羂索と予言の書を持つ女子高生   作:ペロロペ

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原作キャラの僅かなアンチと独自解釈(今更)があるのでご注意を。
ついに、JK羂索を肯定してくれた、あの人が登場します。


幕間 羂索と予言の書を持つ女子高生と特級術師《前編》

 

 

「はぁ……」

 

 一体この展開は何度目だろかと、橘はため息を吐いた。

 最初は《女子高生の肉体を奪ったクソ外道(羂索)》。

 次は《エロ同人を描いている芸術家(葛飾美不二)》。

 

 そして今回は──

 

「お嬢さん。君はどんな女が好み(タイプ)かな?」

 

 初対面の人間に性癖を尋ねてくる女だ。

 橘は、自分は変な女を引き寄せるフェロモンでも持っているのかと嘆きたくなった。

 

「あの、私はどちらかと言えば異性の方が……」

 

 取り敢えず、《予言の書》にも記述されていないのに絡んでくるこの女が一体自分に何の用だと確かめるべく、橘は会話を続けることにした。

 

「性癖ってのは千差万別、人の数だけ沢山あるかけがえのない個性さ。うーん、私の直感だと君はまだ恋をしたことがないね。なら、答えられないのも仕方がないか!」

 

 勝手に納得してウンウンと頷いている女に、羂索や美不二以上に言葉が通じないのかと橘は頭を抱えた。

 

「それで、性癖お姉さんは私に一体何の用で? 通り魔みたいに性癖を尋ねる新手の仕事か何かでしょうか」

「あっはっはっ! 性癖お姉さんとは中々ユニークだね。でも、いろんな界隈に誤解を生みそうだから自己紹介しておくよ。私の名前は九十九由基。呪術師をやらせてもらってる、美人でイカすお姉さんさ」

 

 どうやら目の前の性癖お姉さん──九十九由基は呪術師であり、いわゆる秩序側に所属する人間のようだ。それが橘に話しかけてきたのはどういうことか──ここで、橘は今までの行動を振り返り、自分が呪詛師側の人間とばかり弛んでいる事実に気付いた。

 

「あの、もしかして逮捕とかそういうのですか? それはちょっと勘弁してもらいたくてぇ……」

「なんで!? 私は高専や総監部が嫌いだから、積極的に呪詛師狩りとかはしてないよ! だから安心してちょーだい」

「へぇ〜」

「信じてないな!? でも、高専や総監部と仲が悪いのはマジだよ。命令とか基本無視してるから! 今日は久々に日本に戻ってフィールドワークをしていたら、偶然君を見つけたってだけだよ」

「……何か私やらかしてましたか? じゃないと、呪術師の九十九さんがただの女子高生に話しかけなんてしないでしょ?」

「……それって冗談? 君から感じる呪力、比較対象が思いつかないくらい凄まじいんだけど。一応私もそれなりに有る方だとは思うけど、正に月とスッポンってやつ。《特級術師》にこんな例えを使わせられるのは君くらいじゃないかな」

「うーん、一応認識阻害のお守りを身に着けてはいるんですが、最近ちょっと不調気味なんですよね。これはまた作ってもらわないとダメかな」

「──え、それでも隠してる方なの? というか、そんな呪力しといて今までよく総監部や高専の奴らから目をつけられなかったね〜」

 

 橘は羂索と出会った一年ほど前から日を跨ぐごとに増加していく呪力をどうにか隠せないかと思案していた。呪術師とかに絡まれたくないというのもそうだが、通っている高校の友達に「なんか寒気する」と言われて、ちょっと距離を取られそうになってショックを受けたというのが1番の理由だ。

 流石に()()()()()()()()()を誰かに追われたり、友達から遠ざけられたりするのはメンタル的にヤバい。という事なので、羂索が丹精込めて作ってくれた認識阻害のお守り型呪具で今日に至るまで何とか誤魔化していたのだが。お守りが橘の呪力に耐えきれなくなってきており、効果が落ちてしまったせいで偶然にも九十九に捕捉され、いつもの喫茶店でお話し中──と、いうのが現在の状況であった。

