魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
シスターって一定の人気がありますよね。記号としてですが。
本作では女性エクソシストとしてカトリイヌさんが登場します。
ちなみに結構名門()のところの子ですが、上の兄弟がもっとずっと優秀であることや、護衛の二人の方が強いことは自覚していて、それで結構なコンプレックスを持っています。
日女さんとあまり仲がよくなかったり、燐火に対してマウントを取りに行くのも、その辺が原因ですね。
とはいっても魔祓いとしてはかなり優秀な方で、頭も決して悪くはない人なのです。
クラスの席が空いても、誰かが代わりに来ることもなかった。少なくとも、あの一神教の魔祓いだという人は転校はしてきていない。
授業を受けた後は、休み時間で内容を反復。
確実にものにしていく。
他の生徒はスマホで遊んでいるが。
燐火は必要がなければスマホには触らない。
周りはそれを苦々しく見るようだが。
燐火はあわせるつもりはない。
自分は自分。
他人は他人だ。
とりあえず問題はない。算数は今の時点ではかなり勉強を進めているので、確認だけで大丈夫だ。
ちょうど日女さんから連絡が来たので、見ておく。
この間日女さんと話していたら、男子が引きつった顔で逃げていった。
なんでも日女さんは不良が青ざめて逃げるほどの武闘派らしく、中学でも一年で三年の不良生徒をあらかた「シメた」らしい。しかもシメられた不良女子生徒が呼んできた高校生の男子を返り討ちにしたらしくて、触ってはいけない存在扱いされているとか。
まあ、見ていてすごい実力はあるのはわかる。
燐火も武道をかじっているからだ。
それで男子は、まるで大魔王のように恐れているわけだ。
黙々と日女さんのメールを見ておく。
「この間来たカトリイヌな。 しばらくはこの辺りに滞在するつもりのようだ」
「それは厄介ですね」
「そうだな。 ただあいつは海外の学校を飛び級で出ているらしくて、学校に入ってくるつもりはないらしい」
「そうですか」
飛び級、か。
色々問題はあるが、できる人を抜擢する制度ではあるらしい。
ただそうやって抜擢された子がうまくやれるかは話が別。とても頭が良い子が、大学を出た後ことごとくうまくいかなくて。
結局小学校の先生に納まった、なんて話もあるそうだ。
更に言うと、裏口入学だとかいうのもあるそうで。
実態とはかけ離れた飛び級も当然行われることがあるのだとか。
そういう話を聞いていると。
いかにもお金持ちなあの人も、飛び級しているからすごいとは一概には言えないのだろうとは思う。
「この辺りで一神教の悪魔が暴れているという話は今の時点では八幡様も感知はしていないが、一神教の関係者は他の信仰全てを悪魔扱いしている。 ケルベロスに聞いたかもしれないが、お前のところの神様もだ。 なんか絡んでくる可能性はあるから、面倒だと思ったらさっさと逃げろ。 飛び級はしていても、あいつは運動音痴だ。 お前なら逃げられるだろう」
運動音痴といっても、中三を中一で「シメる」ような人基準の運動音痴だから、実際にはどうだかはわからないが。
ともかく、話はわかった。
授業を受けて、夕方に帰宅する。
涼子と色々話す。
やっぱり相当に勉強はできる。わからないところを聞くと、すらすらわかりやすく答えてくれる。
「なんだか派手なシスターが来ているのを見たけれど、この辺りに教会なんてあったかな」
「色々歩き回りましたけれど、それらしいものは見ていませんね」
「そうよね。 それともこれから建てるのかな」
「!」
足を止めた。
背後に気配だ。
振り返ると、例の「派手なシスター」がいた。
高校生くらいかと思っていたのだが、なんと日女さんと一つだけしか変わらないという。
発育がいいと言うことなのだろう。
じっと燐火を見ている。
左右には、黒スーツのサングラスの人が控えていた。
涼子が明らかに困惑している。
巻き込むわけにはいかないだろう。
「涼子さん、先に帰っていてください。 この人は燐火に用があるようです」
「ちょっと大丈夫なの」
「大丈夫です」
まあ、何かあったとしても、少なくとも血を見るような事態にはならないだろう。そこまでは心配しなくても大丈夫だ。
涼子を先に戻らせると。
漫画に出てきそうな美貌のシスターは、ふっと笑う。
昨日と違って、髪の毛はかぶっているものに押し込んでいるようだったが。
「邪教の犬を身に抱えているのは貴方のようですわね」
「日本語が堪能ですね」
「オーッホッホッホッホ! 八カ国語を操ることができる私には、これくらいは昼飯前ですわ!」
