魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
燐火は素が真面目なので、鉄パイプをより使いこなすために、大真面目に剣道を始めます。
努力の方向性が間違っていますが、それはそれです。
この剣道が、ケルベロスによる幸運操作もあって、色々よい方向へつながるのです。
それはそれとして努力の方向性は間違っていますが。
体験入学に、おとうさんと一緒に出る。
それなりにしっかりした道場で、それはおとうさんが事前に調べてくれていた。鉄パイプよりは竹刀の方が健全だと思ったのかもしれない。
鉄パイプを取り上げて捨てようという雰囲気はなかったから。
おそらく剣道に熱中させて、飽きさせる戦略なのかもしれなかった。
おとうさんにはあらゆる意味で感謝しているが。
それについてははっきりいってどうでもいい。
感謝しているのと、全て思い通りになるのは話が別である。
道場に出ると、既に体験入学の人がそれなりに来ていた。一番年上の人は、社会人のようだった。
女子は燐火だけだ。
とりあえず、説明に沿って、道具をつける。
しっかりした道場だけ会って、道着はちゃんと子供用のものもあった。事前に身に付け方は調べておいたので。
おとうさんの手を煩わせることもなかった。
剣道は、あくまで精神鍛錬と、型を学ぶものだ。
剣道をやって実戦で剣を振るって強くなるかと言ったら、話が別。
ただし、元々実戦で使われていた型を元にしているものなので。基礎を学ぶことができるし。
日本の剣道で超強かった人物が。
フェンシングに転向しても超強かったという話もある。
「はい、それぞれ竹刀を持ってください」
指示に従う。
体験入学と言うことで、それぞれに指導がつく。
ケルベロスが、ちょっと冷笑気味に言った。
「これは基礎鍛錬以上でも以下でもないな。 確かに人体急所への致命打になる斬撃を美しく繰り出すこと、剣筋を学ぶことには大いに意味がある。 だが、それ以上でも以下でもない」
「それでいいんだよ。 まだ燐火は基礎も知らないんだから」
「そうだな。 確かにネットで聞きかじるよりは実際に手を動かすべきだ」
ケルベロスが信仰されていた時代は、当然剣術は盛んだったそうである。
ただケルベロスの時代は、戦場で使われた武器は主に槍と弓。
それを思うと、日本と同じだ。
調べたが、武士の道は弓馬の道、みたいな言葉もあったらしく。
早い話が、刀はあくまで狭いところで使うもの。
戦場で使われた武器は、あくまで長柄と弓。
それに投擲武器である石。
そういうものであったらしい。
「それでは、軽く竹刀を振ってみましょう」
指導が始まった。
言われるまま、竹刀を振るう。
それを見て、悪くないと指導の人はいってくれる。
まあ、それがモチベーションにつながるからだろう。
燐火も指導通りに体を動かす。
根本的には空手とか合気とか、柔道とかと同じか。
少なくとも体捌きはそうだ。
「何か燐火さんは武道をやっているのかな」
「空手と合気、後は柔道を少しだけやっています」
「そうか、基礎的な部分はとてもよくできているね。 剣も基礎を覚えれば、すぐにやれると思うよ」
この人は、燐火が鉄パイプをもっと的確に扱えるようになるためにここに来ていると知ったら、どんな顔をするだろう。
それはちょっと興味があったけれど。
ともかく、基礎動作を順番にやっていく。
竹刀の握り方については、すぐに理解した。
なるほど、そういう風に握って、如何に力を伝えるかの話になってくるわけだ。
腕だけで振るうのではなく。
体捌きと一体化している。
これは空手とか柔道、合気もそうだが。
基本的に腕だけ、足だけで何かをするということはほぼない。
武道は体全部を使って、的確に力を伝えていくものだ。
剣道も竹刀を握ってはいるが。
本質的にはどうも同じであるようだった。
「よし、良い感じだね。 それでは、同じくらいの年の子と勝負してみようか」
「はい」
まずは礼から。
礼に始まり、礼に終わる。
儀礼的だなとケルベロスが言う。
確かに、燐火もそう思う。
ただ、これはあくまで「剣道」であって、「剣術」ではない。
そもそも剣術についても、古いものは普通に体術なんかも入れていくのが普通であったようだし。
