魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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燐火が今いる家庭は比較的良い家庭です。

両親ともに忙しいですが、それでも理知的で家族のことを考えています。

エゴばかり先行する人間をもてはやす風潮が、こういう家庭を減らしているのは事実でしょうね。





1、大人達の意見

久しぶりに休みをもらったおかあさんが、料理を作っている。はっきりいってあまり上手ではないが。

 

お父さんがそばについて教えていた。

 

お父さんは料理はできるけれど、それをやっている余力がないのが実情である。それもあって、二人とも料理はあまりやれないのだ。

 

それでどうにか料理ができて、三人で食べる。

 

流石におかあさんも疲れているので、今日はお出かけをするつもりもない。

 

前は遊園地とかに連れて行ってくれることもあったけれど。

 

おかあさんがつらそうにしているのを理解していたから、少なくとも燐火からねだることはしていない。

 

それに、いてくれるだけで十分だ。

 

それも本音としてある。

 

食事を終えると、おとうさんはすぐに配信に戻った。

 

正確には、今日は二時間ほどの配信を二つ。

 

それが終わったら、色々書類を書いて出さなければならないらしい。

 

企業勢のVtuberはその辺りが煩わしいが。

 

その代わり他のVtuberとのコラボを比較的容易にやれたり。

 

或いは3Dでの配信のような個人では金銭的な意味で難しい配信をやることができたりと。

 

色々とメリットもある。

 

昔は、こういった企業は問題ばかり起こしていたようだが。

 

Vtuberというのができはじめて、二十年以上経過している今は。それも少しずつ解消して。

 

老舗と言われるような企業は、それなりにノウハウを蓄積し、タレントを大事に扱えているそうだ。

 

おかあさんと二人っきりになったので、精神修養について聞いてみる。

 

おかあさんはどうしてそれが必要なのかと聞いてくる。

 

まあ、そうだろうなと燐火も思う。

 

「剣道をやってみて、まだまだ自己制御ができていないと思いました。 しっかり自己制御ができる大人になりたいと思いますから」

 

「まだ五年生でそんなこと考えなくて良いんだよ」

 

「それが正論なのもわかっています」

 

「……いや、おかあさんが五年生の時なんか、アイドルのダンスをまねすることしか考えてなかったよ。 子供なんてそれでいいんだよ」

 

言いたいこともわかるけれど。

 

燐火は色々とハンデ持ちだ。

 

結局他人との壁は、一生涯消えないと思う。これについては、燐火の心にうがたれた傷の問題であり。

 

病院とかでも簡単には直せないだろう。

 

腕とか足とかなくなったら、人間はもう取り返しがつかない。

 

心だって同じだ。

 

燐火はハンデを抱えている。

 

それに何よりだ。

 

周りと同じにはなりたくない。同じになることでのメリットが見いだせないのだ。

 

丁寧に説明すると、おかあさんはそれを馬鹿にしなかった。

 

「わかった。 剣道の道場の先生が、その筋では結構有名だから聞いてみると良いかもしれないね。 後は……」

 

何人か、紹介してくれる。

 

警察の方ではなくて、個人のつてらしい。

 

なんでもおかあさんは中学くらいから柔道とかにはまったらしくて、その頃に武者修行みたいなことをしていた時期があるらしい。

 

今時珍しい話ではあるが、まあそういうのを真面目にやっていたということだ。

 

ともかくそれで出会った人が何人かいるので、連絡先をくれる。

 

少なくとも会える範囲にいる人は、自分で会いに行く。

 

そうでない人は、おかあさんかおとうさんが付き添ってくれるから。声を掛けるようにと言うことだった。

 

では、順番に会いに行くか。

 

ただ、それは一旦話を終わりにして。

 

おかあさんが一緒にゲームをやりたいというので、やることにする。

 

おかあさんはゲームも結構好きなのだ。

 

それで、高難易度で知られる狩りをするゲームを一緒にやる。ちまちまと育成していたのだが。

 

流石におかあさんのキャラクターはとても強い。

 

燐火のとは装備からして違って、ほとんどおかあさんだけで倒してしまう。これはすごいと思った。

 

素直に褒めると嬉しそうだ。

 

まあ、こういうので優越感を感じるのは、それはそれで良いのかもしれない。

 

 

 

ダイモーンを片付ける。

 

迷いはない。

 

もっと短時間で処理したいという向上心はわいてきているが。自分が強いなんて燐火は間違っても思わない。

 

そもそも年下の充子にすら、剣道では勝てっこない状態だ。

 

