魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
西宮菖蒲は魔祓いである。仏教系の魔祓いとしてはかなり若く、そして将来を期待されるものだ。
今日は会合に出ている。
ある寺の堂を使って、円座を組んで話をしていた。側で見下ろしているのは千手観音の像だ。
周囲の者は、頭を剃っているものとそうでない者が半々。
その中で、学校から直帰してきた菖蒲はちょっと格好では浮いていたかもしれない。
まだ女子高校生だが、菖蒲は非常に美しいと同業の間でも評判だ。学校でも評判の美少女が、とか言われるし。
本人もそれを意図的に武器にしているが。
それを利用して男あさりをするつもりは菖蒲にはない。
魅力を活用する気はあっても。
堕落する気はないからだ。
仏僧は昔から、堕落とは縁を切れなかった。これは他の信仰でも僧侶がそうであったのと同じだ。
高度な理論で武装する仏教だが、だからこそ周囲を煙に巻くことも簡単になる。
本場のインドでは、あまりにも難しすぎること。
それに何より、仏僧の腐敗もあって、ヒンドゥーに後れをとることとなった。
アジア全域に広がった仏教だが。インドでは今や少数しか信仰するものがいないのも。
それだけ腐敗が著しく。
人々の心を集められなかったからである。
ちなみに今回の会合は、高校生から大学生くらいの魔祓いが集まっているが。
魔祓いは才能の世界なので。
年齢はあまり実力と関係がない。
今回はただ、情報交換が目的だ。
「最近活動しているギリシャ系の霊ダイモーンについてだが、情報が得られた。 どうもギリシャ系の神格が迷い込んでいて、それがばらまいているようだ」
「ああ、確か西宮が対策に出張ってきた神格と接触したとか」
「正確には紹介してもらっただけですよ。 私が接触したのはケルベロスの力を借りている子でした。 ギリシャ風に言うなら聖人。 女性の聖人だからアギアとでもいうべきでしょうかね」
「どんな奴だった」
周囲がデリカシーもなく聞いてくる。
菖蒲はちょっといらだった。
燐火の事情は日女に聞いて知っている。
だから、適当に説明だけをする。
「いやあ、あれはちょっとなかなか見ないほどあれた環境にいる子ですね。 目が完全に地獄でしたよ。 笑顔を一つも浮かべず、周囲に敬語でしかしゃべらない。 紹介してくれた子の話は聞きましたけれど、ちょっとこの世の業を煮詰めたみたいな環境で育ったみたいですね」
「力不足ではないのか」
「あの年としてはできすぎるくらいですよ」
というか。
ここで雁首そろえている連中よりも出来る。
菖蒲にはまだまだ及ばないが、それも二年後にはどうなっているかわからない。それくらい出来る子だ。
あれはケルベロスに選ばれて魔祓いをしているタイプだが。
ケルベロスが目的を達成するなりしていなくなっても、他の神格が即座にほしがるくらい器として優れている。
仏教系に勧誘したいくらいだが。
はてさて、乗ってくれるかどうか。
それに、だ。
所作が小五のものではなかった。
育った環境が悪すぎたというのもあるが、とにかく全くというほど子供らしくない。
菖蒲の年だと、既に実際には大人も同然。
子供だってその気になれば産める。
それについては、父からも厳しく言われている。
その年だと、簡単に魔道に魅入られる、と。
それは菖蒲も理解している。
ひょうひょうとしている菖蒲だが、それでも父に厳しく色々言われて育ってきたし。今ではそれが真だとわかっている。
多数の悪霊を魔祓いしてきたからこそ。
人間の闇は見てきているのだ。
この間なんか、たちが悪い半グレに十四で孕まされ、人生を滅茶苦茶にされたあげくに飛び降り自殺した女の子の悪霊を成仏させたが。
成仏させる過程で、カス野郎に如何にして滅茶苦茶にされたかを全て見た。
なお、カス野郎には、その後菖蒲が憑いている愛染明王が仕置きに行った。
翌日、バイクで飛ばしているところをブレーキが利かなくなり、停車中のタンクローリーに突っ込んで炭も残らず消し飛んだが。
それもまた自業自得。
生きているだけで周りに害を為す輩だ。
死んだことで、心が痛むことはない。
「いずれにしても小五だと聞く。 支援が必要だろう」
「それなら私と神道系の手練れがつきます。 説得次第では、一神教の手練れも手伝ってくれるかもしれませんね」
「……そうか。 ならば頼むぞ」
会合が終わる。
それにしても一人、ずっと菖蒲の胸と足下ばかり見ていたな。あれは近いうちに守護している十二神将の一角に見放されるだろう。
堕落はすぐ近くにある。
こういう場所で会合を行うような魔祓いでもだ。
さて、帰るか。
帰り道に、変な男が絡んできた。既にナンパという行為は都会では絶滅したらしいが、この辺りではまだたまにある。
フルシカトすると、流石に傷ついたようで、悪態をついて去って行った。
愛染明王が、いらだっているようだった。
「あの若僧どもは駄目だな。 どいつも実力も修行も足りておらぬわ。 菖蒲、おまえが頼りだ。 くれぐれも堕落はしてくれるなよ」
「わかってる。 私も色々見てきたからね。 あっち側に行くつもりはないよ」
「……そうだな」
「ただ、結婚して子供は作りたいかな。 まっとうな相手と、だけれど」
別にそれは堕落には当たらないだろう。
愛染明王も、それを否定するつもりはなさそうだ。
途中、日女から連絡が来た。
あの後、燐火と合同で魔祓いをしたが、やはりかなり腕が上がっているという。
この様子だと、ダイモーン騒ぎが終わった後には、燐火の争奪戦が始まるかもしれない。
その時のためにも。
今のうちに、もっと強めにコネを作っておいた方が良いかもしれない。
そう、菖蒲は思った。
(続)
燐火の周りにいる魔祓いの中では一回り力量が高いのが菖蒲さんです。
いわゆるあらあらうふふ系のお嬢さんですが、立派な仏教系の魔祓いであり、分類としては尼さんですね。髪は剃っていませんが。
林西さんもろとも、近年は仏教徒が結婚するのは別におかしくもないので、生涯不犯とかの掟もありません。まあ酒を飲むことはないでしょうが。
普段は穏やかなお嬢さんですが、実は大型二輪の免許を持っていて、それで活動する事もあるアグレッシブな人です。
ちなみに普通に肉弾戦も出来ます。実力もプロ格闘家並です。
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