魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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明確に怒らせたらまずい相手を怒らせた悪魔の軍団。

既にガチンコの経験を充分に積んでいる燐火は、容赦なく武力を縦横無尽に振るう事になります。

ケルベロスが燐火を「戦わせたくなかった」理由の一つが分かるかと思います。

こうなることが目に見えていたからです。






3、大乱戦

太ったおじさんみたいな悪魔。ほとんど人間と姿は変わらず、下半身が山羊になっていて、尻尾の先がとがっているハートみたいになっている。

 

つまり逸話も何もなく。

 

ただ悪魔の軍勢として呼ばれただけの魔。

 

悪魔とすら言えないような存在。

 

それが、真正面から鉄パイプを振り下ろす燐火に、明らかに恐怖するが。容赦はしてやらない。

 

頭を真正面から叩き潰す。

 

ぐしゃっと頭蓋骨が潰れる手応え。

 

ただ、人間のそれよりずっと柔らかい。

 

数だけそろえるのを最優先した。

 

それが一発で分かる。

 

そのまま、左右から飛びかかってきた二体を、歩法を工夫してそれぞれさばく。右にすっと移動しつつ、飛びかかってきた腕を回避。腹を蹴り上げ。態勢を崩したところに一撃を入れる。

 

更に左から来た奴が上から飛びかかってくるが。

 

見たところ、飛行能力もない。

 

そんな奴がうかつに飛ぶのは自殺行為だ。

 

正確に飛行曲線を見切ると、すっと歩法を駆使して回避。

 

合気の得意分野だ。

 

ずっと地道に鍛錬をしてきたのだ。

 

そのまま、悪魔があれという顔をしているところに。後頭部を鉄パイプで粉砕してやる。

 

地面に二体が這いつくばった。

 

そこに聖印を打ち込んで、ダイモーンを消し飛ばす。

 

次。

 

地面の下から、蛇みたいな悪魔が襲いかかってくるが。

 

地面の震動でバレバレだ。

 

むしろ仲間をばくんと食ったその蛇悪魔が慌てたところを、横殴りにフルスイングで鉄パイプをたたき込んでやる。

 

それで、ぎゃっと悲鳴を上げる蛇悪魔。

 

頭に、人間の頭部がついている。

 

また蛇の体にも、小さな手足がついていた。

 

文字通りの蛇足だ。

 

蛇の体は計算され尽くされた形になっているのに、それを台無しにしてしまっている。

 

勿論、同情も容赦もしない。

 

こいつらが人々を害するつもりなのはわかりきっている。

 

人々の水準がカスに等しいことは、燐火も嫌になるほど思い知らされてきたが。

 

全うに生きている人だっている。

 

そういう人を、傷つけさせはしない。

 

だから、叩き潰す。

 

至近から聖印をたたき込んで、ダイモーンを祓う。

 

予想通りだが、こいつらとにかく数をそろえただけだ。ダイモーンは簡単に祓える。そして、数をそろえた弊害だろう。

 

とにかく一体一体が。

 

気の毒なほど弱かった。

 

接着剤として使われているダイモーンがとにかく脆弱だ。

 

ただし、数が数だし。

 

一発でも貰えば、変な能力を受ける可能性もある。

 

それにだ。

 

雑魚の中に、強いのを混ぜている可能性もある。

 

雑魚ばかりで油断しているところに、いきなり強いのにかち合ったらしゃれにならない。

 

油断せず、右左に悪魔の雑多な群れをなぎ倒す。

 

どれもこれもたいした相手じゃない。

 

木を蹴って跳躍すると、明らかに怯んでいる図体がでかいおっさんそのものの悪魔の頭を、正面からたたき割っていた。

 

「燐火!」

 

日女さんだ。

 

振り返りつつ、迫ってきていた悪魔の顔面を横殴りに粉砕しにいく。

 

だが、そいつは鉄パイプを腕を盾に防ぐと、飛び退いてにやっと笑ってみせる。

 

やはり強いのが混じっていたか。

 

日女さんが近くに降り立った。

 

「周囲の雑魚は任せろ」

 

「ありがとうございます。 カトリイヌさん達は」

 

