魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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本人に自覚はありませんが、燐火はかなり出来る子です。

ろくでなしの両親とカスみたいな孤児院が原因でリミッターが掛かっていました。

それもあって、魔祓いとして活動を開始し、まともな教育を受け始めた今。

眠っていた巨人が目を覚まし始めたのです。





同業者現る
序、少しずつやることを増やす


燐火がケルベロスに聞く限り、ダイモーンは必ずしもたくさんはいないし、それほど熱心に活動はしていないらしい。

 

ほとんどのダイモーンは普通に回収してしまえばいい。

 

悪しき心を持つものにとりついて、悪運を操作するようになると厄介だが。それも即座にとりつくようなこともなく。

 

見定めると、時間をかけて状態を悪化させていく。

 

結果として、取り返しがつかないほど悪化させることもあるが。

 

そういった状態のダイモーンを対処するのは燐火の仕事ではないそうだ。

 

ケルベロスはダイモーンを集めてくれている。

 

元々燐火の機動力では、あちこちに出かけることはできない。

 

今は体力をつけるためにも、街を走り回って地形を覚えてはいるけれど。それでわかるのは、体力があっても所詮は子供の足。

 

いける範囲は限られている。

 

都心から少し外れたこの辺りだと、バスや電車だって必ずしも通っているわけではない。それについては、燐火は元々縁がなかったので、最近知ったのだけれども。

 

いずれにしても、遊園地とかに出かけるのもおとうさんとおかあさんの自動車で行くことになっていたし。

 

あまり電車は使ったことがなかった。

 

バスはもっと使ったことがない。

 

バス停の間隔を見ると、これくらいなら走った方が早いと考えるようになってきている。あまり同じように考える子はいないらしいが。

 

少なくとも本音ではそう思う。

 

ただ、燐火は基本的に本音は口にしない。

 

周囲からは寡黙と思われている方が有利。

 

そう感じ始めたからだ。

 

今日は棒を背負って軽くランニングしている。棒なら何でも良いと言うことで、おとうさんが持っていたなんだかいうアニメのグッズの棒をもらったのだ。

 

なんでも3D配信の大会でもらったものらしく。

 

おとうさんはその作品のファンらしくて、嬉しいと言うことだけれども。

 

燐火はその作品を見たことがないから、なんともいえない。

 

ただ複数持っているそうなので、それで一つくれたのだ。壊さないように大事にしてほしいと言われた。それで、ものを壊さない訓練として、背負って走っている。

 

何が大事かなんて、人によって違う。他の人から見てゴミにしか見えなくても、その人にとっては命の次に大事なものなんていくらでもある。

 

それを知っている燐火は、おとうさんの大事を否定するつもりはない。

 

それと、そのまま露出しているとまずいので。

 

おかあさんからもらった何かの袋。竹刀をいれるものだったか。それに入れて、背負って走っている。

 

いずれにしても、これは重しを背負って走るのではなくて。

 

壊さないように気をつけながら走る訓練だ。

 

おとうさんは何本も持っているとはいえ、それでも壊したら悲しいだろう。

 

なんでもものを壊したり捨てたりしてゲラゲラ笑っている同級生を見るけれど。

 

苦しい生活を経験してきた燐火は、軽蔑こそすれ一緒になろうとは絶対に思うことはできなかった。

 

ただそれを止めるつもりもない。

 

迷惑にならないのなら、勝手にやっていろ。

 

それだけである。

 

とりあえず、坂道を走り上がって、ちょっと小高いところに出た。

 

見晴らしは良いのだけれど、犬の散歩コースになっていて、マナーが悪い飼い主が放置させた犬の糞が点々としている。

 

ケルベロスがぼやく。

 

「この辺りは人間が少ないとは言え、犬を飼う資格がない輩がのうのうと通るのは許しがたいな」

 

「犬はやっぱり親近感がわくの?」

 

「ああ、まあそうだな。 俺も犬の神格だ。 嫌いではない」

 

「そっか……」

 

最近知った。

 

人間は犬を飼うことで、文明を進歩させたそうだ。

 

色々な生き物の中で、唯一犬だけが人間と一緒に生きることを選んでくれた。犬は人間に足りないものを補って、その文明を発展させる手助けをしてくれた。

 

軽く汗を拭う。

 

まあ、息が乱れるほど疲れてはいない。

 

燐火は元々基礎体力があったのだろう。

 

