欠陥神器使い戦記   作:久号

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ロミオとナナ

玄はジュリウスと別れてから暫く、具体的にはニ、三時間程木の下で寛いでいた。

「あの」

「なんでしょう」

「首が痛いんですけど」

「そうですか」

「離してくれませんか?」

「逃げませんか」

「逃げませんよ」

「……信用できません」

「酷いです!」

 

が、現在身長二メートルの大男に顔面を掴まれぶらぶら揺れながら移動している。

遅すぎる、と連れ出しに来た職員に抵抗した玄は、激闘の末この状態に落ち着いた。

玄の身長は175cm。それを片手で持ち上げる職員は一体何者なのか。

 

「僕はそんなに軽く無いんですが、凄いですね、腕力」

「元神器使いですから」

 

元神器使いならばその腕力も納得できる。が、今度はその元神器使いにアイアンクローをされて顔ではなく首の痛みを訴える玄が何者なのか。

 

「さあ、訓練場に到着しましたよ。しっかり励んで来て下さい」

 

 

 

『ようやく来たか……。早速、訓練を始める』

 

訓練場にジュリウスの呆れた声が響く。

玄は形だけの謝罪を返した。

 

『先ずは好きな様に体を動かしてみろ。身体能力の違いを実感してみるといい』

「好きに……。取り敢えず走ってみましょうかね」

 

神器を握り直し両手を床に付ける。足は片方は前、もう片方は後ろへ。

『何故クラウチングスタートの姿勢を……?』

「隊長さん、合図お願いします」

『……まあいい。では行くぞ。

位置について、用意、……ドン‼︎』

「っと」

 

合図から一瞬遅れて走り出した玄はものの数秒で広い筈の訓練場の端まで到達する。

減速しない玄を見たジュリウスの、壁に激突する光景の想像とは違い、玄は壁を蹴って宙を舞い三回転程して着地する。

玄の壁までのタイムは新人としてはかなり速かった。

 

『……これは、期待できるな』

「そんなに速かったんですか?」

『ああ。後で測定したデータを送っておこう』

 

余談だが、真剣な表情で『ドン‼︎』とマイクの前で叫ぶジュリウスを想像しなければ玄のタイムはもう少し縮まっていただろう。

 

 

「楽しかったですねえ」

 

などとぼやきつつ玄が椅子に腰掛けると、別の椅子で謎のパンを貪る少女が玄に声をかける。

 

「ねえ君、君もブラッドの新入生の人だよね?」

「ブラッドに入るのを入学と言うならそうですね」

「あ、間違えちゃった。新入生じゃなくて……新入りだね。……訓練、どうだった?」

「楽しかったですよ。大きい方の高台にジャンプだけで行ったら隊長さんが驚いてましたね」

「ええっ、私そんなの無理だったよ?それに、なんかあたふたしちゃって……」

 

ジャンプだけで行ったと言っても、端に着地してバランスを崩して落ちたのだが。

それでも身体能力はかなりの物だ、と褒められて玄はご機嫌だ。

 

「君凄いね……あ、そうだ。お近づきの印に、これどうぞ!」

 

差し出された謎のパンを躊躇いなく受け取る玄。

それに気を良くしてもう一つ、と差し出されたパンをまたしても躊躇いなく受け取る。

 

「ありがとうございます。ああ、自己紹介がまだだったか?俺は玄。お前と同じ、ブラッドの新入りだ」

「何それ」

「隊長さんのモノマネです。似てません?」

 

少し間を開けて少女が笑い出す。

 

「あははっ、確かに似てるかも!」

「でしょう?」

「あはははっ、……あ、私も自己紹介!香月ナナ。同じくブラッドの新入りです!よろしくね」

「ええ。よしなに、ナナさん」

「よしなに?」

「昔の極東で使われていた言葉で、よろしくと言う意味があるらしいですね」

「へえぇ。よしなに!」

 

知った言葉をすぐに使う、そんな子どもっぽい行動に玄は小さく笑う。

何を笑われたのかは分かっていないが、笑われたことは分かったナナが頬を膨らませる。

 

「むー、何が面白いの!」

「いえ、何でも無いですよ。それより次の訓練の時間は大丈夫ですか?」

「えっ、あ、本当だ。急がないと。おでんパンの感想、後で聞かせてね」

 

デフォルメされたブタの柄の白い袋を引っ掴んで慌てて階段へ駆け出す。

階段を駆け上る途中で立ち止まり

 

「残したら怒るからねー‼︎」

 

そう言うと今度は本当に行ってしまった。

残された玄は両手の、おでんパンと呼ばれた謎のパンを暫く眺めると

 

「神器使い……ゴッドイーターはいつでも食べるのがお仕事、ですね」

 

と一口。奇怪な見た目と裏腹に美味しかったのかパクパク食べ進めていく。

 

串ごとき食べられなければアラガミなんて食べられる筈が無い、アラガミを食べられるのだから串ごとき食べられない筈が無い。

そんな謎の理論を展開しながら、おでんの串ごと。

 

ーーばきっ。べききっ、ばきっ。べきゃっ!