同年代でも燐火より強い奴なんていくらでもいるだろう。

 

柔道も空手も合気も、まだまだ中途半端。

 

中華拳法でもやってみるかと思うが。

 

それにしても、現在ではまっとうに教えられる人がほとんどいないと聞いている。それもあって、色々と厳しいだろう。

 

ダイモーンを片付けて、とりあえずずっと膝を抱えて泣いていた女の人に声を掛ける。駅での話だ。

 

駅の影から隠れてダイモーンを始末したが。

 

泣いている女の人を、誰も助けなかった。

 

なんでも今はフェミニストとかいうのが暴れたせいで、女性に近づくこと自体がリスクになってしまっているらしい。

 

それもあるのだろう。

 

燐火が声を掛けると、顔を上げた女性は。

 

燐火の死んだ目を見て、それでひっと声を上げた。

 

ちょっといらだったが。

 

それでも腰を落として、話を聞く。

 

女性はがたがた振るえていて。燐火がバックに指したままの鉄パイプを主に見て怖がっていたが。

 

ともかく、このままではよくないだろう。

 

近くに交番があるので連れて行く。

 

ちょうど婦人警官がいたので、事情を説明して引き渡す。婦人警官が、燐火のことを知っていた。

 

多分おかあさんの関係者だろう。

 

見た感じからして、部下とか後輩とかかもしれなかった。

 

ともかく片付いたので、さっさと道場に出る。

 

残りの期間は短いが、それでもやれることはやっておきたい。

 

今日はカトリイヌさんがいる。

 

さっそくケルベロスとドミニオンがばちばちに喧嘩を始めたが、燐火としてはそれはどうでもいい。

 

まずは素振り。

 

それから、打ち合い稽古をする。

 

燐火は中三の男子と打ち合いをして、それでちょうど良いと思われているらしい。充子は高校生相手に打ち合いをしているので、更に格上だ。

 

中三の男子も最初燐火を侮っていたが、面を二回取られてからは、本気で向かってくる。それでいい。燐火としても、その方が鍛錬になる。

 

動きについても、リーチが長い、足が長くて速い相手とどう対応するかの勉強になる。

 

今後、実戦をする可能性を考えると。

 

こうやって、ずっと背が高い相手とやりあっておくのは。とても有益だ。

 

打ち合い稽古を終えて、それから試合をする。

 

今日は充子が相手ではなくて、代わりに高校生の男子が相手だ。

 

結構しっかりした雰囲気の男子だが。

 

どこかで燐火を舐めているのがわかる。

 

それに、充子の相手をしてやっていると思っているおごりもだ。

 

充子の実力を知っている燐火としては、ちょっといらだつ。

 

だから勝つ。

 

最初、気合いに押される振りをして下がる。

 

何度も竹刀で受けながら、一撃をそらす。

 

しばらくは押されて、それで。

 

相手が勝ったと思った瞬間に、裂帛の気合いとともに面を打っていた。

 

鋭い音とともに、一本が入る。

 

それで、一気に相手は顔を真っ赤にした。防具越しでも、それがわかるくらいだった。

 

それでいい。

 

挑発に乗ったと言うことだ。そのまま、相手は攻め立てようとしてくるが。さっきより明らかに隙ができている。

 

立て続けに二本とる。

 

何、充子に比べたら雑魚も雑魚だ。

 

相手は初段らしいが。初段までは誰でもとれるというのは本当らしい。試合が終わると、師範が出てきて。

 

高校生を叱責していた。

 

「中田。 お前は相手を侮ったな。 普段の練習を見ていなかったか、或いは周りが手を抜いているとみていただろう」

 

「す、すみません」

 

「そんなだから充子から一本もとれない。 その子ははじめて一月で充子から一本を取った子だぞ。 心を入れ直せ!」

 

「は、はいっ!」

 

凄まじい気迫で、道場がびりびりと来るようだ。

 

他の試合も始まる。

 

カトリイヌさんは年下の子とやりあっていたが、どうにか互角というところか。

 

フェンシングの経験があるらしいが、どうにも剣道では生かし切れないらしい。ドミニオンがため息をついているのがわかる。

 

ともかく、激しい泥仕合の末に、やっと二本とって勝っていた。

 

とても嬉しそうである。

 

相手もはじめてばっかりの小学生だから、フェンシングの経験があるのなら有利な筈なのだが。

 

なぜか燐火にも自慢げに視線を送ってくる。

 

どういう顔をしたらいいのか。よくわからない。

 

最後に充子が師範代と勝負をする。

 

