魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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ダイモーンの大量発生。見つからぬ迷子。

それと呼応するように動いている存在。

ついにその一端が姿を見せることになります。






相容れぬ者
序、遭遇


朝練をしていたら、ケルベロスに言われる。即座に出る。学校に遅れるかもしれないが。緊急だとケルベロスが声を掛けてくるというのは、相当なことだ。

 

一応、そういうのに備えて、燐火は基本的に学校にいつでも出られるようにしてから朝練をしている。

 

精神修養をするようになってから、朝起きたりするのは全く問題なく地力で出来るようになっている。

 

前はケルベロスに声を掛けられたりしておきることもあったが。

 

今ではぴたりと同じ時間に目が覚める。

 

そういうものだ。

 

鞄を担いで、さっと飛び出す。これはおそらくだけれども、変身(着替え)している余裕はないな。

 

そのまま全速力で行く。

 

ケルベロスが、珍しく焦っているようだ。

 

「ヘラクレスさんは?」

 

「今、かなり厄介なカコダイモーンとやりあっているようだ。 負けることはないだろうが、な」

 

「燐火がどうにかしなければいけないということだね」

 

「そういうことだ」

 

別に、それ自体はどうでもいい。

 

ともかく山道を突っ切って。飛び出す。

 

そのまま路地裏を駆け抜ける。朝の散歩をしていたらしい老人が、燐火を見て天狗かなとつぶやいていた。

 

そのまま走り込んだのは、駅近くの裏路地だ。

 

なるほど、これはまずい。

 

ケルベロスの影響で見えるようになっているとはいえ、地獄絵図だ。

 

朝だからそれなりの人がここを通っているが、ビルみたいなサイズのカコダイモーンが、触手を伸ばしてえり好みをしている。

 

膨大な悪運をばらまき。

 

たくさん人を破滅させてきた。

 

それが一目でわかる。

 

即座に鉄パイプを振るう。

 

文字を書く。

 

裂帛の気合いを込める。叫ぶようなことはしないが。それでも、それほどダメージが入っていない。

 

連続で書く。

 

腕が折れるまでやる覚悟だ。

 

三度目で、触手がはぜ割れた。

 

うるさそうにこちらを見るカコダイモーン。以前ヘラクレスさんが叩き潰した奴ほどじゃないが。

 

それでもとんでもない大物だ。

 

更に連続で字を書く。

 

体がはぜ割れ、それでもまだまだ平気な様子のカコダイモーン。

 

ケルベロスが、まずいなと呻く。

 

奴が見ている。

 

巨大な体には目がついていて。それがにゅっと伸びている。

 

あれは電車だ。

 

朝の電車が来ようとしている。

 

あれに悪運なんか注がれたら。

 

それこそ電車事故にでもなりかねない。

 

勿論、このサイズのカコダイモーンが、それほど破滅的な災害を引き起こせるかはわからないが。

 

最悪の事態に、常に備えなければならないのだ。

 

集中。

 

心を研げ。

 

そして、字を描く。

 

今までにないほど、周囲の音が聞こえない。

 

力強く字を書くことによって、効果が明らかに出た。爆ぜ割れるカコダイモーンの複数の触手。

 

それで、ようやく面倒くさそうに、カコダイモーンが全身でこちらに向き直っていた。

 

全身が破裂し始めている。

 

それでも余裕という風情だが。

 

おそらくだが、ばらまいている悪運の問題だろう。

 

連続して文字を書く。

 

それでも、奴は大量のコールタールみたいな悪運をぶちまけながら、こちらに迫ってくる。

 

まるで濁流のように溢れている悪運は。

 

辺りにどれだけの災厄をまき散らしてもおかしくないだろう。

 

その時だった。

 

すっと、隣に立った。

 

カトリイヌさんだった。

 

十字架を掲げると、叫ぶ。

 

「Amen!」

 

それと同時に、漏れ出ていた悪運が、まとめて浄化される。なるほど、魔祓いとしての力は燐火よりずっと上とは聞いていたが。

 

ダイモーンそのものには通じなくても、悪運そのものはこうして祓えるのか。

 

立て続けに字を書く。

 

更にカコダイモーンが爆ぜる。明確に悲鳴を上げ始めた。冷や汗が流れる。電車がこちらに迫っている。

 

カトリイヌさんが、更に光を放ち、悪運を浄化する。

 

光りすぎてまぶしいくらいだ。

 