 

異音を発しながら謎のパンを食らう玄を、周りのフライア職員達は遠巻きに眺めている。

 

一つ目を食べ終えて

 

「あ、良いこと思いつきました」

 

と言うと一つ目よりもかなり速い速度で食べ切る。

 

ーーべききぎぎっ、ばぎっ。

 

「さて、僕も次に行きますか」

 

周りの職員達は少し心配しつつ、しかし串ごとパンを噛み砕いた玄に声をかけることはできなかった。

 

『先ずは前回の復習からだ』

「あいさー」

『と、思ったが』

「え」

『一時間前の復習などしなくても問題ないだろう』

「ええー」

 

確かに前の訓練は一時間程前だが、指導者としては投げやり過ぎるのではないだろうか。

そう抗議しようとした玄の目の前にダミーアラガミが出現する。

 

『お前の持つ神器には銃形態と』

「だらあぁぁっ!」

 

ジュリウスが説明する前に駆け出した玄のバスターブレードによる縦切りがダミーアラガミを捉え、ダミーアラガミは力尽きる。

 

『……お前の持つ神器には銃形態と呼ばれる形もある。それを使ってダミーアラガミを倒せ』

 

再出現するダミーアラガミ。

そしてすぐさま玄に襲いかかる。

玄はそれを神器を逆さまに構えながらシールドでガードし、そのまま威力を抑えた切り上げでダミーアラガミを弾き飛ばす。

切り上げで跳ね上がった神器を銃形態に変型させながら手元に近づけ、倒れこんだダミーアラガミの頭部に押し付ける。

「ばーん」

 

ショットガンによるゼロ距離射撃がダミーアラガミの前から三分の一を吹き飛ばす。

 

「これでいいですか」

『……上出来だ。……もう一つ、神器には捕食形態と呼ばれるものがある。それを使いバースト状態でダミーアラガミを倒せ』

 

ーーぼぼんっ

 

勢い良く現れた二体のダミーアラガミ。一体は玄の目の前に。もう一体は離れた場所に。

玄は神器を捕食形態にする。黒い獣の顔がゆっくりと成長していく。

その途中で気付いた近くの一体が振り向き、飛び掛かろうと足に力を込める。

 

「残念、もう遅いです。……いただきます」

 

その足が金属でできた床を離れた瞬間、成長し切った獣の顔の、その顎が胴体に喰らい付く。

 

「神器、解放!」

 

ダミーアラガミの死骸を吐き捨てた神器から玄の体に力が流れ込み玄の体と神器が光を放つ。

その力で離れたもう一体に肉薄し、切る。

 

「これでいいですかあああっ!」

『…………』

「隊長さん⁉︎」

『……ああ。最後に、ダミーアラガミの死体を捕食し、コアを回収してみろ。それもゴッドイーターの仕事の内の一つだ』

 

 

 

「あ、いました。ナナさーん」

「どうしたの?」

「おでんパンを食べていたら良いこと思いついたので聞いて欲しくて」

「良いこと?」

「焼きそばってありますよね」

「私、一回だけ食べたことあるよ」

「焼きそばパンって知ってます?」

「食べたことないなー」

「そばめしってあるじゃないですか」

「短く切った焼きそばとご飯を混ぜたのだよね?」

「……そばめしパンとか美味しそうなじゃないですか」

 

恐らくカロリーが半端ではないだろう。

 

「おおおおお。……パンのふわふわとお米のモチモチと麺の弾力……考えただけでよだれが……あっ!パンを揚げパンにしたらそれにサクサクが⁉︎」

「それも美味しそうですね!」

 

「ふふー、ふふふ、ふっふっふー。ふふ?」

 

「むしろもう全部あげるとか!」

「難しいですよそれ」

 

恐らく尋常ではないカロリーだ。

 

「あれ、君ら、見ない顔だね」

 

揚げそばめしパンについて話す二人に通りかかった少年が話しかける。

 

「あー、そっか。んー、全部揚げてからパンに入れる」

「それなら出来るかもしれませんね」

 

が、揚げそばめしパンに夢中の二人は気付かない。

 

「あ、あれ?……見ない顔だね!君ら‼︎」

 

「いつか作ってみたいですね。……もしかしてカロリーが凄いことになるんじゃ……」

「えー、カロリーなんて気にしなくても大丈夫だよ」

 

花より団子を地で行くナナの発言に、少年は一瞬関わるのをやめようかと思ってしまった。

 

「いやいやいや……それはダメだ。よし、ねえ!君ら‼︎」

「……はい?」

「見ない顔だね」

「ああ、僕たちは最近ここに配属されたので」

 

会話が成立することに謎の感動を覚える少年。

 

「って事は、噂の新人さん?」

「噂かどうかは……」

「はい。噂の新人さんです」

 

少年は目の前の少年が変人である事を悟った。

 

「お、おう。俺はロミオ。ロミオ・レオーニ。お前らよりも前にここに配属されたゴッドイーターだ」

「そうですか。以後よろしくお願いします、先輩。僕は関波玄と言います」

「香月ナナです、よしなに先輩!」

「よ、よしなに?なんだそれ」

「ふふん。昔の極東の言葉でー、えーと、よろしく、って意味なんです!」

「それ以外にも好きな様に、とか良い様に、と言った意味も持ちます」

「へえ。よしなに、二人とも」

 

その途端、くすくす笑い出した二人をロミオは首を傾げながら眺めていた。

 




十二月24日
サブタイトル変えました
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