魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
夏休みと言えば楽しいバカンスですね。
というわけで今回はバカンス回です。
夏合宿ですね。
とはいっても魔祓いの夏合宿です。
水着で海?
残念ですが、場所は 山 奥 の お 寺 です。
序、合宿開始
少しおかあさんが心配だったが、そろそろ入院すると言うこともある。入院をしたら、の条件で。
燐火は二泊三日の合宿に行くことにした。
これは菖蒲さんが誘ってくれたもので。
魔祓いの若者を集めて。合同合宿して能力強化に励むものであるらしい。
燐火より若くして魔祓いになっている子もいるらしく、そういう子は英才教育を受けているとか。
そう考えてみると。
小四まで教育を受けていなかったに等しい燐火は、遅れに遅れている。
学業はどうにか取り返した。
身体能力だって。
だけれど、それ以外が足りなさすぎるのだ。
こういうことを全く考えずに生きている子もいるだろう。そういう子は、中学か高校くらいで気づければ良いが。
最悪それも一切気づけず、一生どうしてうまくいかないのだろうと嘆いて過ごすことになるのかもしれない。
他人に対して上に立つことだけ考えて生きている人間にとって。
学問はただそのための道具にしかなっていない。
そういう人間にも、教育は無意味だ。
精々上流階級での「教養」のために覚えておく程度のものに過ぎず。結局せっかくの学問を何ら役立てる事は出来ないのだろう。
燐火は違う。
そうはならない。
故に、合宿に出た。
おとうさんもおかあさんも許可してくれた。
まあ二泊三日くらいだったら大丈夫、という事だろう。
林西さんが先に来て、おとうさんと話をしてくれた。ちなみに素性がばれるとまずいので、近場のカフェで話をしたそうだが。
合宿には林西さんも来る。
それ以外にも、何名か日本でも有数の魔祓いが来るとかで。
万が一があるとまずいので、自衛隊の特殊部隊が警護に就くのだとか。
ただ、フリッグの仲間や。
あいつに近い魔や悪神が来た場合は、それでも被害がたくさん出るのは避けられないだろう。
燐火は夏休みの宿題は最初の数日で片付けてしまったので。
後は、合宿に集中することが出来た。
車に関しては、林西さんが運転してくれる。これに乗って移動する。
一緒に菖蒲さんと日女さん。
カトリイヌさんも来るらしい。
ちょっと林西さんが渋い顔をしたのは、過去に一神教の魔祓いが、合宿で問題を起こしたのが理由だそうだが。
まあ、カトリイヌさんはポンなところはあるけれど、最近どんどん大人になっているようだし。
この間のフリッグ戦でも、しっかり連携をとることが出来ていた。
多分大丈夫だと思う。
カトリイヌさん達は、専用のリムジンで来るらしい。
エヴァンジェリンさんもそれに乗ってくるそうだ。
リムジンなんか本当に乗っている人がいるんだなと燐火は思ったが。おとうさんも買おうと思えば買えるそうだ。
ただ、Vtuberという仕事はいつ体を壊すかも分からないし。
今あるお金だって、収入が途切れればそんなに長くはもたないのである。
だったら、できるだけ無駄遣いしないように貯めておく。
そういう考えらしかった。
燐火の方でも、魔祓いのたびに国からお金が振り込まれる。
それを今のうちに貯めておいて、将来何らかの形で使うつもりだ。
それで問題はないだろう。
とりあえず、割としっかりした車で、しっかりした運転で合宿地に向かう。林西さんは超がつくほどの安全運転で、車はほとんど揺れなかった。
ドライブレコーダーがついているのは、今時の車らしいとは言える。
以前は、悪意を持って飛び出してきた子供との接触とかの明らかに相手が100悪い場合でも、車の方に非があるみたいな判決が出たらしいが。
ドライブレコーダーの登場により、その状況が一変。
子供だろうが、車に非がない場合は非がないと判決が出るようになったようだ。
これもあって、ドライブレコーダーの導入は必須となった。
自衛のためである。
