魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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全てが終わりました。

星神はついに倒れ、燐火はケルベロスを失い。

戦後処理が始まります。






3、混乱の終わり

一日はぐっすり休む。

 

夏休みはそれで終わった。

 

おとうさんとおかあさんには、また他流試合で凄く強い相手とやりあった、とだけ伝えたが。

 

きっとこれはばれているだろう。

 

ただ、それでも生きて帰ってきた。それでおとうさんとおかあさんも、何も言わなかった。

 

おかあさんは燐火が一回りどころか三回りくらい強くなったのを一目で見抜いたかもしれないが。

 

それについても、これから調整しなければならない。

 

今後燐火は、おかあさんや師範に見てもらって、体を調整していかなければならないだろう。

 

まだ背は伸びるのだ。

 

翌朝からは、ケルベロスがいなくても、ルーチンをこなしていく。

 

ケルベロスだったら、このときこういっただろうな。

 

そう思い、考えながら鍛錬すると、必然的に気も引き締まる。

 

鍛錬のやり過ぎは、疲労骨折などを誘発する。

 

それを起こさないように、時々おかあさんに意見を聞く。ただ、意見を聞くと、おかあさんはその通りで問題ないとだけ言うことが多かった。

 

二学期が始まるが、別に変わることは何もない。

 

勉学も含めて、ルーチンをこなしていく。

 

最初の数日は、世界中で起きている紛争についての話が多かった。

 

星神がやらせていた世界全土の炎上工作もピタリと止まり。

 

仮想サーバが機能しなくなったことで、SNSは制御下に戻った。

 

そのタイミングで、乗っ取られていたインフルエンサーのアカウントが、それぞれ謝罪文を掲載。

 

ハッカーに乗っ取られて、ああいう文章が書かれた。

 

そう本人達が謝罪した。

 

動画に関しても、それらは同じであったらしい。

 

今は幾らでも全く本人が意図していないことを喋らせることが出来る時代だ。

 

それですぐに沈静化などはしない。

 

実際中東では、地獄みたいな争いが数年は続くと予想されていたし。それが原因で、色々と今後起きるだろうとも言われていた。

 

米軍が出たとか。

 

国連が重すぎる腰を上げたとか。

 

そういう話も出てはいる。

 

だが、戦乱の鎮圧には長い時間が掛かる。

 

そして救えないのは。

 

星神が言ったとおり。これ以上の暴力と暴虐で、星神達は全てを否定されて、奪われたということだ。

 

実際、星神の同志になっていた面子は、皆そうだった。

 

それが分かるから。

 

どれだけ悲惨な戦乱の引き金を引いた張本人だったとしても。

 

燐火は星神を怒る気にはなれなかった。

 

二学期に入って、涼子と久々に会う。

 

部活の後、近くの公園で軽く話した。

 

やっぱり涼子は、司法試験の準備を始めているらしい。この間、県内でトップの成績を取ったそうだ。

 

なかなかに凄いが。

 

父親は相変わらずらしく、またハニトラに引っかかりかけたそうだ。

 

それもあって、いい加減にしろと涼子が面罵したようである。

 

既に完全に親子の力関係は逆転しているらしく。

 

それを何度も世話になっている興信所も理解しているようだった。

 

「いいなあ燐火ちゃんのお父さんとお母さん。 燐火ちゃんが悪い事いうの聞いたことないもん」

 

「二人とも燐火の自慢ですよ」

 

「そうだね。 それで……」

 

涼子は言う。

 

今後、どうするのかと。

 

涼子は今後、最高裁の裁判長を目指すらしい。

 

弁護士よりそっちの方が良い。

 

そういう判断であるらしかった。

 

分からないでもない。

 

どれだけの悪徳弁護士が詭弁を並べ立てても、裁判長だったらそれを一刀両断することが出来る。

 

バカみたいな甘い判決を出すくだらない裁判長とは一線を画す、まっとうな法の守護者になれる。

 

燐火としても。

 

涼子がそうなってくれればとても嬉しい。

 

「燐火ちゃんは?」

 

