魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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フリッグは倒れましたが、まだ「迷子」を抑え、ダイモーンをばらまいている集団は健在です。

そして、第二の刺客が動き始めます。

それは、悪魔、でした。





3、第二の刺客

洞窟の奥で、その邪神は舌打ちしていた。

 

フリッグが負けた。

 

それを理解していたからだ。

 

実は少し前から、配下を活用して、あちこちでこの国の一線級の魔祓いを陽動していた。それで、フリッグには二線級以下の魔祓いしか当たらないと判断していた。フリッグがいらだっているのも分かっていたし、今時珍しいドルイドの魔祓いに奴の基盤を潰されて行っていたのも分かっていた。

 

だが、まさか負けるとは。

 

考え込んでいると、影が入り込んでくる。

 

獣ではない。

 

翼持つ人影だ。

 

「おお、どうした。 あの淫乱は」

 

「今負けたようだ」

 

「そうかそうか、それは残念であったな。 ただまだ北欧の存在はここにいる。 だから気にしなくてもいいだろう。 それに……」

 

「奴は我らの中でも最も小物か? この国の最近の文化だな。 だが、それは負ける前に言われる言葉だとも聞く。 控えておけ」

 

へいへいと、軽薄な翼持つ人影は肩をすくめる。

 

此奴とは同志ではあるのだが、どうにも気にくわない。

 

ただそれは相手も同じだ。

 

だから、お互い様。

 

利害が一致しているから、それでいい。

 

そうやって動けるのが、組織の長というものだ。

 

ともかくだ。

 

一人が欠けた。いや、一柱が欠けた。

 

故に、価値観を反転させ、悪神を神へと変える計画が、少し後退したのは事実だ。

 

すぐに多数の配下を動かす。

 

普通の雑魚では駄目だ。

 

ダイモーンでコーティングしているので、そう簡単には見つからない。ただ、問題は、である。

 

燐火と言ったか。

 

ギリシャのケルベロスの力を受けている巫女。

 

そいつが加速度的に力を伸ばしていると言うことだ。

 

仕留めるのはそいつからが良いだろう。

 

これでも強者が多いこの国の魔祓いとやり合ってきたのだ。長い長い時間。

 

他の国から流れてきた悪神や魔と連携する事が出来るようになった今こそが好機である。

 

逆に言うと。

 

信仰が枯れ果てようとしている最果てのこの時代。

 

悪神が神と成り代わる最後の好機が、今だと言えるのかもしれない。

 

そういう意味では、アホだったが、フリッグがやられたのは痛い。

 

一瞥する。

 

捕らえてある、ダイモーンの発生源を。

 

少し考えて、あれを活用しないといけないな。

 

そう邪神は思った。

 

 

 

涼子と市原さんと一緒に帰宅する。

 

すっかり夏だ。

 

昔は学校の教室にクーラーなんてものはなかったらしい。

 

だが、今はないというのは殺人と同じだ。それくらい暑くなっている。昔の平均気温を見て、驚かされるばかりである。

 

蝉すらも暑すぎて鳴かない。

 

それが今の夏だ。

 

そろそろ夏休み。小学校としては最後の夏休みである。

 

夏休みに何をするか。

 

遊びに行ってもいいが、それはそれ。

 

先に宿題を片付けてしまうのが良いだろう。

 

市原さんは、最近ではすっかり燐火達に混じっていることもあって。スクールカーストの上位だかいう連中は、無視するようになっていた。

 

というか燐火が連中には好き勝手をさせない事もあって、そいつらの方が逆に無視されるようになってきている。

 

それで燐火を逆恨みしているようだが。

 

隙がないので何も出来ない。

 

学校の方でも、最近は監視カメラなどの設置で対策を更に進めている。

 

一部の保護者とかがこれを人権侵害呼ばわりするケースがあるようだが、うちの学校はしっかりしていて、そういうのは相手にもしない。

 

燐火としても、その辺はとてもありがたい。

 

蝉が鳴いている。

 

まだ暑さとしてはマシな方、ということだ。

 

クマゼミらしい。

 

元々はもっと南に生息している蝉なのだが、年々北上しているのだとか。まあ、それもそうだろうなとしか燐火は思えない。

 

それはそれとして。

 

前にこちらを見張っていた中学生数人が、やはりこっちを見ているな。

 

そろそろ潰すか。

 

そうおもった時、スマホにメッセージが入っていた。

 

