羂索と予言の書を持つ女子高生   作:ペロロペ

7 / 12

独自(捏造)設定がかなり多いのでご注意ください。
また、今話から渋谷事変に突入し、この小説内で初めての本格的な戦闘が始まります。


羂索、予言の書を持つ女子高生と渋谷事変を起こす《前編》

 

 

 

 10月31日、東京・渋谷にて。後に《渋谷事変》と記録される未曾有の呪術テロが発生した。

 主犯は夏油傑──ではなく、その肉体を奪った羂索と協力関係にある確かな知能を持ち言語を操る特級呪霊達。それ以外にも雇われた複数の呪詛師を渋谷に集めるなど、念入りに立てた計画の元に行われたものだと考えられる。

 現在、呪詛師によるものと思われる帳が下ろされ、一般人が閉じ込められているのだが。秩序側である呪術師は()()()()()()()()迂闊に帳内に侵入できないでいた。

 主な理由は二つ。①帳内に閉じ込められている一般人が東京メトロ地下5階の副都心線ホーム(以下、渋谷駅地下5階)に《特級術師》五条悟が単独で来ることを要求していること。②総監部が一般人の被害を最小限に抑える為に五条悟単独による解決を指示したことが挙げられる。

 そのため、渋谷に集まった呪術師達は五条悟の取りこぼし──帳を抜けて逃げてくる呪霊や呪詛師達を逃さないように備え、電話での連絡が出来る帳の外で待機するしかなかった。

 

 一方、帳内に閉じ込められている一般人はと言うと。その多くが帳の縁に集まっており、五条悟を呼ぶよう叫んでいた。

 だが、とある一般人達の呟きによって事態が大きく動いてしまう。

 

「ねぇ、これって。今日投稿されてた」

「この閉じ込められるやつ。やっぱあれだよな?」

「あぁ、やっぱ《予言者》の予言は本物だったんだ! た、助かる方法は……」

「くそっ、ネットが使えねぇ! 誰かスクショ撮ってるやついねぇのかよ! 予言の内容なんていちいち覚えてねぇよ!」

「……《救世主(メシア)》。でも、《救世主(メシア)》が産まれるのは12月25日って」

「くそっ、予言が出てたのに、何で俺は渋谷なんかに来ちまったんだ!」

「五条悟だ! 五条悟という《悪魔》が俺達人間を──!」

「《悪魔》の五条悟だよ! そのぐらい知っとけよな!」

「誰だよそれ!? つーか、お前らは誰と誰!」

「予言には──ヒカリエだ。渋谷駅の地下5階、副都心線ホームに行けば助かるぞ!」

「ヒカリエ!? ちょい遠いけど、最高速度で向うてやる!!」

「疾風迅雷やね」

 

『10月31日の19:00頃、渋谷で大規模な封鎖テロが起こる。だが渋谷駅地下5階にいる人間は結界により全員《無敵》となり、無傷で生還できるだろう』

『だが五条悟には気をつけろ。奴は人間を殺す《悪魔》だ。しかし、渋谷駅地下5階に閉じ込めればその力を大きく削ぐことができる』

『そして《無敵》となった渋谷駅地下5階にいる人間の尽力により、人間を殺す《悪魔》五条悟は封印されるだろう』

 

 ──という、最近SNSやインターネットで話題を集める《予言者》の()()()()()()()稿()()()()予言を信じた一般人達は渋谷駅地下5階に向かうため、行動を始めた。

 《予言者》はどのような意図でこの予言を投稿をしたのか。それは本人にしか分からない。

 

「ちょ、皆さん渋谷駅方面は危険です! そこには特級……あ、いや危険な爆発物があると報告が!(《特級呪霊》達の巣窟に一般人を入れるわけには! それに五条さんの邪魔だけはさせないようにしないと!)」

「うるせぇっ! 警察でもない奴の言うことなんて聞けるか! 俺たちは駅に向かわせてもらう!!」

 

 予言の内容を知る人間は現状、熱心な《予言者》のファンぐらいのものであり、ネットニュースにも僅か数件の記事しか書かれていない。

 そのため、呪術界の人間の中に予言の内容を知る人間は殆どおらず、なぜ急に一般人達が動き始めたのか補助監督達には理解できなかった。

 

「どうするどうする!?(我々ではこの人数全てを抑えるのは不可能! こうなったら術師の方達に実力行使で止めてもら……いや、それはダメだ。呪術規定に反する! でもだからと言って!)」