ただ、燐火もカトリイヌさんも、誰も認識していないようだが。

 

体中から大量の体液を垂れ流しながら、こちらに迫ってくるカコダイモーン。

 

こいつ自体は、殺傷力はない。

 

人間に悪運を植え付け。

 

それで人が破滅するのを餌とする。

 

たちが悪い霊。

 

それがカコダイモーンであり。そしてそいつを倒すのには、こうやってケルベロスの力を借りるしかない。

 

もう一度。

 

裂帛の気合いとともに、字を書き。

 

力をたたき込む。

 

それで、ついにカコダイモーンは爆ぜ割れ、辺りに凄まじい悪運がばらまかれていた。

 

それを、カトリイヌさんが浄化してしまう。

 

横を見ると、典型的なシスターの格好だ。

 

一応、見たことはある。

 

髪の毛も全て隠しているようだった。

 

「カコダイモーンは退治できたようですわね」

 

「どうにかなりました」

 

流石に疲れた。

 

腕がしびれるくらい。

 

それに、精神の消耗も凄まじい。ちょっと休憩したいが、今から学校に行くとなると、休んでもいられないか。

 

電車が駅に入っていく。

 

あまりここで乗り降りする人が多くないが、それでも無事でよかった。

 

一時期は、都会で毎日のように電車に飛び込んで命を絶つ人がいたそうだ。

 

それを考えると、それがなくなっただけでよしとするべきなのだろう。燐火は呼吸を整えると、カトリイヌさんに礼を言う。

 

「ありがとうございます。 浄化そのものは苦手なので、助かりました」

 

「本当ならあのような邪悪な異神などわたくしのドミニオンが倒してしまうのですけれどね!」

 

「いや、あれは私では少し相性が悪かったでしょうね。 燐火嬢の礼は素直に受け取っておきなさい。 ダイモーンは燐火嬢が倒し、不浄なる悪運の浄化は貴方がやった、それだけの話です」

 

カトリイヌさんがはしごを外されて、真顔になるが。

 

まあ、ドミニオンがそういうならばそうなのだろう。

 

とにかく、頭を下げると、すぐに学校に向かう。

 

できれば遅刻はしたくはなかった。

 

軽く走りながら、体調を調整する。

 

まあ、この程度の速度で走るのなら、それほど体力は消費しないし。むしろ体調も整えられる。

 

学校に着いた頃には、既に息も整っていた。

 

すぐに机とかロッカーを確認。

 

鞄の中身も確認して、問題ないことを確認し、嘆息する。

 

今日は急ぎも急ぎだった。

 

だから、忘れ物がないか不安だったのだ。

 

「よかった。 大丈夫そうだ」

 

「俺も少し肝を冷やしたぞ。 以前だったら勝てない相手だった。 ただ、あの一神教徒の魔祓いに力を借りたのは不本意だったが」

 

「道場で燐火のことを認めてくれたんだと思う」

 

「そうだといいのだがな。 強引に勧誘してきたら断れ」

 

ケルベロスはまあ、色々あったのだし、警戒するのは仕方がないのだろうと思う。

 

とりあえず涼子は。

 

あれ、いない。

 

ホームルームで、先生が今日はお休みだと言っていた。

 

まあ、風邪くらいは引くだろう。

 

それを思うと、別に不思議でもない。

 

淡々と授業をこなす。

 

それだけだ。

 

 

 

学校が終わって、メールを入れる。

 

大丈夫そうかと聞いてみるが、あまり大丈夫ではないそうだ。今病院にいるとかいう話であり。

 

ちょっと心配になった。

 

少なくとも事故に遭ったわけではないらしい。

 

ケルベロスも、悪運の気配はなかったというし、少なくとも専門の外ではあるのだろうと思う。

 

とりあえず、家に戻る。

 

そうすると、日女さんから連絡が来た。

 

「今いいか」

 

「はい、ちょうど家に着いたところです」

 

「悪いが、すぐに地図を送るから、其処へ向かってほしい。 八幡様が、異国の神の気配がするって話だ。 俺は今ちょっと和歌山まで出ていてな。 一応菖蒲姉には声は掛けておいたが、念のため足を運んでほしい」

 

「わかりました。 すぐに向かいます」

 

異国の神か。

 

この国の神はとても懐が深い。

 

神仏混淆なんて事をやっているのは、ほとんど例がないという話を聞く。

 

そういう国で、異国の神というならば。

 

