魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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剣道になって剣術は弱くなったのか。

それは微妙でしょう。武術などは古流の方が漫画とかだと強かったりしますが、実際に「古武術の達人」が近代武術のハイランカーと戦って勝てるかというと微妙です。

古武術で奥義だった技が、今では当たり前の技になっているものは幾らでもあります。

剣道を極めた人間は、決して剣豪に劣らないのです。





本物になりたかった者
序、剣の求道者


燐火が道場に出向くと、空気が張り詰めていた。

 

何かあったな。

 

そう思って、無言で礼をして、道場に。

 

道着を借りて、道場に出ると。

 

師範代と充子が向かい合っていた。

 

これは、充子の勝ちだな。

 

充子は燐火より年下だが、その実力は既に大人に匹敵するか、それ以上と言うことである。

 

しかも相手は段位持ち、それも三段くらいだろう。

 

剣道では高段位にはまず勝てないと言われるらしいが。

 

段位の取得方法に年齢、経験年数がある。

 

それもあって、必ずしもそうとは言い切れないのではないかと、燐火は思う。

 

実際、リーチと速度を生かして攻め込もうとした師範代が、瞬く間に一本、面を取られていた。

 

どうやらこれが三本の最後であったらしい。

 

師範代は礼をして、残心をすると下がる。

 

燐火が座ると、次と声が掛かった。

 

おそらく、一番強い師範代だ。現在師範の次に強い人物だとみて良いだろう。見た感じ、燐火と同等かそれ以上だ。

 

だが、それも充子と向き合うと。

 

あ、これは勝てないな。

 

そう燐火にも分かった。

 

即座に互いに打ち込み合う。あの人、最低でも四段はあるはずだ。それでも充子の気合いは凄まじい。

 

剣道の達人はそれこそ虎のような気迫を放つが、それだ。

 

それでも、先ほどの師範代よりも粘る。

 

皆が青ざめて見守る中。

 

ついに充子が一本を取る。

 

しかし師範代も意地を見せ、二本目で充子から小手で一本を取った。だが、それが限界だった。

 

三本目、胴で一本。

 

惚れ惚れするほど鋭い一本だった。

 

おおと、内心でつぶやく。

 

これは学校での問題が解決して、それで一皮むけたということだろうか。

 

まだ充子は剣道では強いが、精神面で問題があるように思えていた。

 

だが。学校での問題が解決したのは既に分かっている。

 

だとすれば、それで何か学んだと言うことか。

 

男子三日会わざれば刮目してみよという言葉がある。三国志の呂蒙で有名な言葉だったか。

 

三国志はケルベロスが娯楽代わりにたしなんでいたらしくて、燐火も最近は調べているのだが。

 

ネットでの情報は玉石混淆で。

 

いずれ余裕を見て、初心者向けと言われた漫画、小説から順番にたしなもうと思っている。

 

いずれにしても充子の成長は、まさにそれだ。男子ではないけれど、女子だってそのくらいの成長をすることは普通にあるだろう。

 

師範が出てくる。

 

まさか、師範ともやるのか。

 

そうらしい。

 

充子が今までにない気迫を放つが。

 

これは流石にまだ相手が悪いか。

 

向かい合った師範の気迫は、充子が放つ気迫が、子猫程度にしか感じられないほどのものだ。

 

明らかに隣に座っている男子が真っ青になっている。

 

気迫だけで漏らしそうになっていると言うことだ。

 

これは、剣豪と、それに挑もうとする若者の勝負だ。

 

勿論勝敗は見えている。

 

だが、かろうじて同じ土俵に立てている、というだけでも凄まじい。他に同じ事が出来そうなのは、最後に充子と戦った師範代だけ。

 

燐火も師範と剣をあわせたことはあるが。

 

まだまだ全然本気ではなかった、と見て良いだろう。

 

鋭い一喝とともに、試合が始まる。

 

必死に歩幅を工夫して間を詰めようとする充子だが。

 

あまりにも美しい面が完璧に入っていた。

 

一体どれほど錬磨してきた剣なのか。

 

前にこの道場を牛耳っていた屑を追い出したのも、納得できる最高の一撃。これは警察などで指導が頼まれて、かなりの収入になっているとこの間充子に聞いたのも納得が出来る。

 

前にフリッグに、この人は北欧の凶猛な戦士達と充分に渡り合えると啖呵を切った。

 

