羂索と予言の書を持つ女子高生   作:ペロロペ

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キャラ(性格)改変とアトラス作品シリーズ(設定)がありますので、ご注意ください。
また、今話から原作に入ります(7月から)。


羂索、予言の書を持つ女子高生に特級呪霊達を紹介する

 

 

 2018年7月・京都のとある喫茶店。夏が始まってきたことを感じさせるジンワリとした暑さに、最近エアコンが稼働し始め、新しいフレーバーのアイスと何処かのアイス屋さんがやっているようなアイスケーキが店長の気紛れでメニューに加わった。

 

「私はコーヒーと、折角なのでアイスケーキを……それにしても今日はまた、愉快な人(?)達を連れてきましたね。夏油?」

 

 コーンに乗っていないアイスはあまり好きではない、予言の書を持つ女子高生・橘秋麗は、いつものコーヒーと2年程通っているため仲良くなった店長に勧められたアイスケーキを注文した。

 注文を終えた橘の視線はウェイトレスから、目の前に座っている2つの異形へと向けられ、アレは何なのかと隣に座る男に尋ねた。

 

「うーん、利害の一致で手を組んでる仲間って奴だよ。あ、ウェイトレスさん。私はコーヒーと新しく出たっていう抹茶ミルクのアイスで」

 

 それに対し、隣に座る男──夏油は、どうでもよさそうな感じで異形との関係性を明かし、ウェイトレスに注文を伝える。

 ウェイトレスは、橘の言葉を聞いていたのか「愉快な人達?」と頭の中で疑問符を浮かべるも、視線の先に映るのは常連の女子高生と最近店に通い始めた前髪が特徴的で、最近まで常連だった女子高生と同じ()()()()()()()()()()がある成人男性だ。

 

 察しているとは思うが、夏油の肉体は夏油のものでも、それを操る人物は別人である。

 夏油になりましている人物の名は羂索。1000年以上の時を生きる化け物で、橘と協力関係を結んでいる術師だ。

 

「あぁ、もう行ってもらって大丈夫ですよ。ここに居るのは()()2()()()()()

 

 ウェイトレスは2人なのに隣同士で座るなんてどういう関係なのかしらと、頭の中でレディコミにありそうな展開の妄想がよぎるが、カウンターから聞こえてきた声で妄想が中断され、橘達に軽く頭を下げてから去っていった。

 

「それで、夏油が会わせたい人間ってのがこの子? 俺たちのことは()()()()()()()()()()、感じる呪力はパッとしないね。それとも術式が強力なのかな?」

 

 ウェイトレスが去ってから先に口を開いたのは、橘の対面に座る継ぎ接ぎ顔と左右で色が違う目が特徴的な男。

 軽薄さを感じさせる言葉の中には、橘を見下すような感情も含まれるが、自分達の協力者である羂索の知識と力だけは認めている。

 その為、羂索が紹介したい人間とは一体どんな奴なのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、橘へ観察するような視線を向けている。

 

「《獄門疆》を儂に蒐集させる気になったか? あるいは、そこにいる人間の小娘に何かあるのか? さっさと用件を言え、夏油」

 

 そして羂索の対面にいるのが、まるで富士山のような頭頂部をした単眼の異形。

 この異形は勿論だが、隣にいる継ぎ接ぎの男も人間ではない。確かな知性と意思を持つ、呪霊の中でも最上位の存在──《特級呪霊》であった。

 

「おっと、紹介をしておこうか。君の前にいるのが真人。そして、隣にいるのが漏瑚。真人は人間が人間を憎み恐れる感情、漏瑚は大地への恐れの感情から誕生した、所謂《特級呪霊》ってやつさ」

 

 真人は「よろしく〜」と橘に手を振り、漏瑚は「ふんっ」と機嫌の悪さを隠さず橘へ視線だけを向ける。

 

「こっちは橘。まぁ、私の個人的な協力者だ。今後、というよりここ数年は彼女と共に行動することが多かったし、これからもそれは変わらない。だから顔合わせぐらいはしておくべきだと思ってね」

