魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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頻度が上がる複合魔の出現……!

元々本作での魔祓いは文化圏ごとに必要であるため、別文化圏の魔が合体している複合魔は、対処に複数の魔祓いがどうしても必要になります。

そういう意味では、とても大きなリソースを取られる厄介な相手だといえますね。





1、複合魔は再び

カトリイヌさんが、連絡を入れてくる。

 

家に帰ってすぐだ。

 

電話に直に連絡である。

 

はっきりいって、かなり心配だと言える。

 

「どうしました」

 

「すぐに来てくださいまし。 位置は送りましたわ」

 

ドゴンと、爆発する音。

 

これはちょっとただ事ではないな。

 

即座に電話を切って、位置を確認する。街の外れか。今の音も、燐火にだけ聞こえたのかもしれない。

 

おとうさんに、出かけてくると告げる。

 

今料理中だったから、手伝おうかと思ったのだが。

 

おとうさんも燐火の顔を見て、急用だと悟ったのだろう。行っておいでと、送り出してくれた。

 

カトリイヌさんは最初のような嫌悪感はない。

 

向こうが認めてくれたというのもあるのだろう。

 

それから態度がとても柔らかくなった。

 

こちらとしても、今は敵意は感じない。

 

とにかくこれは着替えている暇もないな。魔法のステッキ(鉄パイプ)を鞄に刺すと、現地に。

 

途中、日女さんからも連絡があった。

 

「今俺もそっちに向かっている。 先に現場に着きそうか」

 

「はい。 どうにかなりそうです」

 

「わかった。 とにかくやばい気配だ。 急いでくれ」

 

この有様だと。

 

いきなり総力戦か。

 

走る。

 

黙々とひたすらに。

 

すれ違った奴が、確か一個上の女子だったか。

 

去年いじめを行う男子をぶちのめした時。いじめられる側が泣く様子を見てにやついていた女だ。燐火が介入。容赦なくいじめを行っていた男子をたたき伏せたが。燐火にぶちのめされた男子を見て、それで真っ青になっていた。

 

燐火を見て、ひっと露骨に悲鳴を上げていた。

 

どうでもいい。

 

さっさと走る。

 

あいつを見ていても、いじめを普通の人間が好んでいて。だからなくならないのだとよくわかったっけ。

 

カスの生態への解像度が上がっただけでも、有意義だ。

 

それ以外に存在価値がないから、さっさとこの世から消えてくれると良いのだがと燐火は思った。

 

ともかく走り、現地に。

 

立て続けに爆発音が起きている。だが、周囲がそれに気づいている様子はない。

 

ダイモーンの気配だと、ケルベロスはいう。

 

ただし、である。

 

「今回は逆だ。 ダイモーンは極めて弱い。 これはおそらく、一神教の悪魔が主体だとみて良いだろう。 いや、それだけではないな。 この国の魔も混じり合っているようだ」

 

「そうなると、日女さんも連携しないと倒せないね」

 

「そうだな……」

 

それぞれの文化圏の魔には。

 

それぞれの文化圏の魔祓いが必要になる。

 

面倒だが、それが事実だ。

 

だからこそ、色々な魔祓いを抱えておかなければならない。複合型の魔は滅多に出てこないらしいのだが。

 

現地が見えてきた。

 

これは、カトリイヌさん達、押されているな。

 

それにしても戦っている相手。

 

なかなかにまがまがしい姿をしている。

 

頭が三つ、腕が六つ。背中からコウモリの翼。足下はムカデのようになっている。悪魔が主体のようだが、それにダイモーン。この国の魔。

 

「本当に色々混じってるね、あれ」

 

「ああ、ムカデのが日本の魔か? いずれにしても尋常な相手ではないぞ。 気をつけろ燐火」

 

「わかってる」

 

山の中で、斜面を滑り降りる。途中で何度か跳躍して、速度を落とす。

 

倒れているカトリイヌさんを見つける。

 

完全に伸びている。

 

息はあるな。

 

前に助けてもらった事が何度もあるから、今度は燐火が守る番だ。セバスティアンさんと、もう一人の若い護衛。それに、数あわせの一神教系の魔祓いが何人か。だが、セバスティアンさんでさえ防戦一方の相手だ。これでは確かに勝ち目はないだろう。

 