確認すると、日女さんからだった。

 

「後ろで様子をうかがってるアホども、燐火の知り合いか?」

 

「いいえ。 ずっとつけてきている変な人たちです。 追跡してきている様子はスマホで撮影済みなので、そろそろ処理しようと思っていましたけど」

 

「ああ、それなら俺がやっておく。 こいつら、俺の学校の近くの学校の奴でな。 半グレの手下になっているらしくて、問題になっていた。 ちょうど良い機会だから、全員たたんで少年院に送っておく」

 

「ありがとうございます。 お願いします」

 

返事を返すと、そのまま無言で歩く。

 

市原さんが、鳴いている虫について細かく解説してくれるので、それを丁寧に聞いていく。

 

色々知っていて面白いな。

 

燐火も雑学は調べているが、それでも好きでないとどうしても知識は定着しないのである。

 

話を聞いている限り、市原さんは体系的にものを覚えるタイプではない。

 

だがそれでも、これだけ色々と覚えているのはなかなかに凄いことであると思う。

 

しかしながらだ。

 

自分が知らないことを知っている奴は生意気である。

 

そう考える人間の方が多いことを燐火は知っている。

 

特に相手を自分より下か上かでしか考えないような輩はこの傾向が顕著だ。

 

実際あの既に死んだ金木の屑娘はその手合いで、自分より勉強が出来てめがねを掛けていてかしこぶっているから生意気だとか言う理由で、同級生の頭をつかんで何度も岩にたたきつけて失明寸前の怪我をさせた。それでありながら何の処罰も受けなかった。

 

しかも金木の屑娘はどちらかというと平均的な感性の持ち主であることを燐火は知っている。

 

だから、時々市原さんには言うのだ。

 

自分たちにはそういう話をしても良いが。

 

他の奴には話すなと。

 

特にスクールカーストに毒されて上か下かでしかものを考えられなくなっている輩には、そういう話はしない方が良いとも。

 

市原さんは、分かったと言って。

 

それで納得してくれたようだった。

 

まあ、燐火もスクールカーストなんてものはぶっ潰す以外にないと考えているし。いずれ自分がそうしたいと考えているが。

 

残念ながら燐火は小学生だ。

 

後倍も年をとれば、それが出来るような職に就くための試験を受けられるかもしれないが。

 

それもまだまだ先。

 

さて、と。

 

ケルベロスに声を掛けられる前に気づく。

 

ダイモーンの気配だ。

 

ちょうど別れる地点なので、それぞれで別れる。燐火はさっさと着替えると、現地に向かう。

 

ケルベロスが、ちょっと呆れていた。

 

「もう俺より鼻が利くのではないか」

 

「そんなことはないよ」

 

「そうか。 いずれにしてもたいした相手ではないが……もしも迷子がとらわれているのだとしたら、意図的にダイモーンが撒かれている可能性がある」

 

「その場合は厄介だね」

 

その通りだなと、ケルベロスがぼやく。

 

いずれにしても、さっさと仕留める。現地に到着。

 

結構大きい奴だ。

 

またたちが悪そうなのが数人たむろして、一人はバイクをふかしている。

 

昔の不良はそれこそわかりやすい姿をしていたらしいが。今のは格好はほとんど一般人と変わらない。

 

ただ、自分が格好良いと思い込んだ姿をしているようだ。

 

まあどうでもいい。

 

自分で何を格好良いと思うかは、それぞれの個人の自由である。

 

燐火も他人に干渉するつもりはない。

 

今のこの仕事着も割と気に入っている。

 

ただ今年に入ってから一回、裾を直した。

 

また少し背が伸びたからだ。

 

ともかく、ダイモーンは不良だか半グレだかの数人を取り込むようにして、悪運を送り続けている。

 

あれはいるだけで迷惑だ。

 

そのまま聖印を切る。

 

この間、フリッグとの交戦で、更に死線をくぐった。それもあって、燐火はもっと上を目指したいと思っている。

 

休日には、時々道場に足を運ぶ。

 

最近は師範もかなり積極的に指導してくれて、細かい癖などを指摘して直すように指示してくれる。

 

それがとてもありがたい。

 

充子との技量の差は埋まる気がしないが、それでも体が大きくなっている分、少しずつ実力差は縮んできているように思う。

 

それだけで十分である。

 

そのまま聖印を連続して切り。

 

