魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

101 / 110


黒川金山は実在の金山です。

武田家の財政を支え、武田滅亡後も江戸初期までは稼働していたようですね。

ここはいわゆる心霊スポットとしても有名ですが、非常に危険な山奥なので、興味本位で足を運ぶのはやめましょう。

幽霊がいるいない以前の問題で自然が牙をむきます。





星神は笑う
序、決戦の地に


黒川金山は既に遺跡だ。内部などは見ることも出来るようになっている場所もあるが、とにかく場所が悪い。

 

それもあって、見ることが出来るのはごく一部である。

 

内部にはまだ金があると言う話も有るのだが。

 

流石に掘り出すのには採算が合わない。

 

それもあって、現時点では厳重に管理されているし。

 

何よりも死ぬほど山奥なので、わざわざ破落戸の類がここで「度胸試し」だのをする事もない。

 

あったとしても、近年は監視カメラやドローンが巡回しているため、事前に追い返すことが出来る。

 

それでもたまにバカが侵入するらしいが。

 

そういうときは警察の仕事だ。

 

いずれにしても燐火は其処に到着した。

 

カトリイヌさんは顔に青あざを作ったらしくて、ガーゼを貼っている。燐火を見ると、悲しそうに笑みを浮かべていた。

 

エヴァンジェリンさんもかなりやられたらしくて、時々痛いとぼやいていた。

 

日女さんもだ。

 

筋肉痛でつらいとぼやいていたが。

 

入院に追い込まれたおばあさんに、昨日のうちに超古代の神を祓える祝詞を教わってきたらしい。

 

だとすると、最後の切り札として活躍してくれることになる。

 

他にも十数名の魔祓いが来てくれたが。

 

いずれもが。外堀を固める役だ。

 

何人か見知った顔がいる。

 

少し離れたところで、神楽坂輝さんが、浄化の声で広域攻撃をするらしい。

 

多少は、星神にも効くはずだ。

 

実際星神との第一戦でも。

 

上空からのドローンからの攻撃で、一瞬動きを止めることに成功していたらしいのだから。

 

燐火は。

 

やはり違和感がある。

 

魔は見える。

 

だが、ギリシャ系の魔祓いとしての力を発揮できないのだとすると。

 

いや、ケルベロスが一瞬だけ出来るようにしてくれると言ってくれた。

 

それは別れの時のとっておきだ。

 

そして、ダイモーン騒動は。

 

今日終わらせる。

 

側に降り立ったのはヘラクレスさんだ。かなり縮んでいる。背丈は二mほどだろうか。それでもでかいので、カトリイヌさんがびびり倒していたが。

 

「どうやらここで間違いないようだな。 巧妙に隠蔽している。 これでは近くを通っても気づけない訳だ」

 

「それにしても、これだけか……」

 

「消耗しているのは相手も同じだ」

 

日女さんに、エヴァンジェリンさんが言う。

 

今回の面子では、最年長だ。

 

あくまで人間としては、だが。

 

だからエヴァンジェリンさんが指揮を執る。それについては、そもそもエヴァンジェリンさんが支援向きの魔祓いだと言うこともある。

 

燐火も異存はない。

 

渡されている無線から連絡が入る。

 

時計あわせと。

 

それから、作戦の最終確認だ。

 

ここに来るまでに、ミーティングは既に済ませてある。だから、燐火としてはただ戦うだけだ。

 

それはそれとして。

 

既に、魔が現れ始めていた。

 

峻険な地形だ。

 

無数の怨霊……いや、もっと実体がある。

 

古代の鎧と髪型。それに腰に帯びている剣も、古めかしい造形だ。

 

しかしこれは。

 

「黄泉軍ではないな」

 

「恐らくは星神の近衛かと。 手強いですわよ、きっと」

 

「護衛がいなくても大丈夫ですか」

 

「今まで二人に頼りすぎだったのですわ。 今はわたくしが、あなたたちとともに戦う時!」

 

カトリイヌさんも変わったな。

 

いずれにしても、峻険な地形で、多数の魔。

 

相手はいつでも来いと、陣を組んで待っている。しかもこの地形、無理に攻め下がるのも厳しい。

 

崖の下に相手は待ち伏せていて。

 

これだけの崖だと、高所をとっても有利にならない。

 

飛び道具だってある訳でもない。

 

だが、その時。

 

輝さんの、魔祓いの声が響いた。

 

アイドルの歌だ。

 

だが、それを聴いて魔達が明らかに苦悶の表情を浮かべる。即座に仕掛けるべきだ。エヴァンジェリンさんが声を張り上げていた。

 