「朝飯前ではありませんか?」
うっと呻くシスターの人。
左右の黒スーツが口を引き結んだが、これは笑うのをこらえたのかもしれない。
大げさに咳払いするカトリイヌさん。
いずれにしても、友好的ではなさそうだ。
「それで燐火になんのようですか」
「そこの地獄の番犬を……」
「俺は地獄の番犬ではない!」
ケルベロスがキレた。
まあ、一神教徒がその嘘をばらまいたらしいし。それはそう言われれば怒るだろう。
ペラペラしゃべっていたカトリイヌさんがひっと悲鳴を上げて棒立ちになる。見てわかったが、体幹は本当にたいしたことがない。
タッパはあるが、多分格闘戦なら燐火でも勝てる。
問題は左右にいる黒塗りのサングラスおじさんたちで、こっちは本物だ。燐火どころか日女さんでも勝てないだろう。おかあさんでも一対一で勝てるかかなり怪しいとみた。
「おい、ドミニオン。 そのスットコ女に憑いているのはわかっている。 さっさと姿を見せろ」
「ふん、番犬風情がよく吠えるな」
「お前程度の天使が相手なら敵ではないからな」
険悪なやりとり。
同時に、天秤を持ったゆっくりした服装の男の人がカトリイヌさんの背後に現れる。
これが守護天使、という奴だろうか。
背中に翼。
頭にわっか。
でも、女性的ではなくて、男性的だ。
「何をしに来た主天使風情が。 ケルビムくらいになれば相手にもなるが、お前は所詮中級。 俺の敵ではないが」
「そうですね、確かに力をぶつけ合えば貴方の勝ちでしょう。 ただ、この国で異変が起きている。 お前の国の邪神が原因でしょう」
「邪神だと。 お前らにとっては全て邪神で悪魔かもしれないが、ただの迷子だ。 お前らに介入されるいわれはない」
「そうもいかないのですよ。 邪神は全て滅するのみ。 今回は威力偵察に来ています。 あなた方が悪事を働くようなら、即座に本隊が来られるように見張る。 それが私の役割なのですよ」
しばし殺気のこもった応酬が続く。
その間に燐火は、鉄パイプを取り出しておいた。
それを見て、明らかに引くカトリイヌさん。
こっちは自衛のためだ。
相手は超格上の護衛が二人ついている。カトリイヌさんの頭をたたき割るだけだったらすぐに終わるだろうけれど。
あの二人を相手にするなら、これでも心細いくらいなのだ。
「ちょっとドミニオン様! 普通の子供と聞いていましたわよ! これではまるで噂に聞く鎌倉武士ですわ」
「明らかに偏った知識ですね」
「だまらっしゃい! 三つも年上の相手の言うことはきくものですわよ! しかも私は大学を既に出ているのですから! 社会人ですのよ!」
「……」
呆れてしまう。
社会人だったら、もっと理性的な話をしてほしい。
いきなり二人黒服のサングラスおじさんをつれて現れて。
あわよくばケルベロスをやっつけるつもりだったのが見え見えだ。それとも、それが社会人のあり方とでもいうのだろうか。
そんなルールは知らないし。
あったとしても従うつもりはない。
世の中には人がたくさん死んでいる状態でも、法が優先で、其処に助けに行くことは悪だとかいう人がいるらしいけれど。
そんな法は法じゃない。
金木の一家みたいなのを守るためにあるような法なんて。
びりびりに破って捨ててやる。
ともかく、醜態をさらしているカトリイヌさんの頭に、ぽんとドミニオンが手を置いていた。
「忠実なる主のしもべよ。 とりあえず相手が神の威に従わぬ存在であることはわかりました。 ここは一度引いて、様子を見るとしましょう」
「そ、そうですわね。 デウスレウールト! 許しませんわよ邪神の巫女! いや邪神の駄犬の巫女! いずれはけちょんけちょんにして差し上げますわ!」
「カトリイヌお嬢様、旦那様からあまり無体はしないようにと仰せつかっております。 ましてや相手は小学生です。 高圧的に接することは、淑女のあり方ではないと思われます」
とうとうつれていた黒服サングラスおじさんにまで言われて、顔を真っ赤にして黙り込んだカトリイヌさんは。
知らない言葉で何か言うと、大股で歩いて行ってしまった。
ドミニオンすら呆れ気味だった。
黒服サングラスおじさんが一人残る。
若い方がカトリイヌさんを連れて行ったけれど、年かさの方のおじさんだ。
発音が色々と怪しかったカトリイヌさんと違って、日本語がとても流ちょうである。
「失礼しました。 カトリイヌお嬢様はどうにも勘違いと思い込みが激しいお方でして。 今の時代は、我が家でも他の信仰の魔祓いと連携して行くことが大事だと常に言っているのですが」