 

 補助監督達は帳内の一般人の混乱を何とか抑えようとしていたのだが、《予言者》の予言を信じるものと、何となくそれに着いていく一般人。これらの行動を段々と制御出来なくなっていった。

 

「本当、そっちは危ないんです! 頼むから言うことを聞いてくれぇー!!!!」

 

 補助監督達の必死の警告が渋谷中を駆け巡る一方、テロの主犯である羂索達はと言うと──

 

「は〜。まさか私の人生でテロの主犯の片棒を担ぐ日が来るなんて。神よ寝ているのですか。寝ているなら今から殴り殺しに行ってもいいですか」

「もし神が居たら今度一緒に殴りに行こうか」

「ぶぅー」

 

 渋谷駅構内にて呑気に雑談をしていた。

 

「陀艮、ここに居ても暇だろうから一般人を食べてきてもいーよ。必要充分な人数は揃ったし、多少減っても問題ない。ただ、渋谷駅地下5階は非術師に危害を加えられないから。駅の上階や入り口辺りがオススメだよ」

「ぶぅ! ぶぅー!」

 

 羂索の言葉に頭を上下させ反応を示した陀艮はトコトコと駅の上階を目指して移動を始めた。

 

「ゆるキャラみたいな奴もいるんですね、呪霊って」

「あれは《呪胎》と言って、呪霊の卵みたいなもんさ。知能は他の《特級呪霊》達と比べると低いけど、秘めているポテンシャルは間違いなく《特級呪霊》に相応しい。ま、術師を入れない帳を下ろすまでの間、他の術師の侵入を阻んでくれる便利な駒の一つさ」

「それで、私達はここで何をするんですか? 五条悟を封印するまで暇なんですけど」

「やる事はないよ。あれだったら早めの晩御飯にでもする? 前に食べたいって言ってた鰻弁当テイクアウトしといたんだけど」

「……テロの主犯って、こんなのんびりしといて良いんですかね?」

 

 鰻弁当をつつきながら2人は五条悟が疲弊するまで待機する。

 

「あ、そうだ橘。折角だからさ──」

「……性格悪いですね。まぁ良いですよ。貴方の憂さ晴らしに付き合ってあげます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで負けたら言い訳できないよ(一般人が出れない帳の内側に、妙な結界が薄皮みたいに張られているな。でも、それより問題なのが一般人の纏っている呪力。あれは呪いをかけられている。どんな効果かまではかけた本体を見てないから確定じゃないけど……今は気にしても仕方ないか)」

 

 現代最強の術師・五条悟は敵の罠だと分かっていて尚、渋谷駅地下5階に単身乗り込んだ。

 ホームにはたくさんの一般人がすし詰め状態にされており、五条は敵の狙いを何となく理解は出来ていたのが、下ろされている帳に薄く張り付くように展開されている結界と一般人の状態に違和感を感じていた。

 

「貴様を殺す算段はついている。初めての言い訳を考えておけよ」

「殺す算段? ふーん。どんなものか楽しみにしとくよ(僕が地下5階に着いた直後ぐらいに、帳がもう一枚下ろされた。僕以外は出入り自由だけど、僕が出られないやつ。交流戦の時と同じやつだ。それに、あの雑草野郎に出入り口と天井を物理的に塞がれたか。これじゃあ適当に攻撃したら一般人に被害がいくかも)」

 

 漏瑚の言葉を皮切りに、森への恐れで生まれた《特級呪霊》花御、呪胎九相図の1番・脹相が五条に向けて、元から地下5階に居た一般人と、予言に従い集まってきた一般人達を放り投げ始めた。

 

「──殺す算段ってこれ? もし本当なら失笑ものなんだけど……(てっきり領域展延とか無下限対策の一つでも出してくると思ったら、期待外れもいいとこ──)」

「……おい、アンタもしかして五条悟か?」

 

 漏瑚達に投げられ、五条の術式《無下限呪術》により空中に止まったように見える男が五条に怯えた様子で話しかける。

 

「そうだけど、何処かで会ったことある?(僕のことを知ってる? 術師……じゃないよな)」

 

 もちろん、五条と男に面識はない。

 だが、五条が肯定したことで男の表情はより一層青くなり、ワナワナと体を振るわせ、悲鳴じみた声で叫んだ。

 

