魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
核心に近い存在が出現します。
それはあくまで引き寄せられての顕現。
そしてその結果、燐火が追っている存在の正体がある程度判明するのです。
かなり大きめのダイモーン。
連続して聖印を切ってたたき込む。瀕死になって、ぼろぼろになりながら逃げようとするが。
背中からたたき込んだ聖印がとどめになった。
爆ぜて、飛び散る。
ふうと一つ嘆息する。これでどうにか片付いたか。
軽く汗を掻いた。それくらいしぶとい奴だった。
だが、駅前の大通り近くで、悪運を無差別にばらまこうとしていた。この辺り、たまに事故が起きることもある。
そんなことをされていたら、何が起きたかわからない。
今回のダイモーンは、人について回っていたのではなく。誰かを破滅させて、それからこちらに来たらしい。
いずれにしても万死に値する。
これをばらまいた人に悪意がないことはわかっているが。それはそれで問題だなあと思う。
ケルベロスが、その思考を読んだのだろう。
素直に謝ってきた。
「すまないな。 手間を掛ける。 多くの人間を不幸にもさせる」
「とにかく、早めにその人をみつけよう」
「そうだな。 今回収したダイモーンはかなり古い奴だった。 ただ……おそらくだが、かなり直近に、ダイモーンを撒いた神と遭遇している」
「!」
それは、大きな情報だ。
最近陰陽師の長倉院親子と一緒にダイモーンの大群を祓ったとき、近くにいた痕跡もあった。
神は言われるほど万能ではないようだし、或いはこの街の中を何かしらの手段で移動しているのかもしれない。
とりあえず物陰でささっと着替える。
連絡は先にしてあるので、カトリイヌさんが来てくれた。さっと残った悪運を祓ってもらう。
力がかなり上がっているようだ。
元々魔祓いとしては燐火より格上だったが。
今も、燐火より魔祓いとしての実力は上なのだろう。
後で合流する。
いくつか、反省点を話し合っておきたかった。
近くの喫茶に移動する。
燐火と違って、カトリイヌさんは相変わらず貫頭衣のままだ。シスターがいる。そんな風に周囲から視線を集めている。
カトリイヌさんはポンを出さなければ普通に美少女……いや、日本人に比べてとても大人っぽいから、美女の方が正しいか。
ともかくとても綺麗なので、衆目は集めている。
喫茶でいくつか話をしておく。
ちなみにドルイドが来る件については、とっくに共有されているようである。
「ああ、あの……」
「知っている人ですか」
「ええ、天才と名高いのに、カトリックからもプロテスタントからも掛かった魔祓いの声を断った有名人ですのよ」
「へえ……」
燐火は別にあまりほしがられなかっただろうし、どうでもいいだろうが。
カトリイヌさんが其処までいうからには、おそらく一神教徒から目をつけられていたのだろう。
ともかく、それなりの問題児らしいことはわかった。
まあ問題児扱いされているのは、燐火も同じだ。
親近感が湧くことはあっても、別に嫌いだとは思わない。
とりあえず、問題児であっても力量があるならそれでいい。
今回、必要なのは。
人間性ではなくて、魔祓いの実力だ。
燐火も人間性を軽視するつもりはない。ただ、今の時点で、苦しんでいる人に憑いている厄介なのを祓えるのだったら。
それは手段を選んではいられないだろう。
他にもいくつか打ち合わせをしておく。
駅前はどうもダイモーンが集まりやすい事もある。ここで仕事をするときの取り決めなどもしておく。
カフェで話していると、日女さんが来る。
呼んではいないのだが。
どうも学校の帰りらしくて、あまり似合わない制服を着ていた。
「おそろいだな」
「どうかしましたの?」
「ああ。 ちょっと面倒なことになってる。 しかも今、林西さんも菖蒲姉も遠出しているタイミングでな」
すぐに来てほしいと言われる。
燐火としても異論はない。
