魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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フルーレティとの決着を終えて、一回り大きくなった燐火が中学に入ります。

涼子とは別の中学になりましたが、今でも友人です。

日根見とは別クラスですが、交友は普通にあります。

そして初日から、燐火は早速居心地がいい学校にするべく活動を開始します。





3、中学開始

制服を着込むと、出る。

 

学校で制服を着るのは、中学生からが多い。名門だとかだと、小学校からやることも多いらしいが。

 

それはそれとして、普通のブレザータイプの制服を着て、途中で日根見ちゃんと合流。

 

日根見ちゃんは、途中まで充子と一緒に来ていた。

 

どうやらなんとかうまくやって行けそうだということだ。

 

また、剣道もやって見ることにしたらしい。

 

充子は特に動物に関する話に抵抗がないらしく、日根見ちゃんの話を嫌がらないらしい。それはいいことだと思う。

 

日根見ちゃんは市原という名字を捨てることにも抵抗はないそうだ。

 

まあそうだろうなという言葉しか出てこない。

 

今の燐火も、平坂という名字は絶対だ。

 

前の名字に戻ることは金輪際ないだろう。結婚して変わることはあるかもしれないが。それで元の名字になるとしたら、それはまあ、偶然である。それ以外の理由で、元の名字には絶対にならない。

 

中学についての話をしながら歩く。

 

中学からは給食では無く弁当だ。ちなみにこれは燐火が自分で作る。そもそも料理についてもそろそろやるべきだと思っていたし。

 

買い出しも燐火が手伝うつもりである。

 

おとうさんはあんな風に仕事がとても忙しいし。

 

おかあさんはしばらくは杏美に掛かりっきりだ。

 

少しでも負担は減らさなければならないのである。

 

「燐火ちゃんはそれで寂しくないの?」

 

「いえ、まったく」

 

「そっか。 強いなあ。 羨ましい」

 

「燐火は別に強くなんてありませんよ」

 

もし強かったら、自力であの金木の馬鹿娘を撃退できていただろう。あの腐った街から、孤児院から。

 

自力で逃げ出すことだって出来たかもしれない。

 

あそこから脱出できたのは全部ケルベロスのおかげ。

 

武道を身につけられたのはおかあさんのおかげ。

 

精神修養はいろんな人たちのおかげ。

 

何もかも、燐火が自分でやったことじゃない。

 

勿論努力をしたのは燐火だ。

 

ケルベロスも燐火は持っている側だと言ってくれた。だけれども、それはモチベを引き出すためだったのかもしれない。

 

ともかく燐火は、本気で自分は強いなどと思っていないし。

 

そんな風に考え出したら、其処で人間は進歩が止まるとも思っていた。

 

「ここだね」

 

「まあ、前に見に来ましたが」

 

新しい学校だ。

 

小学校よりちょっと遠いが、別に苦にはならない。クラス分けを確認する。日根見ちゃんとは別クラスか。

 

とりあえず、何かあったら即座に言ってほしいと告げる。

 

うんと、信頼を込めて頷かれていた。

 

さて、と。

 

ひそひそとこちらを見て、何か話しているのがいる。燐火が視線を向けると、真っ青になって硬直した。

 

ああ、見覚えがあるな。

 

小学校で別クラスにいた女子だ。

 

馬鹿馬鹿しいスクールカーストを燐火が完全粉砕したのは学校中で話題になっていたらしく。

 

別のクラスでも、他の先生がスクールカーストは害しかないと判断したそうで、以降で学校でのスクールカーストには積極介入し、解体すると決めたそうだ。

 

それもあってあおりを食った生徒は結構いる。

 

特に王様女王様を気取っていたような生徒は強烈なあおりを食らい。

 

内申書とかで思い切り点数を下げられたようで、それを逆恨みしているやつもいるとかいないとか。

 

「何か?」

 

「な、なんでもないよ! ね! そ、その、お、同じクラスだけど、よろしくね!」

 

生まれたての子鹿みたいに足が震えているが、まあどうでもいいか。

 