「今ありったけのエクソシストを集めて向かっているそうだ。 悪魔の軍団を排除できれば、それだけの手柄になる。 そう呼びかけて、雑魚もまとめてかき集めているようだな」

 

「今必要なのは人数です」

 

ダイモーンを祓ってしまえば、接着剤をなくし、大幅に悪魔は弱体化する。

 

それも分かっている。

 

だから、燐火は思い切り暴れていい。

 

むしろ暴れるべきだ

 

突貫。

 

悪魔……見かけ若々しい青年だが、下半身を露出させ、更には毛深い。山羊のようだ。色は黒いが。

 

西洋の悪魔の原型には、ギリシャ神話のパン神が関わっているという。

 

この神自体は特に害もない陽気な存在であり、驚いて逃げ惑うことが知られていて。あの有名な「パニック」という言葉の語源になったほどの慌て者だ。

 

だが、このパン神がローマ時代に変なカルト信仰を受けた挙げ句。

 

その姿が、一神教の悪魔としてのスタンダードとして取り入れられた。

 

ヤギを思わせる姿の悪魔が多いのはそれが理由で。

 

今燐火の一撃を耐え抜いた悪魔も、目の瞳孔が横に長い。

 

にっと笑った口元は、牙だらけだった。

 

「ガキだと聞いていたが、思ったより育ってるじゃねえか。 強姦したら良い声で鳴きそうだな」

 

「そうですか。 貴方、その汚い股間のものを叩き潰したら、良い声で鳴いてくれそうですね」

 

「ギャハハハハ! おもしれえ! やってみろやぁ!」

 

飛びかかってくる悪魔。

 

速度が今までぶちのめしてきた雑魚どもとは段違いだ。

 

周囲では日女さんが、ちぎっては投げちぎっては投げしてくれているし。

 

おそらく林西さんが展開した結界が、この山を周囲から隔離してくれている。

 

悪魔を逃がすことはないし。

 

この山に一般人が入り込むこともない。

 

自衛隊がしっかりバリケードを展開してくれていて。一般人が近づくのを防いでくれている。

 

だから、燐火は。

 

遠慮なく戦える。

 

抜き手を悪魔が繰り出してくる。

 

爪は鋭くとがっていて、生半可な刃物より厄介だろう。

 

はじく。

 

連続して抜き手を繰り出してくる。蹴りなどの体術もそれに混ぜてくる。

 

ケタケタ笑いながら、猛攻を仕掛けては来ているが。

 

ぬるい。

 

そう燐火は判断すると、すっと身を沈めて、反撃に出た。

 

抜き手を今までになく鋭くはじく。

 

それで、流れが変わる。

 

明らかに態勢が崩れた悪魔が、まだ笑みを崩さないまま、それでも反撃に出ようとするが。

 

燐火は歩法を駆使して左に回り込むと、対応が遅れた。

 

「な、なんだっ! 空手か?」

 

そのまますっと脇腹に手を当て、合気をたたき込む。

 

踏み込んだのと同時の合気。

 

それで、体内に直接衝撃波をたたき込むのだ。

 

合気は充分に実用的な格闘技だ。

 

多数を相手にするのにも適しているが、攻撃に使う場合はこういうことも出来る。

 

漫画みたいに気を飛ばしてエネルギー弾みたいにすることは出来ないかもしれないが。

 

相手の体内に、理にそって衝撃を打ち込むことは、実のところこうやって出来るのである。

 

肋骨が粉砕され、悪魔が明らかに怯む。

 

それでも即座に回し蹴りに移行してくるが。

 

すっと見切って下がる。

 

ミリ単位で見切られて、悪魔が表情を引きつらせる。

 

本気になったようだが、もう遅い。

 

加減して遊んでいたときに、実力は見切らせて貰った。

 

無言で間合いを詰めると、今度は下がろうとしたところに、軸足を思いっきり払ってやる。

 

転びそうになったところを、背中に翼を出現させ、強引に浮き上がろうとする悪魔だが。

 

その顔面に、鉄パイプを思い切りたたき込む。

 

ぎゃっと、悲痛な声を上げ、横っ飛びに逃れようとする悪魔だが。その動きも既に見越していた。

 