「平坂燐火、到着しました!」

 

「ありがたい! ダイモーンをお願いします!」

 

「わかりました!」

 

即時対応開始。

 

聖印を切って、ダイモーンを叩きに入る。

 

見るとセバスティアンさん達は、壁を展開して必死に複合魔の攻撃を防ぎながら、悪魔に対して天使の力で魔祓いを仕掛けているようだが。どうもダイモーンと日本の魔が総合的に力を与えているようで、受けたダメージを即座に回復されたり、魔祓いが防がれているようだ。

 

ダイモーンへのダメージも、聖印を使っても通りにくい。

 

これは、厄介な相手だ。

 

吠え猛る複合魔。

 

街に出すわけにはいかない。

 

こいつくらいになると、多分物理干渉能力も持っている。此奴とやりあうとなると、しゃれにならない被害が出る。

 

それこそ何十人も死ぬだろう。

 

そうはさせてたまるか。

 

走って側面に回り込む。

 

ムカデになっている下半身がしなるように動いて、燐火に襲いかかってくる。有効打を与える手段がないが、少なくとも気は逸らせる。

 

木を蹴って跳躍。

 

ムカデの巨大な顎を回避。

 

顎が木をかみ砕くのを横目に、走り続ける。

 

次は翼を上からたたき込んでくる。

 

まるで鎌のように鋭い翼だ。

 

走りながら回避。回避回避。立て続けに飛んでくるそれは、一発でももらったら即死だろう。

 

痛い痛いと呻いている魔祓い達は、防ぐことも出来ずにやられたというわけだ。

 

紙一重でよける。

 

ケルベロスが幸運を操作してくれているから出来ている面もある。だが、ケルベロスがまずいなとぼやく。

 

「ヘラクレスと連携するレベルの相手だ。 日女か菖蒲が来ないととてもではないが勝ち目はないぞ」

 

「時間稼ぐ」

 

「ああ、それしかない。 ともかく、隙を見て聖印をたたき込め」

 

わかっている。

 

立て続けに聖印を打ち込んで、それでダイモーンにダメージを入れる。

 

ケルベロスが、あいつはバランスが崩れると、後はもろいと言っていた。

 

三体の、或いはもっと多いかもしれないが。

 

それぞれの魔が絶妙に相互補完しているようで、面倒極まりない連携をしているようだ。

 

人為的に作られたものか。

 

燐火は一瞬思ったが。

 

これはちょっと、人為的に作るにしては殺傷力が高すぎる。

 

都会にでも逃げたら、対応できないだろう。

 

それこそ千人単位で人が死ぬはずだ。

 

横殴りに噛みついてくるムカデの頭を蹴って跳躍し、とんぼを切って着地。それで頭にきたのだろう。燐火に猛攻を仕掛けてくる複合魔。

 

三つある頭から、おそらく悪運だろうものを連続でたたき込んでくる。

 

まともに浴びたら、ケルベロスの幸運が相殺されかねない。

 

とにかく走る。

 

その間もセバスティアンさん達が連続して魔祓いを仕掛けているが、やはり決定打になっていない。

 

矢が、その時突き刺さっていた。

 

バイクに乗って、ここまで乗り込んできた人。

 

バイクを運転しているのは菖蒲さんだ。意外とワイルドなことをする。多分オフロード仕様のものだろう。

 

菖蒲さんが再度放った矢が、ムカデに突き刺さった。

 

悲鳴を上げて、ばたんばたんとムカデが暴れる。

 

更に、もっと鋭い矢が、ムカデに打ち込まれた。

 

高台にいる日女さんだ。

 

おそらく仏教系の魔祓いの言葉を、印を切りながら菖蒲さんが唱える。

 

今のは、おそらく日女さんのが致命傷だった筈だ。

 

ムカデが急速に弱っていく。

 

唸りながら、無数にある腕を振り回す複合魔。

 

その腕を、巨大な恐ろしい形相の神格が、押さえ込んでいた。

 

愛染明王。

 

そう菖蒲さんが呼んでいた。

 

なるほど、これが。

 

菖蒲さんを支援してくれている明王か。林西さんの不動明王ほど有名ではないが、かなり有名な明王であるらしい。

 

燐火はがっぷり四つに組んだその下をくぐり抜けながら、聖印を切る。

 

