魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
燐火が容赦なくゲスをぶちのめした結果、厄介なのが出てくることになります。
しかしあくまで所詮は平和な日本でいきり散らしている程度の輩です。
それよりも厄介な……混成型の魔が現れることとなります。
序、混成型
また涼子が病欠した。勉強は全く問題ないが、ここ最近少し目立つようである。燐火は淡々と授業の準備をする。
それをこそこそ影で話している奴が何人かいるが。
仕掛けてきたらぶちのめす。
靴に画鋲とか入れる嫌がらせが、おかあさんの時代にはあったらしい。
今はそういうことはないが。
ショート動画に暴力を撮影して。
自己顕示欲のために動画サイトで配信する。
そういう輩が、いくらでもいるそうだ。
これでも昭和の時代よりマシらしい。
その頃はその程度のいじめは当たり前のように横行していて、それが発覚してもいじめられる方が悪いとかいう理屈になったし。
学校ではカツアゲとかいって、金を奪い取るような行為が横行していたとか。
おかあさんが先輩警官から聞いたが。
その手の行為をしていた輩が平然と会社などで役員をしているケースも多く。
そういう連中は平気で人を陥れるし。
殺してもばれなければいい。
そう考えてもいるそうだ。
その手の連中がビジネス誌などで成功したサラリーマンなどとして紹介されるケースがあるらしく。
燐火としても反吐が出る。
今は告発されれば裁かれるだけマシ。
燐火としては、そうとも思うのだった。
無言で授業を受ける。
さて、こっちを恨めしそうに見ている男子が一人いるな。
影でこの間、立場が弱い男子を痛めつけて遊んでいるのを。ぶちのめした。それを恨みに思っている。
しかもその様子は撮影して保管済みだ。
いざとなったらネットにながす。
そういう話もしているので、一切反撃も出来ない。
おかあさんから、こういうときの対応法については聞いている。
幸い今の学校は先生がしっかりしているから、話をすれば適切に対応してくれる。
ただあいつ、思慮が足りない。
また、衝動的に弱者に暴力を振るうかもしれない。
ケルベロスが嘆息する。
「この学舎はしっかりしているのに、ゴミカスはいるものだ」
「後でまたたたきのめそうかな」
「機会をしっかりうかがえ」
「わかってる」
授業終わり。
こっちを恨めしそうに見ているそいつが、何やらスマホで連絡を入れていた。そして、こっちを見てにたついていた。
ああ、何か仕掛けたな。
とりあえず、何を仕掛けたかはわからないが。
黙々と帰路を急ぐ。
そして半ばほどで。
いかにもな、高校生くらいの男が立ち塞がっていた。
多少空手の経験があるようだ。
それの取り巻きらしいのが数人、にやつきながら周囲にいる。そのうち戦えそうなのは二人か。
そしてその後ろの方で、あの男子がこちらを伺っていた。
なるほど、これは一線を越えたな。
「俺のいとこを随分とかわいがってくれたじゃねえか、クソガキが」
「随分と情けないですね。 小学生の女子を相手に、三人がかりですか? それも高校生が」
「……おまえ等、下がってろ。 ちょっと武道やらに心得があるらしいが、通用しないことを思い知らせてやるよ」
取り巻き達が下がる。
敢えて挑発した。
今、六年になった燐火は、更に毎日技を磨いている。
だから、わかる。
単純な空手では勝てない。
リーチが違いすぎるからだ。
パワーも違いすぎる。上背が三割増しの相手である。背が伸びてきたとはいえ、燐火が簡単に倒せる相手はない。
だから組み合わせて行く。
無造作に歩み寄る。
全く恐れないのを見て、そいつはステップを踏みながら、にやついている。
負けたことがない相手を、ぶちのめすのが楽しい。
そういう顔だ。
実際相応に出来るのだろう。
だから燐火が、そのまま歩いてくるのを隙だらけとみている。
だが。
不意に踏み込んで、つかみにかかってくる。その瞬間、燐火は鉄パイプを引き抜くと、その手に合わせていた。