「いくぞ! 突撃っ!」

 

「やれやれ、前衛がもう少しほしいのだがな」

 

「私はほとんど力を失っている状態だ。 雑魚の押さえは任せろ」

 

真っ先に躍り込んだのはヘラクレスさんだ。

 

突入すると、右に左に敵をなぎ払い始める。その振るう剣のすさまじさ、今の燐火よりも上だろう。

 

だが、魔祓いとしての力は、確かに落ちている。

 

魔を倒し切れてもいない。

 

元々違う文化圏の魔だ。

 

行動不能にまで出来ても、祓うまではいかないだろう。

 

其処に、遠距離から魔祓いの凄まじい祝詞が聞こえ始める。これは、恐らくだが。

 

入院中の何人かの一線級の魔祓いが、祝詞を遠隔で送り込んできているのだ。倒された魔が、次々に祓われていく。

 

崖下に着地する燐火。

 

こけそうになっていたカトリイヌさんをキャッチ。

 

背が並んでしまったので、お姫様抱っこももう出来る。

 

カトリイヌさんを下ろすと。

 

墜ちてきたエヴァンジェリンさんも続けてキャッチ。

 

目を回しそうになっているエヴァンジェリンさんだが。

 

日女さんとヘラクレスさんが大暴れしている中、冷静に指揮を出す。

 

「ドローンの指示に従って進め! 壁は私とカトリイヌが作る!」

 

「了解!」

 

「突貫っ!」

 

ヘラクレスさんが後衛になり、燐火と日女さんが肩を並べて敵をたたき伏せていく。鉄パイプの破壊力は相変わらずだが、まだダイモーンを祓う訳にはいかない。最後の最後まで、力は温存する。

 

弓隊が出てきた。

 

弓は古くから発展が続いていた武器だ。

 

日本が卑弥呼の時代だった頃には、中華では弩が実用化されていたし。

 

時代を下ると膠を用いて複層的に作られた強弓が出現して、鉄砲の出現までは戦場を支配することになる。

 

武士の道は弓馬の道なんていう言葉もあったくらいで。

 

弓隊は、古くから戦場での切り札だったのだ。

 

だが、カトリイヌさんが展開したドミニオンの壁が、魔の放った矢をことごとく防ぎきる。

 

その間に、燐火が低い態勢から弓隊に突貫。

 

接近戦に切り替えようとするより早く、皆たたき伏せる。

 

乱戦になるが、まだまだ。

 

紙一重で斬撃を回避し、刺突を受け流し。次々に魔を打ちのめす。

 

勿論これは、相手の数が少ないこと。

 

空から神楽坂輝さんの魔祓いの声が響いていて、敵の動きが鈍化していること。

 

この二つが重なってなせることだ。

 

戦場で無双なんて出来ない。

 

条件が整っているから、たまたまやれているだけで。

 

それも燐火一人でやっているわけではないのだ。

 

砂利道を踏みながら、進む。

 

分厚い陣を敷いている魔達だが、どれも人間ばかりだ。獣の魔は出てこない。いずれもが、必死の形相で槍を構え、剣を構え、打ちかかってくる。

 

「大星様のところへは行かせぬ!」

 

「我らが悲願、阻ませはせぬぞ!」

 

「ここで倒れよ!」

 

「悪いが、そうもいかねえ。 おまえ等の時代じゃ考えられないくらいの人間が、今死に行こうとしているんでな!」

 

日女さんが、中空からの流星みたいな蹴りをたたき込んで、十人くらいを一瞬で吹っ飛ばした。

 

上空のドローンに集中攻撃がされている。

 

鷹か、あれは。

 

魔が上空から、ドローンに強襲を仕掛ける。

 

だが、ヘラクレスさんの放った矢が、鷹を射貫いていた。

 

ドローンは態勢を崩しながらも、魔祓いの声を放ち続ける。アイドルの曲が、こうも魔を苦しめるのは。

 

なんだか昔のロボットアニメみたいだな。

 

そういうのがあったと、燐火はおとうさんに聞いたことがあったので。

 

そう思ってしまった。

 

まだまだ出てくる魔だが、数はやはりまばらだ。

 

時代もある。

 

何よりも、星神に死んだ後もついていくことを決めた人間……今は魔になっている者達は、そこまで多くなかったのだろう。

 

常陸……茨城での戦いの後、アマツミカボシの一派の人々が、どういう扱いを受けたかは容易に想像がつく。

 

