移動要塞、フライア。その一角。
鈍色の壁と柱が形作る部屋の中心に物々しい、と迄はいかない物の、威圧感を放つ機械がある。
その傍には苦しげに呻く少年の姿。
『ぐ……う、ぅ………ああぁ!』
「適合失敗か……?」
それを眺める青年が苦々しげに洩らした言葉を、車椅子に座った女性が否定する。
「いいえ、良く御覧なさい」
『はっ、はあっ、げほっ、思ってたより、はあっ、キツイ、ですねぇ、ぅげほっ』
其処には巨大な武器を杖代わりに、辛うじて、と言った様子で立ち上がる少年の姿。
『ぐっ……げほっ、うぁ……』
青年がその姿を見てホッとした直後に少年は武器を手にしたままふらりと倒れてしまった。
「あら、大変」
苦しむ様子を見ても立ち上がる姿を見ても表情を変えなかった車椅子の女性は、少しの驚きを顔に滲ませた。
「僕はこの後何をすればいいんでしょうか?」
黒目、黒髪。長身。そんな少年の疑問が口から言葉に変換されて周りに伝えられる。
それに対する、尋ねられた少女の答えは
「寝ていて下さい」
何もするな、少し遠回しにそう伝えられた少年はまるで動じた様子もなく身振り手振りで自分が元気であることを伝える。
「二十分前に医務室に運ばれて、こんな短時間で全快する筈がありません。大人しく寝ていて下さい」
「大丈夫ですってば。寧ろ医務室にいる方が退屈で体に悪いくらいですよ」
何処と無く不真面目な発言だが一応許可を得ようとしていることから少年がそこまで不真面目で無い、少なくとも不良少年ではないことが分かる。
「ですが……」
「全快かは分かりませんけど、僕は今元気ですよ。神器使いになったんですし問題ありません」
神器使いだから、そう聞いて少女は悩む。少女は二年間の仕事の中で、適合試験でのたうちまわっていたくせに3分後に元気に走り回っていた人物も見たことがある。
それを考えると倒れたとはいえ二十分間の休息は少年にとって十分過ぎたのかもしれない、と悩んだ末に
「……はあ。分かりました。お好きになさって下さい」
少女が折れる。
「はい、ありがとうございます、オペレーターさん!」
「ただし、無茶はなさらないで下さい。……そうですね、あちらのエレベーターから庭園エリアに行くことができます。とても綺麗な場所ですからそちらに行かれては?」
「分かりました、行って見ますね。では!」
ぺこっと礼をして少年は歩き出す。
階段を降りてエレベーターに向かう、途中でアーカイブに興味を持ったのか早足で駆け寄って行く。
そうしてひとしきり弄くった後に再びエレベーターに向けて歩き出した。
少年はエレベーターに乗って庭園に到着したが、其処には先客がいた。
木の根元でぼうっとしている。
少年が近づくと気付いて声をかける。
「お隣、失礼しますね」
少年がそう言って座ると、間を外された様に少したじろぐ。
「……座っちゃまずかったですか?」
「いや、ちょうど座れ、と言おうとしていたんだ。……ともかく、適合試験、お疲れ様」
少年の表情が歪む。あまり思い出したく無かった様だ。
「一瞬、死ぬかと思いましたよ」
「俺も適合失敗したのかと不安だったよ」
それを最後に会話が一旦途切れる。
二人ともが別々の場所を眺めだす。少年の視線はふらふらと彷徨っていたが先客の青年は同じ場所を眺めていた。
「いい場所ですね、とっても綺麗です」
「ああ、フライアの中でここが一番落ち着くんだ。暇な時はずっとここでぼうっとしている」
「あ、なんだか楽しそうですねそれ」
「楽しい、か?変わったヤツだな、お前は」
ただ木の下にいるだけで楽しいわけがない。青年は落ち着くからここに来ているのだ。
「良く言われますね」
「はは、本当に変なヤツだな。……ああ、自己紹介がまだだったか?俺はジュリウス。お前が配属されることになるブラッドの隊長を務めている」
「おお、隊長さんでしたか」
ジュリウスは少年のどこか抜けた態度を見て、変わったヤツ、と言う認識をさらに強めた。
それを感じたのかまだ強くする余地を感じさせる発言を続ける。
「驚いた方が良かったですか?」
「……いや、いいさ。それよりお前の名前はなんだ」
「隊長さんなら知ってるんじゃないですか?」
「自己紹介は名前を知っているからしなくてもいい物じゃない。例え知られていてもそれ自体に意味があるんだ」
いたずらっぽく笑った少年の言葉にジュリウスが少し不機嫌になる。
「知ってます、姉が言ってました。軽い冗談ですからそんなに怖い顔しないで下さい。すいませんでした」
ジュリウスは言葉は軽いが申し訳なさそうにしている姿を見て、まさか試されたのか、と考えた。
「……お前は」
「僕の名前は関波玄ですよ。あ、洋風の方が良かったですかね。クロ・カンナです。断じてカンナが名前ではないので気を付けてください。間違えたら怒りますから」
ジュリウスの言葉は途中で少年の、玄の声に遮られる。
諦めたのか、ジュリウスは立ち上がりエレベーターに向かって歩き始めた。
「じゃあな。ここでゆっくり体を休めて行くといい。その後は訓練だ」
そう言い残してエレベーターに乗り庭園を後にした。
「……意外と短気な人なんですかね。あんな冗談で怒るなんて。……そもそも怒ってたんですかね?」
誰にでもなく呟いた言葉は、やはりどこか抜けていた。ジュリウスが思った様に試すと言った意図は玄には全く無かった様だ。
頑張って言葉遣いに注意しました。
小説を書くのは始めてでは無いのですが、二次創作も三人称もここに投稿するのも始めてでした。