ばきりと、骨が砕ける音。
更に、凄まじい痛みに身をひねったその男子高校生の股を、渾身で蹴り上げていた。
完全に白目をむいたそいつが、数歩下がって、それで倒れる。
泡を吹いている。
悶絶である。
それで、顔色を変えた取り巻き達。
そのうち二人が、血相を変えていた。
「よっちゃん!」
「こ、このガキ! 優しくしてやろうって思ってたら、調子に乗りやがって!」
一人がつかみかかってくる。
二人同時だったら対応できなかったのに。
こっちから間を詰めると、顔面に鉄パイプをたたき込む。鼻と歯が砕けた。剣道で鍛えこんだ剣筋での一撃だ。頭蓋骨骨折しなかっただけありがたく思ってほしいところである。悲鳴を上げて横転するそいつを蹴って飛び越えて、最後の一人の頭に飛びつくと、足を使って三角締めを仕掛ける。
燐火を振り落とそうとするが、その前に締め落とす。
白目をむいて倒れるそいつで終わり。
残り二人の片方が、中古らしいハンディカムのビデオカメラを取り落としていた。或いは誰かから奪い取った物かもしれない。
「ひっ!」
「お、おいこのガキおかしいよ! 逃げよう!」
「そのカメラ、おいていってください」
「……っ」
にらまれただけで、その高校生二人は即座に逃げ出した。カメラを拾うと、悶絶している三人を撮影しておく。
そして、隠れて震え上がっているクラスの男子に歩み寄る。
相手は小便を漏らしていた。
「一線を越えましたね。 こいつらは燐火に暴行を加えた後、犯すつもりだったでしょう」
「ま、まってくれよ! い、いじめられたって相談したら、よいちのあんちゃんが、そうしたいって」
「見ているときにやついていましたね。 この調子で何人か痛めつけたんじゃないんですか?」
「……」
なにがいじめられた、だ。
こいつの反吐が出る行為を許すつもりはない。ゴミを見る目で見ていたかもしれないが。此奴よりゴミの方が遙かに有用だ。
それから、おかあさんに連絡を入れる。
警察が来る。
倒れている三人に対して、自衛した旨を話す。
こいつらは半グレまでは行かないが、札付きで知られている連中だったらしく。カメラを引き渡すと、その中からは暴行を行っている動画がいくつも出てきたそうだ。
その翌日には。
その同級生男子は、学校からいなくなっていた。
なんとなくだが、そいつがどういう奴かは皆知っていたのだろう。
誰も、何も言わなかった。
うちの学校でもこういうのはいる。
六年になって、更に男子が凶暴になってきたのは事実だ。
これは女子も更に陰湿になるな。
そう燐火は思った。
家でおかあさんといくつか話す。
襲われた経緯については、丁寧に話した。自衛が認められた。実際ああしなければ、倉庫にでも連れ込まれて、輪姦でもされていただろう。
実際あいつらには前科があった。
カメラで、中学生の女子をそうして強姦している様子が映されていた。
後で悪質な業者に売りつけるつもりだったらしい。
その様子をにやついて見ている連中も、まとめて聴取の対象になるそうだ。
ただ、それはそれとして。
危ない事はできるだけ控えるようにとも言われた。
わかっている。
更に危ない奴が仕掛けてくるかもしれない。
だからそんなのが脅威にならないレベルになるまで、鍛えておかなければならないだろう。
実際今回の奴は、空手だけだったら勝負にならなかった。真正面からでは勝てなかった。
相手が油断しきっていたこと。
挑発に簡単に乗ったこと。
燐火が剣道もやっていることを知らなかったこと。
それらが勝因だ。
それにおそらくだが、あの与太者はちょっと空手を教わっていて、それなりに自分の身体能力に自信があったこと。
それらがあの暴虐につながったのだろう。
武道で精神修養が出来る人間は限られる。
それは燐火も知っている。
だからああいうカスがいることは。どうしようもないことだとして理解していた。
とりあえずあの三人はそろって刑事告訴されるそうだ。
わかっているだけで暴行傷害四件、さらには輪姦を二人している。カメラにその様子が映っていた。