「公務員になります。 できるだけ上位の」

 

「そっか。 それで……」

 

耳打ちされた。

 

やっぱり白仮面の正体って、燐火ちゃんなの、と。

 

涼子によると、白仮面の出現時間などを考えると、どうにもそうだとしか思えないのだという。

 

目撃された白仮面の背格好。

 

途中から背がぐんぐん伸びていたこと。

 

そういったことも燐火と一致しているのだと言われて。

 

思わず苦笑い。

 

ケルベロスがいたら、だから言っただろうと苦言を呈されていただろうなと思う。

 

涼子なら、何も悪い事はしないだろう。

 

「正解です。 ただし、都市伝説の全てが本当ではないですよ」

 

「分かってる。 ヤクザの事務所に突入して、みんなぶちのめして警察に突き出したとか、あり得ないもんね。 燐火ちゃん、今だともうプロの格闘家でもない限り勝負にならないみたいだけど、それでも鉄砲とか刀とか持ってる相手だと分が悪いよね」

 

「そうですね」

 

「……」

 

涼子が引きつったのは。

 

実際にはその程度の相手だったら対応できると、燐火が言ったのも同じだと気づいたからかもしれない。

 

まあ、ヤクザの事務所を物理的に潰したことはない。

 

ダイモーンを祓うことで間接的に潰したことは何回もある。

 

ただ、それは計算に入れて良いかちょっとよく分からないので、ここではノーコメントとしておくのが良いだろう。

 

いずれにしても、既に生半可な反社なんか燐火の相手ではない。

 

これはただの客観的な事実だ。

 

「涼子ちゃんの裁判長、期待しています。 燐火は……いずれ私とした方が良いですね一人称。 燐火も、公務員として、この国をしっかり動かす方向で行きます。 その時は連携して、この国の寄生虫を全部叩き潰しましょう。 その後は、この世界の寄生虫もまとめて全部」

 

「うん……そうだね。 ますます好戦的になった?」

 

「ちょっとだけ」

 

別れる。

 

そして燐火は、日女さんのところに向かった。

 

悩んだ末に、日本神話系の魔祓いになろうと考えたのだ。

 

ただ、専属で誰かしらの神の巫女になるつもりはない。

 

燐火としてはフレキシブルに動きたいからだ。

 

ダイモーンについては、既に掃討が終わっている。それについては、後で姿を見せたヘラクレスさんが教えてくれた。

 

燐火も、それを聞いて静かに頷いていた。

 

だとすれば、この国の魔を祓える存在となっておきたい。

 

カトリイヌさんはそれを聞いて、ちょっとだけ残念そうにしたが。

 

それでも、魔祓いとして今後対立する事はないだろうと言って。今後は友達として接したいとまで言ってくれた。

 

少しして、エヴァンジェリンさんは帰国した。

 

ドルイドの魔祓いは貴重だ。

 

それに、北欧神話系の神々がことごとく敗れたこともあって。北欧神話系の魔が蠢動を開始しているらしい。

 

フェンリルとその一派は今回の一件で壊滅的な打撃を受けたが。

 

それでもまだまだ、北欧系の魔には、トールと相打ちになるヨムルンガルドや、何より世界を一方的に焼き滅ぼすスルトが存在している。

 

まだまだエヴァンジェリンさんのような人材は必要なのである。

 

ただ、今後はメル友として連絡を取ろうと言われたので。

 

ちょっと言葉のセンスが古いなと思った。

 

まあそれはいい。

 

エヴァンジェリンさんとは、またいつでも会える。次に会ったときが。楽しみだと言える。

 

中二の二学期が終盤にさしかかり。

 

期末でだいたい満点を取った頃。

 

菖蒲さんと林西さんが退院してきた。

 

その時には燐火は、日女さんに案内されて、天照大神の神おろしに挑戦しているところだった。

 

天照大神は言うまでもなくこの国最高の神格だが。

 

それでも、各地に分霊がいる。

 

燐火が下ろすことにしたのはその分霊だが。

 