おそらく、これは危急時だ。カトリイヌさんも、護衛二人に声を掛けていた。
そのまま、さっさと行く。
また日女さんは背が伸びたと思う。これはひょっとすると、同世代の男子よりも背が高いかもしれない。
髪の毛をベリーショートにしているし、野性的な顔立ちだが。
髪を伸ばして刃のように鋭すぎる目つきと愛嬌皆無の表情をどうにかすれば、普通に綺麗で通るかもしれなかった。
まあ、燐火にはどうでもいいが。
カトリイヌさんと背もそれほど変わらない。
早歩きの日女さんに、黙々とついていく。
とりあえず、神社に集まる。
他にも何人か魔祓いが来ていた。
「危急時なら、先に連絡していただければよかったのに」
「あ、ダイモーンを魔祓い中と燐火が連絡していました。 それもあって来てくれたのだと思います」
「ああ、そういう」
前は犬猿の仲という雰囲気だった日女さんとカトリイヌさんだが。
今ではそれほど仲が悪そうには見えない。
日女さんは相変わらず野性的で好戦的な雰囲気ではあるのだが。
カトリイヌさんの方が丸くなったように思う。
とりあえず、手を叩いたのは、老僧だ。
魔祓いだろう。
実力はともかく、色々な国籍が混じっているこの組み合わせの中では最年長。いや、セバスティアンさんの方が年上か。
だが、セバスティアンさんはおそらくだがカトリイヌさんの従者という立場を崩すつもりはないだろう。
そうなると、この人が音頭をとるのが妥当という訳か。
「以前スレイプニルが現れた辺りで、また異神の気配だ。 悪神の可能性もある。 対神の能力を持つ魔祓いを中心に集めてほしいと言うことで集まってもらったのだが……」
「明王の加護を得てる林西さんと菖蒲姉は不在だ。 俺は八幡神の加護を受けているが、あくまで魔祓い専門だぞ」
「わたくし達は異神を退けることはどちらかと言えば得意分野ですわよ」
「そうだな。 そうやってずっと他の信仰を弾圧してきたものな」
ぼそりと言ったのは、見たことがないフードをかぶった少年だ。
見た感じ、黒人か。
日本語が流ちょうだが、或いは海外から来ているのだろうか。いや、違う。
胸元にぶら下げているのは、確か翻訳機能付きのスマホだ。
それで即座に双方の会話を翻訳している訳だ。
まだこの手の翻訳機能は専門的な会話には対応していないが、それでもこのくらいの会話ならどうにでもなるのだろう。
「とりあえず私が審神をします」
「そうか、頼むぞ。 悪神でなければ良いのだが」
「……」
この間は、下手をすると死人が出るところだった。
やり方が荒っぽい北欧の神格が悪さをしている気配があるし、気をつけなければならないだろう。
ちなみに審神というのは、どこの信仰でもやる貴方はどこの神、みたいな事らしい。
一神教の文化圏では、主に悪魔崇拝の時にやるらしく。
呼び出した悪魔の正体を確認するために行うのだそうだ。
審神をすると言ったのは、比較的若い巫女さんだ。日女さんより数歳年上そうだが、見た感じ実力は今の燐火と大差ない。日女さんの方が数段格上だろう。
車を自衛隊が用意してくれていたので、乗せてもらう。
何台かに分乗して行くが、いずれもが基本的に軍用車ではないので、そこまで周囲の視線は集めなかった。
黙々と移動する。
燐火はさっきの黒人の子と一緒になったが、向こうはあまりこちらをよく見ていないようだ。
「貴方はどこの文化圏の魔祓いですか」
「俺はブードゥー専門だ。 あんたは」
「燐火はギリシャ系専門です」
「そうかよ。 俺等のことをまだバルバロイだとか呼んでるのか?」
まさかと返すが。
少年の視線は冷たかった。
ケルベロスに聞いているが、ギリシャは昔中華思想をこじらせたあげく、ギリシャ語文化圏以外の人間をことごとく見下し、バルバロイとか呼んでいたとか。
この少年のブードゥーは確かハイチに連れてこられた奴隷の人々が。元々の信仰と一神教を混ぜ合わせて作り出したものだったか。
ゾンビなどが有名だが、あれは確か実際には薬で仮死状態にしてよみがえらせるものであって。