だが、それでも皆殺しというような真似はしなかったはずだ。

 

後に夜刀神というこれまた厄介な神格を輩出し、現地での抵抗を物語った常陸の地ではあるが。

 

それでも圧政などの話はほとんど残っていない。

 

だから、最後まで残った抵抗勢力。

 

それがこれらの魔達なのだ。

 

いい加減成仏しろ、というのは傲慢だろう。

 

この人たちは、ただ信仰と土地を守ろうとしただけ。

 

他に信仰を押しつけようとしたわけじゃない。

 

どこにでも。

 

幾らでもある悲劇。

 

ただ、だからといって。世界規模の加害者になる事は許されない。だから、打ち倒す。

 

洞窟が見えてきた。あそこに星神がいるはずだ。

 

だが、この地形は。

 

案の定、全方位から魔が来る。ヘラクレスさんが、仁王立ちしていた。

 

「先に行け。 私が食い止める」

 

「私も残りますわ」

 

「天才たる私もだ」

 

カトリイヌさんとエヴァンジェリンさんが頷く。

 

ふうとヘラクレスさんが嘆息。

 

日本神話系の神格に対応できる日女さんと、更にはダイモーンに対処可能な燐火。この二人だけは、絶対に通さなければならない。

 

「それぞれの身は、それぞれで守るように。 私も守り切る自信はあまりないぞ」

 

「分かっていますわ!」

 

「世界一有名な英雄とともに戦えて、光栄に思う! ええと……やあやあ音に聞け! 我こそ当代最強のドルイド、エヴァンジェリンである! いざ正々堂々と勝負せよ!」

 

「面白い娘だ! だが、今はどれだけの外道となろうと、大星様へ届こうとする戦力を、少しでも削らなければならぬ! 許せよ!」

 

敵将らしいのが叫ぶ。

 

あれは、あいつも苦しい立場だろうな。

 

名乗りの文化が出来たのは、源平の時代だろう。

 

だがそれ以前、戦闘は儀礼的な要素がどうしても強かった。これはどこの文化圏でも同じだ。

 

走る。

 

洞窟の前にまで出た。

 

燐火は息を吸い込むと、叫んでいた。

 

「星神! 出てきてください! 二人がかりではありますが、勝負を申し込みます! ペルセポネ神を返して貰い、更には世界中で引き起こしている大混乱を収束させてもらいます!」

 

「……思った以上に早かったな。 追撃を受けているのは分かっていたが」

 

姿を見せる星神。

 

やはり牛の神の姿だ。

 

頭に生えている立派な角は、非常に雄々しい。

 

体も、逞しい以上に、活力に満ちていたが。

 

昨日見たほどの強さは感じない。

 

やはりイオラーオスさんのケラウノスの直撃が痛烈な打撃だったのだ。

 

それに、ここまでに黄泉軍や予母都志許売も姿を見せなかった。恐らく、根の国は形勢不利と見て。

 

部隊を引き上げたのである。

 

「昨日の礼をさせてもらいに来たぞ」

 

「そうか。 その八幡の分霊程度では俺には勝てないのに変わりはない。 それに貴様、立っているのがやっとであろう」

 

「……悔しいがその通りだ。 燐火」

 

「はい」

 

分かっている。

 

日女さんはそもそも、今日は休まなければまずいのに来てくれた。

 

敵の前衛を蹴散らすために、更に無理をしてくれた。

 

今はもう。

 

星神にとどめの祝詞を直接たたき込むために、来てくれている。

 

燐火は構えを取る。

 

星神も巨大な剣を抜くと、同じように構えた。

 

これは。

 

力量的には、互角と見る。

 

師範が言っていた。

 

現在日本では、八段位を取っている人間が700人程度いるらしい。

 

ただしその大半は、ただ年月を重ねているだけの剣道家であって、実際に八段相当の実力を持っているのは十人いるかいないか。

 

半数以上には燐火でも余裕で勝てるし。

 

充子に勝てるのは、その中の五十人いるかいないか、という状態らしい。

 

つまり師範が言っている五段の上位相当というのは、あくまで段位に相当する実力で判断した数字であって。

 

現実の五段とやりあって勝てるか負けるかという話ではないそうだ。

 

そういう観点では、更に剣を磨いた今の燐火と。

 

弱体化したとはいえ、それでも無数の剣術を長きにわたって研究してきた星神は、かろうじて互角。

 

しかも戦闘中、ボクシングまで使ってきたと聞いている。

 

星神が現代武術を貪欲に取り込んでいる。

 

