魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
燐火の友人涼子を最悪の方法でもてあそんだ悪神。
奴の張り巡らせた罠と陣地を、ついに来てくれたルーン魔術の達人であるドルイドのエヴァンジェリンさんと一緒に破壊します。
その過程で燐火は最悪のものを見ることになります。
序、もてあそばれた者達
エヴァンジェリンさんに同行して、その家屋に出向く。顔をしかめたのは、異臭が凄まじいからだ。
奥に転がっているのは、明らかにおかしい様子で痩せこけた女性だ。
少し前まではまともな労働をしていて、かなり稼いでいる人であったらしい。
それが突然会社に来なくなり。
住んでいる家にもいなくなった。
家がもぬけの殻になっているので、会社の人間が慌てて警察に連絡したが、行き先がつかめなかった。
それで声が掛かった魔祓いが調査に出た時に、空き家に何かしらの痕跡を確認。ただそれはその魔祓いの専門ではなかった。
そして日本に来ていたエヴァンジェリンさんにお鉢が回り。
その結果、例の涼子に憑いて悪戯をしていた奴らしいと言うことがわかった。
それで、痕跡を追跡。
発見したのだ。
警察が来て、すぐに調査を開始する。
魔祓いと連携しているのは普通の警察ではなくて公安のなんとかとかいう科らしいのだけれども。
それも表向きには存在していないらしい。
まだまだ魔の存在をおおっぴらにするわけにはいかないとかで。
世界にはこういう公式には存在しない部署が相応にあるそうだ。
ただこういった非公式部署は扱いが難しく。
腐敗の温床になってしまうことも多いので。
どの国も扱いに苦労しているそうだが。
ともかく、燐火も周囲を警戒。
この臭い。
非常に不愉快だ。
ケルベロスが嫌そうに言う。
「これはおそらく違法薬物だな」
「この国でも手に入るのだな」
「ああ」
エヴァンジェリンさんとケルベロスが話す。
燐火はエヴァンジェリンさんと一緒に一旦外に出る。
警察の捜査は極めて厳重で、特に科捜研の調査は徹底している。掃除機まで持ち込んでいるが、これは掃除のためではない。
残留物を探すためだ。
燐火とエヴァンジェリンさんの髪の毛なども提供した。
これは先に家に入ったためである。
更には触った場所などがないかとも徹底的に確認されたので、ちょっとうんざりしたが。そういうのを言っておかないと、後で手間が更に増えるらしい。
だから協力はする。
捜査能力において世界屈指。
この国の警察は、近年ではスキャンダルも多いが。
その点に間違いはないのだから。
場所を移してそういった聴取を受けた後、エヴァンジェリンさんと一緒に見つかった女の人のところに。
点滴を受けていて、意識もない。
体を壊されたのだ。
もう少しエヴァンジェリンさんが来るのが遅れていたら、涼子もこうなっていたのかもしれない。
エヴァンジェリンさんがルーンを切って、それで悪神の端末としての機能を停止させる。
だが、壊れたこの人は元には戻らない。
二度と端末として使えないようにもする。
それら一連の作業が終わると、エヴァンジェリンさんは相当に消耗していた。
燐火はその間、周囲の警戒である。
というのも、この一つ前で。ダイモーンが被害者に憑いていたのだ。
前に複合魔の時も悪神の気配があったが。
これで確定である。
悪神は何かしらの形でダイモーンを利用できる立場にあるし。
なんなら、ケルベロスが探している迷子を、捕らえているのかもしれなかった。
作業が終わったので、ぐったりしたエヴァンジェリンさんと、紅茶を飲む。日本でロイヤルミルクティーが気に入ったらしく(本場のものとは別物らしいが)、それを嬉しそうに飲むエヴァンジェリンさん。
燐火も蜂蜜入りの紅茶をいただく。
ケルベロスがそうするととても嬉しそうなので、それでいい。
しばし疲れをそうやってとると。
咳払いして、エヴァンジェリンさんが言う。
「天才である私が見る限り、これらの端末は二十前後はあるとみた」
「根拠は何かありますか」