とりあえずクラスは分かったので、学校の中を見て回る。

 

二年らしいのがゲラゲラ笑いながら歩いていたが。燐火を見て、ひっと声を上げて逃げ出す。

 

ああ、あれは。

 

小学五年の時にぶちのめしたいじめという名の犯罪をやっていた男子生徒か。一年上の。

 

衆目の中でぶん投げて、白目むくまで締め上げたのだが。

 

それ以降、一気にクラスの王様気取りから転落。

 

以降は針のむしろで一年を過ごしたらしい。

 

それこそどうでもいい。

 

ガタイがいいのが、青ざめながら燐火に道を譲る。

 

燐火が高校生三人を瞬殺した。

 

そういう噂があるらしいし。それで恐れられているのかもしれない。瞬殺ではなかったし結構危なかったのだが、高校生三人を潰したのは事実だし、それで無駄なトラブルが避けられるのなら何よりだ。

 

とりあえず抑止力になっておいた方が良いだろう。

 

髪とか染めているのがいて、隅っこで何やらつるんでいる。あれは三年か。どうでもいい。

 

ああいうのもいる。

 

一応把握しておこう。

 

見たところ、燐火の脅威にはならない。

 

クラスに移動。

 

とりあえず、自席などは全て確認しておく。ロッカーも。

 

掃除が甘いな。

 

自分で丁寧に掃除し直す。それを見て、やはりひそひそと話し声が聞こえる。とりあえず、しばらくは無視しておくが。

 

しつこいようだったら、対応を考える。

 

先生が来た。

 

中学くらいから女教師は舐められるケースもあるらしいが、見るからに堅物な感じの男性教師だ。

 

あれは何か武道か格闘技をやっているな。

 

とりあえず、一人ずつ自己紹介をさせられる。

 

燐火も自己紹介をするが。

 

どうやらクラスの半分くらいは、同じ小学校の人間で。それもあって怯えきっている。残りの半分のほとんども、噂を聞いていたようで、青ざめていた。

 

一人、明らかにこっちを舐め腐っているのがいる。

 

男子だが、あれはボクシングか何かやっているな。

 

そいつが手を上げた。

 

「高校生を三人ボコったって本当っすかー?」

 

「おい、亀野!」

 

「いいだろ別に。 小学校で高校生ボコるってすげえなっておもってよ。 しかも相手は半グレだって聞いたし」

 

「やめろ! あいつはマジでやばいんだよ! 死ぬぞ!」

 

クラスの男子が真っ青になっているが、そいつは多分小学校では無敵だったのだろう。完全に何もかも舐め腐っている雰囲気だ。

 

あの様子からして、別の小学校で負の成功体験を積み重ねてきたわけだ。

 

まあいい。

 

最初に潰すのはあれになるだろうな。

 

「高校生に絡まれて、正当防衛をしたのは事実ですが、それが何か」

 

「おもしれ。 俺と遊んでくれよ。 空手だの柔道だのやってるやつと遊んだことあるけどよ、手応えがなさ過ぎてつまんねえんだよ。 そっちのルールで良いぜ」

 

「亀野!」

 

「うっせえな、黙ってろ雑魚!」

 

隣の男子生徒に威圧的な言動だ。

 

髪もうっすら染めているし、あれは親が既にカスのパターンだろう。名前をさっと確認するが、典型的なDQNネームだ。

 

先生は呆れていたようだが。

 

燐火としては、既にやる気だ。

 

「とりあえず亀野、平坂。 どっちもやる気のようだが、だったらリングを用意してやる。 其処で勝負をつけろ」

 

「構いませんよ」

 

「言いやがったな! 吠え面かかせてやるよ!」

 

喚き散らす亀野。

 

どうやらこの先生、どうもこういうのにはなれているようだった。呆れていたようだが全く動じていない辺り。

 

或いは計算通りだったのかもしれない。

 

 

 

とりあえず説明会とかそういうの全て終わったあと、午後に先生の引率でリングに出向く。

 

というか、本当にリングだ。

 

この学校はボクシング部があるらしく、亀野については最初から目をつけていたというか。

 

