魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
大雨の中、現場に到着。
傘なんて悠長に使っていられないので、カッパを着込んで出向いたのだが。其処には、残骸が散らばっていた。
動物のでも人間のでもない。
恐らくは、何かしらに引き寄せられた神のものだ。
エヴァンジェリンさんが分析する。
「これは……!」
「正体が分かったんですか? 日本系、仏教系、道教系、いずれでもなく、天使でもなかったようなので、貴方を呼んだんですが」
「分かった。 これは北欧の神格、ヴィーザルだ」
ヴィーザル。
北欧神話のオーディンの息子の一人である。
そうなると、日本に降臨しようとしているオーディンの先兵としてきたのだろうか。しかし、誰がここまで凄惨に。
消えていくヴィーザル。
エヴァンジェリンさんが、ルーンを切って、意識を呼び戻す。
既に肉体は霧散したようだが、多少の記憶は拾えたようだった。
「……とんでもない化け物に食い荒らされたようだな。 天才たる私も、それしか分からなかった」
「とんでもない化け物ねえ」
日女さんが皮肉交じりに言う。
燐火も調べたが、ヴィーザルはオーディンの息子であり、トールに近い実力だとか、並ぶ実力だとか言われている神である。
隠遁者であり、ラグナロクを生き残る神の一柱だ。
ただ、北欧神話はそもそも物語になってしまっている。
他のまだ信仰されている神々とかちあったら、かなり相性は悪いだろう。それとも、何かしらの理由があって、ヴィーザルが来たのか。
ともかく、この雨だ。
ヴィーザルが倒された辺りの汚染を祓う。
燐火も出来るようになったので、悪運を祓っておく。
しばし作業に没頭した後、自衛隊が仮設したテントに避難。カッパを脱ぐと、ぐしょぬれでちょっとげんなりした。
ダイモーンが出ていれば話は別だったが。
これでは燐火は出ただけ。
ただ、出ただけでも別に構わない。
事故が起こったわけではないのだから。
「オーディンはまだ活動しているとみて良いが、その強力な手札であるヴィーザルが倒れたというのは、オーディンに対する打撃ではないのだろうか」
「いや、オーディンがもしも本気で日本の攻略を目指すので有れば、トールが出てくるだろう」
「トール……」
「ゼウスと並ぶ世界で最も有名な雷神だ。 天才たる私が断言するが、手強いぞ」
それはそうだろうな。
トールも近年はコミックの題材になったりして、下手をするとオーディンよりも知名度があったりする。
物語の存在として、だが。
ある意味ヘラクレスと並ぶ神話の存在かもしれない。
ただトールはとにかく荒々しく、ヘラクレス以上に暴虐で、暴力でしかものごとを解決しない。
このため巨人の長ウトガルドロキに、いいようにあしらわれてしまう逸話があったりする。
「あまり可能性は高くないが、トールが悪神として出てきた場合は、生半可な魔祓いでは対抗できないぞ。 天才である私でも、出来れば戦いたくはない相手だ」
「その場合は一線級の魔祓いを総動員してあたるしかないでしょうね」
菖蒲さんが指折りして数えている。
林西さんも含めるとして、数えている様子からして七~八人はいるようだ。林西さん並の実力者がこの国にはそんなにいるのか。
それは、天才といつもとても高い自己肯定感を出しているエヴァンジェリンさんも、素直に夏合宿を受けるわけである。
「レポートは俺がまとめて書いておく。 後は撤収してくれ」
「了解……頼むぞ日女」
「ああ、神の正体を特定してくれて助かった。 あんたにはボーナスが出るように書いておく」
「助かる」
雨が止んできたか。
それでもかなり激しい雨である。
とりあえず、帰路につく。
家に着いてから、スマホを確認する。
日根見ちゃんが、情報をよこしてくれていた。
案の定ここ数日亀野は休んでいたのだが、結局まともだった亀野の叔父に引き取られたらしい。
亀野の父親よりも遙かに強い上にしっかりしているらしくて、亀野は調理される前の鶏みたいに隅っこで震え上がっているばかりだそうだ。
ましてや両腕は破壊されてリハビリに一年はかかる。
クラスのカーストを支配するつもりだったようだが。
そんなものは燐火が一日で粉砕してしまった。
他にも、くだらないカーストを作るつもりらしいのを、ここ数日でまとめて締めた。鉄を打つなら早いうちがいい。
そもそもスクールカーストが害しかないことにようやくこの国でも気づき始めたらしく。
それもあって、中学でもスクールカースト完全廃絶に向けて動くようだ。
燐火はそういう状況もある。
教師はあまりやりすぎないようにと釘を刺しては来たが。
ただ、クラスは燐火の存在を怖がる生徒はいても、それはそれとして馬鹿みたいなカーストで分けられることもなく。平穏に交流はしているようだ。それで充分である。
日根見ちゃんはクラスでまともな友達が何人か出来たらしく、それが事情通であるらしい。
なんでも燐火のことも知られていたらしく。
破壊神とか言われていたらしいと知って、噴いてしまった。
ケルベロスもメールを見て苦笑している。
流石に破壊神になったつもりはないが。
ただ、クラスで亀野に燐火との対決を避けるように言っていた男子生徒の怯えようはよく覚えている。
虚名がそれだけ大きかったのかもしれない。
まあ、それはそれで構わない。
それが抑止力になるのであれば充分だ。
雨であっても、裏庭などでルーチンは出来る。
正拳百五十本などを終えて戻ると、杏美の世話を見てほしいと言われるので、背負って遊ぶ。
高い高いをすると喜ぶ。
落とさないように気をつけないといけないが。
少なくとも杏美は、燐火を嫌ってはいないようだった。
まだしゃべり出すのは先だ。
確か8ヶ月から一年程度だということだから、十月に生まれた杏美がしゃべり出すのは、もう少し先とみて良いだろう。早ければ再来月くらいにはしゃべり出すかもしれない。
すっと、目を細めた。
何かがこっちを伺っているな。
だが、気づいて離れた。
だとすれば、いい。
燐火は簡単に隙なんか見せない。
二度と、この場所を。やっと出来た家族を。失ってなるものか。
(続)
※ヴィーザルについて
北欧神話でなにげに重要な神格です。
北欧神話ではラグナロクという世界の終焉が来るのですが、このときにほとんどの神は死に絶えます。オーディンも例外ではなく、ロキの子であるフェンリルに食い殺されてしまいます。そのフェンリルを殺すのがヴィーザルです。
そしてその後、ラグナロクを生き延びて、新しい世界を作る神の一角となる存在がヴィーザルです。
それがこんなタイミングで落ちた。
暗躍を続けていたオーディン一派にとって、これは大きな損失となるのです。
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