 

「一応、君との会話を邪魔されたくなかったから、この喫茶店に簡単な認識阻害の結界を張らせてもらったけどさ。よかったら、そのお守りを作った呪具師の所に一緒に行くかい? 一時的な結界なら張ってあげられるけど、呪具とかは流石に専門職には劣るから見てあげられないし。それに、君の呪力を隠せるようなお守りを作れる呪具師は私も興味があるしね」

「あぁ、作ってくれた人は既にここに呼んでるから大丈夫です。怪しい不審者に話しかけられて困っているので助けてくださいって」

「こんな美人を不審者なんて……お姉さんは悲しいぞー!」

 

 九十九に話しかけられて直ぐに、橘は不審者に絡まれたから助けてくれと羂索にメッセージを送っていた。

 返信には美不二と夏油の肉体に関する検証をしているから忙しいと濁して書いてあったが、数分ぐらいで行けたら行くとも書いてあった。

 それは来られないやつでは? と橘は思ったが、なんだかんだ来てくれるとは信じているので、もう少し頑張ってやり過ごそうと思った。

 

「さて、おちゃらけた話はこのぐらいでいいかな。……実は、君を見つけたのは偶然なんだけどね。一部始終は見させてもらったよ。辺り一帯の呪霊やら残穢やら呪力の一切合切をただ歩いているだけで集めて──いや、吸収して自分に還元していたよね。呪力の流れを見る限り、私にはそう見えた。……君が、最近京都を中心に呪霊の発生率を下げている原因だろ」

「それは──」

「別に君を糾弾するつもりはない。むしろ感謝してるぐらいだ。長年、私は呪力からの脱却……呪霊や呪力がない世界を目指してきた。──そして、今日。これ以上ないってくらい、私の目標を現実的なものへと近づける可能性を持つ、君という()()()()()()()()()()()()()人と出会えた。これは運命だとさえ思っているよ。……ともかく、私には君の力が必要なんだ。金でも何でも望むものはいくらでもあげるし、用意する。だから、私に協力してくれないか? ──頼む」

 

 先程までふざけた態度をしていた九十九だが、真剣な様子で頭を下げ、橘に協力を申し込んできた。

 どうやら九十九は、橘が呪力を吸収している様子を見て、呪力から脱却できる世界を作れる可能性を見たそうだ。

 

「……」

 

 その可能性を持つらしい橘だが、九十九の話の意味が全然分からなかった。というより、理解したくなかった。

 呪力からの脱却とか可能性だとか運命だとか。九十九は色々と言っていたが、そんな彼女の事情は知ったことではない。

 それよりもこの女は何と言った? 自分の力を素晴らしいと言ったのか?

 橘の中に堪えきれないものが溢れ出てきそうになる。

 

「……ふざけんなよ」

 

 橘の呟きを九十九は捉えることはできなかったが、その言葉には今まで溜め込んできたドス黒い負の感情が乗っていた。

 《救世主(メシア)》誕生まで時間が迫ってきているためか、今の橘はかなりナーバスになっている。あの羂索でさえ気を遣って《予言の書》や《救世主(メシア)》などの話題や単語でさえ口に出すのを控えるくらいには精神が追い詰められている。

 九十九は恐らく本心で橘の能力を素晴らしいと言っているのだろう。だが、そこは今の橘にとって最も触れられたくない部分だった。

 羂索や美不二など、ある程度交流があり、事情を察している人物相手ならまだしも。初対面の人間に素晴らしいと言われて受け流せるほど橘の心は強くない。

 やりたくもないことを強制的にやらされて、自殺できるものなら今すぐにでも自殺したいくらいには思い悩んでいるのに。それを素晴らしいと言われても、橘は喜べる人間ではなかった。

 

「……」

 