あのカスの取り巻きと、その女も数人少年院行きだそうである。
まあ妥当なところだろう。
それはそれとして、怒られはした。
ただ、あの男子生徒については危険な相手だとおかあさんには先に説明していたこともある。
説明が足りなかった、という理由で怒られることはなかったが。
とりあえず、身は守れた。
風呂に入っていると、ケルベロスが言う。
「見事な立ち回りだったな。 ちなみにあの与太者の睾丸はどちらも破裂していたが、意図的にやったな?」
「そうしないとすぐにおきてきたのが確定だったし。 他だと合気で肝臓を潰すくらいしかなかったけど、それだと多分致命傷になったし」
「それもそうだ。 もう少し相手の空手の練度が高かったら危なかったな」
「体格は偉大だよ。 もうちょっと背が伸びればなあ。 あんなんでも今の燐火よりも強いんだから」
女子は男子ほど背が伸びない。
それは燐火もわかっている。
背が伸びても、あれほど筋肉もつかない。
どれだけ鍛えても、だ。
流石にオリンピックに出るような女子レスリングの選手とかだと、生半可な男なんて一ひねりにする場合があるが。
それはあくまで最上位層の話である。
まだ燐火は、それには遠い。
風呂から上がると、中学の勉強を先取りしてやる。
先生も燐火の周りでは問題が起きるし。なんなら燐火に喧嘩を売る人間もいるのを悟っているらしい。
燐火に落ち度がないことは理解していても。
それでも注意を払うようになっているようだ。
ただ燐火が、小便を漏らしていた同級生の男子に、鉄パイプを振り下ろさなかったことはおかあさんも褒めてくれた。
状況からしてそれをやってもおかしくないのに、よく自制した。
それは立派であったようだ。
黙々と勉強を終わらせて、少し休憩を入れる。
おとうさんが配信を終えて、疲れ切って出てきた。
燐火も少し料理をして良いと言われているので。少しずつ、簡単なものからやるようにしている。
武道の才能と料理の才能はある程度共通しているところがあるらしく。
それなりに筋が良いそうだ。
まだ本物の包丁は使わせてもらえないが。
黙々と簡単な料理を作り、おとうさんに出す。
味はまあまあだ。
まだ本格的なものを作れる技量ではない。
「おとうさん、配信はどうですか」
「今すごい新人が出てきていてね。 なかなか苦労しているよ」
「早速炎上していた人でしたっけ」
「そうだね。 だけれど、配信の才能は間違いなくあるんだ。 天狗にならなければ、きっと大成できる」
会社と相談して、どうにかして手綱を取ろうと苦労しているらしい。
ストレスがかなりたまっているようだが。
おとうさんもベテランの配信者だ。
なんとかやっていけると信じよう。
夕食を一緒に食べて、それからきちんと時間通りに寝る。
燐火は気配が鋭くなってきたので、たまに余裕があるときにおとうさんとおかあさんが男女の行為をしているのに気づくが。
別にそれで恥ずかしくなったり、体が熱くなることもない。
まあ、夫婦で幸せそうにしているのなら良いことだ。
今日もそうしているようである。
いずれにしても、気にせずさっさと寝る。
ケルベロスは、何か言いたそうだったが。
結局何も言わなかった。
翌朝。
涼子が学校に出てきたが。ちょっと疲れているようだった。
どうも話によると、父親が再婚を考えているらしい。ただこの再婚相手が、見るからにろくでもないそうだ。
父親は以前もろくでもない女に引っかかった前科がある。
しばらくは女嫌いで通していたようだが。
お金があると、どうしてもよくない奴がよってくる。
ただ、涼子の方でも、大人に対する不信感が強いというのもあるのだろう。それもあって、今は様子見だそうである。
男子が一人クラスから消えたことは、涼子はどうとも思っていないようだ。
それよりも。
なんだか違和感がある。
クラス移動中、ケルベロスと話をする。
「涼子ちゃんになんか憑いてる?」
「いや、俺は感じないな。 燐火は何か感じたのか」
「うん。 具体的にはわからないんだけれど、何かの残り香みたいなのを感じるんだよね」