古代には存在しなかった技が通じるかというと、かなり微妙と見るべきだろう。

 

空手、合気、柔道。

 

これらを含めても、互角にまで持って行けるかどうか。

 

だが、まずは手合わせからだ。

 

すっと上段に構えると。

 

ふっと笑って、星神も剣を上段に構えていた。

 

正面から向かい合って分かる。

 

弱体化した星神と、今の燐火ではほぼ互角。これだと、やりあっても一生勝負はつかない。

 

それだけじゃない。

 

星神はまだ切り札を残している可能性があるし。

 

人間と同じようなダメージで、行動不能になるかも分からない。

 

星神はある程度負けを覚悟した上で出てきている。悲壮感はない。

 

本来は、知性派の狡猾な邪神ではなく。

 

正々堂々を決して嫌わない、武人らしい武人だったのかもしれない。もしそうだとすると、少しやりづらいか。

 

相手もだいたい力量が互角なのを悟ったか。

 

少し下がっていた。

 

「昨日削られすぎたな。 貴様の奥義は把握したが、あれは把握していても対処できるものではない。 力量で上回り、同じ精度の奥義を使用した場合、無条件で勝てる。 そういう厄介な代物だ」

 

「そうですね。 我ながら、なかなか凶悪な代物だと思います」

 

「つまり今使うと共倒れだ。 ならば、均衡を崩すしかあるまいな。 友よ、力を借りるぞ!」

 

星神の体が変化していく。

 

なるほど。

 

狼王ロボを核にしていた獣の魔。

 

その一部がまだ残っていて、それを取り込んでいると言う訳か。

 

全身が毛むくじゃらになり。

 

まるで伝承の狼男のように変じていく星神。

 

しかも角が生えているから、更に異形が際立っている。

 

口も耳まで裂ける。

 

ただ、日本でも古くは狼はそのまま信仰対象だった時代もある。それを考えると、星神は獣とも相性は悪くないのかもしれない。

 

「友の願いは胸にある! 私も、負けるわけにはいかないのだ!」

 

「その志は立派ですね。 やっていることが決定的に間違っていると思いますが」

 

「誰かがいつかやらなければならなかった。 それをこの最果ての時代まで先送りにし続けた結果、この世界……地球は死につつある。 一神教による極端な排他性と、あまりにもくだらん自国の利益だけを追求する国家達。 こんなものは一度破壊し尽くして、人間は一度原始時代に戻った方が良いだろう」

 

「……」

 

そうだな。

 

燐火も人間の可能性が未来の希望がだの、寝言をいうつもりはない。

 

古くにはそれがあり得たかもしれない。

 

だが20世紀の終わりと同時に、その未来はなくなった。

 

今の人間は、技術の進歩も日進月歩の時代を終え。

 

このままでは宇宙に進出することも出来なくなりつつある。

 

恐らくこの地球は、そう遠くない未来、人間が暮らすにはあまりにも厳しい場所になるだろう。

 

それは人間自身のせいだ。

 

そしてその愚行に、あまりにも貴重な動植物が、多数巻き込まれることになるし。

 

目の前の金に飛びつくだけしか能がない屑どもは、どれだけ身の回りを崩してもなんとも思わない。

 

今では大国が反社そのものの行動を取っている有様だ。

 

それはこの地球も支えきれなくなる。

 

歴史上、これほど地球の寿命を縮めた生物は存在しないだろう。

 

ラン藻は地球に大量の酸素を作り出し、世界の環境を大きく変えた。だが、それは地球の寿命を変えることにはつながらなかった。

 

人間は違う。

 

このまま人間が変わらなければ、この地球は。もう100年もたないかもしれない。

 

星神の言うこと自体は正しい。

 

だが、もう一度言う。

 

「やり方が間違っています」

 

「そうか。 では他にやり方は?」

 

「燐火には分かりません。 ただし、そのやり方が間違っていることだけは確かです」

 

「正直でよろしい。 ただ、相手を納得させるつもりなら、せめて対案を出すことだな」

 

ひゅんと剣を振るって、構えを取る星神。

 

燐火も頷くと、鉄パイプを上段に構えた。

 

既に言葉を交わすタイミングは終わった。ケルベロスに力を借りるのは、今ではない。

 

そして、音もなく。

 

二人は間合いをゼロにして、ぶつかり合っていた。







ケルベロスと話し合った結果、ケルベロスとの時間を犠牲に最後の力を完全解放した燐火。

己の悲願のために、全てを賭けることに決めた星神。

ついに激突です。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。