魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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一時期部活制度が教師にも生徒にも多大な負担になっていた時期がありました。今でも負担になっている学校はまだまだあります。

酷い部活になると学業より部活を優先させたり、部活の人間は何をしても……犯罪も含む……許される風潮があったりします。

この世界ではその部活制度に大規模なメスが入り、その結果部活は多少マシな代物になっています。





狂獣咆哮
序、早速の歓迎


燐火は部活に所属するように指示された。ただ、この学校の部活はそれほど酷い内容ではない。

 

学校によっては、授業に支障が出るレベルで部活を強制したり。

 

部活の活動内容が内申に大きく影響したりと。

 

本来は余暇を楽しむための部活を、完全にはき違えてしまっている場所も少なくない。特に平成くらいからこの傾向が顕著であったらしく。運動部や吹奏楽部などでは部活で三年間努力を続けてもレギュラーにすらさせてもらえず、永遠に下っ端だったり。法外な活動費が親に請求されたり。

 

親にまで大きな負担を強要したりと。

 

本末転倒の代物が続出していたそうだ。

 

これらが教師の負担を大きくしていただけではない。

 

生徒も大きな負担を強いられ、勉強をする暇もないという愚かしい事例が続出していた事もある。

 

運動部や吹奏楽部などの大会があるタイプの部活ではそれが特に顕著であり。

 

もはやカルト同然の部活も存在しており。

 

それに異を唱えたらいじめを受けるどころか。

 

内申で大きく減点されるなど、学校ぐるみでこういったカルト同然の行為をしていたらしい。

 

ただ、それもここ数年流れが変わり。

 

教師の負担が激甚になり、現場が限界を迎えていたこともある。

 

スクールカーストの害が学校をむしばんでいたという理由もある。

 

ともかく部活で生徒がボロボロになるような事は避けよう。

 

そういう流れが主流になり始めている。

 

燐火の通う中学も、その流れに従っているようで。

 

ざっと部活を見て回ったが。

 

昔のようなカルト同然の場所はないようだった。

 

ただ、それでも。

 

部活には出ろ。

 

そう言われている。

 

仕方がないので、いくつかの部活を見て回る。

 

運動部でも良いのだが。

 

燐火については、初日でボクシングで小学校時代悪逆の限りを尽くしていた亀野を粉砕した事もある。

 

それもあって、あちこちの運動部から、熱烈なアピールを受けて、困り果てる事となった。

 

一方で日根見ちゃんはあっさりと生物部に入部を決めて。

 

とても生き生きとやっているようだ。

 

小学校までは、生物に興味を持つ事自体が気色悪いみたいな風潮があったが、それも中学になるとまるで状況が変わったらしい。

 

非常に不愉快だと本人はこぼしていたが。

 

生物部の皆は、日根見ちゃんとは分野が違う生物についての知識があり、連日色々調べてくるので。

 

とても刺激になるそうである。

 

また、剣道を新しい家で習っている事もある。

 

師範が当て身や無手での身の守り方を仕込んでくれていること。

 

燐火と一緒に鍛えたこともある。

 

既に運動音痴ではなくなっている日根見ちゃんは、クラスでも走るのが速いほうになり始めていて。

 

もはや守られるばかりの存在ではなくなった。

 

これは、燐火もうかうかしていられないな。

 

そう思って、悩んだ末に。

 

結局スポーツではなくて、空手部に入ることにした。

 

女子空手部と言いたいが、人員が少ないので両方混成である。

 

先生は見たところ、いるだけ。

 

まあそれでいい。

 

部活なんかに人生をすり減らされるよりも、楽しんでなんぼだ。

 

生徒は三年も含めて燐火の相手になる者はおらず。ただ、部長は放任主義で、たまに組み手はするけれど、基本的に鍛錬をしてくれればそれでいいというので、燐火としてはありがたかった。

 

家でやるルーチンを、部活でこなしてしまうことにする。

 

黙々淡々と正拳を打ち込むが。

 

正拳を打ち込むための的が若干もろいか。

 

工夫して強度を上げる。

 

それを見て、男子の三年が、唖然としていた。

 

「平坂、おまえそれで物足りないのか」

 

「少し強度がもろいですね。 こう……弾性がないと」

 

「そ、そうか」

 

男子三年の空手部だが、見た感じあんまり強くはない。ただかじっただけだ。

 