それが、ダイモーンに直撃したようだった。

 

悲鳴を上げながら、ダイモーンが爆ぜる。

 

まだ倒しきれないか。

 

愛染明王と魔の集合体は互角の押し合いをしている。

 

攻勢に出たセバスティアンさん達が、連続して唱える。

 

「Amen!」

 

二体のソロネを主力に、多数の天使が一斉に魔祓いの力をたたき込むが。それでも倒しきれない。

 

ムカデはぐったりしているが、それにとどめを刺す日女さん。

 

例の神おろしだろう。

 

それで一気に力を上げて、ムカデをつかんで、引きちぎっていた。

 

すごいワイルドさだ。

 

これで連携は崩れたはずだが、いやまだだ。

 

ムカデがちぎれたところから、蜘蛛の足が生えてくる。そして、形態が変わる。

 

蜘蛛が、糸をぶちまける。

 

むうと呻く愛染明王。

 

日女さんも、ムカデを放り出して、飛び退いていた。また、多数の足を得た魔。

 

まだ複合している存在がいたのか。

 

「こ、これは……!」

 

「一神教系ではないぞ!」

 

「日本系でもない!」

 

ダイモーンでもないようだ。更に複合しているのか。だが、先に比べて連携は弱くなっている筈。

 

糸をばらまきまくってくるので、とにかく動きづらい。

 

蜘蛛の糸は、実際には糸というよりも、空気に触れると固まる粘液だ。しかも複数種類ある。これをうまく使って蜘蛛は糸にする。

 

糸も複数の種類があり、獲物を絡め取る粘性が強いものと、足場にするための堅いもの。それらが存在している。元の粘液を混ぜ合わせることで、この糸の性質を変えるのだ。

 

こういうのは、勉強している合間に、気張らしで見た情報で覚えた。

 

今、あの蜘蛛は、糸をばらまきまくってこちらの動きを阻害しに掛かっている。

 

まずいな。

 

ますます危険度が上がった。

 

視界の隅。

 

必死に立ち上がるカトリイヌさんが見えた。ドミニオンが肩を貸している。カトリイヌさんが加わったところで、何も代わらない。

 

それでも、ドミニオンの加勢で、悪魔が悲鳴を上げる。

 

効いてきてはいる。

 

だが、ダイモーンが弱り、悪魔が押され始めている状況でも、まだ一体変なのが残っている。

 

聖印を切り、ダイモーンを爆ぜさせる。

 

悲鳴を上げるダイモーン。

 

燐火は走りながら、更にとどめといこうとしたが。

 

その時、何か、嫌な気配がした。

 

全力で飛び退く。

 

何かが、燐火のいた場所を、押しつぶしていた。

 

転がって、すぐに飛び起きる。

 

舌打ちが聞こえた。

 

今の気配、おそらく。

 

涼子に憑いている奴だ。

 

それも今の押しつぶし、物理的なものじゃない。戦闘中の隙を見て、何かしらの悪さをしようとしたと見ていい。

 

面倒なことを。

 

ケルベロスも気づけなかった巧妙な奇襲。

 

しかも、一撃を外した後は、既に逃れたようだ。本当に逃げ足が速い。

 

セバスティアンさんが、壁を砕かれた。

 

ソロネが蜘蛛の糸を浴びて、もろに吹っ飛ばされる。

 

その時である。

 

「やあやあ我こそはケルトのドルイド! 危機に呼ばれてはせ参じた!」

 

いきなり脳天気な名乗りである。

 

だが、それで戦況が一変する。

 

たたき込まれた何か。

 

おそらくルーン文字による魔祓い。

 

それで、蜘蛛が爆ぜ割れる。悲鳴を上げる蜘蛛。

 

どうやら、ドルイドを名乗った若い声。ちらっと視線を送ると、なんだかステレオタイプの魔女っぽい姿だが。

 

ともかくその女の子。

 

燐火よりだいぶちっさく見える子が、やったようだった。

 

一気に愛染明王が、魔を押し返す。

 

日女さんが魔祓いで身体強化した拳を、複合魔にたたき込む。時間さえ稼げれば良い。通らなくてもだ。

 

カトリイヌさんが、十字架をかざして、魔祓いの言葉を叫ぶ。

 

燐火も、聖印を切って、ダイモーンにとどめを刺していた。

 

