流石に2万文字越えは長いと思ったので分割しました。
最初は、とある補助監督からみた真人や《渋谷事変》の被害状況。《死滅回遊》にもちょいと触れています。その次から、いつもの形式に戻ります。
今話もオリジナル要素が強いので、ご注意ください。
《渋谷事変》における呪霊・呪詛師の被害による死者数はおよそ数万人とされている。これは日本の呪霊・呪詛師による被害の年間死者数を優に上回る数値であった。
なぜ《渋谷事変》における死者数が数万?と、曖昧なのか。主な理由は二つある。
①両面宿儺による広範囲の領域展開《伏魔御廚子》により衣服も肉片も残さない大量殺戮が行われたこと。②《特級呪霊》真人による無差別な殺害が挙げられる。
両面宿儺による被害は人間・建造物含め数えるのも億劫になる程の被害を齎したが、人的被害という面に特筆すれば真人による被害は群を抜いている。
肉片すら残さなかった両面宿儺の領域展開と違い、術式による多種多様な殺害方法が取られ、肉体や身分証などが消滅せず身元の確認ができる例は多かったものの──被害者数という意味でも猟奇的という意味でも、過去の呪霊被害と比較してもトップクラスだ。
《渋谷事変》において肉体が残っている死体の殆どは真人の術式により魂を弄られ肉体を改造された人間(以下、改造人間と呼称)であった。
真人の改造人間についてだが、8月辺りに交戦した術師の記録を確認すると《渋谷事変》以前と《渋谷事変》時の改造人間では《質》とでも言うべきものが違うことが分かった。
個人的な感想になるが、改造人間が強力になったとかそういう次元ではなく、
《渋谷事変》以前の改造人間は短命のものが多く、人間を殺す事を目的として肉体を改造されているせいか、ある程度の時間暴れたら動かなくなり死亡する事が確認されている。
だが《渋谷事変》における改造人間は人間を殺す事を目的とする短命タイプのモノに加え、
意識がハッキリとしているタイプは人間を殺すタイプと似た姿形をしているが、肉体改造前と遜色ない
高専所属の医師曰く、《渋谷事変》以前のものと比較すると皮膚や脂肪を薄く伸ばすように肉体が変形させられているだけで、内臓などは正常に働いており、短命タイプのように直ぐに死ぬ事はないらしい。正確には肉ではなく魂の形を変えられているとのことだが、私にはイマイチ理解できなかった。
ちなみに治す術はないかと聞いてみたが、反転術式では魂の形を修復することが出来ないため不可能だと断言された。
これは個人的に気になっていることなのだが、意識を残したまま改造人間になってしまった方達には
一体、いつどんなタイミングで真人が改造を施したのかは不明だが、被害者曰く、
あらかじめ真人が改造人間にするためのマーキングなどを施していた可能性もあるが、当時の状況含め詳しく話を聞く前に改造人間達は
改造人間達の正確な人数を把握する前だったので曖昧となるが、他の補助監督達の報告を聞いて集計する限り消滅した改造人間にされた方達はおよそ数千人は居たと思われる。
その中には、何人かの補助監督や術師も含まれていたそうだ。
正直なところ、意識をハッキリと残したタイプの改造人間が消えたことにはホッとした。あんな姿にされた上に狂えないまま生きるぐらいなら、いっそのこと死んでしまった方が当人達のためかもしれない。
それに仮に生き残っていた場合、医療機関や家族への事情説明、隔離しておく施設の用意などの隠蔽工作。考えただけで目眩がする。
まぁ、どうせあの上層部のことだ。隠蔽という名の皆殺しを最終的には決定して命令するはずだろうから、私の心配事は杞憂に終わっていただろう。
皆殺しを誰がどうやるかは分からないが、想像しただけで胃の中の酸っぱいものが口から出そうになる。術師の方達なら、元人間だろうと平然と処理できるのだろうか?