「ご紹介に預かりました、橘です。夏油との関係は言われた通りですね」

「う〜ん、本当に協力者? ……あ、()()()()()()()()()()。俺、分かっちゃったかも!」

 

 橘の言葉を遮って、真人は橘と羂索の本当の関係について分かったと口に出した。

 橘は「本当の関係?」と首を傾げるが、真人は子供のように楽しげにこう言った。

 

「橘と夏油はさ、夫婦って奴じゃない?」

「「違うね・違いますよ」」

 

 真人の夫婦発言に2人は声を揃えて否定する。真人は「嘘だ〜」と納得できない様子で橘のお腹、()()()()()()()()()()()を指差した。

 

「人間の男と女ってのは、子供を作るために番いになるんだろ? 橘のお腹の辺りには魂が見える。所謂()()って奴だ。他の妊婦にも腹の辺りに魂があるのは知ってるよ」

 

 真人は所持している術式の影響で、人の魂を知覚することができる。

 真人しか持ち得ない視界のため、他の人間や呪霊が情報を共有することはできないが、確かに橘の子宮あたりに魂があるのを見抜いていた。

 

「……私のお腹って、もうそんなに目立ってますか?」

「うーん、微妙? ()4()()()()()()()()

「でも、他の妊婦とは少し違うかな。……感覚を言語化するのは難しいね。ただ、君の胎にいる魂は()()()()()()()()()。胎の中にいる魂はまだ不完全なようだけど、こんな感想を抱くのは初めてだよ」

 

 「なんかムカつくからお腹の子殺してもいい〜?」と、橘の目を見ながら無邪気に聞く真人。

 無論真人は本気で聞いたわけではないが、人間が自分の子供を大事にしていることは理解していた。その大事な子供を殺すと聞いて、目の前の女はどんな反応をするのか? 魂はどのような代謝を見せるのか? 魂を学ぶための問いに、橘は──

 

「殺せるもんなら殺してください」

 

 橘は、キョトンとした目で真人を見つめ返す。

 そして、答えが既に決まっているかのように、真人の問いに言葉を返した。

 

「本気?」

 

 真人は羂索に視線を向ける。

 一時的な協力者ではあるが、現在の自分より力が上の存在。反感を買ってまで殺す理由もメリットもないと理性的に判断する。

 

「真人。君の術式《無為転変》は魂を操る、私から見ても規格外のモノだ。もしかしたらバグが起こるかもしれないし、よかったら試してみてよ」

「ふ〜〜〜ん? じゃあ、やっちゃうよ〜(マジで言ってんの? ま、やっていいならやってみよ〜)」

 

 羂索は橘の胎を指差し、どうぞどうぞと言わんばかりだ。

 真人もまさかOKされるとは思わなかったのか、嘘や謀はないか2人の魂の代謝を確認するが、どちらも本心。本当に、子供を殺しても問題ないらしい。

 

「胎の中にいる奴を殺すのは初めてだ。間違って、君も殺しちゃったらごめんね(人間ってのは自分の子供を大事にするもんだって思ってたのに、そこらの呪いよりよっぽど怖い奴らだ。ま、こんな人間がいるから俺が生まれたんだろうけどさ)」

 

 真人は席を立ち、自身の術式《無為転変》で橘の胎を通して中にいる子に触る。

 

「《無為転変》(魂を感じる、命の鼓動を感じる。なら、殺せるよね。さぁ、言葉では何とでも取り繕えるけど、本当に殺しちゃったら、君達はどんな魂の代謝を見せてくれるのかなぁ!)」

 

 確かな命の鼓動を感じる存在を今から殺すことに喜びを覚え、口角が無意識の内に釣り上がる。

 魂は嘘をつかない、子供を殺された後で後悔して泣いてみろ。真人の理性ではない、呪霊としての本能が胎児の殺害に愉悦を見出す。

 

 

「あ」

 

 

 

 だが、橘の胎に居る《救世主(メシア)》は真人(特級呪霊)程度の存在ではどうすることも出来ない。

 真人が術式を発動し、《救世主(メシア)》の魂に触れた瞬間。真人は、この胎にいるものと自分の立ち位置が、存在が、余りにも次元が違う事実を魂で理解させられる。

 術式に呪力を流した、《無為転変》もちゃんと発動できた。だが、真に魂の格が違う人間には通用しなかったのだ。

 

