TS聖女だけど代償チートが致命的過ぎて外聞がヤバいことになってる 作:自動回復
「──というわけで、君にはこの異世界に転生してもらいたいんだ」
真っ白な空間で、自称・女神様は言った。
正直、その時の記憶は曖昧だ。
何せこっちは死にたてホヤホヤで、頭の中に「あ、これ詰んだわ」という絶望と「美少女に転生できるならワンチャンあるか?」という下卑た期待が混ざり合っていたのだから。
気がつくと、俺は──いや、今は「私」か。
私は、見知らぬ森の中に立っていた。
「……まじか。本当に美少女になってる」
手を見ると、白く細い指先。
視界の下の方には、慎ましいながらもしっかりとした膨らみが二つ。
さらさらと風に流れる亜麻色の髪。
うん、最高だ。
前の人生が冴えない社畜だったことを考えれば、これは間違いなくボーナスステージ。
女神様、サンキューな!
さて、初期装備の確認といこう。
女神様からは「どんな願いでも一つだけ叶えてあげる」と言われ、私は食い気味に「最強の魔法才能と、それを支える無限の魔力をください!」と願った。
すると彼女は、憐れむような、あるいは楽しんでいるような妙な笑みを浮かべてこう言ったのだ。
『いいわ。その代わり、あなたの魔法は「神の理」を外れたものになる。発動するたびに、あなたは相応の代償を支払わなければならないわよ?』
代償。
ああ、ファンタジーの定番だ。
だが無限の魔力があればそんなもの踏み倒せるはず。
最悪、死ななきゃ安い。
とりあえず、目の前にある手頃な大岩で威力を試してみることにした。
私は、本能に従って魔力を練る。
知識はないが、やり方はわかった。
脳内に浮かぶ術式は、複雑怪奇で禍々しい。
「……えーと、これかな。『極大爆炎』的なやつ。くらえ!」
指先を岩に向ける。
その瞬間、世界が震えた。
ドォォォォォン!!
鼓膜を突き破らんばかりの轟音。視界を埋め尽くす紅蓮の炎。
大岩どころか、背後の森まで消し飛ばす圧倒的な火力。これだよ、これ! これぞチート!
「あははは! すごい、本当に最強じゃな──」
笑い声が、途中で止まった。
視線を自分の右手に落とす。
「……え?」
魔法を放った右腕が。
肩から先が、ボロボロと崩れていた。
肉が腐り落ち、黒く変色し、まるで数百年放置された死体のように、ドロドロとした異臭を放ちながら地面に滴り落ちていく。
骨までがスカスカになり、風に吹かれて灰のように舞う。
本来なら、叫び声を上げてのた打ち回るような激痛が走るはずだ。
だが。
「のわーっ……あ、あれ? 痛くない」
そうなのだ。
全く、これっぽっちも痛くない。
ただ、自分の身体が物理的に崩壊していく光景だけが、スローモーションのように目の前で展開されている。
「あ、そうか。これ、再生が追いついてるんだ」
私は気づいた。
女神様がくれた「無限の魔力」。
それは私の生命力そのものと直結している。
つまり、
魔法を使う→身体が「代償」として腐敗・消滅する→直後に無限の魔力がその欠損を「埋める」。
右腕が、ものの数秒で元の綺麗な白い肌に戻っていく。
腐臭は消え、新雪のような輝きを取り戻した。
「なるほどね! 『痛み』を感じる暇もない速度で破壊と再生が同時に起きてるわけだ。これ、実質ノーコストじゃん! 女神様、意外とチョロいな!」
私は一人、快哉を叫んだ。
確かに見た目はグロい。
自分の腕が溶けるのを見るのは精神衛生上よろしくないが、痛くないなら問題ない。
よし、この調子で異世界ライフを満喫してやろう。
そんな私の背後。
爆発音を聞きつけて駆けつけたであろう、一団がいたことに私は気づいていなかった。
「……おい、今のは……なんだ……?」
若き騎士、アルベルトは戦慄していた。
彼はこの周辺を領地とする伯爵家の次男であり、魔物討伐の最中だった。
彼が見たのは、神々しいまでの美貌を持つ少女が、禁忌とも思える破壊魔法を放った姿。
そして。
その代償として、彼女の腕が瞬時に腐り落ちる凄惨な光景。
「あ、ああ……なんてことだ……」
アルベルトの横で、老魔導師が震える声で呟く。
「あれは……『生命変換』の極致。彼女は、己の肉体そのものを薪として、あの魔法を編み出したというのか」
アルベルトの目には、少女の姿が悲劇のヒロインとして映っていた。
あんなにも可憐で、儚げな少女が。
この世のものとは思えない苦痛を、おくびにも出さず。
むしろ、使命を果たしたかのように清々しく微笑んでいる(ように見えた)。
「……救わねば」
アルベルトは剣を鞘に納め、駆け出した。
彼女が崩れ落ちる前に。
その献身的な自己犠牲に、報いるために。
「大丈夫か! 貴公、今の魔法は一体──」
駆け寄るアルベルト。
私は、いきなり現れたイケメン騎士に驚き、咄嗟に「外面の良い美少女モード」へとスイッチを入れた。
「えっ? あ、はい! 私は……その、通りすがりの旅の者ですが……」
上目遣いで、少し困ったように微笑んでみる。
心の中では、「げっ、見られた? でも腕はもう治ってるし、バレてないよね?」と冷や汗をかいていた。
しかし、アルベルトの目は潤んでいる。
「無理をするな。あのような……身を削るような術を使い、心が折れぬはずがない。貴公のその高潔な精神、私は感服した。我が名はアルベルト。君をこのまま放っておくわけにはいかない」
「は、はあ……」
「さあ、私の手を取るがいい。君の傷を癒やすため、我が館へ招待させてほしい」
私は考えた。
異世界に来たばかりで、宿も金もない。
このイケメン、どうやら私のことを勝手に勘違いして尊敬してくれているみたいだし、ここは甘えておいたほうが得策だろう。
「ありがとうございます……。少し、疲れ果ててしまって……」
私は弱々しく、彼の腕の中に身を寄せた。
うん、チョロい。
イケメンも異世界も、全部私の思い通りだ。
ふはは勝ったな風呂入ってくる!