 だが、橘は怒りを相手にぶつけない。本当は感情に任せて怒鳴ったり、暴力を振るったりしたいくらい、憤りを感じてるはずなのに。

 九十九は何でも用意すると言ったが、できるものなら、普通の人間の体が欲しい。研究したいなら、自分の体なんてあげるから役目を変わってくれと言いたかった。

 けれど、《予言の書》には橘が体を誰かに渡すなんて情報は記述されていない。

 橘が最後まで役割を果たさなければならないことは既に《予言の書》により決まっているのだ。

 それに仮にできたとしても、出会ったばかりの人間にこんなクソッタレな役目を押し付けちゃいけないと、橘はグッと言葉を飲み込む。

 もう何かを選ぶことを諦めかけている橘は、暴言を吐くことも暴力を振るうことも選ばない。

 

 橘はただ堪えて、涙を流すことしかできなかった。

 

「……」

「あ、えっと。その…………本当に、ごめん。流石に性急すぎた」

 

 普段から頭のネジが外れていることが多い、精神的に強い耐性を持つ術師との交流が殆どだったためか、九十九は橘の精神強度を見誤っていた。

 まぁ、橘が今すぐにでも死んでしまいそうなくらいに堪える表情をして泣き出す程の事情を抱えていることを、初見の九十九に気付けというのが無理というものだが、流石に自分が掛ける言葉を間違えたということは理解していた。

 すぐに謝罪をする九十九だったが、泣いている橘の姿を見て何故か既視感を覚えた。

 

「……(あぁ、なんだろう。この娘、最初から既視感みたいなものがあると思ったら。もしかして私と似てるのか?)」

 

 九十九は橘に星漿体という過去を持つ自分を重ねるが、目の前の少女は星漿体ではないと感覚で分かる。そのため、感じた既視感は罪悪感から生まれた錯覚であると判断した。

 もし九十九が弟子である東堂葵のような精神をしているのであれば、ここで()()()()()()()が溢れてきたかもしれないが、九十九は東堂程はイカれてなかった。

 

「急いで来てやったってのに──何泣いてんだよ。それに……はぁ。君は面倒な奴を引き寄せるフェロモンでも持ってるのかい?(《特級術師》九十九由基か。海外をプラプラしてると思ってたら、さては京都を中心に呪霊が減っていることを聞きつけて戻ってきたな)」

「……君はその娘の友達かい?(どっから現れた!? 気配を全く感じなかったし、瞬間移動系の術式か、もしくは姿を消す術式か? いずれも憶測の域を出ないが、もし戦るなら面倒な相手になりそうだ)」

 

 泣いている橘の隣に現れたのは女子高生──羂索だった。

 羂索は美不二の術式を使って瞬間移動をしてきたため、九十九は羂索が目の前に現れるまで気配を感じ取ることができなかった。

 

「……っぅぅぅぅ」

「何泣かされてんだよ。いつも私にやってるみたいに言い返してやればいいのに。……ったく、私は君のお母さんになったつもりはないんだけどなぁ(全く、九十九由基に何を言われたんだか。大体予想はつくが、今の橘にはあまりにも地雷すぎるだろ。私だって気を遣ってんだぞ)」

 

 中々涙が止まらない橘は隣に現れた羂索の体に抱きついて胸元に顔を押し付け嗚咽を漏らした。 

 羂索は自分や美不二も気を遣うくらい言葉選びを考えてるのになんてことしてくれやがったんだと、橘の頭を撫でながら九十九を睨みつける。

 

「あー、そのー。……ごめんね。どうやら私の無遠慮な言葉が彼女を泣かせてしまったようで」

「まぁ、今は大分ナーバスになってるからね。……この子の気持ちは余人が察するにはあまりにも重すぎる。それでも、結構頑張って耐えられる子なんだけど──こんなになるなんて、一体何を言ったんだよ」

「……私の目標に協力してくれないかと頼んだんだ。君の協力さえあれば、呪霊も呪力もない世界を作れるかもしれないってね」

「……へぇ(随分とつまらない目標だな九十九由基。どうせ、橘の体質に可能性を見たとかだろうが。彼女の全容を知った上でも、そんなことは言えるかな?)」

「泣かせてしまったのは申し訳ないけど──こちらにも譲れないものがある。やっと、現実的なプランが彼女のおかげで見えてきたんだ。今ここで彼女という逸材を見逃す選択肢は、私にはない」