「……なんだ。なんなんだよ、それはよぉ!!!」

 

 呪霊として生を受けて現在に至るまで、真人は人間で言う挫折をしたことがなかった。

 《無為転変》という強力無比な術式、魂を知覚されない限りダメージを与えられない特異な体質、《特級呪霊》として持ち得る膨大な呪力。

 強力な術師との戦闘経験もない、天敵(虎杖)との遭遇もまだない。呪霊として生まれて間もない真人が慢心するのも無理はないだろう。

 そんな真人が初めて体験する感情──その名は畏怖。恐れるなんて次元じゃない、まるで天上に存在する別次元の存在──神のようなものを魂で知覚してしまい、怯え恐怖する錯乱具合は、その当事者である橘も「大丈夫かな?」と心配してしまうほどだった。

 

「……真人、貴様は何を見た。何に触れた!? そこの橘とかいう小娘の胎に何がいるというのだ!?」

 

 漏瑚もまた、現代最強の術師(五条悟)との戦闘を経る前のためか、自身の力に絶対の自信を持っていた。そんな状態の漏瑚も力を認めている真人の錯乱具合。

 真人の感覚を理解できない漏瑚は、原因だと考えられる橘に掌を向けて、炎を打ち出す準備をする。

 

「漏瑚、ストップだ。作戦に支障が出るから縛りは結んでいないが、ここで君が考えなしに暴れるようなら、こちらも()()()()()()()をさせてもらうぞ?」

 

 普段、漏瑚を含めた《特級呪霊》達の前では柔和な態度を取っていた羂索の不機嫌そうな表情と声が、漏瑚の理性に働きかけ、術式の発動を止める。被害は喫茶店内の気温を僅かに上げる程度に収まった。

 

「ちぃっ!」

 

 漏瑚は、苛立ちを隠さず舌打ちをし、未だ頭を抱えて橘へ畏怖の視線を向ける真人の肩に手を置き揺さぶる。

 

「しっかりしろ! 言え! あの小娘の何が貴様を恐怖させる!」

 

 真人は震える口をなんとか動かし、照準の定まらない指で橘の胎を指し示す。

 

「あ、あれは、呪霊とか、人間とか、そういう、次元じゃ、ないっ。人間と魂が、違う、アイツだけ、あの胎の中にいるやつだけ……」

 

 先程までのように言葉を荒げるわけでもなく、声が段々と弱々しくなっていく。

 だが、言葉を発する度に《救世主(メシア)》についての情報、そして《救世主(メシア)》の魂に触れた際に知った()()()()()()()()()()()()()()。余りにも膨大な情報がとめどなく流れ、真人の魂に刻まれていく。

 

「……」

 

 少しずつ流れる情報は落ち着いていき、初めて体験した感情による戸惑いも段々と収まり、真人は一息吐いて、得た情報と感情を一旦飲み込み──

 

 そして、笑いたくなったので、大きな声で笑った。

 

「……うるさっ」

「ま、真人?」

 

 笑い声は大きく、橘も思わず耳を塞いでしまうほどで、近くにいる漏瑚は何が何なのか理解できず困惑し、羂索は意外なものを見るような目で真人の呪力の流れを見ていた。

 

「……ふぅ。おいおいなんだよなんなんだよこれ。見てよ、漏瑚。手が震えまくってる。魂が悲鳴を上げまくってる。俺は人から生まれた呪霊だってのに、こんな初めて貰っちゃったらさ。屈辱云々飛び越えて、もはや痛快だよ! まだ俺は、俺たちには! 呪霊も! 人間も! まだまだ上の次元にも到達できてない、馬鹿みてぇにちっぽけな存在だったなんてなぁ!! あーあ。こんなの知っちゃったらさぁ、どーしてくれんだよぉ、なぁ!!! 橘ぁ!!!」

 

 吹っ切れたのか、感情を制御する何かが壊れたのか、目玉を忙しなく動かし、言葉の抑揚がおかしい。

 気でも触れたのかと、側から見たら思うかもしれないが、真人の魂は非常に澄んでいた。

 

