魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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ヘラクレスが取り逃がした強大な悪神。

それが何者であるかはまだ燐火は知りません。

ただ、それが淫魔に近い事を知るとなると。

どうしても身近の異変に考えが及ぶことになります。





邪神悪神魔獣
序、ヘラクレスの伝言


燐火は朝起きてルーチンの鍛錬をしていると、ケルベロスに聞かされる。

 

昨晩ヘラクレスさんが来て。

 

それで伝えられた話を、だ。

 

今、ダイモーンの駆除はある程度軌道に乗っている。だが、それが妙な方向へ動いているといえる。

 

ダイモーンはどうにか出来る。

 

だが、どうもあらゆる意味で、周りがおかしいのだ。

 

日女さんも、色々と神々が騒いでいると話をしていた。

 

ヘラクレスさんが言っていた、悪神に成り果てた存在。淫魔に近い者。それが中心にいるのではないのか。

 

ヘラクレスさんが取り逃がしたほどの相手となると。

 

簡単にはいかないはずである。

 

「確かヘラクレスさんって、あのアトラスに代わって天を支えたことがあったよね」

 

「ああ、十二の難行の一つでな」

 

「だとすると神々でも上位の力持ちって話になるよね」

 

「……そうだな」

 

ヘラクレスさんの逸話については、燐火も調べた。

 

十二の難行では荒っぽいやり方で問題を解決しているが、その力強さが尋常ではない。

 

とにかく圧倒的に強いのだ。

 

世界の神話でも、最も有名な英雄の一人というのも頷ける。

 

本人は思ったより温厚そうな人だったけれども。

 

それも戦いになると容赦はしないだろう。

 

そういう意味で、今の日本にはほとんどいなくなった本物の戦士であるし。

 

燐火としても尊敬できる人だ。

 

だが、そんな人が取り逃がした。

 

やはり相手は、かなり高位の神様ではないのだろうか。

 

この間、名前が挙がったフレイヤ。

 

燐火も調べてみたが、北欧神話というのは設定が滅茶苦茶に混線していて、エピソードも混沌の極みである。

 

元々テュール信仰、トール信仰、オーディン信仰をそれぞれ強引にまとめたものなのだから仕方がないが。

 

いわゆる霜の巨人……ヨトゥンヘイムの住人達である巨人は、ヴァン神族と呼ばれる神と同一とも考えられることが多いようで。

 

フレイヤやその兄のフレイは、ヴァン神族出身とされている。つまり巨人族出身者であるとみて良いのかもしれない。

 

巨人は北欧神話では度々登場するが、必ずしも非理性的なモンスターではなく、むしろ知恵で世界でも屈指の有名な雷神であるトールを撃退した者もいたりと、決してただの悪ではない。

 

北欧神話で巨人とされる存在は。

 

恐らくは、古代の別の信仰であり。

 

それを無理に北欧神話に取り込んだ結果、神話が混線しているのだろう。

 

こういう神話の混線はよくあることらしいのだけれども。

 

フレイヤはつまり、最初の信仰から北欧神話に貶められ。

 

更に一神教にも貶められたのかもしれない。

 

だとすれば、性格がひねくれるのも仕方がないのかもしれないが。

 

それはそれとして。

 

多々迷惑を掛けている事。

 

おそらく人も多数殺しているだろう事を、看過は出来ないのも事実だった。

 

鍛錬をしつつ、話をケルベロスとする。

 

「まだフレイヤかどうかはわからないとしても、いずれにしても相手はヘラクレスさんの手を逃れるほどの強者だよね。 早く捕まえないとどうなるか……」

 

「そうだな。 俺が思っていたよりも手強い相手のようだ」

 

「ケルベロスだったら勝てる?」

 

「なんとも言えん。 ただ、奴は燐火には感じ取れても俺は感じ取れぬ。 不意を突かれると危ないかもしれないな」

 

そうか。

 

それほど危険な相手か。

 

無言で鍛錬を終える。

 

軽く汗を掻いたと言いたいところだが、軽く汗を掻く程度にケルベロスが管理してくれている。

 

それが朝やるにはちょうど良い程度の鍛錬だ。

 

今の体力で、それが出来るだけ動く。

 

そういう意味で、毎日内容は厳しくはなってはいるのだが。

 

燐火としては、鍛錬で出来ることが増えていくこと。

 

精神修養で集中力を上げられること。

 

それが少しずつ面白くなっているので、苦にはなっていない。

 