「そうか。 日女辺りに相談しておけ。 俺がかなり幸運で緩和しているんだけれどもな。 それでも周囲の人間が災厄に見舞われる可能性はゼロではない。 より高位の神格が手を出す可能性もある。 油断はしない方が良いだろう。 特に涼子のような優れた子供には、唾をつけたがる神格がいても不思議ではない」
そもそもおかしなのが燐火の周りには集まる。
それをケルベロスは感じているらしい。
ケルベロスが幸運操作していても、なおも燐火の周りは災厄が集まりやすいのかもしれない。
そういう話もされたことがあった。
まあ確かに、これほど良い学校でも、燐火は今まで数人のいじめっ子を締めた。
女子生徒もいた。
そういう奴はめそめそ泣いて見せたりする悪辣な技を持っているので、たたきのめす前に証拠をスマホなどで撮影し。
その上で言い逃れが出来ないようにしてからぶちのめすようにしていた。
おかげで、燐火は完全に恐れられている。
いじめから救った生徒からもだ。
しかしながら、話し合いでいじめが解決するとか。馬鹿みたいな事を燐火は考えていない。
結局のところいじめなんかするような奴は、性根が生涯変わらない。
そうとも思っている。
それなら、早いうちにへし折った方が良いだろう。
それが燐火の結論だった。
いずれにしても、今気になるのは涼子だ。
次の授業。
化学室で、それなりに本格的な理科をやるようになってきた。昔はアルコールランプというのを使ったらしい。
ケルベロスは興味津々で化学室の機器を見ている。
科学の産物と神々は別に相性が悪いわけでもないらしく。
人間が作り出したものを、面白く眺めることが出来るらしい。
理科の先生は変わり者で知られているが、それでもきちんと話を聞いてくれる良い先生だ。
ぼさぼさの頭とだらしない白衣が知られているが。
結構いい人だと燐火は思っている。
ただ、女性教師にはあまりもてないらしいが。
それはまた残念なことだと燐火は思っていた。
先生が言うとおりに器具を動かして、実験をする。
既に予習をしている分野だが、実際に手を動かしてやってみると新しい発見があるものなのだ。
なるほど、これは面白いな。
淡々とやった実験についてまとめていく。
涼子も少し調子が悪そうだが、それでも特に問題がない。
「あ、あの、いいかな」
「なんですか」
気が弱そうな女子が声を掛けてくる。
明らかに腰が引けているが、燐火としては別に威圧なんかしていない。
なんでも機器がうまく動かないらしい。
もう使い方は覚えたので、ぱぱっと実演してみせる。
それで、どうすれば動くのかも説明すると、安心したようだった。
「ありがとう平坂さん。 助かった」
「別に問題はないですよ。 いつでも聞いてください」
「え、う、うん……」
やっぱり恐縮されている。
別に威圧なんてしていないんだがな。
そう、燐火は内心で少しだけ困った。
涼子は問題なくやれている。見た感じ、生理痛とかで不調でもなさそうだ。黙々と二人でまとめて。
授業が終わるまでに全て片付いていた。
授業が終わった後も、機器をテキパキと片付ける。
そういえば、こういうので先に動く人間を下に見る風潮もあるのだったか。
偉そうに何もしないでくっちゃべっている男子の方に燐火が行くと、さっとそいつらの顔色が変わっていた。
「な、なんだよ」
「さっさと片付けを」
「そんなの他の奴がやればいいだろ」
「片付けを」
声に威圧を込めると、真っ青になった男子達が動き出す。一番偉そうにしていた太った奴は、転んで、それから立ち上がっていた。
もたついた動きを見ていると、反吐が出る。
だが、こういうのに勘違いをさせないのは大事だろう。そう燐火は思った。
燐火の行動は苛烈に見えるかもしれませんが。
そもそもこういうことは、大人が対応しなければならないことです。
それを今ではやる余裕すらない。むしろスクールカーストなどというものを容認さえしてしまっている。
それはいじめと称した犯罪が横行して、それが野放しになるわけですね。