こういうときにそれがわかる。

 

こういった基礎体力は体質の一種らしく、ない者はどれだけ頑張っても無駄になりやすいらしい。

 

燐火はその辺りは、運がよかったのだ。

 

そのまま、走って知らない方向へ。

 

一応方角の見方などは教わっているけれど、この高さから道を見て、ある程度わかった。

 

まずは大通りがどうなっているかを調べて。

 

その大通りから、どう道が分岐しているかを調べる。

 

危ないところは、ケルベロスが警告してくれるし、勘も働く。

 

これは散々危ない目に遭ってきたが故だ。

 

黙々と色々な道を通って、どうなっているかを覚える。適当に忘れてしまって良いことなんて、あるにはあるが。

 

全てではないし。

 

住んでいる環境の付近は、忘れてはならないものなのだ。

 

それでも知らない道を行くときは、気をつける。

 

よく後ろにも目をつけるなんてことをいうが。

 

後ろに目をつけることはできないけれど、周囲の足音とかを敏感に察知して。対応を早くすることはできる。

 

黙々と走って、やがて大通りに出る。

 

後はそのまま走って家に戻る。

 

自転車で追い越していったのは、どこかの中学生らしい。二人乗りだ。危ない乗り方をしている。

 

注意してもどうせやめないだろう。

 

痛い目に早めにあって、気づけば良いのだけれど。

 

そんな風に思った。

 

黙々と走っているうちに、ケルベロスに言われた。

 

「ダイモーンだ。 いけるか」

 

「すぐ近く?」

 

「そうだ。 案内する」

 

「格好変えておきたかったな」

 

別に口に出さない。

 

ただケルベロスと心中で会話するだけだ。

 

ただ、ケルベロスは家にいるとき、短時間で着替えて出る燐火に、色々言いたいらしい。一度も現地に間に合わなかったことはないし。

 

着替えの練習にもなるから、良いことだと思うのだが。

 

別に急ぐことはない。

 

ダイモーンはそれほど急いで移動することもなく、縄張りを張っているようなこともない。

 

ケルベロスの話によると、この国の霊とはそもそも相互に干渉することがないらしくて。この国の霊に対策している人たちも、関知できないらしい。

 

いずれにしてもカコダイモーンとなると色々な意味でまずいので、さっさと回収に出る。

 

少し山の中に入る。

 

今はそれを恐れることもない。

 

さっさと走って、山の中を急ぐ。

 

それなりの斜面だけれども、別に苦労することはない。訓練して、体力はどんどんついてきている。

 

ただ、握力はあまりない。

 

握力は特に鍛える方法がない分野であるらしく。

 

こればかりは、どうしようもないと言われてはいた。

 

だから握力に頼るような動きはしない。

 

握力がなくても何かしらの敵意から身を守る方法はある。移動するときも、迅速に行動はできる。

 

この辺りだ。

 

ケルベロスに言われて、さっと身を潜める。

 

物陰から伺うと、いる。

 

「思ったより厄介だな。 カコダイモーンとしてもかなり悪辣化している」

 

「悪辣化?」

 

「人間をそれだけ悪運でねじ曲げたということだ。 更に悪辣になると、直接人間にとりつくようになる。 ……原因はあれだろう」

 

ケルベロスに言われて、視線を向けると。

 

たくさんの何かが捨てられていた。

 

野ざらしになっているそれらは、雨を浴びて、もう使えそうにもない。

 

「人間の言葉で不法投棄というのだったな。 あれに何かしらの関係をしている人間がいて、それに悪運をあのダイモーンが送っている。 気配が出たと言うことは、おそらくその問題の人間がそろそろ姿を見せるだろうな」

 

「危なくないの?」

 

「戦闘はさせない」

 

「わかった」

 

棒を取り出す。

 

なんだかファンシーな名前がついているけれど、竹刀袋に入っているので、あまり関係はない。

 

程なく、人が姿を見せる。

 

いかにもな与太者達だ。

 

悪いことを散々してきて。如何に悪いことをしたか自慢し合っているような人たち。

 

おとうさんと大して年は変わらないだろう。

 

あんな年になっても、悪いことを自慢しているのか。

 

それしか自慢することがないのだとしたら、なんて情けなくて、悲しいことなのだろうと燐火は思う。

 

その人たちが、トラックを山の中に強引に入れて、何か運んできていた。

 