「うむ。 ルーンを組み合わせてそれぞれの端末に役割を持たせているのが、今まで助けた被害者から分析できた。 それぞれがパズルのかけらのように端末になっている」
なるほどね。
そうなると、端末を悪神から切り離すことは。
かなり意味があると言うことだ。
「端末にされた被害者は使い潰されていたが、しかし端末を用意するのは悪神にとっても楽ではないようだ。 おそらくこのまま端末を切り離していけば、大幅に弱体化していくとみて良いだろう」
「!」
「つまり仕掛けてくる。 今の時点で、おそらく残り半分を切った」
ここ一月で、エヴァンジェリンさんと連携して、11人の被害者から、悪神の影響を断ち切った。
そのうち半数は廃人同然の有様。
残りは、かろうじて聴取が出来たが。
ネットなどで多幸剤の作り方を調べたり。
薬局などで悪用できる薬を買ってきたりで。
それで、主に性欲を増進させる薬を大量に飲んで、ずっと性欲を解消していたらしい。
被害者は女性ばかりであり、今まで真面目に働いていた人や、一番酷いケースでは涼子と同年代の子もいた。
そういった被害者が性欲に狂って、男と交わりそれでも満足できなくなったら薬で体を壊していく。
許しがたい。
ケルベロスも、それらの話を聞くと流石に怒りをあらわにしていた。
「俺が引き裂いてやる……」
「気持ちはわかるが、天才たる私の分析では、奴は今まで被害者から吸い上げた力で、簡単に祓えないほど強力な悪神になっている。 それにだ」
「まだ何かあるのか」
「おそらくだが、協力者がいる」
なるほどな。
そもそも複合魔なんてものを作り出せるのがおかしいのだ。
今まで一神教の魔。
それに北欧系の魔。
日本系の魔。
それぞれが合成された複合魔が出てきている。それらの文化圏の悪神が、活動しているのだろうか。
エヴァンジェリンさんによると、この間倒した四種混合の複合魔に混じっていた蜘蛛は、恐らくは今端末を切って回っている悪神の手下で間違いないらしい。強力な悪神になると、魔を作り出せるそうだ。
「少なくとも四体の悪神がいるとみていいでしょうか」
「いや、そうともいえない。 まず日本系の魔だが、ムカデだったと聞いている」
「はい。 そうでしたね」
「実は私は天才だから調べてあるのだが、ムカデは日本の魔としては極めて古い存在で、既に対策が確立されているのだ」
ふむ。
それで、エヴァンジェリンさんが話をしてくれる。
俵籐太とも言われる藤原秀郷が退治したオオムカデの逸話を。
これは龍神を苦しめ、山を七巻き半するほどの巨大なムカデの魔であったそうだが。藤原秀郷が唾をつけた矢で撃った瞬間に即死したらしい。
藤原秀郷だけではなく、他にも同様の手段で倒された逸話があるらしく。
酷い場合は漁師にすら倒されているそうだ。
これは古くは唾が魔除けとして考えられていたこともあり。
また南無八幡大菩薩と藤原秀郷が唱えて、その加護を得たからと言う話もあるらしいのだが。
いずれにしてもオオムカデはそれ以降、妖怪としても、魔としても、頂点の座から陥落した。
この国では最も恐れられたのは鬼でもなく強力な妖怪でもない。
怨霊だった。
そういう観点からも、色々珍しいらしいのだが。
エヴァンジェリンさんは、それらよりも。既にオオムカデは過去の存在であり、退治法が確立されて既に魔の世界では下等に成り下がっているという話をしてくれた。
「つまりオオムカデは、その辺りで調達した存在だとみて良いだろう」
「ふむ、続けてくれ」
「続いて一神教の魔だが、これは世界中にいる。 というのも悪魔というのは、今でも大人気のヒールだからだ。 西洋ではまだまだ悪魔に対する恐れが現役でな」
エヴァンジェリンさんの話によると。
それもあって、西欧では悪魔というのは、最大級の罵倒になるという。
日本ではそれほどたいした意味もなく使われているような気がするが、全く違うニュアンスになるそうだ。
「これもどこでも現地調達出来るとみて良いだろうな」
「そうなると、問題になるのは北欧系の魔とダイモーンですね」