死者がよみがえって人を襲うようなものではなかった筈。
そもそも色々な信仰がごった煮である上に、苦労も重ねてきているだろう。
魔祓いとしてこの若さで来ていると言うことは。
或いは出稼ぎかもしれなかった。
この場に呼ばれていると言うことは、おそらく合法的な出稼ぎだろうか。
文字通り「湯水のごとく」清潔な水を使える様子を見て、好ましく思わない人は少なくないと聞いている。
この少年もそうかもしれない。
「少年よ。 そなたに憑いているのはロアか」
「ああ。 偉大な祖霊だよ」
「話せるか」
「俺経由でならな」
ケルベロスの声も聞こえているか。
ちなみにロアというのは、ブードゥーの信仰で扱う霊的なもので、色々役割があるらしい。
一神教の影響も受けているから、純粋な意味でのアフリカでの信仰とは違っているらしいが。
少なくともゾンビ映画などで喧伝されたような、悪辣な邪神ではないそうだ。
現地に到着。
スレイプニルの時にこの国も対策のギアを一段上げたらしく、既に其処でも数人魔祓いが来ていた。
いずれにしても、セバスティアンさんと日女さんがいるし、どうにかなるだろう。
燐火はさっと展開して、様子をうかがう。
あれは、なんだ。
「今度は人型か……」
「かなり強い力を感じるな」
「対神能力を持つ魔祓い、前に!」
「先に話を試みてみます」
先に審神が出来ると言っていた巫女の人が前に出る。燐火はいつ戦闘が始まっても大丈夫なように、既に備えていた。
何か話し始める。
順番に言語を試していくが、やがて聞いたこともない言葉に反応していた。
ケルベロスがぼやく。
「あれはバビロニア語か……?」
「それって確か形に残る中では最古の文明だよね」
「ああ、そうだな。 勿論神話の原型は更に古くまで遡ることが出来るのだが、バビロニア神話のティアマトは記録に残るものとしては蛇の系統の最古の神だし、マルドゥークも同じように牛の神としては最古のものだ。 勿論記録に残らないものとしては、もっと古いものもいるがな。 ただ既にこれも物語になってしまっている。 力などない筈だが……」
蛇の神と牛の神か。
神々の中の二大派閥。燐火も既に聞かされている。
いずれにしても、話は聞き取った方が良い。
「ええと、これか。 うわ、雑音が酷いね」
「俺もバビロニア語はわからん。 翻訳してくれると助かる」
貸し出されている翻訳用スマホの設定を合わせると、かなり片言だが、会話が流れてきていた。
ええと、何々
我はイシュタル。
うげと、ケルベロスが呻く。
小首をかしげると、心底嫌そうに言った。
「豊穣信仰には性行為と信仰を結びつけるものがあってな。 イシュタルはその元祖と言ってもいい存在だ。 娼館を神殿とし、巫女は娼婦でもあった。 重要な催事では、王と巫女の長である娼婦が性的な行為に及び、それを使って占いとした。 その流れを組んだ神は世界中のあちこちにいるのだが……」
「あいつが涼子ちゃんに悪さをしている相手では……ないかな。 気配が違う」
「そうか。 いずれにしても、お帰り願うべきだろう」
「待って。 何か大事なこと話してる」
ええと、何々。
イシュタルは、敵意はないらしい。
この地にも興味がないとか。
なんでも、この地である程度知名度があるので、少しだけ様子を見に来たが。
正直なところ、イシュタルのお眼鏡にはかなわないそうだ。
それはよかったと言いたいが。
その理由はなんとなくわかる。
現在、燐火の世代は、おそらく三割も結婚しないのではないか、とまで言われている。
男と女の間で壁が出来ているからだ。
この流れはお父さんのちょっと上くらいの世代からあったらしいのだが。
色々な理由が重なった結果、とにかく男女の間に壁が出来た。
特に女性がそれを助長した。
自分は選ばれて当然。
男を選ぶ権利は自分にある。
そんな考えを持った傲慢な女性が増え、自分より下と見なした男は人間とみなさない。そういう事が平然とまかり通るようになった。