「ほう、面白い冗談だ。 さっきのはラテン語が語源の宣戦布告に用いる言葉であるだろう」
「お恥ずかしい話です。 なんでも「格好良いから」という御理由でお気に入りにしておられるのです。 失礼であったことはお詫びいたします」
この人にも天使が憑いているようだが、燐火には何が憑いているかはわからなかった。ケルベロスの声が聞こえているようなので、それなりの存在ではあるのだろう。
名刺を渡される。
一神教でも魔祓いは国の支援を受けているらしく、バチカンがその中心地の一つであるそうだ。
この人は理性的だな。
そう思って、少しだけ安心した。
名刺を受け取って、後は戻る。鉄パイプをもっておいてよかった。とりあえず大事にしまって、それで帰る。
涼子にメールを家で送る。
やはり、かなり心配していた。
「大丈夫だった!?」
「大丈夫です。 あのお姉さんはちょっと興奮していましたけれど、黒服のおじさん達は理性的で、宥めてくれました」
「そう、よかった。 無理はしないでよ。 ただでさえ鉄パイプとか持ってて怖いとか言われてるんだから」
「人には使いませんから問題ありません」
もっとも、殺すつもりで襲ってきたら、躊躇なく使うつもりだが。
金木のあれに放り落とされた。
それから時間がたって、今になってやっと理解できている。
身は守らなければならないと。
だから、身を守れるようにはしておく。鉄パイプくらいは、常に携帯して。最悪の場合、相手の頭をたたき割るくらいの覚悟はいる。
剣道についてもそろそろ習おうかと思っている。
真剣を振り回すのは無理があっても、ケルベロスの話によると、鍛錬をしないと剣の類いはまともに扱えないらしい。
今はそれなりに体が動くようになってきているけれど。
体術だとどうしてもタッパからしても限界がある。
それもあって、武器を使えるようにする。
それが今後は必須だと燐火は思っている。
ただ、おかあさんはあの忙しさだ。柔道と合気、それに空手を自己流でやっているけれども。
これに剣道となると、ちょっと道場にでも通わないと駄目だろう。
それについては、お願いでもすることになるか
黙々と宿題を終えた後、どれくらい時間が余るか確認する。
ケルベロスが、時間の計算をしている燐火に言った。
「今の燐火の体力では、剣の修行をするのは問題がないだろう。 基礎だけ習えば、後は俺が応用で見るが」
「……そうなると、体験入学がいいかな」
「ただ、剣としてはあの鉄パイプを振るうのか。 勘違いされがちだが、木刀と真剣は殺傷力でそれほど差がない。 あの鉄パイプも、剣を習った人間が振るえば、簡単に人間の頭なんかたたき割れる。 燐火がいざとなったら、問答無用であの勘違い女の頭をたたき割ろうと考えていたようだが、それは実行可能なことだ」
「覚悟は決めていたけれど。 それでも、身を守るためには仕方がないよ」
そうか、とケルベロスはちょっと寂しそうに言った。
いずれにしても、体験入学が良いだろう。
後でお父さんに話をしておくことにする。
それと、今では情報がネットでいくらでも見られる。スマホをいじって、剣道の基本を調べる。
なるほど。
握り方はこう。
動き方はこうするのか。
空手や合気を鍛える過程で、身体制御については色々勉強している。無駄には一切なっていない。
そういう観点では、とてもこれは勉強になる。
体だけで勝負する武道と違って、だいぶやり方が違う。
それにだ。
「剣を使って戦う人って、こういう動きをするんだね」
「燐火よ。 別に戦う必要はないからな。 ダイモーンは、敢えて俺が教えた神の文字を書けば倒せる」
「うん。 ただ、燐火にとって何か棒が必殺の道具となるとしたら、それを扱えるように鍛えた方がいいと思うんだ」
「何か明後日の方向にどんどんずれていないか」
ケルベロスに突っ込みを入れられてしまったので、小首をかしげる。
でも、今手元にあるおとうさんからもらったグッズや鉄パイプを更に強そうとイメージするには、やっぱりこれは必須だと思う。
ちょうどお父さんが配信から出てきた。
クッキーを焼いてくれるらしい。
疲れているのに。
ただ、蜂蜜入りの奴なのでケルベロスは喜んでいるし。おとうさんも疲労回復の理由もあるのだろう。
「配信はどうでしたか」
「今日はコラボだったし、大変だったよ。 僕が客側だったから、相手の配信を中心に動かさなければならないからね」
「ええと、相手は」
「男性ライバーだよ。 昔は異性のライバーとコラボするだけで騒ぎになったりしたのだけれど、今はそういうことも減っているね。 ただ今回は、箱でセットで売っている相手だから、同性でのコラボは普通だし、それに普通なぶんだれないように気をつけなければいけないしね」