それでも圧倒的な力で。下ろすのには冷や汗を掻いた。

 

しかしながら、この国で一線級の魔祓いをしている日本神話系の魔祓いは、最低でも八幡か稲荷くらいの信仰を集めている存在を下ろしているそうだ。

 

神仏習合の観点からも、天照大神は仏教系の魔と相性が良いらしく。

 

下ろせれば、大きな力になる。

 

現在は、下ろすことには成功しているが。

 

天照大神はケルベロスと違って非常に気難しく、燐火としてもなかなか魔祓いに力を貸して貰うのが大変だった。

 

だから四苦八苦はしていたが。

 

燐火の力を認めてはくれていること。

 

燐火が抜き身の刃みたいな正義感を持っている事。

 

これらについては、天照大神も認めてくれたらしい。今後は魔祓いとして力を貸してくれるだろう。

 

後は祝詞などの習得だが。

 

これは別に難しくはなかった。

 

菖蒲さんと林西さんと、日女さんを交えて軽く話をする。

 

あの事件の終幕について話すと。

 

林西さんはそうか、とだけ言った。

 

「ケルベロスが、まだ残るつもりだったのは分かっているな」

 

「はい。 まだ燐火が危ういからですね」

 

「その通りだ。 くれぐれも、その身につけた武芸と魔祓いの力、悪用だけはしてくれるな」

 

「分かっています」

 

悪用は。

 

絶対にしない。

 

既に悪運の浄化については、始めている。

 

カトリイヌさんと連携して、各地で魔界になっているほどの悪運のたまり場は、片っ端から浄化して回っている。

 

ダイモーンを祓うときほど給金は出ないけれども。

 

それで充分すぎるくらい収入はある。

 

既に公安の秘匿部署の人に、いずれそちらに入ることは告げてある。現在の燐火の成績ならば恐らく行けるというと。

 

向こうとしても大歓迎だと言っていた。

 

まあ、そうなると大学までは出なければならないか。

 

林西さんに、いくつかありがたい例え話をしてもらう。そういうのを説教くさいとは一切思わない。

 

燐火としては、林西さんは尊敬すべき先人だ。

 

その言葉は、全て受け止めるつもりでいた。

 

 

 

カトリイヌさんの護衛二人は、帰国した。

 

今回の件で、カトリイヌさんは実家から戻るように言われていたらしい。それを拒否した。護衛二人も、それに従った。

 

実質上の反逆行為に等しい。カトリイヌさんはほとんど勘当同然の扱いを受けているそうである。

 

それで、二人は怪我が治るやいなや、実家でカトリイヌさんの立場悪化に対応するのだという。

 

所詮は魔祓いの名家といっても、バチカンの一部。

 

どうしても政治的なあれこれが大事になってくる。

 

特にセバスティアンさんは、かなり老齢だと言うこともある。

 

星神との戦闘で大きな負傷をしたこともあって、かなり無理をしているようだ。

 

医療技術そのものはともかく、この国では医療を極めて安価に誰でも受けられるという利点がある。

 

セバスティアンさんだけでも、こっちでじっくり治療をしていってほしいと燐火は思ったのだが。

 

カトリイヌさんは、下手すると暗殺者を送りつけられかねないくらい立場が危ういらしく。

 

セバスティアンさん達が動かなければならないのだそうだ。

 

ただ、セバスティアンさん達は必ず戻ると言っていた。

 

それにカトリックとしても、ソロネを守護天使としている二人を失うのは痛手なのである。

 

ソロネまで守護天使にしている魔祓いは滅多にいないそうで。

 

あまり無茶はしないだろう。

 

そういう話だった。

 

今出向いているのは、ある古戦場だ。そこで、燐火はカトリイヌさんと魔祓いにいそしむ。

 

壁を展開するのはカトリイヌさん。

 

周囲にいるのは、武者の亡霊達。いずれもが、生者への怨念に満ち満ちていた。

 

ここはあまり知られていないが、激戦が行われた土地で。卑劣なだまし討ちで、多くの武士が死んだ。

 