価値観として、上か下か、みたいなものが絶対視されるようになったのも理由としてはある。
燐火が当たり前のように見てきた邪悪なスクールカーストも、肯定されるようになったのは結構最近だそうである。
あることを当たり前として誰もが受け入れるようになった結果。
スクールカースト上位の女性は、社会に出ても自分が何でも好き勝手を許されると思い込むようになった。
それを見て、面白くないのは男性も同じだ。
今では女性を基本的に避ける男性も珍しくない、ということである。
そういう状況をイシュタルは見てきて。
この土地の男女はなんとくだらぬことか、と吐き捨てていた。
燐火としてはよくわかる。
おとうさんとおかあさんだって、結婚するとき色々あったらしい。おとうさんはロリコンだとかなんだとか、色々陰口をたたかれたそうだ。
あんなに仲が良い夫婦なのに。
おかあさんはずっと警察の仕事で忙しいのに。
周囲の「ママ友」だとかいうネットワークでは、基本的におかあさんの事を悪くしか言っていないらしい。
自分らのコミュニティに加わらず。
仕事ばかりしているのが気にくわない、らしいが。
小学生とほとんど脳が同じである。
子供と全く脳が変わっていない。性欲が追加されたくらいだ。
これでは涼子が母親を嫌い、自分の中の女を嫌悪するのもわかる。あんな連中と同じには、絶対になりたくないと感じても不思議ではない。
審神の巫女さんは咳払いすると、聞く。
「偉大なる豊穣神イシュタルよ、それではなにゆえに降臨なされたのです」
「少し言葉が通じにくいな。 ええと、なぜ来たかくらいでいいか。 こちらには敬意が伝わっていないが、それでもある程度意思がわかるから許してやろう。 私に近しい存在が、この地にて活動している。 故に私が引き寄せられた、というところだ」
「引き寄せられた……」
「同じような状態にある神もいるかもしれぬな。 いずれにしても、引き寄せたものは意図的にそれをやった可能性が高い。 この最果ての地に興味はないが、精々気をつけることだな」
まあ、それもそうか。
勿論古代社会でも差別や分断はあっただろう。
だがケルベロスに聞かされたことがある。
昔は母系信仰というのがあり、蛇の系統の神はそちらに属することが多かったのだという。
そういった社会では女性は一定の地位を持っていて。
社会に影響力を強く持っていた。
遊牧民などはこの傾向が強く。
女性の社会的地位が、後々までずっと強かったらしい。
現在はすっかり遊牧民は各地の少数民族になってしまっているが。世界を征服しかけたこともあるのだ。
燐火としては、なるほどと思うばかりだ。
いずれにしても、イシュタルはこの地への滞在を臨んでいないし。
審神の巫女の人が声を掛ける。
この地を離れるための儀式をするためである。
何人か神道系の魔祓いが出て、なんだろう。
地鎮祭だったか。
そういうのみたいのを組み始める。
日女さんも、かなり手際よくそれを進めていた。
「ほう。 これは面白いな。 今ではこのようにして、神を祀り、或いは帰路へ誘うのか」
「はい。 いくつか手段はありますが、正式な方法でこうしてお帰り願う方法をとります」
「面白い。 私も呼ばれただけで、民に害を為すつもりはない。 儀式とやらを見届けたら、それで帰るとする」
やがて、巫女の人が大艸を振るいはじめ。
それで祝詞を唱える。
バビロニア語で翻訳されているようだから、きちんと伝わっているはずだ。
もしもこれでイシュタルに帰る気がないのだったら、当然通じないだろうが。イシュタルは、元々ここに滞在するつもりがない。
ぼやけた人型、くらいの姿ではあるが。
やがて、薄着の豊満な体型の女性であることが、なんとなくわかってきた。
ケルベロスがいくつか教えてくれる。
イシュタルは戦神でもあり。
気に入った男をつまみ食いしては、飽きたら捨てるような神でもあるそうだ。
それは悪い意味では淫売だが。
良い意味では奔放であるともいえる。
そういえば。