ちなみに相手のライバーの方が設定年齢は上なのだが。
実際には二回り中の人間は年下らしい。
それもあって、たまに実際に会うときは、おごったり色々するそうだ。
クッキーが焼けたので、ありがたくいただく。
辛いのが好きなのだけれど、まあこれはケルベロスに世話になっているのだから仕方がない。
燐火がいずれ独り立ちでもしてから、辛いのは好きなだけ食べれば良い。
「おとうさん。 再来週の日曜日に、剣道の体験入学に行ってきても良いですか」
「体験入学か。 そうだね。 わかった。 再来週の日曜だったら、スケジュールは空いているから、どうにか仕事を入れないように頼んでみるよ」
「お願いします」
「いいんだよ。 燐火も貪欲になっていい。 ほしいものがあったら言って良いからね。 高いものは、お祝いの時くらいにしか買ってあげられないけれど」
これはおかあさんの方針だ。
甘やかすとよくないという考えらしい。
なんでも厳しい環境にいた子供をいきなり甘やかすと駄目になることがとても多いらしく。
燐火も、甘えるつもりはないので今のところ問題は起きていない。
それでいいのだ。
「学校では問題は起きていないかい」
「大丈夫です。 今日、帰り道にカトリイヌさんというシスターの人と話しました」
「へえ、海外の人かな」
「イタリアから来たそうです」
嘘は言っていない。
あの人は燐火のことを元からよく思っていなかったようだけれど、燐火は別にどうでもいいと思っている。
仲良くなったとは一言も言っていない。
嘘はついていないし、それでいい。
「イタリアの人かー。 それは良い出会いだったね」
「そうですか」
「知らない文化圏の人と話しておくのは貴重な経験になるよ。 僕も海外のVtuberと話すことはあるけれど、考え方が違って参考になるね」
ただこの文化。
まだ出始めて日が浅いと言うこともある。
色々と問題も多くて、トラブルを相談されることなどもざらにあるのだとか。
よくわからないことも多いが。
それでも、身になるとおとうさんが言うのなら。
それは貴重な経験なのだろう。
ただあのカトリイヌという人、どう見てもポンだった。
飛び級で大学を出たと言っていたし、日本語もペラペラだった。
あちこち発音とか怪しかったが、それでもあれだけ難読言語で知られる日本語をしゃべることができて。
ついでに意思疎通もできれば充分だろう。
ろくに意思疎通もできない人間は、日本語圏でも珍しくもない。
そういうのに比べればまだましだ。
とりあえず、剣道の体験入学について細かいところを詰めておく。既にドリルは終わって、勉強は同学年の生徒に完全に追いついた。
だけれども、まだまだ細かいところでは知らないことだってたくさんあるし。
本当に大事なのはここからだ。
世の中では、何でもできる人間が求められる、みたいな馬鹿みたいな風潮があるけれども。
実際には、なんでもできる人間なんていない。
ただ、それでも隙を作らないように。
燐火はあらゆることに目を通しておく。
ただでさえ色々とハンデがあるのだ。
それもあって、燐火は他よりも頑張らなければならないのだから。
「よし、じゃあこれで準備は良いね。 おかあさんからも剣道は教われるけれども、体験入学で良いのなら、それでやるよ」
「おかあさんは負担が大きいですから、少しでも負担は減らさないと」
「……わかった」
少しだけお父さんは寂しそうだ。
少しは頼ってくれてもいい。
そういう考えだったのかもしれない。
いずれにしても、燐火はこれからしっかりやっていかなければならない。剣道も、できるなら身につけておく。
それだけの話だ。
そのうち銃器とかも扱えるようになるべきなのかもしれない。
このご時世だ。
何があって、何がおきるかわからないのだから。
ただそうなってくると。
もう燐火個人が、合法的にやれるかどうかは、話が別になってくるだろう。ただそれは、大人になってから考えれば良い。
黙々と準備を終えておく。
とりあえずここからだ。
燐火にとってはまだまだ、スタートラインに立ったばかり。
知らないことを貪欲に取り込んで。
この世にいやになるほどあふれかえっている悪意に、少しでも対応できるようになっておかなければならなかった。
ケルベロスガチギレ。
これは当然で、一神教に「地獄の番犬」という嘘八百を広められ、その方が有名になってしまったからですね。
それも一神教徒からそれを言われれば、キレるのは当然です。
人情家で面倒見もいいケルベロスですが、それでも怒るときは怒るのです。