だが、それはおそらく過小評価だった。

 

この人は伝説に出てくるような英雄と渡り合える。

 

十段は既に廃止されて久しいようだが。

 

この人はそれにふさわしいだろう。

 

ケルベロスが言う。

 

「見事。 スパルタの戦士達でも、師範ほどの実力者はまれだっただろう。 レオニダス王がこの場にいたら、さぞや部下にほしがっただろうな」

 

「ペルシャ軍の大軍を寡兵で食い止めた人だね」

 

「そうだ。 ……見て覚えておけ燐火。 本物の達人の武技は、美しいのだ」

 

「うん」

 

あまりにも、美しい。

 

二本目。

 

踏み込み、気迫、剣筋。

 

いずれもが完璧だ。

 

充子でも残念ながら手も足も出ない。しかし、師範が今本気になっている。本気を出させているということで。

 

それは、おそらくこの場の誰もがなしえなかったことなのだろう。

 

三本目。

 

充子が執念で小手を入れるが、浅い。

 

即座に師範が小手とはこうやるというように、あまりにも美しい剣筋で一撃を入れる。そこまで。

 

両者向かい合って礼。

 

それで、試合は終わっていた。

 

師範は燐火が来ていることに気づいていたらしい。それはそれとして、周りに説明をする。

 

「久しぶりに本気を出した。 充子は今や、私が本気を出すほどの剣士に成長していると言うことだ」

 

「……」

 

「剣道はあくまで競技でありスポーツだ。 だが源流は剣を用いての殺し合いであり、自衛のための手段でもある。 同時に精神を磨くための道でもあり、極めることは決して人生の汚点とはならない。 皆も励むように。 こうして得られた修養の手段は、必ず人生の役に立つ。 以上だ」

 

師範が下がる。

 

それから、軽く別れて、それぞれが試合を開始する。

 

燐火も時々道場には顔を出しているので、大体の門下生とは顔見知りだ。

 

だが例外もいる。新しく入ったのか、燐火を知らないらしい高校生男子が、勝負を挑んできた。

 

体格がいい高校生だが。これは始めたばかりだな。

 

試合開始。

 

即座に三本、立て続けにとる。

 

何が起きたのかと、呆然としている相手は、声が掛かってやっと我に返る。互いに向き合って、礼。

 

小首をかしげている相手を見送ると、充子が話しかけてきた。

 

「燐火さん。 さっきの試合、見てくれましたか」

 

「師範相手に浅いとは言え小手を入れていましたね。 凄いと思いますよ。 本気の師範があれほどだったとは。 まだまだ加減されていたことを知って、驚いています」

 

「まだ、追いつけないですね。 背が伸びきる頃には……」

 

それだけ話してから、試合に入る。

 

燐火は、基礎鍛錬についてはメニューを話して、それで問題ないと師範に言われている。燐火が魔祓いで実戦を積んでいることを、師範は(魔祓いが理由かは分かっていないとしても)把握しているのかもしれない。それは恐らくではなく、多分間違っていない。

 

その場合、必要なのは基礎鍛錬であって。

 

応用については、いずれ自分で教えるつもりなのだろう。

 

試合をする。

 

三回に一回、一本を取れれば良い方か。

 

充子は試験的に二刀流をやって見ようかと思っているらしいと、十試合ほどした後、話してくれる。

 

ぶっ続けで試合をして平然としている燐火と充子を見て、さっきの高校生は目をむいていたが。

 

まあ、経験が浅いのだ。

 

仕方がないと言えるだろう。

 

「燐火さん、基礎鍛錬だけでまた凄く強くなっていますね。 差が全く離れません」

 

「これでも色々あるんですけど。 差が縮まらないなと思って結構へこんでいます」

 

「……そうでしたか。 妹さん、元気ですか」

 

「まだ言葉もしゃべれないですけど、元気ですよ」

 

というか、まだ首も据わっていない。

 

冬に入って、そろそろ退院なのだが。これからが本格的に大変だ。

 

おとうさんとおかあさんの顔は覚えているが、燐火のことはまだちょっと怪しい。

 

杏美は或いは、血はつながっていないとどこかで察知しているのかもしれないが。それはそれとして、仲良くしていかなければならないのも事実だ。

 

いずれにしても、まだあうあわないは分からないし。

 