「ああ。 協力者は最低でももう一人はいるだろうが……或いは北欧系の悪神が、複数いるのかもしれない。 北欧の魔と言えば巨人だが、どうもそういう雰囲気は感じ取れなかった。 そうなるとケルトの悪神かも」
「……」
ケルトか。
どちらかというとイギリス辺りから中欧辺りまでの雑多な古代信仰のようだけれども。
日本ではアーサー王などが知られている。
いずれにしても荒々しい古代の信仰だ。
それもあって、それらの悪神となってくると、極めて厄介だろう事は燐火にも容易にわかる。
一旦別れる。
最後に被害者の様子を見に行ったが、会社でバリバリに働いていた活力ある人の写真とは比べられないほどやつれていて。
しかも違法薬物にまで手を出していたようだから、仮に回復しても警察で世話になることになるし。
何よりも、今かなり体の状態がよくないらしく、助かるかも五分五分だそうである。
その話を聞くと、燐火は更に怒りが燃え上がるのを感じた。
涼子と同じくらいの子供を。
性欲を弄くって狂うのを見て遊んでいた。
そういうのは、悪神以外の何物でもない。
イシュタルの係累だとしても。
イシュタルが、そんなことは自分はさせないし、してもいないと言い切るほどの醜悪な行動だ。
ともかく、今はエヴァンジェリンさんに任せるしかない。
それに、である。
既に力の供給源が半減しているとなると、悪神は次を狙ってくる筈である。
その時を狙う。
ヘラクレスさんが、既に動いているそうだ。
燐火としても。
最悪の場合に備えて、色々と、できる限りの準備をしておかなければならないだろう。
更に四日後。
また被害者を見つけた。
緊急搬送されるその人は、司法試験に若くして一発で通った俊英だった。それが、ぼろアパートにて、全裸で転がっているのが発見された。
周りには90度以上もあるアルコールの瓶が林立していて。
かなり危険な状態であるらしい。
エヴァンジェリンさんが見つけなければ、多分このまま死んでいたし。
高濃度のアルコールを接種し続けたことで、脳も壊れてしまっているそうだ。
弁護士への復帰は不可能。
そういう話だった。
それに、である。
部屋中に散らばっている性的欲求を満たすための玩具。それが不衛生な液体にどれもまみれているのを見て、燐火は反吐が出るかと思った。
悪神が何をさせてもてあそんだかは一目でわかる。
この弁護士の人は、若くして司法試験に合格してこれからだったのに。
その人生を娯楽で滅茶苦茶にした。
いい弁護士になったかはわからない。
だが、なんとなく燐火にもわかってきている。
この悪神は、おそらく涼子みたいなしっかりした人間を壊して遊ぶことを愉しんでいるのだ。
まさに悪神。
醜悪の極みである。
エヴァンジェリンさんが端末との接続を切った後は、警察とお医者さんの仕事だ。もう燐火に出来ることはない。
ケルベロスが、怒りをそのまま吐き出していた。
「元を絶たねばならん」
「天才たる私が少しずつ追い詰めている。 だから、焦らないでほしい。 相手は悪神としてかなり育っているとみていい。 もしも仕掛けるにしても、総力を挙げて叩くべきだろう」
「ケルベロス、エヴァンジェリンさんの言うとおりだよ」
「……」
内心で語りかけると、ケルベロスは黙る。
ケルベロスは人情家だ。
それがわかってきている。
たまに色々な昔の小説を読むと、それで涙を流しているのを察することがある。
素が優しいから、色々と許せないのだろう。
猛々しい獣であると同時に。
ケルベロスは立派な冥界の守護の存在であるのだ。
「一応、奴の行動パターンは絞れてきた。 一週間以内に、残りの端末全てを切り離して見せる。 問題は、それを奴が阻止に来ることだ」
「新しい端末を見繕うのではなくて?」
「それはおそらくだが、ヘラクレスが監視しているとみて良いだろう。 天才たる私の読みは正しいはずだ!」
ふふんと胸を張るエヴァンジェリンさん。
話し合いを見ていた公安の人が呆れていたが。
燐火もちょっと呆れている。