今日の授業に必要なものをそろえて、鞄に突っ込む。

 

もう少しで梅雨が来る。

 

移動中、連絡があった。

 

おかあさんからだった。

 

あの金木麗美が死んだらしい。

 

元々精神病院の隔離病棟で、ずっと凄まじい暴れ方をしていたそうで。連日理性も何もなく喚き散らし続けていたそうだ。

 

それで何か激しく興奮したらしく。

 

脳の血管を切ってそのまま死んでしまったらしい。

 

何でもそれまでに、死んだふりをして何度も看護師に襲いかかっていた前科もあったので、対応が遅れた。

 

それもあって、もう手遅れだったそうだが。

 

遺体を引き取りに来る人間など当然おらず。

 

無縁墓地に葬られたそうだ。

 

そう、とだけ思った。

 

今の燐火だったら、あいつの頭をかち割るまで瞬き一つ掛からない。取り巻きごと全部たたんでやれる。

 

それが絵空事ではなく可能になっている。

 

なんで皆があんなのの顔色を皆がうかがっていたのか。

 

そう思えるくらいには余裕は出来ていた。

 

それにケルベロスの話では、地獄は本当にあるらしい。

 

あれが地獄に落ちるのは確定だし、それでいい。

 

地獄で永遠に焼かれていろ屑。

 

それだけしか言葉はなかった。

 

燐火が黙々と通学路を歩いていると、男子生徒が顔を引きつらせて走って行った。相当恐れられているらしい。

 

どうでもいい。

 

周囲に、とことん興味がない。

 

ケルベロスが少し呆れた。

 

「情報を集めることに興味を持つのは良いが、ああいった相手には一切興味を持たないな」「興味が偏っていることはわかっているよ。 でも、ああいう輩の誤解を解いて何か意味があるのかなって思ってね。 へりくだってみせれば、自分より下だと錯覚する。 だからといって、あんなのを従えようとも思わないし。 対等って概念を理解できない相手に、何を話しても意味がないと思うし、それを教えるのは燐火の仕事じゃないし」

 

「気持ちはわからないでもないがな」

 

「いずれにしても、去るなら追わない。 それだけ」

 

ケルベロスは何か言いたそうだったが、何も言わなかった。

 

燐火は学校に着くと、丁寧にロッカーや机を調べる。異常なし。教科書などを出していく。

 

涼子がちょっと疲れた様子で登校してきた。

 

挨拶を交わす。

 

軽く話して、何か忘れ物がないかを確認。休みが増えていると言っても、二日に一回とかのペースではない。

 

ただ涼子は中学受験をするつもりだったようだが。

 

この登校日の少なさだと、ちょっと厳しいという話が出始めているそうだ。

 

だが、涼子の学力だったら、どこの私立でも行けるのも事実。

 

受験が必要ないような学校に行けば良いだけのことだろう。

 

いずれにしても良家のお嬢様なんてのが、実態はろくでもない場合も多いことは、金木のカスの例で燐火は知っている。

 

別に中学受験なんてしなくても良いだろうと思うが。

 

「そういえば涼子ちゃんは、大学は良いところを狙っているんですか」

 

「そうだね。 東大行きたいけど、今の学力だとまだ足りないかな……」

 

「東大ですか……」

 

確かに東大まで行けば、いける先は多くなる。

 

特に涼子は司法関係者を狙っているようだし、大いにありだろう。

 

ただ司法試験は、5000時間勉強してやっと勝負の土俵に乗れる世界だという話を聞いている。

 

それを考えると、東大に入ることだけが正解ではないようにも思う。

 

燐火はそこまでは望んでいないことを話す。

 

というか、魔祓いとしてはある程度順調だ。

 

この間国と正式に契約をしたこともある。

 

実際には、このまま平穏に過ごしていけば、生活できる資金程度だったら普通に貯まるだろう。

 

おとうさんとおかあさんはきちんと頼ってくれて良いと言ってくれている。

 

それはとてもありがたいのだが。

 

燐火としても、自立はしたいのだ。

 

今の時点ではやはりエリートコースの公務員を狙いたいところではあるのだが。

 

しかしそれも、学閥だとか家格とか馬鹿なことを言い出さないと良いのだが、とちょっと思っている。

 

それで国政に関与できるようになったら。

 

相応に、今の社会にはびこる不正に対して、鉄槌は下したかった。

 

まあそれは今言っても仕方がない。

 

いくつか話した後、ホームルームから、授業に入る。

 

今の時点での勉強は特に難しくもない。

 