四度目で、ダイモーンが爆ぜ割れていた。

 

辺りに飛び散る大量の悪運。

 

それらが汚らしいヘドロかコールタールみたいに掛かっても、伊達男気取りの半グレだかは気づいていない。

 

ゲラゲラ笑っていた彼らは、直後。

 

爆発に巻き込まれていた。

 

おそらくだが、適当に整備していたバイクからガソリンが漏れていて。それがタバコだかに引火したのだろう。

 

火だるまになって転げ回っている半グレだかなんだか。

 

まあ、近くの人が通報している。

 

程なく警察が来た。

 

粋がっていたのに無様にチリチリの頭になって、あの様子だと指の一本も吹っ飛んだだろう。

 

燐火も爆発の瞬間、慌てて木の陰に逃げ込んだほどである。

 

とりあえず、これでいい。

 

帰る途中、日女さんが連絡を入れてきた。

 

「ストーカーしていた三人、全部締めておいたぞ」

 

「お疲れ様です。 少年院行きですか?」

 

「なんとも言えないが、半グレの手下になって色々やっていたみたいだからな。 少なくとも退学は確定だ。 その半グレがさっき吹っ飛んだらしいんだが、何かしらないか」

 

「燐火がダイモーンを祓ったら、悪運がなくなったのか爆発した与太者達がいましたけれど、それでしょうか」

 

日女さんが遠慮なく笑う。

 

まあ、メッセージでのやりとりだが。

 

「そっか。 自業自得の末路だし、いい気味ではあるな」

 

「何かしらの理由で逮捕されるんでしょうか」

 

「さあな。 其処までは分からないが、ダイモーンが憑いていた時点でろくな連中じゃあない。 叩けば埃なんか幾らでも出るだろうよ」

 

その通りだ。

 

いずれにしても、後は家に帰る。

 

吹っ飛んだ連中は死ななかったが、これから捜査されて。それで当面娑婆に出てくる事はないだろう。

 

それで十分だ。

 

自業自得の末路を遂げた連中に、燐火は興味はなかった。

 

 

 

翌日から、学校は小学校最後の夏休みに向けて、色々行うことになった。

 

荷物の持ち帰り、などもそれに含まれる。

 

計画的に持ち帰るように。

 

燐火はそう言われて、素直にそうする。

 

まあ重いものを優先的に持ち帰るようにするのは、いざというときに備えてのことである。

 

それも見越して、今日からはリストバンドなどは外して行動する。

 

久々に両手両足合計四キロを外してみると、随分体が軽く感じるのは嘘ではないだろう。いずれにしても、荷物を確認して、全て計画的に持ち帰る。勿論隙は見せない。

 

授業中にスマホをこっそり見ているような生徒は、だいたいいい加減で、最終日に泣きながら荷物を全部持っていくことになる。

 

燐火はそういう悪い真似はしない。

 

ただ、意外とこう言うので市原さんがだらしないので、それについては指摘して、スケジュールを作る。

 

そのスケジュールを聞いて、市原さんはちょっと困惑していた。

 

「平坂さんって、何日先まで予定があるの?」

 

「今の時点では三年くらいですね」

 

「えっ……」

 

「燐火はただでさえ色々遅れていたので、取り戻すのに計画的に行動するようになったんです。 それとそれ、それも持ち帰りましょう。 市原さんの体力と腕力を考えると、そうしないと最終日に大変ですよ」

 

隣でなんとも言えない顔で涼子が見ている。

 

ともかく荷造りを手伝う。

 

別に苦手分野なんて誰にでもある。

 

だから、それを手伝うことはなんとも思わない。ひそひそ陰口をたたいているのが何人か。

 

あの手のは、グループの人間が下校の途中で一人外れたら、その瞬間に悪口を言い出したりするような輩だ。

 

囀りに耳を貸す価値も意味もない。

 

黙々と準備を整えて、それで帰宅。

 

ちょっと重そうだが。まあそれくらいは大丈夫だろう。重いものをもって歩く訓練にもなる。

 

「重いものを持ち上げるときは、こういう風に動いてください」

 

「えっと、こう?」

 

「そうです。 人間の筋力には限界があるので、うまく骨と組み合わせて、重いものを持ち上げます。 見本としてはこうなります」

 

「……分かった。 やって見るね」

 

市原さんにコツを教えて、それでどうにかしてもらう。

 

燐火はそれで構わない。

 

