魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
涼子は聞いた。
なんだか変な子がいるらしい。
顔を隠しているから正体はわからないけれど、マントを翻して走っているらしい。それも、すごい早さで。
それでいつの間にかいなくなっている。
その後、何かしら小さな騒ぎが起きる。
どれもたいした騒ぎではないらしいけれども。
ただ事故未遂だったり。
或いはチンピラが逮捕されたり。
そういうことがおきるたびに、決まってマントの子供が目撃されているらしい。
それも赤い服でまとめていて。
怪人赤マントとか噂になり始めているとか。
赤マントという都市伝説があったことを、涼子は知っている。
知らないことを知っている人間を、「マウントをとっている」などという理屈で迫害にかかる周囲の人間のさもしさも。
だからその噂を聞いたときは、そんなものかと思ったのだが。
隣の席の死んだ目をしているクラスメイトの平坂燐火が、どんどん運動神経を伸ばしていて。
この間隣のクラスで、女子の髪をつかんで引っ張って泣かせていたデブの男子の腕を瞬く間にひねり上げて。
地面にたたきつけてだまらせたのを見ると。
どうにも無関係とは思えなかったのだ。
燐火は冷凍イカみたいな目をしていると周囲に陰口をたたかれているが。
いじめられていた子には慕われていて。
もしもなんかあったら言ってくださいねと、あの死んだ目でいじめっ子を見ながら言ったこともあって。
今では学校で静かな抑止力になっている。
おそらく本人は恐怖で周囲を制圧するつもりはないのだろうが。
運動神経がいかれてると周囲にささやかれ始めていることもある。
どうにも不可解だった。
今日も黙々と、二人で帰る。
涼子が何も言わない限り、燐火は口を利こうとしない。遊びに行って良いかと聞くと、駄目と言われた。
なんでも燐火のおとうさんがちょっと面倒な仕事をしているらしくて。
それで家に他人を上げると、素性が知られてまずいらしい。
ひょっとして配信者かなにかかと涼子は思ったが。
燐火は基本的に不要なことをしゃべらない。
涼子ですら、新しいことを知ったら他人に言いたくなる気持ちはちょっとはあるのだけれど。
燐火にはそういった感情があるとは思えない。
仕方がない。
涼子もあまり良い家庭じゃないけれど。
「燐火ちゃん、こんどうちに遊びに来ない?」
「構いませんけれど、何をして遊ぶか燐火にはよくわかりませんよ」
「良いよ。 漫画でもゲームでもあるし」
「わかりました。 スケジュールを調整して、遊ぶ日を作ります」
スケジュールの調整か。
この子は本当に、小学生なのだろうか。
いずれにしても、この子が笑顔を浮かべるところは想像できない。訳ありだとは思ってはいたのだが。
本当に一体何者なのだろう。
通学路で分かれると、家に戻る。
涼子の父親は、再婚の気配もなく、涼子には買える限りのおもちゃを買ってくるし。遊園地とかでもなんでも誘ってくれる。
お金自体はそれなりにあるのだ。
ただ強烈な女性不信に陥ったらしくて、女性に興味を一切見せないらしい。
会社の人がこの間家に来ていたのだけれど、そういう話をしていたのを覚えている。
まあ、そんなこともあるだろう。
家に戻ると、父親はメモだけ残して出かけていた。
会社の都合らしい。
普段はリモートで仕事をしているから、ほとんど家にいるのだけれども。それで息苦しくなったことはない。
ホストに入れ込んだあげく馬鹿みたいな理由で出て行き。ホストにも捨てられて。実家で幽閉同然の生活をしているらしい元母親がたまに涼子に連絡をしてくるが、完全に他人として接している。
あれは性欲を優先して、自我を制御できなかった猿だ。
あんなのと血がつながっているだけで反吐が出る。
ともかく、家事はやっておく。
元々家事もろくにしなかった母親のこともあり。家事ができる方ではない父親のこともある。
今では家事は大体涼子がやっている。
家事を片してから、スマホを確認。
クラスのグループラインで、また怪人が出たと噂になっている。
ついさっきだそうだ。
その後、近所で騒いでいた男が、静かになって。
それで警察が来て、おとなしく連れて行かれたらしい。
落ちていたナイフが拾われていったと言っていて。危ないこともあるものだなと思った。
ゲームをいくつかやっているが、パーティー向けのものはないな。
お小遣いで買える範囲のパーティー向けゲームを見繕うか。
燐火はあの様子だと、テレビゲームなんてやったことすらあるかも怪しい。
できれば簡単な奴が良いだろう。
去年の授業参観を見る限り、少なくとも母親は立派そうな人に見えた。とてもしっかりしている雰囲気だった。
だとすると、家庭がうまくいっていないということはないのだろう。
まあ、他人の家庭を詮索しても仕方がない。
黙々とカタログを触る。
他人が遊びに来るのに、四苦八苦している。
そういうところは、涼子も子供だ。
こういうとき、自分が子供であることを再確認して。
涼子はなんともいえない気分になる。
さっさと大人になってしまいたい。
そう、涼子は思っていた。
大人になっても、性欲に振り回される猿にはなりたくない。
そうとも思っていた。
(続)
※涼子について
燐火の友達です。
かなり出来る子ではありますが、この子も家庭に爆弾持ちですね。
それもあって後々色々酷い目に遭うことになります。
そして親を一切尊敬していないこともあって、小五で一秒でも早く自立したいと考えています。
まあ、人生色々ですね。