それはちょっと調べないとまずいかもしれない。

 

ケルベロスが先に言った。

 

「俺が探している存在かもしれないな」

 

「例の迷子だね。 どういう人なの?」

 

「あまり良い生い立ちではない存在だな。 今はそれよりも、先に現場に急ごう。 ひょっとして、もある」

 

「わかった」

 

宿題は特に問題はない。

 

後で帰ってきてからやるだけだ。

 

剣道の道場通いが終わってから、自分の時間が増えた。それはできるだけ、有効活用しなければならない。

 

即座に服とか準備して、外に。

 

目的地は三㎞くらい先か。それだったら走ってたどり着ける。そのまま走る。今日は朝から走ってばかりだが、別に体力的に問題は感じない。

 

ともかく現地に急ぐ。

 

十二分ほどで現地に。

 

全力疾走ではないし、こんなものか。

 

とりあえず現地に行くと、山の中で魔祓いらしい人が数人いた。その中には、法衣を着込んだ菖蒲さんがいた。

 

目配せされる。

 

男だったらころっといきそうなウィンクである。多分僧であることを、菖蒲さんのお父さんは強制していないのだろう。

 

「異国の神様がいると聞いてきました」

 

「ええ。 あれ」

 

視線を向けた先に。

 

確かに、それはいた。

 

なんというか、人型ではない。非常にまがまがしいというか、何か得体が知れないよくない雰囲気がある。

 

ケルベロスが言う。

 

「違うな。 探している者ではない」

 

「欧州系みたいだけれど、違うのかしら」

 

「ああ。 あれはどちらかというと悪神の類だ。 俺が探しているのは、あの手の輩ではない」

 

そういえばただ迷子なだけだと言っていた。

 

悪神なのだったら、ただぶちのめして終わりとなるだろうが。

 

そうもいかないのだろう。

 

まがまがしいそれは、呻きながらゆっくり徘徊していた。

 

周囲の土や木々が、変色しているのが見える。

 

「姿、容姿などに該当なし。 欧州系のようではあるが」

 

「妖精にしては強力すぎるな。 一神教の魔祓いはいるか。 対応できるなら……」

 

「いや、あれは悪魔の類ではありませんな」

 

既にいるらしい。

 

というか、あれはカトリイヌさんのボディガードの人だ。あの人も魔祓いであるらしいのはわかっていたが。

 

あの人は燐火やカトリイヌさんとは段違いの実力者である。

 

だとすると、対応できないのは少しまずいのではないか。

 

「ドルイド系の魔祓いの当ては!」

 

「到着まで六時間はかかると!」

 

「くそっ! なんだよあの神! 誰かわからないか!」

 

「……」

 

見ると、自衛隊の人も来ていて、必死に検索をしているようだ。

 

確かにもやもやとしているだけ。

 

ケルベロスとか、他の人に憑いている神もだんだん見えるようにはなってきた。だからそれぞれの文化圏における霊とかではなく、神格なのだろうというのは燐火にも判断がつくが。

 

あのもやもや、人型ではない。神格で、まがまがしい気配。

 

それだけでは、正直言って正体を図るのは厳しいのではないかと思う。

 

燐火もスマホで検索してみるが、ちょっとわからない。

 

すっとそれが立ち上がる。

 

なんとなく、それでわかってきたことがある。

 

あれは馬だ。

 

しばらくは無作為に辺りの草を食んでいたようだが、やがてそいつは周囲をねめつけて、何か思念を送ってきた。

 

ケルベロスはわかるようである。

 

「ラテン語だな。 燐火にわかるように翻訳してやろう」

 

「お願い」

 

「ええと、何々。 この土地に住まう脆弱な神々よ。 我が主がこの土地に降臨したいと願っている。 征服され殺されることだけがおまえ達に出来ることだ。 ひれ伏していれば楽に殺してやる」

 

「ずいぶんだね……」

 

馬にしては極めて好戦的だ。

 

訳した人がいる。

 

それもあって、即座に臨戦態勢がとられた。

 

「やむをえん! 異神と交戦できる魔祓いは前に!」

 

「ちょっと行ってくるわ」

 

「気をつけてください」

 

菖蒲さんが前に出る。燐火は異教の神様とやりあえる力はない。他にも腕利きが数名前に出たようだ。

 

次の瞬間、光が辺りを蹂躙していた。

 

伏せるので精一杯。

 

