魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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小川先輩ですが、あれからも空手を続けて、ついにオリンピックの舞台に立ちました。

偏見から身を守るために始めた空手ですが。

それがついに人生の道しるべにまでなったわけですね。





2、それぞれの道

小川苛斂は、オリンピックの表彰台に立っていた。

 

空手はオリンピックの競技に選出されたりされなかったりだが。ここ数年は選出されていて。

 

強化選手として抜擢されたのが三年前。

 

それから鍛錬を続けて、ついにオリンピックで銅をとった。

 

一時期腐敗しきっていたオリンピックも、最近では様々な不正審査が行われない工夫がされ。

 

金で……審判を買収してメダルを取ることが出来なくなってきている。

 

それもあって、実力で銅を取ることが出来た。

 

それだけで充分だった。

 

最近ではうるさい報道陣が囲んでくるようなこともなくなった。選手が自身で、もし発信したいならそれぞれ自由に情報を発信する。そういうスタイルが主要になっていた。

 

苛斂の場合は、自撮りの動画で発信していた。

 

「私は小学生時代から空手をやっていましたが、空手を開始した理由は、あまりいいものではありませんでした。 見かけが派手で、それでおかしな人間につきまとわれることが多かったからです。 身を守るために始めた空手でしたが、それが何時しか本当に楽しくなりました。 転機となったのは中学の時で、その時凄い後輩が入ってきたんです。 その後輩に触発されて、それでここまで来ました」

 

これからは、空手の後進育成。

 

警視庁などでの指導役をすると、宣言する。

 

苛斂自身は、どこかの大企業のスポーツ推薦枠に行くつもりだ。まあ、どうでもいいのだが。

 

空手はプロリーグがない。

 

いくつか声を掛けてきている大企業に入るか。

 

あるいは、どこかしらの大きめの道場に通うか。

 

どちらかだろう。

 

金がとれなかったのは悔しいが、それでも銅がとれたのであれば充分だ。

 

苛斂はあまり自分を特別な存在だとは思っていない。

 

これくらいが自分の器だろうと、見切りをつけていた。

 

両親は苛斂の事をずっと押してくれたし。

 

それで充分すぎる。

 

後輩の鈴山も、最近では国際大会に出るようになってきている。階級が違うが、今回もオリンピックで世界八位の成績を出した。メダルは取れなかったが、それでも満足そうだった。

 

苛斂も参加するオリンピックはこれで最後だが、今後も国際大会にはまだ出るつもりだ。

 

三十路まではやろうかなと思う。

 

そして、三十路を過ぎたら。

 

昔色々指導してくれた八子先生のように。

 

あちこちで、なかなか芽が出ない生徒の指導をしたい。

 

今度は自分が八子先生のようになる番だ。

 

見た目で判断するカスを全部黙らせる。

 

あの子。

 

燐火はちょっとやり口が苛烈すぎたけれど。それでも、苛斂も大きな影響を受けたし、凄い奴だと今では思っている。

 

それに、燐火の妹の杏美とこの間顔を合わせたが、既に国内大会でかなりの成績を残しているようだ。

 

どんどん凄い才能が上がってきている。

 

最近の若い者は、なんて寝言を言わずとも済むだろう。

 

そんなことを言わなくても済むように。

 

苛斂はどんどん、後続の人材を発掘していく。

 

それは何も国内に限った事ではない。

 

空手の競技人口が増え。

 

建設的に使う人間が増えれば、それでいいのだから。

 

苛斂は鈴山のところにいく。

 

同じ選手村にいるから、会いに行くのは簡単だ。

 

この間婚約したらしく。

 

まもなく名字が変わるそうである。

 

見かけで判断しない相手を見つけたそうだ。

 

お互い、見かけで判断されて苦労した仲だ。

 

今でも鈴山とは仲が良い。

 

今回八位だったが、多分次はメダルを取れる。それらの話をしながら、燐火の事を思い出して、話に花を咲かせる。

 

「この間少しメールをやりとりしたんですけれど、今は公務員しているそうです」

 

「燐火っち、市役所とかにいるのかな」

 

「いえ、公安だとか」

 

「そっか」

 