悪魔が飛び起きようとした時には、至近に燐火が。

 

三角跳びを使って、降り立っていた。

 

引きつった顔の悪魔が何か言う前に。

 

燐火は宣言通り、悪魔の股間の一物を、全力で蹴り砕いていた。

 

以前不良高校生のを似たように粉砕したときとは、技量もパワーも段違いに上がっている。それだけ鍛錬したし、体を作ったし。

 

更には、修羅場をくぐったのだ。

 

それになにより此奴は悪魔と言っても、所詮はダイモーンを使って無理矢理具現化させられた雑魚。

 

破裂する手応え。

 

それと同時に、蒼白になった悪魔がたたらを踏んで下がり。

 

そして尻餅をつくと、絶叫を上げながら転がり始めた。

 

「随分汚い声で鳴きますね。 それとも貴方はこういう声で燐火を鳴かせたかったんですか?」

 

「ひっぎっ、ぎぎゃああああああっ! いでえいてえいぃでえぇえええええっ!」

 

「黙って貰いましょうか」

 

「ま、待て、助けてくれ、助けてくれっ! 俺が悪かった! い、いや、悪かったです! あなた様に従います! だから、消滅だけは」

 

聖印を切る。

 

ダイモーンを消し飛ばすと、更に力を失った悪魔は、泣きながら土下座をする。ブルブル震えているそれに、燐火は容赦なく鉄パイプを振り下ろして、完全に黙らせた。

 

後はエクソシストがどうにかするだろう。

 

次だ。

 

日女さんが、側に降り立つ。

 

千早を着込んでいる日女さんも、汗をかき始めていた。

 

「容赦ないな。 危ないようだったら加勢するつもりだったが、必要もなかったわ」

 

「次行きましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

まだまだ悪魔はたくさんいる。

 

全部叩き潰してしまえば。

 

こいつらを行使している悪魔は、手札を一気に喪失することになる。

 

そうなれば。

 

今までのようなやりたい放題は出来なくなる。

 

ダイモーンはケルベロスが言うところの迷子が幾らでも作り出すのかもしれないが。

 

悪魔は設定上、麾下の軍団が決まっているはずだ。

 

それを吐き出しきったら、悪魔本人が出てこざるを得なくなるだろう。

 

すうと息を吐くと、また走る。

 

見かけ次第、悪魔は全部ぶちのめし、聖印を切ってダイモーンを祓う。

 

既に倒されている悪魔も、ダイモーンを祓っておく。

 

ケルベロスが警告してきた。

 

「燐火!」

 

「下がって!」

 

日女さんも即応。

 

真上から、ネットが飛んできた。

 

それも、これは切り刻むようなやばい奴だ。

 

音も無く墜ちてきていた。

 

かなり殺意が高い。

 

すっと降りてきたのは、蜘蛛のような悪魔だった。いや、まんま女郎蜘蛛だ。

 

巨大な巣を張る蜘蛛で、本州ではどこででも見かける。沖縄にいる近縁種は、鳥を食べることもあるくらい更に巨大な巣を張るそうだ。

 

ただ、蜘蛛の腹の部分に、人間の顔がついていたが。

 

随分とちぐはぐな造形だな。

 

蜘蛛は昆虫などが所属する節足動物の中でも完成度が高い生物で、其処に余計な手を入れる余地はほとんどない。

 

人間からすれば気持ち悪いかもしれない。

 

だけれども生態系の中で極めて大事な役割を果たしている、非常に有意義な生物だ。

 

人間みたいに一方的に食い荒らすだけの生物ではない。

 

生態系の監視者と言っても良く。

 

それだけ尊敬すべき存在である。

 

日根見ちゃんにその話は聞いた。

 

燐火も同意できる。

 

自分の目から見て気持ちが悪い。それは仕方がないだろう。

 

だが、それで相手の生死を決めて良いとか考えるのは傲慢の極みだ。

 

神にでもなったつもりか。

 

発想がまんま三文SF小説に出てくる侵略エイリアンである。

 

つまり侵略エイリアンというのは、人間の映し鏡と言えるだろう。

 