「やっぱりだ! おいみんな、ここに《悪魔》がいるぞ! 俺たちを殺しにきた《悪魔》だ!」

「……え、《悪魔》?(GTG(グレートティーチャーゴジョー)ならまだしも《悪魔》って。誰だよ、僕にそんなあだ名つけた術師は。見つけたらマジビンタしてやる)」

「けど大丈夫だ! 俺たちがいる地下5階じゃ、《悪魔》の力は弱まっている! 俺たち一般人はこの地下5階にいる限りは《無敵》だ!!」

「は?」

 

 男が声を出した瞬間、五条の視界には漏瑚の術式によって燃やされそうになっている女が目に入る。

 距離的にも離れているため止めることが無理だと判断した五条は、違和感を覚える発言をした男から情報を得ることに切り替えるが、驚きの光景が《六眼》に映り、開きかけた口が止まる。

 

「……あれ? 熱くない」

「なんだと!? もう効果が出るのか、げ──ちぃ!」

 

 漏瑚の炎に包まれる女性は燃え尽きることなく、その原型を留め、無傷のまま立っていた。

 カラクリを知っていそうな漏瑚も驚いているようだが、漏瑚の炎は例え1級術師であっても致命傷を与え死に至らしめることができる。

 そんな炎を受けても無事な女は五条のように《無下限呪術》で防いだのだろうか?

 

「……ねぇ、あれってどういうこと? 君は何か知っている?(僕と同じ無下限で、ってわけじゃない。確かにあの女の子はハゲの炎に包まれていたはず。じゃあ術式か……と思ったけど、僕から見てもただの一般人。やっぱ、かけられてる呪いが関係しているな)」

「誰が《悪魔》に……」

「《悪魔》ってあだ名には突っ込みたいけど、さっき君は言ってたよね。俺たちは《無敵》だ、って。なんで《無敵》なの?」

 

 五条は男の発言を正確に思い出していた。

 《悪魔》らしい五条悟(自分)は力が弱まる。渋谷駅地下5階にいれば一般人は《無敵》。

 命の危険を感じて混乱の末に出た言葉にしては、確信を持って言っているように思える。実際、漏瑚の炎で焼かれても一般人は無事だった。

 《六眼》が捉えた結界に付与されている効果と、呪われている一般人の状態。

 ここから導き出される答えは──

 

「大体わかった。一般人が出れない帳の内側に薄皮みたいにもう一枚下ろしてある結界──僕達が普段使ってる帳なんて目じゃないレベルの結界が《無敵》のカラクリだろう。この結界を作った奴は天元様並みかそれ以上だな。なんせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。差し詰め《設置型遠隔領域》ってところか。遠隔発動と維持も可能って、何をどうしたらこんな結界ができるんだよ。僕の予想としては、君達と手を組んでる呪詛師の術式が関係していると思うんだけど」

「……(儂等の秘策はもうバレたか。夏油から効果は聞いていたが、儂らも体験するのは初めて。もはやこれほどの物とはな。まずは儂ら呪霊を見れない非術師に五条を人間を殺す《悪魔》と印象付けるため何人か殺すつもりだったが──嬉しい誤算というやつだ。儂の動きでより一層非術師共は信じるはずだ。自分達は《無敵》であり、五条悟が《悪魔》でこの地下5階にいる限り力が削がれていくとな!)」

 

 五条の推測は正しい。

 五条の呼称した《設置型遠隔領域》は羂索が《呪霊操術》極の番《うずまき》を応用して作り上げた結界だ。

 呪霊の生得術式を《うずまき》で抽出。本来なら抽出した術式を球状にして術者が飲み込み発動するのだが、羂索は更なる発展系を閃き、《うずまき》に新たな可能性を見た。原理としては、羂索自身が肉体を乗り移る時に、その前の肉体の術式を持ち込む結界術の応用に近い。

 術式を結界術で保存できるなら、何の効果も付与されていない容量のある結界に抽出した術式を組み合わせたらどうなるか? ただ結界内に術式が保存されるだけなのか、それとも領域展開のように術式の効果が付与された結界になるのか? 試行錯誤の実験の結果、羂索の想像の斜め上をいく形でこの結界が完成した。

 《呪霊操術》で抽出した術式を組み合わせた結界を設置するだけで領域展開とほぼ同じ効果が得られる結界の完成。更に、この結界は《呪霊操術》で使役していた呪霊の生得術式だったせいか、《呪霊操術》の対象となり羂索の意思でいつでも出し入れすることが可能となったのだ。