公安と言ってもあんまり苛斂に詳しいことは分からない。

 

だが、腐敗警察とあの子が同じになる事はないだろう。

 

安心して大丈夫の筈だ。

 

それに、である。

 

燐火が高校生くらいになってから、急激にこの国の状況は良くなってきている。それもまた事実である。

 

日本中で犯罪組織が摘発され。

 

それらが的確に裁かれるようになった。

 

政府がいきなり有能になったというよりも。

 

あちこちで好きかってしていた悪党が、それぞれ逮捕されたり自滅したりで。空気が露骨に良くなったのだ。

 

今では学校のスクールカーストも過去の産物となった。

 

いじめと言う言葉は、昔はなんら抵抗なく使われていたようだが。

 

今では完全に犯罪の一種として扱われるようになっている。

 

それでいいのだ。

 

苛斂も散々邪悪なものは見てきた。

 

そういうものに後輩達がさらされなくていいのは、とても良いことだと思っている。

 

いくつか鈴山と話した後、自分の宿舎に戻る。

 

苛斂もそろそろ結婚してほしいと両親に言われているのだが。

 

別に其処までしなくてもいいのではないかと感じてもいる。

 

ともかく、今の時代は選択肢がたくさんあるし。

 

焦らなくてもいい。

 

ただ、それだけだった。

 

 

 

生物学者の卵である日根見は、今潜水艇で深海にいる。

 

深海……一番この地球で深い地点は、20世紀の半ばには有人潜水艇での到達を達成している。

 

だが、それでも深海は分からない事だらけだ。

 

今日は海洋汚染の実態を確認すると同時に。

 

生物サンプルを採取すべく、深海に来ている。

 

深海の生物には、とても巨大になるケースがあるが。

 

これは深海では餌をとるのが極めて難しいからだ。

 

通称海の砂漠とまで言われているほどである。

 

それもあって、深海の生物は、餌を絶対に取りこぼさないように、それぞれが工夫している。

 

体を大きくするのも。

 

その工夫の一つだ。

 

これらは「進化」ではない。

 

「適応」だ。

 

進化なんてのは、人間が都合よく考えた優れた方向への変化に過ぎない。それが本当に優れている保証などない。

 

三億年前には、酸素濃度が現在の倍もあった。

 

三億年前の生物は、それに適応していただけに過ぎない。

 

今の生物が三億年前に行っても、あっという間に全滅するだけ。

 

人間なんて酸素濃度にやられて、その場でばたばたと倒れていくだけだろう。

 

そういうものだ。

 

日根見は進化なんてものが嘘っぱちだと言うことを知っている。

 

だから、大学院で研究をするようになってから。

 

たまに後輩と話すとき、それを丁寧に説明するようにしていた。

 

生物のサンプルをロボットアームで採取して、それぞれを分析する。ほとんどはプランクトンだが、それ以外もいる。

 

巨大な魚が泳いでいる。

 

あれはオンデンザメだな。

 

一緒に乗ってきている研究者達が、記録映像を残している。

 

数百年も生きる巨大なサメだが、危険性は小さい。

 

ただなんでも口に入れるので。

 

深海まで墜ちてきた人間の死体を口にする事があり。腹の中から人間の一部が出てきた記録もある。

 

ただ、サメといっても人間を襲う種類はほんのわずかであり。

 

オンデンザメはそうではない。

 

餌があったら口にはするが。

 

そもそも生息圏がかちあわない。

 

それだけの話だ。

 

「あれは5mはありますね」

 

「まだまだ大きくなるぞ」

 

「もっと大きくなるんですか」

 

「7mくらいまでは育つ。 もっともそれまで生きていれば、だがな」

 

チームの指揮を執っている教授がいう。

 

そして、数時間深海でサンプルを取る。

 

昔はサンプルは死体でしかとれなかった。だが、最近は技術が進歩しており、潜水艦にロボットアームで生きたままサンプルを格納できる。

 

しかも潜水艦内部に水槽があり。

 

其処で生きたまま、サンプルを持ち帰ることが出来る。

 

後は水族館などと連携しながら、生物のサンプルを観察することになる。

 

深海生物の展示なども最近では水族館で開始されているが。

 