ちなみに蜘蛛には巣を張るタイプと、巣を張らずに徘徊して獲物を狙うタイプがいる。巣を張るタイプには投げ網のようにして糸を活用する種もいるのだが。

 

此奴がそれだとは、とても思えなかった。

 

極めていい加減な解釈から作り出された、蛇足の存在。

 

それは奔放な想像力というには、敬意が欠けていると燐火は思った。

 

「おや、今のをかわしたかえ。 バラバラにして食らってやろうかと思うたのにな」

 

「とりあえず叩き潰します」

 

「面白いガキよ。 出来るかな?」

 

「雑魚は任せろ」

 

日女さんが、周囲からわらわら現れる雑魚に残像を作りながら接近。

 

早速大暴れし始める。

 

ちなみに口から糸を飛ばす蜘蛛もいるにはいるのだが。

 

それはあくまで超少数派である。

 

既に此奴の戦闘パターンは分かっている。

 

だから、容赦なく行く。

 

左右にステップしながら、接近。

 

笑いながら、蜘蛛悪魔は腹にある口から糸を飛ばしてくる。

 

回避。

 

そのまま木を蹴って飛ぶ。蜘蛛は下がろうと……樹上に戻ろうとするが。気合いを入れて、そのぶら下がっている糸を、鉄パイプで一刀両断。

 

本来だったら、鉄パイプが一刀両断されていたかもしれないが。

 

燐火のは、あまたの魔を打ち砕き、あのフリッグも粉砕したもはや神器だ。

 

「な、何ッ!」

 

バランスを崩して落下した蜘蛛悪魔が、着地と同時に悲鳴を上げる。

 

さっき自分で落とした殺戮ネットで、体を傷つけたのだ。

 

更に木を蹴ってジグザグに迫ってくる燐火を見て、恐怖に顔を引きつらせる。

 

来るなと叫びながら、糸を連射してくる。全部回避。

 

だが、それが演技だと、燐火は見抜く。

 

敢えていきなり地面に着地。

 

数本の糸が、張り巡らされていた。

 

まっすぐ突っ込んでいたら、バラバラだっただろう。

 

舌打ちする蜘蛛悪魔。

 

張り巡らされていた糸を、鉄パイプで全て一刀両断する。両断すると、それだけで切れ味も失うようだ。

 

立ち上がる。

 

いや、そんな立ち方を蜘蛛はしないが。

 

燐火は相手の足下にある殺戮ネットが面倒だなと思いながら左右を確認。

 

周囲では殺人的な破壊音を立てながら、日女さんが雑魚をちぎっては投げている。それの一体が蜘蛛悪魔に飛んできた。

 

舌打ちして、蜘蛛悪魔がそれを払い飛ばした瞬間。

 

燐火が仕掛ける。

 

蜘蛛の強みは、低い態勢からの安定した重心だ。

 

それが分かっていない時点で、此奴の負けだ。

 

既に今の数秒で足下の殺戮ネットの位置はつかんでいた。

 

ジグザグに走り、殺戮ネットを切断しながら蜘蛛悪魔に迫る。必死に向きを変えようとする蜘蛛悪魔の足を……八本ある足の二本しか活用できていないが。そのうちの一本を打ち砕く。

 

思い切り倒れる蜘蛛の本来の頭部を、ホームラン。

 

関節が千切れて、中身が噴き出す。

 

それで、絶叫を蜘蛛悪魔が上げていた。

 

痛い痛い痛い。

 

喚いて転がり回る。

 

だが、こいつは不意打ちでこちらをバラバラにしようとしていたのだ。加減をする理由は一つもない。

 

大股で近づくと、ひっと声を上げる。既に殺戮ネットは全て無力化した。蜘蛛は命乞いはしなかった。

 

だが、怯える振りをして、それでもまだ殺意を隠していた。

 

さっきのよりはまだマシかな。

 

そう思ったが、ぶっ潰すのに変わりはない。

 

聖印を切って、ダイモーンを祓う。

 

その後、それで一瞬動きが止まった蜘蛛悪魔が、最後に残った糸を飛ばしてくる前に。

 