 また羂索自身の呪力による強化や縛りによる効果の底上げ、通常の領域展開のように領域の範囲を決めることも可能であった。

 この結界が完成した日の羂索は一日中満面の笑みを浮かべており、橘にこの結界の凄いところや活用方法を延々と話し続けウザがられた。

 

「ま、何はともあれ検証だ。──術式反転《赫》」

「な、何を考えている! 五条悟ぅ!?」

 

 そんな結界の術式効果によって守られている一般人が大勢いるなかで五条が取った行動は、術式反転《赫》により現実に持ってきた無限を漏瑚へ向けて発散することだった。

 漏瑚は五条の術式反転《赫》を一度受けたことがある。その威力はこの地下5階の一般人を容易く殺し、漏瑚もマトモに受ければタダでは済まない程だ。反射的に頭の前で手を組み、最大限の呪力強化で防御しようとするが、衝撃はいつまで経っても来ない。

 

「? ──があっ!?」

「失敗! 久しぶりだね、このセリフは」

 

 いつの間にか漏瑚の近くまで移動していた五条は腹に一撃を喰らわせ、右腕を掴み引きちぎる。

 すかさず花御が羂索に習った領域展延を使い五条へ殴りかかり、脹相が《赤血操術》を使い援護する。

 領域展延はジリジリと五条の無下限を削るが、隙間なく繰り出された《赤血操術》による攻撃は問題なく防ぐことができた。

 

「(術式の順転や反転は使えないというより、威力に制限がある感じ。無下限の防御も出力はイマイチ。展延で拮抗してると数秒で破られるぐらい? 呪力強化による攻撃はこいつら相手なら充分。領域は……数秒なら無理やり行けるか)なら──」

 

 一旦漏瑚達と距離を取り、五条は術式の効果によって下げられた能力を一つ一つ確認する。

 普通の術師なら絶望して然る状況。だが、現代最強の術師は絶望に沈んだ顔ではなく、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「全て問題なしっ! 小賢しい脳味噌ひっくり返して考えた作戦だろうけどさぁ、この程度じゃ最強()は殺せないよ!」

 

 命の危険は微塵も感じない。だが、相手が強くなるのではなく、自分の能力を下げてくる相手は五条をして初めてだった。

 初めて経験する強制的に力に制限をされた中での戦闘。しかし、この程度で最強(五条悟)の首を取れると思ったら甘いにも程がある。

 傲慢な五条の余裕はこの程度のピンチでは崩れない。

 

 それになにより──

 

「一般人、この結界の中じゃ死なないんだろぉ!! だったら僕は一般人に遠慮することなく、お前達を祓え(殺せ)るな!!」

 

 五条悟が最も強い状況とは何か。それは、1人で尚且つ周辺被害を考えないでいい時だ。

 

「来るかっ! 来い、最強(五条悟)!」

 

 五条のハイになっている様子に一瞬足がすくみそうになるが、声を張り上げ、領域展延と《無敵》になっている非術師を盾にして迎撃の準備をする漏瑚。

 だが、五条が先に狙ったのは漏瑚ではなく──

 

「まずはオマエだ、雑草」

 

 漏瑚と距離が離れていて、人混みの中ではなく線路の上にいる花御であった。

 

「人混みに戻れ花御! 人間を盾にしろぉ!」

 

 だが漏瑚の言葉も虚しく、花御は五条の出力の落ちた無下限の防御なら展延で破れると先程の一撃で理解していたため、拳を振りかぶり迎撃しようとするが──

 

「僕が術式頼りの最強に見えた? 想定が甘い……よっ!」

 

 拳を受け流し、目元の木の枝のような部分を力任せに引っこ抜く。

 

「まだまだっ!」

 

 追撃は止まらない。五条は花御の顔面に一発拳を入れた後、術式を発動。いつもより威力が数段落ちる《蒼》だが、同時に複数発生させ、腕と脚の関節部分に一極集中。四肢を引きちぎった。

 最後にとどめとして頭部へ《赫》を何発かぶち込み消滅させる。

 残った胴体は《蒼》により強化された足のスタンピングで線路のシミになった。

 

「次」

 

 五条の次のターゲットは漏瑚のようだ。残った中で唯一、領域展延を使い五条に直接ダメージを与える可能性がある。狙われる理由としては充分だった。

 

「脹相! 手筈通りやれ! やらなければ貴様から燃やしてやるぞ!」

「はいはい」

 