軽く勉強をこなして、それでしっかり復習しておく。

 

授業の内容は完全に把握しているが、細かいところで忘れているような場所もある。だから復習は大事だ。

 

黙々と授業を終えて。

 

それで次の授業の準備をする。

 

新しいスマホを買ってもらったらしいクラスメイトが、動画とかがどうのと自慢していたが。

 

全く興味なし。

 

他の生徒の大半が興味を持っているようだったが、燐火と涼子が見向きもしないのを見て。

 

それで露骨に舌打ちしていた。

 

ただ、怖いのだろう。

 

今まで燐火に何人締められたかわからないという話もある。

 

それで、燐火に絡んでくることはなかった。

 

体育の授業が午後からあるが。

 

それで、六年の男子程度では、もう燐火にあらゆる科目で歯が立たなかった。唯一勝てる分野があるとしたら握力くらいだろうか。

 

話にならんな。

 

100m走でへばっている男子を見て、興味も持てない。

 

黙々と体を動かして次の体育の競技について備えていると、気弱そうな女子が話しかけてきた。

 

いつも隅っこで静かにしているおとなしそうな女子だが。

 

明らかに周囲と関わって何か落ち度が起きないか、恐れている様子だった。

 

スクールカーストが常態化した結果、こういう子はどうしても出てくるようになってきている。

 

クラスの中で位階が作られ。

 

それは絶対とされるのが当たり前の世界。

 

一軍女子なんて言葉があるような時代だ。

 

そいつらは何をするのも許される。

 

ただ、この学校では異質だ。燐火がいて、そういう連中に対して、好き勝手は一切させないし。

 

学校の側でも、スクールカーストなんて何の意味もないと、常々言い聞かせている。

 

ただそれでも、こういう子は出てくる。

 

燐火としても、別にこの手の子に冷たく当たるつもりはない。

 

「何か?」

 

「え、ご、ごめんなさい……」

 

「いや、要件があるのでしょう。 別に怒ってもうっとうしいとも思っていません。 何でも聞いてください」

 

「う、うん……」

 

ひ弱な子だな。

 

何度か視線をさまよわせた後、聞いてくる。

 

どうしたら、そんなに運動できるようになるの、と言われた。

 

燐火はケルベロスと相談する。

 

勿論、それはこの子には聞こえない。

 

「どう答えようか。 この子の体力、多分燐火の十分の一もないけど」

 

「運動はどうしても素質が影響する。 出来る奴は何もしなくても足が速い。 燐火も出来る側の人間だ。 この子はさっきまでの様子を見ていたが、おそらく運動は出来ない側だろうな」

 

「だとすると何やっても無駄って言うの?」

 

「いや、努力次第ではある程度は伸ばせる。 具体的に何の運動をしたいのか、聞いてみろ」

 

そういうものか。

 

とりあえず、何の運動をしたいのか。

 

どううまくなりたいのか、聞いてみる。

 

その子。市原日根見という名前だが。

 

恐る恐る言う。

 

早く走れるようになりたい、と。

 

とりあえずさっき走るのを見ていたが、決定的に体力が足りない。燐火もどちらかというと最近鍛え始めたが、周りに追いつくためにそれこそ一秒の無駄もないという感覚で努力をした。

 

ケルベロスにアドバイスを受けて、順番に説明をする。

 

一朝一夕で早くなるのは無理。

 

まず朝などに走って体力をつける。体力がないとどうにもならない。

 

後は歩くとき、走るときのフォーム。

 

見本を見せる。

 

こういう歩き方で日頃から癖を直しておく。

 

その歩き方だとどうしても速度は出ない。

 

だから、こうする。

 

そういって、いくつか指導をした。丁寧に指導をしたつもりだが、それで覚えられるだろうか。

 

確か市原さんは勉強はそれなりに出来るはず。

 

ただ、実践してもらうと、上手に出来ているとは言いがたい。

 

其処で、燐火のやる様子をスマホで撮影してもらい。

 

市原さんのやる様子も撮影して、比べて見せる。

 

それで、本人がある程度理解できたようで。少し上達した。それだけでは早くはならないが。

 

それでも役には立つはずだ。

 

「努力しろなんて言葉だけで片付けるのは論外ですが、とりあえず今見せたとおりに練習してください。 出来る範囲で大丈夫です。 練習すればそれなりに成果は出ますが、個人差があります」

 

「う、うん、ありがとう……」

 

「いいえ、問題ありません」

 