腹に着いている人面を打ち砕く。

 

更に何も言えなくなるまで鉄パイプで殴打して。

 

完全に動かなくなるまで、それを続けた。

 

 

 

日女さんと連携して、見上げるような大男の悪魔を、左右から蹴りをたたき込む。

 

日女さんの蹴りが首をたたき折り、燐火の蹴りは肋骨を打ち砕いていた。

 

粉砕された悪魔が、正面から倒れ伏す。

 

これで雑魚の中に混じっていたそれなりに強い奴は七体目か。

 

大盤振る舞いだ。

 

悪魔の軍団の中でも、指揮官クラスとみて良い。それなりに相手は消耗している筈だ。

 

麓にはどうやらやっとカトリイヌさん達が到着。

 

山自体を囲んで、魔祓いを豪快に始めたようだ。

 

まあ、それが正しくはあるが。

 

雑魚しか祓えないだろう。

 

実際、今ぶちのめした奴も、まだ呻いているので。ダイモーンを祓ってから、呻くことすら出来なくなるまで鉄パイプでボコしておいた。

 

「ちっ……」

 

「!」

 

舌打ち。

 

飛び退く。

 

違う。

 

明らかに今までのとは気配が。

 

フリッグと同等か、それ以上。

 

これはおそらくだが、燐火が消耗するのを待っていたのだろう。

 

更には、一番面倒な林西さんと菖蒲さんが、疲労と連戦でこちらに来られない状態も作った。

 

だが、そのもくろみがうまくいかなかった。

 

燐火も日女さんも、まだまだ存分にやれる。

 

それに、だ。

 

翼ある人。

 

それだけの単純な姿をしたそいつに、鋭い光がたたきつけられる。

 

「Amen!」

 

悪魔が飛び下がる。

 

不快感が、顔中に浮かんでいた。

 

来たのはカトリイヌさんだ。

 

セバスティアンさんも、もう一人の若い護衛もいる。

 

今までの「特徴的な」悪魔と違い、翼が生えている以外は普通の少し悪そうな男に見えるだけの悪魔は。

 

着地すると、燐火を射殺すようににらんでいた。

 

「戦略としては間違っていなかった筈なんだがな。 ダイモーンを祓えるおまえを倒せば、後は作戦はスムーズに進むはずだったんだが」

 

「貴方が悪魔達の首魁ですね。 平坂燐火です。 よろしく」

 

「はあ? あ、ああ、名乗りの文化だな。 ……人間に侮られるのも不愉快だ。 俺の名前はフルーレティ。 よろしくな」

 

「フルーレティ?」

 

日女さんが小首をかしげるが。

 

カトリイヌさんが咳払いする。

 

やはり名前だけが知られている悪魔だそうだ。

 

元々何かしらの信仰とかを元にしたわけでもなく、ベルゼバブ麾下の上級悪魔という設定でたまに登場するだけの存在。

 

雹を降らせる能力を持つとされ、仕事がとても早いとされるそうだが。

 

ともかく実態がないため、悪魔としての影はとても薄いという。

 

それどころか、後世に創作された悪魔であるという説まであるとか。

 

ケルベロスが呆れた。

 

「なるほどな。 それでは魔祓いされていない可能性も高いわけだ」

 

「そういうことだ。 俺は悪魔としては新参でな。 ベルゼバブ麾下ってご大層な設定だけは貰ったが、知られていないから実質はないも同じだ。 俺の配下の雑魚どももそれは同じ。 とはいえ……」

 

側に音も無く降り立つ菖蒲さん。

 

まだまだ余裕という雰囲気だ。

 

相手はおそらく悪神化フリッグより強いとみて良いだろう。

 

だが、燐火は前より腕を上げている。

 

それに、今回は特化型のカトリイヌさんと、セバスティアンさんと、もう一人の若い凄腕もいる

 

負けるとは、思わない。

 

「これは勝てないな。 退却させて貰う」

 

「逃がすと思いましたか?」

 

「逃げられないさ。 ただし……」

 

ぼんと破裂するフルーレティ。

 

けらけらと笑う声が虚空からする。

 