 花御が亡くなった事へ思いを馳せる余裕のない漏瑚の言葉に脹相はやる気のない返事を返した後、花御によって塞がれていた天井を《赤血操術》で破壊。そして、天井から大量の一般人と異形の人型が降ってきた。

 

「その改造人間は、お前ら一般人を殺せるぞぉぉぉ!!!!!」

 

 脹相は息を吸い込み、先程までとは比べ物にならない程の大きな声を張り上げ一般人に警告する。

 半呪霊である脹相の声は一般人にもしっかり届き、ほとんどの一般人が脹相が改造人間と呼称した人型へと視線を向けた。

 改造人間? と一般人達は頭の中に疑問符を浮かべるが、すぐに脹相が言っていたことが理解できた。

 降りてきた人のような何かをよく見ると体色がオレンジや青などあり得ないものが多く、目玉が多かったり手足が異常に発達しているなど、どれもこれも人間を逸脱した異形の見た目をしている。

 そしてその口元には()()()()()5()()()()()()()()()人間の血と、鋭い爪の先には生首のようなモノがあった。

 

「きゃあぁぁぁ!!!」

 

 女のつんざくような悲鳴を皮切りに、一般人達は逃げろ逃げろ本当に殺されるぞ。と、各々喚きながら避難を始めようとするが──

 

 結果としてそれがいけなかった。

 脹相の口から発信された、()()()()()()()()()()()()という《噂》。目で直接見て本当だと信じてしまった者たちの動揺は、離れている一般人達にも広がり《噂》は伝播していく。

 

「あ、あぁぁぁ……」

 

 そして、改造人間に殺されるという《噂》を一般人達が本当だと信じてしまったがために、渋谷駅地下5階で初めての人死にが出てしまった。

 

 これが、羂索の用意した結界に付与された術式の効果。

 非術師の《噂》を因果を捻じ曲げて現実に発生させる、簡単に《噂》を発信できる現代社会において最恐ともいうべき術式だ。

 条件は結界内にいる非術師が《噂》を本当だと信じること。シンプルだが結界内でしか効果がないため。成立させ、効果を発動させるのは至難の業。

 だが羂索は渋谷駅構内を戦いの場に選ぶことで多くの非術師を巻き込み、《予言者》という信憑性のあるインフルエンサーの立場を利用し、予言を信じる非術師を地下5階に誘導して条件を達成した。

 

 だが、この結界の本領はこんなものではない。

 羂索の指揮により本領を発揮すればどうなるだろうか? 

 この結界は羂索の《呪霊操術》によって使役される結界であるため、羂索自身の神業のような結界術の技量の恩恵を受けることができる。その効果と凶悪さは、後の《死滅回遊》で存分に発揮されることになるだろう。

 

「くそっ、何でもありかよ(やっぱり一般人──非術師の《噂》を因果関係を無視して現実に発生させる術式で正解だな。条件は結界内で《噂》を信じることか。そして1番厄介なのが、信じる《噂》がコロコロ変わるたびに発動される効果が丸っと変わるところだ。破壊は──無理だな。パッと見た感じ、僕の今の呪力出力じゃ無理。たぶん縛りで結界強度を上げまくってる。いつもの僕でも《茈》2〜3発で何とかって感じ。なら、この混乱を止めるには……)」

 

 対応策をいくつか頭の中で浮かべる五条だが、考えをまとめる前に呪霊側が更なる追い討ちをかけてくる。

 電車のアナウンスと共に駅のホームに電車がやってきたのだ。

 アナウンスを聞いた一般人の中にはこの場から離れられると希望を持つ者もいたのだが……

 一般人達が電車に乗ることはできなかった。

 

 なぜならば──

 

「か、改造人間だぁぁ!!?」

 

 電車の中にいるのは人ではなく改造人間。ホームドア付近に立っていた一般人はなす術なく殺され、更に《噂》の信憑性が高まる悪循環を生んだ。

 

「やっほ、漏瑚。計画は上々?」

 

 更にこの場に、改造人間を生み出した元凶《特級呪霊》真人も参戦する。

 

「花御が死んだ」

「……そっか。でも安心しなよ、花御の魂は俺達の中で息づいている。それに必要なら、()()()()()がすぐに花御を寄越してくれるさ」

「……相変わらず言っていることがよく分からん。だが、気休めにはなった。真人、最後の詰めだ。五条悟に領域を使わせるため追い込みをかけるぞ」

「別に、その心配はいらないんじゃない。だってほら」

 

「領域展開《無量空処》」

 

 真人の言うように、改造人間が電車の中から大量に現れたタイミングで、五条は領域展開《無量空処》による対応を選んだ。

 

 なぜ五条は領域を展開したのか?