周囲の生徒が、なんだか異物でも見るような目を向けてきていたが。

 

燐火が見返すと、ひっと声を上げて散っていった。

 

涼子が来て、軽く話す。

 

「怯えられているね」

 

「どうでも良いですよ。 むしろ絡んでくるカスがいなくてそれで気が楽ですし」

 

「容赦ないなあ相変わらず」

 

「それより、今日は大丈夫ですか?」

 

燐火が見たところ、例の奴はいる。

 

いるのか、それとも何かしらの足がかりにしているのかはわからないが、明確に気配がある。

 

ニンフォマニアという涼子の状態の診断や。

 

なにか涼子に仕掛けている悪神が淫魔に近いという話を聞くと。

 

どうしても心配になる。

 

欲求の量なんて、人それぞれだ。食欲が多い、睡眠欲が多い、性欲が多い。別に過剰でなければそれでいいだろう。

 

燐火はそれについてどうこうというつもりはない。

 

ただ過剰なのは問題だ。

 

それは人を壊す。

 

金木のカスどもだって、度が外れた権力欲と金銭欲がなければ、あんな風にはならなかったのではないかとも。

 

涼子は今日は大丈夫と言うけれど。

 

あまり燐火には大丈夫そうにはみえない。

 

いずれにしても、どうにかしてやらないといけない。

 

燐火にとっては。

 

大事な学校での友達なのだから。

 

その日から、市原さんとは時々話すことが増えた。

 

一度喋ると、思ったよりずっと知的で、ものもよく知っている。話を聞く限りは、かなり面白い。

 

「常識」だとか「ブーム」しか知らないような人間より、話していてなんぼでも有益である。

 

少し古いゲームなどの知識にも詳しい。

 

燐火はそういうのは全然知らないので、色々と参考になる。

 

ただ、「周りと違う趣味を持つ」事は、スクールカーストでは邪悪とされるらしいので。市原さんには居場所がなかったし。

 

変なものを見る目で見られてからは。

 

周囲に一切関われなくなったという話だった。

 

三人で帰りながら、そういう話をして。

 

燐火はより強く怒りを覚えた。

 

この国は古い時代の悪しき面を今によみがえらせようとしている。

 

はっきりいって、これはただの抑圧だ。

 

しかも今でも、会社なんかは「何でも出来て何に対しても忠実な奴隷のように使い捨てられる新人」なんてものを求めていると聞く。

 

そんなものがいるわけがないだろうに。

 

スクールカーストとかいうゴミを受け入れてしまっている時点で駄目だ。

 

これをどうにかしないと、未来なんかないだろう。

 

二人と別れると、燐火はケルベロスと軽く話す。

 

「やっぱりスクールカーストとかいうのは、ぶっ潰す以外にない」

 

「この国は民主制を取り入れているのに、確かにそれと真逆の制度だ。 馬鹿馬鹿しくて話にもならんな」

 

「確かケルベロスが信仰されていた時代のギリシャで民主制って出来たんだよね」

 

「民主制とは名ばかりであったがな」

 

そうか。

 

いずれにしてもあまり良い気分はしない。

 

やはり、この国を変えられるくらいの立場が必要だろう。

 

総理大臣なんかは、実際には出来ることが限られている。この国の政治家は極めて無能だ。

 

それは国会中継の動物園ぶりを見ていれば理解できる。

 

だとしたら、この国を実際に動かしている上級公務員しかあるまい。

 

燐火は決める。

 

馬鹿げたスクールカーストを叩き潰すために。

 

この国の最上位に近い場所まで行く。

 

全て実力で、だ。

 

それには涼子と並ぶくらいの学力がないと駄目だろう。更に精進しないといけないと判断した。

 

それに、ダイモーンも片付けなければならない。

 

その背後で暗躍している悪神も。

 

やることが少しばかり多いが。

 

それでも、必要なことだった。







新しい燐火の友人、市原日根見さん。

元々同じクラスの生徒でしたが、とにかく周りから白眼視され続けて萎縮してしまった子です。理由はとてもくだらないこと。色々なことを知っている。それだけです。

どうも世の中には自分が知らないことを知っている相手は不愉快であるというような理解不能な思考をする存在がいるようでして、こういう物知りな子は却って迫害されたり嘘つき呼ばわりされたりします。

こういう現象をバケツの中の蟹の足の引っ張り合いみたいだとかいう事もあるらしいですね。

ともあれ。燐火にこのとき助けを求めたことで、日根見さんの運命が良い方向に動いていくこととなります。




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