

 最初に口を開いたのは橘だった。

 橘はテロを起こしたことがないので詳しくは知らないが、準備は大丈夫なのかと聞くと「前日に慌ててるようじゃテロなんて起こせないよ」と、羂索はもっともな言葉を返した。

 

「それに、私たちは京都担当だからね。先生も私の護衛役だし、ここで暇を潰してようと咎める人間はいないんだよね」

「氷川さん、京都の担当になるためにすごい駄々を捏ねてたんですよ。最初は夏油さんの身代わり役をやらされそうになって、東京に連れて行かれる予定だったんですが……。人間って、やろうと思えばいつでも園児に戻れるんだな〜って、見識が広がる良いものを見させてもらいました」

 

 なぜ羂索が京都にいるのか、その経緯を身振りを交えて話す美不二。

 その経緯を聞いた橘は1000年以上生きた人間も駄々を捏ねるのかと、およそ羂索にぐらいしか当て嵌まらないどうでもいい知識を手に入れた。

 

「誰が好き好んで五条悟を誘き寄せる餌になるんだって話だよ。というか六眼を持ってるんだし、本人の肉体と呪力でもない限り騙すことは不可能だってのは馬鹿でも分かるだろう。……と、そろそろ本題に入ろうかな。今日は駄弁るためだけに来たわけじゃないんだ。実はちょっと、確認したいことがあってね」

「奇遇ですね。私も氷川には聞いておきたいことがあったんです」

「多分内容は同じかな。……橘、君が明日のテロの時にどんな動きをするのか聞いときたくてさ。結果は決まっていても、過程は違うんだろ? もしかしたら私達の協力が必要なんじゃないかと思ってね。どう、合ってる?」

「……よく分かりましたね。けど──」

 

 羂索の言う通り、橘はテロ当日に《予言の書》に記述されていることをやらなければならない。

 そのため《予言の書》に記述されている通り、テロの前日に羂索に協力を要請するつもりではあったのだが……。

 橘は美不二の方をチラリと見て、いくら察しているとは言え《予言の書》に関係する話をしてもいいものかと言葉に詰まらせた。

 

「……話しづらいようなら、席外しときましょうか?」

「待った」

 

 橘から向けられた視線から自分が邪魔になっていると判断した美不二は、トラウマの話をしつこくせがんできた時とは打って変わって、空気を読み席を立とうとするが、羂索がそれに待ったをかける。

 

「折角だし、先生にも話しちゃわない? どうせ明日は私の側に先生がほぼ付きっぱだし。未来が決まっているとはいえ、今後のことも考えると協力者を増やしておいた方がいいって前に話してたろ。その点、先生の持ってる術式は私から見ても中々類を見ない強力なものだし、戦闘面でも期待できるから損はないと思うよ」

「……うーん。葛飾美不二先生は本に記述されている重要人物じゃないので巻き込むのは少々──いや、かなり申し訳ない気持ちになるんですけど」

 

 実は、《予言の書》に記述されている情報には偏りがあったりする。

 救世主(メシア)の誕生に至る過程などの必要な情報であればあるほど細かく記述されているが、それ以外の事はあやふやな情報しかなかったり、そもそも記述されてなかったりなど、重要度によって情報の密度に偏りがあるのだ。

 例えば、羂索などの救世主(メシア)の誕生に大きく影響する人物については、このように接した、こんな事を口にした、こんな場所で会った、など事細かく記述されていて、橘の言動を大きく制限してくる。

 だが、今回の場合は橘が12月24日のテロ当日に動くために羂索に協力を求めた、程度の記述しかなく、羂索が自身の協力者として美不二を連れてくることは仄めかされていたものの。性別や容姿までは分からなかったため、橘は当初、ただの変人か羂索の協力者なのかを判断することができなかった。

 だが裏を返せば、情報がほとんど記述されていない美不二は救世主(メシア)にとって必ずしも必要な人物ではないと判断できる。

 初対面の印象はあまり良くないが、必ずしも必要ではない美不二を、これから必ず訪れる過酷な未来の最前線に巻き込むことに抵抗があった橘は、羂索の提案を断ろうとするが──