燐火は合気や柔道のルーチンも、ここでこなしてしまうことにする。黙々淡々とルーチンをこなす燐火を見て、それで生徒達は唖然としているが。

 

ただ人数が少ないのだ。

 

それで刺激になるのなら、それでいいだろう。

 

合気は更に技量を上げてきている。

 

ゼロ距離から相手に致命打をたたき込む技も、更に磨きを掛けてきている。

 

的に打ち込む度に、ガンと心地よい衝撃が来る。

 

だが、それに酔っていては駄目だ。

 

「今のはわずかに遅かった。 もう少し踏み込みを深くしてみろ」

 

「うん」

 

ケルベロスも、妥協なく指導してくれる。

 

そのまま踏み込んで、再び合気を打ち込む。

 

そういえば0インチパンチとか、ブルースリーは言っていたのだったか。

 

いずれにしても、色々な武道で、似たような発想はする。

 

そういうことである。

 

無言で合気の鍛錬をした後は、正拳を打ち込み続ける。

 

燐火は足技を使うつもりはない。

 

というのも、足技は隙が大きいこともある。

 

勿論足払いやローは用いるが、回し蹴りやハイキックは向いていないと判断していた。

 

柔軟性は鍛えているから、その気になれば頭の上まで足は上がるが。

 

燐火は足を機動力確保に用いたいのである。

 

勿論機動力確保に用いるだけではなく、場合によってはフィニッシャーとする。

 

足のパワーは腕の三倍。

 

そういう事実があるからだ。

 

ただ、師範から教わったあの歩法。

 

あの奥義を更に磨くためには、足を打撃に用いるよりは、機動力確保に用いた方がいい。

 

空手と合気と柔道、それに剣道。

 

全部がそれぞれ相互に役立っている。

 

おかあさんもたまに指導してくれるが。

 

技のさえが凄まじく、燐火も見ていて何度も勉強になる。

 

本当に天才なんだな。

 

それが分かるから、刺激になるのだった。

 

ともかく。学校でルーチンを終える。

 

部活動も基本的に放課後は一時間だけと決められていて、これは全国標準になりつつある。

 

昔は野球部で高校野球のトップ選手はそのままプロ入りなんて事もあって、それもあって余計高校では非人道的な部活をやらせていた側面もあるようだが。

 

子供の頃の貴重な三年をそれでドブに捨てさせる意味が燐火には理解できない。

 

賄賂を取るのは個人の腐敗。賄賂を取ることを批判できないことが国家の致命的な腐敗。ある小説の言葉らしい。

 

それに近い。

 

恐らくだが、部活というのは一度致命的に腐敗してしまったのだ。

 

だから、今はそれを必死に切り崩している。

 

世界中の情勢がきな臭い今。

 

そうでもしないと、未来が作れない。

 

やっとこの国の政治家達も、そう判断して重い腰を上げたのだろう。遅すぎたのではないかと、燐火は思うこともあるが。

 

改善しないよりは良いだろう。

 

ルーチンを終えて、帰る。

 

途中で日根見ちゃんと合流して、帰路を行く。

 

つやつやしている。

 

本当に良い刺激を受けているらしい。

 

「先輩が原猿にとても詳しくて、刺激を受けっぱなしなの」

 

「確かロリスとかキツネザルでしたね」

 

「そうそう! 齧歯類と霊長類が分岐してから、まだまだ強く特徴が出ていなかった頃の! 私はまだまだ素人だよ! ああいう人ともっと会いたいな」

 

「良い刺激を受けているようで何よりですね」

 

帰り道、楽しく話している日根見ちゃんを見て安心する。

 

去年は本当につらそうだったし。

 

あのクソ毒親のせいで、人生を潰され掛けていたのだ。

 

あのクソ毒親と毒兄がそろって人生破滅したのは自業自得だし。

 

日根見ちゃんがそれであおりを食らわなかったのもいい。

 

勿論ケルベロスがある程度幸運を操作してくれているのも無関係じゃない。だから、燐火はケルベロスのためにも頑張らなければならないのだ。

 

帰路で別れる。

 

それにしても元気になった。

 

ケルベロスも、苦笑いしていた。

 

「あれは生物学者になると良いかもしれないな」

 

「確かケルベロスが信仰されていた時代は、まだろくな生物学がなかったんだよね」

 

「そうだな。 今は体系的で論理的な生物学が整備されていて何よりだ。 俺の時代にも、あれほどの知識があればとなと思ってしまう」

 