仮にあわないとしても、うまくやっていく。

 

それが求められることである。

 

ただいずれ燐火は自立する。

 

誰かに依存する事はしない。

 

そういうところは、現在的な価値観とはだいぶ違うかもしれない。

 

「また少しやりますか」

 

「はい」

 

「二人とも、こちらに来なさい」

 

試合をしようとしたところで、師範から声が掛かる。

 

即座に切り上げて、師範の方に。

 

燐火も古参に顔を覚えられるくらいは入り浸っているし、充子から三回に一回一本を取っているだけで注目される。

 

とりあえず、道場から離れて家の裏庭に。

 

師範が、軽く話そうと言ったので、防具を外して話を聞く。

 

充子と二人で並んで座る。

 

師範は庭を見ながら言う。

 

「充子はここしばらくでぐっと伸びた。 年齢制限がなければ、五段相当の実力は既にあるだろう」

 

「ありがとうございます」

 

「うむ」

 

今は師範として話しているから、敬語だ。

 

充子も家では違うしゃべり方をしているのだといっていた。

 

ともかく真面目な話だ。

 

静かに聞く。

 

「燐火は現時点の実力は四段相当だな。 まだ私が直接本気で相手にするほどではないが、それでも相当な技量だ。 やはりどこかしらで実戦を積んでいるな。 それも剣道ではなく、本当の殺し合いを」

 

「……はい。 事情は言えませんが」

 

「燐火が何かしらの悪事を働くとは考えていない。 だが、くれぐれも凶剣に墜ちてくれるなよ。 最悪の場合は、私が斬りに行くことになるだろう」

 

そうか。

 

なんとなく分かるが、この人はそういう仕事をしているんだな。

 

退魔関係で何かしているのかもしれない。

 

この人くらいの実力になると、普通に魔に対しても通用すると言う話であるし。それでもおかしくはないだろう。

 

「今回は、私が知る中で最高の素質を持つ二人に、私が編み出した奥義を見せておこうと思ってな」

 

「!」

 

「剣道では使えないがな」

 

そうして、見せてくれる。

 

なるほど、これは。

 

完璧な。

 

練り上げきった剣と歩法から繰り出される、あまりにも美しい奥義だ。

 

一連の流れは、剣舞にすら見えた。

 

ともかく、燐火も思わず見入ってしまった。

 

ケルベロスがぼやく。

 

「これは凄い。 神々が喜ぶほどのものだ」

 

燐火はそれほどのものかと感心する。

 

ケルベロスがくれた幸運で、これほどの人に出会い。これほどの剣の技を見ることが出来た。

 

それだけでどれだけ幸運か、分からないほどだ。

 

「充子」

 

「はい」

 

「おまえはこれを習得して、歩法の工夫に使いなさい。 そうすることで、更に進歩を早くできるだろう」

 

「分かりました」

 

これ以上更に強くなるのか。

 

充子は技量においては既に生半可な大人以上。

 

問題は速度とリーチだ。

 

それに関しても、今のを工夫すれば、ある程度補えるわけだ。それに打ち合ってみて分かるが、充子の竹刀は受けるとガツンと結構強烈に衝撃が来る。

 

防具がなければ充分ダメージになる。

 

これは筋力を鍛えているよりも、それ以前に呼吸とタイミングが完璧で、人間の力を極限まで引き出しているからだ。

 

動物はみんなやれていることだが。

 

人間はここまでやらないと出来ない。

 

そういうものである。

 

「燐火」

 

「はい」

 

「今の歩法を用いて、凶剣に墜ちないよう自分を鍛錬しなさい。 実力がついてくれば、とることが出来る手段も増える。 漫画のようにいずれは殺さず、なんてことも出来るようになるかもしれないな」

 

「心します」

 

高校生三人に襲われたとき。

 

燐火は容赦なく相手を叩き潰したが、逆にそうしなければ徹底的に心身を破壊されていた。

 

それくらい危ない場面だったのだ。

 

走って逃げるのも無理だっただろう。

 

防犯ブザー。そんなもの、役に立つ訳がない。

 

ただ、あのとき、今の師範くらいの剣の腕があったなら。今教わった歩法と剣のさえがあったなら。

 

鉄パイプで、三人を黙らせる事が出来た可能性がある。できるだけ怪我を浅い状態で、である。

 