武士以外も。

 

当時ですら卑劣という声が上がったほどの作戦で。しかも、負けた方は皆殺しの憂き目にあった。

 

勝った方が歴史の勝者となるとか。

 

都合良く歴史を作る、というのは確かにある。

 

だが、ここではそうはならなかった。

 

ここの戦いで勝利した武将は周囲から総スカンを食らった挙げ句、卑怯者の烙印を押され。

 

周囲全てを敵に回した挙げ句、天下人に降伏して命脈を保つも、一生後ろ指を指されて生きたそうである。

 

それもあって寿命を縮め、三十半ばで発狂死したそうだ。

 

だが、それでも。

 

殺された者達の怨念が消えるわけではない。

 

無数の死者が立ち上がり、怨念を向けてくる。

 

燐火は言うことをなかなか聞かない天照大神の力を、しかも大日如来と同一視される要素を利用して。

 

浄化をしていく。

 

悪霊はそれほどたいした相手ではない。

 

問題はここが心霊スポットとして知られて、多数の悪運がたまったと言うことだ。

 

結果としてここは魔界と化した。

 

最近では人が立ち入らないことを良いことに、ここで好き勝手をする外道の類も増えてきている。

 

だから、さっさと悪運は祓わなければならない。

 

祝詞を唱えて、分霊体の天照大神にやる気を出させる。一線級の魔祓いには、まだ入院している人も多いし、引退に追い込まれた人もいる。

 

あの戦いは世界中に余波を残し。

 

各地ではあの戦いが原因で始まった戦闘が、まだ続いている場所もある。

 

少しでも、出来ることは片付けなければならない。

 

故に、こうやって片付けていくのだ。

 

祝詞を唱えつつ、斬りかかってくる悪霊にも注意は祓う。カトリイヌさんの展開する光の壁で防ぎきれない場合がある。カトリイヌさんもあれから剣道をしっかりやりこんでいて、かなり強くなってきているようだが。

 

それでも限界がある。

 

燐火は淡々と天照大神の力を振るい、悪霊を浄化しつつ、悪運を祓う。

 

光に恨みが溶けていく。

 

消耗が激しい。

 

皮肉な話だが。

 

ケルベロスがリミッターを解除する前だったら、多分これだけの相手を浄化し悪運を祓うのも無理だっただろう。

 

たんと、澄んだ音が響く。

 

天照大神による、浄化の光が、辺りをなぎ払ったのだ。

 

それなのに、まるで鼓を一つ打ったような音。

 

そして、それで。

 

古戦場に蓄えられていた悪運が全て消し飛んでいた。

 

汗を拭う。

 

カトリイヌさんも、かなり息を乱していた。

 

「お、終わりですわね」

 

「はい。 戻ります。 これだけの悪運を祓うと、ここをメガソーラーだかにしようとしていた反社もどきも、みんな逮捕でしょうね」

 

「まったく、あんなもの何の役にも立たないことがどこでも証明されているのに」

 

カトリイヌさんが吐き捨てる。

 

とりあえず、周囲を警戒してくれていた自衛隊員に作戦完了を告げて戻る。レポートは燐火が書こうと思ったが、カトリイヌさんが書いてくれるらしい。カトリイヌさんは肩の力が抜けたからか、燐火に対して態度が最初の頃に比べてぐっと柔らかい。年が離れた友達だと思ってほしいと言っていたが。

 

実際カトリイヌさんの交友関係はよく分からない。

 

前にカトリックのろくでもない魔祓い達の有様は見たが。

 

あんな調子で、同年代だろうが別の世代だろうが、周りは全部腹の探り合いをする相手で。

 

会話から何まで全部「政治」だったとしたら。

 

燐火みたいな相手は、とても貴重な存在なのかもしれないし。

 

犬猿の仲だと思っていた日女さんも、喧嘩友達だと思って大事な相手だと考えていたのかもしれない。

 

カトリイヌさんはそれほど心が強そうにも見えないし。

 

とりあえず、自衛隊の車で(ジープではなく、ただ運転手が自衛隊員というだけだが)送って貰うが。

 