「いざという時のために、俺は分霊体をいくつも作っていてな! 本体はここにはいねえのよ! 力を送り込むことは出来るがな! 俺を倒したければ、本体を探し当てて見せるんだな!」

 

「……」

 

「平坂燐火、今回は俺の負けだ。 認めてやるよ。 おまえはただのガキじゃねえ。 今後、俺の脅威になる。 小細工もどうやら通じなさそうだ。 だが、俺が完全に負けた訳でもねえ。 俺は魔として、「本物」になる。 そのために、おまえを倒す。 そしてそれは、今度一対一でやろうや……」

 

声が消えた。

 

ケルベロスが呆れていた。

 

「まさかとは思うが、フリッグが属する一派の目的は、本質的にはオーディンと同じか?」

 

「……燐火ちゃん。 悪いけれど、のした悪魔がたくさんいるから、全てダイモーンの排除をよろしく」

 

「分かりました」

 

菖蒲さんに促されて、魔祓いに入る。

 

確かに菖蒲さんと林西さんがぶちのめした悪魔だけでも、相当な数がいるのだ。さっさとそれらと融合しているダイモーンを祓わないと、エクソシストにも対処できない。

 

フルーレティか。

 

名前だけ知られた、実態のない悪魔。

 

近年に創作された、地位だけ立派な張りぼて。

 

あちこちで呻いている雑魚悪魔のダイモーンを祓い、回る。

 

残党もまだいるが、エクソシスト達の強烈な山ごとの魔祓いに巻き込まれていて動きも鈍い。

 

対処に苦労はしなかった。

 

ほぼ一日掛けて、魔祓いを終える。泊まり込みになったので、家に林西さんが連絡を入れてくれた。助かる。おとうさんが帰ってくる日だから、心配はさせたくはないのだ。

 

この山の悪魔がもしも人里に降りていたら、大惨事だっただろう

 

それを食い止められたのは良かった。

 

だが、どうにもやりづらいなと思った。

 

「フルーレティ、燐火を認めたね」

 

「そうだな。 敵として認めてきた。 戦いづらくなったか?」

 

「相手がゲスなのは分かってる。 ただ、今までやり合ってきたゲスは、人間であろうと魔であろうと、燐火を絶対に認めようとはしなかった。 それが違うのは複雑だね」

 

「今は少し休め。 奴はおそらく、一騎打ちを挑んでくる。 その時のために、力を蓄えた方が良いだろう」

 

まだ体力に少し余裕がある。

 

前は魔祓いのたびに疲弊を覚えていた。

 

それを考えると、長足の進歩という奴だ。

 

こういう物言いをすると、子供らしくないと思われるらしいので、学校ではできるだけ使わないようにしている。

 

孤立しないためではない。

 

面倒な諍いをわざわざ起こさないためだ。

 

スクールカーストのくだらなさを思い知っている燐火は。

 

この間叩き潰しただけではない。

 

新しく火種を作りたいとも思わなかった。

 

 

 

家に戻る。

 

フルーレティについて、細かく調べてみる。

 

やはり実態がない。

 

それにだ。

 

元々は別の悪魔……具体的にはフラウロスをベースにまでしているようだった。

 

「フラウロスか……」

 

「ケルベロスも知っている悪魔?」

 

「面識はないがな。 かなりの強者だ」

 

そうか。

 

強者で存在感がある悪魔だとすると。

 

それをベースに、創作する人が出てくるのは、不思議な話ではないのかもしれない。フラウロスからみると迷惑な話なのだろうか。

 

いや、それは分からない。

 

そもそもフリッグの時に、イシュタルから聞いた。

 

世界中にイシュタルの係累がいると。

 

ケルベロスが丁寧に説明してくれる。

 

「神話というのは各地に伝わり、其処でどんどん変化していくものなのだ。 元が同じ神であっても分裂したり、場合によっては敵味方になったりもする。 善神が悪神となったり、その逆も多い。 それどころか、起源が同じ神が合一したりすることすらある」

 

「やはり文化圏が原因なの?」

 