日根見はそれらの研究にも関わっていた。

 

生物は、何でも好きだ。

 

今はこの研究チームにいるが、陸生の生物だって好きである。

 

いずれ専門を作って、それを極めたいと思う。

 

どちらにしても日根見はまだまだひよっこ。

 

学者としては卵も良いところである。

 

浮上。

 

大型の研究船に、潜水艦でドッキングする。

 

数カ国が共同しているプロジェクトで、これから整備をした後、別の国のチームが深海に潜る。

 

研究船にはこれまた大型の水槽があり。

 

回収したサンプルをここで面倒を見る。

 

とはいっても、それでもすぐに死んでしまうサンプルも多い。

 

そういったサンプルをすぐに標本にして、データを残すのも大事な仕事だ。次に、生かすために。

 

色々と忙しい。

 

燐火と出会ってから、日根見は自分を鍛える必要性を感じた。

 

充子の凄まじい鍛錬をみて、それを更に実感した。

 

結局予定通り剣道は二段までで止めたが、それでも自衛は出来るようになった。それだけで充分だ。

 

後は、生物に関して極めていきたい。

 

黙々とサンプルを分類していくが。

 

どうやら魚の一つが新種らしい。

 

しかも元気に水槽の中で泳ぎ回っている。専門の先生に声を掛けると、すっ飛んできた。

 

日根見より七つ年上だが、まるで子供みたいな好奇心で、いつも新しいものには目を輝かせている。

 

ただ、日根見以上に子供時代は苦労したらしくて。

 

あまり昔のことは話したがらなかった。

 

「これは凄い! 完全に無事なままだ。 ヨシ、私はこれからスケジュールを変更して、この新種の研究と観察をするぞ」

 

「先生、困ります……」

 

「いーや、何しろ新種だ! 持ち帰った後は、水族館での世話についてもしばらくはつきっきりだな。 水族館に連絡を! 私が指示する条件の水槽を用意するんだ!」

 

「……」

 

助手達が困り果てている。

 

さて、日根見は少し休むか。

 

船酔いは一切しない。

 

それに、何よりも。

 

生物に関わるこの仕事。とにかく楽しくて仕方がないのも事実だった。

 

 

 

充子は剣道の全国大会で、何度目かも分からない優勝を果たした。

 

今や剣道小町として知られている充子だが、決して自分は最強ではないと、常に取材には答えている。

 

父には勝てる気がしない。

 

既に老境に片足を踏み込みかけているのに、剣の道を更に極めている父は。

 

歴史に残る剣豪の誰にも引けを取らないはずだ。

 

それでいながら、更に高みを目指している。

 

凄まじい。

 

それに、だ。

 

時々会う燐火だが。

 

剣道だけなら勝てる自信はギリギリある。

 

だが、燐火は剣道だけではなく、柔道や空手、合気でも余裕で世界最強を争える実力者だ。

 

一体どんな人に指導して貰ったのだろうと、羨ましく思う。

 

しかし妬んでいては駄目だ。

 

今はとにかく、充子も更に腕を磨かなければならなかった。

 

段位についても、経験年数絶対重視の風潮を変えたい。

 

そうすることで、なんとか今の剣道界に蔓延っている。高段位の人間が強いとは限らない状態をどうにかしたい。

 

だけれども、それだけが全てでもない。

 

色々と悩むことは多かった。

 

家に戻る。

 

日根見姉さんからメールが来ていた。

 

生物学の調査船で、画期的な成果をいくつもあげたとかで。これから大学に戻って論文を書くのだとか。

 

院生になっても忙しいんだな。

 

そう思って、少し苦笑する。

 

充子は道場を継ぐことにした。

 

とはいっても、それだけでは食べていけない。

 

それもあって、燐火さんのおかあさんの紹介を受けて、警察での指導に邁進している。警察での指導は面白い。

 

五段や六段の人もいるけれど。

 

そういう人に、現実をまず見せること。

 

具体的に暴漢をどう制圧するか実例を見せること。

 

それが大事だ。

 

実際問題、ナイフを持った暴漢相手に、素手ではほぼ何も出来ないのである。

 

本当の達人だったらどうにか出来るかもしれない。

 