その途中、忌々しげに自衛隊を見ている明らかにスジ者な輩を見た。

 

あれは多分メガソーラーだかの業者だな。

 

だが悪運は断ち切った。

 

今、公安の秘匿部署の指示で警察も動いているはず。

 

あの手の連中は叩けば埃がなんぼでも出てくる。

 

すぐに逮捕してくれるだろう。

 

他の地域でも、メガソーラーを勝手に作り出した挙げ句、土地に有害廃棄物まで埋めていたケースまであるらしい。

 

文字通りの国土を食い荒らす寄生虫以外のなにものでもない。

 

悪運がつきたら、それこそもう未来はないと見て良いだろう。

 

「とりあえず戻ったらメロンソーダでも飲みましょう」

 

「ああ、良いですわね。 あの毒々しい色で、あんなに美味しいものはそうありませんわ」

 

「レポートを書いてくれると言うことですので、奢ります」

 

「ノンノン。 そういうお金の貸し借りはなしですわ」

 

まあ、それでもいいか。

 

ともかく、途中の駅まで送って貰い、其処で喫茶に入る。

 

しばしメロンソーダを楽しんでいたが、日根見ちゃんから連絡が来ていた。日根見ちゃんについてはカトリイヌさんも知っている。

 

「やっと国立公園を巻き込んでいた紛争が終わったよ。 どれだけの被害が出たか分からないけれど、なんとかいくつかの貴重な動植物が生きていることから確認して貰わないと」

 

「そうですね。 ともかく、紛争が終わったのは何よりです」

 

日根見ちゃんが、具体的な生物名を上げていたけれど。

 

最近では学名で言うことも多いので、それらは調べないとちょっと分からない。調べてみると、かなり生息範囲が狭い珍しい鳥類であるらしい。

 

そうか、確かに鳥類は一度減り始めると生息数を取り戻すのが大変だ。

 

少しでも無事な個体が多いと良いのだが。

 

充子からも連絡が来る。

 

道場に来た七段の人と手合わせをして、勝ったそうである。相手は七段ではあったが、師範曰く五段相当の実力しかなかったそうだ。今の充子の敵ではなかったそうだが。相手は褒め上手で、充子の力量と将来性をがっつり褒めてくれたらしい。

 

それだけで充分だと充子は思ったようだった。

 

ちなみに力量は師範には届かないが昔から師範の理解者だった人であるそうで、今でも友人としては交流が深いそうだ。

 

それはそれで素敵な関係だと思う。

 

それに、娘みたいな年の充子に負けても、相手を褒められるのなら。

 

それこそ立派な大人である。

 

いくつか話をしてから、後は帰る。

 

カトリイヌさんは話によると、護衛二人がいなくなってから一人暮らしをしているということだ。

 

家にいた頃はメイドやら雇っていたそうだが。

 

今では自分で家事からやることの重要性に気づいたようで、それを忘れずにしているとか。

 

何より、自立云々を口にするなら、それをするべきだし。

 

多様性を知るのなら、何もかも見聞きするべきだ。

 

ここ最近、色々な魔と対戦した。

 

それで、カトリイヌさんも思うところがあったらしい。

 

星神は悪辣だが誇りは本物だった。

 

それも、カトリイヌさんに何かしら響くものがあったのだろう。

 

家に帰る。

 

更に元気になっている杏美は、言葉も少しずつ覚えている。もうすぐ目を離すと危なくなるだろう。

 

燐火が戻ると、お帰りなさいとだいぶはっきり言えるようになってきた。

 

燐火も、できるだけただいまと答えるようにしている。

 

一緒にゲームもする。

 

知育玩具も一緒に遊ぶけれど。

 

良く出来ていると感心させられる。

 

ケルベロスだったら、どうアドバイスしてくれるだろう。

 

そう考えながら、遊ぶときにどうするかを考える。甘やかすのも、厳しくするのも、バランスが大事だ。

 

とりあえず、杏美の面倒を見た後。

 

勉強を一通りやる。

 