そういえば、実際に《渋谷事変》以降の対応でストレス過多になりハゲてしまった同僚がいたが、正直笑えなかった。
──話は真人の術式になるが、領域展開を除けば、自身の姿形を変える技。人間を改造人間化する技。それをストックし放出する技。改造した人間(意識がハッキリ残っているタイプ)を衣服や身に付けているモノを残して消滅させる技が確認されている。
中でも情報が足りないのが、衣服や身に付けているモノを残して肉体を消滅させる技だ。
真人との交戦から生き残った術師曰く、真人は人間の魂を捕食しており、魂を喰われた人間の肉体は服や身に付けているモノなどを残して、まるで最初から居なかったかのように消えたらしい。
また、魂を捕食した結果、呪力量の上昇等の能力強化がされるようだ。
真人自身からの申告らしいが、呪霊として発生してから《渋谷事変》に至るまで万単位の魂を捕食したと言っていたそうだ。
もっとも、真人は人間で言うところの情緒が不安定であり、発言も意味不明なモノが多く、真偽は定かではないため正確な数字は不明である。
流石に万は吹っかけすぎではないか?と、交戦した術師も信じていない様子だった。
だが、この話がもし事実ならば真人の脅威は呪術全盛の平安時代、その時代の最強であった呪いの王・両面宿儺と同等かそれ以上の脅威と言えるのではないだろうか。
現代の人間・呪術師に魂の干渉を防ぐ術は存在しない(一部例外は除く)。あの五条悟ですら直接触れられた場合、完全に防ぐ術を持たないらしい(あの人なら何とかしそうだけど)。
真人の術式は分かっていても基本的に防御不可能。加えて真人は積極的に非術師を殺す。最悪な性格に最悪な術式が宿ってしまったと、交戦した術師は語っていた。
仮に五条悟が封印されたまま真人が野放しになっていたら。
考えるだけでもゾッとするが、そうなった場合に対処できる存在はどれほど居るだろうか?
一級術師を含めた複数人が返り討ちにされたという記録があったので、特級術師でもなければ完全に祓う事が出来ないのではないだろうか。
更に真人は魂を知覚されない限りダメージが入らないという体質を持ち、攻撃を通す手段も限られているらしい。
仮に真人と戦うならば、魂を知覚して攻撃する手段か、領域展開や簡易領域は必須。というより、なければ勝負の土俵にすら上がれないだろうと、8月に交戦した術師の記録に残っていた。
更に、真人はまだ使っていない技があることを戦闘中に仄めかしていたらしい。
突如消えた改造人間達が関係している可能性は高いが、私の想像力では上手く言語化はできない。六眼を持つ五条悟が実際に真人や改造人間を見ていれば何か分かったのかもしれないが、今となっては意味のないことだ。
なぜなら、真人は協力関係にあった呪詛師と仲間割れをし、その結果祓われた──というより取り込まれたそうだからだ。
その一部始終は《渋谷事変》の対処に当たっていた術師が確認している。
だが、真人による被害を考える必要がなくなっただけで、追い打ちをかけるように《死滅回遊》という日本全土を巻き込んだ呪術テロが連続して引き起こされたため、私達補助監督は直ぐにその対処へと駆り出された。
同僚も《渋谷事変》で多く亡くなっているため1人あたりの仕事量が馬鹿みたいに増えた。不謹慎だが死んだ同僚を少し、■■■■と思ってしまう。
《死滅回遊》は日本だけに止まらず、世界にも影響を与える被害を現在進行形で齎しているため、被害の規模だけで言えば真人以上だ。
呪術界の上層部は日本政府と協力して、流石に隠蔽することが不可能になった呪霊の存在を公表し、あくまでも東京だけに発生するモノとして扱い情報統制をしようとしていたが、一時的な対処療法にしかならないだろう。
呪霊がいるかも知れないと信じた非術師が本当に呪霊を視認してしまうケースは少ないが確かにある。仮に影響力の高いインフルエンサーやテレビ関係者などが視認し、日本や世界に情報が拡散されでもしたらどうなるか。