古流と言われるようなものは、槍なんかも一緒に教えるのが当たり前だったらしい。
槍は簡単に覚えられる上に、リーチの観点からも剣より遙かに強い、というのも事情としてある。
それもあって、ケルベロスは槍を覚えてはどうかと言う話をしてきた。
ただ薙刀はある程度武道として存在はしているが。
槍術を教えている道場は今はほとんど存在しない。
あってもさすまた講座くらいらしく。
それだと、燐火が求めているものとは違っているのが実態だ。
おないとし位の男の子と向き合う。
相手は素人となめてかかっている。
実際問題素人だ。
ただ、軽くステップを踏んで、間合いを取り合う間に、相手の力量はだいたいわかってきた。
踏み込んできた瞬間に、一撃入れる。
無効、と言われた。
「うむ? 今のは一発で終わりではないのだな」
「剣筋が美しくないんだね」
「そんなものか。 ただ相手が兜を着けている以上、そもそも剣で戦うことは現実的ではないのだが」
「まあ、そういう武術だから」
不審そうにするケルベロスに、そう宥める。
相手の男子は、まさかの素人相手にいきなりカウンターを入れられて、驚いたようで。
本気になったのがわかった。
次の立ち会い。
いきなり全力で詰めてくる。
だけれども、この子の身体能力を見極めたのはこっちも同じだ。
鋭い面への一撃をかわしつつ、胴をなぐ。
また無効、だ。
ケルベロスが不満そうである。
「怪我をしないための軽装鎧なのはわかるが、ちぐはぐに過ぎよう。 服だけでの戦闘だったら、致命傷だぞ」
「まあまあ、そういうものだから」
「……よくわからんな。 まあ確かに剣筋はまだまだではあるが」
ケルベロスは数限りない戦士を見てきたのだろう。
だから、どうしても実戦基準で考えてしまうし。
その観点から見ると、どうしても剣道のあれこれは、色々と不満があるのかもしれなかった。
そこで交代が入る。
不満そうな男の子が下がって、別の人が来る。
同年代。いやちょっと年下の女の子か。
だが、これは。
気配でわかる。
少なくとも剣道では勝てない。
「燐火ちゃんはある程度武道の心得があるし、剣道に触れるならある程度慣れた相手がいいだろうと思ってね。 充子、相手をしなさい」
「わかりました」
この指導員さんの娘さんか何かか。
礼をして、竹刀を持って向かい合う。
なるほど、これは勝てないな。
即座に一本入れられた。正中線を抜かれるような面だ。ケルベロスが、おおと声を上げていた。
「平和になれた国だが、できる奴はいるな」
「すごいね」
「ああ、少しでも技を見ておけ。 鉄パイプはともかくとして、格上の相手の技は勉強になるぞ」
「うん」
それから、何回かやるが、一発も入れられない。
これは経験の差だ。
この子はおそらくだけれども、剣道を生まれてから……いや流石にそれは大げさか。少なくとも物心ついた頃からずっとやっている。
体を鍛えているのは同じであっても。
一年ちょっと前から始めた燐火とはまだまだ立っている場所が違う、ということである。
それに、多分剣道そのものが好きなのだ。
それがびりびり伝わってくる。
「見事見事。 勝てない同年代の相手と一度あっておくのは良いことだ。 こういった公正な競技でな」
「うん。 今ならそれがわかる」
金木の屑一家に支配されていたあの街での抑圧と違う。
今、自由にやれる分野で。
公正な条件で。
それでこういった技量の差が見られるのだったら、確かに有益だと燐火も思った。ケルベロスの言葉には同意しかない。
それでそのまま、何本かやるが。
結局一回も反撃できなかった。
「いやあ、燐火ちゃん筋が良いね。 うちの充子は元々この年では異例なくらい強いんだけれど、手を抜いていないよ」
「ありがとうございます」
「正式に道場に通ってみないかい」
「……確実に時間がとれるかわかりませんので、おとうさんと相談してみます」
おそらくおとうさんは良いと言ってくれるだろうけれど。
問題は燐火には魔祓いがあることだ。
こういう道場は学校の部活、それも勘違いした運動部みたいな、勉強を全て捨てて生活まで犠牲にして打ち込むようなことは要求はしてこないだろうが。
それでも、定期的に通うことは要求されるはずだ。