そうか。

 

黙々と燐火は脇道にそれると着替える。

 

ダイモーンだ。

 

わざわざ言われるまでもない。

 

今日も仕留めに行く。

 

森の中を走る。

 

いや、これは。

 

ちょっとまずいかもしれない。

 

「混成型だな」

 

「なんの混成型だろうね」

 

「ともかく現場に出ないと分からない」

 

「うん」

 

連絡を即座に入れる。

 

カトリイヌさんは即応してくれる。エヴァンジェリンさんはお昼寝をしていたらしく、ふにゃふにゃの返事が返ってきたが。すぐに行くとだけ言っていた。まあ、あの人はちゃんと来るだろう。

 

日女さんと菖蒲さんは、もう現場に急行中らしい。

 

とりあえず、押さえ込みは出来るか。

 

到着。

 

山の中にある、小さな店だ。この辺りは山の中が多いこともあって、小さめの集落とか、車道に沿ってインターのような役割を果たすお店やコンビニがあったりする。

 

そういうお店の一つの側に、それはいた。

 

真っ黒なダイモーン。

 

それの姿は、何かぐしゃぐしゃに混ざり合っているようだった。

 

じっと周囲を睥睨していたそれが、燐火に気づく。

 

即座に聖印を切る。

 

ばつんと音がしてダメージは入るが、それでも構造が崩れることはない。それどころか、猛然と襲いかかってくる。

 

大きさは四メートルほどはあるか。ヒグマ並みだ。四つ足のその獣は、犬か。ケルベロスが、まずいなとぼやく。

 

「あれは半端に顕現しているが、恐らくはガルムだ」

 

「確か北欧神話のヘルの番犬だよね」

 

「そうだ。 それにダイモーンが混ざっているようだ」

 

凄まじい勢いで突貫してくるガルムダイモーン。聖印を立て続けに切ってダメージを与えるがこれは簡単には倒せそうにない。

 

引きつけて、横っ飛び。

 

イノシシなどがそうだが、凄まじいブレーキを有していて、人間程度の反射能力に猛獣は余裕で追いついてくる。

 

100m走の世界記録保持者の選手だろうが、対応するのは不可能だ。

 

即座にブレーキで反転したガルムダイモーンは、猛然と燐火に襲いかかってくるが、その鼻っ面を魔法のステッキ(鉄パイプ)で一撃。

 

フリッグもフルーレティも屠った代物だ。

 

流石にガンと強烈な衝撃が入り。

 

ガルムが跳び下がって、首を振る。

 

その隙に、燐火は間をむしろ詰めると、大上段から一撃をたたき込み。怯んだところに更にもう一撃。

 

骨が砕ける音がしたが、半実体化している相手だ。

 

それで致命打にはならない。

 

うっとうしそうに、がっと食いついてくるガルムダイモーン。

 

はじきながら跳び下がる。

 

ガルムは決して弱い魔ではなく、北欧神話の終末戦争であるラグナロクでは、テュールと相打ちになるほどの強豪である。

 

フェンリルと同一視される事もあるほどの存在であり。

 

此奴が出てきていると言うことは。

 

飛びかかってくる。

 

体力の消耗が激しいが、気合いとともに鉄パイプでぶん殴ってはじき返す。だが、諦める様子もない。

 

まずい。

 

押し切られる。

 

単純なパワー勝負では、どうしても分が悪い。

 

汗が飛ぶ中、やっと援軍が来ていた。

 

ガルムダイモーンの脇に、流星のような蹴りがたたき込まれる。

 

日女さんだった。

 

吹っ飛んで、三度バウンドして岩にたたきつけられるガルムダイモーン。燐火は態勢を整えると、日女さんに言う。

 

「ガルムとの複合魔です」

 

「ちっ。 前より負担が小さいとは言え、それでも神おろしして押さえ込まないと駄目だなこれは」

 

「二人とも、来るぞ」

 

ケルベロスが警告。

 

同時に、ガルムダイモーンが、起き上がる。そして、凄まじい量の何かを飛ばしてきていた。

 

これは、悪運か。

 

即座に聖印を切って祓う。日女さんも祝詞で相殺するが、しかし膨大だ。どっと洪水のように押し寄せてくる。

 

物量戦に切り替えてきたか。

 

ダイモーンが弱体化しているとは言え、元が強い。

 