非術師が呪霊を知らず、五条悟が居たからこそ人間と呪霊の均衡は保たれていた。
その両方が無くなれば? 《死滅回遊》を収束できたとしても、日本全土が呪霊に蹂躙される未来が訪れるだけだ。
事態を先延ばしにしているだけの対処療法しか取れない現状に納得はできるし理解もできるのだが、その後のことを考えるだけで食欲がなくなり吐き気が込み上げてくる。
最近は、頭の中に■■してでも楽になりたいという欲求が頭の中にチラつくことが多くなった。
《死滅回遊》により全国各地に現れた巨大な結界は従来の帳の効果も持っているのか、電波が遮断され、結界内で連絡が取れない状態にあったが、術師や非術師にとってはそこまで致命的なものではない。
真に致命的だったのは、結界内にいる呪霊達の行動であった。
なんと結界内にいる呪霊達が《死滅回遊》開始直後から建物や施設を優先的に破壊しまくるというあり得ない行動を取り、インフラに凄まじいダメージを与えたのだ。なぜ呪霊がこんな行動をしたのか目的は不明だが、《呪霊操術》を扱う《死滅回遊》を企てた黒幕が指示したのだろうか?
術師達は休む間もなく呪霊を祓いに結界内へ侵入し、死滅回遊に参加しているプレイヤーも流石に物資や拠点が無くなるのは困るのか優先的に呪霊を祓いなんとか対処したらしいが、電気や水道などのインフラへのダメージが凄まじく、特に医療機関の大部分が機能を停止した。
結界の範囲内の病院にいる重病患者の殆どは数日も持たず死んだと聞いたが──まぁ、私達補助監督にはあまり関係ない話だ。
そんなことを考える暇は絶え間なく増え続ける仕事が与えてくれないし、深く考えないようにしなければやっていられない。
入院していた闘病中の親戚と末期癌だった父が死んだらしいが、葬式をしてやる暇はないし、私に悲しむだけの余力はなかった。
連絡が取れないため不明だが、東京の結界内に居るはずの妹や母もおそらく死んでいるだろう。
結界内は危険で《死滅回遊》のプレイヤーとして参加しなければならないので、弱い私は死体も探しに行けない。
あの術師の中では珍しい善性を持った高専生達なら母や妹の死体を見つけてくれるのではないかと一瞬考えるが、《死滅回遊》解決のために動いている術師の方に捜索を頼むのはあり得ないし、やってはいけない。私の個人的な事情のために余計な負担をかけるわけにはいかない。
《渋谷事変》の時からもそうだが、事は既に一介の補助監督である私の領分を遥かに超えていた。
というより、私たちの仕事はあくまでも呪霊や呪詛師への対処であり、こういった大規模なテロの対応は政治家や警察、呪術界で言うなら総監部や御三家の仕事ではないだろうか?
主要都市圏の政治家や警察官僚達は軒並み死んだらしいので仕方がないのかもしれない。けど、総監部や御三家は権力を持ってるんだから、こんな時ぐらいは団結してマトモに働いてくれよ──と、同僚が愚痴を言っていたが、私は愚痴を言う気力も湧かず、苦笑いを浮かべることしかできなかった。
あともう直ぐで決心がつきそうだから、それまでの辛抱だ。
責任を醜く擦り付け合う段階はとっくに超えていることは誰もが理解しているはずだ。なにせ《死滅回遊》が起きたことにより、事は日本のみならず、人類が滅びるかどうかの瀬戸際まで追い込まれてしまっているからだ。
……まぁ、こんな時だからこそ内輪揉めをするのは流石人間というべきか。総監部や御三家、高専所属の呪術師達は方針等で色々揉めているらしいし(噂では内戦のようなことも起こったらしい)、海外から日本の危機につけ込んだ軍隊の介入など、少し目を離しただけで問題が山のように増え続けている。
やはり呪術師達──いや、人間というのは頭がおかしい。追い詰められてからすることが内輪揉めなんて、現実を見ることも出来ないのだろうか?