いずれにしても、燐火は四人乗りの軽で、現地に向かう。菖蒲さんはバイクで行こうかと言ったのだけれども。
林西さんが、ガソリン代がもったいないからと、菖蒲さんも乗せていくことに決めたようだった。
とりあえず行く先は吉野の山奥だ。
昔は南朝の本拠が置かれたこともある場所。
現在は峻険な山深い土地で、ほとんど人は住んでいないが。いわゆる霊地としては非常に好ましい場所であるらしい。
昔は山伏などがたくさん訪れて、修行に明け暮れていたという話を、行く途中で林西さんが話してくれる。
また、山の民と言われる人々にとっても、聖地の一つであったそうだ。
山の民については最近調べた。
日本では珍しい不定住民で、明治初期には二十万人くらいがいたそうだ。
低地で定住して暮らすのが普通の中、敢えて山の中で暮らしていた人々。忍者や修験道などとも関係があり。
日本の裏の歴史にも密接に関わっているという。
ただそれも明治時代に戸籍が定められて急速にいなくなり、今ではすっかり絶滅してしまったようだが。
高速道路などを移動して、昼過ぎには到着。
朝一に出たのに、かなり時間が掛かったが、まあこんなものなのだろう。
大きなお寺がある。
ここで合宿だ。
とにかく都会は凄まじい暑さだったが。
ここは大分涼しいように感じる。
或いはコンクリとかの照り返しがないから、かもしれない。
ちなみにケルベロス曰く、燐火の家の辺りはヘラクレスさんが張ってくれるらしい。狼藉者は通さないと約束してくれたそうだ。
涼子や市原さんが少し心配だが。
まあ、大丈夫だと思う。
二泊三日だ。
その程度の日数だったら、別に燐火がいてもいなくても同じ。
それに日女さんの一家もいる。
いずれも燐火より格上の魔祓いだし、そうそうどうにかなるようなこともないだろう。
ともかくお寺に入るときに、色々と林西さんから言われた。
日女さんや菖蒲さんは分かっているようなので、テキパキとこなしている。燐火は、何事もやはり勉強だなと思った。
ケルベロスが感心している。
「木造という違いはあるが、なかなかに荘厳な場所だ。 仏教は学問としてはなかなかに面白いと俺は思っているが、こういった建築物も興味深い」
「ギリシャだと石造りが基本だったから?」
「それはあくまで高価な住宅の話だ。 全てが石造りだったわけではないぞ。 それはそれとして、実に良く出来ているな。 それに俺を拒む気配もないようだ」
とりあえず、奥の間に。
十人くらい魔祓いが来ていて、更に増える予定らしい。
カトリイヌさんが遅れてきた。
エヴァンジェリンさんは体力がないからか、長時間の車でかなりへばっていたようだけれども。
それでも、相変わらずのテンションではあったが。
「はっはっは! 天才たる私が来たぞ! それで今日は教える側かな!?」
「悪いが今日は教わる側だ。 北欧のドルイドではおまえが最強かもしれないが、俺では及びもつかない魔祓いがこの国には何人もいる」
「それは凄まじいな……」
日女さんの冷静な言葉を、素直に受け入れているエヴァンジェリンさん。
なんか変な奴がいるという感じで、燐火と同年代か少し年上の人間達がそのやりとりを見守っていた。
まあこの中には既に現役の魔祓いもかなりいるらしいから。
今回の合宿は、学生が鍛錬するためというよりも。
いわゆる強化訓練なのだろう。
とりあえず席が用意されているのでそれにつく。燐火は前の方を用意して貰った。
林西さんが最初の講師として来る。
宗教的な話でもされるのかと思ったが、そうではなかった。
淡々と、精神修養についての話をされる。
今日はそれをやって、明日から捕らえてある荒神を祓う実戦訓練をやる、ということだ。
それを聞いて、一気に皆の顔に緊張が走る。
燐火としてはダイモーン専門だから役に立てるかは分からないが、それでもまあ陽動くらいにはなるだろう。
ただ、林西さんはいう。
「この場にいる面子に合わせて、様々な魔を捕獲してきた。 それらに的確に対応できるように、判断し訓練するのが合宿の目的だ。 文化圏ごとに魔祓いが必要なのは各自知っていると思う。 専門ではない魔と遭遇したときのことを常に考え、逃げる手段や、対策する方法を用意しておく。 今日の授業は、それについての実践をする」