「こういう時って人間は祝うんだろ? ハッピーバースデーってね! ははっ、ちょっと魂に触れただけなのに、俺が劇的に強くなった訳でもないのにさ。自分より上の存在を知っただけで自分も強くなったと誤解しちゃう感じ? でも、魂を操る俺は違う。こんなインスピレーションを得られる奴なんて、人間にも、呪霊にもいないだろうさぁ!」

「お待たせしました〜、アイスケーキと抹茶ミルクアイスとコーヒー。あと、店長からのサービスで試作のクッキーをお持ちしました」

 

 自身の得たインスピレーションを言葉に変換して吐き続ける真人のトリップに水を刺したのは、注文の品を持ってきたウェイトレスだった。

 

「あ、意外と時間経ってないんだ」

「しくったかも。抹茶とコーヒーって、相性良いのかな?」

 

 真人のかなり濃い独演に気が行っていたが、実は橘達が注文してからまだ数分といったところ。久々に時間が長く感じる経験をした橘は素直な感想を口に出し、羂索は抹茶とコーヒーの相性が合っているのか今更ながら眉を顰めた。

 

「よし、取り敢えず落ち着いた。あれ、漏瑚なんで立ってるの?」

「……まぁ、良い。貴様が落ち着いたのならな。だが、まずは説明をしてもらうぞ夏油。そこの小娘は何者だ? 真人のような感覚のない儂ではさっぱり分からん。強いのか、弱いのか。ハッキリと教えろ」

 

 周りの変化に気づかなかったのか、真人は漏瑚が立っていることに疑問を持ち、漏瑚は何か言いたげな様子だったが、大人しく席に戻り羂索に橘のことを尋ねた。

 

「あ、意外といける? バニラもあるからそれもそうか。……で、橘の話だっけ。別に()()()()に危険性はない。詳細は縛りによって話せないが、少なくとも君達の計画を邪魔することはない。置物と同列に考えてもらって結構だよ」

「あっはっは!! 橘がただの置き物って冗談でしょ? 魂に触れた時、間接的にだけど橘のことも少し見えた。本来の呪力をかなり隠してるんでしょ? まぁ呪力が多いからって戦えるわけでもないのか」

「……要領を得ん。それに、さっきの貴様の様子は何だ。もっとハッキリ分かりやすいように言え、真人」

「なんて言うのかな? あの魂に触れた瞬間、俺の魂の位階が何段か飛び越して成長したって感じでね。今まで聞こえなかった、こう、声が聞こえてきた気がするんだよ。悲鳴か、苦痛か、懇願か。微弱な電波……そう電波、電波!! 電波みたいなやつがさぁ! 多分あれが、俺たち呪霊が生まれる原因。そして、俺たちの終着点! 人間が父親なら、アレが俺達の母親なんだろうね。そんなんがさぁ、なんて言ったと思う? 《人間を殺せ》だってさ! あっはっは! 俺たちの存在意義は、望まれている役割は、理性を獲得したとしても尚、やっぱり人間を苦しめることだったんだよ!」

「本当にどうしてしまったというのだ、真人っ!? ──夏油、小娘、貴様等ぁ!!」

 

 再び狂ったように話す真人の言葉がまるで理解できなかった漏瑚は、羂索と橘へ殺意の籠った視線を向ける。よもや謀で、呪霊側の仲間である1人を再起不能にしたのではないかと疑う。

 それだけ、真人の様子が尋常ではなかったのだ。

 

「貴様が協力者だろうと関係ない! 答えろ!! 真人に何をしたぁ!!」

 

 頭頂部がグツグツと煮えたぎり、手のひらが触れている机が熱で溶け始め、橘のアイスケーキのアイス部分と羂索の抹茶ミルクアイスが瞬時に液体になる。

 

「うへ〜、私って溶けたアイス嫌いなんですよね。それに、常温とか熱い状態の甘いものって、どうにも苦手で」

「そう? コーヒーに入れるのも有りだし、パンケーキに入れたりソースにするのも美味しかったりするよ」

 

 橘は嫌そうに目を細め溶けたアイスを見つめ、羂索は溶けたアイスをコーヒーに入れて一口飲む。

 