ナイフを持った人間が、ド素人だったらどうにでもなるかもしれない。

 

だが、その二つが都合良くそろっているケースはほとんどない。

 

だから、ナイフを持った相手にどう対応するか、充子は徹底的に訓練する。警棒を用いて、如何にしてナイフを持った相手を制圧するか。

 

それを仕込む。

 

警官の中には、充子を侮る者も多かったが。

 

実際にナイフを持った状態で襲いかかるように指示して。

 

ことごとくたたきのめされると、現実を見て態度を改める。

 

それでも改めないような人間に関しては、見込みなしと事実を告げる。

 

屈辱に顔をゆがめる事も多いが。

 

そもそもとして、警察は極めて忙しい。

 

海外から凶悪犯も入ってくる昨今。

 

それらを取り押さえられないのでは意味がない。

 

最近では父以外の八段持ちに一本を取られることすらなくなってきたこともある。

 

警察では指導を求めて、父に連絡を入れてくる。

 

そのため、各地の県警などに回っては、充子は指導をしていて。それがとても忙しかった。

 

とりあえず、休む。

 

連絡が来たのは、その時だった。

 

燐火さん。

 

そう思うと、目が覚める。

 

スマホは今でもあんまり上手に操作できないけれど、それ以上に嬉しいので、さっと内容を見る。

 

今公安にいることは知っている。

 

色々秘匿性がたかいので、具体的にどういう仕事をしているかは教えてくれないが。それでも、愚痴やら何やらを言うことはほとんどない。

 

ただ、これから家に戻るらしい。

 

休暇が入ったので、数日休むそうだ。

 

その間遊びに来るなら、是非というので。

 

必ず行くと、充子は答えていた。

 

わくわくして眠れないのはいつ頃だろう。

 

父との手合わせでは、勝てる気がしない。

 

国内の試合では、敵がいない。

 

国際大会にもたまに出るが、そっちはもっとレベルが低かったりする。

 

最近では西洋剣術との他流試合を求められる事もあるのだが。

 

それらでも敵なしであることもあって。

 

充子は動画などで試合の様子が拡散され、サムライガールとか言われて変な方面で人気が出ているようだった。

 

ほとんど興味がないので、門下生がどういう動画が出ているとかいうのをたまに聞かされるくらいである。

 

動画を見ると、ああこんな試合もしたな、なんて思うこともある。

 

色々な武器を使って見せてほしいと頼まれることもあるのだが。

 

充子は基本的に剣一本だ。

 

それもあって、他の武器を専門的に使うことはない。

 

わくわくを抑えて、それでも眠る。

 

翌日、燐火さんの家に行くと。だいぶ大きくなった杏美ちゃんが、出迎えてくれた。

 

「充子さん、オス!」

 

「おはようございます。 今日も元気ですね」

 

「充子さんこそ、全身から覇気がほとばしるようッス!」

 

「ありがとう」

 

大げさだ。

 

ただ、この子もまた、燐火さんの影響を受けて、様々な武道をしているらしく。しかもかなり成果を上げているらしい。

 

ただ流石に燐火さんには届かないようで。

 

才能がないのかなと、たまにへこんでいるのを見る。

 

それは相手が規格外過ぎるだけだと、たまに慰めたりもするが。

 

まあ、それでも頑張りたい気持ちは分かる。

 

今の時点で、杏美は剣道で言うと、三段相当くらいの実力だ。

 

まだまだ全国区で言うと、それほどの力ではない。

 

稽古を頼まれたので、つける。

 

気合いははっきりしているが。

 

燐火さんのように、複数の武術の経験や歩法を生かしている訳ではない。それもあって、どうしても充子から見ると、攻めが単調だ。

 

立て続けに三本取って終わり。

 

「かー! 勝てねー!」

 

「かなり腕は上がっています。 いくつか細かい指導をしますので、覚えてください」

 

「オス!」

 

そのまま、指導をする。

 

やはり面に妙な癖があるので、それについて指摘する。側で見ていて、理解できた。

 

成長した腕の長さと、振るっている剣筋にギャップがある。

 

杏美は燐火さんほど背が高い方ではない。それに燐火さんがとても忙しいこともある。そうそう、丁寧な指導は出来ないのだろう。

 

