魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
舌打ちして、そのものは涼子の家から離れた。というか、強力なルーンで封じられていて、近づけない。
駄目だ。
あの面白かったおもちゃであった涼子という子供とは、もう精神的な接続を確保できない。
ケルベロスが憑いている子供が連れてきたドルイドによって封じられてしまった。
面白かったのに。
苦しむ様子が楽しかったのに。
今まで堕とした人間の中でもかなり頑張っていたから、完全に壊したらさぞや愉しかっただろうに。
それを台無しにされた。
苛立ちとともに移動する。
まだ端末はあるが、どれもこれも壊れたのばかりだ。はっきり言って、これ以上壊しても面白くない。
ともかく、隠れ家に出向く。
其処には、そのものだけではない。
今、この日本で蠢いている問題の首魁が住み着いていた。
「なんだ、遁走してきたのか」
「端末の一つを潰されただけだ。 全くつまらん。 せっかくもう少しで堕として遊べるところだったのに」
「一瞬の快楽のために、子供の一番大事な時期をつまみ食いするか。 相変わらず悪辣なことだ」
「おまえにだけは言われたくないわ」
ケタケタと笑われて。
そのものはいらついていた。
此奴の悪辣さといえば、そのもの以上だ。
それもあって、流石に悪辣と言われれば。悪神に成り果てた自覚がある今としても、面白くはない。
奥で捕らえている奴には触れない。
ダイモーンを際限なく生み出し続けているので、その方が面白いからだ。
作り出したばかりのダイモーンを用いて、実験も出来る。
それで多数の混成型の魔を作った。
今、神々も魔も。
人間には勝てない。
人間は長い間掛けて、信仰が作り出す魔と神を調べ上げていった。それで対策を練ることが出来るようになった。
知られていないが、一神教の四文字の神は既に封じられている。
他ならぬ一神教徒の手によってだ。
それだけではない。
人間の上に立つ存在は、基本的にあらかた封じられている。
今途上国などで暴れている魔や悪神は、昔から見れば出がらしみたいな者に過ぎないのだ。
だが、今回。
此奴を捕らえたことによって、状況が変わるかもしれない。
結局日陰に追いやられた魔も。
道具に成り下がった神も。
人間の上に再び立つ時がやってくる。
そうなれば、「悪」神が。「正しい」神に切り替わる。
それこそが、そのものの狙いだ。
それはそれとして、聖人を壊すのは愉しいし。
高潔な精神を持つものを汚すのも愉しくて仕方がないのだが。
「この間ヘラクレスに捕まりかけただろう。 奴には流石に現時点では勝てん。 まだ準備が足りない」
「わかっている。 それにケルベロスの憑いた子供の成長が著しい。 社会的には孤立しているはずなのに、どうしてか奴の周りにスペシャリストが集まってきている。 あれはどういうことだ」
「運勢の操作だろう」
「だとしても限度がある。 何かからくりがあるはずだ」
話していると、第三者が入り込んでくる。
協力者だ。
それは人型をしていない。
獣の神だった。
「なんだ。 随分と悩んでいるようだな」
「……貴様か」
「ふん、当座の問題はヘラクレスであろう。 俺が打ち倒してやろうか」
「やめておけ。 あれは怪物という存在に対してはほとんど無敵だ。 おまえは世界の神話でも屈指の魔の獣ではあるが、それでも勝てるかは微妙だろう」
そうたしなめられても、獣は笑う。
奥に座り込んでいる男。
女の体のラインを隠してもいないそのもの。
そして獣。
三者三様に意図はあるが。
奥に捕まえているダイモーンを作り出している存在を利用して、この世界の仕組みをひっくり返したいという点で。
利害は一致しているのだ。
「今の時点では、三者の均衡が崩れることが一番まずい。 ましてやオーディンがちょっかいを出してきている」
「あんな老いぼれ、既に敵ではないわ」
「わかっている。 だが、トールはどうか。 簡単にはいかないであろう」
「……」
獣が黙り込む。
物語と成り果てているとは言え、世界でもっとも有名な雷神の一角だ。確実に勝てるとは言えないのだろう。
咳払いした奥の男。
「ともかく、人間どもをもう少し攪乱しておきたい。 複合型の魔が使えることも、ダイモーンが接着剤として機能することも存分にわかった。 ダイモーンは既に世界的にほとんど消失してしまっていたが、此奴を捕獲することによって実験が進む。 それだけでどれほどの希望があるかわからぬのだ。 この希望を失ったら、次の好機はいつになるかわからぬだろう」
「そうだな……」
そのものが同意し。
獣が舌打ちして、其処を出て行く。
三者の連携は決してとれていない。
だが。
それでも、いずれもが、それなりに強力な魔であり、悪神でもある。
悪の宴のさなか。
捕らえられている「迷子」は、静かに涙を流していた。
自分の行いが、どれだけの災厄をもたらしているか。
それを理解しているからだ。
わかっている。
絶望の中、この世に迷い出てしまった。
冥界にずっといればよかったのに。ついまたこの世に迷い出てしまった。
それがどれだけの影響をもたらすかわかっているのに。それでも。
心が弱い。
それを、「迷子」は悲しみ続けていた。
(続)
迷子はとらわれて活用されていた。
恐れられていた最悪の事態です。
そして悪神だけではなく、他に魔獣と邪神……が最低でもまだ控えています。
敵は凶悪な魔の連合体なのです。
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