「う〜ん、普通にいけるね。抹茶アイスとコーヒー、悪くないんじゃない? ……あ、それで真人に何をしたのって話ね。生憎と心当たりがないな。橘は?」

「本当ですか? ……そうですね、私にもさっぱりです。本には何もありませんし、どうでも良い事なのでは?」

「ふざけるなよ……っ! もういい、貴様ら全員ここで──」

 

 マイペースに会話をする羂索と橘の様子に、コケにされていると感じた漏瑚は感情の赴くままに術式を発動しようとするが──

 

「よしなよ。夏油達は何もしていない。むしろ、俺に素晴らしい気づきをくれたんだ」

「だがっ! ……真人、お前その呪力は」

 

 真人は漏瑚の肩に手をかけ、静止する。

 漏瑚は止めてくれるなと呪力を更に込めるも、真人も呪力を込め手に力を入れる。

 呪力が直接体に触れているおかげか、真人の呪力に言語で表現することが難しい変化が起こったことを感じた漏瑚は、毒気を抜かれ、目の前の2人を焼き殺すよりも真人の変化について問う方が重要であると呪力を抑えた。

 

「……そうだね、できれば花御達とも話して共有したいかな。さっき得た電波からの情報をさ。だから悪いんだけど夏油、ここで失礼するよ。また何かあったら連絡よろしく!」

「夏油、橘! 貴様ら、今回のことは見逃すが──って、こら! そんなに引っ張るな真人ォ!!」

 

 真人がそう言うや否や、漏瑚の手を引き、真人は軽やかな足取りで喫茶店から出て行った。

 

「……あ、この溶けた机どうしましょう? 貴方が連れてきたんだから、弁償してくださいよ羂索」

「それぐらいは別に構わないんだけど──真人のあの変化ぶり。本当に未来の私、《無為転変》を使えるの?」

「おかしな事を聞きますね。《予言の書》の内容に変化はありません。貴方はさっきの真人を《呪霊操術》の極の番《うずまき》で抽出し《無為転変》を使います。残念ながら、どのような状況で《無為転変》を使うかまでは詳細な記述がありませんね。もっとも《死滅回遊》は問題なく開始されるので、過程を気にするぐらいしかやることはないですよ」

「どっちにしろ、《死滅回遊》が出来るなら問題ないか。……いや、もしもがあったらちょっと困るから、準備は入念にしとかないとね」

「あ、そうだ。そう言えばそろそろ学校を辞めようと思うんですよね」

「君ならギリギリまで残るって言いそうだったけど、良かったのかい?」

「夏休み以降は《予言の書》の予定に縛られますからね。仕方がないってやつです。羂索は、あの《特級呪霊》達と暫く行動を?」

「……いや、会うのは偶にで良いかな。所詮は呪霊、弾除けと手駒にするぐらいしか価値がない。そう言う橘は?」

「邪魔じゃなければ」

「いいよ。今度海外に行くんだけどパスポートはある?」

「ありますよ。高校の修学旅行、ハワイだったんです」

「用事が済んだら、本場のカレーを食べに行こうか。私としては、日本の方が美味しいと思うけどね」

「本当ですか〜?」

「あぁ、それが終わったら今度は──」

 

 真人達が去った後、羂索と橘は10月31日までの準備期間について打ち合わせをする。

 打ち合わせ自体はすぐに終わり、話題は海外への旅行やくだらない雑談へと移行していく。

 

「これが、《終活》ってやつなんですかね」

「……」

 

 話の途中にしみじみと言った橘の言葉に、羂索は何か言おうとするが、口に出す前に飲み込んだ。

 

 《救世主(メシア)》の誕生まで後5ヶ月。

 偶然か、聖書に記されている救世主の降誕祭と同じ、12月25日に橘秋麗の胎から産まれてくる。

 だが聖母となって間もなく、橘秋麗は死ぬ。《予言の書》にも明確に記述されている、覆すことのできない絶対に訪れる未来だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば橘。こんな予言を知っているかい?」

「予言?」

 