もう六大学だったら今試験を受けても受かる自信がある。

 

燐火が目指すのは。

 

その上だ。

 

「燐火、ちょっといい」

 

「うん」

 

おかあさんに呼ばれる。

 

杏美について、いくつか話をされた。

 

アレルギーが見つかったそうだ。

 

こればかりは仕方がない。努力でどうにか出来る話ではないし、精神論など論外だ。アレルギーの重さにもよる。重さによっては、口に入れたら死ぬこともある。

 

「卵や牛乳は大丈夫?」

 

「ああ。 問題は鯖でね。 軽度だけれど、少なくとも今は食べさせない方が良いだろうという話だ」

 

「鯖……」

 

時々聞くな鯖アレルギー。

 

身内で出るとは思わなかった。

 

とりあえず、緊急時用に取ってあるサバ缶は早めに大人で食べて処理してしまうそうである。燐火も手伝うことになる。

 

しばらくは鯖づくしだな。

 

それと、おかあさんが杏美に話をするという。

 

鯖を食べることが出来ないという話だ。

 

これはちゃんと説明をしないと難しい。

 

特に甘やかして育てると、自分の感情や主観が正しいと考えて動くようになりやすい。今のうちから、そういう腐った性根を持たないようにしっかり教育する必要があると言う訳だ。

 

実際問題、感情や主観を最優先する人間は、大人でもたくさんいるし。

 

そういった人間は、如何に自分が残虐で滑稽か、自分だけ理解できていない。

 

そうしないためにも。

 

まだ幼い内から、そうならないように手を打つのは大事だ。

 

自由と無法は違う。

 

何が好きとかは自由だ。

 

ただ、アレルギーの場合は食べると下手をすると死ぬ。

 

食べたら死ぬものを食べるのは、自由ではない。

 

その辺りは、きちんと線引きをしなければならない。おかあさんとしても、難しいだろうと思う。

 

それで、だ。

 

杏美の手がもう少し掛からなくなったら。

 

おかあさんはパートを始めるそうだ。

 

といってもレジ打ちなんかではなくて、あちこちの道場で師範代とか、後は警察での指導とか。

 

そういうのである程度稼ぐつもりだと言う。

 

そうして、もう二年か三年経ったら。

 

もう一人二人子供がほしいかもしれないと、おかあさんはちょっと恥ずかしそうに言った。

 

燐火は反対しない。

 

「良いよ燐火は。 燐火みたいな境遇の子供は一人でも少ない方が良い。 世の中には子供を産む親は無条件で偉いみたいな思考をする人間がいるけれど、燐火はそれが間違っていることを身をもって知ってる。 だから、おとうさんとおかあさんの好きなようにして」

 

「そうか、ありがとう。 とにかく、今は杏美の世話を、しっかりしていこう。 手伝う事は、燐火にも頼むからね」

 

「うん」

 

それと、もう一つ。

 

おとうさんがそろそろ、配信時間を少しずつ縮めるそうだ。

 

Vtuberの業界でも、働き方の改革が始まっているらしく。

 

そろそろ無茶な負担を掛ける配信については、規制が入る話が出始めているそうである。

 

これは一時期はやっていたようなVtuber叩きとは別の話で。

 

これがいっぱしの仕事としてしっかり認められたという証左であるそうだ。

 

おとうさんも心身を削りながら配信をしていたし。

 

配信をしていない時間でも、どう自然に撮れ高を作るかとか、トークをどうするかとか、研究を続けていた。

 

だから家族で食卓を囲む時間とかはほとんどなかったし。

 

今後はそれが増えるのだと思うと、燐火も嬉しくはある。

 

それにだ。

 

うちの貯蓄は充分。

 

それに公務員に上がった頃には。

 

燐火がおとうさんより稼ぐ。

 

この間の最終決戦で星神を倒した報酬だけで、二億五千万が口座に振り込まれている。勿論それ以外でも様々な報酬が振り込まれており、貯蓄は増える一方で、なんなら一生寝て暮らすのも可能だ。

 