師範代は流石に強く、充子と互角にやりあっていた。瞬く間に一本を取られたが、すぐに一本を取りかえす。

 

師範代は三人いるが、今やっているのは四段の人だ。

 

四段と渡り合うほどの実力。

 

全国で云々の話が出てくるのも、妥当というところだろう。

 

最終的に競り負けたが、師範代もかなり苦戦していた。ケルベロスが面白がっていた。

 

「見事見事! あの年でこれだけできれば、体ができた頃には無双の剣士となろう。 いやはや、先が楽しみなますらおであるな」

 

「悔しいですが、それについては同意しますよ」

 

「ほう。 天使の割には殊勝ではないか」

 

「優れた人間を導くのは天使の役割ですからね」

 

珍しくケルベロスとドミニオンが意気投合しているようである。ドミニオンは苦々しげに、だが。

 

とりあえず、稽古が終わる。

 

さて、聞いてみるか。

 

着替えを終えてから、師範に話しに行く。

 

師範は鋭い気配をまとっていて、いつもそれを崩さない。それで明らかに周りから怖がられてるが。

 

燐火は別に怖いとは思わなかった。

 

精神修養をどうすればいいか。

 

そう聞いてみる。

 

道場主は、しばし考え込んでから、言う。

 

「精神を鍛えて如何にする。 そもそも燐火。 君の剣は凶剣の類に踏み込み掛ける危険をはらんでいる。 理由次第では、精神修養はむしろ害になろう」

 

「燐火は色々と精神でハンデを抱えています。 剣の道とは関係なく、今後の人生を少しでも生きるために、必要な話です」

 

「……そうか、わかった。 少し時間はあるかね」

 

「はい」

 

ついてくるように言われた。

 

カトリイヌさんは疲れ果てて、でろんでろんになって帰っている。ドミニオンが呆れていた。

 

ケルベロスも、あれは警戒しなくていいなという。

 

ただ、カトリイヌさんの魔祓いの力は侮れるものではなく、一神教系の悪魔が相手であれば、十全な力を発揮できるそうである。

 

和室に通される。

 

向かい合って、正座して座る。

 

師範代の一人が、お茶を入れてくれた。

 

礼を言って、お茶をいただく。

 

師範は鋭い目で燐火を見ていたが。順番に話をしてくれた。

 

「幼い頃から精神修養をしても、どうしても限界はある。 うちの充子がそうであるようにな。 充子は精神修養をさせてはいるが、心のどこかでは友達をほしがっている。 それも対等な友をだ」

 

「悪くはないことだと思います。 実際には友達なんかじゃなくて、言うことを聞く下僕をほしがる人の方が多いんですから」

 

「そうだな。 ただ、それは子供の口から出てくる言葉ではない。 一体どんな人生を送ってきた」

 

「……」

 

少し悩んでから、話す。

 

金木家の事件については、師範は知っていた。

 

「なるほどな。 鬼畜外道に蹂躙された人生を、少しでも取り戻そうという心でいるわけか。 よく話してくれた。 つらかったであろう」

 

「いえ、それすら感じません。 あのときのことは、強い怒りを今では覚えるようになっています」

 

「精神修養をしようと判断したのは良いことだ。 そのまま怒りに身を任せていたら、燐火よ。 君は悪鬼羅刹へと変じていただろう」

 

嘆息すると、いくつか方法を教えてくれた。

 

精神修養というのは、結局のところ一人でやらなければならないらしい。

 

雑念の完全排除。

 

集中力の向上。

 

何よりも、我欲の抑制。

 

これらが大事になってくるそうである。

 

「世間では欲望まみれの存在が人間らしいと言うこともあるようだが、それはある意味でただしいだろうな。 ただし欲望を全てかなえていたら、法など存在しない獣の世界に成り果てる。 少なくとも、精神修養をするのは、そのような欲望を肯定する人間から離れる必要がある。 完全に欲望をなくす必要はない。 完全に制御すれば、それでいい」

 

そうして、いくつかやり方を教えてくれた。

 

何段階かに分けて、欲望の制御をしていく。

 

それだけで良いそうだ。

 

ただし、その何段階かの欲望制御が、とてつもなく難しいようだが。

 

スマホを出して、順番にメモをとる。

 

それを見て、時代だなと師範は言った。

 

「いずれにしても、大真面目に精神修養をすれば、「普通」とはかけ離れることになる。 それは覚悟はしておきなさい」

 

「元々「普通」に燐火は興味を持てなくなっています。 今日は色々とありがとうございました」

 