 

「……やっぱり、噎せ返りそうなほど濃厚な《危険な匂い》がしますね」

「《危険な匂い》? 氷川、ついに体が腐り始めたんじゃないですか」

「私の体は防腐剤要らずだよ」

 

 鼻を数度ひくつかせて言い放った美不二の言葉に、橘は羂索の体の事情を知っているからこそできるイジリをし、羂索は慣れているのか直ぐに言葉を返した。

 

「あ、すみません。話を逸らしちゃって」

 

 橘は話を遮ったことを謝罪し、美不二は気にしないでくださいと返した。

 

「それで、さっきの返事をさせてもらえると……是非、協力させてください。いや、むしろこっちからお願いしたいくらいなんですよね」

「えっと、一応理由をお聞きしても?」

「というのも、氷川さんから橘さんに協力してくれないかと以前から話を持ち掛けられていましてね。実は今日まで決めあぐねていたんですが──今こうしてお二人が揃っている所に居合わせて確信しました。橘さんや氷川さんから感じる生存本能をかつてないほど刺激する《危険な匂い》は、私の生涯における最高傑作を作るためのインスピレーションを必ず齎してくれるはずだって!」

「……目的や動機がイマイチ分かりませんが──本当に大丈夫ですか? 氷川に脅されてるようなら、私が文句言っときますよ」

「私が橘さんに協力すると決めたので、ご心配には及びませんよ。ただ、一つだけお願いさせてもらえるなら……」

「なんですか? お金とかは無理なので、そういうのは氷川に言ってくださいね」

「橘さん。貴方を題材とした作品を、一度だけ描かせてくれませんか? きっとその作品が、私の最高傑作になる筈ですから」

 

 まさか絵のモデルを頼まれると思わなかった橘は、数度瞬きした後、目を瞑り。自身がアレやコレやされる絵を想像した。

 

 協力する代わりに絵のモデルを頼む美不二。それに対して橘は──

 

「…………その、嫌です」

 

 エロ同人のモデルにされるのは流石に嫌なので、普通に断った。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、美不二はエロ同人のモデルになってもらいたいわけじゃないことを説明し、自身の芸術家としての活動経歴や生まれつき持っている体質について明かした後、橘をモデルにどんな絵を描きたいのかを尋常じゃない熱意を持って暫くの間語り続けた。

 

 その熱意に押されて、最終的に橘は美不二を羂索に続く第二の協力者として受け入れたのだが──後に、この時の判断に感謝することを橘はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





人物表

・橘秋麗奈
貧。百鬼夜行当日に何かする予定があるらしく、羂索に協力を要請。過去に性に纏わるトラウマ有り。少しずつ情報が開示されていってる。

・羂索(JKの姿)
程よい大きさ。葛飾美不二に橘のことを話して興味を持たせ、協力者にしてはどうかと橘に紹介した。去年の夏休み以降定期的に橘とは会っており夏油に関する愚痴をよく話していたようだ。
もうすぐJKの姿とはお別れである。悲しい。

・葛飾美不二(オリキャラ)
デカい。葛飾北斎の子孫とかではない。エロ同人作家《690721代目鉄棒ぬらぬら》として活動し始めたのはおよそ半年前。きっかけは呪霊と人間がウコチャヌプコロしているところを見てインスピレーションが降りてきたから。
だが、作品を執筆し何度かスケッチをしているとアイヌの呪術連に所属する術師に運悪く見つかってしまい呪詛師判定を喰らう。その後、色々あって夏油(というより氷川)に雇われた。エロ同人を描く前は個展を開いたり大きな賞を貰えるくらいには活躍していた絵描きで、ジャンルは浮世絵ではないもののそこそこ有名だった。
鼻が通常の人間とは違い、氷川から話を聞いていた橘を実際に見て、インスピレーションが湧く匂いを発していたため協力することを決める。
ちなみに、最初はエロ同人ではなく普通に絵画として描こうとしたが、懇意にしている人物からイメージが崩れるから止めておけと言われたため、世間にその絵画作品は発表していない。



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