爆ぜる。

 

三種、いや四種の魔が複合していた凶悪な魔は。

 

それで消し飛んでいた。

 

 

 

自衛隊が来て、応急手当を始める。それが終わってから、倒れている一神教系の魔祓いが、何人か連れて行かれた。

 

カトリイヌさんは燐火に連絡を入れた後、もろに吹っ飛ばされて気絶していたらしい。

 

とりあえず頭とか打っていないか確認するために、これから病院に行くらしい。まあ、ケルベロスが見たところ、致命打はないし、それほど心配はいらないだろうということだったが。

 

菖蒲さんの愛染明王が途中から複合魔を押さえ込んでくれていなければ、多分倒せなかっただろう。

 

燐火も流石に疲れた。

 

一応診察は受けるが、怪我はしていない。

 

ただ、診察に来た医師は、魔法のステッキ(鉄パイプ)を見て真顔になっていたが。

 

セバスティアンさんが、既に格好をしっかり整えていた。

 

プロだ。

 

山の中での話し合いもなんだということで、そのまま移動する。

 

菖蒲さんはバイクで来たが、かなり頑丈そうな奴で、特に山の中も問題なく来られたらしい。

 

見かけと色々とあっていない人だなと、燐火は思った。

 

近くの喫茶店に降りる。

 

あれほど激しい戦いの後だとは思えない。

 

カトリイヌさんの護衛の若い方は、病院に付き添いに行った。

 

それを見送ってから、セバスティアンさんが話をしてくれる。

 

「連絡が遅れまして申し訳ありませんでした」

 

「一体何があったんですか?」

 

菖蒲さんが小首をかしげるが。

 

明らかに口調は責めるものだ。

 

確かにこの事態、下手をするととんでもない被害が出ていただろう。街が壊滅していてもおかしくはなかった。

 

情けない話なのですがと、セバスティアンさんが言う。

 

あの複合魔が出た時、気配は確かに悪魔のものだった。

 

それで一神教系の魔祓いがたくさん常駐していたこともある。

 

すぐに出た。

 

問題は、この間クソ神父がトラブルを起こしたこと。

 

それもあって、汚名をそそぐために皆相当に焦っていたそうである。

 

セバスティアンさんが遅れて現場に到着したときには、ほとんど先発隊はぶちのめされて、地面に転がっていたそうだ。

 

悪魔が、複合魔になったタイミングについては、わからない。

 

だが、相手が明らかに複合魔であり。

 

一神教系の魔祓いだけでは倒せないのは明白だったのに。

 

魔祓い達は、支援を拒んだという。

 

カトリイヌさんより立場が上の魔祓いがいたのも問題だった。

 

「例の神父の件もあって、バチカンから枢機卿が来ていたのです」

 

「枢機卿?」

 

「最高位の聖職である教皇は選挙で決めるのですが、その選挙権を持つ高位の司教のことです。 この国にも何名かいるのですが、魔祓いの資格を持つ枢機卿は世界にも数名しかいません。 この国の枢機卿に該当者はおらず、バチカンから魔祓いの指揮官として枢機卿が来ました。 普段はバチカンに常駐しているその人物は、我々の中でも最高位の人物でして」

 

「ハ……」

 

ケルベロスが失笑する。

 

燐火としてもなんとなくわかってきた。

 

いわゆる政治的なあれこれだ。

 

魔祓いとしての実力があることと、政治的な権力があることは全く話が別だとみて良いだろう。

 

今回のスキャンダルで教皇が手下を派遣してきて。

 

そいつが魔祓いの力はそれほどではなくても、発言力だけ大きければ。

 

あんなやばい魔が出た場合には、それは現場は混乱する。

 

「「幸い」彼は戦闘開始程なくして、天使の守護の甲斐もなく吹き飛ばされて意識を失いました。 それでカトリイヌ様に指揮権限が移り、それで支援要請を出すことが出来たのです」

 

「事情はわかったが、現場を知らない奴をこんな修羅場に出すな。 今の教皇も、確か元魔祓いだったよな」

 

「お恥ずかしい話です。 教皇になられてからは魔祓いの現場から離れていますし、何より彼もどちらかというと政治的な手腕で教皇になった方でして」

 

日女さんの糾弾に、自分のことのようにセバスティアンさんが頭を下げる。

 