先生が小学生時代手がつけられない生徒だったという話を聞いて、敢えて招いたらしい。クラスに意図的で自分で引き取ったそうだ。

 

なるほどね。

 

とりあえず舐めた真似をしないなら、鼻っ柱をへし折る程度で済ませる。

 

何人か様子を見に来ている。

 

数人、亀野の前の小学校での取り巻きがいるようで、やっちまえとか喚いていた。それを先生が一にらみで黙らせる。

 

これは結構できるな。

 

少し評価を上方修正する。

 

ボクシングはかなり強い競技だ。

 

キックボクシングとなると、弱点になる足下への攻撃も克服しているため、更に強力になる。

 

打撃技で勝負するのは自殺行為だが。対処法はいくつかある。

 

それにボクサーはいわゆるパンチドランカーになってしまうケースもあり。

 

医師協会などはずっと反対しているスポーツであるのだとか。

 

まあいい。

 

スポーツの範疇であれば、別にどうでも良い。

 

反則をした場合は、躊躇なく潰す。

 

「それで具志先生、ルールは」

 

「ボクシングと言いたいところだが、平坂、おまえどういう武道をやっている」

 

「空手合気柔道、それと剣道ですね」

 

「……分かった。 好きにして良い。 亀野、おまえも好きなようにやれ。 殺し合いになりそうだったら先生が止める。 参ったと言った方が負けだ」

 

まあいいだろう。

 

先生がギャラリーをリングから少し下がらせると、ゴングを鳴らした。

 

亀野はパンツとヘッドギア、グローブだけのボクシングスタイル。燐火は普通の制服のままだ。

 

スカートがひらひらでちょっと気になるが。

 

まあスパッツも履いているし、問題はないか。

 

相手は自信満々で、そのまま歩いて詰めてくるが、燐火は即座に動く。

 

すっと相手の至近に。

 

想定外の速度に慌てた様子の亀野の腹に、相手が動く前に踏み込んで合気をたたき込む。

 

マウスピースを吐き出しながら吹っ飛んだ亀野が、思い切り尻餅をついていた。

 

普通だったら煽るが。

 

何もしない。

 

黙って見ている。

 

「亀野さん! やられたフリしてやるとは優しいな!」

 

「早く顔ぶっ潰しちまえよ! いつもみたいに!」

 

「生意気な女の顔潰したとき面白かっただろ! 早くやってくれよ!」

 

「黙れ」

 

亀野の取り巻きらしいのに、先生が一喝。それで一瞬で恐怖で黙り込む取り巻き達。

 

そうかそうか。

 

別に男だろうが女だろうが顔を潰すのはどうでもいいが。

 

こいつら日常的に気にくわない奴を痛めつけていたな。

 

ならば容赦はしない。

 

必死に立ち上がった亀野が、本気になったらしく、ステップを踏んで詰めてくるが。今度は燐火は一歩で相手の間合いを侵略すると、足を払いつつ相手のバランスを崩した。

 

思い切り後ろから転倒した亀野は、受け身もろくにとれなかった。

 

パンチを繰り出すどころじゃない。

 

動きがぬるすぎる。

 

師範や充子、フルーレティの動きを見ていた燐火としては、文字通りスローすぎてあくびが出るレベルである。

 

後頭部を押さえて転がり回っていた亀野が起き上がってくるのを待つ。

 

何も煽らない。

 

立ち上がった亀野は、顔を真っ赤にしていた。

 

大ぶりで殴りかかってくる。

 

燐火はすっとパンチを避けると、亀野が足を踏みに来る。ああ、なるほど。顔を潰すとはそういう。

 

足を踏んで動けなくしたところに顔面に肘打ちか。

 

誰に教わったか知らないが、髪を染めて学校に来ているような奴だ。どうせろくでもないカス親だろう。

 

すっとその足を避けると、逆に踏みつけて。飛んできた肘を取りつつ、敢えてひねりながら床にたたき込む。

 

その過程で肩を外し、腕の筋を伸ばして破砕した。

 