「それと、一人の父親として頼みたいことがある。 道場に長くは通えないとしても、充子と友達になってやってくれ。 どちらかと言えば境遇が近い君であれば、充子も多少は寂しくはなくなるだろう」

 

「……わかりました」

 

それについては、燐火も嫌ではない。

 

充子は非常にしっかりした子だ。

 

こちらとしても、関わることに異存は一切なかった。ああいう子と友になれば。それはとても良いことだろうと思う。

 

信頼できる友がいれば、少人数でいい。

 

そういうものなのだから。

 

 

 

翌日、日女さんと久々に直に会う。

 

前にあったときと比べて、また生傷が増えていた。絆創膏を貼っているが、本当に男子みたいだ。

 

それでいながらちゃんとしていれば多分きれいな方だと思う。

 

なんでも県外から来た半グレだかに絡まれたらしくて、それを全部ぶちのめしたらしい。危ない事はできれば避けた方が良いと思うのだが。

 

何でも日女さんの話によると、そういった奴には大体悪神が憑いているか、その影響下にあるのだという。

 

「悪神ですか」

 

「うちの国には八百万の神がいるとか言ってな。 得体が知れない神格もたくさんいる。 今でこそ神社があるが、元は明確に邪神だったやつもいる。 有名なのは常陸のやとのかみとか、後は諏訪のミジャグジ様とかだな。 どっちも非常に危険な神格だが、明治くらいまでにそれまでの魔祓い達が封印に成功はしたらしい。 ただ雑多な邪神となると、そうもいかない。 日本神話の天津系の武神は非常に強くて、神話ではほぼ負けなしだが、それでも例外はいるからな」

 

「調べたが、アマツミカボシとやらか」

 

「よく知っているな。 あの神格は今でもきちんと封じられているかはかなり怪しいらしい」

 

知らない話を日女さんとケルベロスがしている。

 

アマツミカボシというのは、この国の支配者階級の天津神が、唯一武で下せなかった強大な存在だという。

 

ただし「天津」と名がついている事もある。

 

謎が非常に多い存在で。

 

一部では明けの明星である金星と結びつける話もあるのだとか。

 

日本ではどちらかというと怨霊の方が恐れられる傾向が強く、特に三大怨霊の一角である将門公はいまだに大きな畏怖を集めていると言うことだが。

 

それはまた別として、悪神の類はいるのだそうだ。

 

「ぶちのめした半グレどもは悪神から悪運を授けられていたが、まとめて祓った。 あれは完全に今までの悪運に見放され、後は実刑を受けるだろうな。 それも余罪がまとめて表に出るだろう」

 

「まあ、自業自得ではありますね」

 

「そうだな。 それで今日は精神修養について、だったな」

 

「はい」

 

まずは道場主から聞いた話を軽く説明する。

 

うんと頷いて、日女さんはそれに付け加えてアドバイスをくれた。

 

「基本的にその人の言うことは概ね正解だ。 ただ、どちらかというと内向きの成熟を得るための武道だな」

 

「内向きですか」

 

「そうだ。 剣術にしてもなんでも、実際に使えないと意味がないってのは確かにあるんだ。 その人は単純に内向きの精神を鍛えて、それを使って体を鍛えているタイプなんだと俺は思う」

 

「なるほど」

 

そういう鍛え方もあるのか。

 

それから、連れて行ってもらう。

 

日女さんの師匠。

 

今は引退している、祖母だそうだ。

 

母親は魔祓いとは関係ないので、この手の話には噛んできていない。それもあって、祖母と魔祓い関連で話をするときは、家族は皆別々に行動するのだとか。

 

神社に日女さんは住んでいるわけではなくて、ちゃんと実家がある。

 

それなりに広い家なのは、魔祓いとして実績を上げているから、らしい。国から補助金が出ているのだ。

 

こういう制度は明治くらいには整備されたらしいのだけれども。

 

その頃に西洋式の魔祓いを取り入れるべきだとかいう意見があって、すったもんだでもめたらしい。

 

明治時代の頃は公用語を英語にしようなんて話まであったらしいので。

 

確かにそれはそういう話が出てもおかしくはないだろう。

 

明治時代の人の努力で、それらはどうにか回避できたらしいのだけれども。

 

それにそうなっていたら。

 

この国の文化に基づく魔は、祓えずに横行していたのだろう。非常に厄介な事態が来ていたのだと思う。

 

そうならなくてよかったと燐火は思う。

 

ギリシャの神話が「物語」になってしまった過程は、ケルベロスから聞いている。

 