 

 それは五条を弱体化させ、《噂》によって場を乱す原因である一般人達の思考を一時的に奪い、この場で唯一、一般人を殺せる改造人間を全員殺すためだった。

 もっとも、五条は一般人を皆殺しにするつもりはなかったため、勘で決めた死なないギリギリの0.2秒だけ領域を展開した。

 だが、《無敵》である一般人に領域の効果はあるのか? そんな懸念もあったが、結界に付与されている術式の効果で《無敵》である一般人であっても、領域の必中必殺が当たるはずだと五条は推測。結果、その推測は正しかった。

 五条の《無量空処》と羂索の《設置型遠隔領域》の領域による押し合いが発生しないかの懸念もあったが、意外にも押し合いは発生せず《無量空処》は無事に展開できた。これは《設置型遠隔領域》に秘密があるのだが、現在の戦闘には関係ない。

 いまだに《噂》による弱体化は継続中であり、《六眼》による呪力操作と五条自身の技量を持ってしてもかなりの無茶をする中での領域の発動。それは五条自身も理解しているため、はなから長時間展開することを想定していない。そのため、領域の押し合いがなかったのは、五条からすれば嬉しい誤算であった。

 

「……」

 

 およそ0.2秒の領域展開により半年分の膨大な情報が脳に送り込まれ、漏瑚や改造人間、一般人達を気絶させ行動不能にする。

 だが、それだけでは終わらない。この場で唯一、一般人を殺害可能な改造人間およそ1000体にターゲットを絞り、五条は一つ一つ殺していった。

 

「はぁ……はぁ……」

「《獄門疆》、開門」

 

 結果、特級呪霊や一般人達が《無量空処》により行動不能状態になっている間に改造人間は全て鏖殺。

 僅かに疲れを滲ませる息を吐くが、余力は充分。このまま《無量空処》の効果が残っているうちに漏瑚達を祓うため動こうとするも、先程まで存在していなかった呪具が突如現れ、《六眼》がそれを捉えた。

 

「や、悟」

「……は?」

 

 《六眼》で呪具の効果を確認し、ひとまずこの場から離脱しようと足を動かすが、懐かしい声が五条の足を止めた。

 

「お前、なんで──」

「酷いな、親友の顔を忘れたのかい?」

 

 五条が声の聞こえた方向へ振り返ると、そこに居たのはかつて自分がとどめを刺した親友。

 その隣には、腹を膨らませた女子高生ぐらいの少女が立っていた。

 

「おっと、紹介を忘れてたね。こっちのは──」

()()()()です。傑の妹です。ちなみに、お腹にいるのは兄の子供で〜す」

「……は?」

 

 疲れた脳味噌に、受け入れたくない現実とあり得ない情報が同時に入ってきた瞬間、五条の脳内に溢れ出した、3年間の青い春と()()()()()()()。そして──

 

『なぁ、悟。実は私、好きな人ができたんだよ』

『げ、マジかよ!? まさか硝子……いやないか。取り敢えず、写メとかあったら見せろよな。一体どんな奴なんだよ?』

『……実は、妹なんだ。血の繋がった』

『……冗談だろ。現代で近親相姦とか、太一とヒカリじゃないんだし』

『太一とヒカリは裏設定だろ。それに近親相姦してないし。いや、デジモンの話は置いといて。実は、もうお腹には私の──』

『はぁ〜〜〜。ったく、しょうがねぇな。さっきはあぁ言ったけど、呪術界じゃ近親相姦なんてそこまで珍しいもんじゃねぇし。競走馬みたいなインブリードやって、強い奴を作ろって生まれたやつも少なくねぇ』

『ははっ、意外だな。もっと強く拒絶されると思ったよ。それこそ、親友をやめるなんて言われたら──』

『ありえねぇよ。そのぐらいで親友やめるなんてことはさ。……ま、硝子と一生イジらせてもらうけどな。それで、結婚式とかやんのか?』

『やりたいが、親も許さないだろうし。世間の目も……』

『じゃあ、五条家(ウチ)に二人まとめて来いよ。結婚式ぐらいなら余裕でやらせてやる。むしろ、《呪霊操術》を使う特級が五条家(ウチ)に加わるなら、ジジババ共も両手を挙げて喜んでくれるだろうさ』