凄まじい絶叫を上げた亀野が、床で転がり回る。

 

その時、やっと亀野が何を相手にしているか、ギャラリーは悟ったようだった。

 

燐火は無言で、転がり回っている亀野から離れる。

 

先生が咳払いした。

 

「もうやめろ亀野。 一度だけ警告しておく」

 

「う、うる、うるせええええっ!」

 

立ち上がったか。

 

それだけは褒めてやる。

 

燐火から間合いを詰める。そしてえっという顔をしている亀野の、さっき潰した利き腕ではない方の腕を取りつつ、顔面に平手をたたき込む。

 

それで鼻が潰れ、ついでに肩も外れた。腕の筋も破壊した。

 

両腕が外れ、鼻が砕けた激痛で、亀野がぷぎゃあっとか悲鳴を上げる。更にそのまま、燐火は破壊した亀野の肩をひねりながら床に押し倒す。

 

凄まじい激痛を与える。

 

燐火は一切無言だ。

 

「ま、参った、まいったあああああっ!」

 

「そうですか。 良いことを教えてあげますね。 燐火の得意分野はこれじゃないです。 それでも貴方程度だったら、余裕と言うことですよ」

 

脂汗を掻きながら燐火が与えている激痛に更にもだえ、そしてとうとう大泣きし始める亀野。

 

取り巻きは全員絶句して、完全に沈黙していた。

 

一撃、背中に合気を入れる。

 

それで亀野は気絶した。

 

具志先生は嘆息すると、亀野の肩を入れ直す。そして、燐火にやり過ぎだと言った。

 

「これはリハビリに一年はかかる。 亀野が肘打ちから顔を潰しに行こうとしたのを悟ったとは言え、もう少し加減してやれ」

 

「……先生は燐火が亀野なんか相手にならない事を知った上でやらせましたよね」

 

「ああ。 此奴の天狗の鼻をへし折る必要があったからな。 とりあえず、此奴の性根は俺がボクシング部で鍛え直す。 そいつらもな」

 

明らかにこの先生が鍛え上げた、雰囲気からしてかなり強いボクシングの部員達が、既に亀野の取り巻きの後ろに壁を作っていた。

 

完全に死人の顔をしている取り巻き達は、これからリハビリで一年は両腕をまともに使えない亀野とともに、徹底的に鍛えられて、性根を入れ替えるのだろう。

 

或いはだが、亀野のクソ親にも相応の社会的制裁がこれから入るのかもしれない。

 

いずれにしても小学校で通じたような馬鹿げたクレームは、この先生には通用しそうもない。

 

とりあえず、まずは一つ。

 

面倒な学校での火種を潰せたか。

 

これから一つずつ潰していくだけだ。

 

 

 

帰り道で、日根見ちゃんと別れたあとケルベロスに言われる。

 

そして燐火も悟る。

 

ダイモーンだ。

 

かなり強力な個体である。すぐに着替えて走る。またこの間、仕事服の裾を調整した。無駄に刺繍の技術が伸びているが。

 

まあ、これは使えて損はないだろう。

 

走る。

 

そして、いつもとは違う街角に出た。この辺りに出るのはちょっと珍しい。知らない家も多い。

 

この辺りは、ほとんど歩き尽くしたと思ったのだが。

 

それはあまり大きくないビルだ。

 

いずれにしてもあまり良い仕事をしている人間が入っているようには思えないビルであり。

 

それに体中に目がある、巨人みたいなダイモーンがしがみついていた。

 

まるでアルゴスだ。

 

ケルベロスがぼやく。

 

全身に目がある巨人で、大魔物であるエキドナを討ち取るなど、かなりの強豪であるらしい。

 

ケルベロスにとっては母を殺した相手にあたるらしいが。

 

別にどうとも思っていないようである。

 

「アルゴスって事はないよね」

 

「違う。 神話でアルゴスは倒されている。 それに仮にアルゴスだったとしたら、実力はあの程度ではない」

 

「分かった。 ちゃっちゃと片付けよう」

 

レポートのことは考えない。

 

それに、亀野戦での疲弊も別にない。

 