 

 そう言うと九十九は席を立ち。全身に呪力を立ち上らせ、拳を握りしめる。

 どうやら九十九は、力づくで橘を連れて行こうとしているらしい。

 

「ここで私を殺して彼女を連れて行くのか? こんな泣いているだけの女子高生を無理矢理?」

「……あまりにも最低過ぎて吐き気がする。自分で自分を殴り殺してやりたいぐらい最悪な手段だと自覚している。だが、その上で彼女は連れて行く。……どの口がって自分でも思うけど、約束はするよ。彼女を無理な実験には絶対に付き合わさせない、生贄みたいな扱いも絶対にしない。呪術師・呪詛師・呪霊、あらゆる脅威から守る。どんな望みも出来る限り叶える。私の命に賭けて──どんな縛りでも結ぶ覚悟がある」

 

 強硬手段に出ようとする九十九に対し、羂索は舌打ちをする。

 現在の氷川の体では呪力がミソッカス過ぎて、まともに通じる攻撃手段が《うずまき》をぶつけるくらいしかない。だがその《うずまき》は呪霊を圧縮する過程が必要なため、準備している間に為すすべなく殺されるだろう。

 さてどうするかと悩む羂索は、ふと、今も自分にしがみついている橘の方を見てしまった。

 今から戦闘が始まるのに余所見をするなんてらしくないと、羂索は自分の迂闊さを一瞬呪うが、橘が自分の服を震える手でギュッと掴んできたことで思考が一瞬止まる。

 この時、何故思考が止まったのか。羂索が何を思ったのかは、当の本人しか知り得ない。

 だが、直ぐに再開された羂索の思考には九十九と一戦交える選択が消えていて、代わりに別のアイデアが浮かんでいた。

 

「少し待ってくれないか」

「なんだい? 抵抗しないなら、君を傷つけることはしないよ。なんだったら、君も私について来るかい?」

「……実は、この喫茶店は私と彼女のお気に入りでね。出来れば壊したくはないんだ。その代わりと言っては何だけど──君の叶えたいという目標が如何につまらなくて、実現不可能なのか、私が懇切丁寧に否定してあげるよ」

 

 羂索は、暴力は暴力でも。言葉による暴力でこの場から九十九を排除することに決めた。

 

「──なんだって?」

 

 羂索の嘲笑含む言葉を聞いた九十九の視線が険しくなり、顔に幾つもの青筋が浮かぶ。

 今すぐにでも殴りかかってきそうな雰囲気で不機嫌さを隠さない表情をしているが、橘を無理矢理連れて行くことに元から乗り気ではなかったためか。荒々しく再びソファに座り直し、肩肘ついて、羂索に話してみろと顎をしゃくった。

 

「では話そうか」

 

 羂索は絶対に負ける土俵から九十九を勝負ができる土俵にまで引き摺り下ろすことに成功した。

 ここからは、1000年生きた術師と、呪力からの脱却を目指す《特級術師》の舌戦が始まる。

 

 

 

 





人物表

・橘秋麗
呪力が溢れまくってる。羂索えもんにお守りを作ってもらって、なんとかしていた。しかし、そろそろ橘の呪力に耐えきれなくなってきており、九十九レベルの術師なら分かる程度には効果が落ちてしまっていた。
1話と比べると、大分余裕がなくなってるナーバス女子高生。絶対、またいつか心の底から笑える時がくるはず。きっと多分。

・羂索(JKの姿)
多分、次の話で本当に見納め。ママみたいになっている。JKでママ味のある羂索って有りですかね、九十九さん?
かなり早めの九十九とのバトル(レスバ)が始まった。

・九十九由基
性癖お姉さん。なんか原作と性格が違う気がする。まぁ、並行世界だということで。
でも、原作でも橘みたいな奴見つけたら絶対パパ黒の時以上にしつこく勧誘するはず。どんな手段を取るかはちょっと想像がつかないので、今作では少しだけ強引に。



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