ケルベロスがぼやく。

 

「意外と世話を焼くな」

 

「ケルベロスに助けて貰ったからね。 燐火にも出来ることがあったらやっていきたいし」

 

「そうか。 まあそろそろ燐火の母から子が生まれる頃だし、そちらもしっかりかわいがってやれ」

 

「……そうだね」

 

おかあさんは近々子供が生まれる。

 

多分夏休みが終わった頃だろうか。

 

いずれにしても、夏休みは、おかあさんは基本的に病院。燐火とおとうさんが、交代で様子を見に行くことになる。

 

一応予定日は十月前後だが。

 

早く生まれることもあるので、できるだけ早めに備えておいた方が良いだろう。

 

とりあえず、三人で帰宅する。

 

途中で話を涼子が振ってきた。

 

「燐火ちゃん、なんだか前につけていた中学生いなかった?」

 

「いました。 でもなんだか捕まったらしいですよ」

 

「あ、ふーん……」

 

「他の子にもストーキングをしていたとか」

 

それについては続報を受けた。

 

日女さんの話によると、捕まった連中は中学生の遊んでいそうな女を見繕って、兄貴分である半グレに提供していたらしい。

 

家などを突き止めて、人気がないところで囲んで連れて行き。兄貴分達のところに。それで金を貰っていたそうだ。

 

「合意の上の行動」とか抜かしていたようだが。

 

実際には被害者が十五人も出ていて、それで他にも色々罪が出てきたこともある。

 

中学校からは転校。

 

その後は当然少年院送りだそうだ。

 

その兄貴分達は爆発事故にもろに巻き込まれたが。治療が終わり次第即座に逮捕らしい。

 

広域暴力団の下部組織としてやりたい放題やっていたようなので、まあ妥当だろう。その半グレのグループ自体が摘発を受けるようだ。

 

まあ燐火にとってはどうでもいい。

 

その辺でイノシシが駆除された、くらいの感覚でしかない。

 

帰路で四苦八苦する市原さんに、適当な話題を振りながら、多少は苦労が減るように手伝う。

 

人を助けておいて、損はないはずだ。

 

人間の味を覚えた獣を駆除して、損がないように。

 

そして、二人と別れると。

 

燐火はまた気づいていた。

 

ダイモーンだ。

 

さっさと脇道に抜ける。ケルベロスがぼやいていた。

 

「かなり近いぞ。 どうして今まで気配を察知できなかった」

 

「分からないけれど、さっさと片付けよう。 それなりに気配も大きいし」

 

「そうだな……」

 

嫌な予感がすると、ケルベロスが言う。

 

エヴァンジェリンさんやケルベロスが指摘したように、確定で、フリッグには仲間がいたとみていい。そいつらが、既に燐火に目をつけているかもしれない。

 

ささっと着替えると、現地に向かう。

 

山の中に、ちょっとした集落がある。十軒くらいだろうか。

 

怪奇スポットになりそうだが、実際にはただの廃村である。意外と都会近くでも、こういうのはあるのだ。

 

影から伺う。

 

何か怒鳴りあいをしているのが見えた。

 

明らかに片方はスジ者だ。

 

もう片方は、一見するとサラリーマンっぽくスーツを着ているが、あれも同じ穴の狢だな。

 

額に青筋浮かべて、何か怒鳴り合っているが。

 

燐火には聞き取れなかった。

 

「何を言ってるんだろうあれ」

 

「日本語ではないぞ」

 

「!」

 

「おそらく海外の犯罪組織がらみだろう。 見たところ日本人と人種は似ているようだが、東南アジアか大陸関係者だろうな」

 

それはそれは。

 

近づくとちょっと面倒だ。

 

その手の犯罪組織は、アサルトライフルとかで武装しているケースもあるとか言う話であり。

 

しかも魔祓いは近代兵器との相性が最悪だ。

 

そしてダイモーンがいる。

 

今度のは傘みたいな姿をしているが、あのスジ者二人の上に覆い被さって、悪運を垂れ流し続けている。

 

どろどろと流れるコールタールみたいな悪運が、スジ者達にぶちまけられている様子は、ちょっと面白くはあった。

 

だが、片付けてしまった方が良い。

 

そのまま、聖印を切る。

 

今度のはそれほど強くはないと思ったのだが。三度聖印を切って爆発四散させたら。その内側から、まだまだダイモーンが出てきた。

 

舌なめずり。

 