そのまま聖印を切って、立て続けにダメージを与える。

 

全身が爆ぜる巨人だが、緩慢に動いて、こちらに向き直ろうとする。

 

顔だろうが胸だろうが目だらけだ。

 

なかなかに強烈な姿をしているが、爆ぜていくと分かる。あれは眼球が大量に重ね合って、人体に近い形になっているのだ。

 

なるほど、気持ち悪いという人もいるかもしれない姿だが。

 

燐火からしたら、人間の性根の方が余程醜いし腐っている。

 

だから今、そのまま潰す。

 

立て続けに聖印をたたき込む。

 

日本中走り回っているヘラクレスさんの負担を少しでも減らすためだ。この程度の奴は、燐火が倒さなければならない。

 

腕が爆ぜ墜ちた。

 

だが、墜ちた先で、大量の眼球に分解されて、ぐしゃりと潰れる。

 

凄まじい量の悪運が辺りに広がり、まるでコールタールの海だ。

 

無言で聖印を切り続ける。

 

程なくして、全身が崩れた巨人は、そのまま崩壊していった。

 

三十回か。

 

かなりの回数聖印を切らされた。

 

そのまま浄化に入る。

 

だが、ばっと辺りが一気に浄化される。手間が省けたか。深呼吸。この気配は。

 

「久しぶりだな燐火!」

 

「久しぶりですね」

 

声を掛けて来たのはエヴァンジェリンさんである。

 

確かに夏合宿以来だ。

 

確か一度帰国したと聞いていたが、また来たのか。時々やりとりはするのだが、日常的な話しかしないので知らなかった。

 

「背がまた伸びたな。 平均よりだいぶ高いのではないのか」

 

「そうですね。 あまり興味はありませんが」

 

「ともかく一緒にレポートを書こう。 天才たる私としても、積もる話がいくつもあるからな!」

 

「ありがとうございます。 ただ、妹が出来てあまり時間がないので……」

 

おおめでたいと、大げさに喜ぶエヴァンジェリンさん。

 

まあ燐火も嬉しいので、喜んでくれるのは何よりだ。

 

近場のカフェで、ささっとレポートを書いて、それを後指紋を押して提出するだけの状態にする。

 

それで嬉しそうにメロンソーダを頬張っていたエヴァンジェリンさんだが。

 

メロンソーダを食べ終えると、真面目な顔になった。

 

「ちょっとまずいかもしれん」

 

「大事があったんですね」

 

「ああ。 北欧における最強の魔は何か知っているか」

 

「スルトでしょうか」

 

スルト。

 

ラグナロク……北欧神話の終わりの時にて、炎の国ムスペルヘイムからやってくる最強の魔王。

 

その強さは圧倒的で、フレイをはじめとする北欧神話の主要神をことごとく打ち倒し、それどころか無敗のまま全てを焼き尽くして去って行く。

 

まさに最強の魔王だ。

 

世界の様々な神話でも、有名なルシファーが神に普通に敗れている事を考えると、まさに圧倒的。最強の戦績の持ち主だと言える。

 

うむと頷くエヴァンジェリンさん。

 

この人の方がずっと年上なのだ。

 

「だが、スルトはドルイド達の長年の苦労により封じ込められていてな。 だが、その近くから、大きな魔がいなくなっているのが分かったのだ」

 

「……ラグナロク関係者でしょうか」

 

「おそらくそうだ。 そしてそれが日本に来ているのは間違いない。 それで天才たる私が、またここに来た。 それに修行も出来るしな」

 

ふふんと胸を張られる。

 

しかし、スルトではないにしても、北欧神話最強格というと。

 

実のところ、北欧神話の神々は、決して無敵ではない。

 

あのトールですら、巨人にやり込められたり、力で解決できなかった事態がいくつも物語になっているし。

 

それどころか、トールはラグナロクで世界蛇ヨムルンガルドと相打ちになって死ぬのである。

 

他にも強大な魔は何体か思い当たるが。

 

いずれにしても、物語に堕した存在だ。

 