昔の漫画なんかでは、そういう女性キャラクターが一定数いたというような話がある。現在ではほとんど見なくなったようだが。
漫画は馬鹿に出来ない。
漫画などの文化は、人々の心を写す鏡だ。
Vtuberとして活躍しているおとうさんが、それは何度も言っていた。
今のVtuber文化は、そういった鏡としての側面も持っている。
だから、決して馬鹿にしたりせず。
どういうものかを見極めてほしい、と。
燐火もそれはわかっているので。
おとうさんの仕事を馬鹿にするつもりは毛頭ない。
とりあえず戦闘をする可能性はないか。
いや、そうでもない。
ダイモーンが集まってきている。
ケルベロスが、警戒を促した。
「燐火!」
「うん!」
「ダイモーンだ!」
誰かが叫ぶ。
雑魚ばかりじゃない。それなりの数がいる。
カトリイヌさん達が壁を作る。燐火は、即座に魔祓いを開始した。
愛用の魔法のステッキ(鉄パイプ)を取り出すと、聖印を切る。連続して。雑魚は最近では、まとめて数体消し飛ばせるようにもなったが。
大きい奴は、簡単には倒れてくれない。
うめき声を上げながらこっちに来るのは、明らかにカコダイモーンだ。物量がちょっと多すぎる。
しかし、光の壁が作られて。
その進路を塞いでいた。
カトリイヌさん。まあカトリイヌさんはおまけで、主力は後ろにいる護衛二人だが。
それに、黒人の少年も、聞いたことがない言葉で、何か唱えている。
そして、何か飛ばしたようだ。
あれがロアかもしれない。
いずれにしても、複数人の魔祓いが、ダイモーンを押さえ込む。
燐火は立て続けに聖印を切って。それでダイモーンを次々に打ち払った。今ならカコダイモーンでも対処できる。数が多すぎるから、一人では押さえ込むのは難しかっただろうけれど。
この人数が支援してくれるなら。
大きめのが、一体爆ぜ割れる。
更に、もう一体が全身からどす黒い悪運をばらまきながら、咆哮する。
一般人には全く聞こえていないだろう。
だが、辺りを震わせるような強烈な咆哮だ。
しかし関係ない。
そのまま聖印をたたき込んで、何度も破裂させてやる。もがいていたカコダイモーンが、やがて砕け散っていた。
汗が流れる。
大物を祓うと、どうしても消耗が大きい。
体力には自信がついてきたのだが、それでもだ。
別に体力勝負と言う訳ではなく、こういうのは精神力を如何に維持するか、でもあるらしく。
燐火の場合はまだまだ精神力と体力の交換が上手に出来ていないらしい。
つまりまだまだ精神修養が足りていないのだ。
それもあって、消耗が大きくなる。
だから集中する。
どれだけでも来い。
全部やっつける。
聖印を切り、迫るダイモーンを打ち払う。
三十体は倒しただろうか。大きいのはとりあえず、全部やっつけた。
後ろから、声が聞こえた。
「ギリシャ系の魔祓いよ」
「……燐火です」
「燐火というのか。 その奮戦、まだ未熟ながら見事である。 褒美をつかわす。 どうやらそなたの友を苦しめている者がいるようだな。 そやつこそが、私をこの地に引き寄せた存在である。 だが、油断するな。 そやつは今や悪神と化し、古くの豊穣の神としての心を失っている。 狡猾に隠れていて、そなたの友の中に直接住んでいる訳でもない。 うかつに手を出せば、体を粉々に砕かれるかもしれぬ。 くれぐれも、気をつけるのだ」
「わかりました」
どうやら、イシュタルは帰ったらしい。
カトリイヌさんが、光の壁を別方向に展開。
まだ蠢いているダイモーンの退路を塞ぎに掛かった。
敗残兵狩りだ。
イシュタルにお帰り願っていた神道系の能力者も、ダイモーンを抑えるべく、攻勢に転じてくれる。
後は、残った雑多なダイモーンを始末するだけだった。
本作では古代神格ほど強いというようなルールはありません。
ただ、古代神格というのは歴史の足跡であり、後の時代の神話の原型でもあります。
だからそれが言うことは、大きな意味を持っています。
つまり悪神の正体に、これ以上もなく迫れる。そういうことです。