転生魔術師(記憶喪失中)ですが、周りから激重感情を向けられている件 作:究極の闇に焼かれた男
???side
私と彼との関係性を表すなら、同じ我が兄の元で師事を仰ぐ者同士、或いは"普通の子供のように接する事の出来る気心の知れた友人"と言うべきだろうか。
彼、ルークは我が兄がエルメロイ派の仮の当主となって間もない頃に仕事の関係で中東に赴き、帰国した際に連れ帰って来た時に知り合った。
当時の私は我が兄が中東に赴いて態々連れ帰って来たと言うルークにほんの少し興味を抱き、悪戯を仕掛けたのだが驚く事に彼は私が仕掛けた悪戯の数々を最初から見抜いていたのか全て回避した上で、ささやかな逆襲をしてきたのだ。
それ以降、私の中に不本意ながら対抗意識が芽生え、気付くと彼の事を視線で追い掛けては、毎日のようにちょっかいを掛けるようになっていた。
自分の事ながら何とも子供らしい真似をしていると思う時もあったが、不思議と悪い気はせず「次はどんな悪戯を仕掛けようか?」と、自然と考えるようになっていた。
あの頃は本当に毎日が面白可笑しく、幸せを噛み締めていたとさえ言える。
けれど、そんな幸せな日々は唐突に終わりを告げた。
今から1ヶ月前に起きた"とある事件"で、ルークは事件解決の為に奔走し、ボロボロになりながらも戦い、結果的に事件を解決に導いた代償として記憶を失う事となったのだ。
彼が記憶を失ったと知った時の私は心が酷く荒れ、心の中で何かが罅割れる様な感覚に陥った。
まるで半身を失ったかの様な喪失感と、何も出来なかった自分の無力さに苛まれたのを昨日の出来事の様に思い出せる。
「どうして彼が!?」と柄にもなく叫び、その時に私の中でルークがどういう存在だったのかを自覚した。
あれから暫く経った現在、自身に纏わる記憶を失いながらもルークは復帰して0からの再スタートを切った。
私は彼に記憶を取り戻して欲しいと思う反面、"あの事件"の事を思い出して欲しくないと言う相反する矛盾した感情を抱くようになり、気が付くと彼が事件の記憶を取り戻す手掛かりとなり得る物を手当り次第に隠し(物が物である為)、兄上やグレイ共々「思い出さなくても良い」と、彼の意思を蔑ろにする様な発言していた。
一度嘘を吐いてしまった手前、途中で掌を返すような発言も出来なくなった私は彼に対して罪悪感を覚えながら、それを悟られぬよう言葉や機微に注意を払うようになった。
其れはまるで"嘘がバレるのを恐れる子供の様だ"と、そう自分自身で感じながら……。
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読書をしていた所、グレイに無理やり切り上げられる形で外に連れ出されたルークは時計塔の敷地内にある喫茶店の一つに訪れると、そこで見知った顔の少女を偶然にも見掛けた。
「おや? グレイにルークじゃないか。 奇遇だね」
「本当に奇遇だな、ライネス」
「ライネスさん、こんちには」
グレイとルークの存在に気付いた少女【ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ】は、優雅で気品のある所作で紅茶を口に含みながら挨拶をしてくると、それに釣られて2人も挨拶を返した。
「グレイと2人きりという事は、もしかしなくてもデートの途中かな?」
「そ、その……っ///」
「そんな感じかな?」
ライネスが揶揄うように尋ねると、グレイは一瞬言い淀むと途端に頬を赤く染めフードを深く被りだし、ルークは疑問形で答えていた。
「グレイは反応からして分かりやすいけど、どうして君は疑問形何だ?」
「そう言うライネスは何をしてるんだ?」
「なに、見ての通り紅茶を飲みに来たのさ。 ここで会ったのも何かの縁だろうし、少し話でもしないかい?」
「拙は構いませんが、ルークさんは……」
「う〜ん、少しの間だけなら」
「それじゃあ決まりだ!」
合意を得たと言わんばかりにライネスが笑みを浮かべると、2人はライネスの対面の席に着く。
「こうして俺とグレイ、ライネスの3人揃うのは何時以来になるんだ?」
「さあね、最近は色々とあって忘れてしまったよ。 それよりルーク、キミの方は最近はどうなんだい?」
「どうって?」
「グレイとの関係はどこまで進んだのか聞いてるんだよ?」
「ら、ライネスさん!?///」
「いきなり下世話な話をする物じゃないだろ」
ライネスが揶揄うとグレイの顔は赤く染まり、ルークは溜息を零しながら窘める様に返す。
「冗談だとも♪ けど、その反応を見る限り進展して無さそうだが……」
「そう言えばだが、先生は今頃どうしてるだろうか?」
「師匠なら『今月の論文に専念するから、暫くは手が空きそうに無い』と仰ってましたよ?」
「まったく、我が兄ながら真面目と言うか何と言うか……」
「それが先生の良い所であり、根を詰めすぎるという欠点だからな」
そう口にする3人の脳裏に1人の男の姿が過ぎる。
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「くしゅんっ! むっ……(妙だな? 寒くは無いのにくしゃみが出るとは、念の為に少しばかり休むべきだろうか)」
一方その頃、時計塔の執務室にて件の人物がくしゃみをしていたのだった。
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ライネスside
その喫茶店に訪れていたのは単なる偶然に過ぎなかった。
偶々そこが3年ほど前に彼と共に訪れた事があった程度で、寄るつもりは無かったのだ。
けれど、気が付くと私の体は喫茶店の中へと向かっていた。
本当なら立ち寄るべきではないと分かっていても、私の中に深く刻まれた彼との思い出を求めて自然と体が動いていた。
こんなにも未練がましい行動を取る自分自身に嫌気が差すのを感じつつも、私は3年前に彼と訪れた時に頼んだ紅茶を注文して一息吐いていると、そこへグレイに連れられた彼が店内に入って来るのを目にした。
グレイが居るとはいえ彼が店に入って来るのを見て、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
──どうしてキミが此処に!?
そう心の中で呟いた私は努めて冷静に振る舞いながら、心の焦りを悟られぬよう注意を払いつつ声を掛ける事にした。
不審に思われぬよう意識しながら然りげ無く話をしないかと誘うと、快く応じてくれた彼等は私の対面の席に着き、そこからは当たり障りの無い談笑に勤しんだ。
談笑に勤しむこと暫く「この後、少し行く所があるから先に失礼する」と言い、彼はグレイを連れて早々に店を後にするのを私は見届ける中、ふと彼とグレイの後ろ姿を見て一つの思いが過ぎる。
──どうして彼の隣に居るのが私では無く、グレイなのだろうか?
一瞬とはいえ脳裏に過ぎってしまった余りに不純な思いに、私は自己嫌悪に陥りながらも心の中で願ってしまった。
──もしも叶うのなら、最後に彼の隣に立つのは私であって欲しい。
そんな邪な願いを抱く自分に私は再び自嘲するのだった。
如何でしたでしょうか? 楽しんで頂けたなら幸いです。
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もしも過去編をやるとした場合、以下の中から何れをして欲しいですか?
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剥離城アドラの話
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双貌塔イゼルマの話
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魔眼蒐集列車の話