出現し次第国家滅亡、というほどではないだろう。そういうのは全て魔祓いの努力で封じられてきたのだ。

 

「ともかく、注意が必要ですね」

 

「そうだ。 それにオーディンの動きも気になる。 スレイプニルが様子見に来て以降、動きが見えないという話ではないか」

 

「ええ。 燐火も何も聞いていません」

 

「天才たる私でもその辺りを少し調べてみる。 フリッグ一派と無関係、というわけでもあるまい」

 

それもそうだろうな。

 

ともかく、これで一旦別れる。

 

コールタールみたいにぶちまけられていた悪運は片付いたし、後はレポートに印を出して明日にでも提出するだけだ。

 

家に帰ると、杏美の世話でおかあさんが四苦八苦していた。

 

とりあえず家事のいくらかは分担して担当する。

 

助かるとおかあさんが言ってくれるだけで、随分と助かる。おとうさんは防音室だが、それは家族を支えるためのお仕事だ。

 

燐火としても、頑張ってくれているのは誇らしい。

 

防音室はこの間二重にしたそうだ。

 

万が一にも燐火達の声や、或いは杏美の声とか入らないように。

 

余程のことがない限り音は貫通しないらしいから、とりあえず杏美は泣いても大丈夫である。

 

むしろ杏美の世話は、ケルベロスが手慣れているようだった。

 

燐火が世話をするとき、とにかく細かく指導してくれる。

 

みるみる上達する燐火を見て、おかあさんが目を見張っていた。

 

「杏美を泣き止ますのうまいね」

 

「こつを覚えてき……しらべたの」

 

「よしえらい。 もうちょっと自然にね」

 

「は……うん」

 

まだまだ堅いな。

 

それが問題だ。

 

杏美が寝てくれたので、家事はおかあさんが担当。燐火が側で杏美を見ながら、勉強に入る。

 

同時に時事情報にも目を通しておく。

 

どうやらあのビル。

 

評判が悪いボクシングジムが入っていたらしい。

 

反社とつるんで色々やっていたらしく、ダイモーンが張り付いていたのも納得である。

 

そして警察の捜査が入った。

 

名前でピンとくる。

 

亀野の親か。

 

父親の方はどう見ても反社。

 

亀野の兄らも似たようなもののようだ。

 

これは、あいつ明日から学校に来るのかな。先生が面倒を見るつもりだったようだが、ちょっと苦笑いしてしまう。

 

いずれにしてもどうでもいい。

 

勉強を進める。

 

燐火は公務員になると決めた。

 

日女さんにも話した。日女さんは、公安のそういう部署に入るのなら、おそらく歓迎されると言ってくれた。

 

なんでもそもそもとして魔祓いをしている人間は、かなり早い段階から現役でやっていることが多く。

 

燐火より早くプロになっている子もいるそうだ。

 

おそらく以前会った陰陽師の子なんかがそうなんだろう。

 

そしてそういう専業魔祓いは、学業をしている暇がなく、なかなか難しい試験を通ることが出来ないらしい。

 

魔祓いは国のインフラの一環であり、国を支えるために必要なもののため、秘密の部署とは言え公安の管轄部署にはそれなりに予算が出ているらしく。

 

管理に回れる魔祓いは需要が有るそうだ。

 

日女さんはそこまで公権力に興味がないらしく、公務員になるのではなく、専業魔祓いとしてやっていくつもりのようだから。

 

いずれは、燐火と連携して動けるかもしれない。

 

黙々と勉強していると、ケルベロスは言う。

 

「俺がいなくなった後のことを考えておくべきかもしれないな」

 

「ケルベロスはまだいてくれるよね」

 

「迷子を見つけるまではな。 それに、迷子はほぼ確実に捕らえられている。 だとしたら、捕らえている連中を皆たたき伏せるまでも、だ」

 

「問題はその後か……」

 

ギリシャ系の魔祓いは、壊滅的に数が足りないが。

 

しかしながら、この国のダイモーンまみれの状況がおかしいのであって、基本的に需要はないという。

 

だとすると、今後はどうするか。

 