なるほど。
魔祓いの効果に直結する精神修養といい、とことん実践スタイルでやるわけだ。実戦も混ぜながら。
それは上等である。
燐火としても、気合いを入れて。
林西さんが、丁寧に教えてくれる精神修養の細かい話を聞き。それについて、実践を開始していた。
全員に対して、細かいところでどうすれば良いか。林西さんは、丁寧かつ具体的に指導してくれる。
これは助かる。
努力しろとかいうだけのえせ教師とは全然違う。
必要なのは具体的にどうすれば良いかだ。
勿論試行錯誤しながら得なければならない分野もある。だが、創意工夫では限界がある。
それこそ一を聞いて十を知るような人間は確かに存在しているが。そんなのは一世代に一人いるかいないか。
そういう話はケルベロスにも聞かされている。
ほとんどのその類の輩は、分かったつもりになっているだけであるらしい。
だとすれば、こうやって丁寧に教わるのが一番だ。
夕方までみっちりしごかれる。
燐火は体力があるから平気だが、かなり参っている子もいるようだ。
これでも現役の魔祓いだろうに。
カトリイヌさんは青ざめているし。
あちらではエヴァンジェリンさんが机に突っ伏して魂が出ている。
体力が課題だな。
そう燐火は思った。
一方、偉そうにしていた何人かが、叱責されて帰路につかされていた。不満そうにしていたが、林西さんは容赦しないようだった。
あれらは何だろう。
そう思っていたら、日女さんが教えてくれる。
「魔祓いの学校で中堅どころの成績を出している生徒だよ。 ささやかな才能を鼻に掛けて前々からふざけた態度を取っていたらしいが、戦力外通告を出されたみたいだな」
「魔祓いは才能の学問ですよね」
「ああ、だが限界がある。 あれらは才能を鼻に掛けて努力を怠った。 だから基礎が全く出来ていないし、そもそも出来る側だと思い込んでいるから、他人の話を聞くって事が出来ない。 この合宿は結構界隈では有名でな。 あいつらにはおそらく相当に失点が大きくつくはずだ」
そうか。
だとすると、燐火としてもあまり笑ってはいられないな。
とりあえず夕食を食べる。
精進料理が出てくるかと思ったが、別にそんなこともなくて、ちゃんとした料理が出てくる。
ちなみにこの合宿。
おとうさんにはただと説明してあるが、実際には燐火の魔祓いの貯金から引き落とされている。
サラリーマンの年収くらいのお金が出ているらしくて。
まあそうなると、二泊三日でも徹底的に詰め込むし。
かなり厳しくふるいにも掛けるし。
才能を鼻に掛けていたようなアホは、さっさとご退場願うよなあと思ってしまう。
これから実践だ。
魔祓いとしては、命のやりとりもする事になる。
カトリイヌさんは護衛の二人がいないこともある。普段とはかなり戦い方も変えなければならないはずだ。
厳しい局面になるだろう。
夕食はとてもおいしかったが。
それ以上に、栄養を補給している、という点が大きかった。
多分味もいいのをつけてはいるが、其処に重点を置いているのだろう。
寝る前に、林西さんにこれからやるべき事一覧を渡された。
精神修養に関しての事もあるが。
それ以上に、燐火は闇に落ちかねない極めて危険な場所にいるのだという。
精神が苛烈すぎる。
過去に見た闇が深すぎる。
今はケルベロスがついてくれている。
だがケルベロスがいなくなったとき。燐火は場合によっては、簡単に極めて危険な闇に転ぶかもしれない。
それを、どうにかした方が良い。
そう言うようなことと。
対策として何をすれば良いかが、具体的に書かれていた。
なるほど。
一つずつ、実践していこう。
ただし、合宿から帰った後になるが。
エヴァンジェリンさんが、目をしばしばさせながら、もそもそと夕食を取っていた。夕食を取る元気もない、という雰囲気だ。
おいしいとか言っているが、とてもおいしく食べているようには見えない。おいしいと言い聞かせているようにさえ見える。
明日は結構厳しい実戦があるみたいだけれど。大丈夫だろうか。