細かく説明して、意識する場所、やるべき鍛錬を教えると。

 

頷いて、真面目に剣を振り始める。

 

燐火さんが出てきた。

 

あまり背が伸びなかった充子からすると、見上げるようだ。180㎝を上回るのは、女子としてはとても珍しい。

 

「久しぶりです」

 

「久しぶりですね。 今日はルーチンだけこなしたら寝ようと思っていたんですが、せっかく充子ちゃんが来てくれたので、試合をしましょう」

 

「分かりました」

 

平坂邸は更に増築されていて、道場が内部にある。

 

かなりお父さんが稼いでいるらしく、燐火さんも相当に稼いでいるということもあって、色々出来るらしい。

 

その道場で、向かい合う。

 

やはり、勝てるのは剣道だけか。

 

それにこの人の気迫、まるで人斬りそのものだ。

 

凄まじい気迫に押されないように、気合いを腹の底から絞り出す。そして、凄まじい数のフェイントを互いに掛けながら、間合いをゼロにする。

 

激しい試合を続ける。

 

三度試合をして、五本とり、四本取られた。

 

もう審判などいらない。

 

この人相手だと、互いに結果など分かっている。

 

力の差は縮んでいるが、それでもまだ剣道なら。

 

いや、そんな風に考える時点で、気圧されている。

 

燐火さんは柔道でも空手でも合気でもトップクラスだ。この様子だと、殺す殺されるの実戦も豊富に経験している。

 

多分どこの軍隊にいる特殊部隊員よりも強い。

 

それが分かるからこそ。

 

戦えることが、今は誇りだ。

 

六試合目。

 

周りが何も見えない。

 

それくらい、試合に集中する。

 

最初の一本を、打ち砕くような面を取られる。

 

だが、立て続けに胴を二本取って、勝ち。

 

十回まで試合をして。

 

それで十六本取り。十四本取られた。

 

やはり力の差が拮抗してきている。だけれども、これほどやっていて楽しい試合が他にあるだろうか。

 

全国大会だと、変わった技を使ってくる選手もいる。

 

最近だと二刀流を使う選手も出てきている事がある。

 

だけれども、二刀流を本当に使いこなせている選手はほとんどいないのが事実だ。

 

確かに二本剣を振り回せば強そうには見える。それは事実だ。だが世界中どこでも、一刀流が主流だった。

 

それが全てを物語っている。

 

いずれにしても、礼をして終わり。

 

残心をして、感想戦に入る。

 

燐火さんは更に強くなっている。そう説明すると、燐火さんは、静かに笑った。何というか、猛獣が側にいるような気迫だ。

 

男子の大柄な選手とも全国大会ではあたるが。

 

それでも、燐火さんの気迫に近いものを放っている選手は一人も見たことがない。

 

間違いなく父と充子につぐ、この国三番目の剣道家はこの人だ。

 

「やはり、剣道だけは生涯充子ちゃんには勝てなさそうです」

 

「これだけは、負けません」

 

「今、公安の仕事をしていますが、皆あまり武術は得意ではありません。 今度、指導を頼んでも良いですか」

 

「勿論」

 

そして、ちょっとだけ間をおいて。言う。

 

「私に敬語を使わなくても良いですよ」

 

「……難しいんです。 おとうさんとおかあさんに対してでさえ、かなり時間が掛かったんですから」

 

そういう燐火さんは、悲しそうに見えた。

 

大きなハンデを抱えているのは、充子にも分かる。

 

燐火さんから、それとなしに聞かされたことがある。

 

今のおとうさんとおかあさんのところに来るまで、悲惨すぎる経験をしてきたことは分かっている。

 

それでも、充子は。

 

この人と、もっと親しくなりたい。

 

そう、思うのだった。







剣道において、日本最強にもっとも近い位置に立った充子さん。

今後は剣道に関する仕事で第一線に立っていくことになります。

戦国時代の剣豪と現時点で実力は勝るとも劣りません。というか、実際のところだいたいの武器は師範から仕込まれて使えるようになっています。

充子さんもまた、星をつかんで道を究めた一人、ですね。



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