 インターネットやSNSには、嘘も真も混ざり合った膨大な情報が日々生成されている。

 そして最近インターネットやSNSで、ある《予言者》が話題を呼んでいる。変死事件や怪死事件の犯人や被害者、異常気象などなど。

 人には手に負えないような内容まで的中させるため、本物ではないかとまことしやかに噂されている。

 性別や年齢などの個人情報は完全に非公開。そんな謎めいた人物であるためか、一種のカルト的人気を獲得している。

 そんな《予言者》が最近、SNS上にこんな予言を投稿した。

 

「12月25日に、東京・新宿に世界を創り変える《救世主(メシア)》が誕生するって予言。……ま、《噂》ってやつさ」

「……それ、《噂》じゃなくて事実ですけど」

「でも、それで終わりじゃないんだ。《救世主(メシア)》を産み出すことと引き換えに命が尽きる聖母」

「……」

「その聖母が、我が子である《救世主(メシア)》と地上に残した友のために再び甦るらしい」

「ご都合主義が酷い二次創作みたいな《噂》ですね。……でも、その《噂》が真実なら。どんなに馬鹿馬鹿しくても──いえ、何でもありません」

「でもさ、現実にもよくあることだろ。ただの《噂》がいつの間にか真実になるなんてことがさ」

 

 橘は力無く笑い返す。そんな馬鹿馬鹿しい予言が真実になるなら、それはどんなに良いことか。

 

「君は隣で《噂》が真実になるところを見てなよ。知ってるとは思うけど、私は有言実行できる人間だからね」

「……ありがとう」

 

 橘は羂索に一言感謝を告げた。

 なんだか恥ずかしくなって、視線を下に逸らすと、ここ最近目に見えて大きくなってきた自分のお腹が目に映る。

 我が物顔で居座りやがってと、既に何度も試した殴打を腹に喰らわせるが、ただ自分が痛い思いをするだけだった。

 

「さぁ、それじゃあそろそろ行こうか」

 

 最近の羂索はこちらに手を差し伸べる事が多くなった気がする。

 クソ外道にも人の心が芽生えたのかと揶揄ったこともあるが、羂索は笑うだけで特に言い返してくることはなかった。

 きっと、自分でもらしくない事をしてると思っているから、恥ずかしくなって誤魔化してるだけだろ。と、橘はそう勝手に解釈していた。

 

「まだまだ、私は倒れたりしませんよ」

 

 精一杯の強がりだが、少しずつ現実を受け入れられていると思う。どうせなら、死ぬまでにやりたい事をやって死んでやろう。終活をする人も、きっとこんな感覚で物事を考えているんだろうか。

 

「さぁ、旅行に行きましょう。旅費は当然そっち持ちですよね?」

「問題ないよ。以前、先生と行った時に絵は描いてあるからさ。密入国といこうじゃないか」

「え、じゃあパスポートいらないじゃないですか」

 

 だから取り敢えず今は、楽しくなる思い出を考えよう。楽しかった思い出を夢に見よう。

 

 橘の死まであと5ヶ月。

 

 まだ、橘の体と意思は正常に動いている。

 

 

 

 





人物表

・橘秋麗
妊婦さんな女子高生。何度か腹を殴ったり、刃物を刺したりしたが効果なし。最近は終活をする高齢者のような心境に。むしろそれが良かったのか、最近はそこまで精神が荒れることなく笑うことも増えてきた。

・羂索(夏油の姿)
ついにJKではなくなった。悲しい。色々暗躍中。

・真人
かなり早めのハッピーバースデー。虎杖遭遇前だけど、畏怖を知っちゃった電波呪霊。いつか進化したらばいきんまんボイスになりそう。救世主に触れ、魂が微弱な電波をキャッチ。電波は受け取ったけど、性格はそこまで変わらず。今後も呪いらしい活躍をたくさんする。

・漏瑚
1番話についていけなかった。原作の呪霊のボス云々の伏線が今作では活用されるため、いずれ超強化されるはず。これには宿儺もニッコリ。

・予言者
SNSやネットで話題。最近は救世主誕生を予言し、それが噂として広まる。ちなみに、12月25日は正確にはキリストの誕生日ではないらしい。


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