ちょっと心配になった。
林西はこの合宿で、十五年間講師を続けている。それだけ歴戦の魔祓いとして尊敬され、多くの魔を祓ってきた。
皆が眠った後、見回り。
結界を確認して回る。
複数の仏教系神格が守っている寺なので、ネズミは入りようがない。これに関しては、文字通りの鉄壁。
だが。憑いている不動明王が言う。
「気づいているな林西」
「ええ。 どうやら見ているようですな」
「不埒な輩だ。 ひねりに行くとするか」
言葉を終えてから。
即座に不動明王を下ろす。
神おろしに近いが、不動明王を具現化させるのでは無く一体化する。
それによって、爆発的な力を作り出す。
跳躍。
上空百五十mに即座に到達すると、其処で気配を消してこちらを見ていたものは、愕然としたが。
次の瞬間には正拳を受けて、地面にたたき込まれていた。
即座に追撃を仕掛ける。
必死に逃れようとするそいつを踏み砕く。翼のある人型。大きさは林西と同じほどだが、戦闘力は象と蟻の差だ。
ぎゃっと鋭い悲鳴を上げて、それは抵抗の意思を捨てた。林西は、不動明王とともに、聞く。
素足のままだが、今の林西は50トントラックを蹴り一発で粉砕する事が可能だ。
「何やつだ」
「け、けちな悪魔でさ、へっへへへ。 俺の主人に、ここを見て来いって言われていて、それで」
「その主人の名は」
「ひっ! それだけは!」
一喝を入れる。
相手は西洋系の魔祓いだ。祓うことは出来ない。
だが、それでもだ。
今の林西から逃げることは不可能だし。
既に今の騒ぎで、エクソシストも来ていた。あのカトリイヌというお嬢さんの護衛兼お目付役の凄腕である。
これで、完全に詰んだ。
「もう一度聞く。 誰に言われて、ここを監視に来たか」
「ゆ、許してくれ、祓わないでくれ。 前に祓われて形を得るまで、百三十年も掛かったんだ!」
「言わないのだったら、完全に消滅させるだけだが」
「やめてくれ! やめてくれよう!」
悪魔が泣き始める。
だが、悪魔は嘘つきだ。
セバスティアンというエクソシストが祈りの言葉を唱え始める。そうすると、本当に余裕がなくなったようで、悪魔は悲鳴を上げてもがき苦しみ始めていた。
「わ、分かった! 分かった言う! 俺の主は!」
「!」
林西が飛び退く。
雷撃が悪魔を打ち、瞬時に黒焦げにしていた。
消えていく悪魔。
だがこれは口封じというよりも、人間より先に同胞が殺すことで、消滅や口を割られるのを避けたのだろう。
林西の視線の先には。
明らかにこの悪魔より、数段格上の悪魔がいた。
そして、すっと消える。
翼を持った人影。
わかりやすい悪魔らしい悪魔だった。
「逃がしたか。 だが、この結界には入れないこともはっきりしたな」
不動明王がぼやく。
林西は祈ると、戻ることをセバスティアンに告げる。
この合宿は平気だろう。
だが、燐火は既に目をつけられていると見ていい。
西欧の悪魔は人間ほど邪悪ではないが、それでも人間の悪を模倣する。どんな手を打ってくるか分からない。
先に連絡を入れておく。
燐火の関係者の周囲は、既に連絡を取ってあるヘラクレスが見張っているようだが、更に守りを厚くした方が良いだろう。
欲望のままに好き勝手に振る舞って自滅したフリッグと違って。
今度の奴は、狡猾に立ち回ると考えて良いだろう。
この合宿で、燐火が一皮むけると良いのだが。
そう林西は思った。
若い世代が成長するのを後押しするのは、林西のような高齢者の仕事。
老齢の者が行うのは、ノウハウの展開。
そうして本来人間の世界は回ってきた。
それを、林西は果たすだけだった。
この世界の日本は、八百万の神々の考え方があることもありますし、神道と仏教が比較的仲良くやれていること、他宗教に寛容なこともあって、魔祓いの人数も多く質も高いです。
どうしても一神教系だけの魔祓いしか事実上いられないような文化圏だと、競争が生じなくて質が落ちるのは否めません。
ある程度母集団がいますので、質のノウハウの伝達も出来ていますし。
それを評価している海外からも魔祓いが研修に来るほどなのです。