自己肯定感が異様に高いのは、うらやましいとみるべきなのか。ちょっとなんとも言い様がない。
ともかく、続けて犠牲者を探し出す。
やはりパズルのピースのように、もてあそんだ人間を端末としているようで。それを端末から切り離すことで、悪神をどんどん弱体化……正確には力の供給を断つことが出来る。そうしないといざ悪神との戦闘になった場合、奴は残機を端末の数だけ持っていると同じになるらしい。
それは厄介極まりない。
既にいつ仕掛けてきてもおかしくない。
残り三つか四つ端末がある状態まで追い込めば、恐らくは出てくるだろう。
そういう話だった。
ヘラクレスさんは、悪神が新しい犠牲者を見繕うのを監視してくれているそうだ。
次の端末から、菖蒲さんが一緒に来てくれるらしい。
エヴァンジェリンさんの話によると、菖蒲さんの愛染明王の戦闘能力は、生半可な悪神では勝てないという。
この間の混合魔を押さえ込んでくれていたのも、愛染明王だったからで。
そもそも複合魔を完全に押さえ込むのは極めて難易度が高いらしく、分霊とはいえ愛染明王を使いこなせているという証左だとか。
悪神が出てきたら、まずは愛染明王に抑えて貰い。
その間に、エヴァンジェリンさんが残りの端末化された犠牲者を切り離す。
そういう打ち合わせを済ませておく。
問題は、悪神が複数いる可能性が高いと言うこと。
もしも、今追っている悪神と同等のが二体以上出てきた場合。
菖蒲さんの愛染明王でも、抑えきれないかもしれない。
そういう話だった。
「日女さんやカトリイヌさん達にも声を掛けておきます」
「そうだな。 それが無難であろうよ」
「天才たる私は、あくまで魔祓いに特化していて、対悪神の手札は限られているからな! 護衛は頼むぞ!」
なぜそれを自慢げに言う。
いずれにしても、燐火も役には立てる。
おそらく相手はダイモーンの力を悪用してくるはずだ。
それを排除するのであれば、十分である。
後は陽動も出来る。
この間の複合魔と対戦したとき、日本系のムカデが倒されても複合魔は破綻しなかったが。
ダイモーンが崩壊するのが、結合の解除につながったように思える。
そういう意味では。
ダイモーンが主軸であり。
燐火はそれをたたける切り札になり得ると言うことか。
ともかく、更に残りの悪神の被害者を助けて回る。
翌日以降も、エヴァンジェリンさんのナビで見て回る。
一件では、既に亡くなっていた。
酷い死に様で、最後まで性欲を満たし続けて。最優先でそれをやった結果、干からびてしまったのがわかった。
本当に人間をおもちゃとしか思っていないんだな。
この思想。
いじめを肯定する輩と同じだ。
そう考えて、燐火は反吐が出ると思った。
亡くなった人は、尊厳の全てを食い尽くされて。あまりにも無惨な姿で亡くなっていた。死者の臭いはずっと残ると聞いていたが。
エヴァンジェリンさんも、護衛についてきている菖蒲さんも、顔色一つ変えなかった。
魔祓いで危険なのを相手にすると、人が死ぬのは珍しくない。
そういうことなのかもしれなかった。
また一人、端末から解放する。
鏡を見せると、髪を振り乱したその子は、絶叫していた。
私こんなじゃない。
これだれだ。
そういって、半狂乱になったのを。その日ついてきていた日女さんが即座に締め落として、気絶させていた。
その子はまだ中学だったのに、悪神に憑かれてからいわゆる援助交際まではじめて、稼いだお金を全て覚醒剤につぎ込んでいたらしい。
親が焦燥しきっていて。
救急車で運ばれていく娘を見て、ずっと涙を流していた。
必ずしもまともな親だけではないことは燐火もよく知っているが。
これは少しばかりは許せない。
嘆息すると、次へ。
残り二。
そうエヴァンジェリンさんが言う。
だとすると、もう何時仕掛けてきてもおかしくはないだろう。
ずっとろくでもない悪事を続けてきた悪神との決戦が、近づいていると言えた。
堕落しきった悪神の所業……!
許しがたい邪悪に、ついに鉄槌が下される時が近づいています。
燐火が闘志を燃え上がらせる先に、悪神は待ち受けているのです。