それに道具一式、安いものではない。
事前に調べてあるので、どうしても冷静に考えてしまう。
とりあえず、後は軽く体験入学を流して、帰る。
充子という子は、道着を外すと髪が長くて、今時珍しいきれいなタイプの子だ。
大和撫子という奴か。
少なくとも大事にされているのはわかるし。
それでいながら、しっかり甘やかされないでしつけも受けていることもわかる。
金持ちの子が穏やかで理性的なんてのは大嘘だ。
それを身をもって知っている燐火は、これは充子の家庭が優れた環境にあるのだなとわかって。
ちょっとだけうらやましいと思った。
とりあえず道場から帰る。
おとうさんといくつか話すが。
実のところ、格上の相手と戦いながらも、剣筋や動きは見せてもらった。
ケルベロスの方もそうだったようで。
ある程度充子という子の限界と、その動きの特徴は理解したようだった。
「道場に出てみるかい。 ここだと近いから、それほど無理なくいけると思うけれど」
「考えさせてください。 道着などを買うにも、道場に通うにも、お金がかかってしまいますので」
「いいんだよ。 僕の稼ぎだったら、それくらいなんでもないから」
「頼もしいです」
頼もしくはある。
ただVtuberは過酷な仕事だ。
毎月のように、誰々が体調不良で倒れたとか、休止だとか、そういう話が出てくるほどである。
それも極めて頑健なことが見ていてわかるような人が、だ。
おかあさんがやっている警官も大変な仕事だが。
シフトで働いている警官よりも、ある意味仕事の苛烈さは上かもしれない。
である以上。
お金の無駄遣いは避けてほしいのだ。
ただ、ずっと通うのはともかくとして。
ケルベロスとちょっと話す。
「基礎はどれくらいで身につけられそうかな」
「そうだな。 俺は道場主の技が見てみたい。 三ヶ月程度あれば、余裕を持って基礎から実戦レベルの応用まで身につけられるだろう。 燐火が上達できなくても、以降は俺が教えられる」
「三ヶ月か……」
ケルベロスの話によると。
かなりの腕であるおかあさんよりも、あの道場主の方が上らしい。
ざっと見た感じでも、普通に切った張ったの戦場で通じるレベルだそうだ。
つまり儀礼的な剣道ではなくて、剣術の世界でもやっていけるレベルの使い手と言うことである。
そもそも剣道道場のことは事前に調べたが。
警察でも指導をしている人らしい。
警官は警棒を用いて暴漢を制圧することも多いらしいので。
それもあって、剣道の知識は必須になってくるそうだ。
「わかった。 三ヶ月で良いのなら、おとうさんと話してみる。 ただ魔祓いが優先だから、それはどうにかしないと」
「そうだな。 ある程度こちらの事情をくんでくれる道場だと良いのだが」
「……」
あの道場。
かなり厳しくやっているとみて良さそうだ。
そうなると、一度入門すると、それなりに拘束されるだろうし、何かあった場合抜け出すことも厳しくなる。
それに、である。
帰路で、ダイモーンの気配あり。
幸い即座に抜け出して対処しなければならないほどの相手ではないようだけれども。家に帰ってから、出かけてくると言って、家を飛び出した。
途中で着替えて、鉄パイプを握る。
これで随分と勇気が出る。
すぐに剣道の技を吸収できる訳がない。
燐火は別に天才でもなんでもない。
ただ、ケルベロスが指導はしてくれる。それに、丁寧に基礎鍛錬を続けているから。今までずっと実直に鍛錬をしてきた人間に、少しずつ追いついているだけだ。
ダイモーンは山道にいて、通行人を伺っていた。
獲物を見繕っているのだろう。
ろくでもない。
いずれにしても、たいした相手じゃない。
さっさと虚空に文字を書いて、消し飛ばす。
回収完了。
やっぱりだけれど。
鉄パイプで虚空に文字を書くと。おとうさんにもらったあの棒よりも、力強い気がする。
あくまで気がする、だけれども。
ただ、こういったものは。気分がかなり成果に関係してくるというのは、ケルベロスにも教わったことだった。
ダイモーンを片付けたので、家に戻る。
途中で、涼子から連絡が来ていた。
家に帰ってから返信を入れる。
剣道やるかもしれない、というと。
行こうとしている剣道の道場にいる子が、近場でも有名な剣道小町だと教えてくれる。小町とはなんぞやとケルベロスがいうので、燐火も調べた。