まぁ、私が言えた口ではないか。
私のような力なき補助監督はただ終わりの刻まで仕事に没頭することで現実を直視しないようにすることしかできない。
互いに争っている暇があるのなら、黙って仕事をして手間を増やさないでほしい。
疲れた。
早く■■■■。
そうだ■■■。
場所は、あそこがいいかな?
ごめんなさい。
──これを見ている方はいないと思いますが、もし職場の方が見ていらっしゃいましたら、職場のデスクトップパソコンに制作途中の《特級呪霊》真人の記録や私の担当分の《死滅回遊》の記録があるので、そちらを確認してください。引き継ぎがちゃんと出来ず申し訳ないです。
直接話を聞いた術師の音声記録などもまとめていますので、提出してあるボイスレコーダーか、共有フォルダに入っているパソコンの音声ファイルを確認してみてください。
再び呪霊として現れる真人は違う姿形となっている可能性は高いですが、再度発生する確率は人類が生存している限りほぼ確実でしょう。
もっとも、真人の記録を残したところで無意味なモノになる可能性は高いと思われます。
何故ならば、これを読んでいる貴方も知っての通り呪霊の発生原因たる人類が滅びるかもしれないからです。
そうなれば、人間の負の感情から生まれる呪霊の記録を残すことに意味はありません。
人間という種のしぶとさは歴史が証明していますが、今回ばかりはどうにもならないのではないかと思います。
《
そう言えば、以前同僚から新たに設立された宗教団体に入信しないかと誘われました。
新たな世界を創生する《救世主》を讃え、聖母の再臨を待つ宗教団体のようですが、私はもう何かに縋ることも出来ないくらい疲れました。
家族や親戚も多分全員死んでいると思うので私の体は放置してもらって問題ありません。見るに耐えないのであれば、燃やすなりなんなりしてもらっても大丈夫です。
こんなものを最後まで読んでくださる方はいないと思いますが、後はよろしくお願いします。
ごめんなさい。
・・・・
渋谷警察署宇多川交番跡。呪いの王・両面宿儺と伏黒恵の《十種影法術》の式神・八握剣異戒神将魔虚羅との交戦により更地となった場所で、羂索と真人の二人が立っていた。
真人の傍には《両面宿儺の器》虎杖悠仁と《1級術師》東堂葵が倒れている。もっとも、2人はかなりの傷を受けているが気絶しているだけのようで、死んではいなかった。
羂索としては宿儺の器である虎杖悠仁に死なれるとサブプランの一つが消えることになるため、生存を確認した後は《呪霊操術》で使役する呪霊を使い、ついでに東堂も乗せて安全圏に避難させた。
真人はそれを止める様子はなく、薄い笑みを顔に貼り付けたまま、ただ羂索のことを見つめていた。
「やぁ、夏油。待ってたよ。今から俺を《呪霊操術》で取り込む気だろ? 残念だけど、電波が俺に語りかけてくるんだ。お前はまだまだ暴れろってね」
羂索の狙いを理解しているのか、真人はいつもの軽薄な声色で話しかける。
「君はその電波に操れられる傀儡なのか? だとしたら、少し期待外れだよ。それは私が嫌悪すべき存在に他ならないからね(電波とやらと主従契約を結んでいる場合があるよね。さてどうやって取り込んだものか)」
「ハハっ、
真人の発言に仕切りに現れる電波という単語。羂索は電波と真人の主従関係を危惧していたが、真人自身がそれを否定した。
「……橘については、まぁ聞かなくてもいいか。どうやらその電波とやらから色々聞いてるみたいだし」
橘が《予言の書》を持っていることと、行動を縛られていることは羂索と橘の間で結んだ縛りもあり真人には話していない。
羂索は自身を含めたごく僅かな人間しか知らない情報を知る電波の正体について考察するが、候補がいくつか出るだけで、断言するにはまだ情報が足りなかった。