身を起こすと、辺りの森はなぎ払われ。自衛隊の車がひっくり返っていた。

 

うめき声。

 

倒れている人が転々としている。

 

菖蒲さんと、以前カトリイヌさんのボディーガードをしている人だけが立っていた。

 

「愛染明王、しつけをしてあげましょう」

 

「いや、その必要はないようだ」

 

馬が、不意に膝を突く。

 

燐火は立ち上がると、口に入った土をハンカチに出しながら、馬の神様を見る。足が、増えている。

 

ちょっと多すぎるくらいだ。

 

それで、ケルベロスが正体を察したようだった。

 

「ラテン語を使えるとは、なかなか勉強したようだな。 ロキの子、スレイプニルよ」

 

「!」

 

「スレイプニルと言うことは」

 

「……この国では我が主の知名度が高い。 しかも平和に腑抜け切っている。 ただ、予想以上に我が力も出ないようだな。 今日は引き上げてやる。 だが、この国の神々など、主や主の麾下にある武神達の足下にも及ばぬとしれ!」

 

ふっとスレイプニルが消える。

 

大人達が、あちこちに連絡を始める。

 

菖蒲さんが、けが人の手当に移る。

 

燐火も倒れているお坊さんを抱えて、トリアージをしている場所へ運んだ。

 

大人でも工夫次第で担げる。

 

これについては、おかあさんにこつを教えてもらっている。

 

「まだあちらに一人倒れているので、運んできます」

 

「助かる!」

 

周囲は修羅場だ。

 

自衛隊の人が、車をひっくり返して、元に戻していた。数人がかりとはいえ、出来るものなのだな。

 

トリアージをしているが、みんな助かると良いのだけれど。

 

菖蒲さんが、いくつか周りに指示を出している。

 

ケルベロスが嘆息した。

 

「面倒なのが絡んでくるとみて良さそうだ」

 

「スレイプニルって?」

 

「今で言う北欧の神の馬だ。 あいつが言っていたのは、恐らくはオーディンであろうな」

 

名前だけは聞いたことがある。

 

確か投げれば絶対に当たる槍を持っている神様だったか。

 

だが、その性質は想像を絶していた。

 

「オーディンは戦争にいかなる手段を用いても勝つ神で、性質は残虐極まりない。 それどころか、自分の配下を増やすために、意図的に戦争を起こすことまでするような神だ。 異国に顕現でもしたら、面倒なことになる。 それに……」

 

「それに?」

 

「この国では名前が格好良いからか、北欧の神々は人気がある。 それが下手な形で力を与えるかもしれん。 オーディンは至高神としては異例なほどに残忍でエゴにまみれた神だ。 うちのゼウスがかわいく見えるほどのな。 北欧のノルマンの民がそれだけ残忍で戦を好み、それでそういった神が好かれたという訳ではあるのだが」

 

北欧というとなんだか良いイメージが多かったが。

 

そんな荒れた文化圏だったのか。

 

とりあえず、けが人は順番に救急車で運ばれていく。普通のと違う救急車が来ていたが。これは魔祓い案件だからだろう。

 

一応燐火もお医者さんに見てもらったが、怪我はない。

 

死者もいないようだった。

 

迷子を捜している状態で、オーディンが現れようとしている。

 

どうやら、事態は混迷を深めていくらしい。そう燐火は悟っていた。







※北欧神話について

日本では有名ですよね北欧神話。登場人物の名前がかっこいい事もありますので。

しかしながらその実態は蛮族の願望を詰め込んだヒャッハー神話です。

北欧神話について詳しく触れている本を読めばそのあまりの蛮族ぶりにぞっとすると思います。

また設定が混線しまくっているのも北欧神話の特徴で、これはそもそもローマ系の影響を受けたテュール信仰(天空、法の神)、トール信仰(荒々しい北欧の民が戦士として嬉しい要素を全部のせした暴虐雷神)、オーディン信仰(個人の武勇の時代が終わり、どんな手段を使っても勝つことを求めるようになった結果、どんな手段でも勝つことを至上とする勝利神)と信仰が移り変わり、更に他の信仰(ヨトゥンヘイムの巨人族などは明らかに元々は別の信仰です)を取り込んだ結果、設定がまとまっていないのです。

本作でのオーディンは、既に信仰を失った神が、人気がある日本で復権を果たそうとしている状態ですね。

ただこのもくろみの影には、さらなる影があるのですが……
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