なるほど、すごい美人とか看板娘とかそういう意味か。
古くは歌人としても知られた小野小町という人をモデルにしている言葉なのか。
なるほど。
勉強になった。
「国によって様々な美女の表現があるのだな。 クレオパトラや楊貴妃は聞いたことがあったが。 ただ権力者の妻ではなく、文化人としての美女が知られるというのは面白いな」
「別に顔なんて三日で飽きるんじゃないの」
「そうだな。 どれほど若い頃美貌でならしても、年をとれば醜く老いる。 その時にものをいうのは心の方だ。 若い頃下手に美貌があったりすると、年をとってから逆に苦労することになろうな」
「……」
そういうものか。
ともかく、あの充子という子だろう。
あの子とは、接しておけば何かしらきっと利があるはずだ。
そう燐火は思う。
後は、洗濯をして。お風呂に入って。
ゆっくり休むことにする。
とりあえず、剣道は有益だ。
剣を振るって実戦で役立つかは話が別。
少なくとも、剣を振るう基礎についてはこれでしっかりと学ぶことができる。
それで、今の燐火には十分だ。
結局三ヶ月の短期で道場に通うことにした。もしいいようなら延期してもいいとおとうさんに言われたが。
大丈夫。
三ヶ月で全部ものにする。
それに、習い事はできるだけしたくないのだ。
習い事の最中にダイモーンが出る可能性があるし。対応していたら遅れる可能性だってある。
習い事で疲弊しているときにダイモーンが出たら、迅速に現場に駆けつけられないかもしれない。
だからケルベロスに指導を受けながら、自習するのがいい。
幸い、今はあらゆる知識が、真偽、情報の品質はまばらであっても。ネットにいくらでも転がっている。
ケルベロスはしっかり実戦の知識を持っているので、後はそこからケルベロスと一緒にまともな情報をすくい上げて、それを活用していけばいい。
燐火はまだ子供なので。
悔しいながらにそれはどうにもならないので。
ケルベロスの支援を受けながら、それを為していくしかないだろう。
ともかく、やれることは今のうちにやっておく。
道着については、購入ではなくレンタルで済ませるという。
それでいい。
燐火としても、あれを一式買うのは色々と骨だからだ。
洗うのもとても大変だし、汗がしみついてとてもにおうという話もある。それで正体がばれでもしたら困る。
ともかく、ダイモーンがいないことを確認してから、出る。
ちょうど道場に出る前日に、文字を虚空に三度も書かないと倒せないダイモーンが出たばかりなので。
ちょっと心配ではあった。
道場に出ると、体験入学の時とは空気が違った。
まずは正座から。
姿勢を正して、それから順番に色々と教わる。正座の時点で苦労している人も、かなり多いようだった。
「剣道は剣の道であって、剣術ではない。 技の破壊力などを高めても意味はなく、あくまで重要なのは精神だ。 それ故に剣の道である」
体験入学の時とはまるで空気が違う道場主。
指導員も、全員空気が違う。
なるほど、あれはあくまで客寄せのよそ行きの顔というわけだ。
ただ、これくらいで、みっちり短期間で覚えた方が都合が良い。
ただ気になるのは。
なんでカトリイヌさんがいるのか、ということだ。
正座はできるらしく、平然としているが。ただ、道場で顔を合わせたとき、えっと声が出かけた。
道着を身につけて、それで訓練から始める。
竹刀を振るう。
本格的に剣を身につけるなら、十年単位の時間が必要になる。それでも足りないこともある。
剣道主は、そう厳しいことを言った。
日本の武道では、帯で強さを表すそうだが。
今の剣道では、それはないらしい。
昔は一目でわかるようなものをつけていたそうだが、廃止されたそうだ。
また、現状だと最大で八段までで、九段十段は存在しないそうだ。
剣道は段位が一つ上がると実力が段違いに跳ね上がるらしい。中学二年より先になると段位を取得できるらしいが。
初段はほとんどが受かるらしいが。
二段以上になってくると、どんどん合格率が下がっていくそうだ。
そうなってくると、おそらく初段くらいまでは大して実力に差異は見られなさそうだなと、燐火は冷静に判断する。
三段四段くらいからは、段位の差が圧倒的な実力差につながってくるのだろうけれども。