「それはそうだろう。だって電波だからね!」
「……取り敢えずお互いに目的があるわけだし、後は呪い合って決めることにしようか」
羂索はこれ以上の会話は必要ないと判断し、戦いを始めようとするが──
「あ、ちょっと待った。その前に、お互い死なれちゃ困る事情があるからさ──縛り、結んどかない?」
「……いいよ。君が言わなかったら、私から提案しようとしていたところだ(本当は速攻で完封したかったけど、万が一も考えて縛りを結ぶのはアリか。取り敢えず結界の仕込みだけしといて、もう少し話を続けるとしよう)」
「要求は簡単。俺が勝ったら、夏油のあの結界──《噂結界》を俺の条件で使わせてほしい。人間はこっちで調達して改造するから用意する必要はないよ。あぁ、別に俺が勝っても夏油が《無為転変》を使ってやろうとしていることには協力してあげるよ。人の弄り方の経験値はもう充分だから、君の要求には応えられるはずさ。それに、電波がそう言っているからね」
「別に構わないが、《噂結界》を使わせるのは一回だけ。これは譲れない。……帳が解除されて、ここに術師が集まってくるのも時間の問題だし。さっさと始めようか(《噂結界》を何に使うつもりだ? 最悪こっちが負けても、死滅回遊を開始することが出来ればギリ妥協できるか。橘の《予言の書》によると私は真人を取り込めるらしいが、その過程は不明。具体的に予言されてもムカつくから別にいいけどさ、本当痒いところに手が届かない不親切仕様だよね)」
「一回で充分だよ。ただし、効果が出た後は俺の任意のタイミングまで結界を維持し続けること。後はどこに《噂結界》を展開するのか、展開する時間とかも決めさせてもらうね。これを呑んでもらわなきゃ妥協してあげられないかな」
「良いよ。じゃあ、縛りを結んだら開戦で。『私は真人との戦闘に負けたら、真人の条件に従い《噂結界》を使わせる。勝てば、呪霊操術で取り込ませてもらう。勝ち負けの基準は、相手の呪力量がMAXの一割を切るかだ』」
「オッケ〜。『俺は夏油との戦闘に負けたら、《呪霊操術》で取り込まれる。勝てば《噂結界》をこっちの条件で使わせてもらう。後はそうだね、降参有りも付け加えようか。やりすぎ防止のためにもね』」
羂索の現在の呪力量はMAXの9割ほど。対して真人は虎杖達の相手などをしていたためMAXの6割と言ったところ。
数値だけで見ると真人の方が不利に思えるが、そもそもの最大呪力量は真人の方が上。加えて真人にはまだ誰にも見せたことがない切り札があるためか、どこか自信ありげな様子だ。
両者が縛りを結び、まず先手を取ったのはすでに仕込みを終えていた羂索だった。
対五条悟戦で展開されていた《噂結界》。それとはまた違う結界が、羂索と真人の両方を飲み込み展開される。
「悪いが遊びは無しだ。《再編領域》・《蝗之王型》」
五条が《設置型遠隔領域》と呼称した《噂結界》と同じ。羂索が《再編領域》と呼ぶその結界は、《うずまき》で呪霊の生得術式を抽出して結界に組み込み再編した、領域展開と同等の効果を発揮する羂索だけのオリジナル。
羂索は初手で切り札の一つを展開した。
「準一級ぐらいの蝗の呪霊が居ただろ? 君も話してたそこそこの知能を持ってた奴だ。あの呪霊はこの結界に刻まれている術式を持っていた呪霊から発生した個体の一つに過ぎない。輸入物だけど、コイツの産み出す蝗はなんでも喰らう。肉体だろうが、魂だろうがね。対応するには領域を展開するしかないけど、どうする?」