合気と柔道、空手も応用すれば、更に色々出来た可能性は高い。

 

手札が増えると言うことは。

 

倒せる相手が増えると言うことであり。それだけ、戦闘での柔軟性が増すのだ。

 

それから、二人で今見た技を練習する。

 

完璧な洗練の果てに出来た歩法だが、編み出すのは極端に困難であっても、模倣自体はそれほど難しくはない場合も多い。

 

ただ、これは難しい。

 

理論が分かっても、即座に模倣は出来ない。

 

充子も苦労している。

 

ケルベロスが的確にアドバイスをくれるが、それでも。

 

今まで散々理論的に鍛えてきた燐火でも難しい。

 

どれほどの修練と研磨の末にこれを編み出したのか。師範の実力、本当に伝説に残る剣豪達と遜色ない。

 

それどころか、名前だけ先行しているような剣豪をしのぐかもしれなかった。

 

ケルベロスが感心する中、とにかく歩法をどうにか実践する。

 

充子もなんとかコピーできたようだった。

 

後は一つずつ、奥義の動きを模倣する。

 

充子と秘密を共有した。

 

そう思って、少し嬉しかった。

 

 

 

夕方近くまで、奥義の練習をした。充子も凄まじい刺激になったようで、ずっと目が輝いていた。

 

燐火もだ。

 

これほどの武の神髄。

 

そう見られるものではないだろう。

 

ここのところ、ずっと醜いものを見てきた。勿論いいものもあったが、それ以上に醜いものをよく見た。

 

だからこそ、今のは凄く刺激になった。

 

これほどに何かを練り上げることが出来れば。ただ、そう思う。

 

もうすぐ今年は終わり。

 

燐火は小学生を終えようとしている。

 

中学になれば出来ることは更に増える。

 

成長痛などもあるが。

 

それ以上に、出来ることが増えることの方が嬉しい。

 

涼子と同じ学校に行くことになるかは分からないが、恐らくは日根見ちゃんとは同じ学校になる。

 

それと、である。

 

どうも日根見ちゃんの引取先だが。

 

恐らくは、この家。

 

師範の家になるだろうと言うことだった。

 

だとすると、剣道を始めるのかもしれない。

 

ものすごく厳しい家庭のようだが、しかしそれが却って良いかもしれない。

 

いずれにしても、剣道に興味を示さなかった場合、師範がどう接するのかはちょっと分からない。

 

問題がないように。

 

時々様子を見に来ないといけなくなるだろう。

 

訓練が終わって、師範に礼をする。

 

いくつかの基礎鍛錬について聞かれたので、毎日やっていることを説明する。すっと目を細める師範。

 

「完璧だな。 しかも細かく指示を受けている。 誰か母親以外に指導している者がいるのではないのか」

 

「……嘘はつきたくないので言いますけれど、います。 ただ、紹介は出来ません。 間違いなく良い人物なので、それはご理解ください」

 

「そうか、分かった。 ゆめゆめこの奥義、穢してくれるなよ」

 

「はい」

 

これほどの達人が託してくれたのだ。

 

絶対に穢してはいけない。

 

武術は使ってなんぼのものだ。

 

訓練の時にもそうと分からないようにして小分けに歩法を練習する。それくらい、気を遣う。

 

充子と別れて、家に戻る。

 

もう少し来る頻度を増やしてほしい。

 

そう充子に言われた。

 

学校での問題は解決したはずだ。

 

だとすると、本質的に充子は寂しがり屋なのかもしれない。燐火には分からないことだが、そういう人もいる。

 

だから、別に否定するつもりもない。

 

「しかし流石だ。 俺の存在を見抜くとはな」

 

「師範、本当に凄いね」

 

「俺が幸運を支援しているとは言え、これほどの逸材に出会えたのは幸運だ。 俺からも言うぞ。 絶対にその奥義、穢すな。 神々ですら、絶賛するほどの技だ」

 

「分かってる」

 

この奥義を不正義に使うことは。

 

文字通り武への冒涜だ。

 

武を学び続けてきた燐火は。そういうことを、するつもりはなかった。







師範から燐火が教わった技は、文字通り達人が人生を賭けて編み出した奥義です。

これを燐火と充子にたくしたのは、師範がそれだけ二人の将来に期待しているからですね。

事実小学生で高段位並の実力を得ている二人は、剣道に関係なく未来の星であるのです。


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