いざという時は、このお金を使うだけ。

 

現在、貯蓄額が一番多いのはうちでは燐火だ。

 

杏美が、アニメをみたいと言っている。

 

おかあさんが料理をするというので、燐火が一緒に見ることにする。

 

最近は絵本を読んでほしいと頼んでくることも多くなった。

 

前はほとんどお気に入りの絵本のラインナップの傾向が見えなかったが。杏美はちょっと変わったラインナップが好きなようで。

 

珍しい絵本を好んでいる節がある。

 

まあこういうのに関しては、有害も無害もない。

 

だから、ちょっとこれは面白いなと思いながら、絵本を読んで。

 

後は、家族で食卓を囲む。

 

それはそれとして、後でサバ缶を一斉に処理しなければならないから、杏美が食べ終わった後にもう一回食事だが。

 

家庭は穏やかだ。

 

もう記憶にもない実両親と。

 

あの腐りきった孤児院の院長の事は、親だと思っていない。

 

またあの孤児院の院長が燐火の前に姿を見せたら、即座に頭をたたき割る。いや、それは駄目だ。

 

自省して、放り投げて押さえ込むくらいにしなければならないか。

 

風呂に入りながら、ケルベロスならこう言うだろうなと、何度も思う。

 

そして、ルーチンもしっかりこなしていく。

 

燐火はこの先をしっかり生きるために。

 

一秒だって、気を抜くつもりなんか、ない。

 

 

 

ヘラクレスがペルセポネを連れて戻ると、ケルベロスは冥界の番犬に戻る。

 

とはいっても、もうギリシャ神話の冥界には、新しく死者など来ないが。これは日本神話の冥界と同じだ。

 

だから暇であり。

 

冥界の渡し守も、あくびをしているのが見えた。

 

燐火は、苛烈な子だったな。

 

そう思いながら、三つある……いや蛇の頭も含めて、頭を順番にあくびさせていく。ペルセポネを連れて帰ってきたとき、ヘラクレスは燐火は良くやってくれたと褒めていた。その後も、ヘルメスが情報を持ってくる。

 

燐火は立派にやれているようだ。

 

苛烈な性格を良く自制して。

 

それでいながら、鍛錬も欠かしていないようである。

 

日本神話系の魔祓いとして、天照大神の力を使い始めたらしく。

 

それでいいとケルベロスは思った。

 

魔としてダイモーン、特にカコダイモーンはもうほぼ出ることはない。ギリシャ系の魔祓いは、現地にいる少数だけで充分だ。

 

ヘルメスが来る。

 

持ってきたのは蜂蜜の焼き菓子と、地上の話だった。

 

「地上ではあの星神がたきつけた戦争がまだあちこちで続いているみたいだねえ。 いつまで経っても人間は信仰に振り回されるものらしい」

 

「そうだな。 もたもたしていると、この星ごと自滅するのが目に見えているのに、それでもエゴをむき出しにしている。 皆が燐火のように自制できる人間であったら、だいぶ違うのだがな」

 

「あの子はちょっと他とは次元が違うだろ。 あの子が水準だったら、とっくに人間は宇宙に進出しているさ」

 

「ああ……」

 

それは分かっている。

 

これから数十年が正念場だ。

 

燐火は未来を作る旗手の一人になりうる。ケルベロスは全ての力を使い果たしたし、数百年は地上に出られないし、意志を届けることも難しい。

 

ヘルメスに伝言を頼むことも出来るが、それも簡単ではないだろう。

 

燐火、これからが正念場だ。

 

俺が教えたことを忘れるな。

 

いつも俺が教えたことを思い出せ。

 

そうケルベロスはつぶやくと、蜂蜜菓子をがっつく。今は、迷い姫を取り戻した。燐火を一人前にまで育て上げた。

 

それで、満足しなければならなかった。







ケルベロスを失っても、魔祓いとしての力がなくなったわけではありません。

それどころか燐火はこれから魔祓いとして、世界の最前線にたたなければなりません。

燐火の人生は、むしろここからと言えます。


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