「そうだ。 人がそれぞれ国家を作り、文化圏を形成すると、別の文化圏とは対立することになる。 影響は受けるが、相手の信仰している存在を貶めるために悪神として解釈したり、相手が恐れている悪魔を信仰して善神に変えたりする。 他にも様々な理由があるが、そうして神々や魔というのは、世界中に分派して、それで形を変えていく。 フラウロスから変化したフルーレティは、その一例と言えるな。 ましてや一神教は、バアルに始まって他の信仰をことごとく悪魔としてきた過去がある」

 

「ケルベロスもそうだったね」

 

ああ、とケルベロスが不愉快そうにする。

 

ケルベロスの地雷。

 

地獄の番犬。

 

それがケルベロスを貶める意図であったことは明らかすぎるほどだ。神話を研究していれば、一発で分かることなのだから。

 

一神教は燐火から見ても問題だらけの信仰だが。

 

それも数が集まって信仰すれば権威になる。

 

そして、権威である以上、勝手な創作とかがそれぞれ悪魔を作り出し。

 

フルーレティのような存在も出てくる。

 

そういうことなのだろう。

 

延びをする。

 

今日はおとうさんはいない。

 

一人で大丈夫かいと、メッセージがスマホに来たので。大丈夫と返しておく。

 

おとうさんも自分一人でいっぱいいっぱいだろうに。

 

それでもこうして燐火のことを気に掛けてくれている。

 

それだけで充分。

 

自慢のお父さんだ。

 

おかあさんの容態が安定して、杏美も大丈夫になってくるのがもう少し先。そうなったら、家は忙しくなる。

 

今、ベビー用品をそろえてあり。

 

燐火がそれをチェックしている。

 

色々たくさん必要になるけれども。

 

特にあんパンを元にしたキャラクターは、子供のためにいてくれる、子育ての立派な味方だ。

 

昔はなんとも思わなかった。

 

だが、ケルベロスがこれは完璧なヒーローだと絶賛していて調べてみて。

 

確かに今好きかと言われればちょっとなんとも言えないけれど。

 

ただ、幼児に好かれるのも分かるし。

 

何よりそのあり方がヒーローオブヒーローというのにふさわしいこともよく分かるのだった。

 

まあ、燐火が好きかどうかは話が別だが。

 

ただ、杏美がしゃべれるようになり始めたときのために。

 

あんパンを元にしたヒーローについて、ある程度の知識を得ておくことも必要だろう。

 

今後は自分のことだけを考えてはいられない。

 

周りの友達を守ること。

 

カスみたいなスクールカーストを作らせないこと。

 

それにフルーレティが嘘を仮についていなかったとしても。

 

おそらく一対一の勝負では、まだ勝ち目が薄いこと。

 

それらを見越して、更に自分を鍛え上げなければならないだろう。

 

勉強を終えると、ケルベロスと相談する。

 

基礎的な鍛錬を増やせないだろうか、と。

 

ケルベロスは基礎はこれでいいと言う。

 

「燐火はまだ伸びるし、成長痛や疲労骨折も鍛錬をやり過ぎると枷になる。 戦闘時に成長痛で動けなくなったりしたら笑い話にもなるまい」

 

「そうだね。 だとすると応用の研磨かな」

 

「ああ。 充子の道場に行け。 あそこで更に、剣の技を磨いた方が良いだろう」

 

「……分かった」

 

充子はかなり頑張っている。

 

クラスでのくだらない無視が解消してから、学校も少しずつ楽しくなっているようだ。

 

また道場に行きます。

 

そうメッセージを送ると、嬉しそうにスタンプを返してきた。

 

スタンプは使ったことがないのでなんとも思わないが。

 

とにかく、これで良いだろうとは思った。







※フルーレティについて

フリッグ等と同じ集団に所属している悪魔です。

設定的にはあのベルゼバブの側近で、アフリカに住んでいて雹を操るとかありますが、此奴には実態がありません。何かの神が悪魔化された訳でもなく、設定だけ大げさなくらい高位の悪魔として存在しているだけの悪魔です。

フラウロス(こっちは立派なソロモン王72柱の一角)から作られたという話まであるほどで、大げさなだけの設定と裏腹の空っぽな悪魔。

故に……

この悪魔は、フリッグ等に加担したのです。



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