『……悟にはいつも助けられてばかりだ。ありがとう、君に話してよかったよ』

『な〜に、シンミリしてんだっての。……それでさ』

『あぁ、出来れば君に頼みたい。なんたって私の唯一の親友だからね』

『たっく、しょうがねぇな。俺のスピーチ聞いて泣くんじゃねぇぞ』

 

 五条の屈託のない笑みに夏油もまた笑みを返したところで──

 

 五条の頭に、現実で起きた本当の記憶が呼び起こされる。

 

 記憶が夏油との最後のやり取りに切り替わる。

 

 

『あぁ、そうだ。最後に私の妹。()()をよろしく頼む』

『馬鹿、最後に俺に言うセリフがそれかよ』

『あの子は私と同じ苦しみを知る唯一の家族だ。私が言えた義理ではないが、悪いようにはしないでやってくれ』

『──』

『……ありがとう。それと──』

『ほんと、お前は馬鹿だよ。──』

 

 

 

 

 

「封印成功、やったぜ。いぇ〜い!」

「いぇ〜い」

 

 現実では数秒にも満たない硬直。

 《獄門疆》は半径4メートル以内に封印対象を1分間留めておく必要がある。だが、現実の1分ではなく()()()()()()()()()()1()()のため、たくさんの記憶が頭の中に溢れた五条悟の脳内時間は1分を超過し、封印は成功した。

 羂索と橘はハイタッチをして、封印の成功を喜んでいる。

 

「……(詰み、か)」

 

 きゃいきゃいと喜んでいる橘と羂索を見ながら五条は呪力が練れないことを察し、詰みであることを認めた。

 だが、完全に封印される前に解消しなければならない疑問があった。()()()()()()()のおかげで頭に浮かんだ夏油と五条(自分)の最後の記憶。

 自分の予想が正しければ目の前にいる夏油は偽物で、親友の肉体を弄ぶクソ野郎であることがハッキリする。

 五条は殺気を込めた視線を向け、目の前にいる羂索に質問をする。

 

「なぁ、最後に聞いときたいんだけど。そこの()()ってのが、お前の妹なのか?」

「そうだけど、それがどうかしたのかい?」

「はっ、じゃあテメェは偽物だな」

「おいおい、親友の呪力まで忘れたのかい? 君の六眼はビー玉の類ではなかったはずだけどね」

 

 五条の偽物発言に、何か引っ掛かりを覚える羂索。

 《六眼》は魂まで見ることはできない。呪力も肉体の情報も夏油と一緒なのに気付くはずもないと切り捨てることはできるが、念のため羂索は夏油の記憶を探っていき……五条が羂索を夏油の偽物であると断言した理由を探り当てた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。アイツは遊びでくだらねぇ嘘を吐くこともあったが、今際の際に嘘を吐く奴じゃねぇ。──答えろ! テメェらは何者だ! 傑の体に何をしたぁ!!」

「……はぁ。バレちゃったか。ならネタバラシをしとこうかな」

 

 羂索は自身の額にある糸を抜いて、頭をパカっと開き、自身の脳味噌を五条悟に見せつける。

 

「実は本当の妹は私、氷川裕子でしたー! ──なんてね。実際は夏油の気狂いが、勝手に私を妹認定しただけさ。それと君、私の前の肉体の氷川裕子を探してたんだろ? 結果的に私の元に夏油の遺体が届けられたんだから、良かったじゃないか。親友(夏油傑)もきっと喜んでくれてるだろうね」

「いつまで好き勝手やられてんだ傑。テメェの妹だろうが関係ねぇ、とっとと起きろよ」

 

 五条の言葉に反応したのか、羂索の意思とは反して夏油の肉体が動き出す。

 

「ぐっ!? ……あれ、もう終わり? つまんな」

 

 手が羂索の首元まで伸びていき、一瞬首を絞めるも、直ぐに力が抜けてしまった。

 羂索は首がもげたトンボみたいなアレかな? と、特に気にすることもなく制御の戻った手で自分の頭を嵌めて糸で縫い直した。

 