「さっさと捨てろ」

 

「わかりました」

 

「しかし大丈夫なんですか。 地主とはいえ、これ確か条例違反になるって聞いたんですけれど」

 

「いいんだよ。 せっかく稼げるんだからよ。 こんなどうでもいい森、金にもなりゃしねえんだから」

 

そうか、地主か。

 

一応ケルベロスに言われて、録音機能をオンにしておく。

 

そして、既にダイモーンは動いていた。

 

虚空に文字を書く。

 

それと同時に、ダイモーンが苦しみ始める。今までは一瞬でかき消えていたのに。

 

「悪運を人間に与えることで、カコダイモーンは強くなる。 あれはあの与太者どもに相当な悪運をくれてやって、悪行を稼いでいたとみて良いだろう。 だが、それも終わりだ」

 

伏せていろ。

 

文字を書いた後、頷いて茂みに伏せていると。

 

トラックがぐらりと傾いて、凄まじい音を立てながら滑落し始めた。山の中に無理矢理突っ込んで止めていたのだ。

 

それにあのトラック、見た感じ相当長いこと酷使してきたのだろう。

 

如何に頑丈で知られる国産トラックでも、限界が来たと言うことだ。

 

そのまま滑り落ちていくトラック。

 

「おい、止めろ!」

 

「無理です!」

 

そのまま、数本の木にぶつかり、激しい音を立てて大事故になる。

 

あれは、木がかわいそうだな。

 

そう燐火は思い。

 

ダイモーンが消えていったのを確認。

 

ケルベロスが回収したのだと思う。

 

そのまま、その場を離れる。これは多分、明日はニュース沙汰だろう。おかあさんが忙しくなるかもしれない。

 

そう思った。

 

 

 

翌朝。

 

朝のストレッチをしていると、おかあさんが徹夜明けから帰ってきた。おかえりなさいと声をかけると、無言でこくりと頷いて、寝室に消える。

 

やっぱりこうなったか。

 

ケルベロスが、残念そうに言う。

 

「篠葉も苦労しているな」

 

篠葉というのはおかあさんの名前だ。結婚前は篠木という名字だったらしく、かなり変わった名字だったらしい。

 

いずれにしても、あの騒ぎで無事に済むわけがない。

 

場合によっては音声情報を提供する必要もあるかもしれないと思ったのだけれども、必要なさそうだ。

 

おとうさんが話してくれる。

 

「近くの山の地主が、不法投棄で捕まったそうだよ。 余罪が大量に出てきた上に、かなり危ないものまで捨てていたらしいね。 下手をすると地下水が汚染されているかもしれないって話で、とんでもない賠償金が出るかもしれないって話だ。 少なくともあの山は国有地になるだろうね」

 

「そうなんですね」

 

「ここ最近で一番大きな事件だね。 この町は比較的静かだけれども、それでも悪いことをする人間はいる。 一緒になってはいけないね」

 

「はい」

 

一緒に朝ご飯を食べる。

 

やはり出来合が多いので、自分で作れるようになりたい。

 

おとうさんも料理はできるのだけれども。

 

できるのと、できる体力があるのは別問題なのだ。

 

個人的には、あの山がかわいそうだと燐火は思う。

 

住んでいる動物も、なぎ倒された木もそうだ。

 

無言で食事をしていると、ケルベロスが話す。

 

「回収したダイモーンから情報を得たが、少なくとも十年以上あの地主とやらは悪さをしていたらしい。 だからダイモーンに目をつけられやすかったし、短時間で悪さを加速させていったようだな」

 

「どうしようもない人だったんだね」

 

「ああ。 カコダイモーンはそういった人間を特に好む。 そしてカコダイモーンに見込まれると、加速度的に足を踏み外す。 悪運が味方するが、それはいずれ破滅につながる。 そして死ねば地獄行きだ」

 

そうか。

 

あのおじさんと手下達は、ちゃんと捕まったようだし、それはいいか。ただ、それで更生するかは話が別。

 

ずっと悪さをしていたような人が、更生なんてするとはとても思えなかった。

 

食事を終えたので、学校に出るまでに宿題とかを確認しておく。大丈夫、全部忘れていない。

 

この辺りはケルベロスが注意してくれる。

 

それもあって、ちゃんとやれるようになっている。

 

ただ、燐火が優等生扱いされることは今までない。

 