それに、この物量は。

 

ずり下がる。

 

冷や汗が飛ぶ。

 

ケルベロスが、撤退を検討しろと言ってくる。頷きながらも、必死に聖印を切る。ガルムダイモーンは余裕の様子で進んでくる。

 

撤退に転じた瞬間、喉を食い破るつもりだろう。

 

飛び道具がない。

 

それは弱点だと分かってはいたが、即座にどうこうできる話でもない。

 

更にずり下がる。

 

後ろが崖だ。

 

日女さんが前に出ると、全身から青白い光を放ちながら、猛烈な勢いで祝詞を唱え始める。

 

いざという時は、殿軍になるつもりだ。

 

菖蒲さん達は。

 

ぐっと歯を噛む。最悪の場合は、燐火だけで逃げなければならないのか。

 

だが、そうはならなかった。

 

頭上から、たたき落とされるようにして、一撃がガルムダイモーンにたたき込まれる。ギャンと、初めて明確な苦痛の声をガルムが上げていた。

 

愛染明王。

 

そして、その腕の一本に乗っているのは、菖蒲さんだ。

 

「ごめん、遅刻したわ」

 

「遅いぞ菖蒲姉!」

 

「エヴァンジェリン」

 

「わ、分かっている!」

 

ひょいと愛染明王がつまむのは、なんとパジャマ姿のエヴァンジェリンさんである。

 

どうやらもたもた着替えているところを、業を煮やしてそのまま外に連れ出したらしい。それはともかくとして、ルーンで印を切る。

 

それに併せて、燐火も聖印をたたき込んでいた。

 

悲鳴を上げたガルムダイモーン。

 

明確に効いている。

 

あれは恐らく分霊体だ。本来のガルムはテュールと相打ちになるほどの強大な魔であり、あんなもので有るはずがない。

 

それでも、あの強さ。

 

ひょっとしてだが。

 

少し前にヴィーザルを屠ったのは此奴か。

 

押さえ込んでいる愛染明王。

 

其処に燐火と日女さんで、連携してラッシュをたたき込む。

 

必死に拘束から外れようとするガルムダイモーンだが、逃すか。そのまま、頭を何度もたたき割る。

 

それでも動いて噛みつこうとしてくるのは、流石に最強の魔犬と言われるだけのことはある。

 

たいした相手だ。

 

エヴァンジェリンさんが印を切る。

 

渾身の印。

 

燐火も頷くと、祝詞を唱えている日女さん。読経をしている菖蒲さんとあわせる。そして、一気に聖印をたたき込んでいた。

 

ガルムダイモーンの全身が破裂する。

 

そして、巨大なダイモーンを倒したときと同じか、それ以上の凄まじいコールタールのような悪運が溢れてきた。

 

即座に浄化開始。

 

凄まじい量だが、まあどうにかなるか。

 

無言で浄化作業を続ける。

 

四人がかりでの浄化だ。

 

どうにか片付いていた。

 

これで分霊体か。

 

北欧神話における地獄の番犬。そしてラグナロクで大暴れする魔の一角。ケルベロスがぼやく。

 

「此奴は一神教徒によって俺と同一視された事があってな」

 

「……」

 

「それが地獄の番犬というレッテルにつながった。 此奴に責任はないが、色々と不愉快な相手よ」

 

「とりあえず、浄化する」

 

頷くケルベロス。

 

ともかく片はついたか。

 

今のは確定で分霊体だった。こういうのがまだ出てくるとみていい。

 

小学校の最後に、フルーレティとの一騎打ちで勝った。

 

だが、それも所詮は戦歴の一つ。

 

今までの魔祓い達が、もっと厄介な魔を封じ続けてきたことを考えると。決して燐火が最強なわけでも、異色の戦績をたたき出した訳でもない。

 

今は、無言のまま今後どうするかを考える。

 

恐らくフリッグ一派の次の相手は。

 

力で来るタイプだと、見て良かった。







※ガルムについて

北欧神話のヘル(冥界)の番犬です。

ケルベロスと性質は似ているといえば似ていますが、北欧神話ではもっとも行きたくない天国として知られるバルハラに行く戦場で勇敢に戦った戦士以外の全員がヘル行きなので、なんというか雑ですね。

ちなみにガルムは雑魚でもなんでもなく、ラグナロクの際には北欧神話最初の主神であったテュールと相打ちになって果てる強力な魔犬です。


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