「あ、そういえば結界の試運転に協力してくれてありがとうね。君のおかげで少しばかり改善点も見つかったからさ。──じゃあ、話すこともないしそろそろ君には退場してもらうよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、負ける可能性もあったし、癪ではあるけど封印するのが結果的に1番良かったのかもしれないね。結界であんなに能力を下げたのに、あそこまで動けるとは私も予想外だったよ。それに、もう無いとは思うけど、《六眼》がリポップするのは御免だからね。取り敢えず、私の憂さ晴らしのためにも君は《獄門疆》の中で一生苦しんでいてくれ。……いや、でもそうだな。もし私が生きていたら世界の終わる間際ぐらいで復活させてあげるよ」

「話がなげーよ。それに、その体が死ぬ前に誰にボコられたのか忘れたのか?」

「乙骨憂太かい? 悪くないとは思うが、術式の使い方が少々勿体ないね。まぁ、どっちにしろ無制限のコピーと無尽蔵の呪力を失った彼ごときの実力じゃ私には勝てないよ」

「夏油、話は終わった? あ、あと橘は久しぶり! 元気してた?」

 

 《無量空処》の影響からいち早く回復した真人が羂索に近づき、橘に話しかける。

 

「そういえば麻雀やった時以来ですね。真人も元気にしてましたか?」

「ははっ、お腹もだいぶ大きくなったね。でも大きくなったからかな、より強く感じるよ。その胎の中にいるのは、やっぱり俺たち呪霊と電波の不倶戴天の敵だってね。電波がそう言ってるんだ、間違いない!」

「おーい、封印するなら早くしてくれ。ここの眺めは最悪すぎる」

「う〜ん、本当はもっと色んな憂さ晴らしをしたかったけど、面倒くさくなってきちゃったし、何かあっても困るからもういいかな。じゃ、閉門」

 

 完全に封印される間際、五条は無意識に羂索ではなく橘──正確には橘の胎にいる赤子の方を見ていた。

 《六眼》で得られる情報からは、ただ赤子が胎の中にいるということしか分からない。真人と違い魂を知覚できない五条には、その正体を知ることはできなかった。

 だが《死滅回遊》が起こった後、《獄門疆》の封印から解放され、その赤子を直接見た時に五条は真に理解することになるだろう。

 

 世界の理を創り変える、本物の《救世主(メシア)》というものを。

 

 





人物表

・橘秋麗
お腹がもう大分大きい妊婦な女子高生。最近の悩みはお気に入りの服が入らなくなったことと、友達と会えなくなったこと。自分の体が後どのぐらい動くのかなんとなく分かっているため、自宅治療に切り替えかた末期癌患者のような心境。最近楽しかったのは、羂索や美不二とネズミーランドとユニバを梯子したこと。

・羂索(夏油の姿)
色々パワーアップ。結界で術式を次の肉体に持ち込めるなら、いけるんじゃねと《設置型遠隔領域》なるものをうずまきを応用して開発した。ただ、五条が名前をつけただけなので別の名前がちゃんとある。原作にもあった首を絞める描写だが夏油の妹という経歴があったためか直ぐに終わる。お兄ちゃんは首もげたトンボになっても妹だと気付いたら傷つけなさそう。
実は予言者の正体は羂索。一般人の中には何人か羂索の息のかかったサクラがいた。

・五条悟
めっちゃメタられたけど最強だから余裕だった。けど、原作より疲れていたのか存在しない記憶を見てしまった。親友とお揃いだね。
今作の羂索とフルスペックのまま戦ったら、7:3ぐらいで勝つ。噂結界内なら3:7くらい。ただ、あくまでも噂結界ありきなので参考にはならない。
夏油の妹のことはしっかり覚えている。だが、本人を見たことがないため羂索の言葉が本当かどうかは分からなかった。暫くは封印されるので次の出番は死滅回遊終盤くらい。

・漏瑚
今話のMVP。彼がいなければ五条はあそこまで疲れなかった。最初に人を燃やそうとしたのもグッド。今後の活躍に期待したい。

・花御
雑草。会話すらなし。

・陀艮
ぶぅぶぅ。

・脹相
役目はしっかり果たすお兄ちゃん。一般人にも声が聞こえるため、本作戦に投入された。

・真人
実は無量空処を喰らってもそこそこ早い段階で回復していた。電波のお告げと自身の本能に従い、行動し続けた結果、本作の羂索並にパワーアップした。次回の《中編》の主役といって過言じゃない。

・設置型遠隔領域
羂索が作った結界。人の噂を因果を曲げて現実に再現する。ペルソナ2のニャルラトホテプの噂結界とほぼ同等のもの。効果が発揮されれば現代ではまさに最恐の術式だろう。


次回は《中編》。真人が大暴れしてくれるはず。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。