日本もそうなるところだったのだ。

 

家の中は和風でもなく、普通に洋間もある。

 

巫女服をいつも着ているわけではないのだとそれでわかる。学校の制服もハンガーに掛かっている。

 

日女さんがそれを燐火が見ているのを見て、ちょっと気まずそうにした。

 

「俺が行ってる学校、ちょっと難しいぞ」

 

「試験がですか?」

 

「いや、魔祓いの見習いが集められてるんだよ。 ただし日本系限定でな。 うちの国も少子化で色々大変だろ。 だから魔祓いはいざというときに確保しておこうと考えているらしくてな。 仏教徒の魔祓いもそれなりにいる」

 

「そうなんですね」

 

日本神話系の魔祓いとはやり方が違うので、対立することもままあるらしい。

 

まあ、ともかくだ。

 

客間でお茶をいただく。程なくして、まだまだ充分にきれいな日女さんの祖母が出てきた。

 

ただ、年齢は五十を超えているとみて良いだろう。

 

綺麗に老いる事も出来るんだなと、燐火はちょっと感心してしまった。今まで見てきた老人の誰とも違うタイプだ。

 

「お前が燐火だね。 お前のことは聞いている」

 

「よろしくお願いします」

 

「本格的に稽古をつけてやりたいところだが、そうもいかないだろう。 それにあたしについている稲荷権現の力だと、どちらかというと仏教系は多少相手に出来ても、基本は神道系だ。 ギリシャ系は流石に専門外なのでな」

 

稲荷権現。

 

日本で八幡と並んで最も信仰されている神。

 

神社の数は日本でも一番多く、もっとも素朴な信仰を受けている神格だ。

 

そう日女さんが説明してくれる。

 

なるほどと覚える。

 

いずれにしても、日本ではもっともポピュラーな神様と言う訳だ。

 

ケルベロスがうらやましそうにする。

 

「とりあえず、一目でわかった。 お前さんは基礎はその年とは思えないくらいしっかりしているよ。 問題はそこからだ。 精神修養に関しては、教わったとおりでいいだろう。 とにかく雑魚を倒して経験を積みな」

 

「その過程で助けられない人がいるかもしれないです」

 

「それはもう仕方がない。 今の力で出来る範囲のことをするだけさね。 お前さんは神でもなければ全能でもない。 全てを救うなんて事は、理想的な専制主義国家があったとしても、その最高権力者だって出来ないんだ。 だからそのたびに割り切って、やれる範囲でやっていきな」

 

ある程度諦めろ、か。

 

反発はある。

 

だけれども、それが正しいだろう事はわかる。

 

ケルベロスが言う。

 

「そうだな。 俺もこの老婆の言葉に賛成だ」

 

「ケルベロスも」

 

「燐火はまだ子供だ。 契約とはいえ、子供に過酷すぎる判断をさせる事は心苦しいし、それで間違いをすることもある。 失敗だってする。 だが、それで責めるつもりはない。 育ったカコダイモーンは、そもそも多数の存在を不幸にして、悪辣化を果たしている。 迷子がダイモーンをばらまき始めている事に気づくのが遅れた俺たちギリシャ系神格の落ち度だ。 如何に弱体化している、としてもな」

 

「その犬の神の言うとおりだ。 見たところケルベロスか?」

 

老婆にはケルベロスが見えているらしい。

 

頷くと、そうかとだけ言った。

 

具体的な精神修養のやり方を教えてもらった道場主と違って。この人は実戦での心構えを教えてくれた。

 

それで充分なのかもしれない。

 

日女さんにお礼を言って、それで帰ることにする。

 

帰りを途中まで送ってもらったが、日女さんに言われた。

 

「ダイモーンの処理は俺にはできないが、ただ後始末は出来る可能性がある。 倒したら俺に連絡を入れておいてくれるか」

 

「わかりました」

 

「じゃ、お互い頑張ろうや。 俺もまだまだだ。 人様を見下せるような立場じゃない。 そう思って、少しでも進歩しないとな」

 

手を伸ばされたので、握手をする。

 

このとき。

 

日女さんとは、初めて友達になったのかもしれない。

 

ただ握力が強くて、燐火はちょっと苦笑いしてしまった。







大人のアドバイスが必ずしも役に立つとは限りません。

色々見てきましたが、教師の質なんかピンキリですからね。いじめを行う生徒と一緒になるようなカスも普通にいます。

ただ、燐火はケルベロスが憑いている事もあって。

「今度は」、まともな大人達にアドバイスを受ける幸運を得ている訳ですね。


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