《再編領域》は羂索自身の呪力を使い強化することもできるが、この結界の素晴らしいところは組み込んだ呪霊の呪力を使い領域を展開できるところだ。しかも呪力は時間経過によって《再編領域》自身が生成するためインターバルさえおけば何度でも利用可能である。
弱点らしい弱点が見当たらない《再編領域》だが、《うずまき》と同様に結界に取り込んだ生得術式は成長することができない。故に縛りや呪力強化を用いて運用しなければ、弱い呪霊の術式はマトモに使えず、長時間の運用もできないだろう。
また、生成された呪力を術師に還元できないため、呪力バッテリーとしての運用もできないし、領域内では羂索の生得術式ではないためバフがかからない。もっとも、羂索自身は《再編領域》内に入る必要がないため、バフが得られないことは欠点になり得ないだろう。
唯一最大の弱点は羂索の神業に等しい結界術の技量がなければ、そもそも創ることも運用することも不可能なことだろうか。
そんな《再編領域》に対抗するためには領域展開や簡易領域などの領域対策は必須。だが羂索は相手が領域を展開した後でも、術式の焼き切れを気にせず、再び領域と同じ効果がある《再編領域》を繰り出すことができるため、どんな術師にも基本不可能な領域展開の連発を可能としている。
果たして、真人は羂索の理不尽な《再編領域》をどのように攻略するのだろうか?
「勿論こっちも、領域展開《自閉円頓裹》」
真人は躊躇うことなく自身の領域を展開した。真人の領域《自閉円頓裹》は《無為転変》の効果が必中になる。術式の時点でもそうだが、当たれば勝ちの五条悟の《無量空処》並の反則級の強さを持っている。
羂索の《再編領域》と《自閉円頓裹》はぶつかり合い、互いの必中必殺を消し、後は領域内での戦闘に発展するはずなのだが──
「言ったろ、遊びは無しだって。その領域、私と押し合いをするには些か練度と強度が足りないね」
羂索自身、既に自分が結界内に入ることで《再編領域》の強度を高めており、術式の開示もしている。
そこから更に縛りを追加し、暫く《再編領域》・《蝗之王型》が使えなくなる代わりに領域を押し合いに特化したモノへとチューンナップする。
その結果は火を見るより明らかであり、真人の《自閉円頓裹》は容易く砕け散り、羂索は縛りにより一時的に使えなくなった《再編結界》・《蝗之王型》を自身の中に戻した。
「降参するための理由を君にあげるよ。私はまだ、この《再編領域》を20程用意しているんだがどうする? もし降参しないでのあれば、術式の焼き切れた君に縛りで威力を底上げした領域による必中必殺を雨のように浴びせるけど──」
「冗談、まだ始まったばかりでしょ」
羂索の降参勧告を断り、真人は自身の体──正確には魂に触れた。
「《無為転変》? けど、君の術式は焼き切れているだろ」
「俺の肉体はあくまでも魂に引っ付いているオマケ。俺の本体は魂さ。そこで俺は考えた。俺を成長させるためにはどうすればいいか? 人間みたいに筋トレしても意味はない。けど橘と電波から降ってきたインスピレーションは俺を答えに導いてくれた」
「会話による遅延かな? わざわざ付き合う義理もないね(術式の開示……にしては、微妙。やっぱ焼き切れを治すための時間稼ぎかな?)」
「橘の胎の中にいるアイツに触れた時、俺の魂は心底怯えた。じゃあなぜ俺は怯えたのか? 簡単な話さ、俺の魂が弱いからだ。じゃあどうすればいいか? アイツや電波のように魂の格を上げればいい! なら上げるには? 人間と一緒さ、食べればいいんだよ! じゃあ、魂の餌は!」
「《再編領域》・《颶風之型》。降参したくなったら、いつでも言ってくれ」
「勿論、魂! じゃあいくよ、漏瑚・花御・陀艮!」
羂索の《再編領域》が完全に展開される前、真人が予めストックしていた魂の一カケラ。漏瑚、花御、陀艮の魂を自身の魂に捕食させた。