先生はよくしてくれるけれど、まだまだ腫れ物扱いされているのがわかる。とにかく燐火も、色々頑張るしかない。

 

そういう状態だから。

 

宿題とかは忘れるわけにはいかないのだ。

 

ドリルについても、渡されていた分はほとんど片付いた。ただ、まだ一部のドリルは終わっていない。

 

優先度をつけて順番にやっているのだけれども。

 

とにかくやることが多すぎるのだ。

 

学校に出る。

 

途中で涼子と会うことは滅多にない。色々事情があって、あちらは家を出る時間が一定ではないのだ。

 

ただ帰り道は一緒に帰ることが多い。少しずつ、涼子がそばにいても違和感がなくなってきていた。

 

学校に着くと、すぐに準備について確認する。

 

比較的近くに学校があるので、最悪何か忘れていたら即座に家に取りに戻ることができるのである。

 

それを確認してから、机の中なども調べておく。

 

これは忘れ物などもあるが、身の安全のためだ。

 

今まで自衛のために何回か、軽く別の生徒をひねったことがある。勿論けがはさせない程度だが。

 

隣のクラスで王様を気取っていた太った男子生徒をひねった後は、完全にその生徒は自称王様から陥落。

 

今ではすっかり周囲をおびえながら見ていて。

 

燐火を見るとそそくさと姿を消すほどだ。

 

ただ、それだと恨まれている可能性もある。一応、机の中などは無事だ。後は、授業の準備をしていく。

 

ぽつぽつと生徒が来始める。

 

いつも最初にきていると、陰口をたたかれるが。

 

ここは良い学校だと思うのに、それでも陰口はあるんだなと思って少しいやな気分になる。

 

ただ、別に口には出さない。

 

現在は一クラス二十人が普通だが。

 

昔は四十人クラスが普通で。

 

それどころか、中学高校に至っては三学年で千人を超える学校がざらだったという。

 

今は小学校ですら、そんな人数はいないことが多い。

 

ただ、雑多な人間を見るのはあまり燐火は好きではないので、これくらいの人数に囲まれているくらいがちょうど良いが。

 

涼子が来たので、軽く話をしておく。

 

いくつかのニュースについて話をしていると、離れた席の女子が何か陰口をたたいているのが聞こえた。

 

無視。

 

そうすると、顔をゆがめている。

 

お気持ちを害したのかどうか知らないが、どうでもいい。

 

そんなお気持ちにどうしておもねらなければならないのか。

 

あの女子達、去年も同じクラスだったのだが。

 

勉強が全然できなかった燐火が、短時間で追い越したことを相当に恨んでいるらしい。

 

それはいつもスマホをいじって遊んでいるわ、やった勉強は翌日には忘れているわだから。

 

そうなるのは当然だろう。

 

真面目に勉強をしている子に暴力を振るい、めがねをかけているのは生意気だとか言って頭をつかんで石にたたきつけ。一生ものの視力低下の傷を与えた金木の馬鹿娘と根は同じだ。

 

あれは決して怪物だったのではなく。

 

どの人間も、あれに近いのだと、最近はわかってきた。

 

「午後の授業の社会がちょっと苦手です」

 

「あの先生教えるの下手だもんね」

 

「そうなんですか。 私は記憶するのが苦手で」

 

「いや、そうなんだとこっちは驚かされるだけだけど」

 

涼子まで呆れ気味だが。

 

実際興味を持てない学科は今でも苦労している。社会はその一つで、とにかく覚えるのが苦手だった。

 

歴史は色々な裏話をおとうさんから聞いているので、覚えるのが楽しくて仕方がないのだけれど。

 

どうしても社会は、きれい事ばかり並べているようで。

 

テストでいい点数をとるというのをするのに、どうしても興味が持てないのである。

 

「午前中の体育で、少しは気分転換になるんじゃない?」

 

「……よくわかりませんが、ある程度はできるようにはなってきました」

 

「六年の女子どころか、六年の男子のほとんどより足が速いでしょ。 一体何になろうとしてるの燐火ちゃん」

 

「自分で自分の身を守れるようになりたいだけです」

 

少しまた呆れられた。

 

先生が来る。

 

陰口をたたいていた女子が、先生に叱責されて、慌てて席に戻る。

 

今日も学校が始まる。






燐火が通っている学校はかなりマシな方です。

先生達がいじめに対してしっかり対策していますからね。

それが出来ていない学校が如何に多いことか……


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