「俺がいなくなっても、魔祓いとしての力は消えない。 現実的なのはこの国の魔祓いになることか、後は一神教系だろうな」

 

「でも、どちらも人材は余っているんじゃないの」

 

「余ってはいるが、燐火のように格闘戦をこなせる魔祓いはそうそうはいないと見て良いだろうな。 日女や菖蒲が例外なのだ」

 

「……」

 

おそらくだが、夏合宿の時。

 

ケルベロスは、魔祓い達の実力を見ていたのだ。

 

林西さんのようなこの国トップクラスの魔祓いは、おそらく格闘戦も滅茶苦茶強いとみていい。

 

あの人は近くにいると、びりびり感じるのだ。強さを。

 

だが、中間層の層が厚いようには思えない。

 

実際夏合宿でも、高校生の魔祓い達が、随分と情けなかったのを燐火は間近で見ている。あれが水準だろう。

 

都会だとたいした魔がでてこないから。

 

それもあって、修羅場をくぐらないのかもしれない。

 

「日本系となると、日女さんみたいな巫女になるか、菖蒲さんみたいな仏教系に行くかだね」

 

「そうなるな。 俺はこの国の信仰は好きだぞ。 八百万の神々を認め、明確な邪神ですら祀って害をなくす。 鬼すら受け入れる神社が有ると聞いて、俺は感心させられたほどだ」

 

「世界的には珍しいんだろうね。 西洋だと考えられないだろうし」

 

「そうだな……」

 

原始的な信仰では珍しくはないらしいが、少なくとも西洋ではもうほとんどあり得ないのだそうだ。

 

ただ燐火の苛烈な考え方は、どちらかというとその殲滅型だとケルベロスはずばり指摘する。

 

なるほど。

 

確かにそれはそうかもしれない。

 

「そもそもまだ勝てるかどうかすら分からない。 俺がついていても、かなり厳しい相手がいて、この先にいる最低二体は更に強いという話だ。 林西のような一線級の魔祓いがいても勝てるかは分からない相手が出てくるかもしれない。 まだ、気を抜くのは早いだろうな」

 

「うん、それは分かってる」

 

「よし。 それと其処の問題は間違っているぞ」

 

すぐに確認。

 

確かに間違っている。

 

ケルベロスは燐火の頭を使って勉強を一緒にしているが、なかなかにこういうのの把握が早い。

 

もう日本語も全く問題なく使えている。

 

たいしたものである。

 

勉強を終えると、外でルーチンの鍛錬をする。

 

正拳百回が、以前より早くなってきている。それでいて、より正確に出来るようになってもいる。

 

更に五十回追加。

 

これは他の武道のルーチンも、同じようにして追加していく感じだ。

 

体につける重りも増やすか。

 

体自体がマッシブになっていくわけではないが、少なくともインナーマッスルは鍛え上げられているのが分かる。

 

とにかく、更に強く早く。

 

もっと強いのが出てくるのだ。

 

フルーレティは最後まで許しがたい敵だったが。死んで行ったとき、どうしても憎めなかった。

 

あいつが最後に戦えて良かったと、思ってくれた。

 

だとすれば、もっと更に先に行くべきだろう。

 

師範の事を考える。充子のことも。

 

今の燐火より更に更に強い。

 

今すぐ追いつくことは不可能だ。だが、五年後は。十年後は。その時のために。燐火は土台を丁寧に作っていく。

 

いずれ、確実に、一人で立って歩けるようになるためにも。







修羅場のくぐり方も戦ってきた相手も違いすぎる事もあり、今の燐火は同学年の男子程度だと相手になりません。亀野との「試合」はそれをわかりやすく示すためのものです。

それに亀野のような子供は、早い内に徹底的な挫折を経験し毒親との関係を折っておかないと、後で手がつけられない狂獣と化します。良くて反社、最悪テロリストですね。

亀野は燐火にボッコボコにされ。両親が逮捕されて良かったのです。

もう少し遅かったら、悪い遊びを兄たちに教えられて、取り返しがつかなくなっていたでしょう。




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