それを見て、燐火は大変だなと思った。

 

とりあえず、退治できたのはいい。

 

菖蒲さんが咳払いして、細かい戦闘の状況、気づいたことが何かないか。いずれも聞いていく。

 

それでわかってきたのは。

 

最初からかなり危険な悪魔だったこと。

 

それに対して、数だけいた一神教の魔祓い達は、役にも立たなかったことだ。

 

何がエクソシストか。

 

ため息が出る。

 

一神教はもっとも信仰されている信仰だ。三つの派閥あわせれば、その信仰人数は圧倒的。

 

それなのに、この有様。

 

燐火も、これでよく有名な悪魔はだいたい祓えたものだと、感心してしまう。別の意味で。

 

或いはだが。

 

祓ったと思っているだけで。

 

悪神が祓われてもいずれ復活するという話のように。

 

魔も復活しているのかもしれない。

 

「とりあえず、今回の件は、活躍為された方々には日本国に報告書を出しておきます。 ボーナスがはずまれると思います」

 

「金なんかどうでもいい。 あんたらの指揮系統を整理してくれ。 教皇が余計な事を言ってくるのではなくて、ちゃんと現場がわかる奴が指揮をしてくれ」

 

日女さんがずばり言う。

 

言い方は厳しいが。

 

燐火も悪いが同感である。

 

咳払いした菖蒲さんが、さっき手伝ってくれた魔女っぽい子が来たのを視線で知らせてくれる。

 

燐火と同年代に見えるが、とても幼く見える。

 

西洋の人は大人っぽい印象があったが。

 

あれはちょっと若すぎるような気がした。

 

カトリイヌさんが天才として知られていると言っていたし、それなりの年齢の筈なのだが。

 

「やあやあ我こそはケルトのドルイド! 名はエヴァンジェリンと申す! 一同、お見知りおきを!」

 

「すごいテンションだな……」

 

日女さんが呆れる。

 

菖蒲さんは微笑ましそうにその様子を見守っていた。

 

鎌倉武士みたいな名乗りを上げたエヴァンジェリンさんは、ない胸を張る。

 

「私は天才だ! 褒めろ! 褒めろー!」

 

「エヴァンジェリンさん、こちらの席にどうぞ」

 

「おお、これが日本のふぁみれすであるな!」

 

「カフェだよ」

 

しらけた日女さんの突っ込み。

 

カフェと言われて、小首をかしげていたエヴァンジェリンだが、翻訳機能が働いて、それで理解したようだった。

 

ともかく席に着くと、いきなりお子様ランチが食べてみたいと言い出すので、皆が視線を背ける。

 

日女さんが。

 

あの抜き身の刃みたいな日女さんが、口を押さえて視線をそらしていた。

 

まあ、燐火もわからないでもない。

 

とりあえず、紅茶を出す。

 

それで皆で名乗る。

 

咳払いして、燐火がまず切り出した。

 

「貴方は北欧系の魔や悪神対策の専門家で構いませんか?」

 

「うむ! 我こそは当代随一の天才ドルイド! 魔女でもあるエヴァンジェリンだ!」

 

「魔女……」

 

「魔女は一神教で悪魔に魂を売った災厄をもたらす悪女のように喧伝されたが、実際は欧州の雑多な信仰が悪魔化されて、それが貶められたものなのだ! ハッグと言われる地母神信仰が特にその母体の一つとなっている。 故に私は、天才故に、ドルイド信仰の魔祓いを研究しながら、魔女としてもやっているのだ!」

 

高笑いしようとして咳き込むエヴァンジェリン。

 

面白い人だな。

 

ケルベロスが呆然としていた。

 

こういうタイプは苦手なのかもしれない。

 

ともかく、やっと力のあるドルイドが来てくれた。これで、涼子にちょっかいを出している悪神を。

 

あぶり出せるかもしれなかった。







エヴァンジェリンさんについて

メスガキ枠と言いたいところですが、実は菖蒲さんと同年代です。

元々一神教系の魔祓いとして勧誘を受けていたのですが、それを蹴ってドルイド系に進んだ変わり種です。

言うだけあって本人は相当な才覚の持ち主なんですが。

残念ながら母集団が貧弱すぎるため、全体的に見ると一線級のちょっと下、くらいの実力ですね。今はまだ。


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