魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
兄弟そろって少年院に入れられた金木家の長男、金木真一は今日も誰にも相手にされなかった。
学校では王様だった。
誰もが、教師すらもが機嫌を伺った。
後で金木家を継ぐのだ。
だから家でも使用人は奴隷として使っていたし。気にくわなかったら殴ってその上で追い出していた。
体格がどうだろうと関係ない。
相手は絶対に逆らえない。
駐在も金木家が買収していた。
だから、何をするのも許されたのだ。それなのに。
真一はずっと檻の中で、隅っこで震えていた。
同室の奴らは、体格が比べものにもならなくて、喧嘩でもまるで容赦がなかった。
真一は喧嘩が強いと思い込んでいたが。
それは相手が抵抗しないから成立していただけのことだと、今更思い知らされていたのだ。
何か逆らえば滅茶苦茶に殴られたし。
看守が助けてくれることだって一度もなかった。
隅っこで震えながら、どうして俺がこんな目にと、真一は思う。
何も悪いことなんてしていない。
金持ちなんてみんなやっていることだ。
俺だけがどうして。
この期に及んでそんなことまで考えていた。
ある日、課外授業があった。
基本的に脱走に備えて、警官まで配備されている。その中で、延々と草むしりをする。手が傷だらけで泣きそうだ。
もしもサボったら、容赦なく食事を抜かれ、反省文を書かされる。
理不尽な扱い(と真一は考える)に、世の中への恨みがたまる一方だ。何しろ真一は、自分は何一つ間違っていなくて。これは不当な扱いだと信じ込んでいたのだから。
課外授業の途中。
そんな真一に転機が来る。
隙が、できた。
強面の看守が、目を離した。今草むしりをしている場所の一角に、フェンスに穴が開いている。
そこから出られるかもしれない。
出てやる。
それで、家に戻って。
それで、俺を陥れた奴を全部探して。
全部殺してやる。
それは正義の行いだ。
許されるんだ。俺は何しろ、こんなに理不尽な扱いを受けているんだから。
真一は三人自殺に追い込んだ。
十九人に重傷を負わせ、退学に追い込んだ。
その全てで今までは罪に問われなかった。よそ者が余計なことをしたからこうなったのだ。
真一は本気で思っていた。
いじめはされる方が悪いと。
それなのに、今受けている境遇は理不尽だと考えていた。
このような矛盾しきった思考が疑問に思えなかったのは、自分は常に正しいと考えているからだ。
学校のテストなんて、教師が全部満点にしていた。
金持ちはみんなそうしていると真一は思っていた。
だからまともな意味で頭なんか使ったことはなかった。考えることなんて、部下にやらせればいい。
そううそぶいていた父も、同じように育ったらしかった。
フェンスをくぐって、森の中を走り出す。
脱出してやった。
さあ、まずは家に戻って。
それから、全部に復讐してやる。
笑いながら、真一は森の中を走る。だが、森の中を走ったこともない者が、そんなことをすればどうなるか。
悪運は。
既に真一を見放していた。
木の根に引っかかって、思いっきり顔面から地面に。
しかも腐葉土に突っ込んだのならともかく。思い切り石に顔面をたたき込んでいた。
体格が大きい他の少年院の受刑者にぶん殴られたより更に痛い。悲鳴を上げる。なんで俺がこんな理不尽に。
そうわめきながら転がり回る。
だが、その体が、乱暴に押さえつけられていた。
涙目越しに見えたのは。
熊だ。
体重150㎏を超えるツキノワグマ。ヒグマに比べるとぐっと小さいが、それでもこのサイズなら人を殺すのは余裕である。
本州でもこのサイズのヒグマは寒冷地を中心に存在している。
だからフェンスがあったのだ。
それを考えようとも真一はしなかった。
最後の瞬間、真一はみた。
得体が知れない存在が、ゲタゲタと笑いながら、虚空に消えていく様子を。
それをダイモーンと言うことなど。
真一は熊に顔面を食いちぎられて。
脳みそを頭蓋骨ごとかみつぶされても。最後まで、知ることはなかった。
真一は知らなかった。
金木の家が、とっくに会社が倒産して。
既に家そのものも売り払われて、それも買い手がつかなくて。取り壊されて。調度品から何から何まで、既に売り払われた後だと言うことを。
成人していた金木家の人間は、全員懲役三十年前後、場合によっては無期の実刑を食らって、刑務所から生きている間には一人も出られないこと。
さらには金木家が支配していた街では、既に金木家に阿諛追従していた人間が居場所をなくして、引っ越ししたり、リンチを受けて。それも警察が黙認したこと。
つまり、帰るところなどなかったことも。
最後まで、自分に都合が良いように考えていた金木家の人間が一人。
悪運に見放されて。こうしてこの世から消えた。
後でその遺体は発見されたが。
ツキノワグマに食い荒らされて、ほとんど残っていなかった。
そのツキノワグマはすぐに捕まって殺処分されたが。
死体は葬儀に来る人間もいないので。
簡易で火葬され。
無縁墓地に葬られた。
自業自得。
それだけが。この死に対する事実だった。
(続)
カスの最期です。
まあこの手の奴には、この程度の末路がお似合いでしょう。
本作でも今後は、因果応報が基本的に行われていくことになります。
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