嫌な予感がする。

 

とにかく、徹底的にダイモーンを駆除。十数体はいる。次々潰れて悲鳴を上げるが、更に更に湧いてくる。

 

ケルベロスがぼやく。

 

「できるだけ急いで片付けろ、燐火。 やはり変だ」

 

「分かってる」

 

さっと聖印を切り、まとめてダイモーンを爆散させる。

 

子供を抱えている魚みたいなダイモーンだった。

 

内部に大量のダイモーンを抱えていた。

 

ともかく、まとめて全部消し潰したが。

 

辺りに垂れ流されている悪運は凄まじい量である。

 

やがて、甲高い声を上げて、片方がキレた。もう片方も護衛を連れていたようで、廃屋からわらわら出てくる。

 

合計して十人くらいか。

 

そいつらがにらみ合っていたが。どうみても拳銃や、青竜刀だったか。そういうのを手にしている。

 

これは血を見るな。

 

距離をとるようにとケルベロスに言われたので、そうする。流れ弾とか当たったら、しゃれにならないからだ。

 

そのまま離れる。

 

発砲音。

 

そうか、拳銃ってこんなに大きな音がするんだ。断末魔の悲鳴。肉が断ち割られる音。凄まじい悲鳴。

 

殺しあいが始まった。

 

あの連中、おそらく何かしらの悪い商売をしていて。

 

ダイモーンの悪運でそれがうまくいっていたのだろう。今までは、それが致命的な対立にはつながらなかった。

 

だが。それもこれまでだ。

 

あのスジ者、二人ともそんなに格下のスジ者には見えなかった。それに両方とも無事では済まないだろう。

 

全部まとめて死んでくれていればいいのだがと燐火は思ったが。

 

ケルベロスが冷静に状況を告げてくれる。

 

「六人死んだ。 三人は生きているが、一人はもう死ぬ。 もう二人も、そのままあそこで死んで行くだろうな」

 

「……全滅か」

 

「ああ、そうなる。 発砲音もある。 そのうち通報されて、警察が来るだろう。 或いは事件は公表されないかもな」

 

「……」

 

まあ、人の味を覚えた獣は駆除するしかない。

 

あれはその手合いだったし、末路としては妥当だろう。

 

人が死んだとは思わなかったし。

 

同情もしない。

 

当然、何らかの人生があっただろう事は分かる。だがそれを言い訳にして、どれだけの害を周囲に為してきたのかを考えると。

 

同情になどは全く値しない。

 

法律は加害者ばかり守るために働いている傾向があるが。

 

ああいう連中を守るためだけの法律など必要ない。

 

「ねえ、ケルベロス。 自業自得って、本当にあるの?」

 

「……実際にはほとんど働いていないな。 古くには、神々がそれをやろうとしていた時期もあった。 だがいつしかそれは夢物語になっていった。 今は精々、魂を正確に裁いて、あの手のは地獄に落とすだけだ」

 

「その後は。 転生とかはあるの?」

 

「輪廻転生ならある。 あの者達は地獄で想像を絶する年数責め苦を受けた後、虫にでも転生するだろう。 それも蠅とかゴキブリとかにな」

 

そうか。

 

だが、それで今を真面目に生きていた人たちを、笑いながらあれらが踏みにじった事実は消えない。

 

改革するなら人間の社会全部。

 

それに弱体化しきった神々も、ではないか。

 

そう、燐火は思った。

 

ただ、問題はそれだけではない。

 

あのダイモーンといい、なんだか燐火を試しているかのようだ。

 

ふと、視線を感じた気がする。

 

ふっと振り返るが、何もいない。

 

嘆息すると、荷物を取りに行く。多少の鍛錬にはなる。

 

家に帰ってからは、黙々と勉強をする。

 

中学については、既に涼子と話はした。今後のことを考えて、ある程度まともな中学に行きたい。

 

これは学閥だのを見据えた学校という意味ではない。

 

まっとうな学校に行きたいと言うことだ。

 

それで、調査をしておく。

 

まだケルベロスはいてくれるが、幸運に頼ってばかりでは駄目だ。

 

おとうさんにもその話はしてあるのだが。それでも自力である程度は調べていかないといけないだろう。

 

頼れるところでは頼るべきだが。

 

それでも、頼れない場所では、自力自活をするしかないのだから。

 

黙々と調べ物をしていると、サイレンを鳴らしながらパトカーが数台行ったようだった。日女さんから連絡が来た。

 