「電波は──俺達の母親はこういうことを想定して俺を産んだのかな? 呪霊は元を辿れば人間の負の感情、その負の感情が具現化した存在。俺はそれをまとめて、束ねる役割が与えられていたんだ」
真人の顔や体の至る部分に、漏瑚や花御など羂索も見覚えのある呪霊の顔が浮かびあがり、異形の腕が6本生えた。
更に真人自身の顔が男のモノから中性的なモノに代わり、体つきも男らしかったモノから、女の要素を中途半端に混ぜた、そんな奇妙なバランスのモノへと変化する。
加えて、体全体にあった継ぎ接ぎの跡が奇妙な刺青のようなものに代わり、羂索は一瞬、異形へと変身していく真人に両面宿儺の面影を見る。
「姿が変わったようだけど《再編領域》はまだ展開されているよ」
だが姿が変わったところで羂索の《再編領域》は未だに健在。結界に付与されている術式の効果により、必中必殺の攻撃が真人に降り注がれる。
《颶風之型》は両面宿儺の《伏魔御廚子》と少し似ている。絶え間なく続く強風が相手の肉を削り吹き飛ばし、例えどんなに耐久力に優れる特級呪霊でもこの領域内に数十秒もいれば肉片も残さず完全に祓うことができるだろう。
実際に真人の手足や胴体は強風に削られ続けているが──
「領域展開」
真人は余裕を滲ませる声色で、そう呟いた。
「《朶頤光海》」
「……嘘だろ」
羂索は今起きている現象を理解することができなかった。なにせ、術式が焼き切れているのにも関わらず、真人は確かに領域を展開したからだ。
強風吹き荒れる領域内に、真人が展開した領域の心象風景が混じる。
地面に咲く、美しい草花。羂索はこの領域が誰ものか理解した。
「これは……まさか花御の領域か」
「呪霊を束ねる俺が他の呪霊の術式を使えない道理はない! こっからは領域展開のバーゲンセールだぁ!!」
真人は自身の魂に違う誰かの魂を捕食できる機能を《無為転変》による改造によって獲得していた。
結果、魂を捕食し《進化》することで、自身の呪力量や出力の上昇、加えて捕食した魂に宿る術式を操ることも可能とした。無論、捕食した魂の術式を使って領域を展開することも出来る。
羂索は真人の発言を思い出し、花御だけでなく、陀艮や漏瑚の領域も使えると断定。《再編領域》の使いどころを慎重に見極める必要があるとプランを練り直す。
実に厄介だと羂索は一瞬眉根を寄せるが、口元にはニヤリと笑みを浮かべていた。
「さぁ、続きをやろうか」
「俺こそが新たな呪いの王だ! さぁ、全ての呪霊の魂のための戦いを始めよう!!」
真人は羂索との戦いの中で、新たな呪いの王として羽化しようとしていた。
人物表
・橘秋麗
初めての出番なし。
・羂索(夏油の姿)
《再編領域》なるものを作った。ぶっちゃけ呪霊出して領域展開させればいいのでは? と思うかもしれないが、その点は次の話で。
《蝗之王型》は蝗GUYみたいなのをいっぱい産み出すみたいな効果。輸入した奴なので原作より性能モリモリ。魂まで食べちゃう。
《颶風之型》はアメリカから輸入。ハリケーンは絶対強い。
・真人
呪霊のリーダーだから強化しなくちゃ。ということで、独自設定でモリモリさせてパワーアップ。漏瑚達から分けてもらっていた魂のカケラ取り込みパワーアップ。主人公みたい。なお、まだ進化を残している。
数千人の非術師の改造人間化だが、実はカラクリがある。次の話で説明が入るはず。
多分、魂を取り込んでからバックコーラスでベラドンナが、あーああー、って歌い始めている。
全ての呪霊の魂の戦いを始める。
・名もなき補助監督
真人の被害を語ってくれた人。お労しい。もう出番はない。
・原作主人公・東堂
出番は一瞬。いつか本筋に関わってくるはず。