まあそれは、燐火が求めるものではない。
基本的に雑談は絶対禁止、というものすごい静謐の空間だ。
ケルベロスが言う。
「多少は戦士の学び舎らしいな。 ただ、三ヶ月に限ったのは正解だ」
「どういうこと」
「これなら俺の知っている剣術とそれほど変わらん。 そこのスットコ女は良いとして、充子という娘、それから道場主の動きを見て学んでおけ。 あれらはギリシャの時代でも戦士として通じる」
「うん」
ギリシャの時代も、華やかな文化が栄えたように思えるけれど。
実際は戦乱が絶えない時代であったそうだ。
それを考えると、ケルベロスの賛辞は最大級のものなのだろうと思う。
それに、である。
さっき道場主が、十年単位の鍛錬で剣を納めると言っていた。
それで剣を納めた人が、戦場でばたばたと死んでいたのだと思うと。戦争とは本当に理不尽の塊なのだとも思い知らされる。
とりあえず、しばらくは剣を振るう。
それを見て、細かく指導される。
指導員は、非常に厳しくて。
この間燐火と立ち会ったらしい男の子は、半泣きになっていた。別にそれを笑うつもりはない。
男は泣いてはいけないとか。
そういうことを言っているから、ストレスをため込んで人は壊れる。
それについては理解しているつもりなので、ただ燐火は今はできることを淡々とやっていくだけだった。
しばしして、試合を軽くする。
今回は、充子と師範代の試合を見る。
師範代は三段だが、充子の動きがいい。
これは、すごい逸材ではないのだろうか。ともかく見ているが、足裁きとか動きの切れとか。
今までけんかが強いとか自慢していたような男子とは次元違いだ。
戦闘はどうしても才能がものを言う分野ではあるらしいと聞いているが。
それでもこれは。
余程の鍛練を積んできている、ということだろう。
ただそれでも、師範代の三段の実力は伊達ではない。
流石にかなわず、一本を立て続けに取られて終わり。
ただ、それでもきちんと礼をして、試合を終えていた。
燐火が相手にさせられたのは、中学一年の男子だった。それくらいでちょうど良いと判断されたらしい。
相手もこっちをなめていない。
中一くらいになると、女子が勝てなくなってくる年頃なのだけれども。
確かに背は相手の方が高いけれど、これは互角くらいとみた。
試合開始。
流石に前に試合した男の子とはレベルが違うが、燐火が相手にできる程度だ。そのまま踏み込むと、一本を入れる。
確実になれてきた。
ただし、次に小手で一本をとられた。
どうも相手側は、燐火の早さに気づいたらしく、リーチを生かしての勝負に出たらしい。
卑怯とは思わない。
ケルベロスに槍の有用性は聞いている。
そもそも剣が実践的ではないのは、そのリーチの問題であって。
いにしえの時代の武将達だって、みんな実際に使っていたのは長柄である。
そういうこともある。
だから、燐火はそれでいいと思った。
だから、次からは一気に懐から入って、強気にひたすら攻める。
至近距離からぶつかり合うような立ち会いを挑んで来る燐火に、明らかに相手がひるむ。そこに、一本を入れる。
其処まで。
声がかかって、試合には勝った。
だけれども、相手が冷静に立ち回っていたら、どうなったかはわからないかもしれない。
カトリイヌさんが、試合に出るが。
燐火が対戦した同じ相手に、立て続けに一本を取られてぼろ負け。悔しそうにしていたが、視線をそらす。
憑いているドミニオンが呆れているようだった。
声は聞こえてくる。
「武術としてはフェンシングと同じですよカトリイヌ。 普段の実力を発揮すれば勝てない相手ではないはずです」
「ハ、そいつの力量は今ので大体わかったが、鍛錬が足りんな。 なんでもできるようにとでも仕込もうとしても、キャパオーバーという奴だ」
「おのれ……!」
ケルベロスとドミニオンがバチバチにやりあっている。
とりあえず、保護者同士のけんかはどうでもいい。
燐火は、今試合している充子に集中して、少しでも技を覚えようとしていた。
ちなみにカトリイヌさんは、燐火への対抗意識から剣道道場に来ています。かわいいですね。
フェンシングの方は実はそれなりの腕前なのですが、努力型なのもあって、すぐに剣道には対応できない感じではあります。