やはり、あれは海外の犯罪組織どうしの抗争だった。

 

どっちもアジア系の犯罪組織で、この近くではなく都心で活動していた極めて悪辣な連中だったらしい。

 

どうにも違法薬物の販売を摘発されたのが、どちらかの組織からの情報漏洩が原因ではないかと言うことでもめ事になり。

 

大幹部同士が出てきて話をするつもりが、今までの冷静さが嘘のように殺し合いになった、ということだそうだ。

 

随分詳しいが。

 

日女さんが警察に同行して、八幡神から周囲の神霊に話を聞いたらしい。

 

そんなことも出来るのか。

 

凄いな。

 

それで、燐火が魔祓いをしたことも分かっているそうだ。

 

「魔祓いの中には、犯罪組織に加担するようなのもいる。 俺が今回は痕跡を全て消しておくが、今回の抗争をしていた組織はアサルトライフルを日本に持ち込んでいるような連中だ。 くれぐれも危ない橋を渡るなよ」

 

「分かりました。 日女さんも気をつけて」

 

「そうだな……」

 

メッセージのやりとりはそれで終える。

 

ケルベロスが、それを見ながら、ため息をついていた。

 

「やはりおかしいな。 今までのダイモーンよりも更に悪辣だ。 能力の観点ではたいした事はないが、明らかに危険な案件に燐火を誘導しようとしているように思える」

 

「悪神の仲間によるものかな」

 

「可能性は高いだろうな」

 

「そうか」

 

じゃあ、そいつも叩き潰さないといけないな。

 

そう考えながら、この近所の中学を調べておく。

 

いっそ、魔祓いが通う学園に来てはどうかと菖蒲さんに言われている。それも手なのではあるが。

 

その場合は、魔祓い以外の事が出来なくならないか。

 

そう思うのだ。

 

実際菖蒲さんにそう問い返したとき、少しの時間黙った。

 

あれは図星だったのだろう。

 

それに魔祓いの間でも、家柄がどうので人間は群れを作るらしい。

 

学問についても、魔祓いだからどうでもいいとほとんどやらないような輩が少なくないそうだ。

 

そういった連中に交わって、それで良い影響を受けるだろうか。

 

魔祓いとしては我流では限界がある。

 

それは分かっている。

 

だがそれはそれとして。

 

燐火は自立した人間として、何があっても生きていけるようになりたいのである。

 

いずれにしても、どの中学に入るかは非常に悩ましいところではある。

 

気分転換にゲームをする。

 

前に買って貰ったゲームだが。

 

やっていて楽しいと感じることはあまりない。

 

ゲームで他人に勝つことに興味を一切見いだせない事もあって、気分転換に手を動かし、脳を働かせるだけだ。

 

おかあさんが調子が悪そうなので、ゲームを一旦中断して、様子を見に行く。

 

白湯を用意して飲ませるが。

 

おなかがだいぶ目立っているおかあさんは、かなりしんどそうだった。

 

「大丈夫ですか? え、えっと。 大丈夫……?」

 

「うん、平気。 少しずつ普通にしゃべれるようになってきたね」

 

「はい。 いえ、う、うん。 も、もう少し頑張り……頑張りま……頑張る……ね」

 

「その調子」

 

苦笑いされる。

 

まだそれくらいの事をする精神的な余力はある、ということだ。

 

戻ると、ゲームをやって気分転換をする。

 

いくつかの中学を候補に入れているが。

 

今考えているのは、市原さんが行こうと考えている中学だ。

 

小学校で陰湿極まりないスクールカーストに嫌気がさしたらしく。

 

そういうのが一切ない学校を探しているらしい。

 

ちょうどそういう学校を試験的に作っているらしいので、燐火もそこに行かせて貰う事とする。

 

ただ、それもまだあくまで候補の一つとしての話だ。

 

燐火としての当面の最大の課題は。

 

もうすぐ生まれてくる妹(最近分かった)に対して。

 

敬語で喋らないことだった。







悪神化フリッグを倒した燐火も、その生活は色々とめまぐるしく代わっていきます。

妹が夏休み明けくらいに生まれることもあります。

いよいよ、家族に敬語で喋らないという難しいミッションをこなさなければならないのです。

何が難しいかは人に寄ります。

まともな育て親にあたらなかった燐火には、これが誰よりも難しいのです。


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